弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山菅正誠上告趣意第一点について。
 第一審相被告人Aが昭和二二年六月末迄京都市中京区役所朱雀第四駐在員事務所
の事務員であつたことは所論の通りであるが、原審の引用した第一審判決の判示第
一事実中のAに関する部分である「被告人Aは昭和二二年四月から六月末迄京都市
中京区役所朱雀第四駐在員事務所の事務員をしていたものであるが……被告人Aは
同年六月五日頃京都市a区bc町d番地の自宅で擅に行使の目的を以て公務所であ
る右朱雀第四駐在員事務所の公印を押捺してある転出証明書用紙六枚に、Bから受
取つた前記C外二一名の架空の人物の氏名と米穀は昭和二二年六月八日迄配給済等
所要事項を記載し以て同年六月日附の右事務所作成名義の転出証明書六枚(証第二
号)を順次偽造してこれを被告人Bに……」の判示は右Aをもつて右朱雀第四駐在
員事務所の責任者たる同事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任
を補助して事務を執つている者にすぎない者で転出証明書を作成交付する権限のな
い者であることを認定判示しているものであることは容易に理解し得るところであ
つて、その事実は原判決挙示の証拠によつて肯認することができる。されば、この
点に対する所論審理不慮に基く重大なる事実の誤認があるとの主張並びにこれを前
提とする擬律錯誤の主張は上告審適法の理由として採ることができない。
 同第二点について。
 原判決が引用した第一審判決の判示第一事実の判示中に論旨に指摘するような判
示のあることは所論のとおりであるが右判示は論旨に主張するように殊更に米穀通
帳の騙取という詐欺の事実を認定判示したものではなく、被告人が販売所から主食
を騙取するに至つた過程中の一の事情を示して犯行の経過を明細にする目的にいで
たものにすぎないことは交付を受けた米穀通帳の冊数、交付の度数等を判示せず又
原判決の証拠説明中に右米穀通帳を騙取せられた被害顛末の証拠はこれを示さず単
に主食編取の被害証拠である大阪府食糧営団守口支部四宮販売所主任D提出の始末
書中の記載を引用している点等に照して容易に了解し得るところである。従つて原
判決には論旨のような理由不備の違法も法律を適用しない違法も、起訴なき事実に
つき裁判をしたという違法も存しないといわなくてならぬ。
 同第三点について。
 しかし、米穀通帳及び転出証明書はその宛名人に主食の配給を受ける資格あるこ
とを証明する一資料たるにすぎないものであるから若し転出証明書が偽造の文書で
あり、これを真正に成立したものと誤信しこれに基ずいて作成権者が米穀通帳を作
成し交付した場合にはその転出証明書や米穀通帳は通帳宛名人にとつて右通帳の内
容に示す主食の配給を受くる資格の証明資料とはならない。従つてかかる宛名人は
右通帳の内容に示す主食の配給を受けることのできないものであることはいうまで
もないから、かかる者には販売所は主食の配給をなすべきものではないといわなけ
ればならぬ。さればたとい転出証明書及び米穀通帳を提出したからといつて販売所
においては必ずその通帳の内容に示す主食の配給をしなければならぬとの論旨は採
用するを得ない。そして本件では原審は大阪府食糧営団守口支所四宮販売所の係員
が被告人の提出した米穀通帳及転出証明書のいずれもが真正に成立したものである
と誤信したから被告に通帳の内容に示すとおりの主食を配給したものであることを
認定しておりこの認定は原判決の挙示する証拠に照してたやすくこれを肯認するこ
とができるのである。されば本件においては欺罔手段と財物の交付との間に因果関
係が存在し詐欺罪の成立することは多言を要しないところであるから本件において
欺罔手段と現物交付との間に因果関係はないとして詐欺罪は成立しないとの所論は
とうてい採用するを得ない。又財物の交付を受けるについて正当の権限あることを
必要とする場合に正当の権限に基かずして当該財物の交付を受けた事実がある以上
交付を受けた者には法律上の利得あり交付した者には損害ありというべきは多言を
要しないところである。されば本件において被告人は主食の配給を受けるにつき正
当の権原が必要であるのにその権原のないのにも拘らず欺罔手段によつて販売所よ
り主食の配給を受けたものである以上配給を受けた主食の代金を支払つているから
といつて販売所に法律上の損害を被らしめたものでないとはいえないから原判決が
被告人の所為を詐欺罪に問擬したのは正当であつて「相手方たる販売所は勿論何人
も財産上の損害を蒙つていないから被告人の本件主食の配給を受けたる所為は現行
刑法上犯罪を構成しない」との所論は採用するをえない。また、食糧緊急措置令一
〇条末段に「其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル」とあるから、原判決が同条を
適用しないで刑法二四六条一項を適用したのは正当である。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし原判決は前記第二点において説明したとおり米穀通帳の作成交付を犯罪事
実として認定したものではなく、またその点につき特に公訴もないこと明白である
から、原判決がその点に対し法律の適用をしないのは当然であつて、論旨はその理
由がない。
 同第五点について。
 しかし、偽造文書は何人の所有をも許されないものである。そして何人の所有を
も許されないものは犯人以外の者に属しないものであることは多言を要しないとこ
ろであるから、原判決が所論指摘の理由によつて押収の転出証明書六枚(証第二号
証)中の各偽造部分を没収する旨判示したからといつていささかも違法ではない。
又所論の偽造文書の偽造部分の没収を執行し得ることは旧刑訴第五五九条に照して
も明らかなところであつてその没収の執行は偽造部分を適宜の方法にて抹消する等
の措置をとれば足りるのであるから、執行不可能とはいえない。されば原判決には
所論のような違法はない。論旨は理由がない。
 同第六点について。
 しかし、原判決の法律適用についての説明中所論指摘の「関件」とあるのが「関
係」の誤記にすぎないものであることは、右文字の前後の行文の内容趣旨に徴して
一読明らかなところであるから原判決には所論のような理由齟齬の違法は存しない。
論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二七年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
 裁判長裁判官沢田竹治郎は退官につき署名捺印することができない。
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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