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判決言渡平成20年5月28日
平成19年(行ケ)第10319号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年5月21日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士廣瀬孝美
訴訟復代理人弁理士松井光夫
同五十嵐裕子
同村上博司
被告住友大阪セメント株式会社
訴訟代理人弁理士棚井澄雄
同高橋詔男
同五十嵐光永
同大槻真紀子
主文
1特許庁が無効2006−80228号事件について平成19年
7月31日にした審決のうち,請求項1について審判の請求は成
り立たないとした部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被告が発明の名称を「低屈折率膜形成用塗料,帯電防止・反射防止
膜および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体並びに陰極線管」とする特許第
3272111号(出願平成5年8月6日,登録平成14年1月25日,請
求項の数6)の特許権者であるところ,原告から請求項1ないし6につき特許
無効審判請求がなされ特許庁が全請求項につき請求不成立の審決をしたことか
ら,原告がそのうち請求項1(本件発明1)についての判断(不成立)の取消
しを求めた事案である。
,,(「」2争点は本件発明1が下記文献に記載された各発明それぞれ甲1発明
ないし「甲3発明」という)との関係で新規性(特許法29条1項3号)な。
いし進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。

甲1発明:特開平5−13021号公報(発明の名称「反射防止体及びその利
用装置,出願人株式会社日立製作所,公開日平成5年1月22」
日)
甲3発明:特開昭60−203679号公報(発明の名称「反射防止性透明材
料の製造方法,出願人東レ株式会社,公開日昭和60年10月」
15日)
第3当事者の主張
1請求原因
()特許庁における手続の経緯1
ア被告は,平成5年8月6日,名称を「低屈折率膜形成用塗料,および帯
電防止・反射防止膜付き透明積層体および陰極線管」とする発明につき特
許出願(特願平5−196535号,請求項の数9)をしたところ(公開
公報は特開平7−48543号,公開日平成7年2月21日,拒絶理由)
通知を受けたので,平成13年11月2日付けで発明の名称を「低屈折率
膜形成用塗料,帯電防止・反射防止膜および帯電防止・反射防止膜付き透
明積層体並びに陰極線管」とし請求項の数を6とする等を内容とする手続
補正(乙3)をしたところ,平成14年1月25日に特許第327211
1号として設定登録を受けた(請求項の数6,甲24〔特許公報。以下〕
「本件特許」という。。)
イその後原告から,本件特許の請求項1∼6につき特許無効審判請求がな
されたところ,特許庁は,同請求を無効2006−80228号事件とし
て審理した上,平成19年7月31日,全請求項につき「本件審判の請求
は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成19年8月10日原。
告に送達された。
()発明の内容2
本件特許の請求項1の記載(本件発明1)は,次のとおりである。
【】,,.請求項1シリコンアルコキシドと非水溶媒と平均粒子径が0
3∼100nmかつ屈折率が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粉
末とを分散含有してなることを特徴とする低屈折率膜形成用塗料。
(3)審決の内容
ア審決の内容は別添審決写し記載のとおりであり,原告主張の無効理由1
ないし3はいずれも認めることができないとしたが,そのうち本件発明1
に関する無効理由1は下記のとおりである。

無効理由1:本件発明1は,甲1発明又は甲3発明と同一若しくはこれ
らに基づき容易に発明することができたから,特許法29
条1項3号又は特許法29条2項により特許を受けること
ができない。
イ審決は,本件発明1と甲1発明との対比・判断に当たり,甲1発明の内
容を以下のとおり認定し,本件発明1との一致点及び相違点を以下のとお
りとした。
〈甲1発明の内容〉
「アルコキシシランSi(OR)(ただし,Rはアルキル基)を溶解し4
たアルコール溶液に少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒
子を分散させた反射防止膜形成用塗料。
〈一致点〉
いずれも「シリコンアルコキシドと,非水溶媒と,多孔質シリカ微粉
末とを分散含有してなる膜形成用塗料」である点。
〈相違点(a〉)
多孔質のシリカ微粉末の平均粒子径が,本件発明1では,0.3∼1
00nmであると特定されているのに対し,甲1発明では,そのよう
な特定がなされていない点。
〈相違点(b〉)
多孔質のシリカ微粉末の屈折率が,本件発明1では,1.2∼1.4
であると特定されているのに対し,甲1発明では,そのような特定が
なされていない点。
〈相違点(c〉)
塗料の対象が,本件発明1では,低屈折率膜形成用であるのに対し,
甲1発明では,反射防止膜形成用である点。
ウまた審決は,本件発明1と甲3発明との対比・判断に当たり,甲3発明
の内容を以下のとおり認定し,本件発明1との一致点及び相違点を以下の
とおりとした。
〈甲3発明の内容〉
「A)メチルトリアルコキシシランの加水分解物を50重量部以上を(
含有する,アルキルトリアルコキシシラン又はジアルキルジアルコ
キシシランである有機ケイ素化合物の加水分解物100重量部と(
B)平均粒子径1∼100nmの微粒子状シリカと(C)アルコー
ル等の溶剤からなるコーテイング組成物」。
〈一致点〉
いずれも「シリコンアルコキシドの加水分解物と,非水溶媒と,平均
粒子径1∼100nmのシリカ微粉末とを分散含有してなる低屈折率
膜形成用塗料」である点。
〈相違点〉
シリカ微粉末において,本件発明1は屈折率が1.2∼1.4である
多孔質であるのに対し,甲3発明はそのような特定がなされていない
点。
()審決の取消事由4
しかしながら,審決には以下に述べるような誤りがあるから,審決は違法
として取り消されるべきである。
ア取消事由1(製造方法についての甲1発明の認定の誤り)
,,(ア)審決はアルコキシドを加水分解して多孔質シリカを生成する際に
触媒として酸を用いるか(甲1,アルカリを用いるか(本件発明1の)
実施例2)で「得られた多孔質シリカと同様のものであるとは解され,
ない」と認定した(21頁24行∼26行)が,誤りである。
本件発明1の発明特定事項のうち,シリカ微粒子に関しては,多孔質
であること,平均粒径0.3∼100nm,屈折率1.2∼1.4が規
定されているのみであるところ,審決は平均粒径について甲1に開示さ
れていると認定し,多孔率と屈折率との関係は周知である。
したがって,甲1の酸触媒を用いた場合に,本件発明1の屈折率ない
し多孔度の範囲のものが得られるか否かについて検討する必要のあると
ころ,審決は上記のとおり得られた多孔質シリカと同様のものであると
は解されないとするのみで実質的な判断をしていない。
(イ)審決は,本件発明1の多孔質シリカ微粉末の製造はアルカリ触媒の
存在下で行われると認定しているところ,この前提が誤りである。本件
発明1の実施例2においてはアンモニア水が使用されているが,実施例
1では多孔質シリカ微粉末と記載されるのみで,触媒の種類を含め,そ
の製造方法及び屈折率は不明である。
そして,甲1及び本件発明1の実施例2のようにアルコキシシランの
加水分解によってシリカゲル粒子を製造することはゾル−ゲル法(液相
法)として周知であり,甲12(作花済夫「ゾル−ゲル法の科学−機能
性ガラスおよびセラミックスの低温合成−」株式会社アグネ承風社1
54−161頁)には,アルカリ触媒の場合の方が架橋結合を形成しや
すいが,酸触媒の場合でも架橋結合が出来ると示されている。そうする
と,甲1のような酸触媒の使用では多孔質のシリカが出来ないとはいえ
ない。
(ウ)そして,甲13(特開昭60−71545号公報,発明の名称「反
射防止シリカ塗膜,出願人ウエスチングハウスエレクトリックコー」
ポレーション,公開日昭和60年4月23日)には,多孔質酸化物と
してシリカが例示され,その膜によって反射防止を行うことが示されて
おり,甲13の発明では,多孔質シリカの粒子をシリカ膜に含めるので
はなく,シリカ膜自体を多孔質にしている。すなわち,酸を触媒として
用い,アルコキシシランから多孔質のシリカゲル膜を製造している。こ
のように,酸触媒を使用しても多孔質シリカ(膜)を生成することがで
きるものである。審決も「…甲13号証には孔部形態を有する薄いシ,
リカ塗膜がSi(OR)で表されるシリコン・アルコキシドと水と有4
機溶剤と触媒作用をする少量の酸とから成る塗料から形成される…(」
24頁下7行∼下5行)と指摘し,別の箇所では酸触媒によってでも,
反射防止作用をするに十分な孔が出来ることを認定しており,審決の認
定は矛盾している。
(エ)また甲3の実施例1の()反射防止加工において,アルコキシシラ2
ン,プロピルアルコール及びメタノール(共に非水溶媒)の混合物にn-
塩酸水溶液即ち塩酸と水とを滴下してシラン加水分解物を作り,これに
平均粒径12mμ(12nm)の微粒子状シリカを含む分散物を加えて
コーティング組成物とし,これを透明基板上にスピンコート塗布し,加
熱硬化を行って,屈折率1.36の皮膜を得ている。これは甲3におい
てシリカ膜の屈折率が1.36と小さい(孔のない中実のシリカの屈折
率は1.46)のは,その中に混入された微粒子状シリカが多孔性であ
るからではなく,シリカ膜自体が多孔性に形成されたからである。そう
すると,膜を形成する原料であったアルコキシシランの加水分解を酸触
媒で行った場合にも膜は多孔性となるはずであり,この点からも審決の
認定は誤りである。
(オ)以上のとおりであるから,酸触媒を使用して製造された多孔質シリ
カ微粒子(甲1)が本件発明1の屈折率を持たないと考えるべき根拠は
なく,審決の甲1の認定は誤りである。
イ取消事由2(反射についての甲1発明の認定の誤り)
(ア)審決は「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子』を用『
いることは,表面が多孔質であることにより生じるシリカ超微粒子表面
の開孔による凹部により拡散反射を少なくさせて,反射防止膜の表面の
凹凸によって,増加する拡散反射により生じる,反射防止膜の白濁を防
ぐものであり…,その効果は表面が多孔質であるシリカ超微粒子の屈折
率自体に関与するものではないので,甲第1号証にはどの程度の屈折率
である多孔質のシリカ超微粒子を使用するかについては記載も示唆もさ
れておらず『屈折率が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粉末』を分,
散含有させるという構成が甲第1号証の記載から示唆されるものではな
い(25頁32行∼26頁4行)と認定したが,誤りである。。」
APPLIED(イ)多孔率と屈折率との関係に言及した公知文献である甲5(
,19巻9号,1980年5月1日1425∼1429頁)にOPTICS
よれば,多孔率と屈折率とは一義的に関係付けられている。すなわち,
多孔質物質は孔により密度が低下した物質とみなされている。物質の密
度が小さくなると屈折率は小さくなるものであり,甲5の図1には3つ
の物質についての計算結果が示されているところ,原告代理人において
これを図示した甲6によれば,シリカ(多孔度ゼロ)の屈折率は1.4
6,多孔率15%で1.4,多孔率30%で1.3,多孔率50%で約
1.25である。
(ウ)また甲1は拡散反射と屈折反射の両方を記載していると解されると
ころ,審決は拡散反射しか記載していないと認定したが,誤りである。
甲1の段落【0190】∼【0192】には,粒子を多孔質化するこ
とによって,屈折反射を防止することが明示されている。
甲1の実施例において,拡散反射については短い定性的評価が在るの
みであり,他は全て屈折反射に対する定量的記載である。甲1の実施例
における反射率の値は,本件明細書(特許公報,甲24)の表1におけ
る0.5%,0.3%と同等であり,本件発明1の効果は格別のもので
はない。
(エ)また甲1に接した当業者は,微粒子が多孔性であることによって屈
折反射が低減されたと理解し,屈折反射を低減するために多孔率がいく
らとするかは当業者の技術常識に属する。
,()(上記甲5のように反射防止のためには空気の屈折率約1と基体
甲1のガラス)の屈折率(1.52)の中間の屈折率を反射防止膜が持
つべきことは当業者にとって常識であって,上記のとおり,多孔率15
%での屈折率は本件発明1の1.4になる。
また,甲25(,23巻9号,1984年5月1日APPLIEDOPTICS
1418∼1424頁)及び前記甲13によれば,シリカ膜を多孔性に
することは古くから知られており,甲2(特開平5−132309号公
報,発明の名称「複合酸化物ゾルおよびその製造法,出願人触媒化成」
工業株式会社,公開日平成5年5月28日)には多孔性の酸化物粒子が
低屈折率膜のフィラーとして使用できることが記載され,甲1には多孔
質シリカ粒子をシリカ膜中に含めた反射防止膜をより具体的に開示して
いる。
したがって,甲1の「多孔性」シリカの記載に接した当業者が多孔率
15%以上にすることを想到することに格別の困難性はない。
(オ)また上記甲2について,審決は「そもそも,甲第2号証に複合酸化,
物として具体的に記載されているのは,複合酸化物のシリカ以外の成分
,,.の無機酸化物であるAlOSnOであって…その屈折率は各々1232
7と2.00であり…,いずれもシリカよりも屈折率が大きいから,甲
,第2号証にはシリカ膜の屈折率をシリカの屈折率よりも低くするために
シリカ膜中に多孔質の複合酸化物,さらに屈折率1.2∼1.4の多孔
質シリカを分散して用いることまでは記載も示唆もされていない(2。」
6頁27行∼33行)と認定した。
,,(しかし審決が示すAlOSnOの大きな屈折率はこれらの中実232
孔のない)の場合の屈折率であって,甲2記載のように多孔性の場合の
屈折率ではないから,中実の屈折率を以て低屈折率用フィラーとして使
用できないとするとの認定は誤りである。
(カ)また審決は,本件発明1が帯電防止膜等の高屈折率膜と低屈折率膜
との組み合わせによる反射防止機能を向上させる効果を奏するものと認
定した(26頁9行∼15行。)
しかし,本件発明1は高屈折率膜の存在とは無関係であり,仮に本件
発明1を高屈折率膜と低屈折率膜との組み合わせに限定したとしても,
空気と高屈折率の固体との界面における屈折率の差による反射を中間の
,屈折率の膜を設けることによって低下するという概念は周知であるから
本件発明1に進歩性はない。
ウ取消事由3(甲3発明についての認定の誤り)
(ア)甲3には,実施例1の()に高屈折率(1.55)の透明基材を製1
作し,()の反射防止加工において,コーティング組成物を上記()の透21
明基材にスピンコートし加熱硬化させて,屈折率1.36のコーティン
グ被膜を形成したことが記載されている。
審決は,①前記甲13ではシリコンアルコキシド,水,有機溶剤,及
び酸触媒からなる塗料を基材上に塗布,加熱することにより,膜中に孔
部形態を形成することが記載されていること,②甲1に粒径分布を有す
る超微粒子を用いると(大きい粒子と小さい粒子との間に)空孔を持た
せることが出来ることが記載されていることから,コーティング被膜に
気孔を意図的に形成する場合も,膜形成時に膜中の粒子間に空気を含ん
だ空隙が形成される場合もある旨を認定した(24頁下7行∼25頁6
行。)
(イ)しかし,甲3では,()の反射防止加工工程で予めシリコンアルコ2
キシドを希塩酸中,室温で攪拌して加水分解させてシラン加水分解物を
得ており,基体に塗布してから加水分解を行ってはいないので,甲13
を引用することは妥当でない。
また,甲3では粒径分布をことさらに持たせてはいないから,甲1を
上記審決の意味で引用するのは妥当でない。
さらに,甲3では反射防止用のコーティング組成物をスピンコートに
よって施与しており,スピンコートによる塗布は膜にnmサイズ未満の
空気の泡を巻き込むことはない。
したがって,甲3の低屈折率に対する審決の理由付けは誤りである。
(ウ)甲3においては,工程()においてシラン加水分解物を得る際に,2
水を含んだシラン粒子が生成し,後の乾燥時に空孔が残ったと解すべき
である。
審決は,工程()でメタノールに分散したコロイド状シリカについて2
論じているが,このコロイド状シリカは工程()の高屈折率の透明基材1
を作る際にも使用されているから,多孔性であるはずがない。
そして,甲3においてコーティング被膜の屈折率(1.36)はマト
リックスのシリカの屈折率(1.46)より相当に小さいから,その中
に含まれるシリカ微粒子の屈折率が本件発明1の屈折率の範囲に入ると
考えることは当然である。
以上のとおり,審決による甲3発明の認定は誤りであり,審決は取り
消されるべきである。
2請求原因に対する認否
請求の原因()ないし()の各事実はいずれも認めるが,()は争う。134
3被告の反論
()取消事由1に対し1
原告は,審決が触媒として酸を用いるか(甲1,アルカリを用いるか()
本件発明1の実施例2)で得られた多孔質シリカは同様のものであるとは解
されないと認定したのは誤りであると主張する。
しかし,甲1には「多孔質シリカ微粉末の屈折率を1.2∼1.4にす,
る」という本件発明1の構成,及び,かかる構成に至る動機付けとなる示唆
はない。審決は,これを認定した上で,念のため本件発明1と甲1発明にお
いてどのようなシリカ微粒子が使用されているかを検討したにすぎない。そ
して,開口率と製法の違いに着目して検討した結果,甲1記載のシリカ微粒
子が1.2∼1.4の屈折率を有するとはいえない,と結論したのである。
もとより,適切な条件を選択すれば酸触媒を使用しても多孔質のシリカが
できる可能性は否定できないが,甲1には,そのような適切な条件が記載さ
れているわけではない。また,シリカの屈折率が開口率から直ちに算出され
るものでもない。かかる事実から,審決は甲1には,1.2∼1.4の屈折
率を有するシリカ微粒子が記載されているとはいえないとしたものであっ
て,審決の認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。
(2)取消事由2に対し
原告は,取消事由2として,甲1の反射についての審決の認定が誤りであ
ると主張するので,以下反論する。
ア(ア)本件発明1と甲1発明とでは,反射防止という点では共通するもの
の,その原理が全く異なる。本件発明1は,ガラス,プラスチック等の
一般的に使用される基材やその上に形成された膜(高屈折率層)の表面
に,高屈折率層と適切な屈折率差を有する低屈折率膜を形成できる塗料
に関するものである。そして,本件発明1の塗料を用いて形成された低
屈折率膜は十分な反射防止効果を有する。本件発明1の塗料による反射
防止は,高屈折率層の表面に低屈折率膜を形成し,低屈折率膜と高屈折
率層との適切な屈折率差を設けることにより低屈折率膜と高屈折率層の
界面で反射した光と,低屈折率膜の上部界面で反射した光とをお互いに
,。打ち消し合わせ光学的干渉作用により反射防止効果を得るものである
この際,理想的には,形成される低屈折率膜の膜厚を光の波長の1/4
とし,両反射光の位相を1/4ずらすことが好ましい。本件発明1の塗
料は,かかる原理による反射防止を達成するため,塗料中に含まれる多
孔質シリカ微粉末の屈折率を1.2∼1.4と規定している。
,,【】【】,一方甲1においては段落0190∼0192においては
界面における屈折率を徐々に変化させることにより反射を防止するもの
である。すなわち,界面における屈折率差を小さくすることによって,
その界面において反射をさせないようにするものである。
甲1には,本件特許に係る各界面における反射光を打ち消し合わせる
ことによって反射を防止するという思想はない。甲1において本件発明
1に係る低屈折率の微粒子を用いると,基材との屈折率差が大きくなり
。,【】むしろこの界面での反射が大きくなってしまうまた段落0198
∼【0203】においては,ソーダガラス(屈折率約1.53)の上に
屈折率1.44の第2層,その上に屈折率1.42の第1層を積層して
(【】)。,「,いる段落0203これも屈折率が徐々に変化しているため
塗布膜とガラス基板との界面における反射率を低減する効果がある(」
【0203)と記載されているように,界面における屈折率差を小さ】
くすることによって,その界面において反射をさせないようにするもの
であり,反射光の打ち消しあいによる反射防止という思想はない。
(イ)上記したように,本件特許は,低屈折率膜と高屈折率層の界面で反
射した光と,低屈折率膜の上部界面で反射した光とをお互いに打ち消し
合わせ,光学的干渉作用により反射防止効果を得るものであり,かかる
原理のもと,本件発明1では,低屈折率膜形成用塗料に含まれる多孔質
シリカ微粉末の屈折率を1.2∼1.4と規定している。したがって,
本件特許と解決原理が異なる甲1には,超微粒子屈折率についての記載
がないこと,まして屈折率を1.2∼1.4とすることが必要であるこ
とについて記載も示唆もないのは当然である。
したがって,甲1発明において「少なくともその表面が多孔質であ,
るシリカ超微粒子」を用いることは,表面が多孔質であることにより生
じるシリカ超微粒子表面の開孔による凹部により拡散反射を少なくさせ
,,,て反射防止膜の表面の凹凸によって増加する拡散反射により生じる
反射防止膜の白濁を防ぐものであり,その効果は表面が多孔質であるシ
リカ超微粒子の屈折率自体に関与するものではないとした審決の認定に
誤りはない。
イまた,原告は,甲5の図1によれば多孔率15%で屈折率は本件発明1
に規定の1.4になり,多孔率30%で1.3,多孔率50%で約1.2
5であると主張する。しかしながら,膜の屈折率が膜の多孔率に関連付け
られることが記載されているとしても,甲5には微粒子の屈折率について
はなんら記載されていない。しかも,甲1発明の「少なくともその表面が
多孔質であるシリカ超微粒子」の微粒子がどの程度の多孔率であるのかに
ついては,甲1に何も記載されておらず示唆もされていない。本件発明1
は,反射防止を行うに当たって,反射防止膜の形状等ではなく,膜中に微
粒子を含有させること,そして含有させた微粒子の特性が極めて重要であ
ることを見出し,かかる微粒子の屈折率を1.2∼1.4とし,その平均
粒子径を0.3∼100nmとすれば反射をより有効に防止できることを
見出し,この膜を形成することのできる塗料を見出したものである。した
がって「甲1発明において少なくともその表面が多孔質であるシリカ超,
微粒子を屈折率が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粉末に変更して使
用することが当業者において自明であるものとも認められないので,その
ような構成の変更は当業者が容易に想到し得るものではない(26頁5。」
行∼8行)との審決の認定に誤りはない。
そもそも,甲5に記載されているのは,膜そのものを多孔質とした膜に
関する研究・文献であり,膜中に微粒子を含有させることを特徴とする本
件発明1とは,その思想,構成が異なるうえ,反射防止膜の屈折率から直
ちに微粒子の多孔率が導出されるわけではない。したがって,甲5に記載
された内容から「屈折率が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粉末」,
を分散含有させるという本件発明1の構成が示唆されるものではない。
また,甲1は,拡散反射により生じる白濁を防止するために超微粒子表
面を多孔質にするのであり,甲1にあっては,白濁を防止できれば超微粒
子の多孔率すなわち屈折率の値は問題ではなく,甲1には多孔質微粒子の
屈折率については記載も示唆もないし,甲5にも微粒子についての記載は
全くない。したがって,甲1,甲5のいずれにも,微粒子の屈折率につい
てなんら記載されていないのであるから,甲1と甲5を組み合わせること
はできない。
ウ原告は,甲1の段落【0190】∼【0192】に粒子を多孔質化する
ことによって屈折反射を防止することが明示されていると主張するが,そ
こでの記載は,界面における屈折率差を少なくして反射を防止するという
本件特許とは異なる原理に基づくものである(段落【0190。したが】)
って,粒子を多孔質化することによって,屈折反射を防止することが甲1
に明示されているとの原告の主張は誤りである。
さらに,本件発明1はあくまで反射防止膜の屈折率ではなく,反射防止
膜に含まれる多孔質シリカ微粉末の屈折率を重要な構成要件としているの
であり,したがって,甲1の段落【0190】∼【0192】の「反射防
止膜」に関する記載を示されたとしても「多孔質シリカ微粉末の屈折率,
を1.2∼1.4にする」という本件発明1の構成に至る動機付けとはな
らない。
エ原告は,甲1に接した当業者は,微粒子が空気を含む多孔性であること
によって屈折反射が低減されたと理解し,屈折反射を低減するために多孔
率がいくらであれば良いかは技術常識であるとも主張するが,甲1記載の
反射防止膜は本件特許の反射防止膜とは異なる原理に基づくものであり,
甲1発明においては「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒,
子」を用いるのは,屈折反射を低減するためではなく,反射防止膜の表面
の凹凸によって増加する拡散反射により生じる,反射防止膜の白濁を防ぐ
ものであり,その効果は表面が多孔質であるシリカ超微粒子の屈折率自体
に関与するものではない。したがって,反射防止膜中に「屈折率が1.2
∼1.4の多孔質シリカ微粉末」を分散含有させることにより,屈折反射
,。を低減することができるということは甲1に記載も示唆もされていない
すなわち,甲1には「多孔質シリカ微粉末の屈折率を1.2∼1.4に,
する」という本件特許の構成に至る動機付けとなるものはない。
オまた原告は,甲5,甲25,甲13を挙げて,多孔率と屈折率との関係
は明らかであり,反射防止のためには空気と基体の屈折率の中間の屈折率
を反射防止膜が持つべきことは当業者にとって常識であると主張する。
しかし,多孔率と屈折率との関係は明らかであるからといって,反射防
止膜中に「屈折率が1.2∼1.4の多孔質シリカ微粉末」を分散含有さ
せることにより,屈折反射を低減することができるということは導出する
ことはできないというべきである。
カさらに原告は,甲2のように多孔性にすることによって低屈折率用のフ
ィラーとして使用でき,審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,審決は,AlO,SnOはいずれも屈折率が高いのである232
から,仮にシリカとの複合体を多孔質化したとしても,その屈折率を1.
2∼1.4とすることは容易ではないというにすぎず,シリカよりも高い
屈折率の無機酸化物をわざわざ用いてその屈折率を1.2∼1.4とする
ことは容易ではないとしている。まして,かかる複合体の屈折率を1.2
∼1.4にすることは甲2の記載から当業者には容易に想到し得ない。し
たがって,審決の認定は妥当であり,原告の主張は失当である。
キまた,本件発明1の効果については既に検討したとおりであって,原告
の主張は失当である。
以上のとおり「多孔質シリカ微粉末の屈折率を1.2∼1.4にする」
という構成は,甲1から導出することはできないから,原告の取消事由2
の主張は理由がない。
()取消事由3に対し3
ア原告は,甲3の実施例1のシリカ微粒子の屈折率が本件発明の屈折率の
範囲に入ること,あるいは範囲に入ると考えることは当然であるとして,
甲13ではシリコンアルコキシドを基体に塗布してから加水分解させてお
り,予め加水分解させている甲3とは異なるから,審決が甲13を引用す
るのは妥当でない旨主張する。
しかし,シリコンアルコキシドの加水分解反応は,触媒と水を添加した
ときから始まるから,甲13においても,基体に塗布する前からシリコン
アルコキシドの加水分解反応は生じている可能性が高い。そもそもシリコ
ンアルコキシドは,特殊な条件で加水分解しなければ加水分解物が微粒子
になるとは考えにくく,工程(2(a)のシラン加水分解物はバインダ)
ーとして機能すると考えるのが通常である。したがって,審決の認定は妥
当である。
イまた原告は,甲1には粒径分布を有する超微粒子を用いると空孔を持た
せることができる旨記載されているが,甲3では粒径分布を殊更に持たせ
ていないから,審決が甲1を引用するのは妥当でないとも主張する。
しかし,甲3の実施例1の工程(2(b)で加えたコロイド状シリカ)
が粒径分布を有しないとはいえず,原告の上記主張は失当である。
ウさらに原告は,スピンコートによる塗布の際膜がnmサイズの空気の泡
を巻き込むことはないこと,コロイド状シリカが多孔性であることはない
ことを根拠として,甲3の実施例1のシリカ微粒子の屈折率が本件発明の
屈折率の範囲に入ること,あるいは範囲に入ると考えることは当然である
旨主張する。
しかし,甲3の実施例1において得られるコーティング被膜中に粒子と
して存在するのは,工程(2(b)で加えたコロイド状シリカと考えら)
れる。しかも,このコロイド状シリカは多孔質ではないのであるから,コ
ーティング被膜中では,粒子以外の膜中に何らかの気孔が形成されている
と考えるのが通常である。したがって,甲3には多孔質シリカ微粉末の記
載及びこれを示唆する記載は一切なく,ましてや屈折率1.2∼1.4の
多孔質シリカ微粉末を分散させることは記載も示唆もされていない。そも
そもシリコンアルコキシドの加水分解物が多孔質であるか否かは,甲3よ
り一概には導出できず,してみると,シリコンアルコキシドの加水分解物
の多孔性あるいは多孔率を考えること自体が意味を持たないことになる。
したがって,原告の上記主張は失当である。
エさらに,本件発明は,甲3発明と甲1発明とを組み合わせても導出する
ことができず,また,甲3発明から当業者が容易に想到し得るものではな
い。
すなわち,甲3発明において最外層のコーティング被膜中にシリカ微粉
末を加える目的は,屈折率を調整するものではなく,むしろ膜の表面強度
を増加するものであるので,甲3には多孔質であること及びその屈折率が
1.2∼1.4であることについて記載も示唆もされておらず「屈折率,
が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粒子」を分散含有させるという構
成が甲3の記載から示唆されるものではない。したがって,甲3発明と甲
1発明とを組み合わせても,本件発明1を導出することができない。
本件発明1は,甲3発明のシリカ微粒子を用いるよりも,屈折率が1.
2∼1.4の多孔質シリカを使用することの方が,より確実に,均一に,
簡便な方法によって屈折率を下げることができるものであるから,本件発
明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえない。すなわち,膜自体を多孔質化することは従来から知られてい
るが,膜の空孔率を制御することは困難であり,したがって,膜の屈折率
を調整することも困難であった。これに対し,本件発明1は,微粒子自体
の屈折率を規定しているので,配合量等を調整することによって膜の屈折
率を調整することが,甲3発明よりも容易であるという優れた効果を奏す
る。
したがって,本件発明1は,甲3発明から当業者が容易に想到し得るも
のではない。
オまた原告は,本件発明1に使用されている多孔質シリカは市販品と解す
るよりなく,かかる多孔質シリカに新規性,進歩性がない以上,その屈折
率の数値を設定すること自体に発明の進歩性が生まれるものではないとも
主張するが,反射防止膜中に「屈折率が1.2∼1.4の多孔質シリカ微
粉末」を分散含有させることにより屈折反射を低減することができる,と
いうことは導出することはできない。本件特許は,屈折率の数値を設定す
ること自体に進歩性があるのではなく,反射防止膜中に「屈折率が1.,
2∼1.4の多孔質シリカ微粉末」を分散含有させることにより各界面で
の反射光を互いに打ち消し合うことによって反射を防止できる,という点
に進歩性がある。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2(1)事案に鑑み,原告主張の取消事由2(反射についての甲1発明の認定の
誤り)について判断する。
原告は,審決が甲1には屈折率が1.2∼1.4である多孔質シリカ微粉
末を分散含有させるという構成が示唆されるものではないとしたが,本件発
明1の要件である屈折率1.2∼1.4は,甲1に実質的に記載されている
か,或いは甲1に基づいて適宜設定できたことにすぎないから審決の認定は
誤りである旨主張する。
審決が甲1を主引用例として本件発明1と対比・判断するに当たり認定し
た甲1発明の内容等は,上記第3,1(3)イ記載のとおりであり,審決は,
甲1発明と本件発明1との相違点(a)及び相違点(c)ついては実質的な
相違点ではないとし,相違点(b(多孔質シリカの微粉末の屈折率が,本)
件発明1では1.2∼1.4と特定されているのに対し,甲1発明ではその
ような特定がされていない点)については実質的に相違しているから同一で
あるといえず(22頁11行∼16行,甲1発明に基づき容易に発明でき)
たものともいえないとした(26頁15行∼16行。)
(2)そこで審決の認定した相違点(b)について検討するに,本件発明1の
特許請求の範囲の記載は,前記のとおり「シリコンアルコキシドと,非水溶
媒と,平均粒子径が0.3∼100nmかつ屈折率が1.2∼1.4である
多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなることを特徴とする低屈折率膜形成
用塗料」である。すなわち,本件発明1は低屈折率膜形成用塗料に関する。
発明であり,その含有する塗料成分につき,①シリコンアルコキシド,②非
水溶媒,③多孔質シリカ微粉末とを含有することを発明特定事項としている
ところ,これら塗料成分により形成される低屈折率膜自体の屈折率について
は特定されていない。これについては,含有する上記③の多孔質シリカの屈
折率(1.2∼1.4)を規定する方法によっているものである。
そして,本件明細書(特許公報,甲24)には,以下の記載がある(下線
は判決で付記。)
「0002】【
【従来の技術】一般に画像表示用透明基材,例えばTVブラウン管の画像表示
部には静電気が帯電しやすく,この静電気によってほこりが表示面に付着す
るという問題点が知られている。また,上記画像表示面に,外部の光が反射
し,あるいは外部影像が映り込み,表示面の画像を不明瞭にするなどの問題
点も知られている。上記の問題点を解決するために,従来,透明基材の表面
に,アンチモンをドープした酸化錫微粉末とシリコンアルコキシドの加水分
解生成物(以下「シリカゾル」という)との非水性溶媒分散液を塗布・乾燥
して帯電防止膜を形成し,前記帯電防止膜上に,それよりも屈折率の低い低
屈折率膜を形成することが行われている。即ち,前述のアンチモンドープ酸
化錫微粉末と上記のシリカゾルとの混合物を含む非水分散液からなる塗料を
用いて帯電防止膜を形成し,その上にシリカゾルの非水分散液からなる塗料
を塗布して低屈折率膜を形成するものである」。
「0004】【
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の帯電防止膜の屈折率は,n=
..,(150∼154程度であってシリコンアルコキシドの加水分解生成物
シリカゾル)により形成される前記低屈折率膜の屈折率との差が小さく,従
って,従来の帯電防止膜と低屈折率膜との組合せによる反射防止効果は十分
なものではなかった。また,前述した酸化インジウム等の透明導電膜をスパ
ッタ法や蒸着法等で形成したフェースプレートを表示面に張り付ける方法で
得られる陰極線管は,非常に高価である。一方,着色帯電防止液をコーティ
ングする方法によって得られる帯電防止・光フィルター付き陰極線管では,
導電性が不足しているために,十分な電磁波遮蔽効果が得られず,更には,
着色帯電防止コーティング液をスプレーする方法によって形成される帯電防
止・光フィルター・反射防止機能付き陰極線管の場合は,形成された膜の凹
凸により,画像の解像度が著しく低下するという問題があった。また,シリ
カゾルの非分散液からなる低屈折率膜形成用塗料を塗布して形成した低屈折
率膜にあっては,帯電防止・反射防止膜付き透明積層体の反射防止機能が不
十分であった」。
「0005】本発明は上記問題を解決するために,十分な反射防止機能を有【
する低屈折率膜形成用塗料,帯電防止性にすぐれた帯電防止・反射防止膜,
および,透明基材の面上に,帯電防止性にすぐれた帯電防止・反射防止膜付
き透明積層体,特に帯電防止・高屈折率膜とその上に形成された低屈折率膜
とを有する透明積層体ならびに少なくとも表示面がこの帯電防止・反射防止
膜で形成された帯電防止・反射防止機能付き陰極線管を提供することにあ
る」。
「0010】【
【作用】本発明の低屈折率膜形成用塗料では,シリコンアルコキシドと,非水
溶媒と,平均粒子径が0.3∼100nmかつ屈折率が1.2∼1.4であ
る多孔質シリカ微粉末とを分散含有するので,この塗料を塗布・乾燥し,焼
付け処理することによって低屈折率膜を形成することができる。こうして得
られた低屈折率膜は,十分な反射防止機能を有する。…」
「【】,,0011…本発明の低屈折率膜形成用塗料はシリコンアルコキシドと
非水溶媒と,平均粒子径が0.3∼100nmかつ屈折率が1.2∼1.4
である多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなる。このシリコンアルコキシ
ドは,テトラアルコキシシラン系化合物,アルキルトリアルコキシシラン系
,。化合物ジアルキルジアルコキシシラン系化合物などから選ぶことができる
また,非水溶媒は,アルコール系化合物,エステル系化合物,およびケトン
系化合物などから選ぶことができる。これらは単一種で用いてもよく,2種
以上の混合物として用いても良い。上記塗料を,帯電防止・高屈折率膜上に
塗布,乾燥し,これを焼き付け処理すると,シリコンアルコキシド加水分解
生成物はシリカとなる。シリカの屈折率は,n=1.46であり,アンチモ
ンドープ酸化錫の屈折率よりも低いが,帯電防止・高屈折率膜との屈折率差
を大きくするためには,シリカよりも屈折率が低く,かつ透明性の高い物質
との併用が好ましい」。
「0012】本発明の低屈折率膜形成用塗料中に含まれる多孔質シリカ微粉【
末(屈折率:n=1.2∼1.4)の含有率には,格別の制限はなく,対応
する帯電防止・高屈折率膜の組成に応じて適宜に対応することができるが,
一般にはシリコンアルコキシドの重量(SiO)に対して0.01∼602
%の範囲内にあることが好ましい。この多孔質シリカ微粉末は,平均粒径が
0.3∼100nmであることが好ましい。この平均粒径が100nmを越
えると,得られる低屈折率膜において,レイリー散乱によって光が乱反射さ
れ,低屈折率膜が白っぽく見え,その透明性が低下することがある」。
「0013】また,前記多孔質シリカの平均粒子径が0.3nm未満である【
と,微粒子が凝集しやすく,したがって塗料中における微粒子の均一分散が
困難になり,塗料の粘度が過大になるなどの問題が生じる。…」
「0014】前記多孔質シリカは,シリコンのアルコキシドをアルカリの存【
在下において,加水分解させたり,シリコンのアルコキシドを高分子,例え
ば,ポリビニルアルコール,セルロースの存在下において加水分解させるこ
となどにより製造することができる。また,多孔質シリカ微粉末は,粉末状
で使用してもよく,分散されたゾル状で使用してもよい。粉末状の多孔質シ
リカを使用したときの形状は,球状,針状,板状,および鎖状等のいずれで
あってもよい」。
「0031】このため,帯電防止・高屈折率膜形成用塗料を用いて得られる【
帯電防止・高屈折率膜は,極めて優れた帯電防止効果および電磁波遮断効果
を示す。そして,帯電防止・高屈折率膜は,n(屈折率)=1.6∼2.0
という高屈折率を具有する」。
「0032】また,特に本発明の透明積層体にあっては,基材面での反射光【
を低減させるために,上記の帯電防止・高屈折率膜の上に屈折率差0.1以
上,好ましくは0.15以上の低屈折率膜を設ける。これにより,極めて優
れた反射防止性をも具現すことになる。これは,低屈折率膜表面からの反射
光と帯電防止・高屈折率膜の界面からの反射光とが干渉によって打ち消しあ
い,さらに高屈折率膜に存在するカーボンブラック粒子により,帯電防止・
高屈折率膜内に侵入する外光が吸収されるからである。これによって,反射
防止効果を従来以上に高めることができる」。
「0037】前記塗料により形成された第一層目の膜では,アンチモンドー【
プ酸化錫に,さらに高導電性の黒色系着色導電性微粉末が添加されたことに
よって,帯電防止効果の他に,電磁波シールド効果,さらに光吸収による画
像の高コントラスト化効果を付与することができる。また,第一層目の膜上
に,それより低屈折率の第二層目の膜を形成したことによって,第一層目と
第二層目との組み合わせによる光学的反射防止効果を付与することができ
る」。
「【】,,,0040次いで第二層目の低屈折率膜形成用塗料としては表面硬度
屈折率の点から,シリコンアルコキシドを加水分解して得られるシリカゾル
を含む塗料を用いてもよい。具体的には,テトラメトキシシラン,テトラエ
トキシシラン,メチルトリメトキシシラン等のシリコンアルコキシドをメタ
ノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等のアルコール類,酢酸エ
チル等のエステル類,ジエチルエーテル等のエーテル類,ケトン類,アルデ
ヒド類,エチルセロソルブ等の1種又は2種以上の混合溶媒に加え,それに
水と塩酸,硝酸,硫酸,リン酸等の酸を加えて加水分解してシリカゾルを生
成した溶液を第二層目の低屈折率膜形成用塗料として用いることができる。
これら塗料の塗布方法としては,スピンコート法,スプレー法,ディップ法
等が適用できるが,陰極線管上に膜厚の均一な膜を形成する場合には,スピ
ンコート法が好ましい」。
「【】(),(0043実施例2実施例1と同様な操作を行い下記の調製した塗料
b)を用いた。100gのテトラメトキシシランと530gのメタノールと
を混合し,この混合液に室温で23.5gのアンモニア水を添加し,24時
。,,間撹拌したその後24時間還流してアンモニアを除去してさらに濃縮し
平均粒子径が10nmの多孔質シリカゾル(固形分20重量%)を得た。こ
の多孔質シリカ/バインダーの量比を変化させて反射防止膜を作製し,その
時の屈折率と多孔質シリカ濃度との関係から,多孔質シリカ100%の値を
外挿し,屈折率が1.25の多孔質シリカを得た。この2.0gの多孔質シ
リカゾル(約10nm)を0.6gのテトラエトキシシランとともに0.6
gの0.1N塩酸,96.8gのエチルアルコール溶液に混合し,均一に分
散させ塗料(b)とした。得られた透明積層体の評価結果を表1に示す」。
「0054【発明の効果】本発明の低屈折率膜形成用塗料は,シリコンアル【】
,,..コキシドと非水溶媒と平均粒子径が03∼100nmかつ屈折率が1
2∼1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有しているので,帯電防止
・高屈折率用膜の上に均一にシリコンアルコキシドを分散させて積層させる
ことができる。この塗料中に多孔質シリカ微粉末を分散含有させるので,十
分に反射防止機能を有する低屈折率膜を製造でき,これを用いて帯電防止・
反射防止膜の反射防止機能を向上させることができる」。
「0055】本発明に係わる帯電防止・反射防止膜は,透明基材上に帯電防【
止性に優れ屈折率が高い膜を容易に形成することを可能にするものであっ
て,特に,帯電防止・高屈折率膜形成用塗料を用いて得られた帯電防止・高
屈折率膜に低屈折率膜を組み合わせることによって,実用的性能の優れた帯
電防止・反射防止膜付き透明積層体が得られる。…」
()上記によれば,以下の事実が認められる。3
ア従来,画像表示用透明基材(ブラウン管等)の画像表示部が帯電してほ
こり等が付着する問題,及び,画像表示部に光が反射等し画像を不明瞭に
する問題を解決するため,画像を表示する透明基材の表面に,<ア>まず帯
電防止膜を形成し,<イ>その上にシリカゾルの非水分散液からなる塗料を
塗布し,低屈折率膜を形成する方法がとられてきた(段落【0002。】)
しかし,帯電防止膜の上に形成する上記<イ>の低屈折率膜は,従来シリ
カゾル(シリコンアルコキシドの加水分解生成物)の非水分散液からなる
,(..塗料を用いて形成していたが<ア>の帯電防止膜の屈折率150∼1
54)との差が小さく反射防止効果が十分でないという課題があった(段
落【0002【0004。】,】)
そこで,本件発明1は十分な反射防止機能を有する低屈折率膜を形成す
ることができる塗料を提供する(段落【0005【0010)ことを】,】
目的とする。すなわち,本件発明1は,上記<イ>の低屈折率膜(の形成用
塗料)に関する発明である(<ア>の帯電防止膜を含む発明は,本件特許の
請求項2∼6に係わる。請求項2∼6は別添審決写し記載のとおり。)
そして本件特許に係る低屈折率膜は,第一層目膜の膜として帯電防止・
高屈折率膜を形成した後に,その上に塗布・形成し,この第一層目と第二
層目の組み合わせにより光学的反射防止効果を付与するものであり(段落
【0037,第二層目(低屈折率膜)の塗料成分等について段落【00】)
40】に記載されている。
イ既に検討したとおり,本件発明1は,その特許請求の範囲に記載された
ように①シリコンアルコキシド,②非水溶媒,③多孔質シリカ微粉末とを
含有する低屈折率膜形成用塗料であるところ,これにより形成される膜自
体の屈折率は規定されておらず,③の多孔質シリカの平均粒子系径及び屈
折率によって規定されている。
そして,この多孔質シリカの屈折率(1.2∼1.4)の点についての
本件明細書の記載をみるとまずシリカの屈折率は146段落0,「.」(【
011)とあるのは上記シリカの屈折率はシリカ一般の屈折率にすぎな】
いところ,本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率「1.2∼1.4」
はこれよりも低い数値である。そしてその屈折率の数値については,段落
【0011【0012】にこの屈折率の多孔質シリカ微粉末を用いると】,
の記載はあるものの,上記で該当段落を摘示したとおり,その屈折率の多
孔質シリカ微粉末を用いると記載されているだけで,その屈折率に関する
技術的ないし臨界的意義に関しては何らの記載もない。
加えて,本件明細書に記載された実施例1∼3のうち,多孔質シリカ微
粉末の屈折率についての記載があるのは実施例2段落0043∼0(【】【
048。そのうち実施例2に用いた低屈折率膜形成用塗料の作製に関す】
る記載は段落【0043)のみであるところ,そこにも「屈折率1.2】
5の多孔質シリカを得た(段落【0043)との記載があるだけであ。」】
る。この屈折率1.25の多孔質シリカを得るに当たっては,低屈折率膜
形成用塗料の原料として段落【0040】にあげられたテトラメトキシシ
ランとメタノールを用いて多孔質シリカを得たとされているものの「こ,
の多孔質シリカ/バインダーの量比を変化させて反射防止膜を作製し,そ
の時の屈折率と多孔質シリカ濃度との関係から,多孔質シリカ100%の
値を外挿し,屈折率が1.25の多孔質シリカを得た」とするのみで,。
具体的に屈折率が1.2∼1.4の多孔質シリカ微粉末を用いることに関
する記載はない。
なお「帯電防止・高屈折率膜は,n=1.6∼2.0…上記の帯電防,
止・高屈折率膜の上に屈折率差0.1以上(段落【0031】∼【00」
32)という数値についての記載,及び低屈折率膜につき帯電防止・高】
屈折率膜との屈折率との差を0.1以上とすることの記載はあるものの,
多孔質シリカ微粉末の屈折率との関係についての記載はない。
そうすると,本件発明1の低屈折率膜形成用塗料は,所定成分を配合す
ることにより低屈折率の塗膜を形成できるものであって,分散含有される
,(多孔質シリカ微粉末についてはシリカゾルから形成される従来のシリカ
屈折率1.46)よりも低い屈折率物質であることを特定したものである
と解されるにとどまるというべきである。
(4)ア一方,甲5(ガラス表面のための反射防止コーティングとしての多孔「
質酸化物の研究」ヨルダス(BulentE.Yoldas)著,APPLIEDOPTICS19
巻9号,昭和55年〔1980年〕5月1日1425∼1429頁)に
は以下の記載がある。
「物質の屈折率は,その密度に関係し,後者は多孔性を導入することに
よって低下されることができ,屈折率もまた下げられることができる
からである(甲5訳文)。」
イまた,甲25(溶融シリカおよび他のガラスのための広範な反射防止「
コーティング」ヨルダス及びパートロウ著(BulentE.YoldasandDebora
hP.PartlowAPPLIEDOPTICS,23巻,9号,昭和59年〔1984年〕
5月1日1418∼1424頁)には,以下の記載がある。
「物質の屈折率はその密度に関係するので,多孔性を導入することによ
って屈折率を下げることが出来る。孔のサイズは,透過されるべき光
の波長よりも実質的に短くなければならず,かつ孔の分布は均一でな
ければならない。
このタイプの物質において多孔度と屈折率は,式(1)によって関
係付けられる。
n+(n−1(1−P)+1(1)p
22

ここで,nおよびnは多孔性の物質及び非多孔性の物質の屈折率p
であり,Pは非散乱性の孔の体積割合である。表Ⅰに示したのは,3
50∼1050nmの範囲の光を吸収しない5つの酸化物の屈折率,
およびこれらの屈折率を1.21(SiO基体(ガラス:訳注)の2
屈折率の平方根)へと下げるために必要な多孔度である。

表Ⅰ非散乱性の孔を含めることによる屈折率の減少
酸化物屈折率n=1.21の為に必要な多孔度,%
SiO約1.4653(甲25訳文)2」
ウ上記ア,イの記載によれば,物質の屈折率は,その物質の多孔質化によ
り小さくなることは周知事項であると認められる。
(5)アさらに,甲1(特開平5−13021号公報,発明の名称「反射防止
体及びその利用装置,出願人株式会社日立製作所,公開日平成5年1」
月22日)には,以下の記載がある(下線は判決で付記。)
「0121】光の反射は屈折率が急変する界面で生じるため,逆に界面【
において屈折率が徐々に変化すれば反射は生じなくなる。通常,ソーダ
ガラス(屈折率約153)の反射防止には,最も低反射率の物質フッ化.
マグネシウム(MgF)(屈折率約138)をスパッタ等によって蒸2.
着させているが,ガラス基板とMgF膜の界面,MgF膜と空気(屈22
折率約10)との界面で屈折率で急変するため反射防止効果は十分で.
はない。従って,ガラス基板に近い屈折率から徐々に空気に近い屈折率
へ変化する膜が形成できれば,有効な反射防止効果が得られる。
【0122】そこで,ガラス基板とMgFとの中間の屈折率を持つ物2
質,例えばSiO(屈折率146)の超微粒子とMgF超微粒子を混22.
合してガラス基板に塗布し,その混合比を膜厚方向で変える,すなわち
ガラス基板面から塗布膜表面に向って徐々にSiO超微粒子の混合比2
を減らし,MgF超微粒子の混合比を増すことで,塗布面とガラス基2
板との界面における屈折率変化がよりゆるやかとなり,有効な反射防止
効果が図れる。また,本方法によって,大面積の反射防止膜を低コスト
で形成することができる。
【0123】ガラス基板に近い屈折率を持つ物質(例えばSiO)と空2
気に近い屈折率を持つ物質(例えばMgF)とを混合する際に超微粒子2
を用いることで,両物質が光の波長より小さなレベルで均一に混合する
ことができる。そのため,その屈折率はSiOとMgFとの体積分率22
22に対応した平均的屈折率となる。すなわち,SiO超微粒子とMgF
超微粒子とを混合した超微粒子膜において,膜厚方向Xの位置における
平均的屈折率n(x)は,同位置におけるSiO超微粒子の体積分率を2
V(s)とすると,n(x)=146×V(s)+138×{1−V(s)}と..
示せる。従って膜厚方向に混合比を変えれば屈折率も対応して変化し,
ガラス基板と塗布膜との界面の屈折率変化がゆるやかとなる」。
「0198(2層膜形成例)図9は,ガラス基板上に本発明の超微粒【】
子膜を2層に形成した例の断面図であり,図10は前記超微粒子膜の膜
厚方向に対する平均屈折率の変化を示す図である。各超微粒子は図8の
いずれかの態様による。
【0199】まず,エチルシリート〔Si(OCH)〕をエタノール254
に溶解し,さらに水,硝酸,イソプロピルアルコール,アセチルアセト
ンを加えた溶剤に,SiO超微粒子を加えて超音波振動により十分に2
分散させた。SiO超微粒子の量は,上記溶剤1lに対して,25g2
とした。SiO超微粒子分散後,さらにシトラコン酸を加え,十分に2
溶解させた。シトラコン酸の量は上記溶剤1lに対して10gとした。
その後,さらに超音波振動を加えて,SiO超微粒子の十分な分散,2
。。各成分の十分な混合を図った以上の混合を終えた溶剤を溶剤Aとする
【0200】上記溶剤Aに,あらかじめMgF超微粒子,エチルシリ2
ケートをエタノールに分散しておいた溶剤Bを加え,超音波振動によっ
て均一に混合した。溶剤B中のMgF超微粒子量は溶剤1lに対し,2
約25gである。溶剤Aと溶剤Bとの混合比を変えて,SiO超微粒2
子とMgF超微粒子の混合比を変える。2
【0201】まず,SiO超微粒子とMgF超微粒子の体積分率が722
:3になるように溶剤Aと溶剤Bとを混合した溶剤をガラス板面上に滴
下し,さらにスピンナーで均一に塗布した後,空気中で40℃に約10
分間保って上記塗布膜を乾燥させた。乾燥後,さらにSiO超微粒子2
とMgF超微粒子の体積分率が1:1になるように混合した溶剤を滴2
下し,スピンナーで均一に塗布した。その後,160℃で45分間空気
中で焼成し,エチルシリケートを熱分解してSiO化した。MgF超22
微粒子,SiO超微粒子は熱分解で生じたSiOによってガラス基板22
上に強固に固着される。
【0202】このようにして形成した超微粒子膜の断面を電子顕微鏡で
観察したところ,図9に示すようにSiO超微粒子52とMgF超微22
(),(粒子51が7:3となる層第1層が約01μm1:1となる層.
第2層)が約01μmで計約02μm膜厚の,SiO超微粒子,M..2
gF超微粒子が均一に混合して,密に堆積した膜が観察された。532
はガラス基板である。
【0203】上記の超微粒子膜の,膜厚方向に対する平均屈降率の変化
をSiO超微粒子とMgF超微粒子の体積分率から算出した結果を図22
..10に示す。aは空気の屈折率で約10,bは第1層の屈折率で約1
42,cは第2層の屈折率で約144,dはソーダガラスの屈折率.
で約153である。膜全体としては,屈折率が徐々に変化しているた.
,。め塗布膜とガラス基板との界面における反射率を低減する効果がある
また,超微粒子によって膜を形成しているため,塗布膜表面に微小な凹
凸が生じ,塗布膜表面での反射を低減する結果となっている。
【0204】上記の超微粒子膜を形成したガラス基板と未処理のガラス
基板に対して,5°の入射角度で波長400∼700nmの光を入射さ
せ,その反射率を測定し結果を図11に示す。図中Iが上記超微粒子膜
を形成したガラス板の反射特性であり,が未処理のガラス板の反射特II
性である。
【0205】全波長域において本発明の反射防止膜は未処理のガラス板
の約1/4まで反射率が低減している。また透過率は,波長400∼7
00nm間の積分値で示すと,未処理ガラス板が92%に対して本発明
の反射防止膜を形成したガラス板は約86%となる。可視光全領域で低
反射であり,かつ透過率が高いため,VDT(ビジュアル・ディスプレ
イ・ターミナル)に対する反射防止膜として好適である。
【0206】なお,本実施例では混合比を変えた2層としたが,より多
層として平均屈折率の変化をより小刻みとすれば反射防止効果は一層増
すこととなる。
【0207】本実施例によれば,簡単な塗布法をくり返すことで屈折率
が連続変化した膜を形成できるため,反射防止膜を低コストで製造でき
る,さらに大面積の反射防止膜も容易に形成できる効果がある」。
イ上記甲1の【0198】∼【0207】には,屈折率の異なる2種類の
粒子を混合し,その混合比を変えて屈折率が異なる2層の膜をガラス基板
。,(.上に形成した実施例が記載されている具体的にはSiO屈折率12
46)及びそれよりも低屈折率のMgF2(屈折率1.38)を1:1で
混合した第1層,7:3で混合した第2層からなり,体積分率から算出さ
れた平均屈折率は第1層が約1.42,第2層が約1.44である。
これらの記載によれば,甲1には,低屈折率の粒子を混合することに
よって,シリカ(SiO)単独の膜よりも低屈折率の膜を形成する手段2
が開示されているといえる。
そして,上記低屈折率膜を形成するMgF粒子の屈折率1.38は,2
本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率(1.2∼1.4)の範囲内
の数値である。
()そうすると,甲1発明の低屈折率膜形成用塗料において,低屈折率膜を6
形成する手段として多孔質シリカ微粉末をシリカよりも低屈折率のものとす
ることは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者)が容易に想到し得る事項であり,上記(4),(5)のように多孔質シリカは
中実(孔のない)のシリカよりも屈折率が小さいこと(中実の)シリカの,
屈折率が1.46であることを考慮すれば,甲1発明の多孔質シリカ微粉末
の屈折率を「1.46」より低い数値範囲の「1.2∼1.4」とするこ,
とに格別の困難性は認められないというべきである。
さらに多孔質シリカ微粉末を分散含有したことによる本件発明1の効果に
ついては,本件明細書(甲24)に「この塗料中に多孔質シリカ微粉末を分
散含有させるので,十分に反射防止機能を有する低屈折率膜を製造でき,こ
れを用いて帯電防止・反射防止膜の反射防止機能を向上させることができ
る(段落【0054)と記載されているとおり,低屈折率膜の形成に。」)】
より反射防止効果を向上させるという,低屈折率膜から予想できる程度の効
果にすぎず,格別顕著なものとは認められない。
(7)以上の検討によれば,甲1発明と本件発明1との相違点(b)について
は,甲1の記載及び当業者の技術常識に基づいて容易に発明をすることがで
きたものと認められる。
(8)審決は,上記のとおりシリカ膜の屈折率をシリカよりも低くするために
屈折率1.2∼1.4の多孔質シリカ微粉末を分散含有させる点は,審判手
続に表れた文献に記載も示唆もされていないとした。
しかし,相違点(b)の容易想到性については,甲1発明の多孔質シリカ
微粉末の屈折率を「1.2∼1.4」に特定することが容易か否かについて
判断することになるところ,その結論を導くに当たっては「シリカ膜」及,
び「多孔質シリカ微粉末」の記載又は示唆が必須であるというものではない
というべきである。
(9)被告の主張に対する補足的判断
ア被告は,本件発明1と甲1発明とは反射防止原理が異なると主張する。
しかし,本件発明1は,低屈折率膜形成用塗料の発明であり,相違点(
b)の多孔質シリカ微粉末を分散含有させる目的は,低屈折率のシリカ膜
を形成する塗料を提供することにある(本件明細書の段落【0005。】)
被告が主張する反射防止原理は,本件明細書の段落【0032】記載の
ように,帯電防止・高屈折率膜の上に低屈折率膜を形成して反射防止する
場合を前提としており,本件発明1は第二層目の低屈折率膜形成用塗料に
関する発明であり,被告主張の積層構造は本件発明1の塗料の用途におけ
る適用例にすぎない。
したがって,反射防止原理の違いは上記認定を左右するものではない。
,,イまた被告は甲5は膜そのものを多孔質としたことに関する文献であり
膜中に微粒子を含有させることを特徴とする本件発明1とは思想及び構成
が異なると主張する。
しかし,甲5には多孔質化による物質密度の低下にともない,物質の屈
折率が小さくなることが記載されており,そのような多孔質と屈折率との
関係については,物質が膜形状であっても分散含有させる粒子形状であっ
,。ても異なるところはないから被告の上記主張は採用することができない
3結語
以上によれば,原告主張の取消事由2は理由があり,これが審決の結論に影
響を及ぼすことは明らかである。
よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由
があるから認容して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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