弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
原判決を取消す。
本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 申立
一 控訴人
1 原判決中被控訴人に関する部分を取消す。
2 被控訴人が控訴人に対し昭和五三年二月二三日付でした通告はこれを取消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 主張、証拠
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示中通告処
分取消請求に関する部分と同一であるから、これを引用する。
一 当審における被控訴人の主張
交通反則金制度における通告処分は、道路交通法(以下道交法という。)一二七条
二項前段に該当する場合以外は告知を必ず前提とし、かつ告知があれば必ずなされ
るものであり、それ自体何ら独立して処分性のあるものではない。ことに本件のよ
うに告知後仮納付がされていると、通告は仮納付を本納付とみなす効果(道交法一
二九条三項)をもつだけであり、反則金の納付を何ら義務づけるものではない。反
則金納付後の救済は、反則金の返還の争に関し公法上の法律関係に関する当事者訴
訟ないし不当利得返還請求訴訟によることができるので、本件通告処分を抗告訴訟
の対象となる行政処分とみる必要はない。
二 当審における証拠関係(省略)
○ 理由
一 被控訴人が控訴人に対し昭和五三年二月二三日道交法一二七条一項、一二九条
二項に基づき反則金五〇〇〇円の納付を公示通告したこと、右反則行為の内容は、
控訴人が昭和五三年一月一八日午後二時四五分頃大阪市<地名略>において自家用
貨物自動車(大阪四五五九一-七〇。以下本件貨物自動車という。)を道路の左側
端に沿つて駐車した(道交法四七条二項違反)というものであることは当事者間に
争いがない。成立に争いのない甲第一、第二号証、原審証人A、同Bの各証言及び
原審における控訴人本人尋問の結果によれば、前記日時場所において天王寺警察署
勤務警察官Aは、前記違反事実を現認し、控訴人を反則者と認めて交通反則告知書
(甲第一号証)を作成して交付しようとしたところ、控訴人はその受領を拒んだこ
と、翌一月一九日午前一一時過頃控訴人は違反事実を認め反則金納付による処理手
続を受けることを希望したので、天王寺警察署警察官Bは同署において即座に前記
告知書を完成させて控訴人に交付し(もつとも告知書には「告知・交付日時 昭和
五三年一月一八日午後五時〇〇分」と記載されたまま訂正されていなかつた。)、
控訴人は同日仮納付金五〇〇〇円を納付したことが認められる。
二 控訴人は、本件通告処分で反則行為とされる違法駐車をしたのは控訴人ではな
いので、右通告処分は取消されるべきであると主張し、被控訴人は、通告処分は行
政事件訴訟法の取消訴訟の対象となる行政処分ではない旨主張するので、以下検討
する。
交通反則通告制度(道交法第八章一二五条以下)は、増大する大量の道路交通違反
事件に対し、これをすべて刑事手続で処理することによる時間と労力を節約し、大
量の道交法違反者に事案の軽重を問わず刑罰(特に罰金刑)を科しすべて犯罪者と
して処遇することによる刑罰効果の減殺を防止し、交通政策上のマイナスを避け、
もつて大量の道交法違反事件を簡易迅速に、かつ事案の軽重に応じて合理的に処理
するために設けられた制度である。この制度は、道交法違反行為について刑事手続
による処理を原則としつつ、その例外として、道交法違反の行為のうち定型的処理
に親しまないもの、危険性が高く悪質なもの等を除外した一定の行為を反則行為と
定め(道交法一二五条一項)、反則行為をした者であつて悪質又は危険性が高いと
思われる者を除外した者を反則者と定め(同条二項)、警察官は反則者を認めたと
きはすみやかに反則行為の要旨、種別等を告知し(同法一二六条一項)、警察官か
ら報告を受けた警察本部長は告知を受けた者が反則行為をした反則者であると認め
るときはその反則行為が属する種別ごとに定額で定められている反則金の納付を書
面で通告し(同法一二七条一項)、通告を受けた者は、通告を受けた日の翌日から
一〇日以内に所定のところへ反則金を納付したときは当該通告の理由となつた反則
行為にかかる事件について公訴提起されないことになり(同法一二八条)、反則金
を納付しないで右納付期間を経過したときは当該反則行為にかかる事件について公
訴提起されることになる(同法一三〇条)。この反則金は、もとより納付が強制さ
れるわけではなく、任意に納付すれば刑事訴追(公訴提起)ができなくなるだけで
あり、その性質は行政上の一種の制裁金(強制力がない点で過料と異なる。)と解
され、あくまで違反事実を争つて処分に服したくない者は、通告どおりに反則金を
納付しないでいれば、原則に戻つて刑事手続が開始されることになる(同法一三〇
条)。そうすると、道交法一二七条一項による警察本部長の通告処分は、通告を受
けた者に対し反則金を納付する機会を与え、当該違反行為について交通反則通告制
度による簡易迅速な事件処理を受ける機会を与えるだけの一種の行政的措置に過ぎ
ず、これに何らかの効果が付与される行政処分とは認められない。もつとも通告に
よつて反則金の納付が強制されないといつても、違反に問われた者は、通告の理由
となつた違反事実の認定に不服があるにもかかわらず違反事実を承認して反則金を
納めるか、反則金を納付しないで刑罰を科される危険をおかして争うかの選択に迫
られ、法律に暗い一般国民は不本意ながら警察官限り違反事実の認定を承認せざる
を得ず、事実上反則金の納付が強制されることにならないかとの疑問もある。しか
し通告を受けた者の刑罰を科されるかもしれないという危険は、本来警察官から違
反事実についてそのような認定(嫌疑)を受けていることに起因するものであつ
て、通告を受けた者が刑罰の危険を避けて反則金納付を選択したからといつて、通
告によつてこれを事実上強制したことにはならない。さらに通告処分が警察官限り
の認定を前提としていること、これに何らかの効果がともなうことを認めないわけ
にはいかないこと等を理由に手続の公正さを担保するために、通告処分に対する不
服申立の途を認めるべきであるとの見解もある。しかし、これを行政事件訴訟法に
基づく抗告訴訟の対象と認めると、その審理の対象は本来刑事手続で審理されるべ
き違反(犯罪)事実の存否であること、通告処分が行政訴訟で取消された後に公訴
提起されると同一の違反事実の存否を刑事と民事の両手続で審理することになるこ
と、行政訴訟は当然執行停止の効力がないので納付期間内に反則金が納付されない
場合、通告処分取消の行政訴訟と公訴提起による刑事手続が同時に進行することも
予想され、その際双方の手続が相互にどのような影響を及ぼすことになるのか困難
な問題が生ずる等様々な矛盾不合理が生ずる。これらのことは、結局通告処分が行
政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の対象になじまないことを意味し、現に交通反則通
告制度の立法審議の過程においても、通告は行政不服審査法や行政事件訴訟法の対
象とはならない旨立案当局によつて説明され、そのため通告処分に対する不服申立
の途を同一制度内にもうけることが検討されたこと(結局矛盾を克服できず迅速処
理に反する等の理由で実現に至らなかつた。)もこれを裏付けるものである。通告
処分は、一般の行政行為が公定力を有するのと同様厳格な要件を満たさなければこ
れを当然無効として取扱い、自由に取消すことができないという意味では行政処分
といえるとしても(したがつて非反則者を反則者と誤つて通告した後警察本部長が
これを取消し、公訴が提起されたからといつて、起訴が常に有効となるわけではな
い。)、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないと解すべきである。もつと
も、そうすると本件のように通告を受けた者が既に反則金を納付している場合、警
察本部長(処分者)の側で道交法一二七条二項を類推し、通告処分を取消して反則
金を返還しない限り、通告を受けた者の側から通告の理由となつた違反事実が存在
しないことを争うことができなくなるが、本制度の中にそのような不服申立の制度
が認められていない以上、反則金の返還を求める民事訴訟によるほかはなく、抗告
訴訟をもつてその取消を求めることはできないといわなければならない。
なお、本件通告処分及びその前後の状況については原判決理由説示中原判決六枚目
表八行目「成立に争いのない甲第一号証一から同九枚目裏一行目までと同一である
から、これを引用する。控訴人がその主張のごとく違法駐車をしていないとして
も、右事実によれば、控訴人は自己が本件通告処分の理由となつた違法駐車をして
いないことを熟知しながら右反則行為を認め、敢えて反則金を納付したことになる
のであつて、反則金を納付するにつき思い違いがあつたとか、法律の誤解があつた
などというような己むを得ない事由があつたわけではない。現行犯逮捕され早期に
身柄を釈放されることが敢えて犯罪事実を認め、ひいて反則金を納付する動機とな
つたとしても、前記引用にかかる事実認定のもとでは現行犯逮捕は適法と認めら
れ、控訴人が一旦反則金を任意に納付しておきながら(すなわち違反行為を認めて
おきながら)、本訴においてそれが人違いであつたなどと主張すること自体、何ら
これを救済すべき正当な理由を見出し難い。
三 以上によれば、本件通告は行政事件訴訟法に定める取消訴訟の対象となる行政
処分にはあたらず、したがつてその取消を求める控訴人の本件訴は不適法として却
下すべきである。よつてこれと異なる原判決を取消し、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 朝田 孝 岨野悌介 大石一宣)
(原裁判等の表示)
○ 主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の申立
原告は「一、被告大阪府警察本部長が原告に対し昭和五三年二月二三日付でなした
通告はこれを取消す。二、被告大阪府は原告に対し五〇万円およびこれに対する昭
和五三年三月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用
は被告らの負担とする。」との判決ならびに二項につき仮執行の宣言を求め、本案
前の申立として被告大阪府警察本部長は「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告
の負担とする。」との判決を、本案につき被告らは主文と同旨の判決を求めた。
第二 原告の請求の原因
一 1被告大阪府警察本部長は、昭和五三年二月二三日付で原告に対し、道路交通
法一二七条一項、一二九条二項に基づき、原告が昭和五三年一月一八日午後二時四
五分頃大阪市<地名略>において自家用貨物自動車(大阪四五五九一-七〇。以
下、本件自動車という。)を道路の左側端に沿つて駐車せず、歩道上に駐車した 
(道路交通法四七条二項該当)として、反則金五、〇〇〇円の納付を公示通告し
た。
2 しかしながら、右違法駐車をした者は、Cであつて、原告ではない。原告は、
当時普通乗用車(コロナマークII)を運転していたものである。
3 よつて、本件通告は違法であるから取消されるべきである。
二 1原告は、昭和五三年一月一八日午後四時頃、前記一、1記載の違法駐車をし
たとの被疑事実で大阪府警察所属の警察官に現行犯逮捕され、その反則金五、〇〇
〇円の仮納付直後の翌一九日午前一一時三五分頃に釈放された。
2 前叙のとおり右違法駐車をした者はCであつたのであるが、大阪府警察所属の
警察官であるAおよびBらは、誰が違法駐車したかの点につき確認もせず、頭から
原告が反則者であるときめつけて現行犯逮捕に及んだもので、右現行犯逮捕自体、
原告が反則行為を犯したと疑うに足りる相当な理由があつたということができない
違法なものである。しかも、A警察官は、原告から運転免許証の提示を受け、原告
の氏名、住所、勤務先等を記録していたのであるから、原告が逃亡する虞はなく、
また駐車違反の事実は同警察官において現認していたのであるから、罪証隠滅の虞
もなかつたものである。
したがつて、本件現行犯逮捕はその理由も必要性もない違法な逮捕であつた。
3 そのうえ、Cが昭和五三年一月一八日午後五時頃天王寺警察署へ出頭し、警察
官に対し「自分が違法駐車をした」旨供述したのであるから、この時点で事実の確
認をすれば、原告の逮捕が誤認逮捕であつたことが容易に判明したはずである。し
かるに、これを怠り違法な逮捕を継続した。
4 原告は、本件現行犯逮捕により、人身の自由を故なく奪われ多大の精神的苦痛
を受けたにとどまらず、原告と工事請負契約の注文主との間の信頼関係も破壊され
る危険が生じ、その回復にも多大な精神的苦痛を受けた。
原告の受けた精神的苦痛を慰藉する金額として五〇万円が相当である。
5 よつて、被告大阪府に対し右金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日であ
る昭和五三年三月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の
支払を求める。
第三 被告大阪府警察本部長の本案前の主張
被告大阪府警察本部長の行なつた本件通告は、反則金の納付を通知する行政上の措
置であり、反則者に対しなんら反則金の納付を義務づけるものではなく、反則者が
これを任意に納付すればその件につき公訴の提起がなされないとの効果を生ずるに
過ぎないから、行政事件訴訟法の取消訴訟の対象となるいわゆる行政処分にはあた
らない。
したがつて、原告の被告大阪府警察本部長に対する訴は不適法であり、却下される
べきである。
第四 被告らの本案に対する答弁
一 請求の原因一、1記載の事実は認める。
同一、2記載の事実は否認する。
二 同二、1記載のうち、逮捕時刻を除くその余の事実は認める。逮捕時刻は午後
二時五五分頃である。
同二、2および3記載の事実は否認する。
同二、4記載の事実は争う。
第五 証拠関係(省略)
○ 理由
一 被告大阪府警察本部長の本案前の主張について
同被告は、「本件通告は、原告に反則金納付を義務づけたものではないから、行政
事件訴訟法の取消訴訟の対象となるいわゆる行政処分にはあたらない。したがつ
て、原告の同被告に対する訴は不適法であり、却下されるべきである。
」と主張するので、この点につき判断する。
本件通告は、道路交通法一二七条一項、一二九条二項によりなされたもので、反則
者に対し通告にかかる反則金の納付を一方的に義務づける処分(ただし、その納付
を強制する手段は認められておらず、反則者に対し自然債務類似の義務を負わせ、
反面国家に反則金を受納しうる地位が認められる。)であるところ、刑事手続で争
う余地のない本件においては行政事件訴訟法三条二項にいういわゆる行政処分に該
当するというべきである。
したがつて、同被告の本案前の主張はこれを容れることはできない。
二 講求の原因一、1記載の事実、同二、1記載のうち、逮捕時刻を除くその余の
事実は当事者間に争いがない。
三 そこで、本件現行犯逮捕ならびにその前後の状況についてみると、成立に争い
がない甲第一号証(交通反則告知書)、第二号証(反則金仮納付書)、乙第一号証
(実況見分調書)、現場附近を撮影した写真であることについては争いがなく、撮
影年月日が昭和五三年一月一八日であることが明らかな写真である検甲第七号証の
一ないし六、証人A、同Bの各証言、証人Cの証言の一部、原告本人尋問の結果の
一部によれば、
(1) 天王寺警察署の警察官Aは、舟橋町警ら連絡所において警ら活動中の昭和
五三年一月一八日午後二時一〇分頃、大阪市<地名略>にある飲食店「栄鮓」前の
東側歩道上に荷物を積んだ本件自動車が違法駐車されているのを現認し、午後二時
二五分頃再度同所を通りかかつたときも本件自動車が同様の違法駐車の状態にあ
り、その直前には「栄鮓」の改装工事のため来ていたペンキ屋がライトバンを停車
させ、かんの積み降ろしをしていたので、ペンキ屋に対し「荷物の積み降ろしが済
んだらライトバンを動かすように。また本件自動車の運転手にも本件自動車を他の
場所へ移動させるよう伝えてもらいたい。」旨警告し、ペンキ屋は、その旨を「栄
酢」の改装工事に来ていた株式会社治久丸建設興業(本件自動車の実質上の所有
者。以下、単に会社という。)の者に伝えた。
(2) Aは、午後二時四五分頃三度右現場に来たところ、本件自動車が依然とし
て前同様の違法駐車の状態にあつたので、本件自動車にステツカー(呼出状)を貼
つた。
(3) 原告は、会社の専務取締役であり、「栄鮓」の改装工事のため部下四名と
共に本件自動車を含め三台の自動車で来ていたが、警察官が本件自動車にステツカ
ーを貼つていることを知らされ、「栄鮓」の表へ出て来て、Aに対し「すぐのけま
すわ。」と言い、求めに応じて免許証を提示し、その質問に「わたしが停めました
んや。」と答えていたが、Aが交通反則告知書を作成し始め、原告の住所氏名の確
認をしようとするや、Aが本件違法駐車を見逃してくれないことを知り、「先程一
度注意されてるんやから仕方がないんやけどな。」と口に出しながらも、右確認に
応じないで、「勝手にしなはれ。」「交通切符にサインもせん。」「強制捜査する
ならやつてみろ。」と言い出した。
(4) そこで、Aは、午後二時五五分頃原告に対し現行犯逮捕する旨告げ、前記
連絡所まで同行するよう求めたところ、原告が「わしや忙しいんやから行かん。あ
とになつたら行つたる。」と言つてこれを拒否するので、天王寺警察署へ無線で応
援を要請した。
(5) その間、原告は、部下である大工のCに命じて現場にある本件自動車等の
写真を撮らせ、本件自動車を現場より二〇メートル余り西方へ移動させた。
(6) B巡査部長は、Aの要請で約一〇分後に現場に到着し、原告に対し「お宅
停めたの。」と尋ねたところ、原告は、「そうでんが。私が停めました。」と認め
ながら、他方で「ほかにも違法駐車の車があるじやないか。」と喰つてかかつた。
(7) そこで、Bは、原告に指示して、既に現場より二〇メートル余り西方に移
動されていた本件自動車を附近の元町モータープールヘ移動させるとともに、部下
の警察官に対し他の違法駐車の自動車の取締を指示したところ、Cが出て来て、自
分の右ポケツトからキーを出し、現場より二〇メートル余り西方に停めてあつた普
通乗用車(コロナマークII)を運転して元町モータープールヘ移動させた。
その際、Cは、Bの質問に対し「右自動車(コロナマークII)は自分の車であ
る。」と述べた。
(8) Bは、原告に対し「取調べに応じるよう」求めたが、原告は「令状もつて
来んかつたら調べなんかに応じまへんで。」とこれを断つていた。Bは、原告との
やりとりの傍ら、現場にいた会社の職人二、三人に対して「(君らは)本件自動車
を違法駐車したか。」と尋ねてみたが、皆「違います。」と答えた。
(9) Cは、原告が天王寺警察署へ連行されるまでの約一時間現場附近におり、
原告と警察官とのやりとりを見ておりながら、警察官に対し「自分が本件自動車を
違法駐車した。」旨の申述をしたことはない。
(10) Cは、原告が連行された後も「栄鮓」の改装工事に従事していたが、A
に本件自動車を任意提出するよう求められ、本件自動車を運転して天王寺警察署へ
行つた際警察官から取調を受け、本件自動車を違法駐車した者は原告ではなくて、
自分である旨告げた。
(11) 原告は、天王寺警察署へ連行されてからは、「本件自動車を違法駐車し
た者は自分ではない。」と否認していたが、翌一九日午前中に反則金を仮納付し、
午前一一時三〇分頃釈放された。
(12) 原告は、これまでにも何回か交通違反を犯したことがあり、その際否認
することが多かつた。
以上の事実が認められ、右認定に反する証人Cの証言部分および原告本人尋問の結
果部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
四 右認定の(1)ないし(9)の事実、殊に、原告が当初警察官らに対し本件自
動車を違法に駐車させていたことを認めていたこと、警察官が現場で事情聴取した
ときには、原告の外に会社の従業員で本件自動車を違法駐車させた者は見当らず、
就中Cは、警察官に対し普通乗用車(コロナマークII)が自己の自動車である旨
述べ、原告と警察官との約一時間にわたる現場でのやりとりの間も、本件自動車を
違法駐車させた者は自分である旨の申述をしていないことに徴すれば、本件自動車
を違法に駐車させた者は原告であつたとみるのが相当であり、また右認定の事案の
推移をみれば、原告を現行犯逮捕するについては、その理由も必要性もあつたと認
められるから、本件現行犯逮捕は適法なものであつたというべきである。
原告は、本件自動車を違法に駐車させた者は原告ではなくて、Cであり、原告が乗
つていた自動車は普通乗用車(コロナマークII。前認定のもの。)である旨主張
し、これに副うものとして、前認定の(10)、(11)の事実ならびに証人Cの
「違法駐車の処理を原告に任せておいた。多勢の警察官が来て、原告を逮捕すると
言い出したので、こわくて本当の事が言えなかつた。」旨の証言等があるが、前認
定の(3)ないし(9)、(12)の事実ならびに原告が逮捕され連行されて行つ
たにもかかわらず、Cが原告のため積極的に天王寺警察署へ出頭したわけではない
こと((10)の事実の一部)に照らし、到底採用することはできないから、右主
張を容れることはできない。
五 そうすると、本件自動車を違法に駐車させた者は原告でないこと及び本件現行
犯逮捕が違法であることをそれぞれ前提とする原告の被告らに対する各請求は、そ
の余の事実について判断するまでもなく失当であるからこれらを棄却することと
し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主
文のとおり判決する。

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