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平成24年6月26日判決言渡
平成24年(ネ)第10001号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成22年(ワ)第39014号)
口頭弁論終結日平成24年4月26日
判決
控訴人株式会社HDT
訴訟代理人弁護士稲元富保
同丸山裕司
被控訴人更生会社株式会社ウィルコム管財人

被控訴人更生会社株式会社ウィルコム管財人

上記2名訴訟代理人弁護士片山英二
同原田崇史
上記2名訴訟代理人弁理士加藤志麻子
上記2名補佐人黒川恵
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原判決を次のとおり変更する。
2被控訴人らは,控訴人に対し,各自5000万円及びこれに対する平成22
年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要及び当事者の主張
1事案の概要
(以下,控訴人(原審原告)を「原告」と,被控訴人(原審被告)を「被告」と
いい,原審において用いられた略語は,当審においてもそのまま用いることとす
る。)
原告は,本件特許権の特許権者であるが,原審において,更生会社が被告製品を
販売する行為は主位的には本件特許権の直接侵害に,予備的には本件特許権の間接
侵害に当たると主張して,更生会社の管財人である被告らに対し,特許法100条
1項に基づいて被告製品の譲渡の差止めを,不法行為に基づいて損害賠償金として
各自1億円(1億0500万円の一部請求)及びこれに対する平成22年12月2
日からの遅延損害金の支払をそれぞれ求めて,訴えを提起した。
原審は,被告製品は本件発明2の技術的範囲にも本件発明5の技術的範囲にも属
さず,更生会社の行為は本件特許権の直接侵害行為には該当しない,さらに,更生
会社の行為につき間接侵害も成立しないとして,原告の請求をいずれも棄却した。
原告はこれを不服として,損害賠償金のうち被告らに対し各自5000万円及び
これに対する平成22年12月2日からの遅延損害金の支払を求める請求について,
控訴した。
2争いのない事実
原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」「1争いのない事実」
(原判決2頁12行目ないし6頁4行目)記載のとおりであるから,これを引用す
る。
3争点
(1)被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)均等侵害の成否(当審において追加された予備的主張)(争点2)
(3)間接侵害の成否(予備的主張)(争点3)
(4)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
(5)原告の損害(争点5)
4争点に関する当事者の主張
次のとおり当審における主張を追加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理
由」欄の「第2事案の概要」「3当事者の主張」(原判決6頁10行目ないし
18頁4行目)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決11頁13行目の「わけではない。」の後に,以下のとおり加える。
「本件発明2に係る特許請求の範囲の記載上も,「電話送受信ユニットをスロッ
ト内に収納したものを含まない」という否定的構成要件は,何ら記載されていな
い。」
(2)原判決11頁19行目の「なければならない。」の後に,以下のとおり加
える。
「さらに,本件発明2の構成要件Gには,「前記スロットに設けられ,前記電話
送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線,及び前
記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部」と記載されており,構成要
件BないしEの「スピーカー」「マイク」「操作部」「表示部」が「電話送受信ユ
ニット」側にないことを前提としているが,構成要件Aの「アンテナ」の入出力に
ついては何ら記載されていない。構成要件Gに構成要件Aの「アンテナ」の入出力
部について記載がない以上,アンテナがボディ(移動体通信端末本体)側にあるこ
とは必須ではなく,アンテナを持つ電話送受信ユニットがスロット内に収納される
ものを含む。また,本件発明2における移動体通信端末が,電話送受信ユニットが
スロット内に収納されておらず,移動体通信も行うことができないものに限定され
るとするのは,本件発明の目的,効果にも反した解釈である。」
(3)原判決11頁22行目の「(イ)」の後に,以下のとおり加える。
「特許請求の範囲の請求項1の記載上,電話送受信ユニットが「アンテナ」を備
えていないという限定はされておらず,「アンテナ」を備える場合があることも予
定されている。また,上記のとおり,本件発明2の構成要件Gも,アンテナが移動
体通信端末本体側に備えられることを必須としておらず,アンテナが電話送受信ユ
ニット側に備えられる場合があることも予定されている。以上のとおり,本件発明
2の構成要件Aの「アンテナ」は,移動体通信端末本体に備えられるものに限定さ
れない。」
(4)原判決13頁1行目の「充足する。」の後に,改行して,以下のとおり加
える。
「(2)均等侵害の成否(予備的主張)(争点2)
(原告の主張)
被告製品は,被告端末本体に構成要件Aにおけるアンテナを備えていない点で本
件発明2と相違するが,被告端末本体に収納された本件モジュールにアンテナを備
えているので,以下のとおり,被告製品は,本件発明2の移動体通信端末と均等で
あり,本件発明2の技術的範囲に属する。
ア置換可能性
被告製品では,アンテナが電話送受信ユニット(本件モジュール)側にあり,被
告端末本体にはないが,本件モジュールを被告端末本体に装着するだけで,複数の
回線を契約することなく,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を実現するこ
とができる。アンテナを被告端末本体に備えることと,被告端末本体に装着される
本件モジュールに備えることとは,目的,作用効果において共通するから,置換可
能性がある。
イ置換容易性
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1,請求項2,及び段落【0019】には,
電話送受信ユニット側にアンテナを備える場合があることが示唆されており,被告
製品の製造時点において,本件モジュールにアンテナを備えることは,当業者が容
易に想到することができる。
ウ非本質的部分
本件発明の課題,目的,作用効果は,複数の回線を契約することなしに,時,場
所,場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット及び移動体通信
端末を提供することにある。複数の回線を契約することなしに移動体通信端末によ
る移動体通信を実現する上で,アンテナを電話送受信ユニットに備えるか,移動体
通信端末に備えるかは,いずれでもよい。
したがって,本件発明2において,アンテナを移動体通信端末に備えることは,
本件発明の課題解決のための手段を基礎付けるほどの技術的思想の中核的,特徴的
な部分ではない。
エ被告製品の推考容易性
被告製品は,本件特許の出願時における公知技術と同一又は公知技術から当業者
が出願当時に容易に推考することができたものではない。
オ意識的除外
本件特許の出願経過等に徴しても,アンテナが電話送受信ユニット側に備えられ
るものを意識的に除外していることはない。
(被告らの反論)
控訴審で,初めて,均等論を主張することは,時機に後れたものであり,控訴審
における審理対象にすべきではない。
のみならず,原告の均等侵害の主張は,以下のとおり,被告製品は非本質的部分
の要件を満たさず,意識的除外に当たるから,失当である。
ア非本質的部分
本件発明の解決すべき課題は,複数の回線を契約することなしに,時,場所,場
合に応じた快適な移動体通信を実現することである。本件発明は,「電話送受信ユ
ニット」と「移動体通信端末」とを別個の発明として別々の請求項に記載するとと
もに,「電話送受信ユニット」と「移動体通信端末」のそれぞれが有すべき構成を
振り分けて特定し,これを組み合わせることによって上記課題を解決したものであ
る。そうすると,本件発明2において,解決手段を基礎付けている構成部分は,
「移動体通信端末」側にアンテナ,スピーカ,マイク,操作部,表示部,スロット,
入出力部が備えられていることであると解すべきであり,アンテナが「移動体通信
端末」側に備えられる点は,本件発明2の本質的部分である。
平成11年9月17日付け拒絶理由通知に対する出願人の意見書(乙9。以下
「本件意見書」という。)によると,移動体通信端末自身が有しているデザインへ
の影響を最小限にとどめるため,「電話送受信ユニット」側ではなく,「移動体通
信端末」側にアンテナを設けたと解され,この点からも,アンテナを「移動体通信
端末」側に設けることは,本件発明の本質的部分に該当する。
イ意識的除外
アンテナを「電話送受信ユニット」又は「移動体通信端末」のいずれかに設ける
ことは,当業者において自明であるにもかかわらず,出願人は,特許請求の範囲に
おいて,「移動体通信端末」側にアンテナを設けると規定したのであるから,アン
テナを「電話送受信ユニット」側に設けることを意識的に除外したといえる。」
(5)原判決13頁2行目の「(2)間接侵害の成否(予備的主張)(争点2)」
を「(3)間接侵害の成否(予備的主張)(争点3)」と訂正する。
(6)原判決14頁17行目の「(3)本件特許は,特許無効審判により無効にさ
れるべきものか(争点3)」を「(4)本件特許は,特許無効審判により無効にさ
れるべきものか(争点4)」に訂正する。
(7)原判決17頁20行目の「(4)原告の損害(争点4)」を「(5)原告の
損害(争点5)」に訂正する。
(8)原判決18頁2行目の「請求権を有する。」を「請求権を有するから,本
件訴訟においては内金5000万円の支払を請求する。」に訂正する。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,本件控訴は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は,次
のとおり付加・訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に対
する判断」(原判決18頁5行目ないし26頁20行目)記載のとおりであるから,
これを引用する。
1原判決25頁3行目の「左右するものではない。」の後に,改行して,以下
のとおり加える。
「また,原告は,本件発明2に係る特許請求の範囲の記載上も,「電話送受信ユ
ニットをスロット内に収納したものを含まない」という否定的構成要件は,記載さ
れていないと主張する。しかし,前記のとおり,本件明細書の記載から,「電話送
受信ユニット」と「移動体通信端末」とは別個のものであると解される以上,本件
発明2に係る特許請求の範囲に「電話送受信ユニットをスロット内に収納したもの
を含まない」と記載されていないからといって,本件発明2における移動体通信端
末は電話送受信ユニットを装着したものを含むと解することはできない。」
2原判決25頁13行目の「左右するものではない。」の後に,改行して,以
下のとおり加える。
「さらに,原告は,本件発明2の構成要件Gにアンテナの入出力について記載が
ない以上,アンテナが移動体通信端末本体側にあることは必須ではなく,アンテナ
を持つ電話送受信ユニットがスロット内に収納されるものを含むと主張する。しか
し,前記のとおり,構成要件Aの記載から,移動体通信端末にアンテナを備えるこ
とが規定されていること,本件明細書の記載から,「電話送受信ユニット」と「移
動体通信端末」とは別個のものであると解されることに照らすならば,構成要件G
の記載から,アンテナを持つ電話送受信ユニットがスロット内に収納されていれば
移動体通信端末がアンテナを備えていることになると解することはできない。
また,原告は,本件発明2における移動体通信端末が移動体通信も行うことがで
きないものに限定されるとの解釈を前提とすると,本件発明の目的,効果を奏しな
いこととなるので,採用できないと主張する。しかし,本件発明2における移動体
通信端末は,それ自体では移動体通信を行うことができないとしても,電話送受信
ユニットを収納することにより移動体通信を行うことができるのであるから,本件
発明の目的,効果を奏しないものではない。」
3原判決25頁末行の「技術的範囲に属しない。」の後に,改行して,以下の
とおり加える。
「2争点2(均等侵害の成否)について
原告は,被告端末本体が構成要件Aにおけるアンテナを備えていないとしても,
被告製品は本件発明2の移動体通信端末と均等であると主張する。しかし,以下の
とおり,原告の主張は採用できない。
被告製品は,以下のとおり,出願手続において,本件発明2の移動体通信端末か
ら意識的に除外されたものに当たるというべきである。
すなわち,本件特許権の出願手続において,原告は,特許庁から,特許出願時の
特許請求の範囲の請求項1及び2が,引用文献である特開平9-149109号公
報(乙7)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ものであるとの拒絶理由通知を受けたのに対し,本件意見書において,上記引用文
献には,携帯電話機の無線通信機能部品を内蔵する基本部と,携帯電話機の電話機
能部品を内蔵する周辺部とが,分離可能に接続するように構成された携帯電話機ユ
ニットが開示されているが,基本部にはアンテナが設けられているため,周辺部へ
装着した際,基本部全体が収納されず,その一部(アンテナ)を外部に露出する必
要があるが,上記請求項に係る発明では,移動体通信端末のスロットに電話送受信
ユニット全体が装着されるような形状に形成されており,これにより,移動体通信
端末が有しているデザインへの影響を最小限に止めることができ,このような技術
思想は,引用文献には開示も示唆もされていないとの意見を述べた(乙9)。上記
出願手続過程に照らすならば,電話送受信ユニットにアンテナを設けるという構成
は,意識的に除外されていたと解するのが相当である。
したがって,被告製品が本件発明2の移動体通信端末と均等であるとは認められ
ない。」
4原判決26頁1行目の「2争点2(間接侵害の成否)について」を「3
争点3(間接侵害の成否)について」に訂正する。
5結論
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の損害
賠償請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治

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