弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人小泉英一の上告趣意は後記書面のとおりである。
 同第一点について。
 所論は、原判決が引用している「司法警察員のAに対する第一回供述調書中同人
の供述記載」が、その性質上証拠書類でなく証拠物であるから、これを展示するこ
とを要するにかかわらず、第一審の公判調書によれば、単に他の書面と共に順次朗
読した旨の記載はあるが展示したとの記載はないから、適法な証拠調がなかつたこ
とに帰し、刑訴三三五条に違反するという理由を前提として、原判決が憲法三一条
に違反すると主張するのであるが、これは実質において原判決の刑訴違反を主張す
るのであつて、四〇五条の上告理由にあたらない。且つ所論の証拠となつた書面が、
証拠書類(刑訴三〇五条)であるか又は証拠物たる書面(三〇六条三〇七条)であ
るかの区別は、その書面の内容のみが証拠となるか(前者)、又は書面そのものの
存在又は、状態等が証拠となるか(後者)によるのであつて、その書面の作成され
た人、場所又は手続等によるのではない。(例えば誣告罪において虚偽の事実を記
載した申告状の如き、その書面の存在そのものが証拠となると同時に如何なる事項
が記載されてあるかが証拠となるのであつて、かかる書面が刑訴三〇七条の書面で
あり、ただ書面の内容を証明する目的を有する書面は証拠書類である。)従つて所
論のように、裁判官の面前における供述を記載した書面のみが証拠書類であるとは
いえない。この意味において、本件の場合原審が、司法警察員のAに対する供述調
書を証拠書類としたことは、なんら違法でなく、また刑訴三三五条違反もない。論
旨はこの点においても理由がない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が憲法三一条に違反するという主張の前提として原審は、事前に
事実の取調決定をすることなく、裁判長の弁論再開決定と証拠決定のみによつて、
再開の公判期日に、裁判長は、事実の取調をなす旨を告げ、証拠調をしているのは、
弁論再開決定は必ずしも事実の取調決定を包含するものでなく、また弁論再開決定
は、裁判長の職権事項であるが、事実の取調決定は、裁判所が行うものであること
を誤つた違法があると主張するのであつて、その実質は刑訴違反の主張に帰し、適
法な上告理由といえない。また刑訴三九三条による事実の取調をするには、裁判所
はその旨の決定をなすことを要するものではない。
 同第三点について。
 所論は、被告人に対する量刑が他の被告人と比較して不公平であるという理由に
基き、原判決の憲法三七条一項違反を主張するのであるが、公平な裁判所の裁判と
は、不公平のおそれのない組織と構成をもつ裁判所の裁判をいうのであつて、個々
の事件における量刑の当不当を意味するものでないことは、当裁判所がしばしば判
示するところであつて、今なおこれを改める必要を認めない(昭和二二年(れ)第
四八号同二三年五月二六日大法廷判決、第二巻五号五一一頁参照)。所論は独自の
見解に立つてこれを攻撃するのであり、とることはできない。
 同第四点について。
 所論は量刑不当の主張であつて適法な上告理由でない。のみならず記録を精しく
調べて見ても、量刑が特に不当であるとは認められない。
 その他刑訴四一一条を適用すべき事由を認めることはできない。
 よつて刑訴四〇八条に従い裁判官島保の留保意見を除き、全裁判官一致の意見を
もつて主文のとおり判決する。
 裁判官島保の意見は次のとおりである。
 裁判官島保の意見
 上告趣意第一点に対する判断として、私は論旨は「実質において原判決の刑訴違
反を主張するのであつて、四〇五条の上告理由にあたらない。」との判示部分につ
き多数意見に賛するが、その後段の証拠書類と証拠物中書面の意義が証拠となるも
のとの区別に関する多数意見に対しては私見を留保する。両者の区別は、わが刑事
訴訟法上古い沿革に基くものであり、これを現行刑事訴訟法の下において、如何に
合理的に解釈するかは簡単な事ではない。しかし、この問題は本件では傍論に属す
るばかりでなく、いずれに解するとしても刑訴四一一条の問題とはならないものと
認められるので、この点に関し意見を述べることは差し控える。その他の上告趣意
に対する判断は、多数意見と同一である。
  昭和二七年五月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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