弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する
     被告人Aを懲役八月に処する
     原審における未決勾留日数中九〇日を右本刑に算入する
     原審における訴訟費用中証人B、同C、同Dに支給した分は各その金額
を、又証人E、同F、同G、同H、同I、同Jに各支給した分は各二分の一を被告
人Aの負担とする
     被告人Kは無罪
         理    由
 被告人Aの弁護人小河虎彦、被告人Kの弁護人本間大吉の各陳述した控訴の趣意
は記録編綴の弁護人小河虎彦、同小河正儀共同作成名義、弁護人田坂戒三、及び被
告人K各作成名義控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 弁護人小河虎彦、同小河正儀の論旨について
 所論は原判示第一の事実につき誤認を主張し被告人Aは被告人Kに対し決闘を申
込んだ事実はなく、それは単に被告人Kが泥酔時の錯覚によりそのように感じたに
過ぎない。仮にさような事実があつたとしてもそれは単なる嚇しであつて真意に出
でたものではないというのである。よつて記録を検討するに、原判決が右事実認定
の証拠として引用している被告人Kの検察官に対する各供述調書には原判示第一の
事実に符合する決闘の挑発を受けた顛末の供述記載が存するのであつて、所論は右
各供述は同人幻覚に因るものであるというのである。なるほど記録によれば、被告
人は嘗てヒロポン中毒にかかつていたことがありその当時は幻覚におそわれる等の
こともあつたのではないかと疑われるふしもないではないが、本件犯行当時も同様
の状態であつたことは之を認むべき証拠なく却つて証人Hの原審公判廷における証
言、被告人Kの検察官に対する各供述調書によれば、同被告人は二、三年前からヒ
ロポンを全く絶ち、本件犯行当時は身心に何等異常のなかつたことが認められるの
みならず、右被告人Kの検察官に対する供述は、昭和三二年四月八日夜回被告人A
の経営するやよいパチンコ店において他人よりパチンコ玉を貰つて遊興した上他人
の出したパチンコ玉を景品と交換し、Cからとがめられたことにつき同人の原審公
判廷における証言の裏づけがあり、その後間もなくL菓子店前で被告人Aから「一
寸来い」と呼とめられM時計眼鏡店横に連行せられたことにつき証人Fの原審公判
廷における証言、同人の検察官に対する供述調書の裏づけもあることであるから到
底所論の如く幻覚による妄想とは考えられない。而して右被告人Kの検察官に対す
る各供述調書の記載に原判決引用の爾余の各証拠を綜合すれば原判示決闘挑発の事
実は優に之を認定するに足る。所論は原審証人H、F、J、G、D、Bの各証言を
根拠として被告人Kが被告人Aから決闘を申込まれたという時刻には被告人Aは料
理店Nに居た筈であるから原判示挑発の事実はあり得ないと主張する。なるほど右
H、F、Jの各証言を綜合すれば、被告人Aから決闘の挑発を受けた時刻は午後七
時半前後と推定されるのであり、右D、B、Gの各証言を綜合すれば、被告人Aは
午後六時頃から同八時頃まで右Nに居たことになるのであるがD等の各証言はGが
検察官に対する供述調書においては被告人Aは午後九時頃Nに来て三分位居た丈け
で帰つたと述べているところから見ても軽々には信用出来ないところであり、仮に
右Gの検察官に対する供述が記憶違いであつたとしても、前記D等の各証言はもと
より前記H等の各証言もその内容を検討して見ても右時間の点に関する限り左程正
確(僅か三〇分前後の誤差の存することも疑う余地のない程)なものであるとは考
えられないから前記各証言にあらわれた時間的関係を根拠として原判決の誤認を主
張する所論には到底賛同しがたい。尚記録を精査検討するも他に原判示事実に誤認
があると疑うに足りる資料は存しない。而していやしくも挑発の事実の認められる
以上特段の事情の認むべきものが存しない限りそれが単に威嚇の意味で為されたに
過ぎないものとは考えられない。所論は被告人Kと被告人Aとの社会的地位の相
違、被告人Kが原審公判廷において「こう言えば自分が謝罪に行くと考えたかもし
れぬ」と述べていること、被告人Aが決闘場に出向かなかつたことを根拠として被
告人Aの決闘挑発は単なる威嚇に過ぎなかつたものであるというのであるが、決闘
は常に必ずしも対等の社会的地位を有する者の間においてのみ行われるものとは限
らないし、被告人Kが現に兇器を携え決闘立会人と共に決闘揚に出向いている事実
から見れば同被告人が被告人Aの挑発を単純なる嚇しと解釈したものとは考えられ
ない。又被告人Aが決闘場に赴かなかつたのは証人Jの原審公判廷における証言か
ら見ても警察の手配を察知した為であると見るのが相当であるからいずれも被告人
Aの挑発が単純なる威嚇に過ぎなかつたものであると認める根拠とはならないもの
と考えられる。論旨は理由がない。
 職権を以て被告人Aに対する原判決の法律の適用を検討するに、原判決は同被告
人に対し決闘罪に関する件第一条刑法施行法第二条第一九条罰金等臨時措置法第四
条第一項刑法第五六条第五七条を適用し同被告人を懲役八月及び罰金二、〇〇〇円
に処している。しかし決闘罪に関する件第一条の規定する附加の罰金刑は刑法施行
法第一九条第二項により廃止せられたものであることは同法条の解釈上明らかであ
るから原判決が同被告人に対し懲役刑の外罰金刑を附加処断したのは法令の適用を
誤まつたものであつてその誤りが判決に影響を及ぼすことか明らかであるから原判
決は此の点において到底破棄を免がれない。
 弁護人田坂戒三の論旨第二点について
 原判決が原判示第二の事実として説示するところによれば被告人Kは被告人Aよ
り前記のとおり(即ち原判示第一に記載するとおり)決闘を挑まれ昭和三二年四月
九日午後八時過頃刺身庖丁二丁を携え友人Eを決闘の立会人として依頼し同人と共
に厚狭郡a町b山頂c場附近に赴き、もつて前記Aの決闘の挑みに応したものであ
るというのである。而して被告人が右日時頃刺身庖丁二丁を携えEを決闘立会人と
して依頼し同人と共に右場所に赴いたことは原判決挙示の各証拠によつて之を認め
得るところである。しかし決闘応挑罪が成立するには応挑の意思表示が挑発者の認
識に到達することを必要とすることは<要旨>既に最高裁判所の判例(昭和二四年
(れ)第一五一一号)の示すところである。然るに右事実によれば被告人高
木水土は単に刺身庖丁二丁を携え決闘立会人と共に挑発者指定の場所に赴いたとい
うに止まり記録によれば決闘挑発著たる被告人Aは右現場に遂に姿を現わさなかつ
たことが明らかであるから、たとえ被告人Kの右所為が応挑の黙示的な意思のあら
われであると認められるとしても、それは直接挑発者の認識に到達しなかつたこと
は明らかであり、他に間接的にもせよ挑発者の認識に到達したと認め得る事情は記
録上見出し得ないから被告人Kの右所為は到底決闘応挑罪の成立に必要な応挑の表
示行為としての要件を具備したものとは認められない。然るに原判決は被告人が庖
丁二丁を携え決闘立会人と共に挑発者指定の場所に赴いたという事実を捉らえ、そ
のこと丈けで決闘応挑罪が成立するものとして被告人Kに対し有罪の言渡をしたの
であつて、原判決は此の点において法律の解釈適用を誤まつた違法があり、その誤
りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、同弁護人の爾余の論旨及び被告人
Kの論旨につき判断を俟つまでもなく到底破棄を免がれない。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書に則り原判決を破棄し当
裁判所において更に判決すべきものとする。
 当裁判所の認定した被告人Aに対する罪となるべき事実並びに証拠の標目は原判
示冒頭並びに第一の事実と之に対応する証拠の標目記載のとおりであるからここに
之を引用する。
 法律に照すに被告人Aの所為は決闘罪に関する件第一条刑法施行法第二条第一九
条第一項第二項に該当するところ、原判示前科があるから刑法第五六条第五七条に
則り累犯加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役八月に処し同法第二一条に則り原
審における未決勾留日数中九〇日を右刑期に算入することとし、主文第四項掲記の
訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し之を同被告人に負担
せしむることとする。
 被告人Kに対する本件公訴事実の要旨は同被告人は被告人Aから決闘を挑まれ昭
和三二年四月九日午後八時過頃刺身庖丁二丁を携え友人Eを決闘の立会人として依
頼し、同人とともに厚狭郡a町b山頂c場附近に赴き、もつて右被告人Aの決闘の
挑みに応じたものであるというのであり、被告人Kが昭和三二年四月八日午後八時
頃厚狭郡a町d町通りL菓子店前において被告人Aから決闘を挑まれたこと、被告
人Kが翌九日午後八時頃刺身庖丁二丁を携え友人Eを決闘の立会人として依頼し、
同人と共に同郡同町b山頂c場附近に赴いたことは、前記被告人Aの罪となるべき
事実認定の資料として引用した各証拠により之を認め得るところであるが、既に説
明したとおり被告人Kが単に刺身庖丁二丁を携え決闘立会人と共に決闘挑発者指定
の場所に赴いたという丈けのことでは右所為は未だ応挑罪の成立に必要な応諾の表
示行為としての要件を具備したものとは認めがたく、その他同罪の成立を肯認する
に足る証拠は存しないから結局犯罪の証明充分でないものと認めるの外なく従つて
同被告人に対しては刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の言渡をすることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 村木友市 判事 渡辺雄 判事 藤間忠顕)

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