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平成20年5月28日判決言渡
平成19年(行ケ)第10329号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年5月26日
判決
原告日本航空電子工業株式会社
訴訟代理人弁理士池田憲保
同福田修一
同山本格介
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人岡本昌直
同高木彰
同関口哲生
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−18786号事件について平成19年8月16日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が名称を「コネクタ」とする発明につき特許出願(本願)をし
たところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許
庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,下記引用発明1及び2との関係における進歩性の有無(特許法29
条2項)である。

・引用発明1
特開2001−126789号公報(発明の名称「電気コネク
タ」,出願人日本航空電子工業株式会社〔原告〕,公開日平成1
3年5月11日〔以下「引用例1」という〕。甲3)に記載された
発明
・引用発明2
実願昭59−21321号(実開昭60−133686号)のマイ
クロフィルム(考案の名称「音響コンポーネントの接続装置」,出
願人オンキョー株式会社,公開日昭和60年9月6日〔以下「引
用例2」という〕。甲4)に記載された発明
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年3月28日,名称を「コネクタ」とする発明につき,
特許出願(特願2002−90522号,請求項の数3,甲1)をし,平成
16年6月7日に特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(以下「本
件補正」という。請求項の数2。甲2)をしたが,拒絶査定を受けたため,
これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2004−18786号事件として審理した上,
平成19年8月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は同年8月29日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1及び2から成る
が,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,
以下のとおりである。
「請求項1】インシュレータと,前記インシュレータに保持されるコンタ【
クトとから構成され,
前記インシュレータは,底面部と側壁部とから構成され,
前記コンタクトは,略長方形状の枠部を有し,
前記枠部の対向する二辺部の少なくとも一方は,それぞれ相手側コネク
タのコンタクトと接続する接触部となり,
前記枠部の他の一辺部は,前記二辺部の一方に当接し,
前記二辺部と残余の一辺部とが前記側壁部を取り囲むように,他の一辺
部は前記インシュレータにモールドインにより一体成形され,
前記二辺部と残余の一辺部の各表面は前記側壁部から露出するように構
成されることを特徴とするコネクタ。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,前記引用発明1及び2並びに周知技術
に基づいて,当業者が容易に想到することができたから,特許法29条2
項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明1の内容を以下のと
おり認定したうえ,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点を次のと
おりとした。
<引用発明1の内容>
「ハウジングと,前記ハウジングに保持されるコンタクトとから構成
され,前記ハウジングは,底面部と側壁部とから構成され,前記コンタ
クトは,略長方形状の一辺を欠いた形状の部分を有し,前記部分の対向
する二辺部は,一方の辺にレセプタクル側コネクタのコンタクトと接続
する接触部を有し,前記対向する二辺部と他の一辺部とが前記側壁部を
取り囲むように,前記ハウジングに一体成形され,前記対向する二辺部
と一辺部の各表面は前記側壁部から露出するように構成されることを特
徴とするコネクタ。」
<一致点>
いずれも,
「インシュレータと,前記インシュレータに保持されるコンタクトと
から構成され,前記インシュレータは,底面部と側壁部とから構成さ
れ,前記コンタクトは,三辺からなる部分を有し,前記部分の対向する
二辺部は,相手側コネクタのコンタクトと接続する接触部を有し,前記
二辺部と一辺部とが前記側壁部を取り囲むように一体成形され,前記二
辺部と一辺部の各表面は前記側壁部から露出するように構成されること
を特徴とするコネクタ。」であること。
<相違点1>
本願発明では,「対向する二辺部の少なくとも一方は,それぞれ相手
側コネクタのコンタクトと接続する接触部」を有するのに対して,引用
発明1では,「対向する二辺部は,一方の辺が相手側コネクタのコンタ
クトと接続する接触部」を有する点。
<相違点2>
本願発明では,「コンタクトは,略長方形状の枠部を有し,前記枠部
の他の一辺部は,前記二辺部の一方に当接し,他の一辺部は前記インシ
ュレータにモールドインにより一体成形」されるのに対して,引用発明
1では,長方形の一辺を切り欠いた三辺からなる形状のため,「二辺部
の一方に当接するとともに,インシュレータにモールドインにより一体
成形される一辺部」は存在しない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,審決は違
法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(相違点2についての判断の誤り)
審決は,引用例2に記載された技術を引用発明1に適用して,相違点2
に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとする
が,誤りである。
(ア)審決は,引用例2の第5図及び第10図に関して,「接続用接点が略
長方形ないし長円形の閉空間を有する形状で,一辺部が,対向する二辺
部の一方に当接した様子が示されている」(3頁27行∼29行)と認
定したが,誤りである。
引用例2の第5図及び第10図に示されたコンタクト(接続用接点)
は,「略長方形」ではなく,「トラック形」,すなわち,陸上競技の競
争路のように,長方形における両短辺を半円弧に代えた形状であり,対
向する二辺部の一方に当接しているのは,「一辺部」ではなく,「半円
弧部」である。
被告は,コンタクトの形状を略長方形というかトラック形というかは
単なる用語上の問題にすぎないと主張する。しかし,本願発明のように
コンタクトを略長方形にする場合には,コンタクトは弾性変位しにくく
なり,所定の幅を維持し,強度を持たせることができるのに対し,引用
例2のようにコンタクトをトラック形にする場合には,コンタクトは弾
性変位しやすくなり,所定の幅を維持することが困難になる。したがっ
て,両者は機能及び目的を異にするのであって,コンタクトの形状を略
長方形とするかトラック形とするかは,技術上の構成の相違を意味する
ものであるから,単なる用語上の問題とはいえない。
(イ)また審決は,引用例2に,コンタクト(接続用接点)の「一辺を他の
二辺に当接させる」(5頁1行)ことが示されていると認定し,引用例
2のコネクタに関する技術を引用発明1に適用し二辺部に当接する一辺
部を形成することは当業者にとって容易なことである(5頁9行∼13
行)と判断したが,引用例2に記載された「当接」と,本願発明におけ
る「当接」とは異なるものであるから,審決の認定判断は誤りである。
すなわち,引用例2の第5図及び第10図に示されているコンタクト
(接続用接点)は,内側の枠部が略U字状に湾曲しており,このため,
内側の枠部の先端付近は,外側の枠部と平行に接触している。換言すれ
ば,半円弧が,対向する二辺部の一方に沿って,平行に延びた状態で当
接しているのである。
これに対して,本願発明のコンタクトは,略長方形状の枠部を有し,
枠部の他の一辺部が,対向する二辺部の一方に略直角に当接している。
このように,略直角に当接することによって,引用例2記載のコンタク
ト(接続用接点)と異なり,幅方向のコンタクトの変形を防止できるの
である。
以上のように,本願発明のコンタクトと引用例2記載のコンタクト
(接続用接点)とは,枠部の当接方向が略90度相違するものであり,
引用発明1に引用例2のコンタクト(接続用接点)を適用しても,相違
点2に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たといえな
いものである。
これに対し被告は,本願発明の請求項1には,「枠部の他の一辺部
は,前記二辺部の一方に当接し」と記載されているにすぎず,一辺部の
先端が二辺部に対してどのように当接するかは特定されていないと主張
する。しかし,請求項1には,「前記コンタクトは,略長方形状の枠部
を有し,…前記枠部の他の一辺部は,前記二辺部の一方に当接し」と記
載されているのであるから,枠部の他の一辺部の直線上の先端部が二辺
部の一方に略直角に当接することは,幾何学上当然であり,請求項1の
記載から明らかである。
また被告は,本願明細書(甲1)の発明の詳細な説明に,「両実施の
形態例では,3A2及び13A2を水平部としたが,これらの部分を水
平方向に対して傾斜するように形成すれば,コンタクト3,13の剥離
を更に強固に防止することができる」(段落【0031】)と記載され
ていることを根拠に,本願発明において,枠部の他の一辺部が対向する
二辺部の一方に略直角に当接することが特定されているとはいえないと
主張する。しかし,本願明細書の上記記載は,「略長方形状」といえる
範囲内で傾斜させることを説明しているにすぎず,枠部の他の一辺部の
直線上の先端部が二辺部の一方に略直角に当接することと矛盾するもの
ではない。
(ウ)また,審決は,引用例2記載のようなコンタクトを「モールド成形に
よって製造することはよく知られており,二辺に当接する一辺をインシ
ュレータにモールドインすることは当業者が容易に把握しうる構成であ
る」(5頁4行∼6行),「してみると,引用例2のコネクタに関する
技術を引用例1発明に適用し,…二辺部に当接する一辺部を形成し,一
辺部をインシュレータにモールドインして一体成形することは当業者に
とって容易なことである」(5頁9行∼13行)としたが,誤りであ
る。
たしかに,被告が主張するように,コンタクトの先端をインシュレー
タに埋設することによってコンタクトの強度向上を図ることは,下記乙
1及び乙2に記載されている。
乙1:特開平11−204214号公報(発明の名称「電気コネクタ及び
その製造方法」,出願人日本圧着端子製造株式会社,公開日平成1
1年7月30日)
乙2:登録実用新案公報3023276号(考案の名称「電気コネク
タ」,実用新案権者モレックスインコーポレーテッド,登録日平
成8年1月31日,発行日平成8年4月16日)
しかし,仮に,乙1及び2に記載されているような,コンタクトの先
端をインシュレータに埋設することによってコンタクトの強度向上を図
る技術が本願前に周知の事項であるとしても,本願発明のように「対向
する二辺部の一方に当接する枠部の他の一辺部」をインシュレータにモ
ールドインすることは,本願前に全く知られておらず,これを示唆する
証拠もない。
また,引用例2記載のコンタクト(接続用接点)は,インシュレータ
にインサート成形されているのか否か明記されていないが,通常,イン
サート成形できるものではなく,仮に,インサート成形されているとす
れば,接点の反対面がインシュレータ内に埋設されているから金型で抑
えることができず,コンタクトが倒れやすくなって接点寸法がばらつき
易くなるなどの不具合が生じる。
さらに,前記(イ)に述べたように,引用例2記載のコンタクト(接続
用接点)と本願発明のコンタクトとは,枠部の当接方向が略90度異な
るものであり,本願発明のように,枠部の他の一辺部の端部が,対向す
る二辺部の一方に略直角に当接することによって,幅方向のコンタクト
の変形を防止できるという効果が得られるのである。したがって,引用
例2のコンタクト(接続用接点)と乙1及び乙2に記載のコンタクトを
単に総合しただけでは,「二辺に当接する一辺をインシュレータにモー
ルドインすること」を想到することは容易でない。
(エ)また,審決は,コンタクトのような「板状部材において,閉空間を形
成した部分では強度が向上することは,技術的に見て自明のことであ
り,成型性,耐久性等のためにコネクタ(判決注,「コンタクト」の誤
記)の強度を向上させることは常に意識される課題である。してみる
と,引用例2のコネクタに関する技術を引用例1発明に適用し,長方形
状から一辺を切り欠いた三辺からなる部分に,さらに一辺を追加して略
長方形状の枠とし,二辺部に当接する一辺部を形成し,一辺部をインシ
ュレータにモールドインして一体成形することは当業者にとって容易な
ことである」(5頁7行∼13行)と判断したが,これは,本願発明の
コンタクトと,引用例2記載のコンタクト(接続用接点)との構造上の
相違を無視して,本願発明と基本的構造を同じくする引用発明1に,引
用例2記載の技術を誤って適用したものである。
すなわち,本願発明では,コンタクトに強度を持たせるために,コン
タクトを略長方形とし,略長方形状の枠部の他の一辺部を,インシュレ
ータにモールドインにより一体成形するとともに,対向する二辺部のう
ちの一方の辺部に当接させている。ここでは,コンタクトの接触部の裏
面は,インシュレータに密着させる構造となっている。(なお,被告
は,本願発明の請求項1には,コンタクトの接触部の裏面とインシュレ
ータとが密着するとの記載はないと主張するが,モールドインによる一
体成形の技術常識に照らせば,コンタクトの二辺部〔接触部〕の裏面と
インシュレータの側壁部の表面との間に,隙間が存在するものとは認め
られず,請求項1の「二辺部と残余の一辺部とが前記側壁部を取り囲
む」とは,「密着させる」ことを意味するものと解することができ
る。)
これに対して,引用例2では,コンタクトを弾性変位しやすくするた
め,トラック形のコンタクト(接続用接点)を採用している。ここにお
いては,コンタクト(接続用接点)を弾性変位させることが必須要件で
あるため,コンタクトとインシュレータとの間に隙間を持たせるように
モールドインする必要がある。すなわち,引用例2記載のコンタクト
(接続用接点)は,一辺部の全体と二つの半円弧部の各半分がインシュ
レータから露出し,残余の一辺部の全体と前記二つの半円弧部の残余の
各半分がインシュレータ内に埋設されているタイプのものである。そし
て,このように弾性変位しやすい形状であることから,コンタクトの一
部がインシュレータに埋設されるようにモールドインしても,構造的に
強度を向上させることは困難である。
このように,本願発明のコンタクトと引用例2記載のコンタクト(接
続用接点)とは,その構造が基本的に異なるのであるから,本願発明と
基本構造を同じくする(すなわち,コンタクトの接触部の裏面がインシ
ュレータに密着される構造を有する)引用発明1に,引用例2記載の技
術を適用することはできないものである。
イ取消事由2(作用効果についての判断の誤り)
審決は,「本願発明の作用効果も,引用例1,引用例2の記載及び周知
技術から当業者が予測できた範囲内のものである」(5頁20行∼21
行)と判断したが,誤りである。
本願発明は,①インシュレータにモールドインにより一体成形された他
の一辺部が対向する二辺部に当接するのでコンタクトに変形が生じにく
い,②一体成形時に,コンタクトの対向する二辺部を金型で押さえること
ができるので,コンタクトの端部が剥がれたり,埋め込まれたりすること
が起こりにくい,という効果を有する。
しかし,本願発明の構成は,引用例1及び2にも,周知技術にも,記載
も示唆もされておらず,これらを単に総合しても,本願発明の卓越した上
記効果を奏することはできないものである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
原告は,相違点2に関する容易想到性を肯定した審決の判断は誤りである
と主張するが,以下のとおり,審決の判断は正当である。
ア原告は,審決が,引用例2の第5図及び第10図に関して,「接続用接
点が略長方形ないし長円形の閉空間を有する形状で,一辺部が,対向する
二辺部の一方に当接した様子が示されている」(3頁27行∼29行)と
認定したのは誤りであると主張するが,審決の認定は正当である。
引用例2の第5図及び第10図には,コンタクト(接続用接点)が,二
つの略半円弧状の部分と,二つの略直線状の部分とから形成された形状が
記載されており,その形状は,長方形との関係でいうと,長方形の二つの
短辺を略半円弧状に代えた形状であり,円形との関係でいうと,上半円部
分と下半円部分とを上下方向に離し,両者間に直線状部分を形成した形状
である。
審決は,前記形状の全体を「略長方形ないし長円形」,二つの略直線状
の部分を「二辺部」,二つの半円弧状の部分のうちの一方を「一辺部」と
して認定したのであって,この認定に何ら誤りはない。
原告は,審決の「略長方形」との認定を誤りであるとし,「トラック
形」と認定すべきであると主張するが,引用例2記載のコンタクト(接続
用接点)の形状が「トラック形」といえる形状であるとしても,それが
「略長方形状」であることに変わりはなく,これを略長方形というかトラ
ック形というかは,単に用語上の問題であるにすぎない。
イまた,原告は,審決が,引用例2にコンタクト(接続用接点)の「一辺
を他の二辺に当接させる」(5頁1行)ことが示されていると認定し,引
用例2のコネクタに関する技術を引用発明1に適用し,二辺部に当接する
一辺部を形成することは当業者にとって容易なことである(5頁9行∼1
3行)と判断したのは誤りであると主張するが,審決の認定は正当であ
る。
「当接」とは,「当」と「接」の意味に照らすと,「当たり接するこ
と」を意味すると解することができ,引用例2記載のコンタクト(接続用
接点)の略半円弧状の先端部分は,直線状部分に当たり接しているから,
当接しているものである。
これに対し原告は,引用例2記載のコンタクト(接続用接点)において
は,内側の枠部の先端付近が外側の枠部と平行に接触しているのに対し
て,本願発明のコンタクトにおいては,枠部の他の一辺部が対向する二辺
部に略直角に当接しているものであり,両者は枠部の当接方向が略90度
相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,当該一辺部の先端部と二辺部との当接に関する
具体的な態様についてのものにすぎず,引用例2記載のコンタクト(接続
用接点)において,一辺部の先端部が対向する二辺部の一方に当接してい
ることには変わりがない。
また,本願発明の請求項1には,「枠部の他の一辺部は,前記二辺部の
一方に当接し」と記載されているにすぎず,一辺部の先端部が二辺部に対
してどのように当接するかは特定されていない。のみならず,本願明細書
(甲1)の発明の詳細な説明には,「両実施の形態例では,3A2及び1
3A2を水平部としたが,これらの部分を水平方向に対して傾斜するよう
に形成すれば,コンタクト3,13の剥離を更に強固に防止することがで
きる」(段落【0031】)と記載されており,同記載に照らしても,本
願発明のコンタクトにおいて,枠部の他の一辺部が対向する二辺部の一方
に略直角に当接することが特定されているとはいえない。
ウまた原告は,審決が,引用例2記載のようなコンタクトを「モールド成
形によって製造することはよく知られており,二辺に当接する一辺をイン
シュレータにモールドインすることは当業者が容易に把握しうる構成であ
る」(5頁4行∼6行),「してみると,引用例2のコネクタに関する技
術を引用例1発明に適用し,…二辺部に当接する一辺部を形成し,一辺部
をインシュレータにモールドインして一体成形することは当業者にとって
容易なことである」(5頁9行∼13行)と判断したのは誤りであると主
張するが,審決の判断は正当である。
原告も認めているように,コンタクトをインシュレータにモールドイン
することは,よく知られたことであって,コンタクトがインシュレータに
モールドインされるコネクタにおいて,コンタクトの先端が固定されてい
ないと,コンタクトが変形し,インシュレータから剥離してしまうという
問題が生じることから,当該コンタクトの先端を埋設することにより同問
題を解決し,コンタクトの強度向上を図ることは,本願前に周知の事項で
ある(乙1,2)。
そして,引用例2に記載されたコンタクト(接続用接点)をインシュレ
ータにモールドインすれば,自ずと二辺に当接する一辺がインシュレータ
にモールドインすることとなる。
このことに基づいて審決は,引用例2記載のようなコンタクトを「モー
ルド成形によって製造することはよく知られており,二辺に当接する一辺
をインシュレータにモールドインすることは当業者が容易に把握しうる構
成である」(5頁4行∼6行)としたものであって,審決の判断は正当で
ある。
エまた原告は,審決が,コンタクトのような「板状部材において,閉空間
を形成した部分では強度が向上することは,技術的に見て自明のことであ
り,成型性,耐久性等のためにコネクタ(判決注,「コンタクト」の誤
記)の強度を向上させることは常に意識される課題である。してみると,
引用例2のコネクタに関する技術を引用例1発明に適用し,長方形状から
一辺を切り欠いた三辺からなる部分に,さらに一辺を追加して略長方形状
の枠とし,二辺部に当接する一辺部を形成し,一辺部をインシュレータに
モールドインして一体成形することは当業者にとって容易なことである」
(5頁7行∼13行)と判断したのは,本願発明のコンタクトと,引用例
2記載のコンタクト(接続用接点)との構造上の相違を無視して,本願発
明と基本的構造を同じくする引用発明1に,引用例2記載の技術を誤って
適用したものであると主張する。
しかし,本願発明におけるコンタクトの構造として,原告が主張するよ
うな,コンタクトの接触部の裏面がインシュレータに密着されるという構
造については,請求項1において何ら特定されていない。
一方,コンタクトの二辺部の先に一辺部を設けるに当たり,当該一辺部
を他の二辺部に当接させ,略長方形状の閉空間を有する枠部を形成するこ
とが,引用例2に記載されていることは,前記ア及びイにおいて述べたと
おりである。
しかも,引用例2記載のコンタクト(接続用接点)は,接続用基板(1
3)が挿入されることにより左右方向の力を受ける(図10)ものである
ところ,一辺部が他の二辺部に当接し,閉空間を有する形状であることか
ら,その強度が向上していることも明らかである。
原告は,引用例2記載のコンタクト(接続用接点)は弾性変位しやすい
形状であるから引用発明1に適用することはできないと主張するが,審決
が引用発明1に適用した引用例2記載の技術事項は,「長方形状から一辺
を切り欠いた三辺からなる部分に,更に一辺を追加して略長方形状の枠と
し,二辺部に当接する一辺部を形成し,一辺部をインシュレータにモール
ドインして一体成形すること」であって,かかる技術事項は,引用例2記
載のコンタクト(接続用接点)が弾性変位しやすい形状であるか否かとは
関係しないものである。
(2)取消事由2に対し
原告は,審決が「本願発明の作用効果も,引用例1,引用例2の記載及び
周知技術から当業者が予測できた範囲内のものである」(5頁20行∼21
行)と判断したのは誤りであると主張するが,審決の判断は正当である。
原告の主張する「①インシュレータにモールドインにより一体成形された
他の一辺部が対向する二辺部に当接するのでコンタクトに変形が生じにく
い」との効果については,一辺部が他の二辺部に当接し,閉空間を形成する
形状であることによるものであって,引用発明1のコンタクトに引用例2記
載の技術を適用することにより得られる程度の効果にすぎない。
また,原告の主張する「②一体成形時に,コンタクトの対向する二辺部を
金型で押さえることができるので,コンタクトの端部が剥がれたり,埋め込
まれたりすることが起こりにくい」との効果については,本願発明の構成か
ら得られるものであるかどうか定かでなく,本願明細書にも,記載も示唆も
されていないものである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について
(1)原告は,審決が,引用例2の第5図及び第10図に関して,「接続用接点
が略長方形ないし長円形の閉空間を有する形状で,一辺部が,対向する二辺
部の一方に当接」(3頁27行∼28行)していると認定したのは誤りであ
ると主張するので,まずこの点について判断する。
ア引用例2(甲4)の明細書の考案の詳細な説明には,以下の記載があ
る。
・「…接続用端子(14),(15),(16)に電気的に接続され通常は第5図で明示
の如く前記の各接続用接点(7),(8),(9)に弾性的に接触導通状態に保持
される弾性変位自在な接続用接点(17),(18),(19)とを備えており,前記
の両接続用接点(7),(8),(9)及び(17),(18),(19)でソケット部
(1S),(2S),(3S)を各々形成してある」(8頁13行∼19行)
・「次に,前記接続用基板(13)を…挿入すると,第10図で明示の如く,
この挿入された基板(13)片面の接続用回路(13A)に…各ソケット
(1S),(2S),(3S)における一方の接続用接点(7),(8),(9)が各々弾性力を
介して接触し」(11頁1行∼7行)
イまた,引用例2の第5図及び第10図(いずれも,ソケット部の拡大縦
断側面図。)には,接続用接点7,17(本願発明におけるコンタクトに
相当する。)が示されている。
【第5図】【第10図】
ウ上記記載によれば,引用例2の第5図及び第10図に示されている接続
用接点は,ソケット部1S内に埋め込まれた一方の垂直辺から,略半円弧
状の湾曲部を介して,ソケット部1Sの外に露出する他方の垂直辺に連続
し,さらに,ソケット部1S内に埋め込まれた略半円弧状の湾曲部へと繋
がり,同湾曲部の先端は前記一方の垂直辺にほぼ平行に当接していること
が認められる。すなわち,対向する略直線状の二辺部と,略半円弧状の二
つの湾曲部によって構成され,これを長方形との関係でいうならば,長方
形の短辺部をそれぞれ略半円弧状の湾曲部に代えた形状ということができ
る。
そして,長方形の短辺部をそれぞれ略半円弧状の湾曲部に代えた形状
は,長方形に近い形状であるから,略長方形ということができる。
また,このように接続用接点の枠部全体の形状を「略長方形状」といい
得る以上,略半円弧状の湾曲部を「一辺部」ということも許されるという
べきである。
したがって,審決が,引用例2の第5図及び第10図に記載の接続用接
点について,「略長方形ないし長円形の閉空間を有する形状で,一辺部
が,対向する二辺部の一方に当接」していると認定したことに誤りはな
い。
エこれに対し原告は,引用例2の第5図及び第10図に記載の接続用接点
の形状は,略長方形ではなく,トラック形と認定されるべきであると主張
する。
(ア)しかし,原告のいうトラック形とは,長方形における短辺部をそれぞ
れ半円弧状の湾曲部に代えた形状を意味するものであるところ,かかる
形状も,略長方形として採り得る形状の一つであるといえることは,前
記ウにおいて検討したとおりである。
(イ)原告の主張は,本願発明の請求項1における「略長方形状」には,ト
ラック形のように半円弧状の湾曲部を有する形状は含まれないことを前
提とするものであるが,請求項1には,コンタクトの枠部の形状に関し
て,単に,「略長方形状」であることと枠部の他の一辺部が対向する二
辺部の一方に当接することが記載されているだけで,そのほかには,枠
部の形状を具体的に特定したり,何らかの限定を付すような記載はな
い。したがって,請求項1の記載から,本願発明における「略長方形
状」が,半円弧状の湾曲部を有する形状を除外していると解することは
できない。
(ウ)もっとも,請求項1の「略長方形状」という文言については,どのく
らい長方形に類似した形態であればこれに含まれるのかが,一義的に明
確ではないともいい得る。
そこで,本願明細書(甲1。ただし,甲2〔本件補正〕により補正後
のもの)の記載を検討すると,同明細書中には,「略長方形状の枠部3
A」(段落【0016】)の具体的形状に関する記載はなく,わずか
に,枠部を構成する「他の一辺部」及び「残余の一辺部」(請求項1)
に関して,発明の実施例として「コンタクト3の枠部3Aの水平部3A
2」,「他の水平部3A4」(段落【0017】)との記載があるのみ
である。そして,これらに関しては,「両実施の形態例では,3A2及
び13A2を水平部としたが,これらの部分を水平方向に対して傾斜す
るように形成すれば,コンタクト3,13の剥離を更に強固に防止する
ことができる」(段落【0031】)と記載されているように,発明の
実施形態に応じて任意に設計し得る事項であることが認められる。
また,「残余の一辺部」に関しては,「前記二辺部と残余の一辺部と
が前記側壁部を取り囲むように」成形される(請求項1)ことから,そ
の形状は,インシュレータの側壁部の形状に応じた形状となることが考
えられる。例えば,本願明細書の図5において,インシュレータの側壁
部を取り囲むように成形された接触部3A1,水平部3A4,接触部3
A3は,側壁部の周囲に沿った形状を有していることが認められ,さら
に,コンタクト単体を取り出した拡大図(図7)においては,水平部3
A4から接触部3A3にかけて,明らかに湾曲しながら連続しているこ
とが認められる。
【図5】
【図7】
(エ)なお,本願明細書において示されている従来例のコンタクトの枠部の
形状は「略U字形状」(段落【0004】)と記載されており,これに
対して本願発明では「略長方形状」(請求項1)とされていることか
ら,「略U字形状」に代えて「略長方形状」の枠部を採用したのは湾曲
部を有する形状を除外する趣旨である,との主張も成り立たないわけで
はない。
aしかし,前記(ウ)において検討したとおり,本願明細書には,本願
発明の実施例として,湾曲部を含む形状のコンタクトが示されている
のであり,このことに照らせば,本願発明において従来例の「略U字
形状」に代えて「略長方形状」の枠部を採用したことが,湾曲部を有
する形状を除外する趣旨であったとは考え難い。
bさらに,本願明細書及び図面(甲1)には,次の記載がある。
・「【発明が解決しようとする課題】前記従来のコネクタでは,各コ
ンタクト32の略U字形状部32Aが変形すると,コネクタと相手
側コネクタとの嵌合がスムーズに行われ難い。また,各コンタクト
32の接触部32A2がインシュレータ31の側壁31Aから剥離
すると,嵌合の際に,各コンタクト32が損傷する支障が生じ
る。」(段落【0005】)
・「…本発明は,前記従来のコネクタの欠点を改良し,コンタクトが
変形することとインシュレータから剥離することを防止できるコネ
クタを提供しようとするものである。」(段落【0006】)
・「【発明の実施の形態】」
「各コンタクト3をインシュレータ2にインサート成形すると,コ
ネクタ1は,図5と図6に示されるように,完成する。この状態で
は,コンタクト3の枠部3Aの水平部3A2がインシュレータ2に
モールドインされているため,他の接触部3A3はインシュレータ
2の側壁部2Bから剥離しない。また,水平部3A2の先端は,接
触部3A1に当接する。更に,コンタクト3の両接触部3A1,3
A3と他の水平部3A4とは,インシュレータ2の側壁部2Bを取
り囲む。」(段落【0017】)
・「【発明の効果】」
「1.コンタクトが略長方形状の枠部を有し,枠部の一辺部がイン
シュレータにモールドインされ,他の三辺部がインシュレータの側
壁部を取り囲むから,コンタクトが変形しないので,コネクタと相
手コネクタとの嵌合がスムーズに行わ(れ)る。」(段落【003
3】)
・「2.コンタクトの接触部がインシュレータの側壁部から剥離しな
いので,嵌合の際に,コンタクトが損傷する支障が生じない。」
(段落【0034】)
・「【図14】従来のコネクタにおけるコンタクトがインシュレータ
に保持された状態を示す断面図である。」
【図14】
c以上によれば,従来例の「略U字形状」における湾曲部の存在自体
が,コンタクトの変形等においてどのような問題を生じさせ,その問
題を解決するために本願発明においていかなる構成を採用したのかと
いう点については,本願明細書には明確に記載されておらず,むし
ろ,コンタクトが略長方形状という閉じた形状を有し,枠部の他の一
辺部(水平部3A2)が対向する二辺部の一方(接触部3A1)に当
接し,さらに,他の一辺部(水平部3A2)がインシュレータにモー
ルドインされ,前記二辺部と残余の一辺部(接触部3A1,3A3と
水平部3A4)がインシュレータの側壁部を取り囲んでいるという構
成を採用したことによって,コンタクトの変形や,インシュレータの
側壁部からの剥離を防止することができるという効果を得られること
が記載されている。
dまた,前記図14に示された従来例のコンタクトは,その枠部に,
わずかに湾曲する略U字形状部32Aを有するものの,接触部32A
1,略U字形状部32A,接触部32A2の連続する形状の全体をと
らえてみれば,略長方形の三辺(対向する二つの長辺及び一方の短
辺)に相当するともいえる形状であって,本願発明の実施例を示す前
記図7の接触部3A1,水平部3A4,接触部3A3の形状と,さほ
ど異なるものではない。
eしてみると,本願発明の「略長方形状」に対する従来例の「略U字
形状」との文言は,本願発明が「略長方形状」という閉じた形状を採
用しているのに対して,従来例では上側が開放された形状が採用され
ていたことを表すものにすぎないと解するのが相当であり,本願発明
において従来例の「略U字形状」に代えて「略長方形状」の枠部を採
用したことが,湾曲部を有する形状を除外する趣旨であると解するこ
とはできない。
(オ)以上によれば,本願明細書及び図面の記載を参酌しても,請求項1に
おける「略長方形状」が,半円弧状の湾曲部を有する形状を除外してい
るとは,到底解することができず,原告の前記主張は,採用することが
できない。
(2)次に,原告は,審決が引用例2にコンタクト(接続用接点)の「一辺を他
の二辺に当接させる」(5頁1行)ことが示されていると認定したことに関
し,引用例2に記載された「当接」の態様は,半円弧状の湾曲部が,対向す
る二辺部の一方に沿って,平行に延びた状態で当接しているというものであ
るのに対し,本願発明における「当接」は,枠部の他の一辺部が,対向する
二辺部の一方に略直角に当接するものであり,両者は枠部の当接方向が略9
0度異なるから,審決が引用発明1に引用例2記載の技術を適用して相違点
2に係る容易想到性を肯定したのは誤りであると主張するので,この点につ
いて検討する。
アまず,引用例2の第5図及び第10図記載の接続用接点に関しては,前
記(1)ウにおいて検討したとおり,接続用接点の枠部をなす略半円弧状の
湾曲部(一辺部)の先端が,一方の垂直辺(対向する二辺部の一方)にほ
ぼ平行に当接していることが認められる。
一方,本願発明におけるコンタクトに関しては,請求項1において「前
記枠部の他の一辺部は,前記二辺部の一方に当接し」と記載されているの
みで,枠部の他の一辺部が対向する二辺部の一方に略直角に当接する旨の
記載はなく,そのほかに,当接の態様について何らかの限定を付する旨の
記載もない。したがって,本願発明において,コンタクトの枠部の他の一
辺部が対向する二辺部の一方に略直角に当接することが特定されていると
解することはできない(なお,本願発明の請求項1における「当接」が,
当たり接することを意味することは一義的に明確であるから,同文言を解
釈するに当たって,本願明細書及び図面の記載を参酌することは相当でな
い。)。
以上から,引用例2記載の接続用接点のように,枠部の他の一辺部が対
向する二辺部の一方にほぼ平行に当接する場合であっても,本願発明にお
ける「当接」と異なるものということはできず,引用発明1に引用例2記
載の技術を適用して容易想到性の判断をすることの阻害要因があるという
ことはできない。
イこれに対し原告は,本願発明の請求項1には,「前記コンタクトは,略
長方形状の枠部を有し,」「前記枠部の他の一辺部は,前記二辺部の一方
に当接し」と記載されているのであるから,枠部の他の一辺部の直線上の
先端部が二辺部の一方に略直角に当接することは,幾何学上当然であると
主張する。
しかし,前記(1)ウにおいて検討したとおり,本願発明の請求項1にお
ける「略長方形状」には,長方形の短辺部を半円弧状の湾曲部に代えた形
状も含まれるのであるから,発明の実施形態として請求項1の「他の一辺
部」として半円弧状の湾曲部を採用した場合には,対向する二辺部の一方
に当接する同湾曲部の先端は二辺部の一方に対して略直角にではなく,平
行に当接することも考えられるものである。
原告の前記主張は,本願発明の請求項1における「略長方形状」が,各
内角が略直角である四辺形であって湾曲部を含まない形状であることを前
提としたものであって,採用することができない。
(3)また,原告は,審決が引用例2記載のようなコンタクト(接続用接点)を
「モールド成形によって製造することはよく知られており,二辺に当接する
一辺をインシュレータにモールドインすることは当業者が容易に把握しうる
構成である」として相違点2に係る容易想到性を肯定したのは誤りであると
主張するので,この点について検討する。
ア前記乙1(特開平11−204214号公報)及び乙2(登録実用新案
公報3023276号)の各文献に,コンタクトの先端をインシュレータ
に埋設することによりコンタクトの強度向上を図ることが記載されている
ことについては,当事者間に争いがない。
(ア)さらに,前記各文献の内容をみると,まず乙1には,次のような記載
がある。
・「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明
は次の技術的手段を採用したものである。すなわち,…前記各コンタ
クトが,前記接触部の上端から外側へ屈曲し,先端部が前記絶縁ハウ
ジングの外側面まで延びる屈曲係止部を有し,該屈曲係止部が前記絶
縁ハウジングに埋め込まれていることを特徴とする。」(段落【00
07】)
・「前記屈曲係止部は,フック状に形成することが望ましい。…」(段
落【0008】)
・「【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,…前記屈曲
係止部が,絶縁ハウジングの側壁に埋め込まれるので,各コンタクト
が絶縁ハウジングから剥離するのを確実に防止してコンタクトの保持
力を向上させることができる。」(段落【0022】)
・「【図2】本発明による電気コネクタの別の実施例を示す要部縦断面
図である。」
【図2】
(イ)次に,乙2には,次の記載がある。
・「導電ターミナル2のコンタクト片6の折曲した先端部7は,ハウジ
ング1の上面1aの下側に埋設されており…」(段落【0011】)
・「上記実施例の電気コネクタによれば,導電ターミナル2のコンタク
ト片6の変形を確実に防止することができる。即ち,コンタクト片6
の先端部7がハウジング1の絶縁性樹脂内に埋設され…ている。従っ
て,この電気コネクタに対して相手側のプラグコネクタが挿入,接続
される際などに,正しい挿入が行われないことを理由として,コンタ
クト片6に対して斜め方向の外力が働いた場合でも,…コンタクト片
6がハウジング1から剥離するなどの,コンタクト片6の変形を防止
することができるものである。」(段落【0012】)
・「【図1】本考案の第1の実施例の拡大断面図である。」
【図1】
イ以上によれば,電気コネクタの技術において,コンタクトの先端部を屈
曲した形状にし,このような先端部をインシュレータに埋設し,コンタク
トの変形やインシュレータからの剥離を防止することは,本願前に周知の
事項であったことが認められる。
したがって,引用発明1におけるコンタクトのように「三辺からなる部
分を有し,…前記二辺部と一辺部とが前記側壁部を取り囲むように一体成
形され」るコンタクトにおいて,さらに,その先端部を屈曲させた形状と
し,インシュレータに埋設させることは,当業者(その発明の属する技術
の分野における通常の知識を有する者)が容易になし得るものである。
そして,引用発明1のコンタクトに上記周知技術を適用し,その先端部
をインシュレータに埋設させるに当たり,先端部を上記周知技術のように
単に屈曲させるにとどまらず,さらに,引用例2記載の接続用接点のよう
に,枠部の一辺部が対向する二辺部の一方に当接し,略長方形の形状を有
するコンタクトを採用して,前記一辺部をインシュレータに埋設させるこ
とも,当業者において容易に想到し得る事項である。
ウしたがって,原告の前記主張は,採用することができない。
(4)また,原告は,本願発明はコンタクトに強度を持たせることを目的とした
構造であるのに対して,引用例2記載の技術はコンタクト(接続用接点)を
弾性変位しやすくすることを目的とした構造であって,両者は基本的構造を
異にするから,本願発明と基本構造を同じくする引用発明1に,引用例2記
載の技術を適用することはできないと主張するので,この点について判断す
る。
ア本願明細書(甲1,2)には,本願発明の効果として,「コンタクトが
略長方形状の枠部を有し,枠部の一辺部がインシュレータにモールドイン
され,他の三辺部がインシュレータの側壁部を取り囲むから,コンタクト
が変形しない」(段落【0033】)と記載されている。引用発明1も,
コンタクトの「二辺部と一辺部とが前記側壁部を取り囲むように一体成形
され」る(審決4頁4行∼5行)という点では,本願発明と一致してお
り,このような構成を有しないコンタクトと比べれば,コンタクトが変形
しにくいという効果を有するものといえる。
すなわち,本願発明及び引用発明1は,コンタクトの二辺部と一辺部と
が側壁部を取り囲むように一体成形されるという点で,そのような構成を
有しないものと比べてコンタクトの変形を防止する効果を有するものであ
り,本願発明においては更に「二辺部の一方に当接するとともに,インシ
ュレータにモールドインにより一体成形される一辺部」を設けて枠部を
「略長方形状」とすることによって,コンタクトの変形を防止する効果を
より高めたものであって,本願発明と引用発明1とは,その基本的構成を
共通にするものである。
これに対して,引用例2(甲4)に記載された接続用接点は,前記(1)
ウにおいて認定したように,枠部の一方の垂直辺はソケット部内に埋め込
まれ,他方の垂直辺はソケット部の外に露出している。また,接続用接点
は「弾性変位自在な」(8頁16行)ものとして形成され,接続用基板1
3を挿入すると,同基板の接続用回路に,接続用接点7が「弾性力を介し
て接触」(11頁6行∼7行)するものである。したがって,原告が主張
するように,引用例2記載の接続用接点は,本願発明及び引用発明1と
は,その基本的構成を異にする。
イしかし,本願発明及び引用発明1におけるコンタクトと,引用例2記載
の接続用接点との間に,上記のような差異があるからといって,ただちに
引用発明1に引用例2記載の技術を適用することができないものではな
く,引用発明1に適用する引用例2記載の技術がどのようなものであるか
をふまえた上で,適用の可否を検討するのが相当である。
そこで検討するに,本件において,審決が引用発明1に適用した引用例
2記載の技術は,接続用接点の「一辺を他の二辺に当接させること」によ
り,「長方形(判決注,正確には略長方形状というべきである。)ないし
長円形状の閉空間を有する枠部」を接続用接点に形成すること(審決5頁
1行∼3行)である。
すなわち,審決は,引用発明1に引用例2記載の技術を適用するに当た
り,引用例2記載の接続用接点の有する弾性変位自在な構成や,ソケット
部との位置関係などとは関係なく,単に接続用接点の枠部の形状のみに着
目してこれを引用発明1に適用したものである。
そして,前記(3)において検討したとおり,コンタクトの先端部を屈曲
させてインシュレータに埋設し,コンタクトの変形やインシュレータから
の剥離を防止することは,本願前に周知の事項であるところ,引用発明1
における「三辺からなる部分を有し,…前記二辺部と一辺部とが前記側壁
部を取り囲むように一体成形され」るコンタクトに,上記周知技術を適用
し,これに加えて更に,引用例2に記載された「一辺を他の二辺に当接さ
せること」により「略長方形ないし長円形状の閉空間を有する枠部」を適
用することには,何ら問題を見いだし得ないものである。
なぜなら,引用発明1に上記周知技術を適用して,コンタクトの先端部
を屈曲させインシュレータに埋設する場合に,その先端部を更に延長させ
て対向する二辺部の一方に当接させ,略長方形状の閉空間を形成すること
は,審決が,「コネクタ(判決注,「コンタクト」の誤記)のような板状
部材において,閉空間を形成した部分では強度が向上することは,技術的
に見て自明のことであり,成型性,耐久性等のためにコネクタ(判決注,
「コンタクト」の誤記)の強度を向上させることは常に意識される課題で
ある」(5頁7行∼9行)と述べているとおり,当業者においてごく自然
になし得ることであるからである。
ウ以上から,原告の前記主張は,採用することができない。
(5)小括
以上のとおり,本願発明と引用発明1との相違点2に関する審決の判断に
誤りはなく,原告の主張する取消事由1は理由がない。
3取消事由2(作用効果についての判断の誤り)について
原告は,審決が「本願発明の作用効果も,引用例1,引用例2の記載及び周
知技術から当業者が予測できた範囲内のものである」(5頁20行∼21行)
と判断したことは誤りであると主張するので,この点について検討する。
本願明細書(甲1,2)の記載によれば,本願発明の効果は,「コンタクト
が変形しないので,コネクタと相手コネクタとの嵌合がスムーズに行わ(れ)
る。」(段落【0033】),「コンタクトの接触部がインシュレータの側壁
部から剥離しないので,嵌合の際に,コンタクトが損傷する支障が生じな
い。」(段落【0034】)というものである。
上記いずれの効果も,「略長方形状の枠部を有し,…前記枠部の他の一辺部
は,前記二辺部の一方に当接し,前記二辺部と残余の一辺部とが前記側壁部を
取り囲むように,他の一辺部は前記インシュレータにモールドインにより一体
成形され,前記二辺部と残余の一辺部の各表面は前記側壁部から露出する」と
いう本願発明の構成により導かれるものであり,かかる構成を採用するときに
容易に推測される作用効果である。
そして,本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るものであるこ
とは,前記2において検討したとおりである。
したがって,本願発明の作用効果に関する審決の判断に誤りはなく,原告の
主張する取消事由2は理由がない。
4結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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