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         主    文
原判決を破棄する。
被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人岩渕正紀ほかの上告受理申立て理由第4ないし第8について
 1 本件は,内閣総理大臣が昭和58年5月27日に動力炉・核燃料開発事業団
(以下「動燃」という。)に対してした高速増殖炉「もんじゅ」(以下「本件原子
炉」といい,これとその附属施設を併せて「本件原子炉施設」という。)に係る原
子炉設置許可処分(以下「本件処分」という。)について,被上告人らが,内閣総
理大臣の事務承継者である上告人に対し,その無効確認を求めるものである。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件処分及びその後の経過について
 動燃は,昭和55年12月10日,内閣総理大臣に対し,核原料物質,核燃料物
質及び原子炉の規制に関する法律(昭和61年法律第73号による改正前のもの。
以下「規制法」という。)23条の規定に基づき,福井県敦賀市に本件原子炉を設
置することの許可申請(以下「本件申請」という。)をした。
 内閣総理大臣は,本件申請の規制法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎
に係る部分に限る。)の各要件適合性については原子力委員会に,同項3号(技術
的能力に係る部分に限る。)及び4号の各要件適合性については原子力安全委員会
にそれぞれ諮問し,上記各委員会から上記各要件に適合していると認める旨の答申
を受けた上で,昭和58年5月27日,本件申請が同項各号に適合していると認め
て,これを許可する旨の本件処分をした。
 その後,本件原子炉施設について,規制法27条1項の規定に基づく設計及び工
事の方法の認可がされ,昭和60年10月から建設工事が開始された。本件原子炉
施設は,平成6年4月に初臨界に成功し,同7年8月には初送電を達成した。しか
し,同年12月8日,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律28
条1項の規定に基づく使用前検査の最中に,2次主冷却系のCループの配管に取り
付けられていた温度計のさや管の細管部が破損し,この破損部から配管室内に2次
冷却材ナトリウムが約3時間40分にわたって漏えいする事故(以下「本件ナトリ
ウム漏えい事故」という。)が発生し,漏えいしたナトリウムが空気中の酸素と反
応してナトリウム火災を起こした。以後,上記の使用前検査は中止され,本件原子
炉は運転を停止している。
 なお,動燃は,平成10年10月1日,核燃料サイクル開発機構となった(平成
10年法律第62号附則2条)。
 (2) 本件原子炉施設の安全審査の審査基準について
 ア 本件申請に対する原子力安全委員会及び同委員会に置かれた原子炉安全専門
審査会による原子炉施設の安全性に関する審査(以下「本件安全審査」という。)
において用いられた審査基準に,昭和55年11月6日原子力安全委員会決定「高
速増殖炉の安全性の評価の考え方について」(以下「評価の考え方」という。)が
ある。「評価の考え方」は,液体金属冷却高速増殖炉の特徴を十分踏まえて原子炉
施設の位置,構造及び設備が災害の防止上支障がないものであることを評価する必
要があるとし,その評価に当たっては,研究開発,建設及び運転を通じて蓄積され
つつある多くのデータ,解析手法等の実績について十分考慮するとともに適切な余
裕を見込む必要がある旨を述べ,その評価に当たって適用され,又は参考とすべき
既存の各種安全審査指針との関係を示している。
 これを踏まえて,本件安全審査においては,原子炉施設の基本設計又は基本的設
計方針として,① 原子炉の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危険性が
顕在化しないように,平常運転時における被ばく低減対策が適切に講じられている
こと,② 原子炉施設に事故が発生することにより放射性物質の有する潜在的危険
性が顕在化しないように,自然的立地条件との関係を含めた事故防止対策が適切に
講じられていることが,確認されるべき事項とされていた。
 イ 発電用軽水型原子炉施設を対象とした指針である昭和53年9月29日原子
力委員会決定「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(以下「安
全評価指針」という。)は,原子炉施設の設計の基本方針の妥当性を確認するため
の安全評価として,原子炉施設の「通常運転」の状態を超えた事象,すなわち,「
運転時の異常な過渡変化」(原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予
想される機器の単一故障若しくは誤動作又は運転員の単一誤操作などによって,原
子炉の通常運転を超えるような外乱が原子炉施設に加えられた状態,及びこれらと
類似の頻度で発生し,原子炉施設の運転が計画されていない状態に至る事象)につ
いて評価を行い,次いで,「事故」(「運転時の異常な過渡変化」を超える異常状
態であって,発生頻度は小さいが,発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出
の可能性があり,原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要がある事象)
について評価を行わなければならないとするものである。
 そして,「評価の考え方」は,その別紙「液体金属冷却高速増殖炉(LMFBR)
の安全設計と安全評価について」のⅡにおいて,液体金属冷却高速増殖炉の安全評
価に当たっては,安全評価指針を参考とするとともに,液体金属冷却高速増殖炉の
特徴を踏まえて評価する必要がある旨を述べ,「運転時の異常な過渡変化」及び「
事故」として選定して評価を行うべき代表的事象を掲げ,それぞれについての評価
に関する判断の基準を示している。このうち「事故」についての評価に関しては,
想定した事故事象によって外乱が原子炉施設に加わっても,事象に応じて炉心の溶
融のおそれがないこと及び放射線による敷地周辺への影響が大きくならないよう核
分裂生成物放散に対する障壁の設計が妥当であることを確認しなければならないと
され,このことを確認する基準は,① 炉心は大きな損傷に至ることなく,かつ,
十分な冷却が可能であること,② 原子炉格納容器の漏えい率は,適切な値以下に
維持されること,③ 周辺の公衆に対し,著しい放射線被ばくのリスクを与えない
こと,とされている(「評価の考え方」別紙のⅡの(3.2))。
 (3) 「2次冷却材漏えい事故」に係る安全審査について
 ア 「評価の考え方」別紙のⅡが「事故」として選定して安全評価を行うべきも
のとする事象のうち炉心冷却能力の低下にかかわるものの一例が,2次冷却材漏え
い事故である(同別紙のⅡの(2.2)の②)。
 2次冷却材漏えい事故とは,原子炉出力運転中に何らかの原因で2次主冷却系配
管が破損し2次冷却材ナトリウムが漏えいする事故のことをいう。2次冷却材漏え
い事故については,本件申請において,これが発生した場合に事故の拡大を防止す
るための対策の一つとして,漏えいしたナトリウムとコンクリートとが直接接触す
ることを防止するために,床面に鋼製のライナを設置し,漏えいしたナトリウムを
貯留タンク等へ導き貯留するという設計がされている。
 本件安全審査においては,2次冷却材漏えい事故が発生した場合に備えて,漏え
いしたナトリウムとコンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを
設置するという対策を行うことが本件原子炉施設の基本設計を構成するものとして
審査の対象とされ,そして,床ライナの板厚,形状等の細部は,審査の対象とされ
ず,後続の設計及び工事の方法の認可の段階で規制の対象とされる具体的な詳細設
計及び工事の方法に当たるとされた。
 イ 2次冷却材漏えい事故が生ずると,中間熱交換器での除熱能力が低下し,原
子炉容器入口のナトリウム温度が上昇するため,炉心の安全な冷却ができなくなる
可能性がある。また,漏えいしたナトリウムの顕熱及び燃焼熱によって部屋の雰囲
気温度あるいは床面に設けたライナの温度が上昇することにより,同ライナが果た
すべきナトリウムとコンクリートの接触防止機能に悪影響を与える可能性があると
ともに,空気雰囲気の部屋の内圧が上昇して建物及び構築物の健全性を損なう可能
性がある。そこで,動燃は,2次冷却材漏えい事故を想定し,炉心冷却能力に与え
る影響についての解析及び漏えいナトリウムによる熱的影響についての解析を行っ
た。
 炉心冷却能力に与える影響については,事故ループ以外の他の2次側のループの
一つも除熱能力を失うが残りの1ループは健全であるという仮定の下で解析された
が,その結果は,原子炉が自動停止し,事故ループ以外の残りの1ループの主冷却
系により原子炉停止後の崩壊熱が除去され,燃料被覆管及び1次冷却材ナトリウム
の温度は過度に上昇することがなく,炉心の冷却能力は失われず,原子炉冷却材バ
ウンダリの健全性が損なわれないというものであった。
 漏えいナトリウムによる熱的影響についての解析の結果は,内圧上昇が建物及び
構築物の耐圧限界より十分に低く,床ライナの最高温度が設計温度の500℃を下
回り,建物コンクリートの温度も過度に上昇することなく,健全性が損なわれるこ
とがないというものであった。なお,設計温度とは,床ライナがこの温度まで全面
一様に加熱されても,熱膨張によって部屋の壁と干渉しないように設計するために
設定されるもので,この温度を超えれば直ちに床ライナが機能を喪失するというも
のではない。
 そして,原子力安全委員会は,本件安全審査において,これらの解析の内容と結
果を妥当なものと判断した。
 なお,動燃は,昭和60年2月18日に本件原子炉の設置変更許可申請(2次主
冷却系循環ポンプ等の設備の変更に伴うもの)を行い,同年8月9日に同申請の一
部補正を行ったが,この一部補正の中で,漏えいナトリウムの熱的影響を評価する
事故解析について,床ライナの設計温度を530℃に変更した上,床ライナの最高
温度はこれを下回るとした。
 ウ 本件ナトリウム漏えい事故では,漏えい箇所直下近傍の床ライナ(板厚約6
㎜)に凹凸が生じ,全体として上下方向にたわみが認められ,局所的に0.5㎜な
いし1.5㎜程度の板厚減少が観察され,床ライナの加熱温度は最高で750℃と
推定されている。動燃は,その原因等を解明するため2回にわたって燃焼実験を実
施した。平成8年4月8日の燃焼実験Ⅰでは,鋼鉄製の円筒容器内でナトリウムを
漏えいさせたところ,床ライナを模擬した鋼製の受け皿に貫通損傷はなかったもの
の,最大約1㎜の減肉が認められ,受け皿で測定された温度が740℃ないし75
0℃で推移した。同年6月7日の燃焼実験Ⅱでは,コンクリート製容器内でナトリ
ウムを漏えいさせたところ,厚さ約6㎜の鋼製の床ライナに5箇所の貫通孔が認め
られ,床ライナで測定された温度がおおむね800℃ないし850℃で推移した。
 本件ナトリウム漏えい事故及び燃焼実験Ⅰでは,室内からの湿分の供給が少なか
ったため,水酸化ナトリウムの生成が少なく,酸化ナトリウムと鋼板(鉄)が高温
で反応して複合酸化物を形成することにより腐食するナトリウム・鉄複合酸化型腐
食が生じたと考えられる。他方,燃焼実験Ⅱでは,実験を行った容器の容積が小さ
かったこと等から,ナトリウムの燃焼に伴い室内の温度が高温となってコンクリー
ト壁から多量の水分が放出され,これにより生成された水酸化ナトリウム等の溶融
体に,過酸化ナトリウムが溶け込んで過酸化物イオンとなり,床ライナ(鉄)を急
速に腐食させる溶融塩型腐食(界面反応による腐食)が生じたと考えられる。そし
て,溶融塩型腐食は,ナトリウム・鉄複合酸化型腐食より約5倍腐食速度が速いこ
とが判明した。
 この鉄,ナトリウム及び酸素が関与する激しい腐食の知見は,本件処分当時の高
速増殖炉の開発及びその安全審査の関係者にとっては,問題意識があれば知り得た
知見であったものの,知られていなかったため,前記のとおり,本件安全審査にお
いては,床ライナの健全性については熱膨張によって機械的に破損するか否かとい
うことに重点を置いた審査がされた。
 エ 本件ナトリウム漏えい事故後に,動燃は,現状の本件原子炉施設において2
次冷却材ナトリウムが漏えいしたときに床ライナに最も腐食速度の速い溶融塩型腐
食が生ずると仮定して,ナトリウム燃焼解析を実施したが,その解析条件は,漏え
いナトリウムの初期温度を507℃,部屋の初期温度を35℃,相対湿度を80%
(これは,溶融塩型腐食を発生させるに足りる室内の湿分を想定したものであり,
夏の湿度の高い日に相当する。),ナトリウムの漏えい継続時間を80分から82
分等としたものであった。その解析結果は,板厚約6㎜の床ライナの減肉量が中央
値で3.2㎜ないし3.3㎜であり,上限値で5.2㎜ないし5.5㎜であった。
 オ 原子力安全委員会は,平成9年12月18日,同委員会の高速増殖原型炉も
んじゅナトリウム漏えいワーキンググループ(以下「ナトリウム漏えいワーキング
グループ」という。)の第2次調査報告書を公表した。同報告書は,① 同公表時
点での評価によると,漏えいナトリウムの床ライナ全面での燃焼の場合の床ライナ
温度は配管室で約620℃,過熱器室で約750℃となり,中小規模のナトリウム
の漏えいによる燃焼の場合の床ライナ温度は局所的に約880℃(配管室)あるい
は約850℃(過熱器室)に達すると解析されること,② 科学技術庁及び動燃か
らの報告によると,床ライナ全体の熱膨張により破損する可能性について評価した
結果,実際に設置されている床ライナは,2次主冷却系配管室(A)北側で約63
0℃,同配管室(C)北側で約700℃程度,その他の配管室及び過熱器室で約9
50℃あるいはそれ以上になっても,熱膨張により壁と干渉することはなく,機械
的に破損するおそれはないこと,③ 動燃は,局所的なひずみによる破損の可能性
を調べるために解析を行い,また,床ライナの一部分を模擬した試験体を用いた実
験を行ったところ,局所的な燃焼に対して900℃ないし950℃まではリブ(ひ
ずみを拘束するために床ライナ裏面に溶接されている構造物)がはく離することが
あるが,床ライナに損傷は生じないことが示されたことを紹介している。
 その上で,同報告書は,④ 本件安全審査においては,漏えいナトリウムによる
熱的影響についての解析評価に関し,中小規模のナトリウム漏えいを想定した検討
はされなかったが,これは,当時の関係者が,床ライナ温度が仮にナトリウムの沸
点(約880℃)に達したとしても,ライナ材料の融点(約1500℃)に比べれ
ば十分に低いため床ライナが溶融することはあり得ないとして,床ライナが熱膨張
によって機械的に破損するか否かの点に注目し,床ライナの全体としての熱膨張が
最大になる大規模漏えい時のプール燃焼(漏えいしたナトリウムが床にプール状に
広がり,その表面で酸素と反応する現象)の場合を解析すれば,中小規模漏えい時
の影響は,これに包含されると判断したことによるものと考えられる,⑤ 上記①
のとおり,実際の床ライナの温度は,酸欠効果により床ライナ温度の上昇が抑えら
れる大規模漏えいの場合よりも,中小規模漏えいの場合の方が高かったが,上記①
の約880℃はライナ材料の融点に比べて十分に低いために床ライナは溶融せず,
また,上記②及び③から,床ライナの温度が900℃から950℃までは機械的な
破損は生じないことが示されたから,界面反応による腐食を考慮しない場合には,
漏えいナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという床ライナの機能は維
持されるという見解を述べている。
 カ 原子力安全委員会が平成10年4月20日に公表したナトリウム漏えいワー
キンググループの第3次調査報告書は,動燃の実施した鉄の腐食試験の結果を踏ま
えて,腐食による床ライナの減肉量は床ライナの金属が高温に保持されている時間
にほぼ比例し,その腐食速度は温度上昇に伴い指数関数的に増大することを根拠と
して,床ライナの腐食抑制対策として,最高温度を低く抑えること及び高温の持続
時間を短く抑えることの両方又はいずれかの策を講ずることを基本的な考え方とす
る見解を示した。
 キ 動燃は,本件ナトリウム漏えい事故後の平成8年12月から,本件原子炉施
設の安全性の総点検を行い,それに基づく設備改善策を同10年5月付けの報告書
として取りまとめた。それによると,設備改善策においては,① 事故の拡大防止
及び影響の緩和を確実なものとし,安全性に万全を期するために,ナトリウム漏え
いを早期に検出し,換気空調設備を停止した後,ナトリウム漏えい量を抑制し速や
かに漏えいを停止させるためにナトリウムのドレン(抜き取り)を行うとともに,
漏れたナトリウムの燃焼を抑制するために窒素ガスの注入を行うこととすること,
② これらの改善策を講ずることにより,結果として床ライナ等の建物・構築物の
健全性についての適切な裕度向上につながること,という基本的な考え方の下に,
換気空調系の早期停止,ドレンライン・弁の多重化とドレン用配管の大口径化によ
るナトリウムドレンの機能強化,窒素ガス注入による燃焼抑制,断熱材の設置によ
る壁・天井コンクリートからの水分の放出抑制と熱的影響の拡大防止等を図ること
とされた。
 ク 原子力安全委員会は,平成10年10月29日,ナトリウム漏えいワーキン
ググループの上記各報告書で指摘された事項に関して,動燃から移行した核燃料サ
イクル開発機構が適切に対応しているかどうかを確認し,本件原子炉施設の安全性
の確保に継続的に取り組んでいくために,もんじゅ安全性確認ワーキンググループ
を設置することを決定した。同ワーキンググループは,核燃料サイクル開発機構が
示した新たな腐食抑制対策を前提とすると,最も厳しい条件を考慮しても床ライナ
の健全性は確保されることを確認するとともに,上記各報告書後の腐食に関する研
究開発状況,動的腐食試験等を踏まえて更に検討した結果,上記腐食抑制対策の方
針は適切であると判断した。
 ケ 核燃料サイクル開発機構は,平成13年6月6日,上告人に対し,規制法2
6条1項の規定に基づき本件原子炉の設置変更許可申請(以下「本件変更許可申請」
という。)をしたが,変更の理由は,「空気雰囲気下でのナトリウム漏えいに伴う
火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るため,2次ナトリウム補助設備の一
部を変更する。」とされ,具体的には,2次ナトリウム補助設備については,2次
冷却材漏えい時に当該系統のナトリウムを緊急に抜き取ることができる設計とする
というものである。
 (4) 「蒸気発生器伝熱管破損事故」に係る安全審査について
 ア 「評価の考え方」別紙のⅡが「事故」として選定して安全評価を行うべきも
のとする事象のうちナトリウムの化学反応にかかわるものの一例が,蒸気発生器伝
熱管破損事故である(同別紙のⅡの(2.2)の⑤)。なお,同事故を含む「事故」
についての評価に関する判断の基準は,前記(2)イのとおりである。
 イ 本件原子炉施設の蒸気発生器は蒸発器と過熱器の二つの機器から成り,蒸発
器と過熱器は3系統ある2次主冷却設備に1基ずつ設置されている。蒸発器及び過
熱器は,円筒形をした胴部の中にら旋形をした伝熱管を約150本内蔵する構造と
なっており,伝熱管壁を介して,伝熱管の外側を流れる高温の2次系ナトリウムか
ら伝熱管の内側を流れる水又は蒸気へと熱が伝わり,2次系ナトリウムと水又は蒸
気との間で熱交換が行われる仕組みとなっている。蒸発器では2次系ナトリウムか
ら熱を受け取って水が過熱蒸気に変えられ,また,過熱器では2次系ナトリウムか
ら熱を受け取って過熱蒸気が更に過熱される。
 ウ 原子炉出力運転中に蒸気発生器伝熱管破損事故が生ずると,高圧の伝熱管か
ら水又は蒸気が蒸気発生器内のナトリウム側に漏えいし,激しいナトリウム・水反
応を起こして,1000℃を超える高熱(反応熱)及び水素ガスが発生する。水又
は蒸気の漏えいの規模が大きくなると,衝撃圧(初期スパイク圧)が生じ,その後
も発生する水素ガスによる圧力上昇(準定常圧)を招く。この事故が生ずると,発
生する圧力により,事故が生じた蒸気発生器(蒸発器又は過熱器),当該ループの
健全な蒸気発生器(蒸発器又は過熱器),2次主冷却系機器・配管,中間熱交換器
等の設備が損傷を受ける可能性がある。
 エ 蒸気発生器の1本の伝熱管が破損すると,その影響が隣接する他の伝熱管に
及び,その伝熱管も破損する可能性がある。その具体的影響は,水又は蒸気の漏え
い規模(単位時間当たりの水又は蒸気の漏えい量)によって異なる。漏えい規模と
破損伝ぱの機序の概要は,次のとおりである。
 (ア) 漏えい規模が毎秒0.1g以下の微小漏えいの場合は,ナトリウム・水反
応生成物が漏えい孔をふさいで漏えいが停止するか,自身の破損孔拡大に向かうか
のいずれかをたどる。この段階では,ナトリウム・水反応の結果生成された水酸化
ナトリウムの噴出流が隣接伝熱管までは届かないため,破損は他の伝熱管に伝ぱし
ない。この漏えい規模では漏えい検知までに時間がかかり,検知の遅れによって対
応が遅れる危険がある。1度ふさがった孔が再び開口することもあり,放置すれば
破損孔は拡大し,次の小規模漏えい段階へ移行する。
 (イ) 漏えい規模が毎秒0.1gないし10gの小規模漏えいの場合は,ナトリ
ウム・水反応の結果,高温で腐食性を有する水酸化ナトリウムの噴出流が形成され
,ウェステージ効果(水酸化ナトリウムの化学的腐食作用と噴出流による損耗作用
との相乗効果)により,隣接する他の伝熱管を破損させる可能性がある。漏えいが
早期に検知され所定の安全装置が機能すれば,その影響は他の1本を破損させる程
度にとどまることになるが,検知が遅れたり,隣接伝熱管に摩耗又は傷があれば,
2次破損する伝熱管は更に増えることになる。
 (ウ) 漏えい規模が毎秒10gないし2㎏の中規模漏えいの場合は,水酸化ナト
リウムの噴出流の広がりが大きくなり,破損の伝ぱが複数本に及ぶ可能性がある。
小・中規模漏えいの段階になると,他の伝熱管への破損伝ぱ開始時間が急速に早く
なるため,この段階においては,漏えいの検知をできるだけ早くすることが特に重
要であるとされている。
 (エ) 漏えい規模が毎秒2㎏以上の大規模漏えいの場合は,大量のナトリウムと
水との激しい化学反応により,まず衝撃圧(初期スパイク圧)が発生し,次いで発
生した水素ガスによる圧力上昇(準定常圧)が起こる。
 (オ) なお,ウェステージ効果によって,隣接伝熱管が損耗し,又は減肉する現
象をウェステージ現象といい,ウェステージ現象によって隣接伝熱管が破損するこ
とをウェステージ型破損という。他方,ナトリウム・水反応によって生ずる高温の
反応熱のために隣接伝熱管の機械的強度が低下し,隣接伝熱管が内部の圧力によっ
て急速に膨れて破裂する現象を,高温ラプチャ現象といい,同現象によって隣接伝
熱管が破損することを,高温ラプチャ型破損という。高温ラプチャ現象は,漏えい
規模が毎秒1㎏程度を超えるようになると発生する可能性がある。ウェステージ型
破損及び高温ラプチャ型破損とも,他の伝熱管へと伝ぱする可能性があるが,一般
に,ウェステージ型破損よりも,高温ラプチャ型破損の方が,短時間に多数の伝熱
管を破損させるおそれが高いとされる。
 オ 動燃は,本件申請に際し,蒸気発生器伝熱管破損事故が生じた場合の水噴出
過程,初期スパイク圧発生過程,2次主冷却系内圧力波伝ぱ過程及び準定常圧発生
過程について解析を行ったが,その解析条件は,初期スパイク圧評価として伝熱管
1本が瞬時に両端完全破断を起こすことを想定するとともに,準定常圧評価として
は,伝熱管破損伝ぱの影響を考慮して,全体として伝熱管4本が同時に両端完全破
断した場合に相当する水漏えいが生ずることを想定したものであった。この準定常
圧評価の解析条件は,伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損が支配的で
あるという考え方を基に,4本両端完全破断相当の漏えい規模を考えれば十分に保
守性があるという判断に基づいて設定されたものであった。
 上記解析の結果は,① ナトリウム・水反応による圧力(初期スパイク圧及び準
定常圧)発生に対し,蒸気発生器,2次主冷却系設備及び中間熱交換器のひずみは
十分に小さく,各設備の健全性は損なわれない,② 蒸気発生器伝熱管破損事故が
生ずると,ナトリウム・水反応生成物収納設備の作動により,プラント自動停止操
作が行われ,「2次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号により原子炉は自動停止す
る,③ これに伴い,健全ループの各循環ポンプはポニーモータにより低速運転さ
れ,安全に原子炉の崩壊熱除去が行われ,炉心冷却能力が失われることはなく,ま
た,原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない,というものであっ
た。
 原子力安全委員会は,本件安全審査において,上記の解析の内容と結果を妥当な
ものと判断した。
 カ 本件原子炉施設の蒸気発生器関連設備として,水素計(ナトリウム中水素計
及びカバーガス中水素計),カバーガス圧力計及び圧力開放板開放検出器という水
漏えい検出設備が設置されている。そして,本件申請においては,蒸気発生器伝熱
管破損事故の発生を防止するため,水漏えい検出設備を設置することにより,伝熱
管小破損が生じた場合に早期に水漏えいを検出し,運転員により発せられる水漏え
い信号に基づき蒸気発生器への水又は蒸気の供給の遮断,伝熱管内の水又は蒸気の
急速ブロー(急速に伝熱管外へ抜くこと),2次主冷却系循環ポンプ主モータトリ
ップ等の一連のプラント自動停止操作を行い,ナトリウム・水反応を終息させる等
の対策を講ずることとされ,また,ナトリウム・水反応による顕著な圧力上昇を生
ずるような伝熱管破損が生じた場合は,蒸発器に設けたカバーガス圧力計及び蒸発
器又は過熱器の圧力開放板開放検出器によって検出し,上記と同様の操作を自動的
に行い,ナトリウム・水反応を停止させる等の対策を講ずることとされている。さ
らに,本件申請においては,蒸発器及び過熱器は圧力開放板を介してナトリウム・
水反応生成物収納設備を備え,万一,多量のナトリウム・水反応が発生しても,こ
れにより生ずる水素ガスが同設備に放出されることにより,2次主冷却系の過度の
圧力上昇が抑制される設計とされている。
 このように,本件原子炉施設については,蒸気発生器における伝熱管からの水漏
えいを水漏えい検出設備が検知して所定の信号が発せられれば,一連のプラント停
止操作が自動的に行われ,伝熱管内の水又は蒸気の急速ブローが行われることによ
って,伝熱管内部の圧力を急速に低下させるとともに,水又は蒸気の流動により伝
熱管の冷却も維持することができるから,設計どおりの操作が無事に進めば,高温
ラプチャ型破損の発生の機序に照らし,その発生の抑止効果を相当程度期待するこ
とができる。なお,本件原子炉施設においては,水又は蒸気の急速ブローの操作が
開始されると,水又は蒸気の放出弁を全開して水及び蒸気を排出し,蒸発器の給水
止め弁,過熱器の入口止め弁及び出口止め弁等の隔離弁を全閉して蒸気発生器への
給水が停止されるが,放出弁は水漏えい検出の1.5秒後に開弁し,隔離弁は約5
秒後に全閉するように設計されている。
 キ 水漏えい検出設備である水素計は,1系統に5基(ナトリウム中水素計3基
,カバーガス中水素計2基)ずつ設置されている。ナトリウム中水素計は,2次系
ナトリウム中の水素濃度を検出することによって水漏えいを監視することを目的と
した計器である。ナトリウム中水素計の検知能力は,水漏えい率が毎秒1g以下で
は,水漏えい率が低くなるにつれて検出時間(検知するのに要する時間)が長くな
り,水漏えい率が毎秒0.001gの場合の検出時間は1万秒以上となり,水漏え
い率が毎秒0.01gの場合の検出時間は1000秒以上となり,水漏えい率が毎
秒0.1gの場合の検出時間は数分以上となる。水漏えい率が毎秒1gから1㎏の
範囲でも検出時間は約1分となり,水漏えい率が毎秒0.1gを少し上回る程度か
ら毎秒1㎏までの範囲では,水漏えいを検知することができる時間より破損伝ぱ開
始時間の方が早い。
 ク 動燃は,ナトリウム・水反応事故に対するシステムの健全性の確認等を目的
としてSWAT試験を行い,その一環として昭和50年6月から実施したSWAT
−3(蒸気発生器安全性総合試験)の19回の試験のうち後半の12回(Run−
8ないし19)において,本件原子炉施設の2次主冷却系の主要機器及び配管を約
5分の2の縮尺で模擬した装置を用いて,初期事象として小・中リークから始まる
伝熱管破損伝ぱの有無,範囲等を試験した。このうち高温ラプチャ型破損を対象と
した試験は,Run−16,17及び19である。
 昭和56年に行われたRun−16においては,1次リーク平均注水率(初期漏
えいにおける単位時間当たりの平均注水量)を毎秒2200g,注水時間を60秒
,総リーク水量を228㎏とし,注水管(水漏えいを起こす管)の周囲に配置され
るターゲット管として静止水管(水又は蒸気の流動がない伝熱管)6本及びガス加
圧管(水又は蒸気の代わりに窒素ガスを充てんして内部加圧した伝熱管)48本が
用いられた。同試験の結果は,静止水管のうち1本が,ガス加圧管のうち24本が
,それぞれ高温ラプチャ現象によって破損するというものであった。
 昭和60年に行われたRun−19においては,1次リーク平均注水率を毎秒1
850g,注水時間を32秒,総リーク水量を61㎏とし,ターゲット管として流
水管3本及びガス加圧管15本が用いられた。同試験の結果は,ガス加圧管のうち
5本が高温ラプチャ現象によって破損したが,流水管に破損したものはないという
ものであった。
 ケ 昭和62年2月,英国Dの高速増殖原型炉PFRにおいて,蒸気発生器伝熱
管破損事故が発生した。PFRの冷却系は3ループから成り,蒸気発生器は,冷却
系1ループごとに蒸発器,過熱器,再熱器各1基で構成されていた。事故原因等に
ついては,① 過熱器の伝熱管1本に小さな軸横断き裂が貫通したため,このき裂
から小規模な水漏えいに至ったが,この時,ナトリウム中水素検出器が撤去されて
いたため,初期段階で小漏えいを検出することができず,異常状態が発見されない
ままに運転が継続されたこと,② その結果,水漏えいが継続し,前記き裂の起こ
った伝熱管が破断して,その後プラントはトリップしたものの,他の伝熱管39本
の破裂につながる伝ぱ現象が起きたこと,③ この伝熱管の破裂は高温ラプチャ型
破損であることが,それぞれ推定されている。なお,当時,PFRには,急速ブロ
ーの装置が備えられていなかったため,プラントトリップ後の伝熱管内の水又は蒸
気の急速ブローをすることができなかった。
 平成元年3月に開催されたAGT8/日本ナトリウム・水反応専門家会議におい
て,日本側出席者が「PFRの過熱器に急速ブロー系があったら,PFRの蒸気発
生器伝熱管破損事故は早く終わったと考えるか。」と質問したところ,英国側出席
者は,「イエス。ただし,破損孔からの漏えい量が大きいので,効果は大きくない
かもしれない。」と回答した。
 コ 動燃の職員,日本企業の技術者等は,平成元年3月,ドイツのE社を訪問し
,同社の研究者から,外径17.2㎜,25㎜,26.9㎜の3種類の伝熱管(細
径管)を用いて同社が行った伝熱管の破損伝ぱに関する実験結果の情報の提供を受
けた。その内容は,伝熱管内に水流動がある場合でも高温ラプチャ型破損が発生し
,水漏えい率が毎秒80g以上になると高温ラプチャ型破損を引き起こすというも
のであった。
 サ 核燃料サイクル開発機構は,現状の本件原子炉施設についてカバーガス圧力
計により水漏えいを検出する場合の解析評価を行ったが,運転状態が定格,40%
給水,10%給水の各場合の高温ラプチャ型破損の発生基準である累積損傷和は,
それぞれ0.77,0.95,0.97となった。なお,累積損傷和が1を超える
と,解析上高温ラプチャ型破損が生ずると判断される。
 シ 核燃料サイクル開発機構は,平成13年6月6日,本件変更許可申請をした
が,原子力安全・保安院は,同年12月11日,カバーガス圧力計等の位置付けを
一層明確にするのが適当であるなどとして,申請書及びその添付書類の記載につい
て指導した。指導の理由については,カバーガス圧力計での初期水漏えいの検出に
よる場合は高温ラプチャ型破損が発生する判断基準を下回るが,圧力開放板開放検
出器での検出による場合は高温ラプチャ型破損が発生する判断基準を上回ると評価
されたため,原子力安全・保安院は,本件原子炉施設に当初から設置されている蒸
気発生器計装のうちカバーガス圧力計による初期水漏えいの確実な検出が高温ラプ
チャ型破損発生防止の上で重要と判断し,この点を念のため設置許可申請書におい
て明確にすることが適当と判断したからであると説明されている。
 核燃料サイクル開発機構は,平成13年12月13日,上記指導に従って本件変
更許可申請に係る申請書及びその添付書類を一部補正したが,その内容は,① 蒸
発器のカバーガス圧力計を「異常状態への対応上特に重要な構築物,系統及び機器」
(MS−2クラス)と位置付けることを明らかにしたこと,② 本件原子炉施設の
主蒸気系設備として実際に設置されていた蒸発器入口放出弁,蒸発器出口放出弁,
過熱器入口放出弁,過熱器出口放出弁,給水止め弁及び過熱器入口止め弁の各記載
を追加するとともに,水蒸気ブローをより早期に完了することを目的として,蒸発
器入口放出弁を従来の3個から6個に(1ループ当たり1個から2個に),蒸発器
出口放出弁を従来の6個から9個に(1ループ当たり2個から3個に),それぞれ
変更したこと等である。
 (5) 「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」に係る安全審査につい

 ア 「評価の考え方」は,その別紙「液体金属冷却高速増殖炉(LMFBR)の
安全設計と安全評価について」のⅡの(5)項において,前記(2)イの「事故」より更
に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象について,液体金属冷却高
速増殖炉の運転実績がきん少であることにかんがみ,その起因となる事象とこれに
続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評価を行い,放射性物質の
放散が適切に抑制されることを確認するものとしている。なお,上記「事故より更
に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象」は,「評価の考え方」別
紙のⅡの(5)項に記載されているので,5項事象とも呼ばれている。
 イ 動燃は,本件申請に際して,発生頻度は無視し得るほど極めて低いが炉心が
大きな損傷に至るおそれがある事象を5項事象として選定し,防止対策との関連に
おいて,放射性物質の放散に対する障壁の抑制機能を評価するため,原子炉施設の
深層防御の観点から解析評価を行った。動燃が選定した5項事象の一つが,1次冷
却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象である。
 外部電源喪失により1次冷却材の炉心流量が減少する場合には,原子炉が確実に
自動停止するように,各種原子炉トリップ信号が発せられ,原子炉停止系は,互い
に独立の主炉停止系と後備炉停止系とが,それぞれ独立して原子炉を停止すること
ができるように設計されている。さらに,上記の場合において,反応度効果の最も
大きい制御棒1本が完全に炉心の外に引き抜かれ固着して挿入することができない
事態が生じたと仮定しても,原子炉を停止することができるようになっている。1
次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象は,上記の設計にもかかわらず,あえ
て,原子炉出力運転中に,外部電源喪失により炉心を流れる1次冷却材流量が減少
し,安全保護系の動作により原子炉の自動停止が必要とされる時点で,反応度抑制
機能喪失,すなわち,制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象であ
り,仮想的炉心崩壊事故を起こす代表的事象である。なお,仮想的炉心崩壊事故と
は,炉心にある燃料棒の配列,形状あるいは相(固体,液体,気体)が正常な状態
から逸脱して崩壊する炉心崩壊をもたらす事故のことをいう。
 動燃の上記解析評価は,具体的には,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失
事象の発生を仮定した場合に,一部の機器等に設計基準を超える結果が生じても,
放射性物質放散に対する障壁としての原子炉冷却材バウンダリのナトリウム保持機
能等又は格納容器バウンダリによる最終的な放射性物質の放散に対する抑制機能が
適切に保たれるかどうかを確認するという観点から行われた。
 ウ 上記解析の結果は,次のとおりであり,原子力安全委員会は,この解析評価
について,事象の選定,解析に用いられた条件及び手法が妥当なものであり,この
ように厳しい事象の選定及び条件の仮定の下に解析された結果が「評価の考え方」
に適合する妥当なものであると判断した。
 (ア) 1次冷却材流量減少と反応度抑制機能喪失の重ね合わせ事象において,最
も厳しい結果を示す平衡炉心(数回の燃料交換を経た後の平衡状態に達した炉心状
態)の燃焼末期(燃料交換直前の炉心状態に相当し,最も燃焼が進んだ燃料集合体
を含む炉心状態である。)では,ナトリウム沸騰,被覆管溶融移動,燃料スランピ
ングが生じた時点で,炉心は,即発臨界(即発中性子だけの連鎖反応で臨界状態に
なること)に達するが,膨張により未臨界となる。炉心損傷後の炉心膨張による最
大有効仕事量(熱エネルギーの大気圧までの等エントロピ膨張による仕事量)は約
380MJ(メガジュール)となる。
 (イ) 本件原子炉施設の構造物の耐衝撃評価に当たっては,膨張過程における最
大有効仕事量として500MJを考慮したが,この圧力荷重によって原子炉容器に
ひずみが生ずるものの,ナトリウムが漏えいするような破損は生じない。1次主冷
却系の機器及び配管の一部にひずみが生ずるものの,ナトリウムが漏えいするよう
な破損は生じない。崩壊熱の除去のために必要な1次主冷却系の循環流路が確保さ
れ,その自然循環と2次主冷却系及び補助冷却設備の作動により,除熱能力は確保
される。すなわち,原子炉冷却材バウンダリのナトリウム保持機能は維持され,崩
壊熱の除去機能は確保される。
 (ウ) ナトリウムの原子炉格納容器床上への噴出に伴い,原子炉格納容器内雰囲
気ガスの温度及び内圧が上昇するが,設計値を下回り,原子炉格納容器の健全性は
損なわれない。
 (エ) 上記事象における周辺公衆に対する被ばく線量は,昭和39年5月27日
原子力委員会決定「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについ
て」及び同56年7月20日原子力安全委員会決定「プルトニウムを燃料とする原
子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」に示されるめ
やす線量を下回り,放射性物質の放散は適切に抑制されている。
 エ 前記ウ(ア)の解析における最大有効仕事量約380MJは,次のような検討
を経て算定されたものである。
 (ア) 動燃の解析は,① 1次冷却材流量減少と反応度抑制機能喪失の重ね合わ
せ事象に起因する仮想的炉心崩壊事故の起因過程(正常な運転状態から逸脱した事
象に始まり,早期に終息するか大規模な炉心崩壊に進むかの分かれ目となる過程)
について,解析コードSAS3Dを用いて,即発臨界となるかどうかを解析し,②
 炉心の反応度が即発臨界を超えて機械的エネルギーの発生に至ると予測されたケ
ースについては,解析コードVENUS−PMに接続して,機械的炉心崩壊過程(
原子炉が即発臨界を超え,炉心が急速に崩壊分散する過程)の解析をし,炉心損傷
後の炉心膨張による有効仕事量を評価するという2段階から成る。
 (イ) 上記解析は,炉心燃焼度,パラメータ,反応度係数等の幾つかの基準によ
ってケースを区分し,その組合せにより,様々なケースを想定して行われた。
 炉心燃焼度に関しては,初装荷炉心の燃焼初期(燃料が全く燃焼していない原子
炉の最初の炉心状態)並びに平衡炉心の燃焼初期及び燃焼末期を対象とした解析が
された。なお,平衡炉心の燃焼初期は,燃料交換直後の炉心状態に相当し,炉心内
の燃料集合体の約5分の1は,交換したばかりの新燃料である。
 基準が一応確立したパラメータを用いた基本解析ケースとして,BEケース(本
件安全審査当時,最も確からしいとされたモデルパラメータを使用するケース),
EXNRCケース(米国原子力規制委員会が昭和51年にクリンチリバー高速増殖
原型炉の仮想的炉心崩壊事故評価を行った際に,上限ケースとして選定したパラメ
ータの組合せと同じ条件設定を行ったケース)及びRPケース(パラメータ解析を
行う際の基準ケースとして設定された解析ケース)が選定され,RPケースをパラ
メータ基準ケースとして,起因過程の事象推移及び反応度効果の観点から,重要と
なる現象についての各種モデルパラメータを変化させて解析するパラメータ解析ケ
ースとして,LRIP.FCIケース,FCI25.CNTケース,RP.BUR
Nケース等が採用された。
 反応度係数の取扱いに関しては,ノミナル値(炉心の核設計に用いた核設計手法
及び核データを用いて評価した反応度係数分布のデータ)によるノミナル解析と,
負の反応度効果を有するドップラ反応度をノミナル値より30%低く見積もり,正
の反応度効果を有するボイド反応度をノミナル値より50%多く見積もった保守側
解析とがされた。
 (ウ) ノミナル解析では,即発臨界に至るケースはなかったが,保守側解析では
,機械的エネルギーの放出の可能性があるケースがあった。保守側解析のパラメー
タ解析ケースの中には,平衡炉心の燃焼末期のLRIP.FCIケースの992M
J,平衡炉心の燃焼末期のFCI25.CNTケースの676MJ,平衡炉心の燃
焼初期のFCI25.CNTケースの690MJ,初装荷炉心の燃焼初期のRP.
BURNケースの418MJなど,機械的エネルギーの放出の高いものもあった。
 (エ) しかし,動燃は,当時の実験的知見と海外における仮想的炉心崩壊事故評
価の例を踏まえて,使用したデータ及びモデルパラメータの不確かさ幅についての
物理的に合理的な範囲内での上限シナリオとして,基本解析ケースの一つのEXN
RCケースを選定し,同ケースにおける平衡炉心の燃焼末期での保守側解析による
解析結果である機械的エネルギー356MJについて,解析コードVENUS−P
Mにおける制御棒の取扱いを補正した値である約380MJをもって,本件原子炉
の炉心損傷後の最大有効仕事量として採用した。動燃の解析によれば,この場合で
も,炉心は即発臨界に達した後,膨張により未臨界となる。
 オ 動燃の上記解析によれば,大半のケースが起因過程では即発臨界に至ること
なく緩慢に推移し,次の遷移過程(起因過程が比較的穏やかに進行した場合に,そ
の後にたどる中間的な過程)に移行することが予測された。遷移過程では,炉心溶
融の広がりは,燃料集合体内で溶融物の小プールを形成し,やがて集合体壁を破り
,隣接する集合体へと溶融範囲を拡大するが,この間,即発臨界にまでは至らない
ものの,未臨界と再臨界とを繰り返しながら次第に溶融物プールの規模を拡大して
いき,最悪の場合には即発臨界に達し,核的爆発を起こして破壊エネルギーを放出
する。しかし,当時,遷移過程の事象推移及び再臨界に伴う機械的エネルギー発生
の可能性の重要性は認識されていたものの,遷移過程の事象推移について直接シミ
ュレーションを行う評価技術は十分に確立されていなかった。そこで,動燃は,海
外の評価例,関連する実験研究等を調査するとともに,本件申請をした昭和55年
に,米国の国立研究所が同53年に開発した核熱流動の総合的解析コードSIMM
ER−Ⅱを導入して解析を試みたところ,保守的条件設定によって生ずる遷移過程
の再臨界の場合であっても,その機械的エネルギーは380MJを超えないことが
確認された。もっとも,SIMMER−Ⅱコードは,2速度・1流動様式という流
体力学モデルの制約により適用性が限られること,計算精度が不十分なモデルがあ
ること,条件設定を誤ると数値的に不安定性を引き起こしやすいなどの根本的な問
題を抱えていた。
 カ 動燃は,本件処分後に,改良された解析コードSAS4A(起因過程用)及
びSIMMER−Ⅲ(遷移過程用)を用いて本件原子炉の仮想的炉心崩壊事故解析
を行ったが,それによると,炉心損傷後の最大の機械的エネルギーは遷移過程の1
10MJであった。
 キ 米国ではクリンチリバー高速増殖原型炉の建設計画が昭和47年に始まった
が,その安全審査機関である米国原子力規制委員会は,同炉の炉心崩壊事故に係る
炉心格納機能の評価において,膨張炉心の1気圧までの仕事エネルギーとして12
00MJを用いることを要求した。
 ドイツでは昭和60年に高速増殖炉(原型炉)SNR−300炉の建設が完成し
たが,その規制当局であるノルトラインウェストファーレン州政府は,仮想的炉心
崩壊事故を格納容器の設計基準事故とする取扱いをし,初期の許可段階において,
耐衝撃評価として,370MJの有効仕事エネルギーに対し原子炉容器及び1次系
バウンダリの健全性が格納容器に対する損傷を避け得る程度に維持されることを要
求した。上記370MJは,カバーガス70m3(立方メートル)までの等エントロ
ピ膨張による仕事量であるから,動燃が解析に使用した1気圧までの等エントロピ
膨張による仕事量に換算すれば,925MJないし1110MJ程度に相当する。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人らの
請求を認容した。
 (1) 原子炉設置許可処分が無効であるというためには,違法の重大性をもって
足り,違法の明白性は不要である。
 (2) 本件安全審査のうち「2次冷却材漏えい事故」に係る安全審査は,鉄,ナ
トリウム及び酸素が関与する界面反応による床ライナの腐食に関する知見を欠いて
いたため,上記腐食により床ライナに貫通孔が生じ得ることを看過し,また,ナト
リウム燃焼に伴う床ライナの最高温度の評価を誤り,床ライナが膨張により壁と干
渉して損傷が生じ得ることを看過した。これは,本件原子炉施設の基本設計の安全
性にかかわる事項についての安全審査における看過し難い過誤,欠落に当たる。床
ライナに貫通孔や損傷が生ずれば,ナトリウムが床コンクリートと接触してナトリ
ウム・コンクリート反応が発生するが,2次主冷却系の1ループで本格的なナトリ
ウム・コンクリート反応が生ずれば,その被害が他のループにも及び,2次主冷却
系の全冷却能力の喪失につながる高度の蓋然性を否定することができず,そうなれ
ば,炉心溶融による出力暴走により,放射性物質が外部環境へ放散される具体的危
険性を否定することができないから,本件処分は無効である。
 (3) 本件安全審査のうち「蒸気発生器伝熱管破損事故」に係る安全審査は,蒸
気発生器の伝熱管が破損した場合の伝ぱ破損の形態としてウェステージ型破損のみ
を考慮し,より重大な結果を招く高温ラプチャ型破損の可能性についての調査審議
及び判断を行わなかった。この安全審査の欠落は,看過し難い。高温ラプチャ型破
損が発生すれば,初期スパイク圧及び準定常圧により蒸気発生器,2次主冷却系設
備及び中間熱交換器が破損するおそれがあり,中間熱交換器の破損によって,水素
ガスの混入した2次冷却材ナトリウムが炉心に至れば,炉心崩壊により,放射性物
質が外部環境へ放散される具体的危険性を否定することができないから,本件処分
は無効である。
 (4) 本件安全審査のうち「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」に
係る安全審査は,起因過程での炉心損傷後の機械的エネルギーの上限値を約380
MJとする動燃の解析を妥当と判断したが,この判断は,動燃の行った解析結果の
中には992MJ等の380MJを超えるケースがあることの報告を受けずにされ
たものであった。前記992MJの解析結果は,米国原子力規制委員会やノルトラ
インウェストファーレン州政府の要求値と対比すると,決して異常な数値ではなく
,これを考慮する必要性の有無は,原子力安全委員会が判断すべきことであるから
,本件安全審査は,十分な資料に基づき機械的エネルギーの上限値を適正に評価し
たものということができない。
 また,本件安全審査当時,遷移過程の事象推移と再臨界に伴う機械的エネルギー
発生の可能性の重要性が既に認識されていたのであるから,遷移過程において再臨
界が生じた場合の機械的エネルギーの上限を評価すべきであったにもかかわらず,
これを行わなかった点において,本件安全審査には看過し難い欠落がある。炉心損
傷後の最大の機械的エネルギーは遷移過程の110MJであったとする本件処分後
の動燃の解析結果は,規制法に定める原子力安全委員会の安全審査においてその妥
当性が確認されたものでないから,本件安全審査の瑕疵を否定する根拠とすること
はできない。
 5項事象として選定された1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象は,空
想上の出来事としてではなく,現実に起こり得る事象としてその安全評価が行われ
なければならない。上記事象は,炉心崩壊事故に直接かかわる事象であり,即発臨
界に達した際に発生する機械的エネルギーの評価を誤れば,即発臨界によって原子
炉容器及び原子炉格納容器が破壊され,原子炉容器内の放射性物質が外部環境に放
散される具体的危険性を否定することはできないから,本件処分は無効である。
 4 しかしながら,原審の上記3(2)ないし(4)の判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
 (1) 「2次冷却材漏えい事故」に係る安全審査について
 ア 規制法の規制の構造に照らすと,原子炉設置の許可の段階の安全審査におい
ては,当該原子炉施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものでは
なく,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するの
が相当である(最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小
法廷判決・民集46巻7号1174頁参照)。そして,【要旨1】規制法24条2
項の趣旨が,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準
の適合性について,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的
,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆ
だねるものであることにかんがみると,どのような事項が原子炉設置の許可の段階
における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる
事項に該当するのかという点も,上記の基準の適合性に関する判断を構成するもの
として,同様に原子力安全委員会の意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な
判断にゆだねられていると解される。
 また,規制法は,上記基準の適合性について,上記のとおり原子力安全委員会の
意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねていると解されるから
,現在の科学技術水準に照らし,原子力安全委員会若しくは原子炉安全専門審査会
の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該
原子炉施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは原
子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,主
務大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,主務大臣の上記判断
に不合理な点があるものとして,同判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解さ
れる(前記第一小法廷判決参照)。
 イ 本件申請においては,2次冷却材漏えい事故が発生した場合に事故の拡大を
防止するための対策の一つとして,漏えいしたナトリウムとコンクリートとが直接
接触することを防止するために,床面に鋼製のライナを設置し,漏えいしたナトリ
ウムを貯留タンク等へ導き貯留するという設計がされている。本件安全審査におい
ても,2次冷却材漏えい事故が発生した場合に備えて,漏えいしたナトリウムとコ
ンクリートとの直接接触を避けるため床面に鋼製のライナを設置するという対策を
行うことが本件原子炉施設の基本設計を構成するものとして審査の対象とされた。
そして,床ライナの板厚,形状等の細部は,本件安全審査の対象とされず,後続の
設計及び工事の方法の認可の段階で規制の対象とされる具体的な詳細設計及び工事
の方法に当たるとされたのであるが,床ライナが漏えいナトリウムとコンクリート
との直接の接触を防止するためにどのような設計とされるべきかは,部屋の大きさ
,床ライナの冷却設備の有無,ナトリウムドレン設備の能力等の周辺設備の具体的
仕様等との関連において決定されるべきものということができるから,これを後続
の設計及び工事の方法の認可の段階における規制の対象とすることは,一般に合理
性があるということができる。
 ところで,前記の鉄,ナトリウム及び酸素が関与する界面反応による腐食の知見
は,本件処分当時の高速増殖炉の開発及びその安全審査の関係者に知られていなか
ったため,本件安全審査では,床ライナの健全性について,前記のとおり,熱膨張
によって機械的に破損するかどうかということに重点を置いた審査がされた。前記
の知見によれば,条件次第ではナトリウムの漏えいにより溶融塩型腐食が生ずる場
合があり,この場合に床ライナに貫通孔が生ずれば,「漏えいナトリウムとコンク
リートとの直接接触の防止」という床ライナの機能が果たされないこととなる。し
かし,床ライナに溶融塩型腐食が生じても,床ライナの板厚等の具体的形状次第で
は漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止することが可能で
あるというのであれば,2次冷却材漏えい事故に備えて上記の安全対策を行うこと
を内容とする本件原子炉施設の基本設計は合理性を失わず,床ライナの腐食に対す
る対策が,後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階における規制の対象とされ
,その基本設計の安全性にかかわる事項に含まれないとすることは,不合理である
とはいい難いことになる。
 そこで,検討すると,前記事実関係等によれば,① 本件ナトリウム漏えい事故
後に,動燃は,現状の本件原子炉施設において2次冷却材ナトリウムが漏えいした
ときに床ライナに最も腐食速度の速い溶融塩型腐食が生ずると仮定して,ナトリウ
ム燃焼解析を実施した,② その解析条件は,漏えいナトリウムの初期温度を50
7℃,部屋の初期温度を35℃,相対湿度を80%,ナトリウムの漏えい継続時間
を80分から82分等としたものであった,③ 解析結果は,板厚約6㎜の床ライ
ナの減肉量が,中央値で3.2㎜ないし3.3㎜であり,上限値で5.2㎜ないし
5.5㎜であった,というのであり,要するに,現状の施設において上記解析条件
と同じ条件下で溶融塩型腐食が生じても,現状の板厚約6㎜の床ライナに貫通孔は
生じないというのである。確かに,上限値の場合には,現状の板厚約6㎜の床ライ
ナでは,残存肉厚が0.5㎜ないし0.8㎜であり,余裕として十分か否かが問題
となるが,減肉量に相応した板厚等の具体的な設計によって床ライナの健全性を維
持することも不可能ではないということができる。また,ナトリウム漏えいワーキ
ンググループの第3次調査報告書は,床ライナの腐食抑制対策として,最高温度を
低く抑えること及び高温の持続時間を短く抑えることが有効であるとの基本的な考
え方を示しているところ,これを踏まえた腐食抑制対策を採ることも考えられると
ころである。動燃が平成10年5月付けの報告書において取りまとめた設備改善策
も,これに沿うものであり,従来の設計の基本的考え方を前提とした上で,その裕
度の向上を図るものであるが,もんじゅ安全性確認ワーキンググループは,上記改
善策を前提とすると,最も厳しい条件を考慮しても床ライナの健全性が確保される
ことを確認した。
 以上の点に照らせば,上記の床ライナの溶融塩型腐食という知見を踏まえても,
床ライナの腐食に対する対策を行うことにより漏えいナトリウムとコンクリートと
が直接接触することを防止することが可能であり,2次冷却材漏えい事故に対して
床面に鋼製のライナを設置するという対策を行うことはその有効性を失わず,鋼製
の床ライナを設置するとの本件原子炉施設の基本設計をもって,不合理なものとい
うことはできない。そして,床ライナの腐食に対する対策については,後続の設計
及び工事の方法の認可以降の段階でこれを行うことによって対処することが不可能
又は非現実的であるとはいえず,これを原子炉設置の許可の段階においては安全審
査の対象に含めないことをもって,不合理であるとはいい難い。
 これに対し,原審は,上記解析条件のうちナトリウムの漏えい継続時間が最大8
2分とされている点について,これは,本件ナトリウム漏えい事故を教訓として手
順書が改訂され,その手順書どおりの操作が行われ,各種機器も設計どおり機能す
ると想定したものであるが,現実の世界では,機械の故障や人間の判断又は操作の
誤りが避けられず,本件ナトリウム漏えい事故でのナトリウムの漏えい継続時間が
約3時間40分と推定されることとの比較において,保守性に欠けるとする。しか
し,上記による変更後の運転手順が非現実的であることをうかがわせる事情はなく
,上記の解析条件を考慮に入れても,床ライナの腐食に対する対策として,減肉量
に相応した板厚等の具体的設計によって床ライナの健全性を維持すること等の有効
性は,なお肯定することができる。
 また,原審は,① 仮に本件安全審査の担当者が床ライナの溶融塩型腐食の知見
を有していれば,漏えいナトリウムの燃焼継続時間,床ライナの板厚の程度,腐食
の減肉速度等が審査されたはずであり,その審査なくして,ナトリウムとコンクリ
ートの直接接触の防止という基本的設計事項の安全性の確認はできないこと,② 
関係者が上記の知見を有していなかったから,設計及び工事の方法の認可の段階で
腐食を考慮した審査を期待することはできないこと,③ 現に,核燃料サイクル開
発機構は,本件ナトリウム漏えい事故とその後に実施された本件原子炉施設の安全
性総点検を踏まえて,上告人に対し,「空気雰囲気下でのナトリウム漏えいに伴う
火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るため,2次ナトリウム補助設備の一
部を変更する。」との理由で,規制法26条1項に基づき,本件変更許可申請をし
ていることを挙げて,床ライナの板厚の程度等を含む床ライナの腐食対策が本件安
全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に含まれ,
上記腐食対策に係る安全審査に過誤,欠落があると判示する。しかし,仮に上記の
知見があった場合には,ナトリウムの燃焼継続時間,腐食の減肉速度等が審査され
るはずであったといっても,これらは具体的な床ライナの板厚の程度等との比較に
おいて審査することに意味があるというべきであるから,後続の設計及び工事の方
法の認可の段階における審査の対象とすることの合理性を否定することにはならず
,また,上記の知見がないために同認可の段階で床ライナの板厚の程度等について
十分な審査がされないとすれば,同認可の違法が問題とされるべきものである。そ
して,本件変更許可申請は,2次ナトリウム補助設備について,2次冷却材漏えい
時に当該系統のナトリウムを緊急に抜き取ることができる設計とするというもので
あり,漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触することを防止するために
床ライナを設置するという本件原子炉施設の基本設計の妥当性を前提とした上で,
ナトリウム漏えいに伴う火災に対する影響緩和機能の充実,強化を図るものであっ
て,上記基本設計の妥当性に影響を与えるものではない。
 ウ 次に,原審は,床ライナの膨張率を左右する床ライナの温度が本件安全審査
の対象となる本件原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に含まれるとした
上で,本件安全審査には,上記床ライナの温度の評価を誤った過誤があると判示す
る。
 前記事実関係等によれば,① 現時点の評価によると,ナトリウムが漏えいした
場合の床ライナの温度は,本件申請及び昭和60年2月18日付けの変更許可申請
の際に変更された設計温度より高いものであった,② 本件安全審査での漏えいナ
トリウムによる熱的影響についての解析評価においては,中小規模のナトリウム漏
えいによる燃焼の場合を想定した解析評価はされなかったが,これは,当時の関係
者が,床ライナが熱膨張によって機械的に破損するか否かの点に注目し,床ライナ
の全体としての熱膨張が最大になる大規模漏えい時のプール燃焼の場合を解析すれ
ば,中小規模漏えい時の影響は,これに包含されると判断したことによるものであ
る,③ しかし,実際の床ライナの温度は,酸欠効果により床ライナ温度の上昇が
抑えられる大規模漏えいの場合よりも,中小規模漏えいの場合の方が高いものであ
った,というのである。
 しかし,上記の設計温度とは,床ライナがこの温度まで全面一様に加熱されても
,熱膨張によって部屋の壁と干渉しないように設計するために設定された温度であ
って,この温度を超えれば直ちに床ライナが機能を喪失するものではないというの
である。そして,床ライナの板厚,形状等その健全性にかかわる事項は,設計及び
工事の方法の認可の段階において審査の対象となる具体的な詳細設計及び工事の方
法として決定されるべきものであるから,板厚,形状等が確定しない段階において
,これとは別に設計温度の妥当性について確定的な審査をすることに意味はないと
いわざるを得ない。また,前記事実関係等によれば,現状の本件原子炉施設の床ラ
イナであっても,ナトリウムの漏えいによる温度上昇によって,壁と干渉すること
がなく,局所的なひずみによる破損も生じないことを示す解析及び実験の結果があ
り,これを踏まえて,ナトリウム漏えいワーキンググループは,界面反応による腐
食を考慮しない場合には,漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止す
るという床ライナの機能は維持されると判断したというのである。以上に,鋼材が
高温になれば延性を増すという特性を持っていることを併せ考えると,漏えいナト
リウムによる床ライナの熱膨張については,床ライナの板厚,形状,壁との間隔等
に配意することにより設計及び工事の方法の認可以降の段階において対処すること
が十分に可能であるということができる。
 エ 【要旨2】そうすると,2次冷却材漏えい事故に対して床面に鋼製のライナ
を設置することにより漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防
止するという安全対策を行うことを内容とする本件原子炉施設の基本設計は,不合
理であるとはいえず,原子力安全委員会の判断に基づき,床ライナについては,漏
えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止するという設計方針のみが,原
子炉設置の許可の段階における安全審査の対象となるべき原子炉施設の基本設計の
安全性にかかわる事項に当たるものとし,その板厚等の腐食防止対策や熱膨張によ
り壁と干渉しないような具体的施工方法は,設計及び工事の方法の認可以降の段階
における審査の対象に当たるものとした主務大臣の判断に不合理な点はない。
 したがって,原審が2次冷却材ナトリウム漏えい事故に関する安全審査の瑕疵と
して指摘する事項は,原子炉設置の許可の段階の安全審査の対象とならない事項に
関するものである。そして,以上説示するところによれば,原子力安全委員会等に
おける2次冷却材ナトリウム漏えい事故の安全審査の調査審議及び判断の過程に看
過し難い過誤,欠落があるということはできず,この安全審査に依拠してされた本
件処分に違法があるということはできないから,上記違法があることを前提として
本件処分に無効事由があるということはできない。
 (2) 「蒸気発生器伝熱管破損事故」に係る安全審査について
 ア 前記事実関係等によれば,動燃が本件申請に際して行った蒸気発生器伝熱管
破損事故に係る安全評価のための解析の内容及び結果について,原子力安全委員会
はこれらが「評価の考え方」に適合する妥当なものであると判断したが,上記解析
のうち準定常圧評価の解析条件は,伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破
損が支配的であるという考え方を基に設定されたものであった。そして,原審は,
本件安全審査において高温ラプチャ型破損の可能性が調査審議の対象とされなかっ
たことなどを理由に,本件処分を無効とするが,原審の確定するところによっても
,本件原子炉施設については,蒸気発生器における伝熱管からの水漏えいを水漏え
い検出設備が検知して所定の信号が発せられれば,蒸気発生器への水又は蒸気の供
給の遮断,伝熱管内の水又は蒸気の急速ブロー,2次主冷却系循環ポンプ主モータ
トリップ等のプラント停止操作が自動的に行われる設計がされており,水漏えい検
出に伴い伝熱管内の水又は蒸気の急速ブローが行われることによって,伝熱管内部
の圧力を急速に低下させるとともに,水又は蒸気の流動により伝熱管の冷却も維持
することができるから,設計どおりの操作が無事に進めば,高温ラプチャ型破損の
発生の機序に照らし,その発生の抑止効果を相当程度期待することができるという
のである。また,核燃料サイクル開発機構が現状の本件原子炉施設についてカバー
ガス圧力計により水漏えいを検出する場合の解析評価を行ったところ,累積損傷和
が高温ラプチャ型破損が生ずると判断される数値である1を下回った。さらに,動
燃が高温ラプチャ型破損を対象として行った試験のSWAT−3のRun−19に
おいても,流水管については高温ラプチャ型破損は発生していない。そうすると,
本件原子炉施設の設計を前提とする限りにおいては,高温ラプチャ型破損に関する
現在の知見に照らしても,上記解析条件の設定は合理的なものであるということが
できる。
 イ これに対し,原審は,上記の累積損傷和が1に近く,余裕が極めて少ないた
め,カバーガス圧力計による水漏えい検知システムが万全とは認め難いと判断する
が,累積損傷和が1を下回る解析結果である以上,それが1に近いことをもって,
高温ラプチャ型破損の発生の可能性があることを示すものということはできない。
 また,原審は,ナトリウム中水素計は水漏えいの早期検出に必ずしも有効でなく
,特に,微小漏えいが比較的早く小・中規模漏えいに拡大した場合には,ナトリウ
ム中水素計の水漏えいの検出が遅れ,伝熱管破損の伝ぱにつながる可能性を否定す
ることはできない旨判断する。しかし,前記の破損伝ぱの機序によれば,① 水漏
えい率が毎秒0.1g以下の微小漏えいの場合には,ナトリウム中水素計による水
漏えいの検出に時間を要するが,破損は他の伝熱管に伝ぱせず,② 高温ラプチャ
型破損は水漏えい率が毎秒1㎏程度を超えるようになると発生する可能性があり,
③ 水漏えい率が毎秒0.1gを少し上回る程度から毎秒1㎏までの範囲では,水
漏えいを検知する前に伝熱管の破損伝ぱが始まる可能性があるとされているが,そ
の場合における破損伝ぱの形態はウェステージ型破損であるというのである。した
がって,本件原子炉施設のナトリウム中水素計の検知能力を根拠として,高温ラプ
チャ型破損の発生の可能性があるということはできない。
 ウ さらに,原審は,水又は蒸気の急速ブロー等の対策が万全でないため,絶対
的な高温ラプチャ型破損の発生防止の効果に疑問があると判断し,その根拠として
,① AGT8/日本ナトリウム・水反応専門家会議における英国側出席者の発言
によれば,英国の専門家は,PFRの蒸気発生器伝熱管破損事故の際に急速ブロー
系が設置されていれば事故が早期に終息したことを肯定するが,漏えい量が大きい
場合にはその効果にそれほど期待していないことが認められ,急速ブローの有無が
伝熱管の高温ラプチャ型破損発生防止の決定的要因となり得るかについては,専門
家の間でも意見の分かれていることがうかがわれること,② E社の実験は,伝熱
管内に水流動がある場合でも高温ラプチャ型破損が発生し,水漏えい率が毎秒80
g以上になると高温ラプチャ型破損を引き起こすというものであったこと,③ S
WAT試験のうち高温ラプチャ型破損を対象にしたのはSWAT−3のRun−1
6,17及び19の3回にすぎず,Run−16では流水管が使用されず,Run
−19試験では,最も高温ラプチャ型破損を起こしやすい条件下にあると考えられ
る伝熱管2本に流水管を用いず,ガス加圧管を使用しており,SWAT試験は,流
水管に高温ラプチャ型破損が生じないことを実証する実験としては,回数及び内容
において不十分であること,を挙げる。
 しかし,AGT8/日本ナトリウム・水反応専門家会議における英国側出席者の
発言については,PFRにおける蒸気発生器伝熱管破損事故の状況を離れて,一般
的に急速ブローによる高温ラプチャ型破損の発生防止の効果が大きくないとする趣
旨と直ちに解することはできない。また,E社の実験は,本件原子炉施設の伝熱管
とは異なる細径管を対象としたものであり,上記実験結果から一般的に流水管でも
高温ラプチャ型破損が起こりやすいということはできない。そして,SWAT−3
のRun−19において,最も高温ラプチャ型破損を起こしやすい条件下にあると
考えられる位置に流水管ではなくガス加圧管が配置されていることは,原審の指摘
するとおりであるが,高温ラプチャ型破損の生じた他のガス加圧管と高温ラプチャ
型破損が生じなかった流水管3本との比較についてまでも,その意味が失われたと
は考え難く,原審の指摘することから,直ちにSWAT試験の回数及び内容が不十
分であったとまではいえず,本件安全審査の合理性を左右するものではない。
 エ なお,「評価の考え方」が参考とすべきものとする安全評価指針の5.1.3
の(1)は,各事象の解析に当たっては,想定された事象に加え,作動を要求される
安全系の機能別に結果を最も厳しくする単一故障を仮定しなければならないとして
いるところ,原審は,蒸気発生器伝熱管破損事故においては,単一故障として急速
ブロー系機器の故障を仮定することが合理的であり,かつ,解析の結果も最も厳し
くなるものであり,急速ブロー系機器に故障が発生すれば,蒸気発生器伝熱管破損
事故時における高温ラプチャ型破損の発生は,ほとんど避け難い旨判示する。
 しかし,安全評価指針が定める安全評価における単一故障の仮定は,安全系,具
体的には工学的安全施設,原子炉停止系及び安全保護系について仮定することが要
求されるものであり,原子炉停止,炉心冷却及び放射能閉じ込めの各基本的安全機
能を直接果たす構築物,系統及び機器,又はその機能遂行に直接必要となる関連系
について,解析の結果が最も厳しくなるように,異常状態に対処するために必要な
機器の一つが所定の安全機能を失うことを仮定するものであるというのである。急
速ブローにかかわる設備は,これらの各基本的安全機能を直接果たすものではなく
,その基本的安全機能遂行に関連する設備でもない。
 また,原審は,急速ブロー系機器の故障を仮定し,蒸気発生器伝熱管破損事故時
に水又は蒸気の急速ブローを行うことに失敗することを想定すれば,高温ラプチャ
型破損の発生はほぼ避けられず,初期スパイク圧及び準定常圧が蒸気発生器,2次
主冷却系配管及び中間熱交換器の耐圧基準を超えれば,これらの機器及び配管が破
損するおそれがあり,水素ガスの混入した2次冷却材ナトリウムが中間熱交換器の
障壁を破って1次主冷却系に流入して炉心に至れば,炉心崩壊を起こすおそれがあ
る旨判示する。しかし,前記事実関係等によれば,本件原子炉施設においては,蒸
気発生器伝熱管からの水漏えいを水漏えい検出設備が検知して所定の信号が発せら
れれば,一連のプラント停止操作が自動的に行われ,また,多量のナトリウム・水
反応が発生しても,これにより生ずる水素ガスがナトリウム・水反応生成物収納設
備に放出されることにより,2次主冷却系の過度の圧力上昇が抑制される設計にな
っているというのである。そうすると,急速ブロー系機器の故障のみによって,水
素ガスが,上記設備への放出を免れて炉心に達し,プラント停止がされた原子炉に
おいて炉心崩壊を起こすとするのは,合理的推論とはいえず,急速ブロー系機器の
故障の仮定が,上記基本的安全機能に最も厳しい結果をもたらすものと評価されな
かったことをもって,不合理であるということはできない。
 したがって,前記の単一故障として急速ブロー系機器の故障を仮定しないことは
,不合理であるとはいえない。
 オ また,本件変更許可申請においては,カバーガス圧力計等の位置付けが明確
にされ,水蒸気ブローをより早期に完了することを目的として放出弁の増設がされ
ることとなったが,高温ラプチャ型破損に対する対策という観点からみると,上記
機器の位置付けを念のため再確認するとともに,より一層の安全裕度の向上を図ろ
うとするものというべきであって,このことから直ちに現状の高温ラプチャ型破損
に対する対策を不十分なものと評価することはできない。
 カ 【要旨3】以上によれば,現在の科学技術水準に照らしても,上記の準定常
圧評価に係る解析条件が不相当であったとはいい難く,この解析条件を前提に蒸気
発生器伝熱管破損事故を想定してされた解析の内容及び結果が「評価の考え方」等
の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会等の審査,評価に不合理な点
はない。したがって,この点についての安全審査の調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるということはできず,この安全審査に依拠してされた本件
処分に違法があるということはできないから,上記違法があることを前提として本
件処分に無効事由があるということはできない。
 (3) 「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」に係る安全審査につい

 ア 原審は,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象の安全審査における
遷移過程の事象推移等についての評価に看過し難い欠落があるという。
 「評価の考え方」は,液体金属冷却高速増殖炉の安全評価において,「事故」よ
り更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象(5項事象)について
,その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十
分に評価を行い,放射性物質の放散が適切に抑制されることを確認するものとして
いる。5項事象の安全評価は,既に「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」を想
定した安全評価により事故防止対策に係る基本設計の妥当性が確認されている原子
炉施設について,液体金属冷却高速増殖炉の運転実績がきん少であることにかんが
みて行われるものとされていることからすると,「評価の考え方」においては,5
項事象の安全評価は,技術的観点からは起こるとは考えられない事象をあえて想定
して上記の設計に安全裕度があることを念のために確認することを目的とされてい
るということができる。
 前記事実関係等によれば,外部電源喪失により1次冷却材の炉心流量が減少する
場合には,原子炉が確実に自動停止するように,各種原子炉トリップ信号が発せら
れ,原子炉停止系は,互いに独立の主炉停止系と後備炉停止系とが,それぞれ独立
して原子炉を停止することができるように設計され,さらに,反応度効果の最も大
きい制御棒1本が完全に炉心の外に引き抜かれ固着して挿入することができないと
仮定しても,原子炉を停止することができるようになっているところ,5項事象の
一つとして選定された1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象は,上記の設
計にもかかわらず,あえて,原子炉出力運転中に,外部電源喪失により炉心を流れ
る1次冷却材流量が減少し,安全保護系の動作により原子炉の自動停止が必要とさ
れる時点で,制御棒の挿入の失敗が同時に重なる事象を仮定したというのである。
そうすると,本件安全審査において,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事
象について,その発生頻度は無視し得るほど極めて低いものと位置付けて,5項事
象に係る安全評価を行ったことに不合理な点はないということができる。
 本件処分当時においては遷移過程の事象推移について直接シミュレーションを行
う評価技術は十分に確立されていなかったものの,動燃は,海外の評価例,関連す
る実験研究等を調査するとともに,米国の国立研究所が開発した解析コードSIM
MER−Ⅱにより,保守的条件設定によって生ずる遷移過程の再臨界の場合であっ
ても,その機械的エネルギーは,前記の起因過程の解析により得られた値の380
MJを超えないことを確認し,この値を踏まえて,構造物の耐衝撃評価に当たって
は,膨張過程における最大有効仕事量として500MJを考慮したが,原子炉容器
等にナトリウムが漏えいするような破損は生じないと解析し,原子力安全委員会は
,この解析評価について,事象の選定,解析に用いられた条件及び手法が妥当なも
のであり,その解析結果が「評価の考え方」に適合する妥当なものであると判断し
たというのであるから,本件安全審査において,遷移過程の事象推移についての評
価を欠くと解するのは相当でない。そして,前記の5項事象についての安全評価の
目的に加えて,本件処分後にSAS4A及びSIMMER−Ⅲを用いて行われた解
析結果も,本件処分当時の原子力安全委員会の上記の判断の妥当性を否定するもの
とはいえないことをも併せ考えれば,SIMMER−Ⅱコードの解析上の問題点を
考慮しても,なお,本件安全審査における遷移過程についての評価に不合理な点は
ないというべきである。
 イ また,原審は,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における起因
過程での炉心損傷後の機械的エネルギーの上限値を約380MJとする解析を妥当
とした本件安全審査は,動燃が行った解析結果の中には380MJを超えるケース
があることの報告を受けずにされたものであり,十分な資料に基づき機械的エネル
ギーの上限値を適正に評価したものということはできない旨判示する。
 前記事実関係等によれば,動燃は,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事
象において,炉心は起因過程で即発臨界に達するが膨張により未臨界となり,炉心
損傷後の炉心膨張による最大有効仕事量は約380MJとなると解析し,これを前
提に膨張過程における最大有効仕事量として500MJを考慮して構造物の耐衝撃
評価を行ったが,上記の約380MJという値は,当時の実験的知見と海外におけ
る仮想的炉心崩壊事故評価の例を踏まえて,使用したデータ及びモデルパラメータ
の不確かさ幅についての物理的に合理的な範囲内での上限シナリオとして,基準が
一応確立しているパラメータを用いた基本解析ケースの中からEXNRCケースを
選定し,最も燃焼が進んだ燃料集合体を含む炉心状態である平衡炉心の燃焼末期に
ついて行われた保守側解析の結果を補正したものであり,この解析を妥当なものと
した原子力安全委員会の判断に不合理な点を見いだし難い。原審は,原子力安全委
員会が本件安全審査に当たり380MJを超える992MJ等の解析ケースを考慮
していないというが,992MJ等の解析ケースは,いずれも各種モデルパラメー
タを仮想的に変化させて解析するパラメータ解析ケースであって,基準が一応確立
しているパラメータを用いて解析する基本解析ケースとは解析の目的を異にし,こ
れを考慮しなかったからといって,本件安全審査を直ちに不合理なものということ
はできない。また,原審は,米国原子力規制委員会やドイツのノルトラインウェス
トファーレン州政府の要求値と対比すると,992MJは決して異常な数値ではな
いというが,本件原子炉と規模,構造等の異なる原子炉に関する審査機関の要求値
をもって,本件安全審査を不合理なものということはできない。
 ウ 【要旨4】以上によれば,原子力安全委員会等における1次冷却材流量減少
時反応度抑制機能喪失事象の安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤
,欠落があるということはできず,この安全審査に依拠してされた本件処分に違法
があるということはできないから,上記違法があることを前提として本件処分に無
効事由があるということはできない。
 5 結論
 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,その余の論旨につい
て判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人らの請求を棄
却した第1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

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