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平成14年(ワ)第17983号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年3月1日
             判      決
原      告  シロウマサイエンス株式会社
原      告      A
    上記両名訴訟代理人弁護士  渡  邊     敏
    同訴訟復代理人弁護士       森     利  明
同補佐人弁理士平  山  洲  光
      同                菊  池  武  胤
同中  野  圭  二
被      告 天龍化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士        中  本     勝
同                藤  本  卓  司
同                緒  方  賢  史
補佐人弁理士石  井  暁  夫
同                東  野     正
同                西     博  幸
        主      文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙イ号物件目録(原告)記載のプラスチック製インジェクション
容器を製造,販売,使用又は販売のため展示してはならない。
2 被告は,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品及
び仕掛品を廃棄し,同物件の製造に必要な金型等の製造設備を除去せよ。
 3 被告は,原告らに対して,2370万円及びこれに対する平成14年9月8
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,プラスチック製インジェクション容器の製法についての特許権を有
する原告A及び同特許権についての専用実施権を有する原告シロウマサイエンス株式
会社(以下「原告シロウマ」という。)が,プラスチック製インジェクション容器
を製造,販売している被告に対して,同容器の製造方法が上記特許権を侵害すると
して,同製品の製造,販売等の差止めと損害賠償等を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告Aは,以下のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その発明
を「本件発明」という。)を有しており,原告シロウマは,本件特許権について専
用実施権の設定を受け,平成14年9月26日,その登録がされた(甲1ないし
3)。なお,本件特許権は,平成15年10月31日の経過により,その存続期間
が終了した。
特許番号           第1870421号
発明の名称          プラスチック製インジェクション容
器の製法
出願日            昭和58年10月31日
登録日            平成6年9月6日
特許請求の範囲         別紙特許公報写しの該当欄記載のと
おり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)
(2) 本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりとなる。
   A 小径のインジェクション口部3の外周に設けたネジ部4と,
B 該インジェクション口部3に絞り板部2を介して連なる直径に対して肉
厚の薄い大径の容器筒体1の外周に設けた把持用凹部5とを有する容器筒体1の
C 前記ネジ部4と把持用凹部5とを型決めする外型材と,
   D 容器筒体1内に設けた抜き勾配のない中子との間に溶融プラスチックを
射出し,溶融プラスチックの固化後,
   E 容器筒体1の前記ネジ部4と把持用凹部5とを外型材で支持した状態で
容器筒体1内に設けた抜き勾配のない中子を抜き取ることを特徴とする
   F プラスチック製インジェクション容器の製法
(3) 被告は,プラスチック製インジェクション容器を製造,販売している(以
下,被告の製造販売するプラスチック製インジェクション容器を「被告製品」とい
い,その製造方法を「被告製法」という。なお,後記のとおり,被告製品の構成及
び被告製法については,一部争いがある。)。
  (4) 被告製法は,本件発明の構成要件A及びFを充足する。
2争点
(1) 被告製法及び被告製品の構成はどのようなものか。
  (2) 被告製法は本件発明の構成要件を充足するか。
   ア被告製法は,本件発明の構成要件B,C,Eの「把持用凹部」を具備す
るか。
   イ 被告製法は,本件発明の構成要件C,Eの「外型材」を具備するか。
ウ被告製法は,本件発明の構成要件Eの「容器筒体の前記ネジ部と把持用
凹部とを外型材で支持した状態で・・・中子を抜き取る」を具備するか。
エ 被告製法における「中子」は,本件発明の構成要件D,Eの「抜き勾配
のない中子」に当たるか。
  (3) 本件特許には,明らかな無効理由が存在するか。
  (4) 原告らの損害額はいくらか。
 3争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告らの主張)
被告製法及び被告製品の各構成は,それぞれ別紙イ号方法目録(原告)及
びイ号物件目録(原告)記載のとおりである。
    被告は,イ号物件目録(原告)図1の容器筒体1の一次製品にノズル14
とプランジャー10を装着した被告製品を製造,販売している。被告製品のうち,
ノズル14とプランジャー10を装着していないものは半製品である。
  (被告の反論)
被告製法及び被告製品の各構成は,それぞれ別紙イ号方法説明書(被告)
及びイ号物件説明書(被告)記載のとおりである。
被告は,被告製品をユーザーに出荷するに際しては,容器とプランジャー
は分離して出荷しており,プランジャーはユーザーの工場においてシーリング剤を
充填してから容器に装着される。したがって,シール剤を充填していない容器にプ
ランジャーが装着されている態様は存在しない。
(2) 争点(2)ア(構成要件B,C,Eの「把持用凹部」)について
(原告らの主張)
    被告製品のうちの,割り成形部6のテーパ部6cと略平行部6aが本件発
明の「把持用凹部」に該当する。原告が,富山県工業技術センター保有の表面形状
測定機によって,接触型であるマール社製の「ペントメータコンセプト」を使用し
て被告製品を測定したところ,上記凹部の深さは約0.2ミリメートル前後であっ
た(甲10の1)。このように0.2ミリメートルの深さを有する凹部は,抜き勾
配のない中子を抜くに際しての抵抗を支える支持力を有している。
この点について,被告は,上記凹部の深さは0.1ミリメートル以下であ
る旨主張するが,被告の測定は不正確であって,これを前提とすることはできな
い。
したがって,被告製法は,各構成要件の「把持用凹部」を具備する。
  (被告の反論)
ア 各構成要件における「把持用凹部」の意義
本件発明においては,抜き勾配のない中子を抜くに際しての抵抗は,把
持用凹部のみによって支持されている。したがって,各構成要件の「把持用凹部」
は,中子の抜き抵抗に抗して,容器が移動しないように保持できる深さ,すなわ
ち,外型材と噛み合えるだけの深さのあるものに限定されるものと解すべきであ
る。
   イ 対比
被告製品における6aの凹部の深さは0.1ミリメートルより小さいか
ら,抜き勾配のない中子を抜くに際しての抵抗を支える支持力はない。この点,原
告は,被告製品の平行部6aと一体成形部7との間の半径の寸法差は0.2ミリメ
ートルであると主張する。しかし,公的な専門機関である奈良県工業技術センター
における測定結果によれば,上記の寸法差は,平均で0.1ミリメートル以下であ
った(乙29ないし31)。
仮に,被告製品の一体成形部7と平行部6aとの間に0.2ミリメート
ルの半径差があったとしても,中子の後退初期における割り成形部の収縮を考慮す
れば,その程度の段差では中子の抜き抵抗を支持することは到底できない。
したがって,被告製法は,各構成要件の「把持用凹部」を具備しない
(なお,被告製品において6aの凹部を設けたのは,美感向上の目的のためであ
る。)。
(3) 争点(2)イ(構成要件C,Eの「外型材」)について
(原告らの主張)
被告製法は,各構成要件の「外型材」を具備する。
  (被告の反論)
ア 各構成要件における「外型材」の意義
     本件明細書には,容器筒体の外面を形成する部材として,「外型材」と
記載され,それ以外の限定はないこと,外型材が容器のネジ部と把持用凹部とを型
決めする割り型であることからすると,各構成要件の「外型材」とは,一つ(一
対)の外型材によって容器筒体の外面の全部を形成するものであると解すべきであ
る。
イ 対比
被告製法における外型は,割り式外型と一体式外型とから成っているか
ら,各構成要件の「外型材」とはいえない。
したがって,被告製法は,各構成要件の「外型材」を具備しない。
  (4) 争点(2)ウ(構成要件Eの「容器筒体の前記ネジ部と把持用凹部とを外型
材で支持した状態で・・・中子を抜き取る」)について
(原告らの主張)
被告製法は,本件発明の「容器筒体の前記ネジ部と把持用凹部とを外型材
で支持した状態で・・中子を抜き取る」を具備する。
    この点,被告は,被告製法では,中子の抜きに対する抵抗は支持体11に
よって支持している旨主張する。しかし,容器筒体は長手方向に大きく収縮するか
ら,容器本体から中子を抜く際は,容器筒体の収縮により支持体と容器筒体の端面
間には隙間が生じており,容器筒体の端部が支持体に接合することはなく,したが
って,支持体によって容器筒体を支持することはできない。
  (被告の反論)
被告製法では,中子の抜きに対する抵抗は,中子に抜き勾配を設けると共
に容器筒体1の端面に当たっている支持体11によって支持されているのであるか
ら,被告製法は,「容器筒体の端面を支持体で支持した状態で」中子を抜き取るも
のである。
この点,原告は,容器筒体から中子を抜くまでに容器筒体は収縮している
から,容器筒体を支持体で支持できない旨主張する。しかし,被告製法において
は,容器筒体は型抜きされてから冷却されるのであり,金型に嵌っている状態では
相当の高温であること,型抜き前は中子の規制を受けて収縮できない状態であるこ
とから,中子を抜く工程では容器筒体に成形収縮は殆ど生じていない。原告の上記
主張は失当である。
したがって,被告製法は,各構成要件の「容器筒体の前記ネジ部と把持用
凹部とを外型材で支持した状態で・・中子を抜き取る」を具備しない。
  (5) 争点(2)エ(構成要件D,Eの「抜き勾配のない中子」)について
(原告らの主張)
ア 各構成要件の「抜き勾配のない中子」の意義
各構成要件の「抜き勾配のない中子」とは,抜き勾配が全くない中子の
みを指すのではなく,射出成形の技術常識に照らして,抜き勾配とはいえない程度
の僅かな勾配のある中子を含む趣旨と理解すべきである。そして,射出成形の抜き
勾配に関する各文献(甲8の1ないし4)には,技術上採用し得る最小抜き勾配は
0.5度である旨の記載があることから,抜き勾配が0.5度未満の中子は,「抜
き勾配のない中子」に含まれる。
イ 対比
被告製法における中子の先端と基端の寸法差について,被告の主張を前
提としても,その勾配は0.055度から0.054度の範囲であり,射出成形の
技術上の最小抜き勾配である0.5度の10分の1以下の勾配があるにすぎない。
したがって,被告製法における中子の勾配は技術上無視しうる程度の勾配であり,
被告製法における中子は「抜き勾配のない中子」に当たる。
  (被告の反論)
ア 各構成要件の「抜き勾配のない中子」の意義
各構成要件の「抜き勾配のない中子」とは,以下の理由から,その先端
と基端とで寸法差が全くないストレートの中子を指すと解すべきである。
    (ア) 特許請求の範囲の「抜き勾配のない中子」という文言からすれば,
上記のように解するのが相当である。
    (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明欄には,発明の効果として「筒体1
の内径を変えることなく」と記載されている。その先端と基端で寸法差のない中子
を用いない限り,この効果を満たさない。
(ウ) 原告は,射出成形の抜き勾配に関する各文献には,技術上採用し得
る最小抜き勾配は0.5度である旨の記載がある旨主張する。
      しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。①まず,乙16の
3,37,38,甲8の1及び2などの文献からは,射出成形の技術分野におい
て,一般的な抜き勾配より小さい勾配であっても,抜き勾配として理解されている
ことが分かる。②また,原告がその根拠として挙げている各文献における「抜き勾
配」は,突き出しピンや突き出し板を使用して型抜きする場合の角度を意味する。
これに対して,本件において問題とされているシーリング剤用の容器の製法は,突
き出しピンを使用した一般的な射出成形法とは異なり,突き出しピンを使用せずに
中子を直接に抜く型抜き方法であり,このような場合の抜き勾配は,突き出しピン
を使用した通常の型抜き方法に比べてはるかに小さくてもよい。③さらに,原告の
主張する0.5度の抜き勾配を被告製品に当てはめると,中子の先端と基端との間
の寸法差は,直径差で約3.8ミリメートルとなるが,このような抜き勾配を設け
ない中子が,すべて「抜き勾配のない中子」に含まれると解することはあまりにも
技術常識からかけ離れた解釈である(被告製品において,そのような直径差を設け
ると,プランジャーの弾性変形許容量を遥かに超えるため,シーリング剤の押し出
し途中でプランジャーは停止してしまう。)。
イ 対比
     被告製法における中子は,先端が基端よりも直径で約0.4ミリメート
ル小径となっている。
被告製法においては,プランジャーは僅かに変形するため,容器筒体に
は若干の内径差が存在してもよい点に着目し,プランジャーの動きの確実性と成形
の容易性・確実性とを両立させるべく,直径差で約0.4ミリメートルの抜き勾配
を設けたのである。
したがって,被告製法における中子は「抜き勾配がない中子」とはいえ
ない。
  (6) 争点(3)について
(被告の主張)
本件特許には,以下のとおり,明らかな無効理由が存在するから,本件特
許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たる。
ア 新規性欠如
本件特許の出願日以前である昭和55年4月15日に発行された米国特
許第4197967号明細書(乙16の1。以下「米国967号明細書」とい
う。)は,「押し出し式カートリッジ用ピストン-シリンダーユニット」に関する
もので,ピストン(プランジャ)が入る容器筒体1,絞り板部2,ねじ式の口部か
ら成るとともに,筒体1のうち絞り板部2の近くに一条の環状凹部Aを形成してい
るプラスチック製の容器が明記されている。
米国967号明細書には,容器の製造方法は記載されていないが,米国
967号明細書に接した当業者は,同公報に記載されている容器は射出成形法によ
って製造されていると把握すること,同容器の製造方法については,「外型材で把
持用凹部を把持した状態で中子で引き抜くこと」,「環状凹部を設けることによっ
て中子の抜き勾配をなくせること」を把握できることから,同公報には,本件発明
の構成が実質的に記載されている。
     したがって,本件発明は新規性を欠いている。
   イ 進歩性欠如
(ア) 米国967号明細書記載の発明
 米国967号明細書記載の発明により,当業者が製品を製造する場合
には,外型材で環状凹部を把持した状態で中子を抜くという工程を経ること,及び
環状凹部を外型材で把持することによって中子の抜き勾配をなくせることは,容易
に想到できる。したがって,本件発明は米国967号明細書に基づいて容易に発明
できたものであり,進歩性を欠く。
    (イ)354号公報と259号公報との組合せ
     a特公昭54-22354号公報(乙37。以下「354号公報」と
いう。)には,「ネジ部とフランジと絞り板部と容器筒体とを備えた容器の製造方
法において,外型枠11と中子1との間の空間に溶融樹脂を充填してから,中子を
後退させることによって型抜きする」という発明が記載されている。そして,35
4号公報の6欄1ないし2行目の「主体胴部が形成品として精度が高い均一強度の
肉厚になる」との記載は,「主体胴部は肉厚が全体として均一になっている」こと
と同義であるから,354号公報においては,主体胴部の内面を形成する中子14
は必然的に抜き勾配のないものとなる。
 そうすると,本件発明と354号公報記載の発明とは,本件発明は
中子を抜くに際しての容器の「把持用凹部」を外型材で把持しているのに対して,
354号公報では「フランジ」を外型材で把持している点において相違する。
     b 他方,実公昭57-13259号公報(乙16の3。以下「259
号公報」という。)は,筒状容器の射出成形に関する技術に係るものであるが,同
公報には,「インキタンク1の端の環溝13中にインキタンク1製造の際にインキ
タンク1を射出成形工具から引き出すためのクランプジョウが係入する。驚くべき
ことに,この種の公知の射出成型法によってインキタンク1の内壁のテーパーを,
追従ピストン5の完璧な機能が保証される程度に小さく保持することが達成され
る。」(4欄14ないし20行)との記載があり,また,同公報のインキタンクに
おいて,環溝13を備えている部分を成形するためには割り型が必要であることは
金型業者が何らの推考もなしに想起し得ることであるから,同公報には,「インキ
タンクの環溝を外型材で把持した状態で抜き勾配が殆どない中子を抜く」という技
術が開示されている。
c したがって,本件発明は,354号公報記載の発明に259号公報
記載の技術を組み合わせることによって容易に想到できたといえ,本件発明は進歩
性を欠く。
   ウ 記載要件不備
本件発明に係るプラスチック製インジェクション容器の製法は,外型に
ついて,容器筒体のごく一部を成形するための割り式外型と,容器筒体の大部分を
成形するための一体式外型とで形成されることが必須である。しかし,本件明細書
及び図面には,外型材の全体が割型で形成されているとしか推測できないような記
載がされている。したがって,本件明細書及び図面には,当業者が実施できる程度
に発明が記載されていないというべきである。本件特許には改正前の特許法36条
3項に違反する無効理由が存在する。
   エ 先後願違反
実用新案登録第1975468号の実用新案(以下「本件実用新案」と
いう。)に係る考案と本件発明とはカテゴリーが相違するだけであり,実質的に同
一である。
したがって,本件特許には特許法39条2項規定の無効理由が存在す
る。
  (原告らの反論)
ア 米国967号明細書について
     米国967号明細書には,中子に関する記載,容器の製造方法について
の記載はないから,同公報を理由に本件発明が新規性又は進歩性を欠いているとい
うことはできない。
イ 354号公報と259号公報との組合せについて
    (ア) 354号公報には,本件発明の「抜き勾配のない中子」,「直径に
対して肉厚の薄い大径の容器筒体」,「把持用凹部」の記載がなく,354号公報
に記載された技術と本件発明とでは,上記の各点で相違する。
    (イ) 259号公報に記載された技術は,絞り板部が周縁部分ではフラン
ジ状になっている点,及び環溝13の深さはインクタンク1の側面部の厚さを超え
ている点で,本件発明と相違する。
    (ウ) したがって,本件発明は,354号公報記載の発明及び259号公
報記載の技術の組合せにより,当業者が容易に発明することができたということは
できない。
ウ記載要件不備について
争う。
   エ先後願違反について
 本件発明と本件実用新案に係る考案とは実質的に同一とはいえない。
  (7) 争点(4)について
(原告らの主張)
ア原告Aと原告シロウマとは,平成14年7月22日に,本件特許権につい
て,専用実施権設定契約を締結し,同年9月26日に,その旨の専用実施権設定の
登録がされた。
また,原告Aは,原告シロウマに対して,同年7月22日,本件特許権に
基づく損倍賠償請求権のうち過去3年分の請求権を譲渡し,同年10月7日の第1
回口頭弁論期日において,その旨被告に通知した。
イ(ア)特許法102条2項による請求(主位的請求)
     被告は,被告製品を,単価20円で,平成6年5月から平成11年1
2月までの間に合計4080万本,平成12年1月から平成15年8月までの間に
合計2760万本販売した。
そして,被告の利益率は5パーセントであると推測されるから,被告
が被告製品を販売したことにより得た利益は6840万円(6840万本×20円
×0.05)である。
      原告らは,そのうち2370万円を請求する。
    (イ) 特許法102条3項による請求(予備的請求)
本件発明の実施料率は5パーセントが相当であるから,実施料相当額
は,6840万円(6840万本×20円×0.05)である。
      原告らは,そのうち2370万円を請求する。
ウ 被告は,被告製品の単価は,容器本体の価格からノズルとプランジャー
の価格を控除した価格であると主張する。
     しかし,ノズルは容器のネジ部を利用してねじ込むものであり,プラン
ジャーは容器の中の内容物を外に押し出すために必要な器具であり,両者はとも
に,容器の利用に不可欠のものであるから,被告の上記主張は失当である。
(被告の認否・反論)
ア 原告らの主張のうち,平成12年1月以降の被告製品の販売数量が合計
2760万本であったことは認める。
   イ 被告製品の単価は約17円であったが,この価格には,被告製品の容器
本体のみでなくノズルとプランジャーや,絞り板部の内面に容着された口部を塞ぐ
ためのアルミ箔の価格も含まれているから,原告の損害額の算定の基になる容器本
体の単価としては,上記販売価格から,上記のノズル,プランジャー及びアルミ箔
の価格及び容着コストを控除しなければならないが,そのようにして算定された単
価は8ないし9円である。
第3 当裁判所の判断
1被告製法における「中子」は,構成要件D,Eにいう「抜き勾配のない中
子」といえるか(争点(2)エ)
  (1) 各構成要件の「抜き勾配のない中子」の意義
ア「抜き勾配」の一般的な意味及び機能
 証拠(甲8の1ないし4,乙44)によれば,「抜き勾配」とは,射出
成形において,金型キャビティから成形品を離脱させるとき,又は成形品から金型
コアを離脱させるときに生じる抵抗を減少させて,離脱を容易にする目的で,成型
品や金型コアに設けられる勾配のことをいうものと認められる。本件明細書(手続
補正後のもの。以下同じ。)の「発明の詳細な説明」欄には,本件発明にいう「抜
き勾配」の意義をこれと異なる意味に解すべき記載はないから,本件発明の「抜き
勾配」とは,「抜き抵抗の減少を図る目的で設けられた勾配」,又は「抜き抵抗の
減少をもたらす効果を有する勾配」の意味であると解すべきである。
イ本件明細書の記載
     本件明細書には,「本発明はプラスチック製インジェクション容器の製
法に関する。インジェクション容器は,従来から,直径50㎜,長さ250㎜に対
し,肉厚1㎜程度の比較的に肉厚の薄い同一内径,同一外径の細長い容器筒体から
なり,筒体内部に密封状態で収納したシリコン等の空気に触れると硬化する内容物
を,容器筒体の後部開口にピストン式に嵌合した中蓋で押圧して,容器筒体の先端
部に絞り板部を介して設けた小径のインジェクション口部から吐出させるものであ
る。」(1欄15行ないし25行),「射出成形加工では,中子と外型枠との間に
溶融プラスチックを射出し,固化後に中子を抜き取るのであるが,この場合,溶融
プラスチックは,例えば,ポリエチレンで約2%程度固化時に収縮するように,固
化時に収縮して中子に密着する性質を有するから,本発明に係るインジェクション
容器のように,同一内径及び同一外径で細長くて肉厚の薄い容器筒体の一端部に絞
り板部を介して小径のインジェクション口部を設けたものを,外型枠でインジェク
ション口部をその外周ネジ部で支持して,容器筒体が収縮して密着した中子を抜き
取ろうとすると,支持力の働かない絞り板部に引張力が集中して,インジェクショ
ン口部が取れてしまったり,筒部に割れや変形が生じたりして満足なプラスチック
製インジェクション容器が得られない問題があった。」(2欄12行ないし3欄1
行),「容器筒体1は,その外周を外型材によって,インジェクション口部3のネ
ジ部4と,容器筒体1の把持用凹部5を支持されるから,容器筒体1内から抜き勾
配のない中子を抜き取ったとしても,絞り板部2には引張力が加わらず,中子を,
第1図上,右方に円滑且つ簡単に引き抜くことができ,そのとき,インジェクショ
ン口部3が取れたり,絞り板部2と共に筒体1に割れや変形を生じることはな
い。」(4欄13行ないし21行),「成形加工時に,外型材と,抜き勾配のない
中子との間に溶融プラスチックを射出することによって,小径のインジェクション
口部3の外周のネジ部4と共に,(中略)肉厚を薄くする把持用凹部5を同時に成
形することができることによって,前記容器筒体1の前記ネジ部4と把持用凹部5
とを型決めする外型材は,成形型材として機能し,同時に,そのまま成形直後に容
器筒体を筒体長手方向に沿った引張力に抗して確実に支持するインジェクション容
器の中子抜き取り用の外周支持枠材としての機能を備えることととなるから,抜き
勾配のない中子を抜き取るとき,従来のように,絞り板部に引張力が集中して加わ
らないので,インジェクション口部が取れたり,筒部に割れや変形が生じることな
く,溶融プラスチックの固化直後に,抜き勾配のない中子をそのまま抜き取ること
ができ」(手続補正書右欄3行ないし19行)との各記載がある(甲1)。
ウ 小括
上記のとおり,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,従来技術及
び発明が解決しようとする課題として「本発明に係るインジェクション容器のよう
に,同一内径及び同一外径で細長くて肉厚の薄い容器筒体の一端部に絞り板部を介
して小径のインジェクション口部を設けたものを,外型枠でインジェクション口部
をその外周ネジ部で支持して,容器筒体が収縮して密着した中子を抜き取ろうとす
ると,支持力の働かない絞り板部に引張力が集中して,インジェクション口部が取
れてしまったり,筒部に割れや変形が生じたりして満足なプラスチック製インジェ
クション容器が得られない問題があった。」との記載がされている。
 本件発明は,このような課題の解決を目的とするものであるから,この
ような課題の存しない容器筒体は,そもそも対象とならないのであって,このよう
な課題の存する「同一内径及び同一外径で細長くて肉厚の薄い容器筒体」のみを対
象とすることは明らかである。特に「抜き勾配のない中子」の意味の確定との関係
では,容器筒体の内径の寸法差が重要になるが,この点,本件発明は,「インジェ
クション容器の容器筒体の内径がすべての箇所において同一であり,実質的に全く
勾配がない容器筒体」を,その対象としていることは明らかである。
 本件発明は,容器筒体の内径が全く同一であるインジェクション容器を
対象として,把持用凹部を設けることにより,中子を抜く際に容器に生じる引張力
を同把持用凹部でも支持させて,インジェクション口部が取れたり,筒部に割れや
変形が生じるという課題を解決したものである。
 したがって,構成要件D,Eの「中子」は,その径がすべての箇所にお
いて同一であり,勾配が全くないものを指すと解するのが相当である。以上のとお
り,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載を参酌すれば,本件発明の「抜き
勾配のない中子」とは,製造誤差による場合を除き,勾配が実質的に全く存在しな
い中子を意味するものと解すべきである。
 これに対して,原告は,射出成形の抜き勾配に関する各文献(甲8の1
ないし4)の記載を根拠に,射出成形の技術常識では,抜き勾配は最小0.5度以
上必要であるので,「抜き勾配のない中子」とは,0.5度未満の勾配のある中子
を含むと主張する。しかし,抜き勾配の上記値は,あくまでも,一般的な目安にす
ぎないものであり,中子に勾配が存在すれば,抜くことを容易にする効果があるこ
とは明らかであるから,この点の原告の主張は採用できない。
(2) 対比
    証拠(乙12の1及び2,20)並びに弁論の全趣旨によれば,被告製法
においては,容器筒体の長さは216ミリメートル,中子の直径は約48ミリメー
トルであることが認められ,中子の先端は基端よりも直径で約0.4ミリメートル
小径となっており(争いがない。),弁論の全趣旨によれば,中子には0.055
度ないし0.054度の勾配が存在することが認められる。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告製法における中子に設けられた勾配
は,中子の抜き抵抗を減少させる目的で設けられたものと推認できる(本件全証拠
によっても,被告製法における中子の勾配が上記以外の目的で設けられたことを窺
わせる事実は認められない。)から,上記勾配は製造誤差により生じたものではな
く,また,中子の勾配が極めて僅かであっても当該中子を成形物から離脱させる際
の抵抗は減少するから,被告製法における中子は,上記の勾配を設けたことにより
抜き抵抗が減少したものと認められる。
したがって,被告製法における中子は本件発明の「抜き勾配のない中子」
には当たらないというべきである。
2以上のとおりであるから,本件特許に明らかな無効理由が存在するか否か等
の争点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,主文のとお
り判決する。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯   村   敏   明
           裁判官 榎   戸   道   也
 裁判官佐野信は,填補のため署名押印することができない。
        裁判長裁判官 飯   村   敏   明
(別紙)
イ号方法目録(原告)イ号図面イ号物件目録(原告)イ号図面イ号方法説明書(被
告)イ号物件説明書(被告)イ号図面説明書(被告)イ号図面

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