弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成31年2月6日判決言渡
平成30年(行ケ)第10048号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年12月25日
判決
原告株式会社ファイブスター
同訴訟代理人弁護士冨宅恵
西村啓
同弁理士高山嘉成
被告株式会社MTG
同訴訟代理人弁護士關健一
同弁理士小林徳夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2017-800074号について平成30年3月29日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
⑴被告は,平成26年9月26日,発明の名称を「美容器」とする発明につい
て特許出願をし(平成23年11月16日にした特願2011-250915号の
分割出願(特願2014-197056号)),平成27年12月4日,設定登録
を受けた(特許第5847904号。請求項の数2。以下「本件特許」という。)。
⑵原告は,平成29年5月30日,特許庁に対し,本件特許について無効審判
請求をし,無効2017-800074号事件として係属した。
⑶特許庁は,平成30年3月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本
は,同年4月6日,原告に送達された。
⑷原告は,本件審決を不服として,同月12日,本件訴えを提起した。
2特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項の順に
「本件発明1」などといい,本件発明1及び同2を併せて「本件発明」という。
「/」は改行部分を示す(以下同じ)。)。その明細書及び図面(甲28)を併せ
て「本件明細書」という。
【請求項1】
基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と,/前記支持軸の先端側に
回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体により身体に対して美容的作用
を付与するようにした美容器において,/前記回転体は基端側にのみ穴を有し,回
転体は,その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け
部材を介して支持されており,/軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる
先端で支持軸に抜け止めされ,/前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突
き出るとともに,軸受け部材は係止爪の前記基端側に鍔部を有しており,同係止爪
は前記先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くな
る斜面を有し,/前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記
段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との
間に位置することを特徴とする美容器。
【請求項2】
前記軸受け部材は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の美容器。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①
本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき実施することができる,
②本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである,③本件発
明1は,特開2010-131090号公報(甲1。以下「引用例1」という。)
記載の発明(以下「引用発明1」という。)並びに甲2~20に記載された事項に
基づいて,原出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,
さらに,④本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て有しつつ更に限定したもの
であり,上記③と同じく,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえな
い,などというものである。
⑵本件発明1と引用発明1との対比
本件審決は,引用発明1及びこれと本件発明1との一致点,相違点につき,以下
のとおり認定した。
ア引用発明1
把手5から突出した連結軸11と,連結軸11に回転可能に支持されたローラー
4とを備え,ローラー4を顔面に接触させて美顔にする美顔用マッサージ器であっ
て,/ローラー4は基端側にのみ穴を有し,ローラー4は,その内部に連結軸11
の先端が位置する非貫通状態で連結軸11にベアリング12及びL型ベアリング1
3を介して支持されており,/L型ベアリング13は,ローラー4の穴とは反対側
で連結軸11に抜け止めされ,/L型ベアリング13は,基端側に鍔部を有する,
/美顔用マッサージ器。
イ一致点
支持軸と,/前記支持軸に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体に
より身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において,/前記回転体
は基端側にのみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫
通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,/前記軸受け部材は基
端側に鍔部を有している,美容器。
ウ相違点
(ア)相違点1
本件発明1においては,支持軸が,基端においてハンドルに抜け止め固定されて
いるのに対して,引用発明1においては,連結軸11が,把手5から突出している
ものの,基端において把手5に抜け止め固定されているかが不明である点。
(イ)相違点2
本件発明1においては,回転体が支持軸の先端側に回転可能に支持されているの
に対して,引用発明1では,ローラー4が回転可能に支持されている箇所が,連結
軸11の先端側であるか否かが不明である点。
(ウ)相違点3
軸受け部材と回転体との結合構造に関して,本件発明1においては,軸受け部材
からは弾性変形可能な係止爪が突き出ており,同係止爪は,前記先端側に向かうほ
ど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有しており,軸
受け部材は前記係止爪の基端側に鍔部を有しており,前記回転体は内周に前記係止
爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端部に係止される
とともに,前記係止爪と前記鍔部との間に位置するのに対して,引用発明1におい
ては,ベアリング12とL型ベアリング13からなる軸受け部材のうちL型ベアリ
ング13が基端側に「鍔部」を有しているものの,「係止爪」及び「段差部」に対
応する構成を有していない点。
(エ)相違点4
軸受け部材の支持軸への抜け止め構造に関して,本件発明1においては,”軸受
け部材が,回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ”ているのに
対して,引用発明1では,L型ベアリング13がローラー4の穴とは反対側で連結
軸11に抜け止めされているものの,それが先端でされておらず,また,ベアリン
グ12は抜け止めされていない点。
⑶甲4,19の1及び20の1記載の技術事項
本件審決は,甲4,19の1及び20の1に記載された技術事項として,以下の
事項を認定した。
ア甲4(登録実用新案第3159255号公報。平成22年5月13日発行)
ローラ部を回転自在に保持するために滑り軸受を用いた美容ローラ(以下「甲4
技術」という。)。
イ甲19の1(欧州特許出願公開第0674894号。1995年10月4日
公開)
鍔部及び周囲をめぐる隆起10とを有する鞘3を介して,軸2に回動可能に軸支
されたマッサージローラ4であって,/鞘3が,マッサージローラ4にスナップ結
合することができ,/マッサージローラ4は,その内周に,隆起10と鍔部との間
に位置し,鞘3の周囲をめぐる隆起10と係合する段差部を有する,マッサージロ
ーラ4(以下「甲19技術」という。)。
ウ甲20の1(米国特許出願公開第2010/191161号)
プラグ200を介して,モジュール140を回転可能に支持するマッサージ器で
あって,/プラグ200は,外方に延びる突出部205を含む弾性的なラッチアー
ム204を含むと共に,ラッチアーム204の基端側にフランジ201を有してお
り,突出部205は,先端側に向かうほどプラグ200におけるモジュール140
の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,/モジュール140は,内周に,ラッ
チアーム204の突出部205の基端側に係止される段差部を有する,マッサージ
器(以下「甲20技術」という。)。
4取消事由
⑴実施可能要件適合性に関する判断の誤り(取消事由1)
⑵サポート要件適合性に関する判断の誤り(取消事由2)
⑶本件発明1に係る進歩性の判断の誤り(取消事由3)
ア本件発明1と引用発明1との対比の誤り
イ一致点の認定の誤り
ウ相違点の認定の誤り
エ相違点3の容易想到性に係る判断の誤り
オ相違点4の容易想到性に係る判断の誤り
⑷本件発明2に係る進歩性の判断の誤り(取消事由4)
第3当事者の主張
1取消事由1(実施可能要件適合性に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴本件発明の「係止爪」は,「弾性変形可能なものであること」及び「支持軸
の先端側に向かうほど回転中心との距離が短くなる斜面を有していること」という
構造的特徴を有していることが把握できる。
しかし,「係止爪」の「弾性変形」の態様には複数の選択肢があるところ,本件
発明1に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載からは,「係止爪」がど
のような物理的根拠で弾性変形するのかが一義的に明確でない。
そこで,本件明細書を参酌すると,係止爪25a自体が,ゴムのように軟らかく
変形して段差部28aを乗り越えるのではなく,「係止爪」が「軸受け部材」の中
に入り込むようにして弾性変形して段差部28aを乗り越え,元に戻るものである
と解釈するほかない。ところが,図4及び8には,軸受け部材25から突設されて
いる斜面を有する係止爪25aが記載されているにすぎず,どのような構造で,係
止爪25aが軸受け部材25の中に入り込み,弾性変形して,段差部28aを乗り
越えて元に戻るものであるのかが開示されていない。
また,軸受け部材25は,支持軸20に挿入されあらかじめ抜け止めされた状態
で回転体27の中に挿入されなければならないため,支持軸20が軸受け部材25
に挿入された状態で係止爪25aが軸受け部材25の中に入り込み,弾性変形して
段差部28aを乗り越えて元に戻る必要があるが,そのように弾性変形する係止爪
25aについては,本件明細書には開示されていない。
よって,本件明細書の記載だけでは,本件発明を実施することができない。
⑵本件審決は,係止片を弾性変形させるために所定のクリアランスが必要なこ
とは技術常識である,と判断する。
しかし,係止爪を弾性変形させるために所定のクリアランスを設けることが技術
常識であることを裏付ける証拠は示されていない。本件審決は,進歩性の判断にお
いて,甲5~18記載の軸受け部材は固定された板状体の穴にしか使用されないと
限定的に認定しており,所定のクリアランスを設け,係止片を弾性変形させること
が技術常識であることを前提にした認定を行っていないことから,これが正しいと
すると,それから時を経た本件特許の原出願当時に技術常識となったことの証拠が
存在しない以上,本件発明との関係においても技術常識ではないことになる。
⑶小括
以上より,本件明細書の記載は実施可能要件に適合するものではなく,本件審決
の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕
⑴本件明細書の記載(【0015】,図8)には,係止爪25aが弾性変形可
能であること,係止爪25aの周辺にクリアランスが存在することが明示されてい
る。これらの記載によれば,係止爪25aが径方向に弾性変形することも明らかで
ある。そして,係止爪25aが弾性変形する際の干渉を防止するべく,係止爪25
aと支持軸との間にクリアランスを設ける程度のことは,文献を例示するまでもな
く当業者であれば当然に理解でき,また,過度の試行錯誤を要することなく当業者
がその発明を実施できる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施するこ
とができる程度に明確かつ十分に記載されている。
⑵原告は,係止爪を弾性変形させるために所定のクリアランスを設けることが
技術常識であることを裏付ける証拠が提示されていない,などと主張する。
しかし,「係止片を弾性変形させるために所定のクリアランスを設けること」は,
具体的な証拠を提示するまでもなく技術常識と認定できる。
なお,原告は,甲5~18記載の軸受け部材に関する本件審決の認定に関連付け
て,ここでの技術常識に言及する。
しかし,「係止片を弾性変形させるためには,所定のクリアランスが必要なこと」
と,甲5~18記載の軸受け部材の認定とは,全く別の技術事項である。
2取消事由2(サポート要件適合性に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件発明の従来技術である特開2009-142509号公報のローラ20は,
片側のみ穴が開いている非貫通の回転体であるところ,本件明細書の記載によれば,
本件発明は,この片側のみ穴が開いている非貫通の回転体に対して,回転体を支軸
に回転可能に支持するための課題解決手段を提供した発明ということになる。とこ
ろが,本件審決は,上記ローラ20が非貫通の回転体である点を看過して課題を認
定しており,その点に判断の誤りがある。
すなわち,本件発明が提供する課題解決手段として,本件明細書【0006】に
は,回転体が基端側にのみ穴を有する非貫通状態であること,非貫通状態の回転体
に支持軸に抜け止めされた軸受け部材を挿入するために弾性変形可能な係止爪が用
いられること,弾性変形可能な係止爪が斜面を有するものであることのみが記載さ
れている。しかし,前記のとおり,弾性変形可能な係止爪が弾性変形して非貫通の
回転体に挿入され,段差部を乗り越えるための構造は,本件明細書には具体的に記
載されていない。
前記のとおり,係止爪を弾性変形する方法に選択の余地がある上,本件発明の原
出願当時,所定のクリアランスを設けて係止片を弾性変形させることが必ずしも技
術常識とはいえないのであるから,本件明細書の他の記載や図面を参酌しても,当
業者が,課題解決手段を把握することができない。
以上のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細
な説明に記載されたものではない。本件審決は,サポート要件適合性に関して誤っ
た判断をしたものである。
〔被告の主張〕
本件発明は,本件明細書記載のとおり,「回転体を支持軸に対して回転可能に支
持することができる美容器を提供すること」を課題とし(【0004】),その解
決のため,請求項1記載の構成を採用している(【0005】,【0006】)。
これらの記載に加え,前記のとおり,「係止片を弾性変形させるためには,所定
のクリアランスが必要なこと」は技術常識であることから,当業者は,本件発明が
その課題を解決することができることを当然に理解できる。
3取消事由3(本件発明1に係る進歩性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴本件発明1と引用発明1との対比の誤り
ア本件発明1の支持軸の先端側
本件発明1においては,その特許請求の範囲の記載に基づく「軸受け部材」,
「支持軸」,「鍔部」,「係止爪」及び「回転体」の「段差部」それぞれの位置関
係を前提にすると,「前記支持軸の先端側」とは,「鍔部」及び「係止爪」から
「支持軸」の「先端」までの範囲のことを指すことになる。
イキャップ材の扱い
本件明細書の記載によれば,キャップ材29が支持軸20の突出端部側に設けら
れ,これにより,支持軸の上下へのがたつきが防止されている。
もっとも,本件明細書にはこのような記載があるものの,本件発明1に係る特許
請求の範囲の記載には,「キャップ材」は発明特定事項として存在しない。また,
本件発明1では,「鍔部」及び「係止爪」だけで「回転体」を回転可能に支持して
いることから,支持軸の突出端部が上下にぶれることは明らかであるし,本件明細
書上,本件発明の効果について,「回転体を支持軸に対して回転可能に支持するこ
とができる」との記載はあるものの,がたつき防止の効果は記載されていない。
したがって,本件発明1は,その構成に「キャップ材」を含まず,がたつき防止
の効果を発揮することはない。
ウ本件審決は,引用例1の「ベアリング12」及び「L型ベアリング13」が
「軸受け部材」に相当すると認定している。
しかし,上記のとおり,本件発明1の構成には「キャップ材」は含まれず,「回
転体」を支持しているのは「鍔部」及び「係止爪」だけである。他方,引用発明1
において,連結軸11のがたつきを許容する限り,「ベアリング12」は必須の構
成ではなくなる。そこで,これを除外すると,引用発明1は,「L型ベアリング1
3」のみで「ローラー4」を支持していることになる。
そして,本件発明1の「鍔部」及び「係止爪」は「回転体」の基端側の穴に近い
側に位置し,引用発明1の「L型ベアリング13」も「ローラー4」の穴に近い側
に位置する部材である。
したがって,本件特許発明1の「軸受け部材」に相当する引用発明1の構成は,
「L型ベアリング13」である。この点に関する本件審決の認定は誤りである。
⑵一致点の認定の誤り
前記⑴を踏まえると,支持軸又は連結軸11の「先端側」とは,回転体の内部に
差し込まれている鍔部から先端までの間の支持軸又は連結軸11の部分を指すこと
になる。
また,本件発明1においては,「軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側とな
る先端で支持軸に抜け止めされ」と特定されているところ,ここでいう「先端」と
は,他の特許請求の範囲の記載を考慮すると,「軸受け部材」の「先端」を指すも
のと認定するほかない。
以上によれば,本件発明1と引用発明1とは,以下の点で一致する。本件審決の
一致点の認定は誤りである。
支持軸と,/前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その
回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において,/前
記回転体は基端側にのみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の先端が位置
する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,/軸受け部材
は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ,/軸受け部材
は前記基端側に鍔部を有している,美容器。
⑶相違点の認定の誤り
前記⑴,⑵を踏まえると,本件審決は,必然的に,相違点の認定にも誤りがある
ことになる。具体的には,以下のとおりである。
ア相違点2について
本件発明1における「支持軸の先端側」とは,回転体の内部に差し込まれている
鍔部から先端までの間の支持軸の部分を指すものである。他方,引用発明1におい
ても,L型ベアリング13の鍔部から連結軸11の先端までの間の連結軸11の部
分において,ローラー4が回転可能に支持されている。
したがって,本件審決の認定に係る相違点2は存在しない。
イ相違点3について
本件発明1においてはがたつき防止のためのキャップが技術要素ではないことか
ら,引用発明1においても,がたつき防止のベアリング12を除外して両発明を対
比しなければならない。このような対比を前提にすると,L型ベアリング13が,
本件発明1の軸受け部材に相当する。
したがって,相違点3における引用発明1は,正しくは「引用発明1は,軸受け
部材に相当するL型ベアリング13が基端側に『鍔部』を有しているものの,『係
止爪』及び『段差部』に対応する構成を有してない点」となる(以下「相違点3’」
という。)。
ウ相違点4について
本件発明1の「軸受け部材が,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に
抜け止めされ」における「先端」とは,「軸受け部材」の「先端」であるところ,
引用発明1においても,ローラー4の穴とは反対側となるL型ベアリング13の先
端で,L型ベアリング13が座金15で抜け止め固定されている。
したがって,相違点4は存在しない。
エ以上のとおり,本件発明1と引用発明1との相違点は,本件審決の認定した
相違点1と,上記相違点3’である。
⑷相違点3’の容易想到性に係る判断の誤り
ア判断手法の誤り
本件審決は,引用発明1に適用することができたか否かにつき,甲5~18各記
載の事項を個別に判断している。
しかし,原告は,これらの記載事項を引用発明1に適用することが容易であるこ
とを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これら多数の文献から共
通して抽出される構成を周知の軸受け部材であるとし,当該周知の軸受け部材を引
用発明1に適用することが容易であったと主張している。にもかかわらず上記のよ
うな判断をした本件審決には,判断手法の誤りがある。
イ周知軸受け部材の認定に関する誤り
本件審決は,甲5~8及び10~18には,固定された板状体の穴に軸を回転自
在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材が記載されているのみであるとし,
「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材
において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有してお
り,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短
くなる斜面を有している軸受け部材。」が,周知の軸受け部材であると認定してい
る。
しかし,滑り軸受けは,基本的かつ汎用的な機械要素であり,「固定された板状
体の穴に軸を回転自在に支承する」ものに限定されず,広く,軸の回りの部材を回
転させるものに流用することができる部材である。また,つば付きの軸受につき,
スラスト方向に使用したり,ローラ等の回転体の回転に使用することが本件特許の
原出願時の技術水準であったのであるから,その軸受け部材も,固定された板状体
の穴にのみ使用するものでないことは,本件特許の原出願時の技術水準を構成して
いたといえる。また,甲5の図2に示された支持板12に貫通された挿通孔12a
と引用発明1のローラー4に設けられた穴は,構造としては,両者とも単なる穴が
開いていると捉えられるにすぎず,甲5のようなフランジ付き滑り軸受け11を引
用発明1のローラー4に設けられた穴に嵌めることができないとする理由はない。
以上のとおり,本件審決は,周知の軸受け部材の認定に関し,「固定された板状
体の穴に軸を回転自在に支承する」と限定して解釈している点で誤りがある。周知
の軸受け部材として認定されるべきものは,「支持軸が挿入されている状態で弾性
変形可能な係止爪を突き出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端
側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有
している軸受け部材」である。
ウ認定・判断の矛盾
本件審決は,実施可能要件の判断においては,甲5~18の記載を参酌し,板状
体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾性変形させる場合に所定
のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する一方で,進歩性の判断に
おいて,これらの文献に示された軸受け部材の認定にあたり,「固定された板状体
の穴に軸を回転自在に支承する」ための用途に限定されるとし,所定のクリアラン
スを設けて,板状体でない回転体に使用する軸受け部材に係止片を弾性変形させる
ことが技術常識でないことを前提としている。
この点で,本件審決は,甲5~18記載の技術の認定を誤っている。
エ動機付けについて
本件審決は,仮に,甲5~18記載の軸受け部材が「固定された板状体の穴に軸
を回転自在に支承する」ための用途に限定されるものではなかったとしても,引用
発明1における「ベアリング12」及び「L型ベアリング13」からなる軸受け構
造を,上記軸受け部材に置き換えることに動機付けは存在しないなどと判断した。
しかし,引用例1並びに甲3,19の1及び20の1は,フランジ付き軸受けを
美容器又はマッサージ器に用い,ローラー等の回転体を回転可能に支持する構造を
開示しており,本件特許の原出願時において,当該技術は周知技術であった。他方,
甲5~18記載の軸受け部材はフランジ付き軸受け部材であり,板状体の穴に取り
付けるものに限定されないのであるから,上記周知技術を考慮すれば,引用発明1
の「L型ベアリング13」を原告主張に係る周知軸受け部材に置き換える動機付け
が存在する。
また,甲19技術及び甲20技術は,共に,スナップ結合を用いる場合に,回転
体の内部に段差部を設ける技術を開示している。このため,引用発明1に対し原告
主張に係る周知軸受け部材を適用する際に,甲19技術及び甲20技術と同様に,
係止爪が係合するような段差部をローラー4の内部に構成することは,当業者にと
って極めて容易なことである。
オ以上のとおり,相違点3’に係る本件発明1の構成は,引用発明1に対し,
原告主張に係る周知軸受け部材並びに甲19技術及び甲20技術を適用することで,
当業者が容易に想到することができる。この点に関する本件審決の判断には誤りが
ある。
カまた,甲4技術に基づいて,引用発明1の「L型ベアリング13」を,滑り
軸受である原告主張に係る周知軸受け部材に置き換えることは,当業者にとって容
易である。
したがって,相違点3’につき,甲4の有無にかかわらず,引用発明1並びに甲
5~20に記載の事項から当業者が容易に想到することができるものではないとし
た本件審決の判断には誤りがある。
⑸相違点4の容易想到性に係る判断の誤り
仮に,相違点4が存在するとしても,前記のとおり,本件発明1においてベアリ
ング12は必須の構成ではない。このため,原告主張に係る周知軸受け部材を適用
する際に,軸受け部材の長さに応じて連結軸11の長さを調整し,調整後の連結軸
11の先端部分に座金15を取り付け,抜け止め構造を採用することは,単なる設
計事項にすぎない。
よって,相違点4に係る本件発明1の構成につき,当業者が容易に想到すること
ができないとした本件審決の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕
⑴本件発明1と引用発明1との対比の誤りについて
ア支持軸の「先端側」とは,支持軸全体における位置であり,支持軸において
回転体の鍔部が位置すれば,それが支持軸におけるどのような位置であろうと「先
端側」というものではない。
イキャップ材は,本件明細書【0015】の記載から,回転体27を構成する
ものと理解されることから,明示されてはいないものの,本件発明1の発明特定事
項としてこれに相当するものが存在しないとはいえない。そうである以上,がたつ
き防止に関する原告の主張はその前提に誤りがある。
ウ本件発明1の「軸受け部材」とは,軸を受ける部材である。引用例1の記載
によれば,引用発明1において,ローラー4は,ベアリング12とL型ベアリング
13の両者を介して支持軸11に軸受けされていることは明らかであり,ベアリン
グ12が必須の構成ではないことを示唆する記載は存在しない。むしろ,「ローラ
ー部と連結軸部の構成は至極単純であっても連結するという目的が達成できるよう
にす」るという課題解決のため,引用発明1において,ベアリング12とL型ベア
リング13とは一体不可分であると認められる。
したがって,本件発明1の軸受け部材に相当する引用発明1の構成は「ベアリン
グ12」及び「L型ベアリング13」の双方であり,これらのうちL型ベアリング
13のみが本件発明1の「軸受け部材」に相当するということはできない。
⑵一致点の認定の誤りについて
引用発明1において,ローラ―4は支持軸11全体に支持されており,「支持軸
の『先端側に』回転可能に支持された回転体」ではない。また,前記のとおり,本
件発明1の軸受け部材に相当する引用発明1の構成は「ベアリング12」及び「L
型ベアリング13」の双方であるところ,前者は支持軸に抜け止めされておらず,
「軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ」
たものではない。
したがって,本件審決の一致点の認定に誤りはない。
⑶相違点の認定の誤りについて
ア相違点2について
前記のとおり,「支持軸の先端側」とは支持軸全体に対する位置であり,支持軸
において回転体の鍔部が位置するところが先端側ではない。
したがって,本件審決の相違点2の認定に誤りはない。
イ相違点3について
前記のとおり,本件発明1の軸受け部材に相当する引用発明1の構成は「ベアリ
ング12」及び「L型ベアリング13」の双方である。
したがって,本件審決の相違点3の認定に誤りはない。
ウ相違点4について
原告は,「軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け
止めされ」の「先端」が「軸受け部材」の「先端」であるとした上で,本件発明1
の「軸受け部材」に相当するのは引用発明1の「L型ベアリング13」のみである
との解釈を前提として,相違点4が存在しないと主張する。
しかし,前記のとおり,その前提とする解釈は失当である。
また,引用発明1において抜け止めされているのは「L型ベアリング13」のみ
で,「ベアリング12」は抜け止めされていない。この両者が本件発明1の「軸受
け部材」に相当するから,相違点4は,「軸受け部材の支持軸への抜け止め構造に
関して,本件発明1においては,軸受け部材が,回転体の穴とは反対側となる先端
で支持軸に抜け止めされているのに対して,引用発明1では,L型ベアリング13
がローラー4の穴とは反対側で連結軸11に抜け止めされているものの,ベアリン
グ12は抜け止めされておらず,ベアリング12及びL型ベアリング13(軸受け
部材)がローラー4の穴とは反対側となる先端で連結軸11に抜け止めされていな
い点」である。なお,これは本件審決の相違点4の認定とは異なるが,その点は本
件審決の進歩性判断に影響を与えるものではない。
⑷相違点3の容易想到性に係る判断の誤りについて
ア判断手法の誤りについて
本件審決は,甲5~18から共通して抽出される構成を検討し,その結果周知技
術といえる技術事項を見出すことはできないと判断したのであり,その判断手法に
誤りはない。
イ周知軸受け部材の認定に関する誤りについて
(ア)甲9には,カッターを軸支するころがり軸受としてのオイルレスベアリン
グ42と,容器基台20とオイルレスベアリング42との間に設けられた軸受保持
部材28とを備えた電気ミキサーにおいて,軸受保持部材28に突起32及びフラ
ンジ34が設けられている点が記載されているところ,甲9においては,オイルレ
スベアリング42が「軸受け部材」に相当し,当該オイルレスベアリング42は,
すべり軸受ではなく,かつ,「係止爪」及び「鍔部」に相当する構成を備えていな
い。
したがって,甲9記載の事項は,「オイルレスベアリング42が滑り軸受けでな
くころがり軸受けであること」,「オイルレスベアリング42ではなく軸受保持部
材28に,突起32及びフランジ34が設けられていること」等の点において,原
告が周知と主張する技術とは異なり,甲9を加えた甲5~18からは,周知技術と
いえる技術事項を見出すことはできないとした本件審決の判断に誤りはない。
(イ)原告は,つば付きの軸受けにつき,ローラ等の回転体の回転に使用するこ
とが本件特許の原出願時の技術常識であったのであるから,その軸受け部材も,固
定された板状体の穴にのみ使用するものでないことは,本件特許の原出願時の技術
水準を構成していたと主張する。
しかし,軸受けの「つば」は,一般的に軸受けに支持等される部材の位置規制に
使用されるものであり,軸受けがつば付きであることと,軸受けが固定された板状
体の穴にのみ使用するものであるか否かとは全く関係がない。
(ウ)原告は,甲5記載のようなフランジ付き滑り軸受11を引用発明1のロー
ラー4に設けられた穴に嵌めることができないとする理由はないと主張する。
しかし,甲5記載のフランジ付き滑り軸受11を引用発明1に適用できるか否か
と,「周知軸受け部材」の認定とは別の次元の問題であり,両者に関連性はない。
ウ認定・判断の矛盾について
原告は,本件審決は,実施可能要件の判断と進歩性の判断とで,甲5~18の記
載に基づく技術常識の認定・判断につき矛盾がある旨主張する。
しかし,本件審決は,実施可能要件の判断において,原告自身も主張するとおり,
甲5~18を参酌することなく,所定のクリアランスを設けることが技術常識であ
ると判断している。
また,前記のとおり,係止片が弾性変形するために所定のクリアランスを設ける
ことと,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承すること」とは,別の技術
事項である。そうである以上,係止片が弾性変形するために所定のクリアランスを
設けることが技術常識だからといって,板状体に限定されないと認定しなければな
らない理由もない。
エ動機付けについて
原告は,フランジ付き軸受けで回転体を支持することが周知技術であるとした上
で,甲5~18記載の軸受け部材は板状体の穴に取り付けられるものに限定されな
いから,「L型ベアリング13」を原告主張に係る周知軸受け部材に置き換える動
機付けが存在する,また,引用発明1に対し,原告主張に係る周知軸受け部材を適
用する際に,甲19技術及び甲20技術と同様に,係止爪が係合するような段差部
をローラー4の内部に構成することは,当業者にとって極めて容易なことである,
などと主張する。
しかし,前記のとおり,甲5~18から共通して抽出される構成は存在しない。
仮に甲9を除いたとしても,導き出される周知技術は本件審決認定に係る周知軸受
け部材にとどまる。したがって,引用発明1の「L型ベアリング13」を,本件審
決認定に係る周知軸受け部材に置き換える動機付けは存在しない。
また,技術分野,前提となる構成及び使用態様等を全て無視し,フランジがある
点のみに基づいて,引用例1の「L型ベアリング13」を本件審決認定に係る周知
軸受け部材に置き換えることができるというのは,極めて短絡的な主張である。
さらに,仮に原告主張に係る周知軸受け部材が周知であると認められるとしても,
前記のとおり,本件発明1の「軸受け部材」に相当する引用発明1は「ベアリング
12」及び「L型ベアリング13」であることから,「L型ベアリング13」のみ
を原告主張に係る周知軸受け部材に置き換える動機付けは存在しない。
そして,甲19技術及び甲20技術の適用は,原告主張に係る周知軸受け部材の
構成及びその引用発明1に対する適用の動機付けの存在を前提としてなされるもの
であり,前提となる構成及び動機付けがない以上,甲19技術及び甲20技術を適
用する動機付けもない。
⑸相違点4の容易想到性に係る判断の誤りについて
原告は,相違点4が存在するとしても,引用発明1の「ベアリング12」が必須
構成とはならないことを前提に,原告主張に係る周知軸受け部材を適用する際に,
軸受け部材の長さに応じて連結軸11の長さを調整し,調整後の連結軸11の先端
部分に座金15を取り付け,抜け止め構造を採用することは,単なる設計事項にす
ぎないなどと主張する。
しかし,その前提が失当であることは,前記のとおりである。また,原告主張に
係る複数段階を経た構造が単なる設計事項とは到底いえない。
4取消事由4(本件発明2に係る進歩性の判断の誤り)
〔原告の主張〕
前記3に加え,軸受部材を合成樹脂製のものとすることは甲4~18に示されて
おり,当業者が容易に想到し得ることから,本件発明2に係る進歩性についての本
件審決の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕
本件発明2は,本件発明1の従属項である。したがって,本件発明1についての
本件審決の判断に誤りがないのと同様に,本件発明2についての本件審決の判断に
も誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本件発明
⑴本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりである。また,
本件明細書(甲28)には,以下の記載がある(なお,図面は別紙図面目録記載の
1参照)。
ア技術分野
この発明は,回転体を身体上で転動させることにより,使用者に対して美肌効果
等の美容的作用を付与するようにした美容器に関するものである。(【0001】)
イ背景技術
従来,この種の美容器としては,例えば特許文献1に開示されるような構成が提
案されている。この従来構成の美容器においては,ハンドルの先端に二叉部が設け
られている。二叉部の先端には回転体が支持されている。そして,各回転体を身体
の皮膚に押し付けて回転させることにより,身体に対して美肌効果等の美容的作用
が付与されるとしている。(【0002】)
ウ発明が解決しようとする課題
前記特許文献1においては,回転体を支持するための軸等の支持構造は開示され
ていない。
この発明の目的は,回転体を支持軸に対して回転可能に支持することができる美
容器を提供することにある。(【0004】)
エ課題を解決するための手段
上記の目的を達成するために,この発明は,基端において抜け止め固定された支
持軸と,前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体
により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器である。(【000
5】)
また,前記回転体は基端側にのみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の
先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,軸
受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ,前記
軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに,軸受け部材は係止爪
の前記基端側に鍔部を有しており,同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材
における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,前記回転体は内周に前
記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止
されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置する。(【0006】)
前記の構成において,前記軸受け部材は合成樹脂製である。(【0007】)
オ発明の効果
以上のように,この発明によれば,回転体を支持軸に対して回転可能に支持する
ことができる…という効果を発揮する。(【0008】)
カ発明を実施するための形態
図4に示すように,前記各支持軸20の突出端部には,合成樹脂よりなる円筒状
の軸受け部材25が嵌合されて,ストップリング26により抜け止め固定されてい
る。…図4及び図8に示すように,各軸受け部材25の外周には,一対の弾性変形
可能な係止爪25aが突設されている。各支持軸20上の軸受け部材25には,ほ
ぼ球体状をなす一対の回転体27が回転可能に嵌挿支持されている。そして,前記
各回転体27は,合成樹脂よりなる芯材28と,その芯材28の先端内周に嵌着さ
れた合成樹脂よりなるキャップ材29と,芯材28及びキャップ材29の外周に被
覆成形された合成樹脂よりなる外被材30とより構成されている。…芯材28の内
周には,前記軸受け部材25の係止爪25aに係合可能な段差部28aが形成され
ている。そして,回転体27が軸受け部材25に嵌挿された状態で,係止爪25a
が段差部28aに係合され,回転体27が軸受け部材25に対して抜け止め保持さ
れている。(【0015】)
⑵本件発明の特徴
前記⑴の本件明細書の各記載から,本件発明の特徴は,以下のとおりのものと認
められる。
ア発明の属する技術分野
本件発明は,回転体を身体上で転動させることにより,使用者に対して美肌効果
等の美容的作用を付与するようにした美容器に関するものである(【0001】)。
イ発明が解決しようとする課題
従来構成の美容器においては,ハンドルの先端に二叉部が設けられ,二叉部の先
端には回転体が支持されており,各回転体を身体の皮膚に押し付けて回転させるこ
とにより,身体に対して美肌効果等の美容的作用が付与されるとしている。しかし,
この構成を開示する特許文献には,回転体を支持するための軸等の支持構造は開示
されていない。本件発明の目的は,回転体を支持軸に対して回転可能に支持するこ
とができる美容器を提供することにある(【0002】,【0004】)。
ウ課題を解決するための手段
前記目的を達成するために,本件発明1は,基端においてハンドルに抜け止め固
定された支持軸と,前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,
その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において,
前記回転体は基端側にのみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の先端が位
置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,軸受け部材
は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ,前記軸受け部
材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに,軸受け部材は係止爪の前記基
端側に鍔部を有しており,同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材における
回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,前記回転体は内周に前記係止爪
に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されると
ともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置することを特徴とする美容器としたもの
である。
また,本件発明2は,本件発明1の特定事項に加え,前記軸受け部材は合成樹脂
製であることを特徴とする美容器としたものである
前記係止爪と前記段差部との係止の構造について,具体的には,合成樹脂よりな
る円筒状の軸受け部材25は,前記各支持軸20の突出端部に嵌合され,ストップ
リング26により抜け止め固定される。この軸受け部材25の外周には,一対の弾
性変形可能な係止爪25aが突設されている。また,各支持軸20上の軸受け部材
25に回転可能に嵌装支持される一対の回転体27は,合成樹脂よりなる芯材28
と,その芯材28の先端内周に嵌着された合成樹脂よりなるキャップ材29と,芯
材28及びキャップ材29の外周に被覆成形された合成樹脂よりなる外被材30と
より構成される。この芯材28の内周には,前記軸受け部材25の係止爪25aに
係合可能な段差部28aが形成されている。そして,回転体27が軸受け部材25
に嵌挿された状態で,係止爪25aが段差部28aに係合され,回転体27が軸受
け部材25に対して抜け止め保持されている(特許請求の範囲請求項1及び2,
【0005】~【0007】,【0015】,図4,図8)。
エ発明の効果
本件発明によれば,回転体を支持軸に対して回転可能に支持することができるこ
とができるという効果を発揮する(【0008】)。
2取消事由1(実施可能要件適合性に関する判断の誤り)について
⑴明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには,
物の発明にあっては,当業者が明細書,図面全体の記載及び出願当時の技術常識に
基づいて,その物を生産でき,かつ,使用できるように,具体的に記載されている
ことが必要であると解される。
⑵本件明細書の記載等
前記のとおり,本件明細書【0015】には,本件発明を具体化した美容器の一
実施形態を構成する部材の形状,配置及び相互関係について,「図4に示すように,
前記各支持軸20の突出端部には,合成樹脂よりなる円筒状の軸受け部材25が嵌
合されて,ストップリング26により抜け止め固定されている。…図4及び図8に
示すように,各軸受け部材25の外周には,一対の弾性変形可能な係止爪25aが
突設されている。各支持軸20上の軸受け部材25には,ほぼ球体状をなす一対の
回転体27が回転可能に嵌挿支持されている。…芯材28の内周には,前記軸受け
部材25の係止爪25aに係合可能な段差部28aが形成されている。そして,回
転体27が軸受け部材25に嵌挿された状態で,係止爪25aが段差部28aに係
合され,回転体27が軸受け部材25に対して抜け止め保持されている。」との記
載がある。
また,図4には回転体27の支持軸20に対する軸受け部材25を介した支持部
の断面が示されているところ,支持軸20の回転体27を支持する部分(支持軸の
先端側部分)の外周面と軸受け部材25の内周面との境界は,2本の平行する実線
によって示されており,軸受け部材の箇所にはハッチングがされていることが看取
される一方,軸受け部材に設けられる係止爪25aは,一点鎖線ないし二点鎖線で
示され,ハッチングはされていない。このことから,図4の断面図において,係止
爪25aは,軸受け部材のハッチングされた面とは異なる面に存在するもの(図4
の断面上にはないもの)と理解するのが合理的である。
また,図8には軸受け部材25の斜視図が示されているところ,同図からは,係
止爪25aの斜面部の先端側の端縁に連なって長方形状の部位を有すること,当該
長方形状の部位の同図手前側には,その長方形状の部位及び斜面部の側面と見られ
る部位が存在すること,係止爪25aの基端側と鍔部との間には,係止爪25の基
端に連なって,軸受け部材25の円筒面よりも内周側に掘り下がるように形成され
た凹状の部位が存在することを見て取ることができる。
⑶【0015】の記載によれば,軸受け部材25は,各支持軸20の突出端部
に嵌合され,ストップリング26により抜け止め固定された状態で,回転体27を
嵌挿支持するものである。このため,軸受け部材25は,上記状態で回転体27の
穴に挿入されることが想定されるところ,その際,軸受け部材25に突設された係
止爪25aは,回転体27を構成する芯材28の内周に形成された段差部28aを
乗り越え,その後,軸受け部材25の外周に突設された状態に復することにより段
差部28aに係合され,その結果,回転体27が軸受け部材25に対し抜け止め保
持されることが理解される。このことから,軸受け部材25に設けられる係止爪2
5aは,弾性変形可能なものであることは明らかである。
そして,図8から,「長方形状の部位及び係止爪25aの斜面部の側面と見られ
る部位」の存在を見て取ることができる。ここで,係止爪25aの側方に隙間が存
在しなければ,当該側面が図示されることはない。このため,当業者であれば,上
記部位及び係止爪25aの基端側と鍔部との間に存在する凹状の部位をもって,係
止爪25aが弾性変形する際のクリアランスとなり,係止爪25aが軸受け部材の
先端側を付け根として,全体として内周方向に曲がるよう変形するように構成され
ているものと理解できる。
また,このように,係止爪25aは軸受け部材の先端側を付け根として全体とし
て内周方向に曲がるよう変形するものであることから,係止爪25aの内周面方向
には,当該変形を許容するクリアランスが存在することは明らかである。
そうすると,回転体27を軸受け部材25に対して嵌挿する際には,上記各クリ
アランスが存在することによって,軸受け部材25の係止爪25aが,軸受け部材
の先端側を付け根として,全体として内周方向に曲がるよう変形することにより段
差部28aを乗り越え,元に戻ることで段差部28aに係止爪25aの端部が係止
されることは,当業者にとって容易に理解できる。
よって,本件明細書において,本件発明1の係止爪がどのような構造で軸受け部
材25の中に入り込み,弾性変形して,段差部28aを乗り越えて元に戻るもので
あるのかは,開示されているといえる。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件明細書の記載及
び本件特許の原出願当時の技術常識に基づいて,本件発明1に係る物を生産でき,
かつ,使用できるように,具体的に記載されているものと認められる。
⑷原告の主張について
原告は,「係止爪」の「弾性変形」の態様には複数の選択肢があるところ,本件
発明1に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載からは,「係止爪」が弾
性変形する物理的根拠が一義的に明確でなく,また,本件明細書の記載を参酌して
も,これが開示されているとはいえない,本件審決は,係止爪を弾性変形させるた
めに所定のクリアランスが必要なことが技術常識であることを裏付ける証拠を示し
ていないなどと主張する。
しかし,前記⑵,⑶のとおり,本件明細書には,【0015】,図4及び図8に
より,「係止爪」が「弾性変形」する態様が開示されているものといえることから,
本件審決認定に係る上記技術常識の有無いかんにかかわらず,この点に関する原告
の主張は採用できない。
⑸したがって,本件明細書の記載は,実施可能要件に適合するというべきであ
り,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。取消事由1は理由がない。
3取消事由2(サポート要件適合性に関する判断の誤り)について
⑴特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ
れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ
り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま
た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ
る。
⑵本件発明1に係る特許請求の範囲請求項1は,軸受け部材に回転体を支持す
る構成について,「前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るととも
に,軸受け部材は係止爪の前記基端側に鍔部を有しており,同係止爪は前記先端側
に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,
前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止
爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置する」と
特定する。
他方,前記のとおり,本件明細書【0015】には,「図4及び図8に示すよう
に,各軸受け部材25の外周には,一対の弾性変形可能な係止爪25aが突設され
ている。各支持軸20上の軸受け部材25には,ほぼ球体状をなす一対の回転体2
7が回転可能に嵌挿支持されている。…芯材28の内周には,前記軸受け部材25
の係止爪25aに係合可能な段差部28aが形成されている。そして,回転体27
が軸受け部材25に嵌挿された状態で,係止爪25aが段差部28aに係合され,
回転体27が軸受け部材25に対して抜け止め保持されている。」と記載され,ま
た,図8からは,係止爪25aの斜面部の先端側の端縁に連なって長方形状の部位
を有すること,当該長方形状の部位の同図手前側には,その長方形状の部位及び斜
面部の側面と見られる部位が存在すること,係止爪25aの基端側と鍔部との間に
は係止爪25の基端に連なって,軸受け部材25の円筒面よりも内周側に掘り下が
るように形成された凹状の部位を有することを見て取ることができる。
これらの記載等を対比すれば,当業者であれば,軸受け部材には,係止爪が弾性
変形するためのクリアランスが存在することが理解できるから,本件発明によって
特定される構成を採用することによって,片側のみ穴が開いている非貫通の回転体
に対し,回転体を支軸に回転可能に支持することができること,すなわち本件発明
の課題を解決できることを理解することができる。
⑶したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合
するものというべきである。これに反する原告の主張は採用できず,取消事由2は
理由がない。
4取消事由3(本件発明1に係る進歩性の判断の誤り)について
⑴引用発明1
ア引用例1には,以下の記載がある(なお,図面は別紙図面目録記載の2参
照)。
(ア)本発明は,ゲルマニウムの半導体を,肌アレルギーを起こし難いチタニウ
ム製ローラーに突設し,このローラーを顔面に接触させ回転させて美顔にする美顔
用マッサージ器に関するものである。(【0001】)
(イ)本発明は,上記の事情に鑑み,ローラーと顔面との間に隙間を作らず,顔
面に接触する部分がより多くなるようにすべく,ローラー部と,把手部と,ローラ
ー部と把手部とを連結する連結軸部とよりなる美顔用マッサージ器であって,ロー
ラー部はチタニウム製円筒形ローラーでローラーの先端を閉塞し,ローラーの円周
を4等分した外周面の軸線方向に円弧溝を刻設してローラーの外周面に4個の凸面
を形成し,凸面に小穴を凹設し,前記小穴に表面を研磨したゲルマニウム粒子を突
設し,ローラーの先端面にも表面を研磨したゲルマニウム粒子を突設し,ローラー
外周面のゲルマニウム粒子と相隣る凸面のゲルマニウム粒子とを軸線方向で同位置
にならないようにずらして配置した美顔用マッサージ器とした。(【0004】)
また,本発明は,ローラーと顔面との間に隙間を作らず,顔面に接触する部分を
より多くすることができ,また,ローラー部と連結軸部の構成は至極単純であって
も連結するという目的が達成できるようにすべく,連結軸部の連結軸は把手部の把
手先端から突出させ,連結軸の先端部にベアリングを圧入し,連結軸の基端にはL
型ベアリングを回転自在に嵌着し,円周溝に座金を嵌めてL型ベアリングを連結軸
に固着し,前記連結軸部をローラーの中空部に,ベアリングを回転自在で,L型ベ
アリングを圧入して挿入するようにした美顔用マッサージ器とした。(【000
5】)
(ウ)本発明の美顔用マッサージ器は,ローラー部1と,把手部2と,ローラー
部1と把手部2とを連結する連結軸部3とよりなる。(【0011】)
ローラー4は円筒形で先端を閉塞している。(【0015】)
把手5の中空部10には把手5の先端中央から突出させた連結軸部3の連結軸1
1を突出させ,連結軸11の先端部にベアリング12を圧入し,連結軸11の基端
にはL型ベアリング13を回転自在に嵌着し,円周溝14に座金15を嵌めてL型
ベアリング13を連結軸11に固着し,この連結軸部3をローラー4の中空部10
に,ベアリング12を回転自在で,L型ベアリング13を圧入して挿入する。ロー
ラー部1と連結軸部3の構成は至極単純であるが,連結するという目的が達成でき
る。(【0016】)
イ引用発明1の認定
(ア)上記認定に係る記載によれば,引用発明1は,本件審決の認定したとおり
のものと認められる(前記第2の3⑵ア)。
(イ)原告の主張について
a原告は,引用発明1において「ベアリング12」は必須の構成ではなく,本
件発明1の「軸受け部材」に相当する引用発明1の構成は「L型ベアリング13」
であるなどと主張する。
しかし,引用例1には,「ローラー部と連結軸部の構成は至極単純であっても連
結するという目的が達成できるようにすべく,連結軸部の連結軸は把手部の把手先
端から突出させ,連結軸の先端部にベアリングを圧入し,連結軸の基端にはL型ベ
アリングを回転自在に嵌着し,円周溝に座金を嵌めてL型ベアリングを連結軸に固
着し,前記連結軸部をローラーの中空部に,ベアリングを回転自在で,L型ベアリ
ングを圧入して挿入するようにした美顔用マッサージ器とした。」(【000
5】),「連結軸11の先端部にベアリング12を圧入し,連結軸11の基端には
L型ベアリング13を回転自在に嵌着し,円周溝14に座金15を嵌めてL型ベア
リング13を連結軸11に固着し,この連結軸部3をローラー4の中空部10に,
ベアリング12を回転自在で,L型ベアリング13を圧入して挿入する。ローラー
部1と連結軸部3の構成は至極単純であるが,連結するという目的が達成できる。」
(【0016】)との記載があるところ,これらの記載によれば,ベアリング12
は,L型ベアリング13とともに,ローラー4を回転自在に支持する役割を果たす
ことが把握できる。他方で,引用例1には,ベアリング12を除外してL型ベアリ
ング13のみとすることができるとする記載も,その示唆もない。
そうすると,引用発明1において,ベアリング12及びL型ベアリング13は,
ローラーを回転自在に支持するために,ともに不可欠な構成といえる。すなわち,
本件発明1の「軸受け部材」に相当する引用発明1の構成は,「ベアリング12」
と「L型ベアリング13」の双方である。
bまた,原告は,上記主張の前提として,「前記支持軸の先端側」とは,「鍔
部」及び「係止爪」から「支持軸」の「先端」までの範囲を指し,また,本件発明
1はその構成に「キャップ材」を含まず,がたつき防止の効果を発揮することはな
い,などとも主張する。
しかし,本件発明1は,「支持軸の先端側」について,「基端においてハンドル
に抜け止め固定された支持軸と,前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転
体とを備え」と特定するところ,この記載から,ハンドルに抜け止め固定される支
持軸の基端に対し,回転体を支持する部分を先端側としていることは明らかであっ
て,原告の主張する範囲と解することはできない。また,本件明細書には,キャッ
プ材29が,がたつきを防止するために必須の構成である旨の記載はない。そもそ
も,「前記各回転体27は,合成樹脂よりなる芯材28と,その芯材28の先端内
周に嵌着された合成樹脂よりなるキャップ材29と,芯材28及びキャップ材29
の外周に被覆成形された合成樹脂よりなる外被材30とより構成されている。」
(【0015】)との記載から,キャップ材29は,本件発明1の「回転体」の一
部を構成するものと理解される。
c以上より,この点に関する原告の主張は採用できない。
⑵本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点
ア本件発明1と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「美顔用マッサージ
器」は本件発明1の「美容器」に,「把手5」は「ハンドル」に,「連結軸11」
は「支持軸」に,「ローラ―4」は「回転体」に,「ローラ―4を顔面に接触させ
て美顔にする」は「その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにし
た」に,「ベアリング12」及び「L型ベアリング13」は「軸受け部材」に,そ
れぞれ相当する。
そうすると,本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりと
認められる。
イ一致点及び相違点1~3は,本件審決が認定したとおりである(前記第2の
3⑵イ,ウ(ア)~(ウ))。
ウ相違点4’
軸受け部材の支持軸への抜け止め構造に関して,本件発明1においては,「軸受
け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ」ている
のに対し,引用発明1では,L型ベアリング13は,ローラー4の穴とは反対側の
先端で連結軸11に抜け止めされているものの,それよりも先端側にあるベアリン
グ12については抜け止めされていない点(以下「相違点4’」という。)。
なお,本件審決の相違点4の認定は,「L型ベアリング13」の連結軸11への
抜け止めにつき,支持軸の先端でされていないことを前提とするものと理解される。
しかし,「軸受け部材」の「抜け止め」につき,本件発明1においては,「軸受
け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ」と特定
されているところ,ここでの「先端」とは,「軸受け部材」の「先端」を意味する
のであって,文章構造上,「支持軸」の先端を意味するものとは理解されない。そ
の限りで,本件審決の相違点4の認定には誤りがある。もっとも,後記のとおり,
この点は本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
エ原告は,引用発明1の認定の誤りがあることを前提として,本件審決による
一致点及び相違点の認定の誤りを主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明1の認定に係る原告の主張は採用できない。
⑶甲2~20の1の記載
甲2~20の1には,以下の記載がある(なお,図は別紙図面目録の各項記載の
図面参照)。
ア甲2(登録実用新案第3166202号公報。平成23年2月24日発行)
(ア)本考案は,マッサージローラーの構造に関し,特にY字形のマッサージロ
ーラーの構造に関する。(【0001】)
(イ)最良実施例として,各ローラーは接続部品,内柱,二つのベアリング,軸
受及び,外カバーを具有し,各ローラー3の接続部品31は球状ヘッド22を通じ
て互いに嵌合して固定する。また,接続部品31はハンドル2の軸を中心とするあ
る角度に開いて,該二つのベアリング33をそれぞれ軸受34の両端に設置し,且
つ二つのベアリング33と軸受34を同時に接続部品31の外側に套設する。該内
柱32をしっかりと二つのベアリング33及び軸受34の外側に套設し,外カバー
35の中に,しっかりと内柱32を嵌合することで,二つのベアリング33,外カ
バー35及び内柱32が回転可能の構造となる。該ローラーの外カバーの表面に若
干の磁石を嵌め込む。【0007】
イ甲3の1(中国実用新案明細書第201814806号。2011年5月4
日公告)
折り畳み式Y字形構造のマッサージ棒において,ハンドル⑴と,マッサージヘッ
ド⑵と,回転リンク⑶とからなり,ハンドル⑴は折り畳み式回転リンク⑶を介して
マッサージヘッド⑵と連結され,ハンドル⑴下端に回転連結式調節ハンドル⑷を内
蔵し,ハンドル⑴上端に凹状係止溝が開設されており,回転リンク⑶の一端はねじ
A⑸とキャップA⑹およびキャップB⑺によりハンドル⑴上端の凹状係止溝内に係
合され,他端はねじB⑻とキャップC⑼とを介してマッサージヘッドの屈曲リンク
⑽と連結され,マッサージヘッド⑵は,屈曲リンク⑽および2組の軸受⑾,軸スリ
ーブ⑿,マッサージローラ⒀,および固定ねじ⒁を備え,軸受⑾と軸スリーブ⑿は
屈曲リンク⑽の両端に固定設置され,その外部にマッサージローラ⒀を嵌接し,マ
ッサージヘッド⑵と,固定されたマッサージヘッドリンク⑶とがY字形状をなすこ
とを特徴とする折り畳み式Y字形構造のマッサージ棒。(【請求項1】)
ウ甲4(登録実用新案第3159255号公報。平成22年5月13日発行)
(ア)本考案に係るマグネット美容ローラは,柄本体部と,柄本体部に回転自在
に保持されるローラ部とによって構成され,前記柄本体部が,使用者によって保持
される所定の長さの把持部と,該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角
度で傾斜し且つお互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一
対のローラ保持部とによって構成され,且つ前記ローラ部が,磁石によって形成さ
れると共に前記ローラ保持部のそれぞれに回転自在に保持されることを特徴とする
ものである。(【0010】)
(イ)前記ローラ部には,前記ローラ保持部が挿着される挿着孔が形成され,前
記ローラ保持部との間にベアリングが設けられて,前記ローラ部が回転自在となる
ものである。このベアリングとしては,玉軸受,コロ軸受等の転がり軸受,又は,
プラスチック軸受,球面滑り軸受,焼結含油軸受等の滑り軸受が望ましい。(【0
014】)
エ甲5(特開2002-340001号公報)
(ア)本発明は…,支持板への固定に別体の抜け止め用のリングが不要で,…紙
送り機構等のコストの低減と組立性の向上を図ることができるフランジ付き滑り軸
受を提供すること,更に,取り付け可能な支持板の板厚が限定されず,支持板の板
厚が異なる複数種の紙送り機構等に汎用使用することのできるフランジ付き滑り軸
受を提供することを目的とする。(【0010】)
(イ)この一実施の形態の樹脂製のフランジ付き滑り軸受11は,ファクシミリ
装置の紙送り機構の支持板12に貫通形成された円形の軸受挿通口12aに嵌合す
る円筒状の筒部11aと,該筒部11aの基端部外周から半径方向外方に向かって
張り出して設けられて前記支持板12への当接によって前記筒部11aの軸方向の
位置決めを果たすフランジ11bと,筒部11aの外周に突出する弾性係止片11
cとを,合成樹脂により一体成形したもので,筒部11aに挿通された軸を回転自
在に支承する。(【0017】)
オ甲6(実公平8-9455号公報)
(ア)1は合成樹脂製の軸受であり,該軸受1は円筒部10と該円筒部10の一
方の端部外周面に径方向外方に延設された鍔部11と該円筒部10の外周面に該外
周面から鍔部11側に斜方向に延設された1つの舌片部12と該舌片部12の端部
に該鍔部11側に向けて延設された係合片部13と該係合片部13に該鍔部11裏
面との隙間t1,t2,t3を漸次縮小するように形成された複数個の段部14
(本実施例においては3個)とを備えている。(2頁4欄36行目~43行目)
(イ)上述した固定構造において,該軸受1は係止片部13が取付部材2の円孔
20に連なって形成された切欠き溝22に係合することによりその円周方向の回転
が阻止されて回り止め手段を形成し,また鍔部11裏面と係止片部13の段部14
との隙間に該取付部材2を挟持することによりその軸方向の移動が阻止されて該軸
受の抜け止め手段を形成する。(3頁5欄26行目~32行目)
カ甲7(実開昭49-16632号公報)
(ア)実用新案登録請求の範囲/ツバ付軸受において,ツバの反対面11に同心
状に設けられた溝12と,径方向に設けられた数カ所の切り欠き13と,かつツバ
の反対面11に隣接して軸受取付部の外径より大である凸部14とを設けて成るこ
とを特徴とする軸受。
(イ)図面の簡単な説明/第2-a図,第2-b図は本考案によるツバの反対面
11に同心状に溝12を,径方向に数カ所の切り欠き13を,かつツバの反対面1
1に隣接して凸部14を持つ軸受を示す断面図及び側面図。
キ甲8(実願昭57-98165号(実開昭59-4819号)のマイクロフ
ィルム)
(ア)本考案の目的は回転軸をスラスト,法線方向に移動しないよう確実に保持
し,且つ軸受自身もスラスト,法線,円周方向にガタつかないこと,内径面の潤滑
性が良く片当りがないこと及び軸曲率に近い中心スペースを有すること等の軸受の
性能を損なうことのない軸受を得るにある。(3頁16行目~4頁1行目)
(イ)本考案に於いては第6図(a),⒝に示すように回転軸用筒状軸受本体1の軸
方向の一端部に均一肉厚のフランジ3を一体に形成し,フランジ3を除く筒状軸受
本体1部分に円筒形スペース2の軸に平行に伸びる水平の切り込み溝4を2ヶ所以
上,円周方向に均等に配分して形成し,上記筒状軸受本体1の外周には上記フラン
ジ3と反対側に前記溝4の位置に対応して軸方向に延びる断面山形の爪5を設ける。
本考案軸受けは…板厚ℓ~Tの板6に筒状軸受本体1の外周の直径に等しい直径φ
dの取付基準穴7を加工して設け…フランジ面いつぱいまで差し込み取り付ける。
(4頁11行目~5頁6行目)
ク甲9(実願昭59-169176号(実開昭61-86135号)のマイク
ロフィルム)
容器基台20の中央には円形上の開口部26を有しており,この円形上の開口部
26には耐熱性で可撓性の円筒状の軸受保持部材28が嵌着されている。この軸受
保持部材28は第2図に示すように,側壁にスリット30を有し下端外周に突起3
2を有しており,軸受保持部材28の上部にはフランジ34を有している。この軸
受保持部材28は側壁にスリット30を形成しているので,突起32を形成した側
壁下端部が内側に弾力的に変形することができる。従って,この軸受保持部材28
を容器基台20の開口部26の上方から押し込めばフランジ34が開口部26の上
縁に当接し,突起32が開口部26の下縁に掛止されて開口部26内に嵌合固定さ
れる。フランジ34と容器基台20との間にはパッキング36を配してシールする。
この軸受保持部材28を容器基台20の中央開口部26に嵌合した後,カッター
軸38を軸受保持部材28内に挿入し,オイルシール40ところがり軸受であるオ
イルレスベアリング42とを圧入する。(明細書4頁5行目~5頁3行目)
ケ甲10(実願昭59-200825号(実開昭61-112120号)のマ
イクロフィルム)
フレーム1にモールドベアリング4が矢印Bの方向に挿入される。モールドベア
リング4の嵌合部分には5で示す爪が設けられており,モールドベアリング4が挿
入される時,フレーム1の穴の縁で押されてモールドベアリング4の本体内に引っ
込められるが,モールドベアリング4がフレーム1に押し付けられた時点で,爪5
のバネ性により飛び出す。
従ってモールドベアリング4を組立てる場合,モールドベアリング4をフレーム
1に十分に押し込むのみで良い。(4頁8行目~18行目)
コ甲11(特開昭61-244923号公報)
第1図,第2図は本発明の一実施例の斜視図と,これをフレームに固定した時の
断面図…を示す。図において1は軸受本体,2は軸の貫通孔,3はフレームに固定
するため軸受本体1の外周に設けられたフック部,4は該フック部3と軸の貫通孔
2との間に設けられたロッカー5を挿入するための間隙である。
このような軸受をフレーム6に固定するには,フレーム6の取付穴に本軸受フッ
ク部3の方向から挿入すれば,フック部3の傾斜部7と間隙4のためフック部3は
たわみ簡単にフレーム6の穴に挿入でき,その後間隙4に第4図に示すロッカー5
を挿入すれば軸受は固定される。(1頁右下欄13行目~2頁左上欄6行目)
サ甲12(実願昭60-81762号(実開昭61-194823号)のマイ
クロフィルム)
第1図において,軸受⑴は合成樹脂からなり,内部に挿通部⑶を有する本体⑵の
一端部に鍔部⑷を設け,この鍔部⑷の一部に本体⑵の側方に位置する一対の係止片
⑸を設けたものである。
係止片⑸の先端には係止部⑹が設けてあり,鍔部⑷と係止部⑹との対向する面の
間隔は,この軸受⑴を取り付ける側板の板厚と同一としてある。
一方,前記軸受⑴を取り付ける側板⑺には,第2図に示すように,軸受⑴の本体
⑵と同形の孔⑻と,該孔⑻の一部を切り欠き,係止片⑸が嵌合可能な一対の係合部
⑼とが形成してある。(明細書5頁9行目~6頁2行目)
シ甲13(実公昭62-34013号公報)
(ア)9は本考案に係る支持部材で,円板状の基板10を有している。該基板1
0は該側板2の内面に位置するとともに中央部に軸6を挿通する貫通孔11が穿設
されている。該基板10の一側面の該貫通孔11の周縁部には環状壁12が設けら
れ,該環状壁12の上面には弾性嵌着部13が互いに適宜間隔をおいて突設されて
いる。14は該弾性嵌着部13の先端外面に形成されたテーパ部である。15は嵌
着溝で,該テーパ部14の基端面と該基板10の一側面とによって該弾性嵌着部1
3の外面に形成されている。(1頁2欄12行目~22行目)
(イ)次いで,弾性嵌着部13を軸孔3に押し込めば,第5図に示したごとく,
テーパ部14が軸孔3面と接触して弾性装着部13は内方に押圧されて変位するが,
軸6の端部に幅広環状溝20を設けて軸6の外周面の高さを下げるとともにテーパ
部14の高さは最大変位においても軸6の外周面と衝突しないように形成されてい
るため,弾性嵌着部13は軸孔3内を通過してテーパ部14は側板2の外面に達す
る。そうすると,テーパ部14は弾性によって外方に戻り変位して元の形状となる
が,この状態では,第6図に示したごとく,嵌着溝15は側板2の軸孔3に面する
縁部2aに嵌着する。(2頁3欄9行目~21行目)
ス甲14(実公平2-38101号公報)
軸受体42の外側にはフランジ66が一体的に形成されており,軸受体42を板
状支持部材46に装着する際のストツパーとなっている。また,胴部68には,板
状支持部材46への軸受体42の装着および胴部68への環体44の装着が容易に
行えるように,軸方向に複数個の割り溝72が設けられていて,胴部68を複数の
分割片74に分けている。この軸受体42の胴部68には,外周面に周方向の溝を
刻設した環体44が嵌着されており,前記分割片74の一部には端部に突起部70
が設けられている。この突起部70は,嵌着した環体44が胴部68より脱落する
ことを防止し,しかもその軸方向の位置決めを行うためのものである。…
胴部68へ環体44を嵌挿した状態においては,フランジ66および環体44に
よつて板状支持部材46を挟み,軸受装置全体の軸線方向の位置決めがなされてい
る。(2頁4欄23行目~42行目)
セ甲15(特公平6-43842号公報)
(ア)ここに示す保持具11は適度の弾性と剛性を有した熱可塑性の合成樹脂,
例えばナイロン樹脂を素材に成形されるもので,板状の鍔12と,この鍔の下面か
ら垂設される脚13からなる。(2頁4欄21行目~24行目)
(イ)図中18は上記形成された脚13の周面に突設し鍔12の下面に対向する
ように設けた係止爪である。
係止爪18はここでは脚の周面を門形に切取ることによって脚端側に基端をおい
た揺動可能な片として設けてあり,その自由端は周面から外方に突き出すようにす
ると共に鍔12の下面に対向させてある。(2頁4欄43行目~48行目)
(ウ)本発明保持具は上述のごとく構成されるもので,使用に当ってはパネルB
に脚13を通せる孔bを開設し,更に図示の実施例ではこの孔bに隣接して係止脚
15のための小孔b’を開設しておく。
保持具は上記孔bに装着する前にロッドAの装着部aを前述した如く切割17を
通して押開きながら挿通孔16に嵌付け,組付けておき,次にこのロッドの端部を
パネルの孔aに通し,併せて脚13を孔に挿通して装着することになる。
このとき,脚13は脚端側から押込むと,周面に設けた係止爪18が内方に撓み
ながら潜入し,鍔12の下面がパネルAの一面に当接するのと合せてパネルの裏側
で復元拡張し自由端を縁に係合させ装着される。(3頁5欄10行目~22行目)
ソ甲16(特開平8-109930号公報)
(ア)図3および図4に示すように,ベアリング18は,装着孔20に嵌合され
る挿着部23と,回転軸10または16が挿入される挿入孔24とを備えている。
(【0012】)
(イ)装着部23の一端には,上下に二つの係合部28が突出すように形成され
ている。係合部28の両脇には切欠29が形成されており,これにより係合部28
は半径方向に力が与えられると撓むようになっている。(【0014】)
係合部28の外周には,装着部23の軸線に対して傾いた斜面30が設けられて
いる。…さらに,装着部23の係合部28とは反対側には,フランジ33および小
径部34が連なるようにして形成されている。装着部23の長さ,すなわちフラン
ジ33と係合部32との間隔eは,ハウジング8の側板19の肉厚fよりも僅かに
大きくなされており,これによってフランジ33と係合部32との間に,側板19
が収まるようになっている。(【0015】)
(ウ)まず,回転軸10をベアリング18の挿入孔24に挿入する。次に,装着
部23と反対側の係合部28の斜面30の端部31を,側板19に形成された装着
孔20に挿入する。そして,係合部28の斜面30を装着孔20に対して滑らせな
がら,ベアリング18全体を装着孔20の内部に向けて推し進める。この場合,装
着部23と反対側の係合部28の斜面30の端部31同士の間隔cが,装着孔内径
aよりも小さいので,これらの端部31を装着孔20に容易に挿入することができ
る。(【0020】)
また,装着部23側の係合部28の斜面30の端部32同士の間隔dは,装着孔
内径aよりも大きいが,係合部28は可撓性を有するので,ベアリング18を装着
孔20に向けて推し進める間,係合部28が撓んで,装着部23側の斜面30が装
着孔20を通過することができるようになっている。これによって,係合部28が
装着孔20を通過した後は,ベアリング18が装着孔20から離れる方向への移動
が係合部28により規制されて,ベアリング18が側板19に固定されるとともに,
回転軸10または18が側板19に装着されることになる。(【0021】)
タ甲17(特開平8-135654号公報)
(ア)図1ないし図4において符号(A)は本発明に係る軸受けを示すものであ
って,中心に軸挿入孔⑵を有するフランジ板⑴と,仮想円周面に沿って配置され且
つ前記フランジ板⑴の軸挿入孔内縁から一体的に突出された3本の軸受け片⑶,⑶,
(3a)と,該軸受け片の外側で仮想円周面に沿って配置され且つ前記フランジ板
⑴から軸受け片と同方向に突出された3本の爪片⑷…とからなる。(【0007】)
(イ)前記爪片⑷…の先端外面には傾斜面を先端に向けた指向性のある係合突起
(4a)が設けられている。この爪片⑷…も適度な弾性が付与されている。(【0
009】)
上記の如く構成された軸受け(A)を使用するにあたって,図3並びに図4に示
すように先ずベース⑸のボス⑹に,軸受け(A)の爪片⑷…を挿通することができ
る孔⑺を設けておく。この孔⑺の内径は前記爪片⑷…の外面を結ぶ円形の直径と略
等しく形成する。またボス⑹の巾は爪片⑷の基端部から突起(4a)の係合段部
(4b)までの長さと等しく形成しておく。(【0010】)
而して前記孔⑺に水平軸(B)を挿通したあと,水平軸(B)と孔⑺との隙間に
爪片⑷…並びに軸受け片⑶,⑶,(3a)を嵌入して軸受け(A)を取り付ける。
…このようにして装着された軸受け(A)は爪片⑷の係合突起(4a)が⑺の開口
縁に係合して孔から抜け出ることが阻止されると共に,…軸受け(A)と水平軸
(B)とのクリアランスを…常にゼロに保持することができて移動の際の微妙なガ
タツキをなくすることができると共に,軸受け片の水平軸(B)…の相対的な移動
が阻害されずベース⑸をスムースに移動させることができるものである。(【00
11】)
チ甲18(特開2011-137511号公報)
(ア)上述した構成中,図1と共に,図2で示す…ようにブシュの受け穴7をブ
ラケットプレート4a,4bの板面に設け,第1の実施の形態に係る樹脂製のブシ
ュ10a,10bを受け穴7の穴内に嵌込み装着することにより,樹脂製のブシュ
による支持軸1の軸受け構造が組み立てられている。(【0027】)
第1の実施の形態に係る樹脂製のブッシュ10a,10b…は,図3a,図3b
で示すように受け穴7…の穴内に嵌り合う円筒胴11と,円筒胴11の片端部に位
置する張出し鍔12と,円筒胴11の他端部に位置する掛止め縁13と,張出し鍔
12から円筒胴11,掛止め縁13の中央に至る円形の通し穴14とを備えて形成
されている。このうち,張出し鍔部12は円板状に,掛止め縁13は断面略直角三
角形を呈するよう形成されている。(【0028】)
(イ)ブシュ10aは,図5,図6で示すように円筒胴11を受け穴7の穴内に
嵌め合わせ,張出し鍔12を受け穴7の片穴縁回りでブラケットプレート4aの板
面にあてがい,掛止め縁13を受け穴7の他穴縁回りでブラケットプレート4aの
板面に係止し,支持軸1を通し穴14に挿通することにより,受け穴7より抜け外
れないようブラケットプレート4aに組み付けられる。(【0032】)
ツ甲19の1(欧州特許出願公開第0674894号。1995年10月4日
公開)
(ア)鞘がその外装面に周囲を巡る隆起を,それに対応して,マッサージローラ
がその内装面に周囲を巡る凹部を備えるとき,マッサージローラの鞘上での軸方向
保持は非常に簡単にスナップ結合によって行われる。この実施形態は摩滅した際,
または清掃のために,マッサージローラを容易に交換することを可能とする。(第
2欄29行目~37行目)
(イ)図1で全体として示されるマッサージ器はグリップ1に共軸に軸2を有し,
それに回動可能に鞘3が軸支される。この鞘3上に中空筒によって形成されたマッ
サージローラ4が着座する。(第2欄51行目~55行目)
(ウ)図2の…直径拡大部7に向き合う端部の近くの,マッサージローラ4の内
装面に周囲を巡る凹部8がある。(第3欄8行目~17行目)
(エ)図4には,マッサージローラ4を押し開けると凹部8に達する周囲を巡る
隆起10が示される。(第3欄27行目~30行目)
テ甲20の1(米国特許出願公開第2010/191161号)
(ア)図17を参照すると,本発明の第2の好ましい実施形態によるエクササイ
ズ器具のロッドモジュール100が実質的に円筒形の形状である。(【0116】)
(イ)本発明の第2の好ましい実施形態による多機能エクササイズ器具の中間
の球状のボールモジュール140が,図21及び図22に示されている。(【01
33】)
モジュール140は,モジュール140の中心を通るようにモジュール140を
貫通する円形開口141を含む。加えて,モジュール140は,開口141に対し
て垂直であり,開口141に交差するまでモジュール140内のみに延びる円形開
口142を含む。(【0135】)
(ウ)図29は,モジュール100,120,130,140のうちの2つを任
意の組み合わせで一緒に固定するために使用することができるプラグ200を示し
ている。プラグ200は,プラスチックから製造され,2つの円筒部分202間に
位置付けられる円形のフランジ201を含む。それぞれのより幅狭の円筒部分20
3が,円筒部分202のそれぞれから延びる。より幅狭の部分203のそれぞれは,
1対の直径方向に対向する弾性的なラッチアーム204を含む。各ラッチアーム2
04は,アーム204の端に位置付けられ,プラグ200から外方に延びる突起2
05を含む。円形開口206が,プラグ200の一端からプラグ200の他端まで
延びる。(【0151】)
2つのモジュール100,120,130,140を,プラグ200の各端を各
モジュールのそれぞれの開口に挿入することによって,プラグ200と一緒に着脱
可能に固定することができる。(【0152】)
プラグ200が開口に挿入されると,開口のより幅狭の部分が各ラッチアーム2
04の突起205に対して押圧されることで,弾性的なラッチアーム204が互い
に向かって移動する。プラグ200が開口に完全に挿入されると,突起205は,
ラッチアーム204がそれらの元の位置に跳ねてラッチ凹部と噛み合うように開口
のラッチ凹部によって受け入れられる。ラッチアーム204及びラッチ凹部はした
がって,プラグ200がモジュールの開口から意図せず引き出されることを阻止す
ることが可能である。(【0153】)
ラッチアーム204及びラッチ凹部は,プラグ200が開口から意図せず引き出
されることを阻止することが可能であるが,プラグ200は,それにもかかわらず,
ラッチアーム204及びラッチ凹部が互いに噛み合う場合であっても開口に対して
依然として回転することが可能である。(【0155】)
(エ)図33を参照すると,本発明の第2の好ましい実施形態による多機能エク
ササイズ器具のロックピン240が,細長い円筒シャフト241を含む。シャフト
241は,第1の部分242,第2の部分243及び第3の部分244を含む。
(【0165】)
ロックピン240のシャフト241の第1の部分242の直径は,モジュール1
00,120,130,140及びプラグ154,200,210,220及び2
30を通って延びる開口の直径よりも僅かに小さいため,シャフト241は,それ
らの開口を通して挿入されることが可能である。(【0166】)
ロックピン240のシャフト241が,モジュール100,120,130,1
40のうちの1つの開口にそれ自体が挿入されたプラグ154,200,210,
220又は230に挿入されると,シャフト241は,プラグのラッチアームがモ
ジュールの開口のラッチ凹部と離脱することを防止することが可能である。ロック
ピン240は,ラッチアームがラッチ凹部と離脱することを防止することによって,
プラグが開口から意図せず取り外されることを防止するか又は少なくとも更に阻止
することが可能である。ロックピンはしたがって,プラグがモジュールの開口から
意図せず引き出されることにつながり得るラッチ凹部からのラッチアームの意図し
ない離脱のリスクを高める可能性がある比較的高い捩り荷重に器具が晒される使用
に特に好適である。(【0168】)
図34は,ロックピン240のシャフト241が,開口141の一端を通して中
間のボールモジュール140に,及び,モジュール140に対して固定されるよう
にそれ自体が開口141の他端に挿入されているプラグ200の開口206に挿入
されているときのロックピン240を示している。(【0169】)
開口141によって受け入れられるプラグ200のラッチアーム204の突起2
05は,開口141内に位置付けられるラッチ凹部250によってそれぞれ受け入
れられるため,プラグ200はそれによって,開口141から引き出されることが
阻止される。ロックピン240のシャフト241は,ラッチアーム204が互いに
向かって押されて突起205をラッチ凹部250から取り外すことを防止する。ラ
ッチアーム204は,ロックピン240がプラグ200から取り外されると,上述
したように専ら移動することができる。(【0170】)
⑷相違点3の容易想到性について
ア前記認定に係る各文献の記載によれば,まず,甲9の軸受保持部材28は,
鍔部及び係止爪と類似する構成であるフランジ34と突起32とを有するものの,
当該軸受保持部材28は,回転するカッター軸38を回転自在に支持するものでは
なく,オイルシール40と,ころがり軸受であるオイルレスベアリング42とを支
持するものであり,軸受け部材に相当するものではない。
他方,甲5~8,10~16及び18は,いずれも,軸受け部材に関する技術が
記載されたものと認められるところ,弾性変形可能な係止爪が外周に突出し,基端
側に鍔部を有し,また,係止爪は先端側に向かうほど当該軸受け部材における軸の
回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸受け部材を,固定された板状体に
対して装着し,当該板状体に設けられた穴に軸を回転自在に支承するものである点
で共通するものの,固定された板状体以外の部材に装着することについての記載や
示唆はない。
また,甲17においては,軸受Aが装着されるボス⑹自体は板状体ではないもの
の,ボス⑹は板状のベース⑸に固定されたものであり,軸受Aのフランジ板⑴と爪
片⑷の係合突起(4a)との間にのみボス⑹が配置されるものである。そうすると,
甲17と甲5~8,10~16及び18とは,直接に装着する対象そのものが板状
体であるか否かという点で違いはあるものの,いずれも装着される部材は板状体又
は板状のものに固定された部材であり,これをフランジと爪片との間で狭持するよ
うにして固定する軸受け部材である点で共通するといえる。
以上を踏まえると,甲5~8及び10~18により,「固定された板状体の穴に
軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材において,弾性変形可能な
係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向
かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸
受け部材。」を周知技術として認定することができる。これは,本件審決認定に係
る周知軸受け部材に相当する。なお,甲5~18の全ての文献から,軸受け部材に
関する周知技術というべき共通の技術事項を認めることはできない。
イまた,その余の文献の記載を見ても,まず,甲2~4は,いずれもY字形を
なし,二股に分かれた部分の先端付近に一対の回転体を設けて構成される美容器に
おいて,回転体が非貫通状態で軸に支持されることを開示するものの,当該回転体
の支持構造として,本件発明1のような「係止爪」及び「段差部」を用いるもので
はない。
次に,甲19の1のマッサージローラーは,その内装面に周囲を巡る凹部を備え,
「段差部」に類似する構成を有するものといい得るものの,マッサージローラー自
体が弾性材料より構成されることにより,鞘の外装面の周囲を巡る隆起との間でス
ナップ結合をすることができるようにしたものである点で,本件発明1とは異なる。
他方,甲20の1のプラグ200は,フランジ201及びラッチアーム204に
突起205を有する点で,本件発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものと
いい得るものの,プラグ200は,2つのモジュールを固定するものであって,支
持軸に設けられる軸受け部材として機能するものではない。加えて,プラグ200
は,モジュール140の貫通した孔からロックピン240を挿入することにより,
プラグ200のラッチアーム204がモジュールの開口のラッチ凹部から離脱する
のを防止するものであるから,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを
前提としないことは明らかである。
そうすると,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に,
回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係
合爪を用いる構成が開示されていることを認めるに足りる証拠はない。
ウそもそも引用発明1は,ベアリング12及びL型ベアリング13という2つ
の軸受け部材を用いることによって,ローラー4を回転自在に支承するものである
ところ,これを1つの軸受け部材に置き換えることが可能であることを記載ないし
示唆する証拠は見当たらない。
また,仮に引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受け
部材に置き換えることが可能であったとしても,引用発明1のローラー4は,顔面
に接触させて回転させるものであり,その長手方向と直交する方向に荷重がかかる
ことは明らかであるところ,1つの軸受け部材に置き換えてしまうと,ローラーを
その根元の部分でのみ支承することとなってしまい,ローラーを安定して回転させ
ることが困難となることは容易に推察される。
そうすると,引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受
け部材に置き換える動機付けはなく,むしろ阻害要因が存するといえる。
エ以上より,引用発明1に甲2~20の1記載の事項を適用することによって,
相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し
得ることとはいえない。
オ原告の主張について
(ア)原告は,甲5~18記載の事項を引用発明1に適用することが容易である
ことを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これらの文献から共通
して抽出される構成が周知の軸受け部材であるとし,これを引用発明1に適用する
ことが容易であったと主張しているにもかかわらず,本件審決は,各文献記載の事
項を個別に判断しており,その判断手法に誤りがあるなどと主張する。
しかし,甲5~18の全ての文献から軸受け部材に関する周知技術というべき共
通の技術事項を見出すことはできないことは,前記のとおりである。本件審決は,
その記載を通じて見れば,そのような理解を前提とした上で,個々の証拠における
軸受け部材を引用発明1に適用できるかを検討したものと理解されるのであり,そ
の判断手法に違法があるものとはいえない。
(イ)原告は,本件審決による周知軸受け部材の認定には誤りがある旨主張する
けれども,この点に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記のとおりである。
(ウ)原告は,本件審決につき,実施可能要件適合性の判断においては甲5~1
8の記載を参酌し,板状体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾
性変形させる場合に所定のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する
一方で,進歩性の判断においては,甲5~18の周知技術の認定として,これが技
術常識でないことを前提として判断しており,その認定・判断に矛盾があるなどと
主張する。
この点に関する原告の主張の趣旨は,やや判然としないが,そもそも,本件審決
は,実施可能要件適合性の判断の際,「係止爪を弾性変形させるために所定のクリ
アランスを設けること」を技術常識として認定するにあたり,甲5~18を参酌し
たものではない。また,上記技術常識が認められるか否かと,甲5~18の記載か
ら原告主張に係る周知軸受け部材を認定し得るか否かとは,直接的な関係はない。
すなわち,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである
軸受け部材において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部
を有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心と
の距離が短くなる斜面を有している軸受け部材」(本件審決認定に係る周知軸受け
部材)において,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する」ことは,係
止爪が弾性変形するためのクリアランスを設けることを前提とするか否かとは直接
的な関係がないことから,仮に係止爪が弾性変形するためのクリアランスを有する
ことが技術常識であることを前提としても,その認定が異なることはない。
(エ)その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は
採用できない。
⑸小括
以上のとおり,少なくとも,引用発明1に甲2~20の1記載の事項を適用する
ことによって,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとっ
て容易に想到し得たものとはいえない。そうである以上,その余の点を論ずるまで
もなく,本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。
したがって,取消事由3は理由がない。
5取消事由4(本件発明2に係る進歩性の判断の誤り)について
本件発明2は,本件発明1の発明特定事項の全てを含み,軸受け部材の材質を合
成樹脂製のものと限定するものであるところ,本件発明1に係る特許を容易に発明
することができたといえない以上,本件発明2に係る特許についても,容易に発明
できたとはいえない。
したがって,取消事由4は理由がない。
6結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官高部眞規子
裁判官杉浦正樹
裁判官片瀬亮
(別紙)
図面目録
1本件明細書の図面
図8
図4
2引用例1の図面
3甲2の図面
図1
図6
図3
図2
4甲3の図面
5甲4の図面
図3
6甲5~18の図面
①甲5②甲6
[図1][図2][第1図][第2図]
③甲7④甲8
⑤甲9
[第1図][第2図]
⑥甲10⑦甲11
⑧甲12
⑨甲13⑩甲14
⑪甲15⑫甲16
[第1図][図3]
⑬甲17⑭甲18
[図5]
7甲19の1の図面
図1
図2
図4
8甲20の1の図面
図21
図17
図29
図33
図34図35

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛