弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が原告に対して,平成10年7月14日付でした「平成9年度懲戒処分一
切」の一部開示決定処分のうち,非開示とした部分を取り消す。
第2 事案の概要
 奈良県の住民である原告は,奈良県情報公開条例(平成8年3月27日奈良県条
例第28号・以下「条例」という。)5条に基づき,被告に対し平成9年度懲戒処
分一切の開示を請求したところ,被告は一部を開示する決定をした。本件は,非開
示とされたうちの一部につき,その取消しを求めている事案である。
1 争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実
(1) 原告は奈良県の住民であり,被告は条例2条1項の実施機関である。
(2) 条例には,以下の定めがある。
「10条 実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに
該当する情報が記録されているときは,当該公文書の開示をしないことができる。
(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で
あって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報
を除く。
ア 法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報
イ 公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報
ウ 法令等の規定による許可,免許,届出等の際に実施機関が作成し,又は取得し
た情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの
(3) 法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」とい
う。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示す
ることにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地
位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし,次に掲
げる情報を除く。
ア 事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある危害から人の生命,身体又は
健康を保護するために,開示することが必要であると認められる情報
イ 違法又は不法な事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある支障から人の
財産又は生活を保護するために,開示することが必要であると認められる情報
ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって,開示することが公益上必要であ
ると認められるもの
(8) 県又は国等が行う取締り,監査,検査,許可,認可,試験,入札,交渉,
渉外,争訟,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示することにより,
当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若し
くは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係
が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種事務事業の公
正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」
(3) 原告は,平成10年7月1日,条例5条の規定に基づき,被告に対して,
「平成9年度懲戒処分一切」の開示請求をした(以下「本件開示請求」とい
う。)。
(4) 被告は本件開示請求を受け,起案文書,内申文,進達文,辞令案,処分説
明書,事案概要(以下「本件公文書」という。)を特定した上で,平成10年7月
14日,本件公文書のうち,下記アの「開示しないことを決定した部分]を除いて
開示する旨の公文書の一部開示決定をし,下記イの「開示しない理由」を付して原
告に通知した(以下「本件処分」という。)。
ア 開示しないことと決定した部分
a 辞令案の氏名
b 処分説明書の氏名
c 処分説明書の試薬品の名称
d 事案概要の所属,職,氏名
e 事案概要の試薬品の名称
f 事案概要の店名
イ 開示しない理由
a,b,d 条例10条2号及び8号該当
 特定の個人が識別し得る情報であり,個人の職業,資格,学歴等個人の経歴又は
社会的活動に関する情報であるとともに,将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な
執行に著しい支障が生ずるおそれがるため。
c,e 条例10条3号及び8号該当
 法人等及び事業を営む個人の事業に関する情報であり,開示することにより,当
該事業運営上の正当な利益が損われると認められるとともに,将来の同種の事務事
業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがるため。
f 条例10条8号該当
 県が行う事務事業に関する情報であって,開示することにより,関係当事者間の
信頼関係若しくは協力関係が損われると認められるとともに,当該事務事業若しく
は将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある
ため。
2 争点
(1) 本件処分を通知した書面は,非開示理由が記載されていないものとして条
例7条4項に違反し,本件処分を違法とするものか否か。
(原告の主張)
 不利益処分における理由の提示は,一般法としては行政手続法14条(奈良県で
は行政手続条例14条)によって義務づけられている。条例7条4項では,非開示
処分の通知に非開示理由を記載することを義務づけている。これは実施機関による
恣意的な非開示処分を牽制すると同時に,被処分者が非開示理由を知ることにより
当該非開示処分に納得することができたり不服申立てや提訴をするために必要不可
欠の記載である。したがって,非開示の理由がこの役割を果たしうるだけのもので
なければ違法な処分である。
 非開示理由は具体的で説得力のあるものでなければならないところ,本件処分に
かかる理由の提示はおよそそのようなものになっておらず,単に非開示各号条文の
引き写しでしかない。これは,被告の非開示理由の検討が極めて杜撰であって真摯
に非開示事由のあてはめを検討していないということを証明するものである。
(被告の主張)
 本件処分を通知した書面(甲1)には,「開示しない部分」を明記したうえで,
「開示しない理由」の中で各非開示部分が条例10条各号所定のどの条項のどの要
件に該当するかを具体的に明らかにしており,このような通知書の記載内容と本件
では開示請求に係るすべての公文書が一部開示されていて,原告は同文書中のどの
部分が非開示とされたかを当然了知し得ることを併せて考えると,本件通知書に
は,原告において,本件非開示決定が,条例10条各号所定の非開示事由のうちの
どの事由に該当することを理由とするものであるかを,その根拠とともに了知し得
る程度の理由の付記はなされているものということができる。
(2) 本件処分中,関係者の住所,氏名を除いた非開示部分(以下「本件非開示
部分」という。)は,条例10条各号の「公文書の開示をしないことができる場
合」に該当せず,違法か否か。
(原告の主張)
ア 本件非開示部分の条例10条2号の該当性について
 条例10条2号の趣旨は,1条に規定する県民の県政への参加を促進するという
条例制定の目的と,個人情報保護に対する最大の配慮を求める条例の規定が調和す
るように条例を解釈しようとすると,条例10条2号にいう「個人に関する情報」
とは,公開することによって個人のプライバシーが侵害されるおそれのある個人情
報をいうものと解すべきものである。
 以上のような観点からすれば,本件非開示部分は,条例10条2号本文に該当し
ない。
a 「氏名」について
 個人の氏名が個人識別情報であることのみをもって非開示とすることはできな
い。
 本件公文書で開示されたすべての事案は,通常新聞紙上等のマスコミによって日
常的に社会に報道されているものばかりで,公務員は一般人以上に地方公務員法3
3条,30条によってその義務が明確で厳格さを求められているのであるから,地
方公務員法29条1項に基づいて処分されることは,個人のプライバシーとして保
護する対象にはなり得ず,プライバシー侵害は発生しない。また,被処分者の名前
は慣行として公表されている情報や社会通念上(公益上)公表することが予定され
ている情報であること,かつ,プライバシーの権利として保護されるものとは,公
益と比較衡量した結果,公開することによる公益に優先する利益の侵害がある場合
に限られ,本件の場合,氏名を開示することによる公益確保が保護すべき被処分者
の私的利益を考慮したとしても,公益が優先されると判断されるので,被処分者の
氏名は公開されなければならない。
 よって,被処分者の氏名は,条例10条2号の非開示事由に該当せず,かつ,同
号ただし書イの公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報に
該当するので,非開示は不当である。
 被告は氏名を開示すれば,当該職員がいかなる事故を引き起こし,いかなる懲戒
処分を受けたか明らかとなり,当該職員が個人的な不利益を受けるおそれがあると
いうが,これまでに氏名を公表されたものについて,また,新聞等で氏名を報道さ
れているものについて,発生した不利益を具体的に立証する必要がある。
b 「所属,職」について
 所属,職については,個人識別情報には該当しないし,またそもそも,その主体
としての「氏名」が非開示の理由がないのであるから,属性たるこれらについて
も,当然に非開示とするのは不当である。
イ 本件非開示部分の条例10条3号の該当性について
a 試薬品については,当該製薬会社は,老人ホームにおいてGCP基準(医薬品
の臨床試験の実施の基準に関する省令・厚生省令28号)に違反して試薬品の治験
が行われていたことを承知していた。したがって,このような施設外でのインフォ
ームドコンセントのない治験については製薬会社もその責任を負わなければならな
いから,条例10条3号のただし書アないしウのいずれかに該当するので,非開示
とするのは不当である。
b 本件で問題となっている試薬品は,武田製薬の治験コード「TAK-147」
アルツハイマー型痴呆症治療剤アセチルコリンエステラーゼ阻害薬である。GCP
基準によれば,治験における被験者となる人にはあらかじめ文書による説明と文書
による同意を得なければならないとされ,交付説明文書には,製薬会社名,治験薬
コードなどは当然被験者に知らされるものである。また,公刊されているトライア
ルドラッグス(甲110)によれば,同書に収録した治験薬は,薬効,治験番号,
一般名,略号,商品名,開発メーカー,開発オリジン,開発ステージの各項を掲げ
ており,治験薬の名称は秘密ではない。さらに,医薬品輸入承認取得報告書(甲1
22・日本シェーリング株式会社が奈良県立医大病院長に出したもの)によれば,
治験責任医師が分かる。
 結局のところ,試薬品名が公開されたところで,製薬会社の競争上,事業運営上
の利益を損うことはないから,試薬品の名称は,条例10条3号に該当しない。
c また,本件試薬品に関し,製薬会社において,奈良県立医科大学教授P1が遠
隔地で治験を行ったことを認識し,他方,同教授がインフォームドコンセントを尽
くさなかったことを確認していないのであるから,このような製薬会社の事業活動
は正当な保護には値せず,ひいては右製薬会社の製造にかかる本件試薬品の名称
は,条例第10条第3号ただし書アに該当する。
ウ 本件非開示部分の条例10条8号の該当性について
a 「氏名,所属,職」について
 被処分者の氏名,所属,職を開示したからといって,被処分者から将来の懲戒処
分という事務の執行にあたって必要な情報が得られなくなるおそれはない。現に,
本件公文書中,252名中241名を公開している。また,当該被処分者が必要以
上に不利益を受ける可能性があり,特定のものに不当な不利益をもたらすおそれも
ないし,処分を受けたときに不名誉な行為が周囲に知られることになるとしても,
懲戒処分が社会的制裁である点からして,自ら起こした不始末の結果であるから,
その程度のことは甘受すべきものである。
b 「店名」について
 関係者から必要な情報を得る際に店名を非公開にするから正確な事実が得られ,
そうでなければ正確な事実が得られないことはない。当該飲食店が,自らの意思で
懲戒処分にかかる事故を発生させた事実はなく,事実を特定するための資料で,当
該事故にのみ係るものであるから,爾後に発生する懲戒処分とは何らの関係はな
く,必要な情報が得られないとする被告の主張には理由がない。
c 試薬品の名称が,条例10条8号に該当しないことは,上記条例10条3号に
該当しない理由と同一の理由で該当しない。
(被告の主張)
ア 本件非開示部分のうち,「辞令案の氏名,処分説明書の氏名,事案概要の所
属,職,氏名」は,条例10条2号に該当する。
 条例10条2号本文は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関す
る情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものに該当
する情報が記録されている公文書については,基本的人権を尊重し,個人の尊厳を
守る立場から,個人のプライバシーを最大限保護するため,実施機関は,当該情報
が記録された公文書の開示をしないことができると規定している。そうしてプライ
バシーの概念は,抽象的であり,その具体的な内容や保護すべき範囲が明確ではな
く,個人情報は一度開示されるとその被害回復はほとんど不可能であるため,条例
では,広く個人に関する情報について,特定の個人が識別され得る情報を非開示と
しているものである。そして,条例10条2号本文にいう「個人に関する情報」と
は,氏名,住所のほか,思想,信条,信仰,職業,資格,学歴,収入,資産等,個
人に関する一切の情報をいい,「特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」
とは,特定の個人が明らかに識別され,又は識別され得る可能性がある場合をいう
ものである。
 このような観点からすれば,本件非開示部分の,「辞令案の氏名,処分説明書の
氏名,事案概要の所属,職,氏名」は,条例10条2号本文に該当する。
 すなわち,本件公文書は,懲戒処分を実施するにあたり,実施機関により作成さ
れたものであり,被処分者の氏名,職名等のほか,被処分者が起した事故の概要
や,処分案や処分理由等が記載されているところ,非開示とされた氏名は,条例1
0条2号本文の「個人に関する情報であって,特定の個人が識別されるもの」その
ものに該当する。また,所属,職名についても,これらの情報は,当該被処分者の
人事等にかかる個人に関する情報であり,これらを開示すれば,すでに開示されて
いる事故の概要や経過等と結びつけることにより,特定の個人が識別され得る可能
性があるので,条例10条2号本文に該当する。
イ 本件非開示部分のうち,処分説明者及び事案概要の「試薬品の名称」は,条例
10条3号本文に該当する。
 試薬品の名称は,法人等個人の事業活動に関する情報であり,製薬業者間での激
しい新薬開発競争の下で,これを開示すれば,当該事業運営上の正当な利益が損わ
れることになる。
ウ 本件非開示部分は,全て条例10条8号に該当する。
a まず,本件公文書には,県が行う,懲戒処分に関する情報が記載されている
が,これは,県が行う本号に規定する「事務事業」に関する情報である。
b① 被処分者の氏名,所属,職名については,これらを開示すれば,本件公文書
には,具体的な事故の概要や経過,個別の処分内容等が記載されているので,当該
被処分者が当該事故に関係していたことが明らかとなり,不名誉な経歴が周囲に知
れることとなる結果,当該被処分者が必要以上の不利益を受ける可能性があり,こ
れらは特定のものに不当な不利益をもたらすおそれがある情報である。
② 試薬品の名称については,これを開示すれば,製薬業者間での激しい新薬開発
競争の下で,当該業者に不利益を生ずるおそれがあり,そのため公にしないことを
条件に任意に提出された情報であるから,これを開示することにより,関係当事者
間の信頼関係若しくは協力関係が損われ,それ以降における情報収集や相手方の理
解協力を得ることが困難になる。
③ 店名は,実施機関が,懲戒処分を検討するにあたり,当該店主等に対して,あ
くまでも,他に公表しないことを前提に,協力を得て事情聴取を行い,必要な情報
を得ている。したがって,店名が開示されると,当該店が,当該事故に関係してい
ることが明らかとなり,関係当事者間の信頼関係が損われ,将来同種の処分を行う
際に関係者から必要な情報が十分得られないことになり,懲戒処分の公正かつ円滑
な執行に著しい支障が生じるおそれがある。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 条例7条4項によれば,「実施機関は,公文書の開示をしない旨の決定を
したときは,第2項の書面にその理由を記載しなければならない。」とされてい
る。そうして,公文書の非開示決定を通知する書面にその理由を付記すべきものと
しているのは,非開示理由の有無について実施機関の恣意的判断を防止しし,公正
妥当な開示非開示の判断を保障しようとするものであると同時に,非開示の理由を
開示請求書に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与える趣旨をも考慮
して規定されたものというべきである。このような条例の理由付記制度の趣旨にか
んがみれば,公文書の非開示決定を通知する書面に付記すべき理由としては,単に
非開示事由として列挙された条文を示すのみでは足りないが,これとともに,条文
のうちの該当部分を示して理由を記載すれば足りるというべきである。
(2) これを本件についてみるに,前記のとおり,本件処分に関して原告に送付
された書面である「公文書一部開示決定通知書」(甲1)には,開示しないことと
決定した部分として,①職員の所属,職,氏名,経歴及び関係者の住所,氏名,②
試薬品の名称,③店名が記載され,開示しない理由として①については,「条例1
0条2号及び8号該当」としたうえ,「特定の個人が識別し得る情報であり,個人
の職業,資格,学歴等個人の経歴又は社会的活動に関する情報であるとともに将来
同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため。」
とし,②については,条例10条3号及び8号該当」としたうえ,開示しない理由
として,「法人等及び事業を営む個人の当該事業活動に関する情報であり,開示に
より,当該事業運営上の正当な利益が損われると認められるとともに,将来の同種
の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため。」と
し,③については,「条例10条8号に該当」としたうえ,開示しない理由とし
て,「県が行う事務事業に関する情報であって,開示することにより,関係当事者
間の信頼関係若しくは協力関係が損われると認められるとともに,当該事務事業若
しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれが
あるため。」と記載されている。このように,上記理由の記載によれば,非開示部
分が条例10条各号のうち,どの事由に該当するものであるかを示しているもので
あるから,上記通知書は,条例7条4項にいう「理由の付記」の要件を満たした,
適法なものというべきである。
 本件処分は,非開示理由が記載されていないものとして条例7条4項に違反して
いるということはできない。
2 争点(2)について
(1) 条例10条の解釈基準について
ア 条例は,県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに,情報公開
の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,県政に対する県民の理解と
信頼を深め,県民の県政への参加を促進し,もって公正で開かれた県民本位の県政
を一層推進することを目的としている(条例1条)。そして,公文書の開示の実施
機関は,条例の解釈運用に当たっては,県民の公文書の開示を求める権利を十分に
尊重するものとするとともに,個人に関する情報がみだりに公にされることがない
よう最大限の配慮をしなければならないとされている(条例3条)。このような基
本的観点から,条例は,公文書の情報公開について,5条で開示請求権者を,6条
で請求方法を,7条ないし9条によって実施機関の行うべき措置を規定して,県民
の公文書公開請求権の内容を具体化し,他方,10条によって非開示とすることが
できる場合をそれぞれ規定している。
イ 条例10条2号
 条例10条2号本文は,個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する
情報を除く)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものを非開示文
書として規定し,他方で,ただし書アないしウにおいて,一定の場合は,個人に関
する情報であっても,非開示とすることができないとしている。これは,条例3条
において,「公文書の開示の実施機関は,条例の解釈運用に当たっては,県民の公
文書の開示を求める権利を十分に尊重するものとする。この場合において,実施機
関は,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしな
ければならない」とされていることを具体的に調整した結果であると解される。
 ところで,情報公開制度のもとにおいても,個人情報を非開示とする場合の非開
示事由の定め方には「個人識別型」と「プライバシー情報型」の2つの型があり,
プライバシー情報型の条例においては,個人の思想,信条,信仰,職業,資格,学
歴,収入,資産等の個人に関する情報であって,特定の個人が識別される情報のう
ち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものについ
てはこれを公開してはならないと定めるのに対し,個人識別型の条例はそのような
限定を付さずに広く特定の個人が識別され,又は識別され得る個人情報を非開示事
由と定めるものであるが,これは,個人のプライバシー概念は,抽象的であり,そ
の具体的な内容や保護すべき範囲が明確でなく,個人情報は一度開示されるとその
被害回復はほとんど不可能であるため,広く個人に関する情報について,特定の個
人が識別され得る情報を非開示としているものである。
 そうして,条例が上記2つの型のいずれの定めをしているのかは,条例自体の規
定の仕方,文言から,これを客観的に解釈するほかはないところ,条例が,「プラ
イバシー」という概念を用いることを避け,「個人に関する情報で,特定の個人が
識別され,又は識別され得るもの」を非開示と規定した以上,条例が個人識別型の
性格を持つものであるのは,規定の規定の仕方,文言上明らかである。したがっ
て,条例の解釈にあたっては,開示の可否が同条例の規定に即して判断さるべきで
ある以上,当該個人情報は,これを非開示情報と扱うほかはない。
ウ 条例10条3号
 条例10条3号は,非開示文書として,「法人(国及び地方公共団体を除く。)
その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該
事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む
個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損われると認
められるもの。」とし,「ただし,次に掲げる情報を除く。ア 事業活動によって
生じ,又は生ずるおそれがある危害から人の生命,身体又は健康を保護するため
に,開示することが必要であると認められる情報,イ 違法又は不法な事業活動に
よって生じ,又は生ずるおそれがある支障から人の財産又は生活を保護するため
に,開示することが必要であると認められる情報,ウ ア又はイに掲げる情報に準
ずる情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの」と規定し
ている。
 本号は,公文書の情報公開といえども,法人等の競争上の地位等を損うことは事
業活動や営業の自由に対する侵害となる場合もあることから,ただし書ア,イ,ウ
に定めた公益上の例外を除き,開示しないことができる文書を規定したものであ
る。
 そうして,上記「当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の
地位,社会的信用その他正当な利益が損われると認められるもの」とは事柄の性質
上,当該非開示部分を開示することにより,当該法人等の正当な利益が損われるこ
とが具体的実証的に証明されなければならないものとは解されず,一般の社会通念
として,そのような「正当な利益が損われる」と観念される場合を指すものと解さ
れる。
エ 条例10条8号
 条例10条8号は,「県又は国等が行う取締り,監査,検査,許可,認可,試
験,入札,交渉,渉外,争訟,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示
することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のもの
に不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係
若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の
同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」に
該当する情報が記録されている公文書については,実施機関は当該公文書の開示を
しないことができると規定している。
 これは,県又は国等が行う事務事業の内容及び性質からみて,開示することによ
り,当該事務事業の目的が損なわれ,又は公正かつ円滑な執行ができなくなるな
ど,県民全体の利益を著しく損なうこととなるおそれがある情報は,非開示とする
ことを定めたものである。
 そうして,上記「おそれ」については,事柄の性質上,当該非開示部分を開示す
ることにより,実際に事務に著しい支障が発生したなどと実証的に証明されなけれ
ばならないものではなく,一般の社会通念として,そのような「おそれ」があるも
のと想定されれば十分であると解すべきである。
(2) 本件非開示部分の条例10条各号該当性について
ア 本件非開示部分は,上記のとおり,次の情報である。
a 辞令案の氏名
b 処分説明書の氏名
c 処分説明書の試薬品の名称
d 事案概要の所属,職,氏名
e 事案概要の試薬品の名称
f 事案概要の店名
イa 上記アのa,b,d(氏名,所属,職)のうち,氏名が,条例10条2号本
文の,個人に関する情報であって,特定の個人が識別されるものであることは明ら
かである。すなわち,本件公文書は,懲戒処分を実施するにあたり,実施機関であ
る被告によって作成されたものであり,被処分者の所属,職,氏名のほか,被処分
者が起こした事案の内容や事案の状況,経過,処分案や処分理由等が記載されてい
る(甲2,乙2の1の1ないし2の7の4,乙3の1の1ないし3の9の5)。
 そうすると,非開示とされた被処分者の氏名を開示すれば,当該被処分者がどの
ような事故を起こし,どのような処分を受けたかが明らかになり,これらの情報
は,特定の個人が識別される個人に関する情報そのものであり,条例10条2号本
文に該当すると言わねばならない。
 また,所属及び職について検討するに,甲2,乙2の1の1ないし2の7の4,
3の1の1ないし3の10の2,4によれば,主査,教授,主任技能員,係長,主
任研究員,課長というのは「職」であって,その名称が「職名」であり,これに対
して,奈良県技術吏員,奈良県公立学校教員,奈良県技能員,奈良県事務吏員とい
うのは,職員の職務上の分類であって本件公文書一部開示決定通知書中における
「職」ではない。ところで,被告において開示したのは,上記職務上の職員の分類
と「主査」,「教授」,「主任技能員」という該当者が多数存在する「職」であ
り,職からは特定の個人を識別するのは困難であるから,これらについては,開示
によっても特定個人が識別されるおそれはない。しかしながら,「係長」,「課
長」という「職」については,それ自体から個人が識別されるものではないが,そ
の所属と相俟って,これらの情報は,当該被処分者の人事等にかかる個人に関する
情報であるから,いわゆるモザイク情報として,これらを開示することにより,す
でに開示されている事故の概要や経過等と結びつけることにより,特定の個人が識
別され得る可能性があると言わねばならない。したがって,所属,職も,条例10
条2号本文に該当する。
 ところで,前記乙2の2ないし7,3の8,3の9,3の10,5(いずれも枝
番を含む)によれば,被告においては,平成9年6月23日停職1月とした奈良県
立公立学校教員(奈良県立医大教授)P1の処分について個人名を開示したほか,
奈良県副知事及び奈良県出納帳並びに部長級職員,次長級職員,課長級職員の処分
について個人名を開示している。しかしながら,上記各証拠及び弁論の全趣旨によ
れば,前者は,奈良県立医科大学附属病院の治験に係る教員の処分であって,当該
非違行為は,奈良県立医科大学教授P1が,特別養護老人ホームにおいて平成7年
9月18日から平成8年1月23日までの間に,厚生省のGCP基準に違反して試
薬品の治験をしていたもので,当該治験は,その安全性及び被験者に人権保護の配
慮に欠ていたものであり,治験への不信と不安をもたらせるとともに,大学の名誉
を著しく傷つけ,また別の治験も安全性の観点から適正を欠くものであり,非違行
為の性格上,公務員の本分に甚だしく違背したという事案である。そうして,処分
にあたり大学の懲戒審査機関の判断が尊重され,かつ,その審査機関が,社会の要
請に応えるため処分内容(所属,職,氏名等を含む)をすでに発表した案件であり
非違行為の性格上,法違反の与える社会的影響が強く,行政として社会の要請に応
えて公開することを予定されている情報に該当する事案であった。また,後者は,
平成6年度から平成8年度までの間における奈良県の食糧費について,全庁に及ん
で不適正な予算執行が行われ,県政に対する県民の信頼を著しく損なう事態が生じ
たことに関し,不適正支出に係る管理監督者の処分に関するものであり,非違行為
の性格上,法違反の与える社会的影響が強いものであった。かかる状況から,上記
個人名が開示された事案は,いずれも,行政として社会の要請に応えて公開するこ
とを予定されている情報として,当初から公表を予定していたものであり,これら
の情報が記録された公文書については,条例第10条第2号ただし書イ規定の「公
表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報」に該当し,非開示
の例外にあたる情報として氏名を公表した結果であると認めることができる。
 これに対し,原告が本件処分に対し開示を求めている個人情報は,条例10条2
号本文に該当する非開示情報であって,上記のような条例10条2号ただし書イに
該当するような特別な事情は認められないものである。
b さらに,地方公務員法29条に規定する戒告,減給,停職,免職等の懲戒処分
は,任命権者が職員の一定の義務違反行為に対し道義的責任を問うもので,これに
よってその地方公共団体における規律と公務遂行上の秩序を維持することを目的と
する内部的処分であって,それ以外のものではない。しかるところ,当該職員が懲
戒処分となったこと及び事故の内容が個人が特定されて公開されることは,当該職
員にとって不名誉な事柄であり,本来懲戒処分が,組織の内部の処分であるにもか
かわらず,条例によって常に公開され得るという事態は,当該職員に必要以上の社
会的制裁を科すことになり,特定の個人に不当な不利益を与えるおそれがあり,こ
のことは条例10条8号の「特定のものに不当な不利益が生ずるおそれがあるも
の」に該当する。もっとも職員の非違行為が報道機関によって行為の内容や個人名
が明らかにされることはままあるが,そのことと上記制度的公開とは質的に異なる
ものであるし,非違行為を行った個人は上記不利益を甘受して当然であるなどとま
でいうことはできない。
 また,奈良県の行う懲戒処分は,県の事務事業の一つであるところ,懲戒にあた
っては,被処分者からできる限り正確な事実関係を聴取し,調査を尽くしたうえ,
適正な処分を行う必要があるところ,懲戒処分があれば,常に被懲戒者の氏名が公
開されるという事態になれば,その後行われる職員への懲戒処分という同種事務の
執行に当該職員から事実関係についての調査等への任意の協力を得られない事態も
想定され,このことは,条例10条8号の「当該事務事業若しくは将来の同種事務
事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」に該当すると
言うべきである。
ウ 上記アのc,e(試薬品の名称)について検討するに,これらの情報は,法人
等及び事業を営む個人の事業に関する情報であり,開示することにより,当該事業
運営上の正当な利益が損われると認められるとともに,将来の同種の事務事業の公
正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあり,条例10条3号及び8号に
該当する。
 すなわち,乙10ないし14,15の1ないし3,16,22,23,弁論の全
趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
a 一般に新薬の開発は,製薬会社において,新規物質の創製から,薬効薬理研究
等の動物での非臨床試験,さらに臨床試験へと進み,臨床試験は,少数の健康人志
願者を対象とした安全性のテストを行う第1相試験,同意を得た少数の患者を対象
に有効で安全な投薬量や投薬方法などを確認する第2相試験,同意を得た多数の患
者で二重盲検試験などにより,既存薬などと比較して新薬の有効性をチェックする
第3相試験を経て医療上の有効性と安全性が確認された新薬について厚生省(現在
は厚生労働省)へ製造承認申請を行い,その承認を得て初めて商品として発売に至
るのであるが,この過程は,全体では10年から18年間を要する長期の事業であ
って,製薬会社は,企業間の熾烈な競争にさらされながら新薬の研究開発を行うも
ので,新薬に関する情報は,製薬会社にとって高度の企業秘密である。
 そして,上記臨床試験は,製薬会社が各医療機関と提携して受託契約を結び実施
され,試薬品には,必ず治験薬の名称と開発番号が付される。本件処分で名称が非
開示とされた試薬品は,奈良県立医科大学附属病院長が受け入れ決定し,報告を受
けた学長が委託者との間で契約を締結するという手続を経て実施された臨床試験で
の試薬品である。
 したがって,試薬品自体に関しては,その名称は,法人等及び個人の事業活動に
関する情報であり,製薬業者間での激しい新薬開発競争のもとで,試薬品の名称を
開示すれば,どこの製薬会社がどこの医療機関にどのような治験を委託したのかが
明らかとなり,企業の競争上又は事業運営上の社会的信用,その他正当な利益が損
なわれると認められ,そうすると,かかる事情は条例10条3号本文の非開示事由
に該当する。
 さらに,新薬の開発を巡る上記事情の下においては,試薬品の名称を開示すれ
ば,奈良県(奈良県立医科大学附属病院)と製薬会社の信頼関係も損なわれること
になり,将来の治験業務の執行に著しい支障を生じるおそれもあり,したがって,
試薬品の名称は,条例第10条第8号にも該当する情報であるとも言わざるを得な
い。
b ところで,甲2,乙2の2の1及び2,乙5の1ないし3によれば,本件で問
題となっている治験においては,被処分者である奈良県立医科大学教授P1が治験
を実施するにあたり,特別養護老人ホームの入所者を奈良県立医科大学附属病院の
外来患者として被験し,さらに対象となる患者及び代理人に治験の目的及び方法,
予期される効果等について説明し,同意を得なければならないにもかかわらず,ホ
ームの被験者については,代理人としてホームの施設長が同意するのみで,家族の
同意を得ているかどうかの確認を行っていないなど,インフォームドコンセントが
欠如していたもので,GCP基準に違反し,治験の安全性及び被験者の人権保護と
の観点から,治験の方法自体適性を欠くものであり,そのこと自体は道義的責任は
もとより,強い社会的非難を受けてしかるべきことがらである。
 しかしながら,上記のような事情があったからといって,また,本件で問題とな
った試薬品の治験の方法について,製薬会社の責任の有無によって,試薬品自体の
性質が左右されるものではなく,試薬品自体に関しては,条例第10条第3号ただ
し書アにいう事業活動によって生じ,又は生ずるおそれのある危害から人の生命,
身体又は健康を保護する必要性の観点から開示しなければならない情報という性質
を有するものではないし,本件で非開示とされた試薬品もそのような危害の防止と
いう観点から開示しなければならない情報ではない。また,同イにいう違法又は不
当な事業活動からの保護という開示情報にも該当しないし,同ウにいうア,イに準
じて公益上開示しなければならない情報とも考えられない。したがって,試薬品の
名称は,条例10条3号ただし書に該当し,開示が義務づけられるものではない。
c なお,特許出願との関係については,新規物質の創製から動物での非臨床試験
に進む以前の段階でスクリーニングを経て,試薬品の有効成分が特許出願され,出
願公開されることがあり,その開発番号が,特許における化合物の特定のために使
われていれば,特許出願内容を知り,その成分内容等を知ることができる。しか
し,このことは,特許の出願公開の制度上予定されている事柄であり,そのような
競争上のリスクを負って,あるいは秘密保護の工夫をして出願公開に及ぶかどうか
は,当該製薬会社の判断に委ねられているものである。したがって,特許制度上の
上記出願公開があるからといって,情報公開制度において実施機関が,随時試薬品
の名称を開示することが許されるなどと解することはできない。
d また,試薬品は,臨床試験の段階で,製薬会社名,薬効及び成分が,被験者に
説明して明らかにされているが,当該説明は,インフォームドコンセントの観点か
ら,被験者という限られた者に対してのみ告知,開示されるものであって,不特定
多数の者に対して情報を公開しているものではなく,したがって,上記被験者に対
する説明が行われるという事情は,条例10条3号及び8号の該当性の判断に影響
を与えるものではない。
e さらに,甲122によれば,日本シエーリング株式会社は,奈良県立医科大学
附属病院長宛て「医薬品輸入承認取得報告書」を提出し,これには被験薬,識別コ
ード,構成成分,治験課題名,治験責任医師等が明らかになっている。しかし,同
報告書は奈良県立医科大学附属病院長宛ての書簡であるうえ,新薬として国から承
認された後のものであり,同報告書は前記条例10条3号及び8号該当の判断に影
響を与えるものではない。
 また,甲110,126,130の1及び2,132の1ないし5,133の1
ないし4,134の1ないし5,135の1ないし8,136の1ないし5,13
7の1ないし11によれば,武田薬品工業株式会社が,抗痴呆薬の新薬の開発に関
し,初期の被臨床試験前の段階である動物実験のレベルから治験コード番号を公表
し,研究論文等で薬理活性等が発表されており,また,最新の治験薬を収載する雑
誌(トライアルドラッグス)において,治験薬のコード番号,治験実施機関,担当
医師名等が公表されているものがあることは事実である。
 しかしながら,上記公表も各治験薬ごとに,治験から公表までの時期を異にする
ものであり,また当該公表もそれぞれの企業において,機密性と企業業績の公開と
の総合的考慮の下になされているものであって,およそ一切の創製物質や治験薬を
直ちに公表しているなどとは考えられない。そして,公文書を開示する実施機関と
しては,試薬品の名称の開示,非開示の判断に当たって,条例10条3号本文の
「当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用
その他正当な利益が損われると認められるもの」あるいは条例10条8号の「開示
することにより,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損われると認められ
もの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著し
い支障が生ずるおそれがある」の該当性の有無につき,新規物質の創製から医薬品
としての承認に至る新薬の開発という一連の事業における熾烈な企業間競争等を考
慮し,当該試薬品の名称を開示することによる上記非開示要件の発生を具体的実証
的に検討するまでもなく,試薬品の名称を,一律に条例10条3号本文及び8号に
該当するものとして非開示とすることには一般の社会通念として,十分な合理性が
あると言うべきである。
エ 上記アのf(店名)について検討するに,甲2,乙2の1の1ないし乙2の7
の4,乙3の1の1ないし5,乙3の3の1ないし乙3の7の5,証人P2,弁論
の全趣旨によれば,実施機関としては,懲戒処分を検討するについては,被処分者
から事実関係を聴取するとともに,飲酒運転であれば,通常民間の飲食店の当該店
主等から,被懲戒者との同席者や飲酒量等の具体的な事実を聴取し,情報を得てい
るところであり,その際は,店名は他に公表しないことを前提に,協力を得て事情
聴取等を行ない,必要な情報を得ているものと認められ,すると,条例によって店
名を開示することになると,当該店が当該事故に関係していることが明らかとな
り,当該店主等が懲戒処分を伴う事故の関係者と受け止められてその信頼関係が損
なわれ,将来同種の処分を行う際に関係者から必要な情報が十分得られないことに
なる可能性があり,すると,そのような事態は,将来の懲戒処分の公正かつ円滑な
執行に著しい支障が生じるおそれがあると想定される。よって店名は,条例10条
8号の,県が行う事務事業に関する情報であって,開示することにより,関係当事
者間の信頼関係若しくは協力関係が損われると認められるとともに,当該事務事業
若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれ
がある情報に該当すると認められる。
(3) 以上の検討によれば,本件非開示部分は全て条例10条8号に該当し,本
件非開示部分のうち,氏名,所属,職は条例10条2号本文に該当し,同号ただし
書に該当する事由はなく,試薬品の名称は条例3号本文,8号に該当し同号ただし
書に該当する事由はなく,店名は条例8号本文に該当する。すると,非開示部分を
開示しなかった本件処分に違法はないといわなければならない。
3 結論
 本件処分に違法はなく,原告の請求は理由がない。
奈良地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 永井ユタカ
裁判官 島川勝
裁判官 松阿弥隆

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