弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         抗告理由
 抗告理由の要旨は、つぎのとおりである。
 (イ) 決定による仮処分命令にたいする異議訴訟において、口頭弁論がいわゆ
る休止となり、その後三月内に期日指定の申請がない場合に、とりさげられたとみ
なされるのは債務者の異議申立であつて、仮処分申請ではない。したがつていわゆ
る休止期間満了の後も決定による仮処分命令は効力を存続すると解すべきである。
 (ロ) かりに、仮処分申請がとりさげられたとみなされるとしても、さきに発
せられた仮処分命令の効力は当然に消滅するものではない。こういう場合には、民
事訴訟法第七五六条第七四七条によつて、仮処分の理由消滅その他事情の変更があ
つたとの理由で債務者から仮処分命令のとりけしを申立て、裁判所が終局判決をも
つて裁判すべきものである。債権者の知らぬ間に決定で仮処分命令の執行をとりけ
すことは不当である。
 (ハ) また原裁判所は、債務者の申立のみによつて原決定をしたが、口頭弁論
を経ずに仮処分命令の執行をとりけし得る法律の規定はどこにもない。
 (ニ) 原決定は、仮処分の執行をとりけすとあつて決定自体のとりけしでない
から、あらためてもういちど仮処分決定を執行することができそうで、はなはだ明
確でない結果を生じる。
         決定の理由
 記録によると本件の経過はつぎのとおりである。
 抗告人(仮処分債権者)は昭和三十二年一月十六日相手方(仮処分債務者)Aを
相手どつて、東京地方裁判所に、建物収去土地あけわたし請求の執行保全のため仮
処分の申請をし(同庁昭和三十二年(ヨ)第一五七号不動産仮処分申請事件)、同
裁判所は同年同月三十一日、つぎのとおりの仮処分決定をした。
 債務者の別紙目録(引用を略する)の建物に対する占有を解いて、債権者の委任
する東京地方裁判所執行吏に、その保管を命ずる。執行吏は、現状を変更しないこ
とを条件として、債務者にその使用を許さなければならない。ただし、この場合に
おいては、執行吏はその保管にかかることを公示するために適当な方法をとるべ
く、債務者はこの占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。
 債務者は右建物の修繕改築工事をしてはならない。
 この決定は同年二月八日仮処分債務者である本件相手方え送達された。
 相手方は同年二月十四日前記仮処分決定にたいして異議を申立て(同庁昭和三十
二年(モ)第一、八一六号)、口頭弁論による審理がすすめられた。ところが昭和
三十二年十一月二十七日午前十時の口頭弁論期日に債務者(本件相手方)Aは、あ
らかじめ適法な期日告知をうけながら出頭せず、債権者(抗告人)代理人は出頭し
たが弁論をしないで退廷した。
 昭和三十三年三月十五日仮処分債務者である相手方は、いわゆる休止期間満了に
よつて抗告人の仮処分申請はとりさげとみなされ、仮処分決定は効力をうしなつた
からとの理由で、仮処分の執行とりけしを申請し、原裁判所は同日前記仮処分決定
の執行をとりけす旨の原決定を発し、この決定は同月十八日抗告人および相手方え
送達された。同月二十日抗告人から本件抗告が出されたという次第である。このよ
うな事情において、抗告人の主張は理由があるかどうかつぎに判断をしめす。
 (抗告理由(イ)について)
 決定による仮処分命令が発せられた場合に、仮処分債務者から異議の申立がある
と、裁判所は口頭弁論を開いて審理したうえ、終局判決によつて仮処分申請の申請
が理由あるものかどうか、仮処分命令を発し得る要件がそろつているかどうかを裁
判しなければならないのである。仮処分決定にたいする異議申立はこういう効果を
もつにすぎない。この口頭弁論はこれによつて異議申立が理由あるものかどうかを
審理するためではない。この点では、仮処分申請について、決定による仮処分命令
を発することなく、すぐに口頭弁論を開いて審理する場合の口頭弁論とちがうとこ
ろはない。すなわち仮処分決定について異議申立があつた場合の第一審では、直接
に裁判所の判断をうけるために裁判所の前にもち出されているものは、仮処分の申
請であつて、債務者の<要旨第一>異議の申立ではない。現行民事訴訟法はかように
解するのが相当である。したがつて、仮処分命令にたいする異議申立が
あつて口頭弁論が開かれ、第一審裁判所に係属中に、民事訴訟法第二三八条に定め
られる状況にたちいたつた場合に、同条を準用するにあたつては、同条の訴にあた
るものは仮処分の申請であると解すべきは当然というべく、本件においては抗告人
の仮処分申請がとりさげられたものとみなすべきである。抗告人の主張は採用でき
ない。
 (抗告理由(ロ)について)
 <要旨第二>仮処分の申請がとりさげられると、仮処分の申請およびこれにもとず
く訴訟手続上の行為は、法律上すべてなかつたことになるのであるか
ら、すでに発せられた仮処分決定も当然にその効力をうしなうのである。前の説明
のとおり、抗告人の仮処分の申請がとりさげられたとみなされる以上、その申請に
もとずく仮処分決定は効力をうしなつたことあきらかで、さらにこれをとりけす必
要はない。抗告人引用の民事訴訟法第七五六条第七四七条は、仮処分命令がなお効
力を有する場合に関する規定であつて、本件の場合に関するものではない。
 抗告人の主張は採用しがたい。
 (抗告理由(ハ)について)
 <要旨第三>本件のような、仮処分決定の効力の当然消滅の場合に、仮処分債務者
の申立によつて仮処分の執行をとりけすことができるという、直接の規
定がないことは抗告人のいうとおりである。けれども、いつぱんに、執行の基本で
ある債務名義がその効力を失つた場合に、その後もなお執行の状態が存続すること
は違法である。執行機関は違法な執行を続けていることに帰着する。したがつて、
とくべつの規定ある場合(たとえば民訴法第五五〇条第五五一条)のほか、執行債
務者は執行裁判所にたいして民事訴訟法第五四四条第一項によつて異議を申立て、
これにたいして執行裁判所が相当の裁判をすべきものである。この裁判は決定をも
つてすべきであるから、口頭弁論を経ずにすることができることもちろんである。
 前段説明のとおり、仮処分申請がとりさげられたとみなされ、したがつて仮処分
決定の効力が当然消滅となつた本件の場合もまたみぎ述べたところによるべきもの
であるところ、相手方が昭和三十三年三月十五日原裁判所えさし出した「仮処分執
行取消申請」と題する書面(記録五三丁)は、前記異議の申立と解せられ、原決定
はこれにたいする裁判とみとめられる。抗告人の主張は理由がない。
 (抗告理由(ニ)について)
 前段説明のとおり、本件仮処分命令はその決定自体が効力を失つているのである
から、二度と執行することができないことは、いうまでもなく、抗告人の主張のよ
うな問題はおこらない。
 こういう次第で、抗告人の主張はすべて採用できず、その他原決定になんら違法
の点はないから、本件抗告は理由のないものとして、主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)

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