弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 上告人は、本訴において、昭和四三年八月一二日頃、関門商品取引所の取引員で
ある訴外D商事株式会社(以下「訴外会社」という。)の外務員をしていた被上告
人を介し、訴外会社に対し、小豆株一〇枚の買建玉を依頼し、証拠金四〇万円を差
し入れたところ、被上告人は、上告人の承諾がないのにそれがあつたように訴外会
社に報告し、同会社をして八回位にわたつて売又は買の取引をさせ、上告人に対し
右買建玉を同年九月五日の時点で売却することにより得べかりし利益金四九万四〇
〇〇円と証拠金四〇万円との合計に相当する金八九万四〇〇〇円の損害を被らせた
ものであると主張して、被上告人に対しその損害の賠償を求めたものである。
 これに対し、原審は、上告人主張のとおり訴外会社が上告人に無断で前記買建玉
を売却したものであるとすれば、右取引は、仮にそれが被上告人の虚偽の報告によ
つたものであるとしても、上告人の意思に基づかないものとして、上告人に対する
関係では効力を有せず、上告人としては右買建玉が依然として存在するものとして
訴外会社に対し取引ないし清算を請求し得べきものであり、訴外会社の一外務員で
ある被上告人に対し右買建玉の無断売却により前記損害を被つたとしてその賠償を
求めることは許されないから、上告人の本訴請求は主張自体失当であるとして、こ
れを排斥した。
 しかしながら、商品取引所の取引員は法律上の問屋であるから、同人が取引所に
おいて自己の名で売買取引をしたときは、委託者の指図に基づかない場合でも、取
引自体は法律上の効力を生じ、委託者は、取引員との関係でその取引による計算が
自己に帰属することを否認することはできるが、その取引自体を無効とすることは
できない。したがつて、取引員が、委託者の依頼に基づき商品の買建をした場合に、
委託者の指図に基づかないで右買建玉の反対売買をしたときは、買建玉は決済され、
取引員が委託者の指図に基づく買建玉の売却に応ずることのないかぎり、委託者と
しては、指図による右買建玉の反対売買により得べかりし利益を喪失し、これと同
額の損害を被ることがありうるのである。そして、取引員が委託者の指図に基づか
ないでした反対売買がその外務員の虚偽の報告に因り行われたものであるときは、
委託者としては右損害が外務員の不法行為に因り生じたものとして同人に対しその
賠償を請求することができるものといわなければならない。
 なお、委託者は前記損害を取引員の委託契約上の債務不履行に因るものとして取
引員に対しその賠償を請求することができることとなる場合もあるが、そうである
からといつて、委託者の外務員に対する不法行為に因る損害賠償請求権の発生が妨
げられるものではない。けだし、右請求権と委託者の取引員に対する債務不履行に
よる損害賠償請求権とはその請求原因事実を異にし、両者は競合して存在するもの
であることが、明らかであるからである。
 したがつて、以上と異なる見解のもとに上告人の本訴請求を主張自体失当である
として排斥した原判決は、法令の解釈適用を誤つたもので、その違法は原判決の結
論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由がある。
 よつて、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄し、さらに審理させるため本件
を原審に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄

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