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平成27年5月14日判決言渡
平成24年(行ウ)第849号所得税更正処分等取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1稚内税務署長が,平成23年3月14日付けで原告に対してした次の各処分
をいずれも取り消す。
原告の平成17年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額2118万2
150円,納付すべき税額456万5400円を超える部分
原告の平成18年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額6211万6
400円,納付すべき税額1972万8400円を超える部分
原告の平成19年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額1億2509
万3800円,納付すべき税額4663万2300円を超える部分
原告の平成20年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額1億0921
万7980円,納付すべき税額4021万0100円を超える部分
原告の平成21年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額2億1188
万7850円,納付すべき税額8125万0100円を超える部分
原告の平成17年分ないし平成21年分の所得税に係る各無申告加算税賦
課決定
2稚内税務署長が,平成23年3月30日付けで原告に対してした原告の平成
22年分の所得税に係る更正のうち,総所得金額5949万7700円,納付
すべき税額2029万3600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を
いずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,競馬の勝馬投票券(以下「馬券」という。)の的中による払戻金に係
る所得を得ていた原告が,平成17年分ないし平成21年分の所得税に係る申告
期限後の確定申告及び平成22年分の所得税に係る申告期限内の確定申告を行い,
その際,原告が得た馬券の的中による払戻金に係る所得(以下「本件競馬所得」
という。)は雑所得に該当するとして総所得金額及び納付すべき税額を計算して
いたところ,所轄税務署長であった稚内税務署長から,本件競馬所得は一時所得
に該当し,上記各年の一時所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金を総収
入金額から控除することはできないとして,平成23年3月14日付けで平成1
7年分ないし平成21年分の所得税に係る各更正及び各無申告加算税賦課決定を,
平成23年3月30日付けで平成22年分の所得税に係る更正及び過少申告加算
税賦課決定を,それぞれ受けたため(以下,上記の各年分の所得税に係る各更正
を併せて「本件各更正処分」といい,各年分の所得税に係る更正を「平成17年
分更正処分」などという。また,上記の各無申告加算税賦課決定及び過少申告加
算税賦課決定を併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と本件各
賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。),①本件競馬所得は雑所得に
該当し,上記各年の雑所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金も必要経費
として総収入金額から控除されるべきである,②仮に本件競馬所得が一時所得
に該当するとしても,その総収入金額から外れ馬券を含む全馬券の購入代金が控
除されるべきであるから,本件各処分は違法であるとして,本件各更正処分のう
ち確定申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め
本件の関係法令の定めは,別紙1「関係法令の定め」に記載のとおりである。
2前提事実(証拠等の掲記のないものは当事者間に争いがない。)
当事者等
ア●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●(弁論の全趣旨)
イ処分行政庁は,原告の住所地の異動に伴い,本件各処分がされた時
点の原告の納税地を管轄する税務署長であった稚内税務署長から,そ
の事務を承継した。(弁論の全趣旨)
中央競馬の概要並びに馬券の発売方法及び払戻金の計算方法
ア競馬法は,日本中央競馬会(以下「JRA」という。),都道府県及び
指定市町村は,競馬を行うことができると定める(同法1条1項,2項)
とともに,JRA,都道府県又は指定市町村以外の者は,馬券その他これ
に類似するものを発売して,競馬を行ってはならない(同条6項)として
競馬の開催主体を限定している。
イJRAは,競馬を行う団体として,日本中央競馬会法に基づき設立され
た法人である(同法1条,2条)。
ウJRAが行う競馬を中央競馬といい(競馬法1条5項),現在,全国1
0箇所(札幌,函館,福島,新潟,中山,東京,中京,京都,阪神及び小
倉)の競馬場において競馬が開催されている(同法2条,競馬法施行規則
1条)。
中央競馬は,その年間開催回数,1回の開催日数,1日の競走回数等が
限定されており,年間開催回数は36回以内,1回の開催日数は12日以
内,1日の競走回数は12回以内とされているほか,年間の開催日数は2
88日以内とされている(競馬法3条,競馬法施行規則2条1項。なお,
同じ日に複数の競馬場で競馬が開催されている場合でも,別々の開催日と
して計算される。)。また,中央競馬については,開催の日取りについて
も制限されており,原則として,日曜日,土曜日,国民の祝日に関する法
律に規定する休日又は1月5日から同月7日までの日のいずれかの日か
らなる日取りと規定されている(競馬法3条,競馬法施行規則2条2項)。
JRAは,競馬を開催しようとするときは,開催競馬場,開催の日時,
各開催日における各競走の番号,種類及び距離並びに開催執務委員の氏名
を事前に農林水産大臣に届け出なければならない(日本中央競馬会法施行
規則9条1項)。
例えば,平成24事業年度においては,中央競馬は,年間合計36回,
288日開催されている。(乙2)
なお,JRAは,上記開催期間とは別に,競馬開催日(競馬開催日が2
日以上連続する場合にはその連続する競売開催日を併せたもの。)又は,
競馬開催日と競馬開催日との間の日が土曜日,日曜日もしくは祝日である
場合の前後する競馬開催日を併せたものを「節」と称している。(乙3)
エ馬券の発売は,その競走に出走すべき馬が確定した後に開始し,競走の
発走の時までに締め切らなければならず(競馬法施行令8条),勝馬投票
法の種類ごとの勝馬は,その競走の開催執務委員の着順の宣言により確定
し(競馬法施行規則7条8項),勝馬投票の的中者に対し払戻金が交付さ
れる仕組みになっている(競馬法8条)。
そして,JRAは,券面金額10円の馬券10枚分以上を1枚として(す
なわち,1口100円以上で)発売することができるところ(競馬法6条
1項,2項),その種類,発売方法及び払戻金の計算方法は,次のとおり
である。
馬券の種類
勝馬投票法には,単勝式,複勝式,連勝単式,連勝複式及び重勝式の
5種類があり,当該種類ごとの勝馬の決定の方法等が定められているが
(競馬法7条,競馬法施行規則6条,7条),JRAが発売している馬
券は次の9種類である。(弁論の全趣旨)
a単勝式勝馬投票法
1着となった馬を勝馬とする(いわゆる「単勝」。競馬法施行規則
7条1項)。
b複勝式勝馬投票法
出走すべき頭数に応じて2着以内又は3着以内となった馬を勝馬と
する(いわゆる「複勝」。競馬法施行規則7条2項)。
c馬番号二連勝単式勝馬投票法
1着及び2着となった馬をその順位に従い一組としたものを勝馬と
する(いわゆる「馬単」。競馬法施行規則7条3項前段)。
d馬番号三連勝単式勝馬投票法
1着,2着及び3着となった馬をその順位に従い一組としたものを
勝馬とする(いわゆる「三連単」。競馬法施行規則7条3項後段)。
e枠番号二連勝複式勝馬投票法
1着及び2着となった馬の枠番号の組合せを勝馬とする(いわゆる
「枠連」。競馬法施行規則7条4項前段)。
f普通馬番号二連勝複式勝馬投票法
1着及び2着となった馬の組合せを勝馬とする(いわゆる「馬連」。
競馬法施行規則7条4項前段)。
g拡大馬番号二連勝複式勝馬投票法
1着及び2着となった馬,1着及び3着となった馬,2着及び3着
となった馬のそれぞれの組合せを勝馬とする(いわゆる「ワイド」。
競馬法施行規則7条4項中段)。
h馬番号三連勝複式勝馬投票法
1着,2着及び3着となった馬の組合せを勝馬とする(いわゆる「三
連複」。競馬法施行規則7条4項後段)。
i五重勝単勝式勝馬投票法
同一の日の5つの競走につき1着となった馬を一組としたものを勝
馬とする(いわゆる「WIN5(ウインファイブ)」。競馬法施行規
則7条5項)。
発売方法
馬券は,JRAが次の方法により発売している。(乙4)
a場内発売
全国10箇所の競馬場の窓口で,当該競馬場で開催されている競争
に係る馬券のほか,他の競馬場で開催されている競走に係る馬券も発
売している。
b場外発売
全国の場外馬券売り場「WINS(ウインズ)」の自動販売機等で
発売している。
c電話・インターネットによる発売
JRAとの間で,「日本中央競馬会PAT方式電話投票(A-P
AT)に関する約定」(以下「A-PAT約定」という。)(乙3)
又は「日本中央競馬会即PAT方式電話投票に関する約定」(乙5。
以下「即PAT約定」という。)を結んだ者(以下「加入者」とい
う。)は,電話やパーソナルコンピュータを利用したPAT(Pe
rsonalAccessTerminal)方式により,馬
券の購入を申し込むことができる。
PAT方式には,A-PATと即PATの2種類があり,いずれ
もパーソナルコンピュータやウェブ機能付き携帯電話,スマートフ
ォンを使ってインターネット経由で馬券の購入を申し込むことがで
きる。なお,A-PATでは,自宅の固定電話や携帯電話から,プ
ッシュホン電話のボタン操作で馬券の購入を申し込むこともでき
る。(乙6)
なお,加入者がPAT方式で馬券を購入した場合,実際にはJR
Aが加入者に代わって馬券を受領し,保管するものとされている(A
-PAT約定11条,即PAT約定15条)。
A-PATの加入者は,加入時にJRAが指定する銀行にA-P
AT専用口座を開設しなければならない(A-PAT約定1条1
項)。
A-PAT専用口座では,競馬開催日及びその前後で各銀行が別
に指定する時間は,原則として入出金を行うことができないため(A
-PAT約定2条2項),A-PATの加入者は,事前に馬券の購
入資金をA-PAT専用口座に入金しておくことになる。ただし,
競馬開催日の前日のA-PAT専用口座の残高から,A-PATで
購入した馬券の金額を差し引き,確定した払戻金等の金額を加算し
た額を限度として,馬券の購入ができることとされているので(A
-PAT約定10条),A-PATで購入した馬券が的中した場合,
確定した払戻金等の額を,その後の競走における馬券の購入に充て
ることができる。
A-PATで購入した馬券の購入代金の支払と,的中馬券に係る
払戻金等の振込みは,各節ごとにその節の直後の銀行営業日に,A
-PAT専用口座において行われる(A-PAT約定14条1項,
2項)。
即PATの加入者は,JRAが別に定める銀行に加入者が有する
普通預金口座について,馬券の購入に充てる予定の金額をJRAが
指定する口座(以下「JRA口座」という。)に振り替えることを
目的とした口座振替契約を,当該銀行との間で締結しなければなら
ない(即PAT約定1条,2条。以下,当該口座振替契約を締結し
た口座を「ネット口座」という。)。
即PATの加入者は,馬券の購入に当たって,馬券の購入資金を
ネット口座からJRA口座に振り替えることとされており(即PA
T約定12条1項),逆にJRA口座からネット口座への戻入れも,
原則として随時(競馬開催中の土曜,日曜も含む。)行うことが可
能となっている(即PAT約定14条2項)。
即PATにおける馬券の購入限度額は,JRA口座に振り替えた
金額からネット口座に戻し入れた金額を控除した残額から,即PA
Tで購入した馬券の金額を差し引き,確定した払戻金等の金額を加
算した額とされており(即PAT約定13条,14条3項),JR
Aは,節の最終日の馬券の発売終了後に当該限度額の全部をネット
口座に戻し入れる手続を行う(同条1項)。
払戻金の計算方法
aJRAは,競馬法施行規則の定めにより,勝馬投票法の種類ごとに,
勝馬投票の的中者に対し,当該競走についての勝馬投票券の発売金額
から競馬法12条の規定する投票の無効により馬券の所有者に対して
返還される金額(当該馬券の券面額。以下「返還金」という。)を控
除した後の金額に,100分の70以上で農林水産大臣が定める率以
下の範囲内で日本中央競馬会が定める率を乗じて得た額に相当する金
額(重勝式勝馬投票法において競馬法9条1項又は3項の加算金があ
る場合には,これに当該加算金を加えた金額。以下「払戻対象総額」
という。)を,当該勝馬に対する各勝馬投票券にあん分した払戻金を
交付する(同法8条1項,4項)。
b当該払戻金の額が馬券の券面金額に満たない場合は,その券面金額
が払戻金の額とされるため(競馬法8条2項),JRAが主催する中
央競馬において,的中馬券の払戻金が購入金額(倍率1.0倍)を下
回ることはない。
c勝馬投票の的中者がない場合,原則として,その競走についての払
戻対象総額を,当該競走における勝馬以外の出走した馬に投票した者
に対し,各勝馬投票券にあん分して払戻金として交付するが(競馬法
8条3項),重勝式勝馬投票法(WIN5)について,的中者がない
場合は,一定の金額がいわゆるキャリーオーバーされ,払戻金の計算
に加算される(同法9条)。
dこのように計算された払戻金の総額は,馬券の発売金額の約75%
になる。(乙2)
原告による馬券の購入及び原告に対する払戻金の交付の状況
ア原告は,A-PATの加入者であり,平成7年にP1銀行P2支店に原
告名義の普通預金口座(以下「本件PAT口座」という。)を開設し,以
後,A-PAT(IPAT方式(インターネット方式)。乙6)を利用し
ている。(乙1,弁論の全趣旨)
平成17年から平成22年までに原告が購入した個々の馬券の種類や金
額は不明であるものの,平成17年から平成22年までにおけるJRAと
の馬券購入代金の決済に係る本件PAT口座の出金状況は,別表2-1な
いし2-6の各「入出金履歴」欄の「②出金金額」欄のとおりであり,本
件PAT口座からは,平成17年には総額3億4541万1500円,平
成18年には総額6億4613万7500円,平成19年には総額21億
7355万8800円,平成20年には総額15億6142万8800
円,平成21年には総額14億9462万0600円,平成22年には総
額10億4808万6000円,これらの総額として72億6924万3
200円の各出金がされていた。
なお,上記の出金額は,原告が馬券の購入代金を口座振替によりJRA
に対して出金したものであり,返還金に係る馬券の購入代金を含んでい
る。(弁論の全趣旨)
イ平成17年から平成22年までに原告が購入して的中した個々の馬券に
係る払戻金の額は不明であるものの,平成17年から平成22年までにお
けるJRAとの払戻金の決済に係る本件PAT口座の入金状況は,別表2
-1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「①入金金額」欄のとおりであ
り,平成17年には総額3億6416万0850円,平成18年には総額
7億0504万3500円,平成19年には総額22億9545万500
0円,平成20年には総額16億6688万5980円,平成21年には
総額17億0254万2850円,平成22年には総額11億0373万
6500円,これらの総額として78億3782万4680円が入金され
ていた。
なお,上記の入金額は,返還金を含んだものであるが,原告は,競馬開
催日にA-PAT(IPAT方式)により本件PAT口座に馬券購入資金
を追加入金したことがなかったことから,的中馬券の払戻金と返還金のみ
が計上されていた。(弁論の全趣旨)
ウ平成17年から平成22年までに原告が競馬によって得た利益は,別表
2-1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「③差引金額」欄のとおりで
あり,原告は,平成17年には総額1874万9350円,平成18年に
は総額5890万6000円,平成19年には総額1億2189万620
0円,平成20年には総額1億0545万7180円,平成21年には総
額2億0792万2250円,平成22年には総額5565万0500円,
これらの総額として5億6858万1480円の利益を得ていた。
エA-PATに係る決済は,節ごとの入金額及び出金額が,各節の直後の
金融機関営業日に決済口座に記載されるのみで,馬券を購入した競走ごと
の入金額及び出金額は記載されない。(乙7)
また,前記イのとおり,本件PAT口座への入金額には,馬券の払戻金,
開催中止,出走取消し又は競走除外により無効となった馬券の購入代金と
同額となる返還金が含まれているが,その額は不明である。
さらに,原告は,馬券の購入履歴や収支について,帳簿等の作成は行っ
ておらず,何らの資料も保存していないため,個々の競走に係る購入履歴
や収支は不明である。(乙8,弁論の全趣旨)
原告の平成17年分から平成22年分の所得税の申告状況
ア原告は,平成17年分ないし平成21年分の所得税について,法定申告
期限(所得税法120条1項,国税通則法10条2項)までに確定申告書
を提出していなかったが,法定申告期限後の平成23年3月7日,所轄税
務署長である稚内税務署長に対し,本件競馬所得を雑所得として総所得金
額及び納付すべき税額を計算した確定申告書(国税通則法18条)を提出
した。
イ原告は,平成22年分の所得税について,法定申告期限(所得税法12
0条1項,国税通則法10条2項)前の平成23年3月7日,稚内税務署
長に対し,本件競馬所得を雑所得として総所得金額及び納付すべき税額を
計算した確定申告書を提出した。
本件各処分の経緯
ア稚内税務署長は,別表1-1ないし1-6の各「更正処分」欄のとおり,
本件各処分を行った。
イ原告は,本件各処分を不服として,平成23年5月9日,稚内税務署長
に対し,別表1-1ないし1-6の各「異議申立て」欄のとおり,異議申
立てをしたが,稚内税務署長は,同年6月24日,上記異議申立てを棄却
する旨の決定をした。(甲3の1)
ウ原告は,更に,平成23年7月25日,国税不服審判所長に対し,別表
1-1ないし1-6の各「審査請求」欄のとおり,審査請求をしたが,国
税不服審判所長は,平成24年6月27日,上記審査請求を棄却する旨の
裁決をした。
本件訴えの提起
原告は,平成24年12月19日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
類似事件
ア大阪市在住の男性(以下「別件当事者」という。)は,馬券の的中によ
る払戻金に係る所得を得ていたのに平成19年分ないし平成21年分の所
得税に係る確定申告書を法定申告期限までに所轄税務署長に対して提出し
なかったとして,平成23年に所得税法違反により起訴された(以下,こ
の刑事事件を「別件刑事訴訟」という。)。(甲7,甲16,弁論の全趣
旨)
大阪地方裁判所は,平成25年5月23日,別件刑事訴訟について,別
件当事者の購入した馬券の的中による払戻金が雑所得に該当し,外れ馬券
の購入代金も必要経費として雑所得に係る総収入金額から控除されると
の判断を示した上で,別件当事者に対して執行猶予付きの有罪判決をし,
その控訴審である大阪高等裁判所も,平成26年5月9日,別件当事者の
購入した馬券の的中による払戻金が雑所得に該当し,外れ馬券の購入代金
も必要経費として雑所得に係る総収入金額から控除されるとの判断を示
し,さらに,その上告審である最高裁判所も,平成27年3月10日,別
件当事者の購入した馬券の的中による払戻金が雑所得に該当し,外れ馬券
の購入代金も必要経費として雑所得に係る総収入金額から控除されると
の判断を示す判決(最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10
日第三小法廷判決・裁判所時報1623号52頁。以下「別件最高裁判決」
という。)をした。(甲7,甲16,公知の事実)
イまた,別件当事者は,生野税務署長から平成23年3月11日付けで平
成17年分ないし平成21年分の所得税に係る各更正等を受けたことから,
平成25年1月25日,これらの取消しを求める旨の訴え(以下「別件行
政訴訟」という。)を提起した。(乙24)
大阪地方裁判所は,平成26年10月2日,別件行政訴訟について,別
件当事者の購入した馬券の的中による払戻金が雑所得に該当し,上記各年
分の外れ馬券の購入代金も必要経費として雑所得に係る総収入金額から
控除されるとの判断を示した上,別件当事者に対する上記各更正等を一部
取り消すことなどを内容とする判決をした。(乙24)
3被告が主張する本件各処分の根拠と適法性
本件各処分の根拠と適法性に関する被告の主張は,別紙2「本件各処分の根
拠と適法性(被告の主張)」のとおりであるが,その要点は次のとおりである。
本件競馬所得の一時所得該当性
本件競馬所得は一時所得に該当する。
一時所得の金額の計算
本件競馬所得に係る一時所得の金額は,その総収入金額から的中馬券の購
入代金のみを控除して計算すべきである。
ただし,本件競馬所得については,的中した個々の馬券の購入代金が不明
であったため,本件PAT口座の履歴から把握することができる最小単位で
ある各節における払戻金の総額から,当該節において馬券の購入に要した購
入代金の総額(当該節において,馬券の購入代金の総額が払戻金の総額を超
える場合には,その部分は「収入を得るために支出した金額」に該当しない
ことが明らかであるため,払戻金の総額を限度とする。)を控除して計算し
た。
具体的には,原告の本件PAT口座にJRAから振り込まれた払戻金及び
返還金(別表2-1ないし2-6の各「一時所得の金額(特別控除前)」の
「④収入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額(同「⑤収入
を得るために支出した金額」欄参照)を控除して,本件競馬所得に係る一時
所得の金額を計算した。
4争点及び争点に関する当事者の主張
本件における争点は,本件各処分の適法性であり,具体的には,①本件競
馬所得が,一時所得に該当するか,あるいは,雑所得に該当するか(本件競馬
所得の一時所得該当性),②本件競馬所得に係る所得の金額の計算上,本件
競馬所得に係る総収入金額から外れ馬券の購入代金を控除することができるか
(本件競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲),
が争われている。
争点に関する当事者の主張は,別紙3「被告の主張」及び別紙4「原告の主
張」のとおりであるが,その要点は次のとおりである。
本件競馬所得の一時所得該当性
(被告)
ア競馬では,いかに周到な準備に基づいて情報の分析を行い,レース結果
を予想したとしても,馬券購入者には左右し得ない的中という偶然の事象
が発生しなければ払戻金は発生しないから,払戻金の発生は,不確実,不
安定であることをその本質とするものであって,およそ継続的,安定的な
ものではない。また,競馬においては,各レースの結果は相互に影響せず,
それぞれの払戻金は完全に別個独立に発生するものであるから,一つの払
戻金という収入を発生させた原因行為は,当該的中馬券を購入した個々の
行為のみであり,レースの結果払戻金が発生すればそこで完結し,多数回
の馬券購入行為を総体的に観察しても,その性質が変わるものではない。
したがって,馬券購入行為は,客観的にみて継続的,安定的に収入を発生
させ得る行為とはいえないから,「営利を目的とする継続的行為」とはい
えず,これによって生じた馬券の的中による払戻金は,「営利を目的とす
る継続的行為から生じた所得」ではなく,「営利を目的とする継続的行為
から生じた所得以外の一時の所得」である。
仮に馬券の的中による払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じ
た所得」になる余地があったとしても,原告と別件当事者とでは,馬券購
入行為の態様に相違があるほか,原告が本訴訟において馬券購入行為の態
様等を明らかにする客観的な資料の不存在を自認していることからする
と,別件当事者の馬券の的中による払戻金とは異なり,原告の本件競馬所
得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」には当たらない。
イ原告は,本件競馬所得を構成する収入である払戻金の支払者であるJR
Aに対して何ら役務を提供していないし,そもそも,競馬の払戻金は,購
入した馬券が的中することによって生ずるものであるから,本件競馬所得
は「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」
である。
ウしたがって,本件競馬所得は,「営利を目的とする継続的行為から生じ
た所得以外の一時の所得」であり,かつ,「労務その他の役務又は資産の
譲渡の対価としての性質を有しないもの」であるから,一時所得に該当す
る。
(原告)
ア原告は,中央競馬の競走馬や騎手,レースを分析した上,的中率が低い
と判断されるレースを除き,中央競馬における1年間のほぼ全てのレース
において,独自のノウハウに基づいて着順の予想をし,6年間にわたり,
馬券を大量に機械的かつ継続的に購入しており,原告にとって馬券の購入
は,遊興的,娯楽的性格を一切帯びるものではなく,専ら投資としての性
質を有するものであった。そして,原告は,現実に,平成17年から平成
22年までの間,別表2-1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「③差
引金額」欄のとおりの多額の利益を上げていたことからすると,原告の馬
券購入行為は,営利を目的とした継続的行為であり,それによって生じた
本件競馬所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえる。
イまた,本件競馬所得は,原告独自のノウハウに基づく予測行為及び馬券
購入行為という一連の行為(労務)の対価としての性質を有するから,「労
務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に該
当しない。
ウしたがって,本件競馬所得は,「営利を目的とする継続的行為から生じ
た所得以外の一時の所得」ではなく,「労務その他の役務又は資産の譲渡
の対価としての性質を有しないもの」でもないから,一時所得に該当せず,
雑所得に該当する。
本件競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲
(被告)
ア本件競馬所得は雑所得ではなく一時所得であり,一時所得の総収入金額
から控除されるのは「その収入を得るために支出した金額」に限られると
ころ,原告が当該払戻金を得るために支出したのは的中馬券の購入代金だ
けであるから,外れ馬券の購入代金は一時所得に係る総収入金額から控除
されない。
イ仮に,本件競馬所得が雑所得に該当するとしても,外れ馬券の購入代金
は,「総収入金額を得るため直接に要した費用」でも,「所得を生ずべき
業務について生じた費用」でもないから,所得税法37条1項の規定する
必要経費には算入されず,雑所得に係る総収入金額から控除されない。
(原告)
ア本件競馬所得は雑所得であるところ,原告が本件競馬所得を得るために
は外れ馬券は必然的に生じるものであり,外れ馬券を含む購入した全馬券
の購入代金が払戻金を得るために必要不可欠な支出であったといえるから,
外れ馬券を含めた全馬券の購入代金が払戻金を得るために「直接に要した
費用」に該当し,所得税法37条1項の規定する必要経費に算入され,雑
所得に係る総収入金額から控除される。
イ仮に本件競馬所得が一時所得であったとしても,原告は,独自のノウハ
ウに基づき,1年を通じて,機械的,継続的に大量の馬券を購入していた
ことからすると,1年間に購入した全ての馬券の購入代金が「その収入を
得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収
入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)」に該当するもの
として,一時所得に係る総収入金額から控除されることになる。
また,原告の平成17年から平成22年までの馬券購入代金の累計額は
約72億6924万円,競馬による払戻金の累計額は約78億3782万
円であるところ,仮に外れ馬券の購入代金が所得から控除されないと,数
十億円の所得税が課されるほか,地方税も課されることになる。原告が平
成17年から平成22年に競馬で得た利益(手元に残る金銭)は約5億6
858万円であったことからすると,上記のような課税は原告の担税力を
超えた財産権を侵害する不当な課税といえる。
第3当裁判所の判断
1本件競馬所得の一時所得該当性について
本件競馬所得について問題となる所得区分について
本件競馬所得が利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,
退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得であることは当事者間に争いが
ないところ,所得税法34条1項が一時所得につき「利子所得,配当所得,
不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の
所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得
で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをい
う。」旨規定し,同法35条1項が雑所得につき「利子所得,配当所得,不
動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所
得のいずれにも該当しない所得をいう。」旨規定していることからすると,
本件競馬所得については,一時所得に該当するか否か,具体的には,「営利
を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」であり,かつ,
「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と
いう一時所得に該当するための要件を満たすか否かが問題となる。
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」につい

ア所得税
法上,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,
山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為か
ら生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に該当するところ,営利を目的
とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,当該行為ないし所得の
性質を踏まえた上で,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の
規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である
(別件最高裁判決参照)。
イこの点,被告は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか
否かは,所得を生じさせる個々の行為自体の性質から判断すべきであり,
馬券の的中による払戻金が,馬券の購入行為だけではなく,馬券の的中と
いう偶然の事象によって生じるものであって,客観的にみて継続的,安定
的に収入を発生させ得る行為とはいえないとか,払戻金を発生させる的中
馬券の購入行為以外に,払戻金を発生させない外れ馬券の購入行為をも含
めた一連の馬券購入行為の総体を営利を目的とする継続的行為に当たると
解することはできないなどとして,馬券の的中による払戻金はおよそ営利
を目的とする継続的行為から生じた所得とはならないと主張する。
しかしながら,所得税法の沿革を見ても,およそ営利を目的とする継続
的行為から生じた所得に関し,所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要
素として判断すべきであるという解釈がされていたとは認められない上,
いずれの所得区分に該当するかを判断するに当たっては,所得の種類に応
じた課税を定めている所得税法の趣旨,目的に照らし,所得及びそれを生
じた行為の具体的な態様も考察すべきであるから,馬券の的中による払戻
金の本来的な性質が一時的,偶発的な所得であるとの一事から営利を目的
とする継続的行為から生じた所得には当たらないと解釈すべきではない
(別件最高裁判決参照)。したがって,被告の上記の主張は採用すること
ができない。
ウそこで検討するに,前提事実によれば,原告は,自身の判断に基づい
て,A-PAT(IPAT方式)により,各節に開催される中央競馬のレ
ースについて,数年間にわたり,各節当たり数百万円から数千万円の馬券
を継続的に購入していたところ,その購入代金は,平成17年の後半から
は各節当たり数千万円となることがほとんどで,多いときには1億円を超
えており,平成17年には総額3億4541万1500円,平成18年に
は総額6億4613万7500円,平成19年には総額21億7355万
8800円,平成20年には総額15億6142万8800円,平成21
年には総額14億9462万0600円,平成22年には総額10億48
08万6000円,これらの総額として72億6924万3200円とな
っており(ただし,いずれの金額も返還金に係る馬券の購入代金を含む。),
払戻金の金額も,平成17年には総額3億6416万0850円,平成1
8年には総額7億0504万3500円,平成19年には総額22億95
45万5000円,平成20年には総額16億6688万5980円,平
成21年には総額17億0254万2850円,平成22年には総額11
億0373万6500円,これらの総額として78億3782万4680
円となっており(ただし,いずれの金額も返還金を含む。),節によって
利益が出る場合と損失となる場合があるものの,年単位でみると,平成1
7年には総額1874万9350円,平成18年には総額5890万60
00円,平成19年には総額1億2189万6200円,平成20年には
総額1億0545万7180円,平成21年には総額2億0792万22
50円,平成22年には総額5565万0500円,これらの総額として
5億6858万1480円の利益を得ていた。
エ上記ウのような原告による馬券の購入代金及び払戻金の各金額並びに得
ていた利益の状況に加え,原告は,別紙4「原告の主張」の第1の2のと
おり,独自のノウハウに基づいて着順を予測して馬券を購入していたと主
張し,これに沿う陳述をする(甲4)。
しかしながら,上記ウのとおり,原告が,数年間にわたって各節に継続
して,相当多額の中央競馬の馬券を購入していたことは確かであるが,原
告は具体的な馬券の購入を裏付ける資料を保存していないため(前提事実
),実際にどの馬券を購入したのか,どのような数,種類の馬券を購
入していたのか,競馬場やレースについて機械的,網羅的に馬券を購入し
ていたのか不明であり,原告が陳述(甲4)するような方法で馬券を購入
していたのかについては,客観的な証拠がなく,これを認めることができ
ない。
また,原告の主張によれば,原告は,コンピュータソフトを使用して自
動的に馬券を購入していたというわけではなく,原告の陳述(甲4)によ
れば,騎手の能力を評価して四半期に1回程度改訂するという騎手評価一
覧(甲4の4頁,資料1)や中央競馬の競馬場毎に作成したコース別レー
スシミュレーション(甲4の5頁,資料3)は作成していたようであるが,
中央競馬の各競馬場で行われるレースをテレビ(録画を含む。)で見たり,
競馬新聞,競馬雑誌を購入したりして競走馬に関する情報を集めた上(甲
4の1頁以下),集めた情報に基づき,中央競馬に登録された競走馬につ
いて「2,400mくらいのレースならかなりの能力がありGⅠ級」「芝
コースは苦手だが,ダートコースの短距離戦が得意でオープンクラスまで
行ける能力がある」「芝の短距離戦に適性が高く重賞を勝てる能力がある
が,外側にほかの馬がいると走る気をなくす悪癖がある」などいった内容
の絶対評価を行って(甲4の2頁以下),レース毎に,①馬の能力,②
騎手(技術),③コース適性,④枠順(ゲート番号),⑤馬場状
態への適性,⑥レース展開,⑦補正,⑧その日の馬のコンディショ
ンという考慮要素に基づいて各競走馬を評価した後(甲4の4頁以下),
上記のコース別レースシミュレーションによって補正をし(甲4の5頁以
下),レースの結果を予想して,予想の確度に応じた馬券の購入パターン
により,馬券の種類に応じて購入条件となる倍率を決めた購入基準に基づ
き,どのように馬券を購入するのかを個別に判断していたというのであり
(甲4の6頁以下),規模の点を別にすれば,このような馬券購入態様は,
一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大きな差があるもの
とは認められない。
オそして,競馬は公営賭博であり,馬券の的中による払戻金の発生は,本
来的に偶然性を排除することができない上,払戻金の総額が馬券の発売金
額の約75%になるものとされていること()に鑑みても,
そもそも競馬における馬券購入は営利を目的とする行為とはなり難い性質
のものであるところ,これを踏まえて検討するに,まず,原告が数年間に
わたって各節に継続して相当多額の馬券を購入し,結果的に多額の利益を
得ていたことは確かであるが(前記ウ),上記のような競馬における馬券
購入の性質からすると,それらのみをもって直ちに,本件競馬所得が営利
を目的とする継続的行為から生じた所得に該当するものと認めることはで
きない。また,原告による馬券の購入は,原告の陳述によっても,レース
の結果を予想して,予想の確度に応じて馬券の購入金額を決め,どのよう
に馬券を購入するのかを個別に判断していたというものであって,その馬
券購入の態様は,一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大き
な差があるものとは認められず,結局のところ,レース毎に個別の予想を
行って馬券を購入していたというものであって,自動的,機械的に馬券を
購入していたとまではいえないし,馬券の購入履歴や収支に関する資料が
何ら保存されていないため,原告が網羅的に馬券を購入していたのかどう
かを含めて原告の馬券購入の態様は客観的には明らかでないことからする
と(前記エ),原告による一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有
するというべきほどのものとまでは認められない。
そうすると,本件競馬所得は,結局のところ,個別の馬券が的中したこ
とによる偶発的な利益が集積したにすぎないものであって,営利を目的と
する継続的行為から生じた所得に該当するということはできない。
カ原告は,本件競馬所得が別件最高裁判決によって営利を目的とする継
続的行為から生じた所得と認められた別件当事者の馬券の的中による払
戻金に係る所得と類似するものであり,本件競馬所得も営利を目的とす
る継続的行為から生じた所得であると主張する。
そこで検討するに,前提事実並びに証拠(甲7,甲16,乙24)及
び弁論の全趣旨によれば,別件当事者による馬券の購入状況等は,次の
ようなものであったと認めることができる。
a別件当事者は,A-PATの加入者であり,自身名義のA-PAT
専用口座を開設し,同口座を利用して馬券を購入していた。
b別件当事者は,馬券購入に当たり,インターネットを通じて収集し
た競馬に関するデータに基づいて予想を行うソフトウェア「○」を使
用して,所有するパーソナルコンピュータからA-PATによる馬券
の購入申込みを行っていたところ,上記パーソナルコンピュータに保
存されていたデータによれば,原告の馬券の購入代金の総額は,平成
17年分が9334万6700円,平成18年分が5億1819万5
300円,平成19年分が6億6735万0200円,平成20年分
が14億2039万8800円,平成21年分が7億8176万56
00円であった。
c別件当事者は,馬券を購入するに当たり,回収率(合計購入金額に
対する合計払戻金の比率をいう。以下同じ。)を高めることを重視し
て,独自の想定に基づき,多種類の馬券を,前記aの口座の残高によ
って自動的に算定される投票限度額に依拠しつつ回収率が高まる方法
で購入することとし,回収率を高めるため,過去のレースにおける様々
な記録を取り寄せ,統計的な判断に依拠しながら,その中から導き出
せる普遍的要素ないし傾向を分析した。別件当事者は,その分析の結
果を一定の抽出条件として反映させるようにコンピュータソフトを設
定することにより,当該条件に見合う購入すべき馬券をコンピュータ
で自動的に抽出できるようにして,馬券の購入を自動的に行わせた。
その際,別件当事者の想定においては過去の記録に基づく統計的な判
断や普遍的要素ないし傾向が重視されているため,別件当事者は,個
別のレースにおける偶発的要素による影響をできるだけ排除するため,
条件に見合うレースと馬券がある限り,できるだけ多数のレースにお
いて多種類の馬券を網羅的に購入し,これを長期的に繰り返すことを
重視した。
d別件当事者が利用していたソフトウェア「○」は,的中率よりも回
収率を重視した競馬ソフトであり,レースに出走する馬ごとに得点が
計算され,その得点に基づいて独自の抽出条件により馬券の買い目を
抽出する機能を有するところ,上記の得点や抽出条件に代えて,ソフ
トウェアの使用者(以下「ユーザー」という。)が独自で考えた得点
(ユーザー得点)や抽出条件を利用して「○」に馬券を集出させるカ
スタマイズ機能も備えていた。そして,別件当事者は,「○」が有す
る過去のデータに基づいてユーザーが任意に設定した条件に当てはま
る買い目を買った場合の的中率や回収率を計算して表示する機能を利
用し,ユーザー得点を補正するなどしたが,その際,的中率がどれだ
け高くても回収率が低ければ長期的にみればマイナスが大きくなるこ
とから,的中率は無視することとした。さらに,別件当事者は,回収
率に影響を与え得る多数のファクターと回収率の関係を一つずつ検証
し,回収率との関係に普遍的な傾向が認められるファクターを見つけ
出す作業を行った。別件当事者は,休日を利用して数か月かけて上記
のような検証を行い,約40のファクターを採用し,これらのファク
ターに基づいてユーザー得点の計算式を補正した。そして別件当事者
は,各馬の得点(ユーザー得点)のより高い馬又はそれらの馬の組み
合わせに対応する買い目ほど回収率もよくなるはずであるとして,馬
券の種類ごとに得点がいくら以上であれば回収率が100%を超える
見込みが高いかを過去のデータに基づいて検証し,抽出条件を設定し
た。その上で別件当事者は,上記抽出条件により抽出されたそれぞれ
の馬券の購入金額を決めるための金額式を作成したが,その設定に当
たっては,収支を安定させるため,オッズに反比例するように購入金
額を設定するなどした。このようにして別件当事者は,もっぱら回収
率に着目し,多数のレースにおいて多種類の馬券を継続的に購入する
ことによって,想定した回収率に近づけ,収支を安定させ,期待する
黒字の収支を実現しようとした。
e別件当事者は,多くの場合,週の金曜日の夜にパーソナルコンピュ
ータと競馬のソフトウェアを起動し,競馬が開催される土曜日と日曜
日に馬券の自動購入を行わせ,日曜日の夜にその結果を確認していた。
f別件当事者の馬券購入は,平成16年に前記aの口座に100万円
を入金した後,適宜条件設定の見直しを行いながら,平成17年から
平成21年にかけての全競馬場の競走回数のうち,新馬戦及び障害レ
ースを除いた競走回数の65%から95%のレースにおいて馬券を購
入しており,各節ごとの馬券購入金額の総額は,平成17年5月以降
は百万円を超えるようになり,同年10月以降は数百万円単位となる
ことが常態化するようになっていた。
g別件当事者が馬券購入に用いていた前記bのパーソナルコンピュー
タには,各年分において,別件当事者が購入した馬券の種類や金額と
共に,的中馬券に係る払戻金の額が記録されていたところ,各年分に
おいて,上記パーソナルコンピュータに保存されている前記aの口座
における取引に基づいて別件当事者が交付を受けた払戻金の額は平成
17年分が1億0255万4720円,平成18年分が5億2612
万7600円,平成19年分が7億6778万1370円,平成20
年分が14億4683万5500円,平成21年分が7億9517万
6110円であった。
上記各事実によれば,別件当事者は,馬券を自動的に購入するソフト
を使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して
長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的
な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的
に上げていたということができるところ,別件最高裁判決は,一連の馬
券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの別件当事者に
係る事実関係の下では,払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じ
た所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原審
の判断は正当であるという判断を示した。
別件最高裁判決がその理由中で説示するとおり,営利を目的とする継
続的行為から生じた所得であるか否かは,行為の期間,回数,頻度その
他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して
判断するものであるから,これらの事情が異なれば結論が異なるのが当
然であるところ,原告は,別件当事者と同等以上の金額の馬券を購入し,
同等以上の利益を得ていたものの,原告の具体的な馬券の購入履歴等が
保存されていないため,原告が具体的にどのように馬券を購入していた
かは明らかでなく,原告が別件当事者のように馬券を機械的,網羅的に
購入していたとまでは認めることができないという本件の事実関係及び
証拠関係の下では,原告による一連の馬券の購入が一体の経済的活動の
実態を有するとまでは認めることができず,本件競馬所得が営利を目的
とする継続的行為から生じた所得には該当するものということはできな
い。
したがって,本件競馬所得が別件当事者の馬券の的中による払戻金に
係る所得と類似することを理由として本件競馬所得も営利を目的とする
継続的行為から生じた所得であるとする原告の主張は,採用することが
できない。
キ以上によれば,本件競馬所得は,「営利を目的とする継続的行為から生
じた所得以外の一時の所得」に該当するものと認められる。
「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」
について
一時所得といえるためには,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価と
しての性質を有しないもの」である必要があるところ,これが一時所得の要
件とされているのは,対価性を有する所得は,たとえ一時的なものであって
も偶発的に発生した所得ではなく,類型的にその担税力が対価性のない偶発
的な所得の担税力よりも大きいと考えられるからである。
そこで,本件競馬所得について検討するに,原告は,本件競馬所得を構成
する収入である払戻金の交付者であるJRAに対して何ら役務を提供してい
ない。また,競馬の払戻金は,購入した馬券が的中することによって生ずる
ものであり,仮に原告が購入する馬券の選択に当たって何らかのノウハウを
活用したとしても,それによって必ず払戻金を得られるわけではないから,
本件競馬所得は「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有
しないもの」に該当すると認めるのが相当である。
小括
以上のとおりであるから,本件競馬所得は,一時所得に該当するものと認
めることができる。
2本件競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲に
ついて
一時所得である本件競馬所得に係る総収入金額から控除することができる
馬券の購入代金の範囲について
前記1で判断したとおり,本件競馬所得は一時所得に該当するところ,所
得税法34条2項は,一時所得の金額は,その年中の一時所得に係る総収入
金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をする
ため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の
合計額を控除し,その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする
旨規定している。これは,一時所得の金額の計算上,一時所得に係る収入,
支出について,収入を生じた各行為又は各原因ごとに個別対応的に計算し,
その反面,収入を生じない行為又は原因に係る支出は控除項目から除かれる
ことを定めたものと解される。
そこで,本件競馬所得について検討するに,本件競馬所得を構成する収入
は馬券が的中したことによる払戻金であるところ,前記1オで説示したと
おり,原告による一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するものと
までは認められず,馬券が的中したことによる払戻金に関して「その収入を
生じた行為をするため直接要した金額」又は「その収入を生じた原因の発生
に伴い直接要した金額」は,結局のところ,当該払戻金に個別的に対応する
馬券の購入代金,すなわち,的中馬券の購入代金ということになるから,一
時所得である本件競馬所得に係る総収入金額から控除されるのは的中馬券の
購入代金に限られることになる。一方,当該払戻金に個別的に対応しない馬
券の購入代金,すなわち,外れ馬券の購入代金は,何ら収入を発生させてい
ない以上,一時所得である本件競馬所得に係る総収入金額からは控除されな
いことになる。
原告の主張について
ア原告は,本件競馬所得が一時所得に該当するとしても,1年を通じて独
自のノウハウに基づき,分析を行って馬券を購入してきたことからすると,
1年間に購入した全ての馬券の購入代金が「その収入を得るために支出し
た金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の
発生に伴い直接要した金額に限る。)」に該当するものとして,一時所得
の金額の計算上,総収入金額から控除されるべきであると主張するが,仮
に原告が,原告なりのノウハウを用いて継続的に馬券を購入していたとし
ても,本件競馬所得を構成する収入である的中馬券の払戻金を発生させた
のは飽くまでも的中馬券の購入代金であるから,外れ馬券の購入代金を含
めて総収入金額から控除されるべきであるという原告の主張は,所得税法
34条2項の解釈に反するものであって採用することができない。
イまた,原告は,外れ馬券の購入代金を本件競馬所得に係る総収入金額か
ら控除しないと,原告の担税力を超えた財産権を侵害する不当な課税にな
るとも主張するが,所得税法34条2項が,一時所得について,控除項目
の費用について収入を生じた行為又は原因ごとに個別対応的に計算するこ
ととしていることからも明らかなように,一時所得は収入発生の時点で所
得の発生が確定し,担税力も同時点において判断すべきことになる。そし
て,競馬の払戻金は,購入した馬券が的中することによって生ずるもので
あり,馬券の的中は,各競走の開催執務委員の着順の宣言によって確定し,
当該着順の宣言によって的中馬券を購入した者に払戻金の交付を受ける権
利が発生するのであり,その時点で,的中馬券を購入した者の純資産が払
戻金に係る「収入すべき金額」に対応する額だけ増加していることになる
から,同金額に見合う担税力が馬券購入(的中)者に生じていることは明
らかというべきである。原告の主張は,結局のところ,本来納税のために
留保すべき金員を馬券の購入に充て続けたために納税の資金が不足するこ
とをもって担税力を上回る不当な課税であると主張するものであって,に
わかに採用することができない。
3原告の平成17年分ないし平成22年分の所得税に係る納付すべき税額と本
件各処分の適法性について
原告の平成17年分ないし平成22年分の所得税に係る納付すべき税額に
ついて
ア前記1で説示したとおり,本件競馬所得は一時所得に該当し,また,前
記2で説示したとおり,外れ馬券の購入代金は一時所得である本件競馬所
得に係る総収入金額から控除することができないということになるから,
本件競馬所得に係る一時所得の金額の計算は,その総収入金額から的中馬
券の購入代金のみを控除して行うべきことになる。
この点,本件競馬所得に関しては,的中馬券の購入代金が不明であるこ
とからすると,各節における払戻金の総額から,その節において馬券の購
入に要した購入代金の総額(その節において,馬券の購入代金の総額が払
戻金の総額を超える場合には,その部分は「収入を得るために支出した金
額」に該当しないため,払戻金の総額を限度とする。)を控除して計算す
るという計算方法は,相応の合理性を有するものであり,かつ,原告に対
して本来の一時所得の金額を超えた金額を課税するものではないことか
らすれば,正当なものとして是認することができる。また,本件PAT口
座の入金額には原告が購入した馬券に係る払戻金だけではなく返還金が,
本件PAT口座の出金額には返還金に係る馬券の購入代金が,それぞれ含
まれているが(),返還金は,原告がその節に購入した馬券
について,開催中止,出走取消し又はレース除外により無効となった馬券
の購入代金と同額が返還されるものであるから,本件PAT口座の入金額
及び
出金額に基づいて本件競馬所得に係る一時所得の金額の計算をしたとし
ても,結局,返還金と返還金に係る馬券の購入代金が差し引きされること
により,本件競馬所得に係る一時所得の金額の計算上は影響がないという
ことになる。
イ上記アを前提として計算すると,証拠(甲1の1ないし6,甲2の1な
いし6,甲3の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,原告の平成17年
分ないし平成22年分の本件競馬所得に係る一時所得の金額(特別控除前)
は,別表2-1ないし2-6の各「一時所得の金額(特別控除前)」欄の
「⑥差引金額」欄のとおりであると認めることができ,原告の平成17年
分ないし平成22年分の所得税に係る納付すべき税額は,別紙2記載1の
とおりであると認めることができる。
本件各更正処分の適法性について
本件各更正処分における納付すべき税額は,別表1-1ないし1-6の各
「更正処分」欄の「納付すべき税額」欄記載のとおりであり,
した原告の平成17年分ないし平成22年分の所得税に係る納付すべき税額
と同額であるから,本件各更正処分は適法である。
本件各賦課決定処分における税額について
ア。
イそして,原告の平成17年分ないし平成21年分の所得税の確定申告に
つき,各法定申告期限(国税通則法2条7号,同法10条2項,所得税法
120条1項)までに期限内申告書(国税通則法17条)の提出がなかっ
たことについて,同法(平成17年分については,平成18年法律第10
号による改正前のもの)66条1項ただし書にいう正当な理由があるとは
認められない。
ウまた,賭博による所得は一時所得に該当するという解釈が一般的であり,
昭和45年7月1日付け直審(所)30(例規)「所得税基本通達の制定
について(法令解釈通達)」34-1においても,「次に掲げるようなも
のに係る所得は,一時所得に該当する」として,同通達の
券の払戻金,競輪の車券の払戻金等」とされていることなどからすると,
本件各更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実の
うち,本件各更正処分前における税額の計算の基礎とされなかったことに
ついて,平成17年分更正処分につき国税通則法(平成18年法律第10
号による改正前のもの)66条2項によって準用される同法65条4項,
平成18年分ないし平成21年分更正処分につき国税通則法66条4項に
よって準用される同法65条4項,平成22年分更正処分につき同法65
条4項にいう正当な理由があると認められるものがあるとは認められな
い。
エそうすると,原告に対しては平成17年分ないし平成21年分の所得税
に係る無申告加算税及び平成22年分の所得税に係る過少申告加算税が
課されるべきことになり,その額は,別紙2記載3のとおりで
あると認めることができる。
本件各賦課決定処分の適法性について
本件各賦課決定処分において原告に課された税額は,別表1-1ないし1
-5の各「更正処分」欄の「無申告加算税」欄及び別表1-6の「更正処分」
欄の「過少申告加算税」欄各記載のとおりであり,
7年分ないし平成21年分の所得税に係る無申告加算税及び平成22年分の
所得税に係る過少申告加算税の各税額と同額であるから,本件各賦課決定処
分は適法である。
4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官増田稔
裁判官齊藤充洋
裁判官佐野義孝
(別紙1)
関係法令の定め
1所得区分
所得税法21条1項1号は,所得を,利子所得,配当所得,不動産所得,
事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得及び雑所得
の10種類に区分し,これらの所得ごとに所得の金額を計算する旨規定して
いる。
所得税法34条1項は,一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,
事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,
営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他
の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定して
いる。
所得税法35条1項は,雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,
事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれ
にも該当しない所得をいう旨規定している。
2所得の金額の計算方法
所得税法22条2項2号は,一時所得の金額を他の所得の金額と合算して
総所得金額を算出する際は,当該一時所得の金額の2分の1に相当する金額
を合計する旨規定している。
所得税法34条2項は,一時所得の金額は,その年中の一時所得に係る総
収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為を
するため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)
の合計額を控除し,その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とす
る旨規定し,同条3項は,その特別控除額を50万円(上記の残額が50万
円に満たない場合には,当該残額)とする旨規定している。
所得税法35条2項は,雑所得の金額は,その年中の公的年金等の収入金
額から公的年金等控除額を控除した残額と,その年中の雑所得(公的年金等
に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額との合
計額とする旨規定している。
所得税法37条1項は,その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又
は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるも
のを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費そ
の他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用で
その年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
3法定申告期限
所得税法120条1項は,居住者は,その年分の総所得金額,退職所得金
額及び山林所得金額の合計額が同法第2章第4節(所得控除)の規定による
雑損控除その他の控除の額の合計額を超える場合において,当該総所得金額,
退職所得金額又は山林所得金額からこれらの控除の額を同法87条2項(所
得控除の順序)の規定に準じて控除した後の金額をそれぞれ課税総所得金額,
課税退職所得金額又は課税山林所得金額とみなして同法89条(税率)の規
定を適用して計算した場合の所得税の額の合計額が配当控除の額を超えると
きは,同法123条1項(確定損失申告)の規定による申告書を提出する場
合を除き,第3期(その年の翌年2月16日から3月15日までの期間をい
う。)において,税務署長に対し,所定の事項を記載した申告書を提出しな
ければならない旨規定している。
国税通則法18条1項は,期限内申告書を提出すべきであった者は,その
提出期限後においても,同法25条(決定)の規定による決定があるまでは,
納税申告書を税務署長に提出することができる旨規定している。
4過少申告加算税に関する法令の定め
国税通則法65条1項は,法定申告期限内に確定申告書が提出された場合
(期限後申告書が提出された場合において,同法66条1項ただし書又は6
項の規定の適用があるときを含む。)において,修正申告書の提出又は更正
があったときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき同法3
5条2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算
した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
また,平成18年法律第10号による改正前の国税通則法65条1項は,
法定申告期限内に確定申告書が提出された場合(期限後申告書が提出された
場合において,同法66条1項ただし書の規定の適用があるときを含む。)
において,修正申告書の提出又は更正があったときは,当該納税者に対し,
その修正申告又は更正に基づき同法35条2項の規定により納付すべき税額
に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を
課する旨規定している。
国税通則法65条2項は,同条1項の規定に該当する場合において,同項
に規定する納付すべき税額(同項の修正申告又は更正前に当該修正申告又は
更正に係る国税について修正申告書の提出又は更正があったときは,その国
税に係る累積増差税額を加算した金額)がその国税に係る期限内申告税額に
相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは,同項の過少
申告加算税の額は,同項の規定にかかわらず,同項の規定により計算した金
額に,当該超える部分に相当する税額(同項に規定する納付すべき税額が当
該超える部分に相当する税額に満たないときは,当該納付すべき税額)に1
00分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定してい
る。
国税通則法65条4項は,同条1項又は2項に規定する納付すべき税額の
計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基
礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがあ
る場合には,これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があ
ると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した
金額を控除して,同項の規定を適用する旨規定している。
5無申告加算税に関する法令の定め
国税通則法66条1項本文は,期限後申告書の提出若しくは同法25条(決
定)の規定による決定があった場合(同法66条1項1号)又は期限後申告
書の提出若しくは上記決定があった後に修正申告書の提出若しくは更正があ
った場合(同項2号)には,当該納税者に対し,その申告,更正又は決定に
基づき同法35条2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合
を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し,同法66
条1項ただし書は,法定申告期限内に確定申告書が提出されなかったことに
ついて,正当な理由があると認められる場合は,この限りでない旨規定して
いる。
また,平成18年法律第10号による改正前の国税通則法66条1項も,
上記と同様に規定している。
国税通則法66条2項は,同条1項に該当する場合において,同項に規定
する納付すべき税額(同項2号の修正申告書の提出又は更正があったときは,
その国税に係る累積納付税額を加算した金額)が50万円を超えるとき
は,同項の無申告加算税の額は,同項の規定にかかわらず,同項の規定によ
り計算した金額に,当該超える部分に相当する税額(同項に規定する納付す
べき税額が当該超える部分に相当する税額に満たないときは,当該納付すべ
き税額)に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする
旨規定している。
国税通則法66条4項(平成18年法律第10号による改正前は同条2項)
は,同法65条4項の規定は,期限後申告書の提出又は同法25条の規定に
よる決定があった後に修正申告書の提出又は更正があった場合について準用
する旨規定している。
以上
(別紙2)
本件各処分の根拠と適法性(被告の主張)
1本件各更正処分の根拠
被告が本訴において主張する原告の平成17年分ないし平成22年分の所得
税の納付すべき税額等は,それぞれ,次のとおりである。
平成17年分
ア総所得金額4670万9875円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(4427万7075円)との合計額である(所得税法2
2条2項)。
給与所得の金額243万2800円
上記金額は,原告が平成17年分の所得税の確定申告書(以下「平成
17年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額8855万4150円
上記金額は,本件PAT口座に平成17年1月6日から同年12月2
6日までの期間にJRAから振り込まれた馬券の的中による払戻金及び
返還金の合計3億6416万0850円(別表2-1「①入金金額」欄
及び「④収入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額2億
7510万6700円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄
参照。なお,JRAに口座振替された馬券の購入代金(同別表の「②出
金金額」欄参照)が入金金額を上回る場合は,入金金額を限度とする。
以下同じ。)を控除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控
除した金額である。
イ所得控除の額の合計額116万2323円
上記金額は,原告が平成17年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額4554万7000円
上記金額は,前記アの金額4670万9875円から上記イの金額11
6万2323円を控除した後の金額(ただし,国税通則法118条1項の
規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)で
ある。
エ納付すべき税額1401万0700円
上記金額は,次のの金額から及びの各金額を差し引いた後の金額
(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切
り捨てた後のもの。以下同じ。)である。
課税総所得金額に対する税額1436万2390円
上記金額は,前記ウの金額4554万7000円に所得税法(平成1
8年法律第10号による改正前のもの)89条1項及び経済社会の変化
等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する
法律(以下「負担軽減措置法」という。平成18年法律第10号による
廃止前のもの。)4条に規定する税率を乗じて算出した金額である。
定率減税額25万円
上記金額は,負担軽減措置法(平成17年法律第21号による改正前
のもの)6条2項の規定により算出した金額である。
源泉徴収税額10万1600円
上記金額は,原告が平成17年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
平成18年分
ア総所得金額8595万3775円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(8274万3375円)との合計額である(所得税法2
2条2項)。
給与所得の金額321万0400円
上記金額は,原告が平成18年分の所得税の確定申告書(以下「平成
18年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額1億6548万6750円
上記金額は,原告の本件PAT口座に平成18年1月6日から同年1
2月25日までの期間にJRAから振り込まれた払戻金及び返還金の合
計7億0504万3500円(別表2-2「①入金金額」欄及び「④収
入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額5億3905万
6750円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄参照)を控
除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控除した金額である。
イ所得控除の額の合計額125万1616円
上記金額は,原告が平成18年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額8470万2000円
上記金額は,前記アの金額8595万3775円から上記イの金額12
5万1616円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額2854万8500円
上記金額は,次のの金額から及びの各金額を差し引いた後の金額
である。
課税総所得金額に対する税額2884万9740円
上記金額は,前記ウの金額8470万2000円に所得税法(平成1
8年法律第10号による改正前のもの)89条1項及び負担軽減措置法
(平成18年法律第10号による廃止前のもの。)4条に規定する税率
を乗じて算出した金額である。
定率減税額12万5000円
上記金額は,負担軽減措置法(平成18年法律第10号による廃止前
のもの。)6条2項の規定により算出した金額である。
源泉徴収税額17万6200円
上記金額は,原告が平成18年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
平成19年分
ア総所得金額2億9041万7950円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(2億8722万0350円)との合計額である(所得税
法22条2項)。
給与所得の金額319万7600円
上記金額は,原告が平成19年分の所得税の確定申告書(以下「平成
19年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額5億7444万0700円
上記金額は,原告の本件PAT口座に平成19年1月9日から同年1
2月25日までの期間にJRAから振り込まれた払戻金及び返還金の合
計22億9545万5000円(別表2-3「①入金金額」欄及び「④
収入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額17億205
1万4300円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄参照)
を控除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控除した金額で
ある。
イ所得控除の額の合計額128万3066円
上記金額は,原告が平成19年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額2億8913万4000円
上記金額は,前記アの金額2億9041万7950円から上記イの金額
128万3066円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額1億1276万1900円
上記金額は,次のの金額からの金額を差し引いた後の金額である。
課税総所得金額に対する税額1億1285万7600円
上記金額は,前記ウの金額2億8913万4000円に所得税法(平
成25年法律第5号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を
乗じて算出した金額である。
源泉徴収税額9万5700円
上記金額は,原告が平成19年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
平成20年分
ア総所得金額1億9692万3405円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(1億9316万2605円)との合計額である(所得税
法22条2項)。
給与所得の金額376万0800円
上記金額は,原告が平成20年分の所得税の確定申告書(以下「平成
20年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額3億8632万5210円
上記金額は,原告の本件PAT口座に平成20年1月7日から同年1
2月29日までの期間にJRAから振り込まれた払戻金及び返還金の合
計16億6688万5980円(別表2-4「①入金金額」欄及び「④
収入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額12億800
6万0770円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄参照)
を控除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控除した金額で
ある。
イ所得控除の額の合計額134万1899円
上記金額は,原告が平成20年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額1億9558万1000円
上記金額は,前記アの金額1億9692万3405円から上記イの金額
134万1899円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額7529万2100円
上記金額は,次のの金額からの金額を差し引いた後の金額である。
課税総所得金額に対する税額7543万6400円
上記金額は,前記ウの金額1億9558万1000円に所得税法(平
成25年法律第5号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を
乗じて算出した金額である。
源泉徴収税額14万4300円
上記金額は,原告が平成20年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
平成21年分
ア総所得金額2億6012万8180円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(2億5616万2580円)との合計額である(所得税
法22条2項)。
給与所得の金額396万5600円
上記金額は,原告が平成21年分の所得税の確定申告書(以下「平成
21年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額5億1232万5160円
上記金額は,原告の本件PAT口座に平成21年1月6日から同年1
2月28日までの期間にJRAから振り込まれた払戻金及び返還金の合
計17億0254万2850円(別表2-5「①入金金額」欄及び「④
収入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額11億897
1万7690円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄参照)
を控除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控除した金額で
ある。
イ所得控除の額の合計額136万6739円
上記金額は,原告が平成21年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額2億5876万1000円
上記金額は,前記アの金額2億6012万8180円から上記イの金額
136万6739円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額1億0054万6100円
上記金額は,次のの金額からの金額を差し引いた後の金額である。
課税総所得金額に対する税額1億0070万8400円
上記金額は,前記ウの金額2億5876万1000円に所得税法(平
成25年法律第5号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を
乗じて算出した金額である。
源泉徴収税額16万2300円
上記金額は,原告が平成21年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
平成22年分
ア総所得金額1億2313万3950円
上記金額は,次のの給与所得の金額との一時所得の金額の2分の1
に相当する金額(1億1928万6750円)との合計額である(所得税
法22条2項)。
給与所得の金額384万7200円
上記金額は,原告が平成22年分の所得税の確定申告書(以下「平成
22年分確定申告書」という。)に記載した給与所得の金額と同額であ
る。
一時所得の金額2億3857万3500円
上記金額は,原告の本件PAT口座に平成22年1月6日から同年9
月27日までの期間にJRAから振り込まれた払戻金及び返還金の合計
11億0373万6500円(別表2-6「①入金金額」欄及び「④収
入金額」欄参照)から,収入を得るために支出した金額8億6466万
3000円(同別表「⑤収入を得るために支出した金額」欄参照)を控
除したものから,一時所得の特別控除額50万円を控除した金額である。
イ所得控除の額の合計額140万7524円
上記金額は,原告が平成22年分確定申告書に記載した所得控除の額の
合計額と同額である。
ウ課税総所得金額1億2172万6000円
上記金額は,前記アの金額1億2313万3950円から上記イの金額
140万7524円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額4574万8000円
上記金額は,次のの金額からの金額を差し引いた後の金額である。
課税総所得金額に対する税額4589万4400円
上記金額は,前記ウの金額1億2172万6000円に所得税法(平
成25年法律第5号による改正前のもの)89条1項に規定する税率を
乗じて算出した金額である。
源泉徴収税額14万6400円
上記金額は,原告が平成22年分確定申告書に記載した源泉徴収税額
と同額である。
2本件各更正処分の適法性
被告が,本訴において主張する原告の平成17年分ないし平成22年分の各
納付すべき税額は,前記1エ,同エ,同エ,同エ,同エ及び同エ
のとおり,それぞれ次の金額となる。
平成17年分1401万0700円
平成18年分2854万8500円
平成19年分1億1276万1900円
平成20年分7529万2100円
平成21年分1億0054万6100円
平成22年分4574万8000円
上記各金額は本件各更正処分に係る各納付すべき税額(別表1-1ないし1
-6の各「更正処分」欄の「納付すべき税額」欄参照)と同額であるから,本
件各更正処分はいずれも適法である。
3本件各賦課決定処分の根拠
上記2のとおり本件各更正処分はいずれも適法であるところ,本件各更正処
分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち,本件各更正
処分前における税額の計算の基礎とされなかったことについて,平成17年分
更正処分につき国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの)6
6条2項によって準用される同法65条4項,平成18年分ないし平成21年
分更正処分につき国税通則法66条4項によって準用される同法65条4項,
平成22年分更正処分につき同法65条4項にいう正当な理由があるとは認め
られない。
また,平成17年分ないし平成21年分の所得税の確定申告につき,各法定
申告期限(国税通則法2条7号,同法10条2項,所得税法120条1項)ま
でに期限内申告書(国税通則法17条)の提出がなかったことについて,同法
(平成17年分については,平成18年法律第10号による改正前のもの)6
6条1項ただし書にいう正当な理由があるとは認められない。
したがって,本件各更正処分に伴って原告に課されるべき無申告加算税及び
過少申告加算税の額は,次のとおりである。
平成17年分の所得税に係る無申告加算税の額141万6000円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額1401万0700円から確定
申告に係る納付すべき税額456万5400円(別表1-1「確定申告」欄
の順号⑩参照)を差し引いた金額944万円(国税通則法118条3項の規
定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ)に対して,国
税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの)66条1項の規定
に基づき100分の15の割合を乗じて算出した金額である。
平成18年分の所得税に係る無申告加算税の額176万4000円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額2854万8500円から確定
申告に係る納付すべき税額1972万8400円(別表1-2「確定申告」
欄の順号⑩参照)を差し引いた金額882万円に対して,国税通則法66条
1項の規定による100分の15の割合を乗じて算出した金額132万30
00円に,同条2項の規定により,新たに納付すべき税額882万0100
円に確定申告に係る納付すべき税額1972万8400円(同別表「確定申
告」欄の順号⑩参照)を加算した金額2854万8500円が50万円を超
えるため,当該超える部分に相当する税額882万円(新たに納付すべき税
額882万0100円が当該超える部分に相当する税額2804万8500
円に満たないため,当該新たに納付すべき税額)に100分の5を乗じて算
出した金額44万1000円を加算した金額である。
平成19年分の所得税に係る無申告加算税の額1322万4000円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額1億1276万1900円から
確定申告に係る納付すべき税額4663万2300円(別表1-3「確定申
告」欄の順号⑨参照)を差し引いた金額6612万円に対して,国税通則法
66条1項の規定による100分の15の割合を乗じて算出した金額991
万8000円に,同条2項の規定により,新たに納付すべき税額6612万
9600円に確定申告に係る納付すべき税額4663万2300円(同別表
「確定申告」欄の順号⑨参照)を加算した金額1億1276万1900円が
50万円を超えるため,当該超える部分に相当する税額6612万円(新た
に納付すべき税額6612万9600円が当該超える部分に相当する税額1
億1226万1900円に満たないため,当該新たに納付すべき税額)に1
00分の5を乗じて算出した金額330万6000円を加算した金額であ
る。
平成20年分の所得税に係る無申告加算税の額701万6000円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額7529万2100円から確定
申告に係る納付すべき税額4021万0100円(別表1-4「確定申告」
欄の順号⑨参照)を差し引いた金額3508万円に対して,国税通則法66
条1項の規定による100分の15の割合を乗じて算出した金額526万2
000円に,同条2項の規定により,新たに納付すべき税額3508万20
00円に確定申告に係る納付すべき税額4021万0100円(同別表「確
定申告」欄の順号⑨参照)を加算した金額7529万2100円が50万円
を超えるため,当該超える部分に相当する税額3508万円(新たに納付す
べき税額3508万2000円が当該超える部分に相当する税額7479万
2100円に満たないため,当該新たに納付すべき税額)に100分の5を
乗じて算出した金額175万4000円を加算した金額である。
平成21年分の所得税に係る無申告加算税の額385万8000円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額1億0054万6100円から
確定申告に係る納付すべき税額8125万0100円(別表1-5「確定申
告」欄の順号⑨参照)を差し引いた金額1929万円に対して,国税通則法
66条1項の規定による100分の15の割合を乗じて算出した金額289
万3500円に,同条2項の規定により,新たに納付すべき税額1929万
6000円に確定申告に係る納付すべき税額8125万0100円(同別表
「確定申告」欄の順号⑨参照)を加算した金額1億0054万6100円が
50万円を超えるため,当該超える部分に相当する税額1929万円(新た
に納付すべき税額1929万6000円が当該超える部分に相当する税額1
億0004万6100円に満たないため,当該新たに納付すべき税額)に1
00分の5を乗じて算出した金額96万4500円を加算した金額である。
平成22年分の所得税に係る過少申告加算税の額279万5500円
上記金額は,前記1エの納付すべき税額4574万8000円から確定
申告に係る納付すべき税額2029万3600円(別表1-6「確定申告」
欄の順号⑨参照)を差し引いた金額2545万円に対して,国税通則法65
条1項の規定による100分の10の割合を乗じて算出した金額254万5
000円に,同条2項の規定により,新たに納付すべき税額2545万44
00円のうち,期限内申告税額2044万円(同別表の「確定申告」の順号
⑧及び同順号⑨の各金額の合計額)と50万円とのいずれか多い金額(20
44万円)を超える部分に相当する税額501万円(同法118条3項の規
定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に同法65条2項の規
定により100分の5の割合を乗じた金額25万0500円を加算した金額
である。
4本件各賦課決定処分の適法性
被告が本訴において主張する本件各更正処分に伴って原告に課されるべき無
申告加算税の額及び過少申告加算税の額は,前記3ないしのとおり,それ
ぞれ次の金額となる。
平成17年分141万6000円
平成18年分176万4000円
平成19年分1322万4000円
平成20年分701万6000円
平成21年分385万8000円
平成22年分279万5500円
上記各金額は本件各賦課決定処分における無申告加算税の額(別表1-1な
いし1-5の各「更正処分」欄の「無申告加算税」欄参照)及び過少申告加算
税の額(別表1-6の「更正処分」欄の「過少申告加算税」欄参照)といずれ
も同額であるから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
以上
(別紙3)
被告の主張
第1本件競馬所得の一時所得該当性
1一時所得の意義及び要件
所得税法34条1項は,「一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,
事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営
利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役
務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定してい
る。
したがって,一時所得に該当するためには,利子所得ないし譲渡所得以外の
所得であることを前提として,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得
以外の一時の所得」であること,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価と
しての性質を有しないもの」であること,の各要件をいずれも満たすことが必
要となる。
2本件競馬所得は,所得税法34条1項の「営利を目的とする継続的行為から
生じた所得以外の一時の所得」に該当すること
「営利を目的とする継続的行為」の意義
ア一時所得は,臨時的,偶発的,恩恵的な所得であるところに特徴があり,
そのため担税力が低いとされ,所得金額の2分の1に相当する金額のみを
課税標準とするとされ(所得税法22条2項2号),かつ,その収入を得
るために支出した金額については,収入と支出の個別的な対応が厳格に求
められているところ(同法34条2項),上記のような一時所得から「営
利を目的とする継続的行為から生じた所得」が除外されているのは,それ
が臨時的,偶発的,恩恵的な所得とはいえないからである。
したがって,一時所得から除外される「営利を目的とする継続的行為か
ら生じた所得」とは,臨時的,偶発的,恩恵的な所得とはいえないものを
意味することになる。
そして,「営利を目的とする」とは,財産上の利益を得又は第三者に得
させることを目的とすることをいうから,一時所得から除外される「営利
を目的とする継続的行為から生じた所得」は,実際に利益を得ることまで
は必要でないが,少なくとも,客観的に利益を得る可能性がある行為から
生ずることを要する。なぜなら,営利の目的が納税者の主観的認識のみに
係るものであって,客観的に利益を生じる可能性がないのであれば,当該
行為から生じる所得が臨時的,偶発的,恩恵的な所得ではないとはいい難
いからである。
そうすると,所得税法34条1項の一時所得から除かれる「営利を目的
とする継続的行為から生じた所得」とは,客観的に利益を得る可能性があ
る行為から生じた所得をいうと解すべきである。
イまた,一定の所得を生み出す行為や事実については,所得の発生に直結
するものから,所得の発生と一定の因果関係はあるものの間接的であるも
の,全く無関係ではないがその行為ないし事実がなくとも所得が発生する
ようなものまで,様々なものが考えられるところ,所得税法34条1項の
文言が「営利を目的とする継続的行為」から「生じた」と規定しているこ
と,また,所得は,収入から必要経費を差し引いた残余分であり,収入が
生じない場合にはおよそ所得が発生する余地がないことからすると,「営
利を目的とする継続的行為」に当たるか否かを検討するのは,当該所得の
発生原因となる行為についてであり,当該所得との間に何らかの関連性を
持つ全ての行為ではなく,「営利を目的とする継続的行為」とは所得発生
の原因となる行為であり,具体的には所得の基礎を成す「収入」を発生さ
せる個々の行為を指すこととなる。
そして,収入を発生させる個々の行為が客観的にみて継続的,安定的に
収入を発生させ得るといえるか否かは,収入を発生させる個々の行為のみ
をみて判断すべきであり,それ以外の外部的事情を考慮すべきではないか
ら,収入を発生させる個々の行為がそれ自体では収入を発生させるもので
はなく,当該行為以外に行為者には左右し得ない他の事象又は事実が存在
して初めて収入を発生させ得るような場合には,もはや当該収入を発生さ
せる個々の行為自体は,その性質上,客観的にみて継続的,安定的に収入
を発生させ得るものとはいえないことになる。
ウこのように,一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から
生じた所得」が,客観的にみて利益を発生させる可能性がある行為から生
じた所得であるといえるためには,その基礎となる収入を発生させる個々
の行為が,その性質上,客観的にみて継続的,安定的に収入を発生させ得
る性質を持つものでなければならない。そして,このような解釈は,一時
所得に対する課税の沿革からも裏付けられる。
本件競馬所得が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当し
ないこと
ア本件競馬所得は原告が交付を受けた払戻金の集積であるから,本件競馬
所得の基礎を成す収入とはレースの結果により発生する個々の払戻金であ
り,収入を発生させる行為とは払戻金を発生させた的中馬券を購入する行
為である。
したがって,本件競馬所得が「営利を目的とする継続的行為から生じた
所得以外の一時の所得」に当たるか否かは,個々の馬券購入行為が,その
性質上,客観的にみて継続的,安定的に収入を発生させ得るものか否かに
より判断すべきであって,馬券購入の回数や頻度,態様,結果として得ら
れた払戻金の多寡といった外部的事情を考慮すべきではない。
イそこで,馬券購入行為の性質を検討するに,競馬は公営賭博であるとこ
ろ,そもそも賭博とは,当事者間において財物を賭け,偶然の事象によっ
て勝敗を決することにより,その財物を得喪する行為である。ここにいう
偶然とは,勝敗の帰すうが当事者の確たる認識又は支配の外にあることで
あり,当事者の知識を基準として,その了知しない出来事又は将来の不測
の結果をいう。そのため,賭博は,そもそも,その行為から収入が発生す
ることが不確実,不安定であることをその本質とするものであり,継続的,
安定的に収入を発生させることが予定されていない性質の行為であること
が明らかである。
競馬も,レースの結果という偶然の事象によって勝敗を決することによ
り,賭け金の得喪を争うものであり,本来的に払戻金の発生は不確実であ
る。すなわち,馬券購入行為だけでは払戻金が発生することはなく,払戻
金の発生は,各レースの結果により偶然に決定されものであり,しかも,
競馬では,いかに周到な準備に基づいて情報の分析を行い,レース結果を
予想したとしても,馬券購入者には左右し得ない的中という偶然の事象が
発生しなければ払戻金を発生させ得ないものであって,払戻金の発生が不
確実,不安定であることをその本質とするものであるから,払戻金の発生
は継続的,安定的に発生するものではない。また,競馬においては,いか
に購入態様を工夫して多数かつ多種類の馬券を購入したとしても,各レー
スの結果は相互に影響せず,それぞれの払戻金は完全に別個独立に発生す
るものであるから,一つの払戻金という収入を発生させた原因行為は,当
該的中馬券を購入した個々の行為のみであり,レースの結果払戻金が発生
すればそこで完結するのであるから,多数回の馬券購入行為を総体的に観
察したからといって,その性質が変わるものではない。さらに,競馬にお
いては,全馬券の販売金額のうち平均25%が控除され,その余の平均7
5%の金額のみが払戻金として的中馬券の購入者に分配されるのであり,
その制度自体からして,馬券購入者の全員が払戻金を獲得し得ないように
設計されており(競馬法8条1項),このような競馬の本質からすると,
ある馬券購入者の回収率が一時的に上がったとしても,馬券購入者の多く
がそのような行動をとって一般化すれば,一定の回収率を維持することは
できなくなるのであって,馬券購入行為は,客観的にみて継続的,安定的
に収入を得ることができないという本質には何ら変わりはない。
以上のことからすると,馬券購入行為は,そもそもその行為の性質上,
客観的にみて継続的,安定的に収入を発生させ得る行為とはいえないもの
である。また,馬券購入行為は,馬券を1回購入すれば完了する一回的行
為であり,本質的に一定期間継続して行われるものではない上,レースの
結果払戻金が発生すればそこで完結するという性質を持つものであるか
ら,客観的にみて継続的,安定的に収入を発生させ得る行為とはいえない。
したがって,馬券購入行為自体の性質からすれば,本件競馬所得は,「営
利を目的とする継続的行為から生じた所得」とはいえず,「営利を目的と
する継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」に該当するというべき
である。
ウなお,所得税法は,個々の収入の性質,源泉からどの所得区分に係る収
入に該当するのかを判断し,その所得区分に分類された個々の収入の集積
を「総収入金額」として,そこから必要経費等を控除するという計算方法
を定めており,個々の収入ごとに,その性質,源泉,発生態様を踏まえて,
どの所得区分に係る収入かを決定することを所与の前提としているのであ
り,一定期間内に発生した個々の収入を総体として一つの収入と捉え,そ
の総体としての収入の性質や発生態様から所得区分を決定するということ
は,そもそも予定していない。また,所得税法は,個々の収入を所得金額
の計算の出発点としているため,そもそも収入を発生させない行為につい
て,所得を発生させる原因行為と捉えることはあり得ないところ,所得税
法34条1項は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と規定し
ており,「営利を目的とする継続的行為」は,収入を発生させる原因とな
る個々の行為として理解すべきであるから,収入を発生させない行為はこ
れに含まれないというべきである。したがって,収入を発生させない行為
をも「営利を目的とする継続的行為」に含めることは,所得税法34条1
項の解釈として予定されていないと解される。
これを馬券の的中による払戻金に係る所得についてみると,当該所得は,
払戻金という個々の収入の集積であるところ,払戻金の発生は個々のレー
スの結果により偶然に決定されており,各レースの結果は相互に影響せず,
完全に別個独立に生じているものである。そして,払戻金という収入を発
生させる行為は,的中馬券の購入という1回的行為であるから,個々の払
戻金の集積である的中馬券の払戻金に係る所得についても,その所得発生
の原因となった行為は,それぞれの的中馬券を購入した個々の行為である。
一方,外れ馬券の購入行為は,払戻金という収入を発生させていないので
あるから,そもそも所得の発生原因行為として認識することはできず,「営
利を目的とする継続的行為」に含めることはできない。
これに対し,払戻金を発生させる的中馬券の購入行為以外に,払戻金を
発生させない外れ馬券の購入行為をも含めて,一連の馬券購入行為を総体
として捉え,「営利を目的とする継続的行為」に当たるとする考えでは,
一連の行為を総体として評価することができるまでは所得区分が不明と
なるが,このような考えは,所得税法の採用しているところではなく,同
項の解釈,適用を誤ったものといわざるを得ない。
別件当事者の馬券の的中による払戻金との違いについて
別件当事者の馬券購入行為の態様は,専ら回収率に注目し,多数のレース
において多種類の馬券を継続的に購入することによって,個別のレースにお
ける当たり外れの偶然性の要素による影響を抑え,想定した回収率に近づけ,
収支を安定させ,総体として利益を獲得しようとするものであって,条件に
見合うレースと馬券がある限り,できるだけ多数のレースにおいて多種類の
馬券を網羅的に,また,継続的かつ自動的に購入したというものであり,別
件当事者のパーソナルコンピュータには,別件当事者が購入した馬券の種類
や金額とともに,的中馬券に係る払戻金の額が記録されていたというもので
ある。
これに対し,原告の馬券購入行為の態様は,まず,原告自ら認めるとおり,
馬券購入にコンピュータソフトを使用していない点で別件当事者とは明らか
に異なっている。すなわち,別件当事者の馬券購入行為の態様は,「分析の
結果を一定の抽出条件として反映させるようにコンピュータソフトを設定す
ることにより,当該条件に見合う購入すべき馬券をコンピュータで自動的に
抽出できるようにした上,原告(引用者注:別件当事者)が定めた条件に従
った馬券の購入を自動的に行わせた」という機械的,網羅的,客観的なもの
であるのに対し,原告の馬券購入行為の態様は,コンピュータソフトを用い
ることなく,原告が自らの頭の中で考えてどのような馬券をどのくらいの金
額で購入するかを決定していたというのであるから,別件当事者の馬券購入
行為の態様とは全く異なる。
また,原告が主張する購入馬券の予測方法は,原告自身が「馬券をどう購
入するか」について「私の頭の中を説明」したところによると,原告が,そ
の「洞察力」に基づいて各馬や騎手の能力の「絶対的評価」や「ファクター」
を「レース毎に判断」し,「レース直前までの情報を独自のノウハウに組み
込み予測行為を行」っているというのであり,飽くまで原告の内心における
主観的な思考過程を述べるものにすぎず,原告の馬券購入行為の態様は何ら
客観的なものでもない。その点を措くとしても,このような原告の予測方法
は,飽くまで馬券購入の前段階における予想にすぎず,人によって程度の差
こそあれ,結局は,「レースごとの払戻金の有無を基礎として考える」とい
う点で,一般競馬愛好家と何ら異なるところはなく,原告の馬券購入行為の
態様は,「レースごとに特定の馬券の的中や獲得できる払戻金の多寡を検討
して利益を獲得しようとする」一般競馬愛好家の馬券購入行為そのものであ
るというべきである。
さらに,原告は,本訴において,「原告による具体的な馬券の購入状況を
裏付ける書証は,本人の手元にメモ等を含めて残っていないため提出できな
い。今後も提出しない。」と陳述し,馬券購入行為の態様及び規模が客観的
に明らかとなる資料が何ら存在しないことを自認しているため,原告の馬券
購入履歴は不明である。そのため,別件当事者とは異なり,原告の馬券購入
履歴は何ら明らかでなく,原告がどのような分析に基づいてどれだけの数の
レースにつきそれぞれどれだけの数,種類の馬券を購入していたのかという
原告の馬券購入行為の態様を客観的に認定,評価することは不可能である。
したがって,原告の馬券購入行為は,「客観的にみて,一般の馬券購入行
為におけるそれとは明らかに意味づけを異にするもの」と評価することはで
きない。
以上のとおり,原告と別件当事者とでは,馬券購入行為の態様に相違があ
るほか,原告が本訴訟において馬券購入行為の態様等を明らかにする客観的
な資料の不存在を自認していることからすると,別件当事者の馬券の的中に
よる払戻金とは異なり,本件競馬所得が雑所得に該当しないことは明らかで
あって,一般競馬愛好家の払戻金に係る所得区分と別の所得区分を適用する
ことはできないというべきである。
3本件競馬所得は,所得税法34条1項の「労務その他の役務又は資産の譲渡
の対価としての性質を有しないもの」という要件を満たすこと
一時所得といえるためには,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価とし
ての性質を有しないもの」という要件を満たす必要があるところ,「役務の対
価」というためには,当該所得が役務の提供先から得られるものであることが
必要であるが,原告は,本件競馬所得を構成する収入である払戻金の交付者で
あるJRAに対して何ら役務を提供していない。すなわち,仮に,原告が,購
入する馬券の選択に当たって何らかのノウハウを活用したとしても,それが,
何か価値あるものとしてJRAに提供され,その対価として払戻金が得られた
わけではない。
また,そもそも,競馬の払戻金は,購入した馬券が的中することによって生
ずるものであるから,本件競馬所得が役務提供の対価としての性質を有すると
は到底いえない。
したがって,本件競馬所得は,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価と
しての性質を有しないもの」に該当する。
4小括
以上のとおり,本件競馬所得は,「営利を目的とする継続的行為から生じた
所得以外の一時の所得」であり,かつ,「労務その他の役務又は資産の譲渡の
対価としての性質を有しないもの」であるから,一時所得に該当する。
第2本件競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲
1本件競馬所得は一時所得であるから,その所得金額の計算上その総収入金額
から控除する金額は,その収入を得るために支出した的中馬券の購入代金に限
られること
一時所得の金額の計算方法
所得税法34条2項は,一時所得の金額の計算について,「その年中の一
時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入
を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要し
た金額に限る。)の合計額を控除」する旨規定している。
当該規定の文言から明らかなとおり,一時所得の総収入金額から控除され
るのは「その収入を得るために支出した金額」,すなわち,「その収入を生
じた行為をするため直接要した金額」又は「その収入を生じた原因の発生に
伴い直接要した金額」に限られる。
これは,一時所得の金額の計算上一時所得に係る収入,支出について総体
対応計算によることなく,収入を生じた各行為又は原因ごとに個別対応的に
計算し,その反面,収入を生じない行為又は原因に係る支出は控除項目から
除かれることを定めたものであり,所得税法34条2項が一時所得の金額の
計算についてこのように厳格な収入,支出の個別対応的計算を定めているの
は,例えば,ギャンブルの支出は,それによって収入が得られたときはその
控除項目としての意味をもつが,その支出は,同時にギャンブルを楽しむた
めの支出,つまり一種の消費支出としての側面があり,一時所得に係る支出
には多かれ少なかれこのような要素があるものと考え,その支出は,それが
収入を生んだ場合に限って控除を認めるという建前を採っているからである。
本件競馬所得の金額の計算上控除されるのは的中馬券の購入代金のみであ
ること
本件競馬所得は一時所得に該当するからのとおり,その所得金額
の計算上総収入金額から控除する「その収入を得るために支出した金額」は,
「その収入を生じた行為をするため直接要した金額」又は「その収入を生じ
た原因の発生に伴い直接要した金額」に限られ,これらの直接要した金額は,
収入を生じた各行為又は各原因ごとに個別対応的に計算しなければならない。
これを本件競馬所得についてみると,本件競馬所得の基礎を成す収入は,
馬券の的中による払戻金であるところ,「その収入を得るために支出した金
額」は,収入を発生させた行為又は原因ごとに個別対応的に計算された金額
に限られることから,当該払戻金に個別的に対応する馬券の購入代金,すな
わち,的中馬券の購入代金に限られる。
一方,当該払戻金に個別的に対応しない馬券の購入代金,すなわち,外れ
馬券の購入代金は,何ら収入を発生させていない以上,所得税法34条2項
に規定する一時所得における「その収入を得るために支出した金額」に該当
しないことから,一時所得の金額の計算上控除されない。
担税力を超えた課税であるという原告の主張は失当であること
租税法で言うところの担税力とは,所得発生時点で捉えるべきであって,
課税時点で捉えるべきものではなく,課税処分がされた場合に,課税処分の
時点で資力がないからといって,納税義務を免れることはできない。
また,所得税法は,一時所得について,控除項目の費用を,収入を生じた
行為又は原因ごとに個別対応的に計算することとしているのであるから(所
得税法34条2項),収入発生の時点で所得の発生が確定することになる。
そして,競馬の払戻金は,購入した馬券が的中することによって生ずるも
のであり,馬券の的中は,各競走の開催執務委員の着順の宣言によって確定
することから,当該着順の宣言によって的中馬券を購入した者に払戻金の交
付を受ける権利が発生することになる。払戻金の交付を受ける権利が確定す
るということは,その時点で,的中馬券を購入した者において,払戻金に係
る「収入すべき金額」に対応する純資産の額が増加していることになるから,
同金額に見合う担税力が馬券購入(的中)者に生じていると認められるので
ある。
ところが,原告は,馬券の的中による払戻金から納税資金を差し引いた金
額で次の馬券を購入すべきであったにもかかわらず,あえて,本来納税のた
めに留保すべき金員を馬券の購入に充て続けたのであって,その結果,本件
各処分に基づいて生じた納税義務を履行できなくなったとしても,当該処分
等が担税力を超えた課税処分であるとは到底いえない。
このように,一旦は担税力を増加させる所得を得た後,それを自らの消費
に当てたからといって,担税力が消失し課税を免れることができないことは
明らかであるから,原告の主張には理由がない。
上記のような原告の行為を前提にして,納税資金がないとの理由で,本来
一時所得である本件競馬所得を雑所得にするというのは明らかに本末転倒で
あり,租税の公平性の観点からも著しく不当である。
2仮に本件競馬所得が雑所得に当たるとしても,外れ馬券の購入代金を収入金
額から控除することはできないこと
雑所得の金額の計算において控除されるべき費用
所得税法37条1項は,雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき範囲
を定めており,別段の定めがあるものを除き,「当該総収入金額を得るため
直接に要した費用の額」及び「その年における販売費,一般管理費その他こ
れらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」とする旨規定している。
そして,雑所得の「総収入金額」とは,雑所得に係る個々の「収入」の集
積であるから,雑所得の「総収入金額」を得るため「直接に要した費用」(個
別対応費用)は,飽くまでも個々の「収入」が発生していることを前提とし
て,発生した個々の「収入」について,これを得るために直接に要した費用
のみを必要経費として認めているものである。また,「所得を生ずべき業務
について生じた費用」(一般対応費用)についても,そもそも所得の発生原
因行為が「収入」を発生させていない場合には,「所得を生ずべき」業務に
ついて生じた費用とはいえないのであるから,所得税法37条1項は,そも
そも「収入」を発生させることのない行為に係る費用が「所得を生ずべき業
務について生じた費用」に当たるとすることを予定していないというべきで
ある。
外れ馬券の購入代金は個別対応費用に該当しないこと
仮に本件競馬所得が雑所得であったとしても,当該所得の基礎を成す個々
の「収入」は払戻金であり,外れ馬券の購入行為から払戻金は発生しないこ
とから,外れ馬券の購入代金は「収入」である払戻金を得るために「直接に
要した費用」に当たらないことが明らかである。また,外れ馬券の購入行為
からは「収入」である払戻金が発生しない以上,収入を発生させない行為に
ついて生じた費用が「所得を生ずべき業務について生じた費用」に当たるこ
ともない。
このように,仮に本件競馬所得が雑所得であったとしても,外れ馬券の購
入代金は,「総収入金額を得るため直接に要した費用」に当たらず,かつ,
「所得を生ずべき業務について生じた費用」にも当たらないことから,雑所
得の金額の計算上,必要経費に算入されず,雑所得に係る総収入金額から控
除されない。
以上
(別紙4)
原告の主張
第1本件競馬所得の一時所得該当性
1一時所得の要件
一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退
職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行
為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価
としての性質を有しないものをいう。
2原告による馬券購入の態様
原告は,次のとおり,独自のノウハウに基づき,競馬の着順を予測して馬券
を購入し,本件競馬所得を得ていた。
情報の蓄積等
ア原告は,JRAに登録された全ての馬について,その絶対的能力,距離
適性,馬場適性,気性,特徴的な癖などについて分析し,情報を蓄積して
いる。
イ原告は,JRAで活躍する競馬騎手の全員について,その技術面と精神
面の両方から分析を試みている。①馬を動かす技術についての評価,②
馬を制御する技術についての評価,③コース取りや位置取りに関する技
術の評価,④ゲートを出す技術についての評価,⑤技術面での騎手の
特徴,⑥勝負強さ,⑦冷静さ,⑧集中力,⑨手抜きの頻度,⑩精
神面での騎手の特徴を総合勘案して,更にそこに特記事項を加味して評価
をし,これを一覧にしている。
ウJRAの札幌,函館,福島,新潟,東京,中山,中京,京都,阪神,小
倉の各競馬場の芝コース及びダートコースの全ての距離について,そのコ
ース形態からレース傾向を分析し,①馬の能力,②騎手(技術),③
コース適性,④枠順(ゲート番号),⑤馬場状態への適性,⑥レー
ス展開の各ファクターについて,各コース別に係数を設定している。
エ算出された評価点に基づく予想の確度の高さに応じて,馬券の購入金額
と買い方についての基本パターンAないしDの4つのパターンを設定し,
馬券を購入する基本パターンA及びBについては,例えば,「ポイント上
位各馬がおおむね2ないし3ポイント差で並んでいる場合」や,「ポイン
ト上位3位までの各馬がおおむね2ないし3ポイント差で並んでいるが,
3位と4位の差がおおむね5ポイント以上開いている場合」など,更に基
本パターンAについては9つの,基本パターンBについては3つの購入パ
ターンを設定している。
オ馬券の種類に応じて購入条件となる倍率を決めた購入基準を設定してい
る。
馬券の購入方法の決定
ア当該レースについて,出走する馬及び騎手について,①馬の能力,②
騎手(技術),③コース適性,④枠順(ゲート番号),⑤馬場状態
への適性,⑥レース展開のほか,補正事項として,⑦トラックバイア
ス(馬場傾向補正),⑧馬の能力に係るポテンシャル(潜在能力補正),
⑨騎手に係る斤量,相性補正,⑩③~⑥に係る強調補正,⑪その日
の馬のコンディションの評価点を算定する。
イ各コース別シミュレーションのうちから,当該レースの条件
に合致するものを選定し,そこに上記アで算定した評価点を入力して合計
評価点を算出する。
ウどの購入パターンに当
オの購入基準に照らし合わせて買い目と
1点当たりの購入金額を決定して馬券を購入する。
原告による実際の馬券購入
である年間104日,1日当たりのレースとして24から36レースの9割
を超えるレースにおいて,競馬開催日1日当たり少なくとも数百程度の買い
目について馬券を購入するなど,少なくとも1年間で2000回以上馬券を
購入しており,購入金額は多いときで1日5000万円程度になることもあ
った。そして,現実に,平成17年から平成22年までの間,別表2-1な
いし2-6の各「入出金履歴」欄の「②出金金額」欄のとおり1年を通じて
馬券を購入しており,その合計額は72億円を超えており,また,別表2-
1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「③差引金額」欄のとおりの利益を
上げている。競馬における払戻金の期待値は約75%であるところ,原告は
上記のように緻密かつ経済的価値のある独自のノウハウを築き上げ,平成1
7年から平成22年までの各年において約130%(多いときで140%)
の払戻金の交付を受けている。
3本件競馬所得は所得税法34条1項の「営利を目的とする継続的行為から生
じた所得以外の一時の所得」に該当しないこと
本件競馬所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得であること
ア前記2のとおり,原告は,特定のレースにおいて特定の買い目を当てる
ことによって利益を出すのではなく,事前及び当日に得られる情報をもと
に独自のノウハウに基づき分析を行い,的中率が低いと判断されるレース
を除く1年間のほぼ全てのレースにおいて,独自のノウハウから導き出さ
れた購入すべき馬券を網羅的に購入することで,長期的観点から全体とし
て利益を得ていた。また,原告自身が競馬場に出向くことはほとんどなく,
テレビ放送(専門チャンネル)等から得られる情報を基に独自のノウハウ
を駆使し,機械的に6年間にわたり大量かつ継続的に馬券を購入していた
ものであり,原告にとって馬券の購入は,遊興的又は娯楽的性格を一切帯
びるものではなく,専ら投資としての性質を有するものであった。
そして,原告は,競馬を投資の対象として考え,1年間を通じてほぼ全
てのレースにおいて,前記2のとおり,緻密な分析を行ったうえで着順の
予測を行い,それに基づき馬券を購入し,現実に,平成17年から平成2
2年までの間,別表2-1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「③差引
金額」欄のとおりの利益を上げていたのであるから,原告の行為に,営利
目的があることは明らかである。
イまた,原告は,1年間を通じてほぼ全てのレースにおいて,前記2のと
おり,緻密な分析を行ったうえで着順の予測を行い,それに基づき馬券を
購入するとともに,データの収集,分析も同時に行っており,そこで蓄積
されたデータが,その後のレースにおける着順の予測の分析に用いられて
いるから,原告において,各レースごとに着順の予測を行って馬券を購入
し,その過程で得たデータを基に,その後のレースにおいても着順の予測
を行い馬券を購入するという一連の行為は,正に継続的行為といえる。
ウそして,原告の得た本件競馬所得の額から証明される極めて緻密な原告
独自のノウハウが存在することや,原告が1年を通じて,かつ,複数年に
わたって極めて大量,多額の馬券を購入してきたこと,そして,原告は,
一般の競馬ファンとは異なり,前記2のとおり,諸要素を緻密に分析し,
1回のレースで必ず利益を出すというのではなく,1年を通じて利益が出
るように継続的行為(投資行為)を行っていたのである。競馬における一
般的な払戻金の期待値である75%を基準にして計算した場合には,1年
間で手元に残る金銭は全て無くなってしまうところ,原告は1年間で数千
万円から数億円の利益を得ていることからすると,原告による馬券購入行
為が他の一般の競馬ファンの馬券購入行為と全く異なることは明らかであ
る。
エこのように,原告は,原告独自のノウハウに基づく予想を行って馬券を
購入するという行為を反復継続して行っており,これら一連の予測行為に
基づく馬券購入行為が継続的行為であり,それによって生じた本件競馬所
得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえる。
本件競馬所得と別件当事者の馬券の的中による払戻金が類似していること
原告の馬券購入行為の態様と別件当事者の馬券購入行為の態様とが異なる
点としてコンピュータソフトを使用したか否かという点が挙げられるが,原
告は,レース直前までの情報を独自のノウハウに組み込み予測行為を行い,
着順を予想したうえで馬券を大量に購入することによって別件当事者以上の
利益を得ていることから,コンピュータソフト以上に正確な分析を行ってい
たことは明らかである。
また,その規模及び態様については,原告は,事前及び当日に得られる情
報をもとに独自のノウハウに基づき分析を行い馬券を購入した結果,別件当
事者と同等又はそれ以上の回収率を実現しており,特に平成20年及び平成
21年では原告の回収率の方が大きく上回っている。
したがって,本件競馬所得は,別件当事者の馬券の的中による払戻金との
比較においても,雑所得であることが明らかである。
4「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に
該当しないこと
「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と
いう要件は,担税力の観点から,非偶発的所得を一時所得から除外するための
要件であるところ,一般的に,営利活動は偶然性を内在しているものであるこ
とからすると,上記要件の検討に当たっては,極めて偶然性の高い所得に限り,
対価としての性質を有しないものと解すべきであり,このことは,単に「対価」
と規定するのではなく,「対価としての性質を有するもの」と,広く対価性を
認める要件となっていることからも裏付けられる。
そして,原告は,前記1のような独自のノウハウにより,勝ち馬券を獲得す
るまでに必然的に介在すると思われる偶然性を科学的に排除することに工夫を
凝らした結果,偶然性(運)という要素を1割から2割程度までに減少させる
までに至っている。このことは,平成17年から平成22年までの間,別表2
-1ないし2-6の各「入出金履歴」欄の「③差引金額」欄のとおりの利益を
上げていたことからも裏付けられる。
したがって,本件競馬所得は,原告独自のノウハウに基づく予測行為及び馬
券購入行為という一連の行為(労務)の対価としての性質を有するから,「労
務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に該当し
ない。
5小括
以上のとおり,本件競馬所得は,「営利を目的とする継続的行為から生じた
所得以外の一時の所得」ではなく,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価
としての性質を有しないもの」でもないから,一時所得に該当せず,雑所得に
該当する。
第2本件競馬所得に係る所得の金額の計算上控除すべき馬券の購入代金の範囲
1本件競馬所得が雑所得である場合
所得税法37条1項の規定する必要経費とは,業務関連性を有する支出であ
り,業務遂行に必要であれば業務関連性があると考えるのが所得税法の文言に
も適合する解釈である。
原告は,独自のノウハウに基づく予測行為を行い,最終的に着順を予想した
上で馬券を大量に購入するという態様により,反復継続して払戻金を得ており,
これらの一連の継続的行為により現実に6年もの間毎年大きな利益を上げ続け
たことからも明らかなように,原告の行ってきた馬券購入行為は,様々なリス
クを分析したうえで馬券を購入する投資業務といえる。そして,このような投
資業務を行うに当たって外れ馬券は必然的に生じるものであり,原告は外れ馬
券が生じることが織り込み済みで投資業務を行って利益を得ているのである。
したがって,外れ馬券も含め購入した全馬券について,払戻金を得るために必
要不可欠な支出であったといえるから,外れ馬券を含めた全馬券の購入代金に
ついて,払戻金を得るために「直接に要した費用」に該当することは明らかで
ある。
2本件競馬所得が一時所得である場合(予備的主張)
外れ馬券の購入代金が「その収入を生じた行為をするため,又はその収入
を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」であること
仮に本件競馬所得が一時所得に該当するとしても,所得税法34条2項は
「その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した
金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生
に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除」するとしており,原告は,
1年を通じて独自のノウハウに基づき,分析を行って馬券を購入してきたこ
とから,1年間に購入した馬券の全てが「その収入を得るために支出した金
額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に
伴い直接要した金額に限る。)」に該当するものとして,一時所得の金額の
計算上,総収入金額から控除されるべきである。
外れ馬券の購入代金を控除しないと担税力を超えた財産権を侵害する不当
な課税となること
原告の平成17年から平成22年までの馬券購入代金の累計額は約72億
6924万円,競馬による払戻金の累計額は約78億3782万円であるが,
仮に,処分行政庁の主張するような課税が正確にされれば数十億円の所得税
が課されるほか,地方税も課されることとなる。
しかるに,原告が,平成17年から平成22年までに競馬で得た利益(手
元に残る金銭)は約5億6858万円であったことからすると,上記のよう
な課税は原告の担税力を超えた財産権を侵害する不当な課税といえる。
以上

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