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裁判例


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       主   文
原判決を取り消す。
第一審原告aを除く、その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第一審原告aと控訴人甲府営林署長との間の懲戒処分取消請求訴訟は、昭和五一年
七月七日右原告の死亡によつて終了した。
訴訟費用のうち、第一審原告aと控訴人甲府営林署長との間に生じたものは亡a訴
訟承継人b、同c及び同dの負担とし、その余の被控訴人らと控訴人らとの間に生
じたものは同被控訴人らの負担とする。
       事   実
 控訴人らは主文第一項ないし第三項と同旨及び「訴訟費用は第一、二審とも被控
訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり訂正及び付加するほかは、
原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正及び付加)
 原判決三枚目裏一二行目「林野庁」を「林野庁長官」と改め、同四枚目裏二行目
「昭和四五年四月二〇日」の下に「各地方本部(以下「地本」という。)に対し」
を加え、三、四行目「各地方本部(以下地本という。)」を削り、一一行目「予定
どおり」の下に「始業時より午前一二時まで拠点部分」を加え、同五枚目表一行目
「各営林局一営林署」を「林野庁も含め各営林局一営林署単位で全国二〇個所」
と、同裏三、四行目「時間内」を「勤務時間内」と、五行目「職場復帰の命令等」
を「解散及び職場復帰の業務命令等」と改め、同六枚目表五行目「集造材」の下に
「の作業」を、同裏一、二行目「集造材」の下に「の作業」を加え、同八枚目表一
二行目「職場復帰命令」の前に「解散及び」を加え、同一三枚目表六行目「一七・
八パーセント」を「一七、八パーセント」と、同二一枚目裏一行目「対してくる以
上」を「対応する以上」と改める。
(当審における主張)
一 被控訴人ら
1 官公労働者(国家公務員法、地方公務員法、公共企業体等労働関係法及び地方
公営企業労働関係法の適用を受ける職員を総称する。)の争議権を否定又は制限す
る理由としては、その争議権の行使により「国民生活に重大な障害」をもたらすお
それがあることのみが唯一の理由であり、そのおそれがないときは争議権の否定又
は制限は憲法上許されず、右労働者の「憲法上の地位の特殊性」「社会的経済的関
係における地位の特殊性」などはその制約の理由とはなりえない。そして、その争
議権の行使が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるか否かは、その争議権
を行使する当該労働者が現に従事している職務の性質・内容が判断の基準となると
ころ、民間の鉄鋼・石油・電力等の基幹産業及び民間の林業と対比しても、国有林
野事業の業務の争議行為による一時的な停廃は、国民生活に重大な障害をもたらす
おそれはない。すなわち、
(一)林業の特徴は、木材の再生産期間が長いことであり、植付けから伐採まで四
〇~六〇年を必要とし、また、伐採などの収穫の時期も特定しておらず、林木の育
成過程における労働集約度はきわめて低く、人為を加えない自然的成育に委ねられ
ている面が大きいことにある。したがつて、林業においては、争議行為による業務
の一時的停廃が造育林に影響する可能性は、仮にそれがあるとしても、その全過程
のきわめて限局された部分にかぎられ、数十年先の収穫量に対する影響は皆無であ
る。また、水源のかん養、土砂の流出・崩壊の防備その他の国土保全など森林法二
五条一項各号所定の森林の公益機能に対し、争議行為が及ぼす影響もなく、むし
ろ、右の機能は伐採の規制その他の施業制限により、森林に対し人為を加えないこ
とによつて保持されるものである。そして、災害等による崩壊地について必要な復
旧的措置など緊急措置も、年を単位とする長期的計画によつて実施されているの
で、争議行為の及ぼす影響もない。
(二)また、我が国における木材の大半の需要先は建築用材であるが、その入荷の
多少の停滞が国民生活に与える苦痛はほとんど取るに足りないものであり、木材の
流通の確保・価格の安定のために争議行為を禁止する必要がないことは衣食のため
の生活必需物資についてもこのような方法が採られていないことに徴しても明白で
ある。まして、我が国の木材の需要全体において、国有林野事業に従事する労働者
の手によつて供給される生産量の占める割合はわずかである。
2(一)現業に従事する公務員の職務の性質・内容及び賃金その他の勤務条件の決
定過程は、非現業に従事する公務員と比べてはるかに私企業の労働者に近く、勤務
条件法定主義、財政民主主義は現業公務員の争議権、団体交渉権を制約する理由と
はなりえない。そもそも、現業公務員は行政、司法等の国務に従事する官史には含
まれないので、憲法七三条四号の適用はなく、賃金その他の勤務条件に関する基準
の設定については憲法二七条二項の適用を受けるものである。仮に右主張が理由が
ないとしても、公務員の勤務条件の一切について法律で定めなければならず、内閣
その他の行政機関は国会からの授権・委任がなければその決定をすることができな
いという憲法上の要請はなく、憲法七三条四号は単に公務員の勤務条件等の「基準
の設定」を立法事項としたものであり、その大綱の具体化や内容は労使の団体交渉
や協定に委ねている趣旨であると解すべきである。
(二)次に、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)八条が定める団
体交渉事項については、予算上の措置を採ることを要しないものもあるのみなら
ず、予算上の措置を必要とするときは同法一六条、三五条により政府は協定等を国
会に付議してその承認を受けなければならない。したがつて、予算上の措置を必要
とする場合にかぎつて、団体交渉による勤務条件の決定権は国会の承認権と抵触
し、後者が優越的地位を有するにすぎない。予算は、国会が国家内部的に、行政そ
の他の国家機関の一会計年度の具体的行為を歳入及び歳出面から規律するものにし
かすぎず、一般国民の行為を規律する効力はなく、勤労者の争議権その他の基本的
人権を制約することはできない。現に、国民金融公庫・住宅金融公庫等政府が全額
出資している公法人については、予算及び決算は国会の承認事項であるけれども、
その職員の労働基本権はまつたく制限を受けていない。そもそも国会は、国政に関
すて絶対的な優越した権力をもつ機関ではなく、内閣その他の行政機関との間でも
抑制均衡の原理が働き、行政は独立した固有の作用であり、ただ、国会による信任
を基礎とし、立法や予算によつて権限の行使を制約されるにすぎない。その他、争
議権の行使について、経済的な市場の抑制力が働かないという「社会的経済関係に
おける公務員の地位の特殊性」や「全体の奉仕者性」は争議権の制限の根拠となし
えないことは明らかである。
3 しかも、被控訴人らのうち、被控訴人e及び同fを除くその余の被控訴人らは
定員外の作業員であるが、これら被控訴人らは国家公務員法附則一三条に基づく人
事院規則八ー一四「非常勤職員等の任用に関する特例」によつて雇用され、「常勤
を要しない職員」とされているが、公労法四〇条一項一号は国家公務員法三条二項
の適用除外を規定しているので、人事院は公労法の適用を受ける職員の任免につい
て一般的な権限を有しないから、右人事院規則による任免は脱法的な運用というに
ほかならない。国有林野事業に勤務する定員外職員は、昭和四五年一〇月一日現在
で七万八〇七七人もおり、同日現在の定員内の職員数三万九〇九一人をはるかに上
回つており、これら定員外職員は伐木、造林などの基幹となる作業に常時従事して
いる者であり、その勤務の実態は、法律上「恒常的に置く必要がある職に充てるべ
き常勤の職員」である定員内の職員となんら変りがない。しかし、その雇用期間は
常用作業員、定期作業員については二か月であつて、それが更新されているにすぎ
ず、臨時作業員は一か月毎の更新であり、これら作業員の賃金は日給で、かつ、多
くは出来高払いであり、勤務時間、休暇、退職手当、共済組合の諸給付、公務員宿
舎の入居などについて、定員内職員に比して不利益な取扱を受けている。そして定
員外職員については、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法
(以下「給特法」という。)五条の給与総額制の適用はなく、また、林野庁におい
ては給与・賃金は定員内外の職員を通じて労働協約によつて定められているので四
条所定の給与準則の定めもなく、定員外職員の賃金は国有林野事業特別会計の同事
業費(項)のうち業務費(目)から支出されている。したがつて、国会の議決の拘
束力は項までであるので、その議決を受けずに、定員外職員の賃金は同じ目に属す
る燃料油脂の購入費等と流用が可能であるので、右賃金の増加分は、右議決の拘束
を受けずに、予算の範囲内の移流用でまかなわれるので、争議権、団体交渉権の制
約について財政民主主義を根拠にすることはできない。
4 以上主張した理由により、官公労働者に対し争議権を一律かつ全面的に禁止す
る公労法一七条一項の規定は憲法二八条に違反して無効であり、仮にそうでないと
しても、国有林野事業に従事する公務員、特に定員外職員の行う争議行為について
公労法一七条一項を適用するのは憲法二八条に違反することになるので、右の適用
は許されないものである。
5 ILO条約九八号は四条において「労働協約により雇用条件を規制する目的を
もつて行う使用者又は使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続の
充分な発達及び利用を奨励し、且つ、促進するため、必要がある場合には、国内事
情に適する措置を執らなければならない。」と定め、六条は「この条約は、公務員
の地位を取り扱うものではなく、また、その権利又は分限に影響を及ぼすものと解
してはならない。」と規定しているが、右の「公務員」とは「国の行政に従事する
公務員」と解され、一九七一年の第一回公務員合同委員会の報告及び結社の自由委
員会の基本判例においても同様に解釈されており、被控訴人ら現業公務員は右公務
員には該当しない。したがつて、公労法一七条一項の争議行為の一律全面禁止の規
定は右条約に違反し無効である。
6 また、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約八条一項(c)号は
「労働組合が、法律で定める制限であつて国の安全若しくは公の秩序のため又は他
の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制
限も受けることなく、自由に活動する権利」の確保を規定し、同条二項の「公務
員」は「国の行政に従事する公務員」と解されるので、公労法一七条一項は限定的
に解釈しないかぎり、右規約に違反する。また右国際規約八条三項はILO条約八
七号の優先性を定め「同条約に規定する保障を阻害するような方法により法律を適
用することを許すものではない。」と規定しているので、公労法一七条一項は限定
解釈しない限り同条約三条及び一一条に違反する。
7 なお、控訴人らの懲戒権の濫用について付言すると、本件懲戒処分は林野庁の
労務担当者の発意に基づいて労務政策の一環として同庁で設定された統一基準を機
械的一律的にあてはめてなされたものであつて、直接現場で労務の指揮監督の衝に
当り、具体的個別的事情に通暁した懲戒権者の裁量によつてなされたものではな
い。
 また、第一審原告aは原審最終口頭弁論期日後の昭和五一年七月七日死亡してい
るが、本件懲戒処分取消訴訟は懲戒処分の違法性一般を訴訟物とし、その取消を求
める形成訴訟であり、仮に、その訴訟要件として「その取消により回復すべき法律
上の利益」を必要とするとしても、同人が右の違法な処分により受けた名誉、信用
等に対する精神的損害は同人の死亡により消滅しないので、右損害の回復は右の法
律上の利益に当たるので、本件訴訟は同人の相続人である妻b、長男c及び長女d
によつて承継される。
二 控訴人ら
(本案前の抗弁)
 第一審原告aは昭和五一年七月七日死亡しており、同人の本件懲戒処分取消訴訟
の追行権は一身専属的であり、かつ、同人の名誉、信用などに対する精神的損害
は、仮に発生しているとしても、「法律上保護された利益」には当らないので、同
人の死亡により、同人に関する本件訴訟は終了したものである。
(本案についての主張)
1 被控訴人らは、公労法二条二号の企業に勤務する一般職に属する公務員(以下
「現業公務員」という。)であり、憲法二八条の勤労者には当たるが、公労法一七
条一項により争議行為を行うことを禁止されている。同項において現業公務員等が
争議行為を禁止されている理由は、単に「国民生活全体の共同利益の保障」という
観点からのみではなく、公務員の勤務条件は憲法上、国民全体の意思を代表する国
会において法律、予算の形で決定すべきであるとする勤務条件法定主義及び財政民
主主義の原則に従う「公務員の憲法上の地位の特殊性」、勤務条件決定についての
争議権等の行使に当つては、民間企業とは異つて市場による抑制力が働かないとい
う「公務員の社会的、経済的関係における地位の特殊性」、公務員の実質的な使用
者は国民全体であり、争議行為は、多かれ、少なかれ公務の停廃をもたらし、全勤
労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある
という「職務の公共性」及び公共企業体等労働委員会(以下「公労委」という。)
による仲裁を中心とする「代償措置の整備」を、ひろくその理由とするものであ
る。公務員は、勤労者であることから、当然に、憲法二八条の団体交渉その他の団
体行動をする権利を、憲法上保障されているわけではなく、右規定と憲法七三条四
号、八三条等の規定は同列の地位に置かれているものであり、公労法が現業公務員
等が結成・加入する労働組合に対し、団体交渉権、労働協約締結権を与えたのは、
立法に基づくものであつて、団体交渉権ひいては争議権を付与するかどうか、又は
それをどのように制限するかは国会の立法裁量の範囲内に属する当不当の問題であ
る。したがつて、その裁量権の行使が一見して明白に違法不当なものでないかぎり
は、裁量の結果としての法律は合憲有効なものであり、現業公務員等の争議行為を
一律全面的に禁止した公労法一七条一項の規定は右の限度における国会の立法裁量
に基づくものにほかならないので合憲有効なものである。のみならず、国有林野事
業は、国有林野が国土全体に占める面積、位置、森林の蓄積量、水源かん養及び国
土保全の機能、木材の生産、造林、林道建設その他の右事業が有する公益的及び経
済的機能などに鑑みれば、その業務の停廃が国民生活及び国民全体の共同利益に及
ぼす影響は明らかであり、しかも、被控訴人らが行つた本件争議行為は全国的規模
で連続的に計画され、実施された争議行為の一環であるので、国民生活等に悪影響
がなかつたと断定することは到底できない。そして、公務員の争議行為の禁止は前
記のとおり、財政民主主義に表れている議会制民主主義の国政の基本原則を保持す
ることに主眼があるのであり、公務員は国家公務員法上、服務の根本基準、法令遵
守義務、職務専念義務等を課せられており、被控訴人らの行つた争議行為はこれら
の義務違反になり、かつ、右義務違反は争議行為であるゆえをもつて正当化される
いわれはないので、その争議行為が国民生活に及ぼした影響如何は懲戒処分に当つ
ての裁量について、ほとんど重要性をもたない。
2 被控訴人ら現業公務員は国家公務員法二条二項所定の一般職に属する職員であ
り、被控訴人e及び同fを除くその余の被控訴人らは人事院規則八ー一四により任
用された職員であるが、国家公務員法三条二項ないし四項は人事院の権限を包括
的、一般的に宣言した規定にしかすぎず、人事院の具体的な権限はそれを定めた個
々の法条に依拠するものであるから、公労法四〇条一項一号により国家公務員法三
条二項ないし四項の適用が除外されたことによつて、直ちに人事院から現業公務員
に対する人事行政権限を全面的に剥奪したものということはできず、公労法四〇条
によつて、その適用を除外されていない国家公務員法の各規定に基づく個別的な権
限は依然として人事院に属するものである。
 右の被控訴人らが定員外職員とされている理由は、主としてその労働の季節的、
自然的な制約や業務形態によるもので、その任用制度に違法な点はなく、また、定
員外職員についても給特法三条の適用があり、かつ、財政処理についても国有林野
事業特別会計法一一条により右事業予算を国会の審議に付さなければならず、その
予算の範囲を超えて右職員の給与・賃金の決定をすることはできず、右のような法
律や予算上の制約があるので、国会の議決を無視して自由にその給与・賃金を決定
することはできず、林野庁当局の団体交渉についての当事者能力にも本来的な制約
がある。
 そして、現業公務員について、賃金その他の勤務条件を法令ではなく、団体交渉
で決定しているのは憲法二八条の当然の要請ではなく、国会が同条の趣旨をできる
だけ尊重しようとする立法裁量上の配慮から、財政民主主義の原則に基づき、その
議決により財政に関する一定の事項の決定権を使用者である政府に委任したのにほ
かならないからである。なお、基幹作業職員制度発足に伴う予算措置については、
財政法三三条に基づき、大蔵大臣の承認を受けて「基幹作業職員給与」なる目を設
置し、他の目の経費を流用したものであつて、右予算措置は国会の意向と無関係で
はなく、国会が財政及び公務員の勤務条件に関する一定事項の決定を政府に委ねた
結果にほかならない。
3 我が国はILO条約九八号に調印、批准し、同条約六条の「公務員」の範囲に
ついて、公務員合同委員会第一回会議報告書や結社の自由委員会第一三九次報告書
がこれを「国の行政に従事する公務員」と解釈する見解を示しているけれども、他
方、公務員合同委員会第一回会議のための報告書の中には、「国の行政に直接従事
している公務員及びこうした活動の補助的要素として働く低い地位の公務員」をい
うという見解などもあり、必ずしも、被控訴人らの主張する見解が確定した見解で
はなく、仮に被控訴人ら現業公務員が同条約六条の「公務員」に該当しないとして
も、公労法は被控訴人らが結成・加入する労働組合に対し、賃金その他の勤務条件
に関して団体交渉権及び労働協約締結権を保障する措置を採つているので、同条約
四条に違反する点はない。
4 なお、本件懲戒処分は、前記のとおり、全林野中央本部の統一的な指令により
全国一斉に二〇拠点個所で行われたほぼ同じ規模・態様の非違行為であるので、懲
戒権者である各営林局長等は林野庁と協議し、職員に対する不平等、不公平な取扱
がないよう期したものである。また、昭和四九、五〇年における懲戒処分に際し
て、争議行為の単純参加者に対し右処分を差し控えたのは、昭和四八年四月二七日
の春闘の収拾に当つての労使関係の正常化を計る趣旨の七項目の合意、同年九月三
日の公務員制度審議会の答申、同年一一月一六日のILO結社の自由委員会の同理
事会に対する、制裁の適用に対する弾力的な態度を促した報告などを考慮したこと
によるものであり、懲戒権者が職員の非違行為に対しどのような態度で臨むかを決
定するについて、当時の社会状勢、労使関係その他諸般の事情を考慮に入れること
は、当然にその裁量に委ねられているので、本件懲戒処分には違法な点はない。
(当審で取調べた証拠)(省略)
       理   由
一 まず、控訴人らの本案前の抗弁について検討する。第一審原告aが原審最終口
頭弁論期日後である昭和五一年七月七日死亡したことは記録上明らかである。同原
告に関する本件懲戒処分取消請求訴訟の訴訟物は、同人に対する懲戒処分の違法性
一般であると解されるが、右処分の取消しを求める当事者は、行政事件訴訟法九条
により、右取消しを求めるについて法律上の利益を訴訟要件として具備する必要が
あるところ、人事院規則一二ー〇(職員の懲戒)四条は「戒告は、職員が法八十二
条各号の一に該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めるも
のとする。」と規定しているので、戒告は処分自体の直接的な効果として同原告に
経済的な不利益や損害を与えるものではなく、また、同人は行政機関の職員の定員
に関する法律の適用を受けない、定員外の一般職の公務員で、控訴人甲府営林署長
が任用した常用作業員であつて、日給を受けている者であるが、同原告の昇給は、
右控訴人の裁量に基づくその旨の意思表示を必要とし、同原告の当然の権利とは認
められないうえ、原審における被控訴人g本人尋問の結果によれば、常用作業員に
ついては、戒告を受けても、昇給延伸の措置は採られていないことが認められる。
そして、第一審原告aが、仮に戒告により同人の名誉、信用などに対する精神的損
害を被つたとしても、右の利益は一身専属的なもので、同原告が現に公務員の地位
を有しているかぎり、仮にそうではないとしても生存しているかぎりにおいて法律
上の利益と評価しうるものである。そうだとすると、同原告の死亡により、同人に
関する本件懲戒処分取消請求訴訟は訴えの利益を欠缺することとなり、同人の相続
人らによりこれを承継して追行する必要があるとは認められないので、同原告に関
する右訴訟は同原告の死亡により終了したものというべきである。
二 以下、その余の被控訴人らの本案に関する主張について逐一検討する。
1 請求原因一及び二の各事実は当事者間に争いがなく、抗弁一ないし三の各事
実、同四の1ないし3の事実、5及び6のうち、全林野がそれぞれ記載の日に各地
本に対しそれぞれ記載の内容のストライキ指令を出したこと、7の事実、同五のう
ち、控訴人署長が再三に亘り解散及び職場復帰の業務命令を出したとの点を除くそ
の余の事実、同六のうち1の事実、2中、控訴人署長が数次に亘り解散及び職場復
帰の業務命令を発したとの点及び被控訴人ら各自の職場放棄の時間を除くその余の
事実、七のうち、控訴人局長が被控訴人e及び同fに対し、控訴人署長がその余の
被控訴人らに対し、被控訴人らの行為は国家公務員法八二条各号に該当するものと
し、昭和四五年七月四日付で本件懲戒処分を行つたことは、いずれも当事者間に争
いがない。
2 そこで被控訴人らの原審での主張一について判断する。
(一)被控訴人らは、林野庁所轄の甲府営林署管内の国有林野事業に勤務している
一般職に属する国家公務員(以下、「現業公務員」という。)であり、公労法二条
二項の職員として、同法一七条一項の適用を受けるものである。同項は「職員及び
組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害す
る一切の行為をすることができない。」と規定しているが、右一七条一項が憲法二
八条に違反しないことは最高裁判所昭和四四年(あ)第二五七一号事件同五二年五
月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)が詳細に説示するとおりであり、そ
の理由を被控訴人ら現業公務員に即して判示すれば、(1)現業公務員は、財政民
主主義に表れている議会制民主主義の原則により、その勤務条件の決定に関し国会
の直接又は間接の判断を待たざるをえない特殊の地位に置かれていること、(2)
そのため、被控訴人らは、労使による勤務条件の共同決定を内容とするような団体
交渉権ひいては争議権を憲法上当然には主張することのできない立場にあること、
(3)現業公務員は、その争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような勤務
上の関係にはなく、かつ、その職務は公共性を有するので、全勤労者を含めた国民
全体の共同利益の保障という見地からその争議行為を禁止しても、憲法二八条に違
反するものとはいえないことになる。
(二)なるほど、被控訴人らの主張するとおり、憲法二八条は、同法二五条を基本
理念として勤労者の経済的地位の向上を目的とした規定であり、被控訴人ら現業公
務員も同法二八条の勤労者に該当することは認められるが、同条は憲法の他の規定
に対して絶対的な優越性をもつた規定ではなく、同法一五条、四一条、七三条四
号、八三条等の各規定をも考慮して、憲法の定める政治及び行政の組織及び運営、
国民全体に対する公務員の社会的、経済的及び行政制度上の地位、国民及び公務員
の人権保障等を彼此総合して、憲法秩序全体の枠組の中で位置付けなければならな
い。
 したがつて、被控訴人らの、「憲法二八条によれば、当該職務の一時的な停廃に
よつても、公衆に対して受忍の限度を超えた苦痛ないし障害を直ちに与える場合に
かぎつて、はじめて規制を考慮することができ、その場合であつても、その規制は
手段、方法において必要最小限度に止めなければならず、個別制限によつてその目
的を達しえない場合にかぎつて、全面一律禁止の方法による規制が許され、かつ、
その規制がやむをえない場合であつても、これに見合う代償措置が講じられなけれ
ばならない」とする趣旨の主張は、独自の見解というほかなく、到底採用すること
はできない。
(三)被控訴人らは、三公社五現業の業務は多種多様であり、その中でも国有林野
事業については、争議行為によつて国民生活に重大な障害をもたらされるおそれは
全くない旨主張する。ところで、公労法一七条一項が、現業公務員等の争議行為を
禁止した趣旨は、単に国民全体の共同利益の保障の目的だけではないことは前説示
のとおりであるが、成立に争いがない乙第一号証及び原審証人hの証言によれば、
昭和四四年四月一日現在において林野庁所轄の国有林及び官行造林地の合計面積は
約七八四万六〇〇〇ヘクタールで国土全体の二一パーセントを占め、国有林の蓄積
量は約八億七六〇〇万立方メートルで、日本の森林資源の四六パーセントを占めて
おり、しかも脊梁山脈地帯に多く存在し、国有林を適正な業務計画のもとに管理
し、国土の保全、水源のかん養、国民の保健・休養、自然保護などの森林の有する
公益的機能を確保しながら、森林資源の培養及び森林生産力の向上に努めるととも
に、木材等重要な林産物を持続的に供給して林産物の需要及び価格の安定に資する
必要があるのみでなく、災害時などにおいて臨時的な木材の供給をなす責務があ
り、その業務運営の如何が国民生活に重大な影響を及ぼすことは明らかである。も
つとも、成立に争がない甲第一五号証の八、九、第一六号証の五、第六六号証及び
原審証人i及び同jの各証言によれば、昭和四五年の日本における用材総供給量約
一億〇二六七万九〇〇〇立方メートルのうちその五五パーセントは外材でもつて調
達され、国有林からの供給量は一四・四パーセントであり、昭和四五年度において
国有林野事業における立木販売の割合は約六〇パーセントであり、製品(木材)生
産のうちでも二〇パーセント位は民間業者に請負わせ、造林についての地拵・植
付・下刈の各作業においても請負の比率が直ようよりも大きく、また、林道の建設
などについて請負の割合が大きいことは認められるけれども、成立に争いがない甲
第五七号証の四、原審証人kの証言及び弁論の全趣旨によれば、国有林野事業は、
農林大臣がたてる全国森林計画に即して、林野庁長官が五年毎にたてる経営基本計
画、同様に五年毎に各営林局長がたてる地域施業計画に基づいて、各営林署単位の
業務計画、年及び月毎の予定簿に従つて国有林野の配置、成育状況、全国及び各地
方の経済状勢等を考慮しながら計画的に運営されるものであり、民間業者の各種作
業の請負も、契約及び施工を通じて林野庁所属の関係職員の計画及び監督のもとに
なされているものであり、また、直ようの作業が同事業において、質的にも、量的
にも重要性が少ないとは決していえないことが認められる。しかも、同盟罷業その
他の争議行為は、一般に、労働組合の指揮及び指導のもとに、その組合員である労
働者が使用者に対し、本来の労務の提供を集団的に拒絶する行為であるから、その
規模・態様の如何にかかわらず、被控訴人ら現業公務員による争議行為が多かれ少
かれ公務の停廃をもたらし、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重
大な障害をもたらすおそれがあることは疑いをいれないところである。そして、林
木については植付から伐採までの再生産期間が農作物と比較して長いことは経験則
上明らかではあるけれども、前掲k証言及び弁論の全趣旨によれば、林木の苗の蒔
付の時期は春、苗木の植付は三月下旬から四月、下刈は六月から八月が適当な時期
であつて、その作業に季節的な制約があることが認められる。そうだとすれば被控
訴人らの右主張も採用することができない。(なお、付言すると、公労法は、現業
公務員等に対し、争議行為を禁止した代償措置として、労使の間に発生した紛争解
決について、あつせん、調停、仲裁を行うための機関として公労委を設置し、その
三五条において「委員会の裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定として
これに服従しなければならず、また、政府は、当該裁定が実施されるように、でき
る限り努力しなければならない。」と規定している。もつとも、同条但書において
は「ただし、公共企業体等の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする
裁定については、第一六条の定めるところによる。」と規定し、政府はこのような
裁定がなされた後、原則として、一〇日以内に国会に右裁定を付議して、その承認
を求めなければならず、その承認がないかぎりはいかなる資金の支出もしてはなら
ない拘束を受け、その最終的な諾否の決定は国会の権限に属するけれども、国の歳
出はすべて予算に編入し国会の議決を経たうえでなければ、政府は資金の支出がで
きず、現業公務員等の憲法二八条の団体交渉権その他の団体行動権も、前説示のと
おり、財政民主主義の制約に服するものであるので、労使間に成立した協定や仲裁
委員会の裁定が国会の意思の如何にかかわらず、無条件に絶対的な効力を有すると
の憲法上の要請はないことを考慮すると、右の代償措置の整備は不十分であると
も、また、職員の生存権擁護のための配慮に欠けているとも認めることはできな
い。)
(四)次に、被控訴人らは立法目的の合理性その他の立法事実が存在しないかぎり
は基本的人権の規制は違憲であると主張する。しかし、現業公務員等の争議行為を
禁止する公労法一七条一項の規定は、前説示のとおり、現業公務員等の憲法上の地
位の特殊性などの理由に基づいて定められたものであるから違憲な規定ではないう
え、また、現業公務員が争議行為を禁止されたのは、戦後においては、連合国最高
司令官の書簡に基づいて昭和二三年七月三一日に制定、施行された政令第二〇一号
の規定からではあるが、現業公務員等が、現在、争議行為を行うことを禁止されて
いるのは、単に右書簡を唯一の根拠とするものではないことは明らかであり、現業
公務員等及びその労働組合に対し、団体交渉権、争議権を付与するかどうか、ま
た、どのように付与したり又は制限するかは、国の社会的経済的状勢、労働事情そ
の他諸般の事情を総合して決定する国会の立法裁量に委ねられており、国会が一見
して明白に著しく右裁量を誤つたと認めるに足りる証拠はないので、公労法一七条
一項の規定に違憲の点はないので、被控訴人らの右主張も採用することはできな
い。
3 次に、被控訴人らの原審での主張二について検討する。
 被控訴人ら現業公務員が争議行為を行うことを禁止されているのは、前説示のと
おり単に右争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるという理由だ
けではなく、ひろく現業公務員の憲法上の特殊な地位などの理由に基づくものであ
るのみでなく、前項の(三)で認定及び説示したとおり、被控訴人ら国有林野事業
に勤務する現業公務員の争議行為が、国民全体の共同利益を害し、国民生活に重大
な障害をもたらすおそれがあることは明らかである。水源かん養、土砂の流出・崩
壊の防備などの国土保全、その他諸種の公益的機能がなんら人為を施さずに保持さ
れるものでないこと、造林が人為を加えずに、自然的成育に委されるものでないこ
とは、社会経験則上明らかであり、我が国の用材総供給量のうちの国有林からの供
給量の占める比率、立木販売の割合、製品生産のうちの直ようの占める比率、林道
の建設等について民間業者の請負の割合が大きいことなどが前記の判断に消長を及
ぼすものではないことは前項の(三)で説示したとおりであり、また、民有林の治
山事業に支出される経費が、国有林野治山事業費よりも多額であることなどの被控
訴人らの主張も右の判断を左右することはできない。そして、被控訴人ら現業公務
員は、定員内及び定員外職員の区分を問わず、国家公務員法二条二項の一般職に属
する国家公務員であつて、公労法二条二項二号の職員であり、同法一七条一項の適
用があることも明らかである。
 なお、成立に争いがない甲第四七号証、第四八号証の一ないし五、第五七号証の
四、第六四号証、第六七号証の一、二、第六八号証、原本及びその成立に争いがな
い同第七二号証、原審証人h及び当審証人lの各証言によれば、被控訴人らのうち
常用作業員は、一二か月をこえて継続して勤務する必要があり、かつ、その見込が
あることなど、定期作業員は毎年同一時季に六か月以上継続して勤務することを例
とする必要があり、かつ、その見込があることなど、臨時作業員は臨時に勤務する
必要があることなどをそれぞれ雇用基準として任用される定員外職員であり、前二
者は二か月の期間を定めて任用され、その必要があるときは任用期間は二か月毎に
更新されるものであり、臨時作業員である被控訴人mは一か月の期間を定めて任用
され、その必要があるときは一か月毎に更新されるものであること、定員外職員は
「国有林野事業作業員就業規則」「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協
約」等の適用を受け、賃金は日給であり、伐木、集運材、造林等の作業に従事する
ときは全部又は一部出来高払となつており、その予算面においては国有林野事業特
別会計の国有林野事業費の項中業務費の目から支出され、かつ、勤務時間、休暇な
どの労働条件について定員内職員との格差があること、しかし、反面、国有林野事
業には特有の季節的要因が働くところから、冬期は労働需要が少なく、春及び夏期
には繁忙であり年間を通じて均等な雇用量の確保は困難であり、また、労務の性
質・内容からその効率的な運用を計るためには出来高給の維持は避け難いことが認
められる。公労法は、八条において現業公務員等の賃金その他の給与、労働時間、
休憩など各号所定の事項を労使の間の団体交渉の対象事項とし、原則として協定又
は仲裁委員会の裁定により決定する旨定めているところから、四〇条一、二項にお
いて現業公務員に関しては、その職務と責任の特殊性に基づいて、国家公務員法附
則一三条に定める同法の特例を定める趣旨で、同法三条二項から四項までその他主
として人事院の職務・権限の一部に関する規定の適用除外を定めているけれども、
同法の分限、懲戒及び服務に関する規定の大半は現業公務員に適用があり、これら
の立法措置は国会の裁量に委ねられており、なんら違憲の点がないことは前説示の
とおりである。
したがつて、国有林労働者に対し公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に
違反するとの被控訴人らの主張も採用することができない。
4 被控訴人らの原審での主張三について検討する。
 公労法一七条一項の制定の理由が、単に国民生活に重大な障害をもたらすおそれ
があるために争議行為を禁止するだけのものではないことは前説示のとおりである
が、以下、被控訴人らの行つた本件争議行為の態様・経過等についてみてみる。
 前記1の当事者間に争いがない事実に、成立に争いがない甲第一号証、第二及び
第三号証の各一・二、第四号証、第四七号証、乙第四号証、第七ないし第九号証、
第一〇号証の一ないし三三、昭和四五年四月三〇日に本件争議行為の現場を撮影し
た写真であることに争いがない同第一一号証の一ないし一〇、原審証人nの証言に
より成立を認めうる甲第五号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる同第六、七号
証、右n証言、原審証人j、同o、同k、同hの各証言、原審における検証の結果
に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一)本件争議行為は被控訴人ら林野庁に所属する職員の賃金引上げを目的として
行われたものである。
(二)被控訴人e及び同fは、行政機関の定員に関する法律(以下「定員法」とい
う。)の適用を受ける定員内の職員であり、その基準内給与については「月給制職
員の基準内給与に関する協約」で定められ、その余の被控訴人らは、定員法の適用
を受けない定員外職員であり、その賃金については「国有林野事業の作業員の賃金
に関する労働協約」で定められている。
(三)全林野は、昭和四五年三月一四日に林野庁長官に対し、昭和四五年度の月給
制職員の基本給を平均月額一万三〇〇〇円引き上げること、及び日給制職員の基本
賃金を全職種一律に日額一一〇〇円引き上げることを内容とする各要求書を提出
し、その理由として原判決に原告らの主張三3(四)に掲げる内容を記載した。
(四)全林野は、同日以後林野庁当局と数回に亘り連続して団体交渉をもつたが、
当局側は、職員の給与・賃金は鉄鋼・私鉄などの民間賃金、日本経済の動向等の諸
事情をみて決めなければならないが、民間賃金の動向等が現段階では正確に把握で
きず、また、他の公社・現業の動きも加味して考える必要があるとして回答を留保
していたが、昭和四五年四月二七日の第七回の団体交渉の席上、当局側は、国有林
野事業の経営の実情は悪化の傾向を強めつつあり、組合の主張する大幅な賃金引上
げには到底応じることはできないが、職員の処遇の改善を考慮し、かつ、職員の積
極的な協力を得て各種の合理化による生産性の向上及び経費の節減を計りつつ、基
準内賃金の改定を行いたいとして、引上げ額は昭和四四年の新賃金仲裁裁定によつ
て示された、月給制職員について平均月額四七七七円、日給制職員について平均日
額二〇八円の回答をした。全林野は、当局側がはじめて有額回答をしたことは高く
評価したけれども、鉄鋼その他の民間企業が前年を上回る引上げ額を回答している
ところから、当局側に引上げ額の再考を求めて同日午後及び翌二八日にも団体交渉
を行ったが、当局側は組合側に対して、現段階では前記の引上げ額が限度であるの
で、それを了承するよう求めることで話合はほぼ終始した。
(五)そこで、全林野執行委員長は、同年四月二八日各地本委員長に対し、四月三
〇日始業時より午前一二時まで拠点部分ストライキに突入するよう命じる指令を発
した。
(六)同月二九日も二回に亘つて団体交渉を行つたが、当局側は前年の引上げ額を
上回る回答はできないという返答で、話合は進展せず、なお検討を続けるというこ
とで続行されていたところ、同月三〇日午前七時三〇分ころ、当局側は組合側に対
し、組合が争議行為を行わないことを条件として、各民間企業が前年を上回る回答
を出しているから、それらの動向を配慮して、公労委の調停委員会において実質的
な解決ができるよう対処する考えであること、日給制職員の賃金についても、一〇
確認(昭和四一年一二月一日付全林野第五八号の日給制賃金引上げ要求に関する団
体交渉において論議した要旨の集約)の趣旨を尊重して誠意をもつて努力する考え
であることを内容とする非公式な回答をした。そこで、全林野は直ちに中央本部で
右の回答について検討した結果、右回答の趣旨を尊重して公労委に調停を申請する
ことを決め、同日午前九時六分に、中央執行委員長は各地本委員長宛にストライキ
中止の指令を発した。
(七)東京営林局管内においては、甲府営林署が拠点として選択され、東京地本か
ら書記長訴外j外二名が集合場所に来て争議行為を指揮し、第一審原告aを含む被
控訴人ら三三名がこれに参加したが、その態様は次のとおりである。
(1)被控訴人らの集合場所は、山梨県南巨摩郡<以下略>の中であり、国鉄身延
線内船駅から東北方に約二〇キロメートル離れた、佐野川べりの山間の平坦地で、
上佐野部落のはずれに当たる所である。被控訴人ら組合員は同日午前七時二〇分こ
ろから右場所に集合し、午前七時三〇分ころ前記の地本派遣の組合員がストライキ
突入の宣言をし、「大巾賃上げを勝ちとろう 月給制一三〇〇〇円日給制一一〇〇
円」と書いた幕を竹竿二本を支柱として立て、前記派遣組合員らが演説をしたりし
たが、被控訴人らは解散時に起立して挙手しシユプレヒコールを唱えたほかは、お
おむね、右集合場所又は当日は寒い日だつたのでそこから約三〇メートル離れた窪
地に移動して集つて、うずくまつたり、座つたりして約二時間を過し、特段に喧騒
に亘る行為もなく、また、なんらの暴力行為も行われていない。
(2)当局側の甲府営林署事業課長kら数名も右集合場所に来ていたが、午前七時
三七分ころkらは被控訴人らの面前に立つて、直ちに解散することを口頭で要求す
るとともに、控訴人署長作成名義の「解散要求、職場大会の責任者および参加者の
皆さんへ 先に警告したとおり勤務時間内にわたつて無許可の職場大会を継続する
ことは業務の正常な運営を阻害する行為であるから直ちに解散されたい。」と記載
したプラカードを示し、また、午前七時四七分ころkらは、被控訴人らに対し直ち
に職場に復帰することを命じるとともに、同控訴人作成名義の「業務命令 現在行
われている無許可の職場大会に参加している職員は、直ちにそれぞれの職場に復帰
されたい。」と記載したプラカードを持つて回つて示し、各人に「直ちに職務に従
事することを命ずる。」旨の同控訴人作成名義の各被控訴人宛の業務命令書を手渡
そうとしたが、被控訴人らはそれを受け取らなかつた。
(3)被控訴人らは、右争議行為を行うに当つて東京地本との連絡員一人を上佐野
部落に置いていたが、右連絡員が午前九時二〇分ころ集合場所に帰つて来て、前記
のストライキ中止指令が出たことを伝達し、被控訴人らは午前九時三三分ころ解散
し、間もなくそれぞれの職場に帰つたこと。
(4)林野庁当局は、甲府営林署が争議行為の拠点に選ばれた旨の情報を、同月二
八日入手し、林野庁長官作成名義の「職場の皆さんへ 全林野労働組合は四月三〇
日に違法行為を計画している模様ですが、職員の皆さんは国家公務員としての自覚
にもとづき、このような計画には絶対参加しないよう格段の自覚を要望します。」
と記載した同日付のビラを甲府営林署庁舎内の掲示板に掲示していた。
 以上の諸事実によれば、本件争議行為は、全林野の指令により、東京地本の指揮
のもとに、甲府営林署(定員外職員を含めて職員一四三名)管内の生産・造林・植
付等の現場作業に従事する定員内職員二名、定員外職員三一名が、使用者である国
(所管庁林野庁)に対し、給与・賃金の引上げを要求して二時間余りに亘つて職場
から離れて、労働の提供を集団的に拒絶し、それぞれが担当する作業に就労しなか
つたものであることが明らかであるので、右争議行為は公労法一七条一項所定の
「同盟罷業」に該当するものというべきである。
 もつとも、原審における被控訴人g本人尋問の結果及び原裁判所の調査嘱託に対
する甲府営林署長の昭和四九年九月四日付回答書によれば、昭和四五年度の内船
(片房沢)製品事業所及び南部担当区事務所の集材、伐木及び植付等の作業は、ほ
ぼ業務計画に適合した実行がなされ、鉄骨盤台撤去の作業も予定期間である一週間
内に遅滞なく終了し、また同盤台には常時一日分の伐木材が積載されていたので、
当日のトラツクによる運材作業についても争議行為による影響はほとんどなかつた
ことは認められるけれども、社会経験則上、被控訴人らの不就労によるその間の業
務の遅れは明らかであり、その遅れはその後の労働密度の集約などにより修復され
たものと推認されるのみならず、前掲被控訴人g本人の供述によれば、伐木及び集
材等の製品生産作業は一人の班長の指示・監督のもとに六人の職員一組で行われて
いることが認められるので、被控訴人らの不就労は単に各自が担当する作業のその
間の停廃にとどまらず、他の就労している職員の作業にも多かれ少なかれ影響を及
ぼして全体として作業効率を低下させたとも窺える。そうだとすれば、昭和四五年
度の業務計画が達成されたことや当日の運材に影響がなかつたこと、その他事業計
画は争議行為以外の諸条件の変化により、しばしば不実行、遅延となつて変更され
ることなど被控訴人らが主張する諸事情は、前記の結論を左右することはできな
い。
 なお、公労法一七条一項は被控訴人ら現業公務員の争議行為を全面的に禁止して
いるので、それが法律上許される場合があることを前提として、争議行為の目的、
動機、手段、態様の相当性、暴力行為を伴わなかつた等の諸事情によつて、右争議
行為が「同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為」に該当
しないと認定することは許されないし、また、法律上正当な行為であると認めるこ
ともできないと考えられる。
 よつて、本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に当らないとする
被控訴人らの主張も採用することができない。
5 次に、被控訴人らの原審での主張四について検討する。
(一)まず、1の主張について判断する。被控訴人ら現業公務員が国家公務員法八
二条、八三条、八四条一項、人事院規則一二ー〇(職員の懲戒)の各規定の適用を
受けることは公労法四〇条一項が右の国家公務員法の各規定の適用除外をしていな
いことから明らかである。そして、公労法一七条一項の立法趣旨が、被控訴人ら主
張のように単に「国民生活全体の利益」の保護のみではないことは前説示のとおり
であり、また、被控訴人ら現業公務員は、右規定により争議行為を行うことを全面
的に禁止されているので、それを法律上禁止されていない一般私企業の労働者と異
つて、現業公務員が争議行為を行つても、法律上許される場合があることを前提と
して、その目的・動機・手段・態様の相当性などを吟味して違法性の有無を判断す
ることができないことも前説示のとおりである。
 被控訴人ら現業公務員は、服務の根本基準を定めた国家公務員法九六条一項、法
令及び上司の命令に従う義務を定めた同法九八条一項、職務に専念する義務を定め
た同法一〇一条の各規定の適用を受けることも明らかであり、前認定のとおり、被
控訴人らは林野庁長官の争議行為に参加しないよう要望した事前の警告にもかかわ
らず、昭和四五年四月三〇日午前七時三〇分の始業時から二時間余りに亘つて、職
場から離れて所定の職務に従事せず、その間上司である控訴人署長の解散要求及び
職場復帰を命じる業務命令にも従わなかつたものであるから、被控訴人らの右行為
は前記の国家公務員法の各規定に違反し、かつ、職場秩序及び服務規律を乱すもの
であり、同法八二条一、二号に該当するというべきである。したがつて、被控訴人
らが行つた争議行為は、単に「国民生活全体の利益」との関係においてのみ違法で
あるとの被控訴人らの主張は到底採用することができないし、また、被控訴人らの
右行為が前記の懲戒事由に該当しないというためには、被控訴人ら現業公務員にお
いて争議行為を行うことが許される場合があることが前提条件となると考えられる
が、現業公務員の争議行為は全面的に禁止されているので、前記の前提要件を欠く
ので、このような判断に立ち入ることもできない。
 なお、現業公務員について国家公務員法九八条二、三項が適用除外されているの
は、ほぼ同じ趣旨の公労法一七条一項、一八条が適用されるためであつて、主とし
て、立法技術上の措置であると解され、被控訴人ら主張のように同法一七条一項に
違反し「国民生活全体の利益」を害するに至らしめた職員を、特に同法一八条によ
つて解雇する権限を、使用者である国に対し与えたものと解すべきではないし、ま
た、同法一七条一項により禁止されている争議行為が、国家公務員法八二条各号所
定の同法又は同法に基づく命令違反、職務上の義務違反又は職務を怠つた場合など
にそれぞれ該当するときは、同条所定の免職その他の懲戒処分をすることができる
と解され、同法八二条以下の懲戒に関する規定と公労法一七条一項、一八条は一般
法特別法の関係ではなく、現業公務員に対し両者は併存的に適用されるものと解す
べきである。
(二)次に、2及び3の主張について判断する。
 争議行為は、一般に、労働組合の指揮のもとに、使用者に対し組合員である労働
者が労務の提供を全面的又は部分的に拒絶する集団的行為であるとはいえるが、そ
の争議行為中においても、被控訴人ら個々の現業公務員と使用者である国との間の
個別的な任用又は雇用上の権利義務の法律関係は継続して存在し、ただ、仮に現業
公務員が争議行為を行うことが法律上許される場合があるとすれば、その目的・手
段等が相当なかぎりにおいて、現業公務員の個々の行為は法令違反や職務上の義務
違反などの懲戒事由に該当しないというにすぎない。しかし、現業公務員は公労法
一七条一項により争議行為を行うことを全面的に禁止されているので、その前提要
件を欠如し、争議行為の目的・手段等の相当性の吟味にまで立ち入つて、その違法
性の有無の判断をすることができないことは前説示のとおりである。
 したがつて、争議行為中は、組合員の労働力はすべて労働組合の統轄下にあり、
個々の公務員と国との間の任用又は雇用上の権利義務関係が断絶するかのような被
控訴人らの主張及び争議行為に関連する法律関係はすべて労働組合に帰一し、被控
訴人ら個々の組合員はなんら国家公務員法上の責任を個別的には問われない旨の被
控訴人らの主張は理由がないというべきである。
 よつて、本件争議行為に国家公務員法八二条の懲戒規定を適用することは違法で
あるとの被控訴人らの主張も採用することができない。
6 被控訴人らの原審における主張五について検討する。控訴人局長が被控訴人e
及び同fに対し、控訴人署長がその余の被控訴人らに対し、被控訴人らの本件争議
行為に参加した行為がそれぞれ国家公務員法八二条各号に該当するとして戒告する
旨の懲戒処分をしたことは当事者に争いがなく、被控訴人らの右行為が同条一、二
号に該当することは前項に説示のとおりである。本件争議行為に至るまでに、全林
野と林野庁当局との職員の給与・賃金引上げに関する団体交渉が妥結しなかつたこ
とは前記4の(四)及び(六)で認定のとおりである。ところで、成立に争いがな
い乙第三七号証及び原審証人hの証言によれば、昭和四五年度の国有林野事業特別
会計は、製品(木材)価格の低迷・人権費の増大等の原因により損失の発生が見込
まれ、経営の困難が予想されたところから、林野庁当局としても職員の給与・賃金
の引上げには慎重にならざるをえなかつた事情も認められ、また、前記認定のとお
り、右団体交渉は話合は進展しなかつたけれども、なお検討を続けるということで
続行されていたものである。そして、林野庁当局が故意に回答を遅らせたり、交渉
を引き延したり、また、全林野の弱体化を狙つて、ストライキに突入させたうえ、
単純参加者である被控訴人らを懲戒処分に付したと認めるに足りる証拠はない。そ
うだとすれば、被控訴人らに対する本件懲戒処分は不当労働行為意思に基づいたも
のとは認められないので、右処分は不当労働行為であるとの被控訴人らの主張も採
用することができない。
7 被控訴人らの原審での主張六について検討する。
(一)本件争議行為は、全林野の指令に基づき、林野庁を含めて各営林局一営林署
単位で全国二〇個所において、約四八〇人が参加しておよそ一時間ないし四時間に
亘つて行われた拠点部分ストライキの一環であり、東京地本の指揮により甲府営林
署管内において定員内二名、定員外三一名の製品生産、造林及び植付などの現場作
業に従事するところの被控訴人ら現業公務員が約二時間余りに亘つて職場から離れ
て前認定の集合場所に集合し所定の労務に従事しなかつたものである。そして、使
用者側である林野庁当局も、四月二九日の団体交渉では話合は進展しなかつたもの
の、なお検討を続けるということで交渉は続行されていたものであり、昭和四五年
度の国有林野事業特別会計は損失の発生が見込まれ、林野庁当局も職員の給与・賃
金の引上げに慎重にならざるをえなかつた事情にあつたこと、当局側が故意に回答
を遅らせたり、交渉を引き延したり、また、全林野の弱体化を狙つてストライキに
突入させたうえ、単純参加者である被控訴人らを懲戒処分に付したとは認められな
いことは前記認定及び説示のとおりである。
(二)そうだとすると、昭和四五年四月三〇日に全林野が行つたストライキの規
模・態様・影響、本件争議行為の規模・態様・影響、それがストライキ全体に対し
て有する関連・役割、前記(一)の説示に加えて、4の(一)ないし(六)に認定
の団体交渉の経過に照らして、団体交渉の妥結が遅れたことについて、林野庁当局
に責められるべき非があるとは認められないことなどを考慮すると、被控訴人らが
本件争議行為の単純参加者にすぎないこと、右争議行為は人里を離れた山間で行わ
れ、格別喧騒に亘る行為もなく、暴力行為を伴つたものでもないこと、昭和四五年
度の内船(片房沢)製品事業所及び南部担当区事務所の集材、伐木及び植付の作業
はほぼ業務計画に適合した実行がなされたことなどの諸事情をしん酌しても、被控
訴人らの国家公務員法違反及び職務上の義務違反などの同法八二条一、二号該当の
行為は、国家公務員全体の秩序及び服務規律を保持する観点からみて、懲戒処分を
不問に付するに値するほど軽々しいものとは考えられない。もつとも、成立に争い
がない甲第四九号証、原審証人i、原審における被控訴人g及び同e各本人尋問の
結果によれば、昭和四八年から同五〇年春ころまでに行われた争議行為に対する昭
和四九年一月二六日付及び同五〇年六月四日付の懲戒処分の際には、単純参加者に
対してはなんらの処分もなされなかつたことが認められるが、右は本件懲戒処分後
の事情であるうえ、成立に争いがない甲第七四、第七五号証、原審証人nの証言及
び弁論の全趣旨によれば、その理由は、昭和四八年の春闘の収拾に当つて、同年四
月二七日政府と春闘共闘委員会とは「労働基本権問題については、第三次公務員制
度審議会において今日の実情に即して速やかな結論が出されることを期待するとと
もに、答申が出された場合はこれを尊重する。政府は労使関係の正常化に努力す
る。」など七項目の合意を行つたこと、同年九月三日「公労使各側委員とも、わが
国の公共部門における労使関係の実情を現状のまま放置すべきではなく、労使の相
互不信感を排除し、労使関係の正常化を図り、節度ある労使慣行を確立することが
急務であること」などの基本認識に立つて「答申の趣旨にのつとり、労使関係の改
善のために、労使はもとより政府としても最大の努力を払うべきものと考える」と
して公務員の争議権などについて第三次公務員制度審議会長答申「国家公務員、地
方公務員及び公共企業体の職員の労働関係の基本に関する事項について」が内閣総
理大臣宛に提出されたこと、ILO結社の自由委員会は昭和四八年一一月一六日第
一三九次報告三三二において「懲戒処分の問題に関しては、委員会は、従前に述べ
たこと、すなわち、制裁の適用に対する弾力的な態度は、労使関係の調和的な発展
に一層資するものであるということを繰り返すのみであり、制裁の適用に関して、
特にストライキ参加に対する制裁の適用から生ずる報酬上の恒久的な不利益及び関
係労働者のキヤリアに対する不利益な結果について政府に示唆したことを想起する
ことを理事会に勧告する。」との勧告をし、当時、政府としても、争議行為に対す
る懲戒処分については弾力的な運用をして、労使関係の正常化を計る必要があつた
ことによるものと認められる。
(三)なお、最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号事件同四一年一〇月二六日大
法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)、最高裁判所昭和四一年(あ)第四〇一号事
件同四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号三〇五頁)、最高裁判所昭和四一
年(あ)第一一二九号事件同四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号六八五
頁)は、いずれも基本的には勤労者の争議権等の労働基本権は、「国民生活全体の
利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解
釈しなければならない。」と判示したうえ「労働基本権の制限は、勤労者の提供す
る職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつてその職務または業
務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれの
あるものについて、これを避けるため必要やむを得ない場合について考慮されるべ
きである。」との見解に従つて判決されていることは認められるが、これらの判例
は郵政省の現業職員、東京都教職員、裁判所職員に対する刑事事件に関するもので
あり、かつ、右見解に対する反対意見又は意見が付されているものであつて、本件
争議行為当時において、これら判例の見解が、右争議行為に対する懲戒処分につい
て、そのまま確定したものとして適用されるかどうかは、はつきりとは断言するこ
とはできない状態にあつたというべきである。
(四)そして、本件懲戒処分に当つて、懲戒(任用)権者である控訴人局長及び同
署長が林野庁と協議したことは控訴人らの自認するところであるが、本件争議行為
は、全林野の指令による全国的規模の拠点ストライキの一環であり、かつ、右スト
ライキの参加者も多数にのぼることから、控訴人ら懲戒権者が被処分者らに対する
懲戒処分の公平を期するために、林野庁の担当職員と協議して調整をなし、一定の
基準に従つて被控訴人らに対する処分を行つたことは、やむをえない措置であると
考えられ、なんら責められるべき違法、不当な点はないというべきである。なお、
本件懲戒処分は林野庁の労務担当者の発意に基づいて労務政策の一環として同庁で
設定された統一基準を機械的一律的にあてはめてなされたものであるとの被控訴人
らの主張を認めるに足りる証拠はない。
(五)懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態
様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の
処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮し
て、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択
すべきか、を決定することができるものと考えられる。その際、懲戒事由に該当す
ると認められる当該行為が争議行為自体又はそれと関連したものであるときは、当
該行為者の個別的な事情のほか、争議行為時及び懲戒処分時の労使関係の状態等の
具体的事情、右処分が労使関係ひいては国民全体に及ぼす影響なども考慮に入れる
ことはその裁量権の範囲内にあるということができる。したがつて、右の具体的事
情及び影響の如何によつては、時期を異にする同じ程度・態様の非違行為に対する
処分の有無又は選択された処分が相異したり、より重大な非違行為について処分が
なされなかつたり、比較的軽い処分で済まされたりしても、それが社会観念上著し
く妥当を欠くものでないかぎりは、法律上許されることであつて、これをもつて裁
量権を濫用した違法があるとすることはできない。前記(二)の昭和四八年から同
五〇年春ころまでの争議行為についてその単純参加者に対しなんらの懲戒処分も行
われなかつたことには、前記のとおりの認定の理由があるので、これをもつて、本
件懲戒処分が裁量権を濫用した違法があるということはできない。
(六)以上の認定及び説示に照らすと、被控訴人らを戒告する旨の本件懲戒処分が
社会観念上著しく妥当を欠き、控訴人らにおいて裁量権を濫用し違法であるとは認
めることはできない。
 よつて、本件懲戒処分は処分権を濫用又は裁量権を逸脱してなされたものである
との被控訴人らの主張も採用することができない。
8 被控訴人らの当審における主張1について検討する。官公労働者に対し、争議
行為を行うことが禁止されているのは、被控訴人らが主張するように、単にその争
議行為により「国民生活に重大な障害」をもたらすおそれがあることのみが唯一の
理由ではないこと、国有林野事業に勤務する現業公務員の争議行為は、国民生活に
重大な障害をもたらすおそれがないとはいえないことは、前記二の2(一)及び
(三)に説示したとおりである。したがつて、被控訴人らの右主張も理由がない。
9 次に被控訴人らの当審での主張2について検討する。
(一)まず(一)の主張について判断する。被控訴人ら現業公務員が国家公務員法
二条二項所定の一般職に属する公務員であることは前記二の3に説示したとおりで
ありであり、憲法七三条四号の「官吏」は、内閣が掌理する事務に従事する国家公
務員と解されるので、被控訴人ら現業公務員も同号所定の「官吏」に該当するとい
うべきである。そして、被控訴人ら現業公務員の給与及び賃金については、法令で
はなく労働協約で定められていることは前期二の4(二)で認定したとおり、成立
に争いがない甲第四七号証によれば、勤務時間、休日及び休暇等の勤務条件につい
ては、定員内職員は「国有林野事業職員就業規則」などで、定員外職員は「国有林
野事業作業員就業規則」などで定められていることが認められるけれども、それは
必ずしも、憲法二八条等に基づく憲法上の要請ではなく、国会の立法裁量に基づい
た措置であることは前記二の2(四)で説示したとおりである。さらに付言すれ
ば、憲法七三条四号の「法律に定める基準」とは、官吏に関する内閣の事務掌理の
基準が法律事項であることを定めたものであり、それをどの程度具体的個別的に法
律で定めるか、又はその細目等は政令等に委任するか、或いは現行の公労法が規定
するように労使間の協定等で定めるかは、各種公務員の従事する公務の性質・内
容、勤務形態、社会的経済的情勢その他諸般の事情を総合的に考慮して合目的的に
決定すべき国会の立法裁量に属する事項であるというべきである。したがつて、被
控訴人らの右主張も理由がない。
(二)次に(二)の主張について判断する。公労法八条各号に定める団体交渉事項
のうちには、資金の支出を伴わず予算措置を必要としない事項もないわけではない
が、賃金その他の給与、労働時間などの主要な多くの事項は資金の支出、予算に関
係するものであつて、財政民主主義に表れている議会制民主主義の原則により直接
又は間接の国会の判断に待たざるをえない事項である。そして、被控訴人ら現業公
務員は、前記説示のとおり、国有林野事業に勤務する一般職に属する国家公務員で
あつて、憲法二八条の勤労者には該当するけれども、同法一五条、四一条、七三条
四号、八三条等の規定により、憲法上特殊の地位、立場にあることは前記二の2
(一)、(二)に説示のとおりであり、その給与・賃金も国の収入を財源として支
出されるものであつて、一般私企業の労働者とは異つた地位にあるものである。
 また、被控訴人ら現業公務員はその従事する公務の性質・内容等からみて、単に
政府が資本金を全額出資している国民金融公庫等の公法上の法人の職員とは同一視
することもできない。したがつて、被控訴人らの右主張も理由がない。
10 被控訴人らの当審における主張3について検討する。公労法四〇条一項一号
は国家公務員法三条二項ないし四項を適用除外しているが、右規定は控訴人らの主
張するとおり、人事院の分掌事務及び権限を一般的、包括的に宣言しただけの規定
であり、そのほか、公労法は現業公務員の給与その他の賃金、労働時間等の勤務条
件などを原則として、労使間の協定又は仲裁で定める旨規定していることから、国
家公務員法二二条その他の人事院に関する規定も適用除外しているが、現業公務員
についても、同法の任用、分限、懲戒、服務等に関する規定のうち大半のものの適
用があり、かつ、同法附則一三条は、一般職に属する職員に関しては、その職務と
責任の特殊性に基づいて、同法の特例を要する場合においては、別に法律又は人事
院規則をもつてこれを規定することができる旨を定めているので、人事院が同規則
八ー一四(非常勤職員等の任用に関する特例)を定め、被控訴人らのうち定員外職
員が右規則により任用されていることには違法な点又は脱法的運用として非難され
るような点はない。そして、当審証人lの証言によれば、国有林野事業においては
伐木、造林などの基幹となる現場作業が主として定員外職員によつて行われている
ことが認められ、同職員の任用、賃金、その予算上の支出項目などは前記二の3に
認定したとおりであるが、同事業特有の季節的要因から年間を通じて均等な同職員
の雇用量の確保が困難であること、労務の内容・性質から出来高給の維持も避け難
いことも前記説示の如く認定したとおりである。また、定員外の職員については給
特法五条の給与総額についての規定の適用はないが、給与の根本原則を定めた同法
三条、給与準則についての四条、勤務時間等の勤務条件についての六条の各規定等
は適用がある。財政法二三条によれば、国会が議決する予算の歳出の区分は項まで
ではあるけれども、国有林野事業特別会計法一一条二項により、毎会計年度国会に
提出する同特別会計の予算には、歳入歳出の予定計算書、当該年度の国有林野事業
勘定の予定損益計算書及び予定貸借対照表等を審議のため参考資料として添付しな
ければならないことになつているところから、定員外職員の賃金は国有林野事業費
(項)として予算に組み入れなければ支出できないものであり、かつ、同事業等の
業務量、定員外職員の雇用人員、賃金等は国会の審議の対象となり又はなりうるも
のであるから、右賃金その他の勤務条件の決定は議会制民主主義の制約に服し、国
会の直接又は間接の判断を待たざるをえないというべきである。
11 以上8ないし10に認定及び説示したところによれば、公労法一七条一項が
憲法二八条に違反するともいえないし、公労法一七条一項を国有林野事業に従事す
る公務員、特に定員外職員の行う争議行為に適用するのは憲法二八条に違反すると
もいえないので、被控訴人らの当審における主張4は理由がなく、採用することが
できない。
12 最後に、被控訴人らの当審における主張5及び6について検討する。ILO
条約九八号(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)六条の
「公務員」の意義については、広く国又は地方公共団体等に任用されている公務員
一般を指すのか、又は「国の行政に従事する公務員」に限定されるのかなどの解釈
についての争いがあるけれども、成立に争いがない甲第七八号証により認められ、
かつ、条文上明らかなとおり、同条約は、国等及び私企業を通じて、労働者の争議
権に関するものではなく、また、ILO条約八七号(結社の自由及び団結権の保護
に関する条約)も同様に、前記の労働者の争議権に関するものではない。そして被
控訴人ら現業公務員は、公労法四条、八条等において、労働組合を結成し又は加入
し、公共企業体等の管理及び運営に関する事項を除いて、その勤務条件等について
使用者と団体交渉をし、労働協約を締結する権利を与えられているので、右の両条
約に抵触する点はない。また、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約
(昭和五四年条約六号)八条一項(d)号(「同盟罷業をする権利」)について
は、成立に争いがない甲第七六号証により認められるとおり、日本は右国際規約の
批准に際して同号について留保を宣言しており、同号の規定は条約としての効力を
いまだ発生していない。しかも、同条二項は、「公務員」の意義についてILO条
約九八号六条のそれと同様の争いがあるけれども、「この条の規定は、軍隊若しく
は警察の構成員又は公務員による1の権利の行使について合法的な制限を課するこ
とを妨げるものではない。」と規定し、(d)号も「ただし、この権利は、各国の
法律に従つて行使されることを条件とする。」との但書を設けている。そして、右
国際規約八条一項(c)号の「労働組合の自由に活動する権利」には争議権は含ま
れないと解され、また、仮にそうではなく同盟罷業以外の争議行為をする権利はそ
れに含まれるとしても、被控訴人ら現業公務員に対し法律上争議行為が禁止されて
いることには前記二の2(一)及び(三)で説示したとおりの合理的な理由がある
ので、右の理由は(c)号所定の「法律で定める制限であつて国の安全若しくは公
の秩序のため又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なも
の」に該当するというべきである。そして、現業公務員には団結権、団体交渉権等
が与えられているので、右国際規約に抵触する点がないことは、前記の両条約につ
いて説示したところと同様である。
 よつて、公労法一七条一項が前記の両条約及び国際規約の各規定に違反するとの
被控訴人らの右主張も理由がない。
三 以上の次第で、第一審原告aと控訴人署長との間の本件懲戒処分取消請求訴訟
は、昭和五一年七月七日同原告の死亡により終了したものであり、同原告を除く、
その余の被控訴人らに対する控訴人らが行つた本件懲戒処分は適法であつて、被控
訴人らが主張するような違法な点はない。したがつて、被控訴人らに対する本件懲
戒処分は、控訴人らが合理的な裁量に基づかず裁量権を逸脱濫用した違法なもので
あるとしてこれを取消した原判決は不当であるというべきである。よつて、原判決
を取り消し、第一審原告aを除く、その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却し、
右aと控訴人署長との間の本件懲戒処分取消請求訴訟については前記の理由による
終了を宣言することとし、訴訟費用について民訴法九六条、九三条、八九条を適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤原康志 片岡安夫 小林克已)

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