弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告訴訟代理人は「特許庁が昭和四十四年八月十三日同庁昭和四二年審判第六、
四四六号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判
決を求め、被告指定代理人は本案前の申立として主文同旨の判決を求め、本案につ
き「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
二 請求の原因
原告訴訟代理人は、本案前の主張並びに本案の請求の原因として、次のとおり述べ
た。
(審決の成立―特許庁における手続)
一 原告は、名称を「シールド工法用セグメント」とする考案につき、昭和四十年
二月十七日特許庁に実用新案登録の出願をし、昭和四十二年七月十四日拒絶査定を
受けたので、これを不服として同年九月七日審判の請求(同庁昭和四二年第六、四
四六号事件)をしたが、昭和四十三年一月十日その登録を受ける権利の一部を極東
鋼弦コンクリート振興株式会社(以下、極東鋼弦コンクリートと略記する。)に譲
渡し、同月十二日被告にその旨の届出をして極東鋼弦コンクリートと共同の出願人
となつた。そして、特許庁は右出願につき、同年九月二十四日出願公告をした(な
お、これに対し、三和鋼器株式会社ほか二名から特許異議の申立があつた。)が、
昭和四十四年八月十三日原告及び極東鋼弦コンクリートを名宛人として、拒絶査定
に対する審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年十二月十六日原
告に送達された。
(考案の要旨)
二 本願考案の要旨は次のとおりであつて、右審決もその理由中においてこれを認
めている。
 円弧状コンクリート主片1の円周方向両端面及び母線方向両端面にそれぞれ円周
方向端面と幅方向内周面ならびに母線方向端面と幅方向内周面に開口する空窩3・
3´を設けることともに前記各空窩3・3´のそれぞれ主体1の円周方向端面側及
び母線方向端面側を掩覆する接手鋼板2・2´を前記主体1に一体に定着し、同各
接手鋼板2・2´にはそれぞれボルト孔4を設けたことを特徴とするシールド工法
用セグメント。(別紙別面参照)。
(審決の理由)
三 そして、右審決は次のように要約される理由を示している。
 本願出願前公知の刊行物である「Beton-und Stah Ibeton
bau」(コンクリート及び鉄筋コンクリート構造)一九六四年二月号(以下、
「引用例」という。)の第三十九頁第十図には、トンネル用鉄筋コンクリートブロ
ツク覆工のセグメントにおいて、主体部の母線方向両端面に該端面と幅方向内周面
に開口する凹所を設けるとともに該端面側を覆う接手鋼板を主体部に一体に定着
し、該接手鋼板にはそれぞれボルト孔を設け、セグメントを母線方向にボルト連結
するようにしたものが記載され、また、同頁第十一図には同種セグメントにおい
て、主体部の幅方向内周面に母線方向両端面並びに円周方向両端面にそれぞれ近く
凹所を設けるとともに該端面と該凹所の間のコンクリート部分にボルト孔を設け、
セグメントを母線方向のみならず円周方向にもボルト連結するようにしたものが記
載されているから、本願考案は右第十図に記載のものにおいてその母線方向の接手
を円周方向にも設けたものに相当するところ、そのような構成には、右第十一図に
記載のものが存在する以上、進歩性を認めることはできない。よつて、本願考案は
引用例の記載に基づいて当業技術者が極めて容易に考案をすることができたものと
いうべく、実用新案法第三条第二項の規定により登録を受けることができない。
(審決の取消事由)
四 右審決の認定のうち、本願出願前から公知の引用例に審決認定の記載があるこ
と、本願考案と引用例のものとの間に審決認定の一致点があることは事実である
が、本願考案は、引用例の記載から当業技術者において極めて容易に考案をするこ
とができるものではない。したがつて、その登録を受けられないとした審決は違法
として取消されるべきである。
(本案前の主張)
五 本訴の提起は次の理由により適法というべきである。
(一) 本訴のように実用新案につき登録を受ける権利の共有者が拒絶査定不服の
審判の共同当事者として審決の取消を求める訴訟は、その全員に対し合一にのみ確
定すべきものであることを理由に、その全員が共同して提起することを要し、その
うち一人だけが提起したのでは不適法であるとする見解に従えば、共有権利者の一
人でも共同の訴提起から脱落した場合には、他の共有権利者は自己の権利を防衛す
る手段を失うことになり、何人にも裁判を受ける権利を保障した憲法第三十二条の
規定に牴触する結果が生じる。したがつて、共有権利者の一人によつて提起された
この種の訴は、それが固有必要的共同訴訟であるからといつて、不適法と帰すべき
ものではない。
 また、右のような訴訟を共有権利者の一人が提起する行為は権利の保存行為とみ
るべきであるから、共有者の一人が提起する共有物保存の訴と同様、適法というべ
きである。
(二) 加えて、極東鋼弦コンクリートは、審決後の昭和四十四年十月一日本願考
案につき登録を受ける権利の持分を原告に譲渡し、昭和四十五年三月十二日その旨
を被告に届出で、これによつて、右持分の譲渡が効力を生じ、原告は本願考案につ
き登録を受ける権利の唯一の権利者となつたから、本件審決の取消を求める本訴に
つき単独で原告適格を有するものである。
第三 被告の主張
被告指定代理人は本案前の抗弁及び本案の答弁として次のとおり述べた。
(本案前の抗弁)
一 本願考案についてなされた登録出願は原告と極東鋼弦コンクリートとの共同出
願にかかるものであり、その拒絶査定に対する審判請求についてなされた本件審決
は右両名を名宛人とするものである。したがつて、右審決の取消を求める訴は右両
名が共同して提起すべきものであるところ、本訴は、原告が単独で提起したもので
あるから、当事者適格を缺き、不適法として却下されるべきである。
 なお、極東鋼弦コンクリートが本願考案につき登録を受ける権利の持分を原告に
譲渡し、その旨を被告に届出で、これによつて右持分譲渡の効力が生じたという原
告の主張事実は認めるが、それは右審決に対する出訴期間経過後のことに属するか
ら、右権利譲渡により本訴提起の不適法な瑕疵が治癒されるいわれはない。
(本案の答弁)
二 前掲請求の原因事実中、本願考案につき、出願から審決の成立、その謄本送達
にいたるまでの特許庁における手続、その間における登録を受ける権利の極東鋼弦
コンクリートに対する一部譲渡、考案の要旨及び審決の理由に関する事実は認め
る。しかし、右審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
まず、本案前の抗弁について考える。
 本願考案につき、原告が単独で実用新案登録の出願をし、拒絶査定を受けたの
で、これを不服として審判の請求をしたが、その登録を受ける権利の一部を極東鋼
弦コンクリートに譲渡し、被告にその旨の届出をして原告と極東鋼弦コンクリート
とが共同出願人となり、特許庁が、そのため右両名を名宛人として、拒絶査定を不
服とする審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことは当事者間に争いがない。
 思うに、実用新案法第四十一条、特許法第百三十二条第三項によれば、実用新案
の登録を受ける権利の共有者がその権利について審判を請求するには、その全員が
共同してしなければならないと定められているが、それは、この種審判が、共有者
に単独で処分する権能のない権利の存在を主張してなされる請求の当否を対象とす
るものであるため、その全員について合一のみ確定すべき要請に基づくものと解さ
れ、民事訴訟法にいう固有必要的共同訴訟に相当する。そして、実用新案法第四十
七条第二項、特許法第百七十八条第二項の規定によれば、審決に対する訴は審決の
当事者において提起することができるが、実用新案の登録を受ける共有の権利に関
する審決の取消訴訟は、その審決と同様の意味において、その権利の共有者全員に
ついて合一にのみ確定すべき要請を受けるから、固有必要的共同訴訟というべきで
あつて、審決の当事者であつた、又は当事者たるべき、その共有者全員が共同して
これを提起することを要するものと解さなければならない。
 したがつて、本訴は、本来、本件審決の共同当事者たる本件原告及び極東鋼弦コ
ンクリートが共同して提起すべきものであつたのに、原告が単独で提起したもので
あるから、当事者適格を缺くものというべきである。そして、右審決の謄本が昭和
四十四年十二月十六日原告に送達されたことは当事者間に争いがないから、右審決
に対する出訴期間は昭和四十五年一月十六日をもつて満了したというべきところ、
右期間内に極東鋼弦コンクリートから右審決の取消を求める訴の提起又は共同訴訟
参加の申出がなかつたことは裁判所に顕著であるから、本訴における当事者適格の
欠缺は補正するに由がないものといわざるをえない。
 原告は、この種の訴訟においては、当事者適格につき右説示の見解を採ると、共
有権利者の一人でも共同の訴提起から脱落した場合には、他の共有権利者は自己の
権利を防衛する手段を失うとし、それでは、何人にも裁判を受ける権利を保障した
憲法第三十二条の規定に牴触するから、共有権利者の一人による訴の提起も不適法
と解すべきではない旨を主張し、いかにも、本訴のような審決取消訴訟を固有必要
的共同訴訟であると解する限り、原告がいうように、共有権利者の一人でも行動を
共にしないときは、他の共有権利者は審決取消の訴を提起することができないこと
となるが、そのような結果は、審決取消訴訟に限らず、固有必要的共同訴訟という
訴訟形態をとる訴訟一般に避けられないところであると同時に、さような訴訟形態
を認むべき法的要請がある以上、やむをえないものといわざるをえない。そして、
固有必要的共同訴訟において、当事者たるべき全員による訴提起でないため当事者
適格を缺く場合、訴が不適法として排斥されるのは、当然であつて、裁判の拒否に
はならないと解されるから、何人にも裁判を受ける権利を保障した憲法第三十二条
の規定に牴触するものということができない。
 また、原告は本訴を共有権者の一人たる原告が提起した行為は権利の保存行為と
みるべきであつて、共有者の一人が提起する共有物保存の訴と同様、適法である旨
を主張するが、その主張のように、実用新案について登録を受ける権利が共有にか
かる出願の拒絶査定に対する不服審判の審決取消訴訟を、共有物保存の訴と同様、
共有者が単独で提起することができるものとすれば、右取消訴訟が前示のように固
有必要的共同訴訟として共有権利者全員について合一にのみ確定さるべき要請に背
馳する結果が生じるのを避け難いから、右主張の見解に左袒することはできない。
 次に、極東鋼弦コンクリートが昭和四十四年十月一日本願考案につき登録を受け
る権利の持分を原告に譲渡し、昭和四十五年三月十二日その旨を被告に届出たこと
は当事者間に争いがないから、これにより、右持分譲渡の効力が生じ、原告は右権
利につき唯一の権利者となつたものというべきである。そこで、原告は本訴につき
単独で当事者適格を有する旨を主張するが、右譲渡の効力が生じたのは本件審決に
対する出訴期間が満了した後のことに属するから、右権利が原告独りに帰属するに
至つたからといつて、本訴が遡つて適法とされる理由はない。
 よつて、本件訴を不適法として却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき行政
事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 駒田駿太郎 橋本攻 秋吉稔弘)
別紙
<11980-001>

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