弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人A重工業株式会社を罰金四万円に、被告人Bを罰金三万円に、被
告人Cを罰金二万円に各処する。
     被告人B及びCが右罰金を完納することができないときは、金四百円を
一日に換算した期間同人等を労役場に留置する。
     第一審における訴訟費用中証人D、E、Fに支給した分は、被告人等の
平等負担とする。
     本件公訴事実中被告人Bが被告人会社の業務に関し昭和二三年七月五日
被保険者G外一、二九八名が負担する六月分の失業保険料合計金四四、六五七円を
控除しながら翌月末日までに政府に納付しなかつたとの点については被告人B及び
被告人会社は何れも無罪。
     本件公訴事実中所得税法違反の点については、被告人等と免訴する。
         理    由
 弁護人高見之忠、同古屋東、同深井龍太郎の上告趣意第一点について。
 しかし、被告人会社に対しても所得税法違反及び失業保険法違反の事実について
公訴の提起があつたことは起訴状の記載自体に徴して極めて明らかである。所論は
理由がない。
 同第四点について。
 特別法であつても、罰金の寡額が刑法一五条によつて定められる場合には、その
寡額の引上は罰金等臨時措置法二条一項によるのであつて同法四条の関するところ
ではない。従つて同法施行前の所為に同法四条を適用し、刑法六条の新旧比照をし
なかつた第一審判決は無用の適条をしたに止まり、犯罪後の法令により加重された
刑を以つて処断したことにならないから、原判決の判断も結局において正当である。
 同第六点について。
 検察官が供述調書を作成する際にこれを供述者に読み聞けねばならないことは、
刑訴一九八条三項、二二三条二項の規定しているところであるが、この手続が仮に
とられなかつたにしたところでその一事を以つて、供述調書が直ちに証拠能力を失
うものではなく、同三二二条三二一条の要件を満す限りこれを証拠とすることがで
きるものといわねばならない。この点に関する原判決の判断は結局において正当で
ある。
 同第八点は事実誤認第九点は量刑不当の主張に帰する。(量刑の差異が直ちに憲
法一四条に違反しないという点については、昭和二三年(れ)四三五号同年一〇月
六日大法廷判決参照)。
 同第二点、第三点、第五点、第七点は、何れも所得税法違反に関するものである
から判断をしない。
 弁護人島田武夫の上告趣意第一点について。
 しかし、所論は会社が現実に失業保険料を賃金から控除していなかつたという事
実誤認を前提とするものであつて、判例違反の主張の前提を欠くものである。
 同第二点について。
 しかし債務の一部弁済があつた場合に特段の規定又は合意のない限りは、公法関
係においても、所論のように民法四八九条に従うものと解するのが相当であるが、
同条二号にいう弁済の利益とは、財産上の利益を指称するものであつて、刑事上の
責任の有無を指称するものではないから、財産上の利益に差異のない本件において
は、同条三号の趣旨に従い、先に弁済期の到来した債務に充当したものと認めた第
一審判決及び原判決の判断は相当であつて違憲の主張はその前提を欠くものである。
 同第三点について。
 しかし、所論違憲及び判例違反の主張は、何れも第一審判決の認定と異る事実を
前提とするものであつて、何れも刑訴四〇五条の主張の前提を欠くものである。
 同第四点について。
 失業保険法五三条三号の罪の構成要件は、自ら失業保険料を控除した者が所定期
日までに納付しなかつた場合は勿論その前任者が控除したものであつたにせよ、所
定期日までに納付しなかつたことを処罰の対象としているのであるから、既に保険
料が控除してあることを認識している以上、これを納付しなかつた者は処罰を免れ
ないと解すべきである。従つて被告人Cについては、憲法違反の主張は、その前提
を欠くものである。被告人Bの所為中第一審判決判示第一の二の(7)の事実は、
その認定したところによる賃金の支払日従つて保険料の控除日は、昭和二三年七月
五日とされているから、仮にそれが六月分の賃金の遅延分であつたにしたところで、
保険料納付期日は、翌月末日即ち八月三一日であつて、七月三一日ではないから、
同年八月一〇日取締役社長を辞した被告人Bに納付の責任はなく、むしろ同年八月
一六日取締役社長の地位に就いた被告人Cがこの分についても責任を負うべき筋合
である。しかし、被告人Cについては、この事実については公訴の提起がなく、却
つて被告人Bがこの事実について起訴されておるところ、第一審判決が被告人Bの
責任をこの部分についても認めたのは、罪とならない事実を有罪とした違法があり、
これを容認した原判決も違法である。被告人会社については失業保険法五五条の規
定に徴しても、行為者の責任に従属して責任を負うべきものであつて被告人Bを行
為者とする会社の失業保険法違反の事実と被告人Cを行為者とする会社の同法違反
の事実とは、公訴事実を異にするものと解すべきであるから右起訴事実については
被告人会社もまた罪とならない。従つてこの点については憲法違反の主張について
判断するまでもなく、刑訴四一一条一号に該当するものと解すべきである。
 なお右第一乃至第三の論旨中に含まれている所得税法違反の事実については判断
をしない。
 職権で調査すると第一審判決の認定した所得税法違反の事実については、昭和二
七年政令第一一七号により大赦があつたから、刑訴第四一一条第五号に該当するこ
ととなり、前記の破棄事由を併せて第一審判決及び原判決を破棄することとし、同
四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条三号、三三六条により免訴並びに無
罪の判決をするものとする。
 よつて第一審判決が確定した事実中被告人Bに対する判示第一の二の(1)乃至
(6)、被告人Cに対する第二の二の(1)、(2)の各所為に法令を適用すると、
被告人B及び同Cの所為は、失業保険法五三条三号、三四条(昭和二四年法律第八
七号による改正前のもの)、同法施行令一〇条、罰金等臨時措置法二条一項刑法六
条に各該当するから夫々所定刑中罰金刑を選択し、以上は各刑法第四五条前段の併
合罪であるから、何れも同法四八条二項によりその合算額の範囲内において主文第
二項のように量刑処断し、同法一八条により右罰金を完納することができないとき
は、金四百円を一日に換算した期間被告人B及び同Cを労役場に留置するものとす
る。被告人A重工業株式会社については、第一審判決判示第一の二の(1)乃至(
6)第二の(1)、(2)の各所為に法令を適用すると夫々前記罰条の外に失業保
険法五五条をも併せ適用し、右合算額の範囲内において主文第二項のように量刑処
断するものとする。第一審において生じた訴訟費用中主文第四項掲記のものは、何
れも失業保険法違反に関するものであるから、刑訴一八一条一項により被告人等の
平等負担とする。
 よつて全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 岡琢郎出席
  昭和二八年一月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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