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平成17年(行ケ)第10206号 審決取消請求事件
平成17年8月3日 口頭弁論終結
            判       決
            (旧商号 ルーカス・インダストリーズ・パブリック・リミテッド・カンパニー)
原      告ルーカス・インダストリーズ・リミテッド
   訴訟代理人弁理士    奥山尚一
    同       有原幸一
同         松島鉄男
同河村英文
    被      告    特許庁長官 中嶋誠
    指定代理人       村本佳史
    同           前田幸雄
同           高木進
同           岡田孝博
同           亀丸広司
同           宮下正之
          主       文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
   3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が不服2003-7778号事件について平成16年3月23日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文第1,2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,発明の名称を「固着リング,固着リングを組付けるための装置及び
その方法」とする発明につき,平成7年10月17日国際出願をした(平成8年特
許願第513627号。優先権主張国ドイツ,優先日1994年10月24日)。
  原告は,上記特許出願につき,平成9年1月10日付け,同月14日付け手
続補正書による補正(甲2)及び同14年2月7日付け誤訳訂正書による訂正(甲
3)をしたが,平成15年1月29日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月6
日,これに対する不服の審判を請求するとともに,同日付けで手続補正をした(以
下,この補正を「本件補正」という。本件補正前の請求項の数は30,本件補正後
の請求項の数は16である。)。
  特許庁は,これを不服2003-7778号事件として審理した結果,平成
16年3月23日,本件補正につき補正却下の決定をするとともに,「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日を付加),その謄
本は,同年4月2日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲(請求項1)
(1)本件補正前のもの
「【請求項1】静止状態のときに円形の形状であり,内周面および外周面を
有する固着リングにおいて,
  互いに離間した一対のリング端(11,12)と,
   一定の半径及び横断面を有する少なくとも150度にわたる領域(B)
と,
   各リング端(11,12)の付近で内周面側に開口している凹部(13,
14)とを有する,固着リング。」(以下,この発明を「本願発明」という。)
(2)本件補正後のもの
「【請求項1】内周面および外周面を有する固着リングにおいて,
  互いに離間した一対のリング端(11,12)と,
  一定の横断面を有する少なくとも周面の150度にわたる領域(B)と,
  各リング端(11,12)の領域で内周面側に開口している凹部(13,
14)とを有し, 前記一対のリング端(11,12)を互いに近づけて引き締め
ると固着リングの直径が小さくなり,引き締め解除した静止状態でも円形状を実質
的に維持する固着リング。」(下線部は,本件補正による補正箇所を示す。以下,
この発明を「補正発明」という。)
3 審決の理由
(1)別紙審決書の写しのとおり(ただし,審決書において「曲率半径」とある
のは,「曲率」の誤記である。この点は,当事者間に争いがない。)。
  審決の理由は,要するに,補正発明は,優先日より前に頒布された刊行物
である米国特許第3469494号明細書(甲4の1。訳文が甲4の2。以下「刊
行物」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受
けることができないものであるから,本件補正は却下されるべきものであり,本願
発明もまた,刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とい
うものである。
(2)審決が,本件補正が却下されるべきものであるとの結論を導く過程におい
て,補正発明と刊行物記載の発明との一致点及び相違点として認定したところは,
次のとおりである。
   【一致点】
「内周面および外周面を有する固着リングにおいて,互いに離間した一対の
リング端と,一定の横断面を有する少なくとも周面の150度にわたる領域と,各
リング端の領域で内周面側に開口している凹部とを有し,前記一対のリング端を互
いに近づけて引き締めると固着リングの直径が小さくなり,引き締めを解除した静
止状態でも端部を除く部分(中間部)は円形状を実質的に維持する固着リング。」
である点で一致する。
【相違点】
 補正発明では,固着リングは引き締めを解除した静止状態でも固着リング
(全体)として円形状を実質的に維持するものであるのに対して,刊行物記載の発
明では,内部保持リング10の端部22,24の曲率は,中間部18の曲率よりも
大きなものとされており,内部保持リング10の引き締めを解除した静止状態で
は,中間部18はハウジング穴に沿った状態で円形状を実質的に維持するものの,
端部22,24は中間部18より大きな曲率を有するため,端部22,24の先端
部に向かって端部22,24の外表面とハウジング穴との間に隙間が広がる状態に
維持されるものであって,必ずしも円形状を維持するものとまではいえない点で,
相違する。
第3 原告主張の取消事由の要点
   審決は,補正発明と刊行物記載の発明との相違点についての判断を誤った結
果,本件補正を不適法として却下したものであり,この誤りが審決の結論に影響す
ることは明らかであるから,違法として取り消されるべきである(本願発明につい
ての判断は,争わない。)。
(1)審決が刊行物記載の発明について,「端部22,24の曲率を中間部18
の曲率よりどの程度大きくするかは,刊行物1(判決注:本判決における「刊行
物」を指す。以下,審決の引用部分については,同様である。)に記載された発明
の課題を達成することを妨げない範囲において適宜選択することができる事項であ
ることは当業者であれば容易に理解できることである。」(審決書4頁10行~1
3行。なお,審決書に「曲率半径」とあるのが「曲率」の誤記であることは明らか
(当事者間に争いがない。)であるから,審決書に「曲率半径」とあるのは「曲
率」と訂正して引用した。審決書を引用する部分については,以下,同様であ
る。)とした判断は誤りである。
すなわち,従来の保持リングにおいては,円形均一断面タイプの保持リン
グにおいて,離れた両端を一緒に近付けて,座溝内へリングを挿入しようとする
と,楕円状の変形が発生して,ハウジング・ボアに対してリングのアライメントを
ずらした状態にしなければならず,組み立てが困難になったり,変形がリングに対
して害になる大きなストレスをもたらすという欠点が存在した。刊行物記載の発明
は,このような従来の保持リング固有の欠点を克服するために,保持リング10
は,自由状態で非円形状となり,その端部22,24を圧縮したときに円形となる
ようにしたものであるから,当業者は,刊行物から,引き締めを解除した静止状態
において保持リングを円形にすべきではないという補正発明とは逆の教示を受ける
ものである。したがって,当業者が刊行物の記載から,補正発明の目的に想到する
ことはない。
(2)審決が刊行物記載の発明について,「内部保持リング10(固着リング)
は,引き締めを解除した静止状態では,できるだけハウジング穴に沿った状態(実
質的に円形状を維持する状態)に維持されることが好ましいことは,当業者にとっ
て自明の事項といえるものである。」(審決書4頁14行~17行)としたこと
は,誤りである。
すなわち,刊行物記載の発明の目的は,リングの2つの端部を引き寄せた
ときに円形形状をリングに付与することであり,静止状態のときにリングを円形形
状にすることではなく,端部22と24の曲率は,この目的をもって定められるも
ので,端部22と24とボアの間のギャップ(空隙)を小さくするためのものでは
ない。また,刊行物の保持リング10において,曲率が中間部より大きい端部2
2,24は,中間部18による座溝16のベース壁に対する力より弱い力を座溝1
6のベース壁に及ぼすか,あるいは座溝16のベース壁に接触しない部分を有して
いるか,その両方かである。したがって,「内部保持リング10(固着リング)
は,引き締めを解除した静止状態では,できるだけハウジング穴に沿った状態(実
質的に円形状を維持する状態)に維持されることが好ましい」ということは,刊行
物からは全く読み取ることも示唆を受けることもできないし,刊行物はショルダー
部の存在を明らかにしているのであるから,むしろその逆をねらうものである。換
言すれば,刊行物は,補正発明が提供する解決策を否定し,あるいは,その解決策
とは反対の方向性を示しているものである。
(3)審決が補正発明の効果について,刊行物記載の発明から予測することがで
きる程度のものであって,格別のものとはいえない(審決書4頁25行~27行)
とした判断は誤りである。
すなわち,補正発明のように,圧縮力を加えても,加えなくても円形形状
を維持することは,ボアにリングを挿入する際に,圧縮を最小限にでき(円形のボ
アに効率よくフィットするため),リングの形状も比較的に元に戻りやすいという
利点があるが,それについての教示も示唆も刊行物にはない。
 刊行物記載の発明においては,リング10の形状に起因して,上述のよう
にリング10が座溝16のベース壁にその周縁が及ぼす力の分布は不可避的に比較
的不均一にならざるを得ないものであって,このような不均一な力は,組み立てら
れた状態で,リング10にストレスを与え,リング10の機械的強度に影響を与え
る。また,リング10の座溝16のベース壁に接していない部分は,リング10の
固定作用に貢献しないものであって,リングの機能性と信頼性を減殺する。これに
対して補正発明は,引き締め解除した状態でも,引き締めた状態でも,円形状を実
質的に維持するものであって,それにより,引き締めた状態では,ボア12への挿
入あるいは取り外しが容易になり,引き締め量も少なくてすむという利点があり,
また,静止状態で円形状になっているので,固着リングは,ボア12の溝の底の壁
に均一によく当たり,そのため固着リングが支える軸の変位により生じる力の吸収
がよく,機械的な強度と信頼性が高まるものである。
 補正発明の固着リングは,自動車などのブレーキにおいて,ボア(穴)内
にシャフトを固定するために用いるものである。これに対して刊行物に開示された
技術は,条件が厳しいブレーキ分野において利用できるものではない。さらに,刊
行物は,静止状態と引き締め状態の両方において円形の形状を有する固着リングに
到達するためのいかなるヒントも提供しておらず,むしろそのような固着リングの
実現の困難性を指摘しているものである。
第4 被告の反論の要点
 補正発明と刊行物記載の発明との相違点についての審決の判断は正当であ
り,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)刊行物に記載された事項を知り得た当業者であれば,保持リング10の中
間部18と端部22,24とを均一な円形にするべきではないとの教示は受けるも
のの,ほぼ円形状にすることは当業者であれば当然に考慮する設計的事項にすぎな
い。
  (2)刊行物記載の発明における保持リング10は,従来知られている円形リン
グ(すなわち,引き締め解除した静止状態で円形状を実質的に維持するリング)の
2つの端部を引き寄せる際における欠点を解決するためにその形状を改良したもの
であって,2つの端部の引き寄せ解除した静止状態では可能な限り円形リングに近
い形状が好ましいことは,当業者であれば自明の事項といえる。
  (3)刊行物記載の発明における保持リング10も,端部22,24がリングの
挿入のために合わさる方向に力が加えられたとき,リングがほぼ円形に変形するか
ら,実質的に補正発明の「圧縮力を加えても,加えなくても円形形状を維持するこ
とは,ボアにリングを挿入する際に,圧縮を最小限にでき(円形のボアに効率よく
フィットするため),リングの形状も比較的に元に戻りやすいという利点」と同様
の作用効果を奏することは,明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 原告主張の取消事由について
  原告は,補正発明と刊行物記載の発明との相違点についての審決の判断を誤
りであると主張するので,以下,この点につき検討する。
  (1)原告は,審決が刊行物記載の発明について,「内部保持リング10(固着
リング)は,引き締めを解除した静止状態では,できるだけハウジング穴に沿った
状態(実質的に円形状を維持する状態)に維持されることが好ましいことは,当業
者にとって自明の事項といえるものである。」(審決書4頁14行~17行)とし
たことは,誤りであると主張する。
そこで,検討するに,刊行物記載の発明においては,図3~5の記載(甲
4の1。4枚目)から,座溝16の溝底は外径D4の円形であると認められる。そし
て,刊行物には,「リングがリリースされ,座溝に対して配置されたときに,リン
グは,外方に拡張してベース壁および/または座溝のベアリング・レースと密着
し,その外周範囲の広い部分全体にわたって,それらに対して力を与える。」(訳
文(甲4の2)2頁22行~24行),「リリースされたときのリングは座溝16
内で拡張し,半径方向力を溝のベース壁に与えることになる。」(同5頁18行~
20行)との記載があり,これらの記載に照らせば,保持リング10は,座溝16
内に配置される際に,座溝16の底に沿って拡張し,該溝底を押圧すると認められ
る。
この場合において,保持リング10が溝底を押圧する力が均一であること
が好ましいことや,そのために,保持リング10の外周が座溝16の溝底に均一に
接触できる,座溝16の溝底の形状に沿った円形であるのが好ましいことは,技術
常識からして明らかというべきであるが,この点に関しては,刊行物にも,「本発
明はその弧状範囲の大部分にわたって相補的な関係になっている座溝のベース壁に
対してしっかりした圧力嵌めをもつ外周面を有し,他方において,リングが座溝内
に動作可能に配置されたときにこのリングがボア内に実質的に一定した所定距離だ
け半径方向に延びて,これによってリングの弧状範囲の実質上全体に延びる均一な
ショルダー部および/またはベアリング面を提供するように,座溝の横壁と接触
し,均一な円周度を維持するための均一な半径を有する壁面を提供する新規で非自
明な保持リングを意図している。したがって,本発明は,座溝内に動作可能に配備
されたときに,ハウジング・ボアの中心と実質的に一致する真中心を有する保持リ
ングであって,これによって実質上均一な距離をもってボア内に概ねある内側エッ
ジを有する保持リングを意図している。」(訳文(甲4の2)3頁12行~22
行)との記載がある。したがって,審決が刊行物記載の発明について,「内部保持
リング10(固着リング)は,引き締めを解除した静止状態では,できるだけハウ
ジング穴に沿った状態(実質的に円形状を維持する状態)に維持されることが好ま
しいことは,当業者にとって自明の事項といえるものである。」としたことに,誤
りはない。
    上記の点に関して,原告は,刊行物記載の発明の目的は,静止状態のとき
にリングを円形形状にすることではなく,端部22と24の曲率はリングの2つの
端部を引き寄せたときに円形形状をリングに付与する目的を達成するために定めら
れるもので,端部22と24とボアの間のギャップ(空隙)を小さくするために定
められるものではないことなどを挙げて(前記第3(2)),刊行物記載の発明は,補
正発明が提供する解決策を否定し,あるいは,その解決策とは反対の方向性を示し
ていると主張する。
しかしながら,上記のとおり,刊行物には,座溝16の溝底が円形である
ことや,保持リング10が座溝16内に配置される際に,座溝16の底に沿って拡
張し溝底を押圧することが記載されていることに加えて,刊行物記載の発明におい
ても,座溝内に動作可能に配備されたときに,ハウジング・ボアの中心と実質的に
一致する真中心を有する保持リングであって,これによって実質上均一な距離をも
ってボア内に概ねある内側エッジを有する保持リングを意図していることが,明瞭
に記載されているのであるから,原告の指摘する点は,刊行物記載の発明におい
て,座溝16内で拡張した保持リング10の外周の形状は,座溝16の溝底の形状
に沿った円形であるのが好ましいという上記理解を,否定するものではない。
したがって,審決の上記認定に誤りはない。
  (2)上記(1)において説示したとおり,座溝16内で拡張した保持リング10の
外周の形状は,座溝16の溝底の形状に沿った円形であるのが好ましいことが当業
者にとって自明であることに照らせば,刊行物記載の保持リング10において,こ
の好ましい構成の採用を着想することに,格別の困難性は見いだせない。
 そうすると,刊行物の図3~5の記載(甲4の1。4枚目)からして,
「引き締めを解除した状態においては,内部保持リング10の中間部18の外周面
はハウジング穴(判決注:「座溝16」をいうものと認められる。)の形状に沿っ
た円形状に維持されている」(審決書3頁17行~19行)ことが明らかであるか
ら,座溝16内で拡張した保持リング10の外周の形状を座溝16の形状に沿った
円形状とするために,端部22,24を,中間部18同様に,座溝16の溝底の形
状に沿った円形として,相違点に係る「固着リングは引き締めを解除した静止状態
でも固着リング(全体)として円形状を実質的に維持するもの」(審決書3頁29
行~30行)とすること,すなわち,「端部22,24の曲率を中間部18の曲率
に近似したものとして,引き締めを解除した静止状態において端部22,24とハ
ウジング穴との間で形成される隙間をできるだけ小さくすること」(審決書4頁2
0行~22行)は,刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るもので
ある。そして,この場合において,「端部22,24の曲率を中間部18の曲率よ
りどの程度大きくするかは,刊行物1に記載された発明の課題を達成することを妨
げない範囲において適宜選択することができる事項であること」(審決書4頁10
行~12行)は,当業者にとって容易に理解できることというべきである。
この点に関して,原告は,刊行物からは,引き締めを解除した静止状態に
おいて保持リングを円形にすべきではないという補正発明とは逆の教示を受けると
して(前記第3(1)),当業者が,刊行物の記載から,補正発明の目的に想到するこ
とはないと主張する。
しかしながら,刊行物には,上記(1)において指摘したとおり,刊行物記載
の発明においても,座溝内に動作可能に配備されたときに,ハウジング・ボアの中
心と実質的に一致する真中心を有する保持リングであって,これによって実質上均
一な距離をもってボア内に概ねある内側エッジを有する保持リングを意図している
ことが,明瞭に記載されている(訳文(甲4の2)3頁12行~22行)ことに加
えて,「本発明のリング形状を利用することにより,従来の円形で均一な断面のリ
ングと従来のテーパー付きリングの両方の利点が取り入れられることになる。」
(同5頁25行~26行)と記載され,また,「本発明の好ましい実施形態につき
これまでに説明し図示してきたが,ある一定の修正例,変形例および改造も開示構
造内で製造でき,また添付請求項の範囲内に入るこの種の修正例,変形例,改造例
および構造全てを含むことを意図している。」(同7頁1行~4行)と記載されて
いるのであるから,刊行物記載の発明に接した当業者にとって,保持リング10
を,引き締めを解除した静止状態で,端部22,24を座溝16の溝底の形状に沿
った円形にすることは,容易に想到し得ることは,明らかというべきである。
また,そもそも,補正発明は,請求項1において,「前記一対のリング端
(11,12)を互いに近づけて引き締めると固着リングの直径が小さくなり,引
き締め解除した静止状態でも円形状を実質的に維持する」と規定するにすぎず,補
正発明に係る固着リングが,引き締めを解除した状態で完全な円形であることや,
完全な円形からどの程度までの変形が許容されるかは規定していないものであり,
補正発明に係る明細書(甲3,5)及び図面(甲2)を子細に検討しても,この点
について具体的な構造を開示し,あるいは示唆するような記載は存在しない。して
みると,刊行物記載の発明において,端部22,24を座溝16の溝底の形状に沿
った円形にするために,端部22,24の曲率を操作するに当たり,原告主張の従
来の欠点を克服できる範囲内で中間部18の曲率に近付けて,端部22,24とハ
ウジング穴との間で形成される隙間を小さくした場合でも,端部22,24の曲率
の定め方により,端部22,24が「引き締め解除した静止状態でも円形状を実質
的に維持する」ものとすることは可能というべきである。したがって,審決が,
「端部22,24の曲率を中間部18の曲率よりどの程度大きくするかは,刊行物
に記載された発明の課題を達成することを妨げない範囲において適宜選択すること
ができる事項であること」は,当業者にとって容易に理解できることとしたこと
(審決書4頁10行~13行)にも,誤りはない。
  (3)原告は,審決が,補正発明の効果について,刊行物記載の発明から予測す
ることができる程度のものであって,格別のものとはいえない(審決書4頁25行
~27行)とした判断についても,誤りであると主張する。
    しかしながら,原告の主張する補正発明の効果(前記第3(3))は,いずれ
も,刊行物記載の発明と補正発明との相違点に係る「固着リングは引き締めを解除
した静止状態でも固着リング(全体)として円形状を実質的に維持する」構成から
当業者が予想し得る範囲の自明な効果にすぎないから,それ自体として相違点につ
いての容易想到性を否定する事情とはなり得ないものであり,当業者が補正発明の
構成を容易に想到し得るものである以上,当該作用効果をもって,補正発明の進歩
性を基礎付けることはできない(なお,そもそも相違点に係る補正発明の「固着リ
ングは引き締めを解除した静止状態でも固着リング(全体)として円形状を実質的
に維持する」構成が,上記(2)において説示したとおり,具体的な構成を開示したも
のではなく,単に,固着リングないし保持リングにおいて一般的に望ましい形状を
記載したものにすぎず,当業者であれば具体的なリングの形状等に応じて容易に想
到できる程度のものにとどまることに照らせば,当該構成による効果も格別なもの
とはいえず,この点からも,原告の主張は理由がないというべきである。)。
    したがって,審決の上記判断に誤りはない。
2 結論
   以上によれば,原告主張の取消事由には理由がなく,その他,審決に,これ
を取り消すべき誤りは見当たらない。
 よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上
告受理の申立てのための付加期間の付与について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟
法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
  知的財産高等裁判所第3部
      裁判長裁判官    佐  藤  久  夫
          裁判官     三  村  量  一
   裁判官    古  閑  裕  二

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