弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、同Bの弁護人渡辺伝次郎の上告趣意第一点について。
しかし原判決は、C及びDの両名が被告人Aの支配下にある店舗を獲得する等同被
告人の縄張を侵して来たため、同被告人は、両名に対し不快の感情を抱いて居たこ
とが遠因となり、遂に被告人等は右両名等を難詰し、陳謝しないときは、同人等を
死に致すも已むを得ないと考え、共謀の上右両名及び同人等に伴つて来たEの三名
を包囲し、これに殺到し、匕首棍棒等を以て交々同人等を突き刺し若しくは殴打し、
因つてEに対しては治療約十日を要する両側大腿部刺創等を負わせたが殺害するに
至らなかつた趣旨のEに対する殺人未遂の事実を認定判示したものである。そして
原判決挙示の証拠によれば、右の事実就中C及びDの外その一派の者と喧嘩争闘を
為し命のやりとりをすることを予期し、これを準備し且つ実行した事実を肯認する
ことができるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は、その理由がない。
 同第二点について。
 その理由のないことは、弁護人三宅正太郎の上告趣意に対する説明により知るべ
きである。
 弁護人三宅正太郎の上告趣意第一点について。
 所論は、共犯者又は共同被告人の供述は、それだけでは被告人の自白を補強する
証拠とすることはできないと主張する。そして、また共犯者又は共同被告人の供述
をもつて、被告人の自白を補強する証拠と認め得るがためには、共犯者又は共同被
告人の供述自体が他の証拠により補強されており、かつその供述自体と他の証拠を
共に証拠説明中に挙示していなければならぬと主張するのである。しかしながら、
共同審理を受けていない単なる共犯者の供述は、各具体的事件について自由心証上
の証拠価値の評価判断の異るべきは当然であるが、ただ共犯者たるの一事をもつて
完全な独立の証拠能力を欠くものと認むべき何等実質上の理由はない。また、かく
解すべき何等法令上の根拠も存在しないのである。憲法第三八条第三項及び刑訴応
急措置法第一〇条第三項の規定を援引して、かかる解釈を主張することも是認する
を得ない。次に、共同審理を受けた共同被告人の供述は、それぞれ被告人の供述た
る性質を有するものであつてそれだけでは完全な独立の証拠能力を有しない。いわ
ば半証拠能力(ハーフ・プルーフ)を有するに過ぎざるもので、他の補強証拠を待
つてこゝにはじめて完全な独立の証拠能力を具有するに至るのである。しかし、そ
の補強証拠は、必ずしも常に完全な独立の証拠能力を有するものだけに限る必要は
ない。半証拠能力の証拠を補強するに半証拠能力の証拠をもつてし、合せてこゝに
完全な独立の証拠能力を形成することも許されていいわけである。されば、ある被
告人の供述(自白)を共同被告人の供述(自白)をもつて補強しても、完全な独立
の証拠能力を認め得ると言わねばならぬ。それ故、前述の論旨は、理由がない。
 さらに、所論は、本件のごとき殺人の場合には、殺意についても、実行行為につ
いても、致死の結果について、すべて被告人の自白は、他の証拠によつて補強され
なければならぬと主張するのである。しかしながら、憲法第三八条第三項において
被告人本人の自白に補強証拠を必要としている趣旨は、被告人の主観的な犯罪自認
の供述があつても、それが客観的に犯罪が全然実在せず全く架空な場合があり得る
のであるから、大体主として客観的事実の実在については補強証拠によつて確実性
を担保することを必要としたものと解せられるのである。だから、被告人の自白と
補強証拠と相待つて全体として犯罪構成要件たる事実を認定し得られる場合におい
ては、必ずしも被告人の自白の各部分につき一々補強証拠を要するものとは考えら
れない。のみならず本件においては、前段説明のとおり被告人の自白は、共犯者及
び共同被告人の供述その他原判決挙示の諸証拠によつて十分補強されていることが
肯認されるのである。論旨は、それ故にすべて採用することを得ない。
 同第二点について。
 原判決の証拠説明中に具体的に摘示したFの供述内容が同人に対する予審第二回
訊問調書中に存しないことは、所論のとおりである。しかしこれと同一内容の供述
記載が同第三回訊問調書中に存するから、原判決がその具体的に掲げた供述内容の
標目を第二回訊問調書と表示したのは、同第三回の誤記であること明白である。そ
して、原判決が既にその証拠説明中に証拠の内容を具体的に掲げている以上証拠の
標目の表示を誤つたからと言つて、所論のように虚無の証拠を断罪の資料としたと
はいえない。それ故論旨は、その理由がない。
 同第三点について。
 原判決がその理由において、被告人の前科につき所論のように認定説示したこと
並びに被告人は原審において所論のように供述したに過ぎないことは、いずれも所
論のとおりである。しかし、被告人の前科は、法律上刑の加重原由たる事実であつ
て、判決主文の因て生ずる理由として判決において必ずこれを認定判示するを要す
るけれども、元来罪となるべき事実ではないから、必ずしも証拠によりこれを認め
た理由を示す必要はなく、また、証拠によりこれを認めるにも被告人の供述による
ことなく一件記録中の適当な資料(本件においては被告人の原籍調書)により認定
するを妨ぐるものではない。それ故、前科の刑の言渡又は確定の日時につき判示し
たところとこれを認めた証拠との間に多少の差異があつてもその証拠によつて前科
としての要件を認めるに妨げなく、却つて記録中の他の証拠によりその日時を確実
に肯認し得られるような場合には、その証拠上の欠点は判決に影響を及ぼさないも
のと見るのが相当である。さて、原判決は、被告人の前科として同被告人は、昭和
一四年三月七日和歌山地方裁判所において、放火未遂罪により懲役三年に処せられ
た旨認定したにかかわらず、その証拠として挙示した被告人の供述は、同年二月末
同裁判所において同罪により同刑に処せられたと述べたに過ぎないから、前科の日
時において、その認定した判示とこれを認めた証拠との間に差異があるといわねば
ならぬ。しかし、右被告人の供述は、その供述自体で明らかなように前科の大体の
日を陳述したに過ぎないもので、恐らく言渡の日を供述したものと解せられるから
必ずしも判示に副わない供述とはいえない。しかのみならず、記録中に存する被告
人の原籍調書によれば、判示前科の日を確実に肯定し得られるからこの点につき原
判決には、前述の理由により判決を破毀するに足る欠点はない。そして被告人がそ
の当時判示懲役刑の執行を終つたことは、原判決の明らかに認定判示したところで、
その事実並びに本件犯罪が五年内に行われたことは、原判決挙示の被告人の供述に
徴し算数上明白なところであるから原判決には、所論のように執行の終了を確定し
ない違法も存しない。論旨は、その理由がない。
 同第四点について。
 しかし、刑訴応急措置法第一二条第一項の規定は、被告人の請求があるときは、
その所定の書類の供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に与
えなければ、原則として、これを証拠とすることができないとしたに止り、既にそ
の機会を与えた場合において、その書類の証拠能力又は価値を認めないとしたもの
ではない。そして証拠の取捨判断は、裁判官が法令その他実験則に反せざる限り、
良心に従い諸般の事情に応じ独立自由に決定すべきところであつて、その取捨判断
の理由は、必要に応じ適宜これを示すことを妨ぐるものではないが常に必ずこれを
示さなければならぬものではない。蓋し旧刑訴第三六〇条第一項は、有罪判決にお
いて罪となるべき事実を認めた証拠上の理由を示すべきことを要求しているけれど
も、更らに証拠の取捨判断の理由をも示すべきことを命じてはいないからである。
所論の刑訴応急措置法並びに新憲法の施行に伴いこれと異る解釈と採らねばならぬ
理由は、毫もこれを見出すことはできない。それ故原判決が所論のように証人Gの
証言を排斥し同人に対する検事の聴取書を罪証に供しながら、その証言排斥の理由
を示さなかつたからと言つて所論の違法ありといえない。本論旨もその理由がない。
 被告人Aの弁護人三宅正太郎の上告趣意第一点についての裁判官斉藤悠輔の意見
は次のとおりである。
 所論は、先ず、その前提として、憲法第三八条第三項を以て「被告人の自白に基
いて罪を断じる場合には、その自白は他の証拠によつて確証されたものでなければ
ならない。」ということと、すこしも差異はないとし、
 (一) 他の証拠による確証は、自白中犯罪と重要な関係を持つ部分例えば殺人
罪については被告人の自白中(イ)殺意(ロ)殺人の実行行為(ハ)致死の結果に
ついてなされなければならないこと。
 (二) 確証すべき証拠は、更らに他の証拠による確証を必要としないものでな
ければならないこと。
 (三) 事実の認定は、他の証拠によつて確証された範囲でなければならないこ
と。
 (四) 確証すべき証拠は、判決書中に被告人の自白と共に挙示されなければな
らないこと。
は、同条項の解釈上疑のないものとし、更らに同条項の類推解釈として、
 (五) 起訴されなかつた共犯者の犯罪事実を認める供述が証明力を持つために
は、すくなくとも、その重要な部分に付て、他の証拠により確証されなければなら
ない。
 (六) 共同被告人の自白も亦、共犯者の供述と同様に他の証拠によつて確証さ
れない限り、他の共同被告人の自白を確証する効力を有しないものと解すべきであ
る。としている。
 されば、所論は、本件においてはすべていわゆる「自白」が存在するものと仮定
して立論するもので、自白そのものの本質及び本件においては、果たして自白が存
するか否かについては、多く審究することなく、まして、被告人並びに共同被告人
の自白に非らざる供述及び起訴されなかつた共犯者の犯罪事実全部に亘らない個々
の事実に関する供述換言すれば、鑑定人を除く一般人的証拠の証拠能力又は証拠価
値については、全然何等の考慮をも払つていないのである。
 抑も旧刑訴第三三六条に「事実ノ認定ハ証拠ニ依ル」とある「事実」は、一面に
おいて、実体法上の事実(例えば罪となるべき事実、刑の加重減軽に関する事実)
のみを指すものではなく、広く、訴訟法上の事実(例えば告訴の有無若しくは管轄
の基礎たる犯罪地又は住居の存在)をも言うものと解すべきであると共に、他面、
実体法上の事実と雖も一般公知の事実のごとき証明を要しない事実は、これに包含
されないものと解しなければならぬ。また、その「証拠」とあるは、物的証拠のみ
を指すものではなく、広く一切の人的証拠をも包含し、いわゆる直接証拠たると、
間接証拠たると、将又、全面的証拠たると、一部的個々の証拠たるとを問わないこ
と多言を要しない。そして旧刑訴第三六〇条第一項は、同第四九条第一項所定の裁
判の理由を、有罪判決の理由を、有罪判決の理由において、具体的に示すべき要件
を規定したもので、右刑訟第三三六条の「事実」中、実体法上の科刑権の存在に関
する罪となるべき事実に限り、特にこれを認めた「証拠」上の理由をも判決書にお
いて説明すべきことを要求したものである。されば罪となるべき事実と雖もその事
実自体若しくはその事実中のある事実が一般公知の事実のような証明を要しないも
のであるときは、その公知事実たる旨説明又は指摘するを以て足りこれが証拠を挙
示するの要なきこと論を俟たないし、また、罪となるべき事実の証拠には一切の人
的、物的、直接、間接の証拠を包含すると共に一個の証拠を以て全面的にこれを認
めると一部的個々の証拠を綜合してこれを認めると、全面的証拠と一部的証拠と重
複又は綜合してこれを認めるとを問わないこと勿論である。そして、所論憲法第三
八条第三項は、単に「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合
には、有罪とされ又は刑罰を科せられない。」と規定して右刑訴第三六〇条第一項
所定の有罪の証拠としては、消極的に、被告人の自白のみを唯一の証拠と為すこと
を禁止してその証拠価値(証拠力)を制限しているに過ぎない。その積極的に有罪
の資料として被告人の自白が証拠とならないこと(すなわち証拠能力を有しないこ
と)若しくは所論のように被告人の自白を犯罪認定の証拠とするには、その自白を
更に他の証拠によつて確証すべき間接立証方法のみを執るべき要求はしていないの
である。まして、同条項は、被告人の供述一般就中個々の事実に関する供述が証拠
たり得るや否や(すなわち証拠能力を有するや否や)については、全然何等の標準
も制限も与えてはいないのである。されば積極的に罪となるべき事実を認むるには、
被告人の自白のみを唯一の証拠とせざる限り一般の原則に従うを当然とするものと
いわねばならぬ。
 元来鑑定人を除く人的証拠すなわち人の供述が証拠能力を有するには、その成立
において真正であり且つその内容において自己の経験事実(経験事実に基く推測事
実をも含む以下同じ)詳言すれば自己の過去における実際生活において特別の推理
を用いず直覚的に感知した非代替的な判断に関することを要するものである。それ
故その供述内容にして経験事実に基かない単なる意見又は想像に過ぎないものは、
その成立において真正であつても証拠能力を有しない。また人の供述は、その意識
的に貯蔵(記憶)された経験事実を再現するものに外ならないから、経験能力又は
貯蔵(記憶)能力を全然有しない者の供述又はかゝる能力を有する者が貯蔵された
経験事実をそのまゝ再現しない供述は、成立上証拠能力を有しないこと勿論である。
それ故苟も事実上多少ともかゝる能力を有する者であるときは、その供述が成立上
証拠能力を有するや否やは専ら意識内に存する経験事実をそのまま再現したものと
認むべきか否かによるものといわねばならぬ。換言すれば供述者の自由意思に基か
ない不任意な供述又は供述者の故意に基く虚偽の供述は、成立上証拠能力を有しな
い。そして憲法第三八条第一、二項は「何人も自己に不利益な供述を強要されない。
強制拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白
は、これを証拠とすることができない。」と規定して供述の任意性を保障している
と共に、法律は供述の真実性を確保するため特に第三者たる証人につき規定を設け、
一定の年齢若しくは能力を有しない者又はある身分若しくは利害関係を有する者(
旧刑訴第二〇一条参照)を除き、すべて証人は、宣誓を為すべきものとし(同第一
九六条)宣誓を為すべき証人にしてこれを為さずに証言した場合の供述は、その証
拠能力を否定しているのである。しかし、宣誓を為さしめないで訊問すべき証人(
前記旧刑訴第二〇一条参照)の供述若しくは被告人の供述については特にかかる真
実性を確保すべき何等の規定なく、ただ前述のごとく憲法第三八条第三項において
被告人の自白につき証拠価値を制限しているに過ぎないから、その任意性並びに真
実性の判断を慎重にすべきは格別その証拠能力を否定すべき理由は毫も存しないも
のといわねばならぬ。そして共同被告人又は共犯者は、前者が自己も亦た被告人で
あるから、自己に対する関係においては、被告人本人であり、従つてその供述は、
自己に対する関係においては、被告人本人と同一の価値制限に置かれるに止り、い
ずれも当該被告人以外の第三者である。それ故当該他の被告人に対する関係におい
ては、共犯者のときは勿論(旧刑訴第二〇一条第一項第三号及び第五号第一八八条
第二項参照)共同被告人であるときでも宣誓をしないで訊問される証人(旧刑訴第
二〇一条第一八六条第一八八条参照)とその本質を異にするものではない。従つて
被告人若しくは共同被告人又は共犯者にして経験能力及び記憶能力を有し、その供
述にして任意誠実に為されたものである以上その供述内容が経験事実に基かない単
なる意見若しくは想像のごときものでない限り、その供述の証拠能力を否定すべき
理由は毫も存しないものといわざるを得ない。
 そして、広く、任意誠実になされた「被告人の自白」(旧刑訴第三四六条参照)
とは、犯罪事実の全部について、自己の刑事責任を承認する意思表示をいうもので
あるから、その意思表示の内容は、法律的責任の承認と事実的責任の承認とを包含
し、事実的責任の承認には、更らに、自己の経験した事実の告白(旧刑訴第四八六
条第二号中「其ノ事実ヲ陳述シタルトキ」参照)と経験しない事実(例えば被害者
の氏名、傷害の部位、死亡の原因又は結果)の承認とを包含するものである。され
ば、被告人の意思表示たる供述にしてかかる法律的責任の承認若しくは自己の経験
しない事実の単なる承認に属しない純然たる経験事実の告白である以上その証拠能
力を否定する理由は、毫も存しないものといわねばならぬ。また、それと同時に、
被告人のいわゆる自白すなわち犯罪事実全部についての刑事責任の承認は、証拠と
しては本質上必ずしも常に犯罪事実全部を立証するに足る能力を有しないものとい
うべく、従つてその犯罪事実全部を認めるには、その犯罪事実が純然たる被告人の
行動(経験)のみにより構成せられざる限り、被告人の経験事実の外公知事実ある
ときはこれを指摘し且つ被告人の経験しない事実の立証を要するものといわざるを
得ない。果たして然らば憲法第三八条第三項は、証拠法上当然の事理を表明したも
のとも解し得べく漫然自白を全部的証拠能力あるものと軽信すべからざると共に、
みだりに被告人の経験事実の告白を軽視することも許すべきではない。
 飜つて同条項が、被告人の証拠能力ある自白の証拠力(証拠価値)を制限した趣
旨を考えると、その趣旨とするところは、要するに、実体的真実でない架空な犯罪
事実が時として被告人の自白のみによつて認定される危険と弊害を防止するにある
ものと解するを相当とする。それ故証拠能力ある被告人の自白以外に必要とせられ
る証拠の種類は、その自白の証拠能力を補強すべき証拠ではなく、その証明力(証
拠価値)を補充強化すべき種類の証拠すなわち被告人の証拠能力を有する自白と重
複又は綜合して犯罪事実そのものを認定するに足る証拠力(証拠価値)ある証拠で
あつて、主として犯罪事実が客観的に存在することを証明するに適する種類のもの
を指すものといわねばならぬ。換言すれば、犯罪事実にして架空でない実体的真実
のものであることが被告人本人の自白以外の証拠のみによつて認められる場合は勿
論被告人の前示のごとき証拠能力を有する個々の事実に関する供述とその以外の一
切の人的、物的証拠とを綜合し、又は、被告人の任意誠実になした経験事実の告白
たる自白と経験せざる事実の直接若しくは間接の証拠と重複又は綜合して確実にこ
れを肯認せられる限り、同条項にいわゆる「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自
白である場合」に当らないと解するを相当とする。そして、犯罪事実就中その客観
的存在を証明すべき本人の自白以外の証拠の種類及びその証明力(証拠価値)の範
囲は、所論(一)乃至(三)のごとく狭く制限的に解すべき理由はなく、すべて、
裁判官が前示の趣旨に従い、実験則に反せざる限り、諸般の事情に応じ、独立自由
に取捨判断するところに一任さるべきである。
 そして前述のごとく、共犯者は、純然たる証人であるから、被告人の自白の証拠
力を補強すべき証拠の種類及びその証明力の範囲の問題としてはその供述に対して
所論(五)のような狭い類推解釈をとる余地は存しない。また、共同被告人は、被
告人に対する関係においては第三者であるから、共同被告人の任意誠実に為した経
験事実の告白たる自白は、共犯者の証拠能力を有する供述とその性質を異にする理
由はなく、しかも各人の経験事実は、各人毎に同一であり得ないから、それ自体独
立性と非代替性とを有するものと言うべく、従つて、その自白は被告人の任意誠実
に為した経験事実の告白たる自白と重複又は綜合して犯罪事実そのものを認定する
に適する資料たり得るものといわねばならぬ。すなわち犯罪事実(犯罪事実であつ
て自白ではない)に対し相互に各自の証明力を補充強化する補強証拠たり得るもの
と言うことができる。それ故所論(六)の解釈も当らない。しかし、共同被告人は、
自己も亦た被告人であるから自己に対する関係においては、その自白は被告人本人
の自白と同一の価値制限を受けるから自己の経験事実の告白たる自白と被告人本人
の経験事実の告白たる自白とを重複又は綜合しても犯罪事実が架空でない実体的真
実のものであることを肯認するに足りないときは、もとより犯罪事実を認定するを
得ないのは勿論であるが、犯罪事実の客観的存在にして肯認し得る限り(例えば物
価統制令の契約賄賂の約束)、被告人並びに共同被告人の自白のみによりて認定す
ることも妨ぐるものではないといわねばならぬ。
 今、これを本件殺人並びに殺人未遂事件を見るに、原判決は、本件の客観的存在
に関する被害者亡Cの創傷並びに死因の点は、鑑定人H作成の鑑定書中の記載によ
り、被害者亡Dの創傷並びに死因の点は、鑑定人I作成の鑑定書中の記載により、
また、被害者Eの創傷の部位並びに程度は、医師J作成の検案書中の記載及び同被
害者に対する予審訊問調書中の供述記載に依りそれぞれ認定したものであつて、も
とより所論被告人本人並びに共犯者若しくは共同被告人の各供述によつたものでは
ない。そして原判決は、右被害者等の創傷の部位若しくは程度並びに死因を除いた
爾余の事実をば、被告人Aに対する予審訊問調書中の供述記載、原審共同被告人K、
同L、同Mに対する各予審訊問調書中の供述記載、第一審共同被告人Fに対する予
審訊問調書中の供述記載相被告人Bに対する同調書中の供述記載の外関係人Gに対
する検事の聴取書中の供述記載等を綜合して、これを認定したものである。しかし、
その各供述記載は、いずれも判示犯罪事実全部を自白したものではなく、その事実
中の殺意若しくは共謀の事実を推断し得べき事実の一部又は実行行為若しくは死亡
の結果の一部を認めうべき経験事実若しくはこれに基く推測事実の供述である。そ
して、その挙示した個々の供述記載を綜合すれば右判示事実を肯認するに足るから、
原判決には所論のように憲法第三八条第三項の解釈を誤まり断罪した違法は認めら
れない。論旨は、その理由がない。
よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、前示裁判官斉藤悠輔の補足意見を除くの外裁判官全員の一致した意
見によるものである。
 裁判官庄野理一は退官につき合議に関与しない。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年五月一八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斉   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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