弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
上告代理人平松耕吉の上告理由について
 一 本件は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産したため、その破
産管財人が破産法五九条一項によりゴルフクラブの会員契約を解除し、ゴルフ場経
営会社に対し、預託金の返還を請求している訴訟である。
 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、預託金会員制ゴルフクラブである「Dゴルフ倶楽部」(以下「本
件ゴルフクラブ」という。)を経営する会社である。
 2 本件ゴルフクラブに入会を希望する者は、所定の入会申込みをし、入会の承
認を得、かつ、預託金六五〇万円及び入会金一五〇万円を上告人に支払うことによ
り会員資格を取得する。
 3 本件ゴルフクラブへの入会に伴って発生する上告人と会員との間の権利義務
関係は、次のとおりである。
 (一) 本件ゴルフクラブの会員は、ゴルフ場施設を優先的に利用する権利を有
し、施設を利用したときは所定の利用料金を支払う義務を負う。会員に年会費の支
払義務はない。
 (二) 上告人は、入会から一五年経過後に会員から退会と同時に預託金の返還
請求があったときは預託金(利息を付さない。)を返還する義務を負う。
 4 Eは、昭和六三年八月一〇日、上告人に対し、預託金六五〇万円及び入会金
一五〇万円を払い込み、本件ゴルフクラブの会員になった(以下「本件会員契約」
という。)。
 5 Eは、平成八年六月二八日午前一〇時に破産宣告を受け、被上告人が破産管
財人に選任された。
 6 被上告人は、平成九年三月一九日、上告人に対し、破産法五九条一項により
本件会員契約を解除する旨の意思表示をした。
 二 原審は、次のように判断して、被上告人の右預託金の返還請求を認容すべき
ものとした。
 本件会員契約の法律関係は、前記一3の権利義務を包括する債権的契約関係であ
り、将来にわたって料金を支払ってゴルフ場等を利用していく継続的関係である。
そして、上告人が会員にゴルフ場等を利用させる義務と会員がこれを利用した場合
に利用料金を支払う義務とが対価的関係にあり、破産宣告当時、共にその履行が完
了していないものというべきである。したがって、被上告人は、破産法五九条一項
により本件会員契約を解除し、預託金の返還を求めることができる。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 前記事実関係によれば、上告人と本件ゴルフクラブの会員との間の契約関係は、
いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員契約であるということができる。右会員
契約は、会員となろうとする者が所定の預託金(会則等に定める一定の期間内はゴ
ルフクラブを退会しても返還請求をすることができない。)を払い込み、ゴルフ場
経営会社が将来に向かってゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、会則に従って
これを会員に利用させることをその主たる内容としているものである。そして、預
託金を支払って会員となった者は、ゴルフクラブの会員としての資格を有している
限り、会則に従ってゴルフ場施設を利用する権利を有し、これを利用した場合には
ゴルフ場施設利用料金の支払義務が発生する。
 しかし、【要旨】右の利用料金支払義務は、会員が実際に施設を利用しない限り
発生しないものであって、これを破産宣告時における会員の未履行債務ということ
はできないことは明らかであり、他に会員であるEに未履行の債務があることは記
録上うかがわれない。
 そうすると、本件会員契約は、預託金の支払とゴルフ場施設を利用させる義務と
が対価性を有する双務契約ではあるものの、上告人の債務は破産宣告時において未
履行であるといえるが、破産した会員であるEの側には未履行の債務がないという
べきである。したがって、被上告人は、破産法五九条一項により本件会員契約を解
除することができない。
 四 以上によれば、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法
は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れず、被上告人の請求は理由がないから、第一審判決を取り消した上、被上告人の
請求を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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