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平成18年(行ケ)第10161号審決取消請求事件
平成19年3月26日判決言渡,平成19年3月12日口頭弁論終結
判決
原告株式会社三共
訴訟代理人弁理士深見久郎
同森田俊雄
同塚本豊
同中田雅彦
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人川島陵司
同中村和夫
同立川功
同大場義則
同辻野安人
同篠崎正
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2002−14914号事件について平成18年2月28日に
した審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成3年10月31日,発明の名称を「遊技機」とする発明につい
て特許出願(特願平3−286597号,以下「本件出願」という。)したが,
平成14年6月24日付けで拒絶査定を受けたので,同年8月7日,拒絶査定
に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2002−14914号事件として審理し,平成18
年2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄
本は,同年3月14日,原告に送達された。
2平成14年5月15日付け及び平成17年12月8日付け手続補正書により
補正された明細書(甲5,8,9,以下「本件明細書」という。)の特許請求
の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
【請求項1】複数種類の識別情報を可変表示可能な複数の可変表示部を単一
の表示画面に表示する可変表示装置が設けられ,該可変表示装置の表示結果が
予め定められた特定の識別情報の組合せになった場合に遊技者にとって有利な
遊技状態に制御可能となる遊技機であって,
前記表示結果を前記特定の識別情報の組合せにするか否かと,前記複数の可
変表示部が可変開始した後前記表示結果が確定する以前の段階で前記複数の可
変表示部のうちの一部の可変表示部の表示態様が前記特定の識別情報の組合せ
の成立条件を満たすリーチ状態を発生させるか否かとを決定し,決定結果をコ
マンドデータとして送信する遊技制御手段と,
該遊技制御手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづい
て,前記複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域において可変開始さ
せてすべての可変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時期を異
ならせて各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを
備え,
該可変表示制御手段は,前記遊技制御手段から前記リーチ状態を発生させる
旨のコマンドデータを受信したときに,前記リーチ状態発生時における可変表
示中の可変表示部の表示領域を,前記成立条件を満たしている可変表示部の可
変開始当初の表示領域にまで拡大させて可変表示中の識別情報を拡大表示する
表示制御を行う拡大表示制御手段を含むことを特徴とする,遊技機。
3審決の理由
()審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,特開平3−7181
4号公報(甲1,平成3年1月14日公開,以下「引用刊行物1」とい
う。)に記載された発明(以下「引用刊行物1発明」ともいう。)及び周知
・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
()審決が認定した引用刊行物1発明は,次のとおりである。2
10種類の表示図柄を変動表示可能な左デジタルAと15種類の表示図柄
を変動表示可能な中,右デジタルB,Cとを備えたデジタル34が設けられ,
該デジタル34の停止図柄が全て同一である大当たりの組み合わせとなれば
変動入賞装置5のアタッカが開かれ特別遊技が行われるパチンコ機であって,
主乱数RANDOMにより大当たりかどうかを決定し,
前記左,中,右デジタルA,B,Cをそれぞれ13個の棒状セグメント発
光素子38a∼38mにおいて上方から下方へ変動表示を始めた後,停止時
期を異ならせて左,中,右デジタルA,B,Cの変動表示を停止制御する制
御装置78を備え,
該制御装置78は,前記左,中,右デジタルA,B,Cが変動表示を始め
た後左,中,右デジタルA,B,Cの全てが停止する以前の段階で左,右デ
ジタルA,Cの停止図柄が同一の場合に,左,右デジタルA,Cの停止図柄
が大きい図柄に切り換えられることを含む,大当たりが発生するかどうかの
大きな期待感が得られるパチンコ機。
()審決が認定した,本願発明と引用刊行物1発明の一致点及び相違点は,そ3
れぞれ次のとおりである。
ア一致点
複数種類の識別情報を可変表示可能な複数の可変表示部を備えた可変表
示装置が設けられ,該可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の識
別情報の組合せになった場合に遊技者にとって有利な遊技状態に制御可能
となる遊技機であって,
前記表示結果を前記特定の識別情報の組合せにするか否かを決定し,
前記複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域において可変開始
させてすべての可変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時
期を異ならせて各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制
御手段を備え,
該可変表示制御手段は,前記複数の可変表示部が可変開始した後前記表
示結果が確定する以前の段階で前記複数の可変表示部のうちの一部の可変
表示部の表示態様が前記特定の識別情報の組合せの成立条件を満たすリー
チ状態発生時に,リーチ演出を行うことを含む,遊技機。
イ相違点
(ア)相違点1
可変表示装置が,本願発明では複数の可変表示部を単一の表示画面に
表示するものであるのに対し,引用刊行物1に記載された発明ではその
ような構成を有するかどうか明らかでない点。
(イ)相違点2
本願発明では,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かと,
リーチ状態を発生させるか否かとを決定し,決定結果をコマンドデータ
として送信する遊技制御手段と,該遊技制御手段からのコマンドデータ
を受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可変表示動作
を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えるのに対し,引用刊行物1
に記載された発明ではそのような構成を有するかどうか明らかでない点。
(ウ)相違点3
リーチ演出が,本願発明では,可変表示中の可変表示部の表示領域を,
特定の識別情報の組合せの成立条件を満たしている可変表示部の可変開
始当初の表示領域にまで拡大させて可変表示中の識別情報を拡大表示す
る表示制御を行う拡大表示制御手段を含む可変表示制御手段により行わ
れるのに対し,引用刊行物1に記載された発明では識別情報を拡大させ
る点。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,相違点3の認定を誤り(取消事由1),相違点3についての進歩性
判断を誤り(取消事由2),引用刊行物1発明の認定を誤り(取消事由3),
相違点2の認定を誤り(取消事由4),相違点2に関する周知・慣用技術の認
定を誤り(取消事由5),相違点2についての進歩性判断を誤り(取消事由
6),その結果,本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたもので
あるとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから取り消されるべきで
ある。
1取消事由1(相違点3の認定の誤り)
(1)審決は,本願発明と引用刊行物1発明の相違点3として,「リーチ演出が,
本願発明では,可変表示中の可変表示部の表示領域を,特定の識別情報の組
合せの成立条件を満たしている可変表示部の可変開始当初の表示領域にまで
拡大させて可変表示中の識別情報を拡大表示する表示制御を行う拡大表示制
御手段を含む可変表示制御手段により行われるのに対し,引用刊行物1に記
載された発明では識別情報を拡大させる点。」(審決謄本9頁最終段落)を
認定したが,誤りである。
(2)引用刊行物1の記載に照らせば,相違点3に係る引用刊行物1発明の構成
は,「可変表示を終えて停止している(既に特定の識別情報の組合せの成立
条件を満たしている)識別情報の表示領域を,特定の識別情報の組合せの成
立条件を満たしている可変表示部の可変開始当初の表示領域にまで及ぶこと
なく当該可変表示を終えて停止している識別情報の表示領域の範囲内で拡大
させて,可変表示を終えて停止している識別情報を拡大させる点。」である。
すなわち,引用刊行物1発明において,リーチ状態が成立したときに大き
い図柄に切り換えられるものは停止図柄であり,その拡大表示対象は停止図
柄である。また,引用刊行物1発明において,拡大表示態様は,特定の識別
情報の組合せの成立条件を満たしている可変表示部の可変開始当初の表示領
域にまで及ぶことがない。
審決は,引用刊行物1発明について,単に「識別情報を拡大させる」との
み認定し,①引用刊行物1発明の拡大表示対象が可変表示を終えて停止して
いる識別情報である点,及び,②引用刊行物1発明の拡大表示対象領域が特
定の識別情報の組合せの成立条件を満たしている可変表示部の可変開始当初
の表示領域にまで拡大されるものでないという拡大表示態様の点について,
本願発明との相違点を看過して,相違点3を誤って認定した。
そして,上記相違点において,本願発明と引用刊行物1発明は異なってお
り,特開昭60−203086号公報(甲2,以下「引用刊行物2」とい
う。)及び特開昭62−209985号公報(甲3,以下「引用刊行物3」
という。)に記載された技術も,上記相違点に係る構成において本願発明と
異なっているから,引用刊行物1発明に引用刊行物2及び3に記載された技
術を適用しても,本願発明の構成に想到することはできず,上記認定の誤り
が審決の結論に影響することは明らかである。
2取消事由2(相違点3についての進歩性判断の誤り)
(1)審決は,相違点3について,「複数個の表示領域を備え,注目すべき表示
領域を他の表示領域にまで拡大して表示内容を見やすくすることは,例えば,
上記の引用刊行物2及び3に記載されたように,周知・慣用の技術である。
そこで,引用刊行物1に記載された発明をみると,リーチ状態発生時に可変
表示中の可変表示部に遊技者が注目することは明らかであるから,当該可変
表示中の可変表示部に対し,遊技者が注目することで共通している上記の周
知・慣用の技術を適用し,相違点3に係る構成とすることは,本願発明及び
引用刊行物1に記載された発明並びに上記の周知・慣用の技術が,拡大表示
する画像表示手段において共通しているので,当業者であれば容易になし得
ることである。」(審決謄本10頁第5段落)と判断したが,誤りである。
(2)引用刊行物1発明及び本願発明と,引用刊行物2及び3に記載された技術
では,そもそも,その技術分野,背景技術が著しく相違する。前者が遊技機
の技術分野に属するのに対して,後者はテレビ会議システムの技術分野に属
するものであり,極めて隔たった分野に関する技術であり,技術分野に何ら
関連性がない。
また,引用刊行物1発明は,遊技機という単体の装置それ自体からなる発
明であるのに対して,引用刊行物2及び3に記載された技術は,テレビカメ
ラ,マイク,表示機,送受信機,その他の複数の装置からなるシステムであ
る。しかも,そのシステムは,遠隔の複数拠点の各々に配置された上記複数
の装置を伝送路で接続してなるものであり,引用刊行物1発明と,引用刊行
物2及び3に記載された技術では,装置の構成の点においても全く異なって
いる。
さらに,引用刊行物1発明の表示対象は,あらかじめ定められた図柄であ
るのに対して,引用刊行物2及び3に記載された技術の表示対象は,テレビ
カメラによって撮影される会議出席者であり,両者は表示対象の点において
も大きく相違する。
そして,引用刊行物1発明においては,表示対象である図柄に関して,拡
大表示をする箇所(左,中,右のいずれか),拡大表示を開始・終了するタ
イミング,最終的に停止させる図柄の種類などがパチンコ機自体によってあ
らかじめ定められている。これに対し,引用刊行物2及び3に記載された技
術では,発言者をシステム自体があらかじめ定めるものではないため,発言
者の変更に応じて表示領域のサイズ変更をする箇所及びそのサイズ変更を開
始・終了するタイミングが様々に変化する。
一般的に,技術の転用において,転用前の技術の背景・前提などがいわゆ
る当業者の頭に残り,しがらみとなり,一体的転用に作用することが多いこ
とは,経験則が示すとおりである。
被告は,審決が認定した周知・慣用技術を引用刊行物1発明に適用する際
の阻害事由が存在しないことの理由として,引用刊行物1発明も拡大縮小等
の表示変更を行っていることを主張しているが,そもそも「注目すべき表示
領域を他の表示領域にまで拡大して表示内容を見やすくする,拡大画像表示
手段」が周知・慣用技術であるとの認定が誤りであるから,理由がない。ま
た,引用刊行物1発明の拡大縮小等の表示変更手法は,停止している図柄を
その図柄表示領域の範囲内で上下方向に伸張するにすぎず,表示対象をその
当初の表示領域を越えて拡大するものではない。
上記に照らせば,引用刊行物1発明及び本願発明の遊技機の技術分野とは
極めて隔たった分野に係る引用刊行物2及び3に記載された技術は,遊技機
の技術分野において,注目すべき表示領域を他の表示領域にまで拡大して表
示内容を見やすくする拡大画像表示手段が周知・慣用技術であると認定する
のに,適性があるとはいえない。
(3)引用刊行物1発明は,「可変表示装置において,リーチが成立したときに,
リーチを成立させる予め定められた左,右デジタルの同一停止図柄を大きい
図柄に切り換える」のに対し,引用刊行物2及び3に記載されたテレビ会議
システムの技術においては,「複数の会議出席者の中で発言者がランダムに
変化する状況において,発言者を認識し,当該認識した発言者の領域を拡大
する」のであり,両者は,「拡大表示する」という構成において一致してい
るものの,技術分野,背景技術等が極めて異なっているだけでなく,技術的
思想も異なっている。
すなわち,引用刊行物2及び3に記載された技術的思想は,「会議出席者
は発言者に注目する」という経験則に着目し,会議出席者中の発言者を識別
してその発言者を拡大表示するものである。一方,引用刊行物1発明は遊技
機の技術分野の発明であるため,立脚している経験則は,「会議出席者は発
言者に注目する」というものとは,全く異なるものである。
そうすると,引用刊行物2及び3に記載されたテレビ会議システムの技術
事項を引用刊行物1発明に適用できるレベルまで上位概念的に抽象化して,
これを引用刊行物1発明に適用することが容易であるというためには,それ
なりの動機付けを必要とするものであり,例えば,「リーチ状態」と「会議
出席者の発言中の状態」とが同一視できる何らかの共通概念の存在や,「会
議出席者中の発言者」から,「リーチ状態成立以降の可変表示中の中デジタ
ルの図柄」を連想させる何らかの特殊事情等の動機付けが必要であるが,引
用刊行物1発明に引用刊行物2及び3から抽出される技術を組み合わせて相
違点3に係る本願発明の構成に導くような動機付けを見いだすことはできな
い。
したがって,引用刊行物1発明と,引用刊行物2及び3から抽出される技
術とでは課題解決のための技術的思想を全く異にしており,双方を結び付け
る動機付けは見当たらない。
(4)仮に,引用刊行物2及び3に記載された技術を引用刊行物1発明に適用し
たとしても,相違点3に係る本願発明の構成に想到することはない。
引用刊行物2及び3に記載されたテレビ会議システムの技術的思想は,
「複数の会議出席者の中で発言者がランダムに変化する状況において,発言
者を認識し,当該認識した発言者の領域を拡大する」ということであり,
「拡大表示」をする契機は,「発言者の認識」である。
これに対し,引用刊行物1発明の技術的思想は,「可変表示装置において,
リーチが成立したときに,リーチを成立させる予め定められた左,右デジタ
ルの同一停止図柄を大きい図柄に切り換える」ということであり,「拡大表
示」をする契機は,「リーチ状態の成立」である。
ここで,「リーチ状態の成立」は,左中右デジタルが可変開始した後,左,
右デジタルの図柄がその順で停止した時に,その停止した左,右デジタルの
図柄が同一であるか否かによって認識されるものである。すなわち,引用刊
行物1発明において,「リーチ状態の成立」は,左右の停止図柄によって認
識されるものである。
したがって,「発言者を認識し,当該認識した発言者の領域を拡大する」
という技術的思想を,引用刊行物1発明に無理に適用したとしても,「リー
チ状態を成立させる左,右デジタルの停止図柄を認識し,その停止図柄を拡
大する」という技術にしか至らず,本願発明の構成に想到することはできな
い。
また,仮に,引用刊行物1発明において,「発言者」に対応するものが
「停止図柄」ではなく「可変表示中の図柄」であるとしても,「発言者を認
識し,当該認識した発言者の領域を拡大する」という技術的思想を引用刊行
物1発明に適用すると,「左,中,右の全図柄が変動開始されると同時にそ
れら全図柄を拡大表示し,各図柄が順次停止する際に,その停止図柄を元の
大きさに復帰表示するもの」となり,本願発明とはかけ離れた技術にしかな
らず,相違点3に係る本願発明の構成である「可変表示中の識別情報を拡大
表示する」という構成を想到することはできない。
(5)審決は,相違点3の判断において,「リーチ状態発生時に可変表示中の可
変表示部に遊技者が注目することは明らかであるから・・・遊技者が注目す
ることで共通している上記の周知・慣用技術を適用し,相違点3に係る構成
とすることは・・・当業者であれば容易になし得ることである。」(審決謄
本10頁第5段落)としている。
しかし,引用刊行物2及び3には,遊技者に関する事項は一切記載されて
いないのであるから,審決の「遊技者が注目することで共通している上記の
周知・慣用技術」との認定は誤りである。
また,審決は,上記のとおり,「拡大表示」という技術と「注目」という
事項とを技術思想的に密接に関連づけている。
しかし,引用刊行物1発明は,それ自体でリーチ状態成立時の停止図柄を
「拡大表示」する技術を備えているため,引用刊行物1発明においては,
「拡大表示」される停止図柄自体が「注目」される映像領域に対応するもの
となる。このため,審決のように,「注目すべき表示領域を他の表示領域に
まで拡大して表示内容をみやすくする」という引用刊行物2及び3に記載の
拡大表示技術を引用刊行物1発明に適用しようとしても,引用刊行物1発明
において「注目」される映像領域に対応する停止図柄が既に「拡大表示」さ
れている以上,引用刊行物2及び3に記載の拡大表示技術を引用刊行物1発
明に適用できる余地がない。
さらに,引用刊行物1発明について,「リーチ状態発生時に可変表示中の
可変表示部に遊技者が注目することは明らか」とする審決の認定は,引用刊
行物1発明において,注目されるのはリーチ状態中に可変表示している図柄
であるということと同義である。そして,このことは,引用刊行物1発明に
おいて,拡大表示されている停止図柄は,注目される対象ではないというこ
とを認定したことに等しい。しかし,それでは,「拡大表示」と「注目」さ
れる映像領域とについて技術思想的に密接な関連があることを前提として引
用刊行物2及び3に記載の技術を認定した審決の判断と矛盾することになる。
(6)審決は,「本願発明による効果も格別のものは認められない。」(審決第
10頁第7段落)と判断するが,誤りである。
本願発明は,リーチ成立時の可変表示中の可変表示部の表示領域を拡大表
示するため,リーチ状態成立後に最終停止される識別情報の可変表示が見た
目に大きく迫力のあるものとなり,単に可変表示の見やすさという観点以外
に,引用刊行物2及び3に記載の技術からは到底奏されることのない,「迫
力のある可変表示で最終的に特定の識別情報の組合せがそろうか否かの期待
感を高めることが可能となる」という特有の効果を奏する。
これに対して,引用刊行物1発明は,リーチ状態発生時に,既に停止した
図柄を拡大表示するものの,変動中の図柄を拡大表示するものではなく,引
用刊行物2及び3に記載の技術においても,可変表示の見やすさという以上
に上記の効果を奏することはなく,本願発明の上記効果が当業者の予測の範
囲内であるということはできない。
3取消事由3(引用刊行物1発明の認定の誤り)
(1)審決は,引用刊行物1に,「10種類の表示図柄を変動表示可能な左デジ
タルAと15種類の表示図柄を変動表示可能な中,右デジタルB,Cとを備
えたデジタル34が設けられ,該デジタル34の停止図柄が全て同一である
大当たりの組み合わせとなれば変動入賞装置5のアタッカが開かれ特別遊技
が行われるパチンコ機であって,主乱数RANDOMにより大当たりかどう
かを決定し,前記左,中,右デジタルA,B,Cをそれぞれ13個の棒状セ
グメント発光素子38a∼38mにおいて上方から下方へ変動表示を始めた
後,停止時期を異ならせて左,中,右デジタルA,B,Cの変動表示を停止
制御する制御装置78を備え,該制御装置78は,前記左,中,右デジタル
A,B,Cが変動表示を始めた後左,中,右デジタルA,B,Cの全てが停
止する以前の段階で左,右デジタルA,Cの停止図柄が同一の場合に,左,
右デジタルA,Cの停止図柄が大きい図柄に切り換えられることを含む,大
当たりが発生するかどうかの大きな期待感が得られるパチンコ機。」(審決
謄本4頁最終段落∼5頁第1段落)の発明が記載されているとしたが,誤り
である。
(2)引用刊行物1の記載に基づけば,引用刊行物1発明では,左,中,右デジ
タルA,B,Cのそれぞれの図柄が変動表示を始めてから所定時間経過後に
ランダム時間αが決定され,さらに,その決定に基づくα時間が経過した後
に,大当たりかどうかの決定が行われている。
したがって,審決は,引用刊行物1発明として,「10種類の表示図柄を
・・・パチンコ機であって,主乱数RANDOMにより大当たりかどうかを
決定し,前記左,中,右デジタルA,B,Cをそれぞれ13個の棒状セグメ
ント発光素子38a∼38mにおいて上方から下方へ変動表示を始めた後,
停止時期を異ならせて左,中,右デジタルA,B,Cの変動表示を停止制御
する制御装置78を備え,前記大当たりかどうかの決定は,前記変動表示を
始めてから所定時間経過後にランダム時間αが決定され,さらにその決定に
基づくα時間が経過した後に行われるものであり,該制御装置78は・・
・」と認定すべきであり,「前記大当たりかどうかの決定は,前記変動表示
を始めてから所定時間経過後にランダム時間αが決定され,さらにその決定
に基づくα時間が経過した後に行われるものであり」との部分を看過した点
において,引用刊行物1発明の認定を誤った。
本願発明は,可変表示部を可変開始させる前に,表示結果を決定してその
決定結果をコマンドデータとして送信しているものであり,引用刊行物1発
明の認定をするに当たっては,大当たりにするか否かを決定するタイミング
と可変表示を開始するタイミングとの関係を考慮することが重要である。
そして,審決は,上記のとおり,引用刊行物1発明の認定を誤り,本願発
明と引用刊行物1発明の相違点2の認定を誤ったため,看過した点について
容易想到性の判断が欠落し,その判断を誤った。
4取消事由4(相違点2の認定の誤り)
(1)審決は,本願発明と引用刊行物1発明の相違点2として,「本願発明では,
表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かと,リーチ状態を発生させ
るか否かとを決定し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技制御手
段と,該遊技制御手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデータにも
とづいて,各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段
とを備えるのに対し,引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を
有するかどうか明らかでない点。」(審決謄本9頁第4段落)を認定したが,
誤りである。
(2)上記認定のうち,本願発明の構成に関する「コマンドデータにもとづいて,
各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段」について
は,「該コマンドデータにもとづいて,前記複数の可変表示部を各々所定の
大きさの表示領域において可変開始させてすべての可変表示部が可変表示し
ている状態に制御した後,停止時期を異ならせて各可変表示部の可変表示動
作を停止制御可能な可変表示制御手段」とすべきであり,審決の相違点2の
認定は,「前記複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域において可
変開始させてすべての可変表示部が可変表示している状態に制御した後,停
止時期を異ならせて」との部分を看過した点で誤っている。
この点について,審決が,「遊技機の可変表示制御手段が,『すべての可
変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時期を異ならせて各可
変表示部の可変表示動作を停止制御』するよう構成されていることは,当業
者の技術常識からみて明らかな事項である。」(審決謄本8頁最終段落)と
していることからすると,審決は,このような認定判断の結果,相違点2の
認定を行ったとも推測される。
しかし,審決は,「前記複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域
において可変開始させてすべての可変表示部が可変表示している状態に制御
した後,停止時期を異ならせて」との部分を看過したことにより,本願発明
と引用刊行物1発明との重要な相違点を看過した。
すなわち,本願発明は,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否か
の決定後に,その決定結果がコマンドデータとして送信され,そのコマンド
データに基づいて複数の可変表示部が可変開始している。具体的には,本願
発明は,遊技制御手段が「前記表示結果を前記特定の識別情報の組合せにす
るか否かと,前記複数の可変表示部が可変開始した後前記表示結果が確定す
る以前の段階で前記複数の可変表示部のうちの一部の可変表示部の表示態様
が同一となって前記特定の識別情報の組合せの成立条件を満たすリーチ状態
を発生させるか否かとを決定し,その決定結果をコマンドデータとして送
信」し,可変表示制御手段は,そのコマンドデータを受信し該コマンドデー
タに基づいて,複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域において可
変開始させるものである。したがって,本願発明は,表示結果を特定の識別
情報の組合せにするか否かが,可変開始前に決定されて,可変開始前に遊技
制御手段によって決定された決定結果を示すコマンドデータが送信されてい
る。
これに対し,引用刊行物1発明は,「前記大当りかどうかの決定は,前記
変動表示を始めてから所定時間経過後にランダム時間αが決定され,さらに
その決定に基づくα時間が経過した後に行われる」のであり,「可変表示制
御手段が可変開始させる前に遊技制御手段によって決定された決定結果」を
示すコマンドデータが可変表示制御手段に送信される余地はない。
仮に,審決の認定のように,遊技機の可変表示制御手段が,「すべての可
変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時期を異ならせて各可
変表示部の可変表示動作を停止制御」するよう構成されていることが当業者
の技術常識からみて明らかな事項であるとしても,「遊技制御手段の決定結
果をコマンドデータとして前記複数の可変表示部の可変開始前に送信するこ
と」までは当業者の技術常識からみて明らかな事項とはいえない。被告が同
事項が周知の技術であるとする根拠とした特開平3−73180号公報(乙
1,平成3年3月28日公開,以下「乙1公報」という。)及び特開平3−
75078号公報(乙2,同月29日公開,以下「乙2公報」という。)に
も,「可変表示部を可変開始させる前に,表示結果を特定の識別情報の組合
せにするか否かを決定する」ことが記載されるにとどまり,「決定結果を示
すコマンドデータが可変表示部の可変開始前に送信される」という構成は記
載されていない。審決が,上記構成を相違点2の認定において看過したこと
は,本願発明と引用刊行物1発明の実質的な相違点を看過することであり,
相違点2の認定の誤りとなる。
5取消事由5(相違点2に関する周知・慣用技術の認定の誤り)
(1)審決は,特開平3−55082号公報(甲4,平成3年3月8日公開,以
下「甲4公報」という。)を審決の理由において初めて引用した上,「当該
刊行物(注,甲4公報)には『各乱数により大当たりかどうかおよび左,中,
右デジタルA,B,Cに停止する図柄を決定する制御装置82と,制御装置
82から送られた制御信号に応じてLCD表示用ROM85から所定の表示
データを読み出し該データによりデジタル52を制御するLCD表示用CP
U86とを設けたパチンコ機の画像表示装置』が記載されていると認められ
る。」(審決謄本8頁第1段落)として,「表示結果を特定の識別情報の組
合せにするか否かを決定し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技
制御手段と,該遊技制御手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデー
タにもとづいて,各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制
御手段とを備えることは,例えば,上記の特開平3−55082号公報(注,
甲4公報)に記載されたように,周知・慣用の技術である。」(同10頁第
3段落)と認定したが,誤りである。
(2)周知・慣用技術というのは,その技術分野において,一般的に知られてい
る技術であって,例えば,これに関し相当多数の公知文献が存在し,又は,
業界に知れわたり,若しくは,よく用いられていることを要すると解するの
が相当である。
出願公開日(平成3年3月8日)が本件出願の出願日(同年10月31
日)に対して8か月も遡ることのない甲4公報のみを引用の上,そこに開示
された事項を周知・慣用技術と認定することは,誤りである。
(3)本願発明は,上記のとおり,「可変表示制御手段が可変開始させる前に遊
技制御手段によって決定された決定結果を示すコマンドデータを送信する」
という特徴を有し,可変表示部の可変開始前に送信されるものがコマンドデ
ータとして規定されており,かつ,コマンドデータは,遊技制御手段の決定
結果を示すものである。
これに対し,甲4公報の記載によれば,そこに記載されているパチンコ機
は,デジタルの図柄が回転した後に,大当たりか否かを決定していることが
明らかである。
したがって,甲4公報には,「可変表示部を可変開始させる以前に可変表
示制御手段に送信されるコマンドデータ」に関する開示がなく,「決定結果
をコマンドデータとして送信する遊技制御手段」及び「コマンドデータを受
信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可変表示動作を停止制
御可能な可変表示制御手段」は開示されていないから,甲4公報の記載に基
づき,「表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かを決定し,決定結
果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制御手段からの
コマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可
変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えること」を周知・慣
用技術と認定した審決は誤りである。
6取消事由6(相違点2についての進歩性判断の誤り)
(1)審決は,相違点2について,「『特定の識別情報の組合せにするか否か』
の決定に加えて『リーチ状態を発生させるか否か』の決定を制御手段に備え
させることは,当業者にとっては当然の技術的事項である。」(審決謄本1
0頁第3段落)とし,「引用刊行物1に記載された発明の制御手段に対し,
上記の周知・慣用の技術を適用し,相違点2に係る構成とすることは,本願
発明及び引用刊行物1に記載された発明並びに上記の周知・慣用の技術が,
遊技機の画像表示制御手段において共通しているので,当業者であれば容易
になし得ることである。」(同段落)と判断したが,誤りである。
(2)本願発明は,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否か,及び,リ
ーチ状態を発生させるか否かの決定を遊技制御手段に行わせるだけでなく,
それらの決定を可変表示部の可変開始前に行い,かつ,コマンドデータとし
て可変開始前に送信している点にも特徴を有する。すなわち,本願発明に係
る遊技制御手段は,決定結果としてのコマンドデータを前記複数の可変表示
部を可変開始させる前に送信しているのであり,本願発明の可変表示制御手
段は,そのコマンドデータを受信し当該受信したコマンドデータに基づいて
前記複数の可変表示部を可変開始させている。
これに対し,引用刊行物1及び審決が周知・慣用技術の根拠とする甲4公
報にはこの点の開示がない。
審決は,この点を本願発明と引用刊行物1発明の相違点として認定するこ
とを看過し,周知・慣用技術であると誤認し,さらに,周知・慣用技術の認
定を誤ったため,相違点2についての容易想到性の判断を誤ったものである。
第4被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(相違点3の認定の誤り)について
原告は,相違点3に関する引用刊行物1発明を独自に認定し,当該認定に基
づいて,審決が本願発明と引用刊行物1発明の相違点を看過し,相違点3の認
定を誤った旨主張する。
しかし,進歩性判断に際して相違点3で検討すべき構成は,相違点3に係る
本願発明の構成であり,引用刊行物1発明の構成ではなく,また,原告は,相
違点の看過が審決に及ぼす影響も主張していないから,原告の主張は失当であ
る。
2取消事由2(相違点3についての進歩性判断の誤り)について
()原告は,引用刊行物2及び3に記載されている技術が,テレビ会議システ1
ムに係る発明であり,本願発明と技術分野,目的及び用途が全く異なること
などを主張し,相違点3についての審決の進歩性判断の誤りを主張するが,
失当である。
()審決が,引用刊行物2及び引用刊行物3に記載されていると認定した周知2
・慣用技術は,「注目すべき表示領域を他の表示領域にまで拡大して表示内
容を見やすくする,拡大画像表示手段」であり,テレビ会議システムに関し
ては触れていない。
すなわち,審決は,ディスプレイに表示される画像に関し,「注目すべき
表示領域を他の表示領域にまで拡大して表示内容を見やすくする,拡大画像
表示手段」を周知・慣用技術であると認定したもので,当該拡大画像表示手
段が,「テレビ会議システム」に限定される特殊な「拡大画像表示手段」で
あるとの技術上の理由は認められない。
しかも,ディスプレイに表示される画像を拡大,縮小する等の表示変更手
法は,テレビ会議システムに限らず,引用刊行物1発明も行っているもので
あるから,引用刊行物2及び3に示される周知・慣用技術を引用刊行物1発
明に適用することは当業者が容易に想到できることであり,変動する画像で
あるか否かにかかわらず,その適用を阻害する事由は存在しない。
そして,その適用により,表示が拡大されて遊技者にとって見やすくなり,
迫力のある表示となる効果は予測の範囲内の事項であるから,相違点3に係
る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易にし得ることである。
3取消事由3(引用刊行物1発明の認定の誤り)について
原告は,相違点2に関する引用刊行物1発明を独自に認定し,独自の認定に
基づいて,引用刊行物1発明の認定の誤りを主張するなどしている。しかし,
進歩性判断に際して相違点2で検討すべき構成は,相違点2に係る本願発明の
構成であり,引用刊行物1発明の構成ではないこと,また,原告は,相違点の
看過が審決に及ぼす影響も主張していないことから,原告の主張は失当である。
4取消事由4(相違点2の認定の誤り)について
(1)原告は,審決の相違点2の認定は,本願発明の「前記複数の可変表示部を
各々所定の大きさの表示領域において可変開始させてすべての可変表示部が
可変表示している状態に制御した後,停止時期を異ならせて」との構成を看
過してされたものである旨主張するが,「複数の可変表示部を各々所定の大
きさの表示領域において可変開始させてすべての可変表示部が可変表示して
いる状態に制御した後,停止時期を異ならせて」との構成は,この種の遊技
機において可変表示制御手段が通常行う作用,機能を表現したものであるか
ら,当該可変表示制御手段は当該作用,機能の修飾語を記載するまでもなく
当該作用,機能を具備するものであり,相違点の認定において,「可変表示
制御手段」と記載しても,当該構成の看過に当たらないことは明らかである。
しかも,当該構成は審決の「第4,本願発明との比較・検討」において
「当業者の技術常識からみて明らかな事項である」として認定されている。
()原告は,本願発明が,コマンドデータの送信を可変表示部の可変開始前に2
行うものであるとして,本願発明の「遊技制御手段の決定結果をコマンドデ
ータとして複数の可変表示部の可変開始前に送信すること」は,当業者の技
術常識から明らかな事項ではないから,審決は,「可変表示部を可変開始さ
せる前に,表示結果を決定してその表示結果をコマンドデータとして送信す
る」との相違点を看過したものである旨主張する。
しかし,可変表示部の可変開始前にコマンドデータを送信するとの文言は
特許請求の範囲には記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲
の記載に基づくものでないし,本件明細書の詳細な説明にコマンドデータの
送信を可変表示部の可変開始前に行う旨の記載も認められないので,原告の
主張には,根拠がない。
また,仮に,原告が主張するように,本願発明がコマンドデータの送信を
可変表示部の可変開始前に行うものであったとしても,表示結果は可変表示
部が停止するまでに決定されていれば十分であり,表示結果を可変表示部の
可変開始前に決定するか,可変開始後に決定するかは,本願発明の効果に何
ら影響を与えるものでなく,それをいつ決定するかは単なる設計的事項であ
る。
しかも,「可変表示部を可変開始させる前に,表示結果を特定の識別情報
の組合せにするか否かを決定する」技術は,乙1公報に記載された「当り外
れのみを事前に決定しておく価値内容事前決定手段」及び乙2公報に記載さ
れた「当り外れのみを事前に決定しておく価値内容事前決定手段」のように
本件出願前に周知の技術である。
5取消事由5(相違点2に関する周知・慣用技術の認定の誤り)について
原告は,出願公開日(平成3年3月8日)が本件出願の出願日(同年10月
31日)に対して8か月も遡ることのない甲4公報のみを引用の上,そこに開
示された事項を周知・慣用技術と認定することは,誤りである旨主張するが,
失当である。
甲4公報の引用は,本願発明に即して最も簡明な技術が記載されていること
から,一例として例示したものであり,甲4公報には,「制御装置にて,大当
りにするか否かおよび停止図柄が乱数により決定され,当該停止図柄がLCD
表示用CPUにてディスプレイに表示される」技術が示されているから,当業
者であれば,上記動作を行うためには,大当たりにするか否かが乱数により決
定される手段,当該決定結果をLCD表示用CPUに送信する手段,当該送信
された決定結果に基づいて可変表示部の変動・停止制御を行うLCD表示用C
PUを備えていることは,第14図を併せて参照すれば明らかな事項である。
そして,「表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かを決定し,決定結
果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制御手段からのコ
マンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可変表
示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えること」が周知・慣用技術
であることは,特開平3−55080号公報(乙3,平成3年3月8日,以下
「乙3公報」という。),特開平3−55081号公報(乙4,同日公開)か
らも明らかであり,当該技術を周知・慣用技術と認定した審決に誤りはない。
さらに,表示制御手段として,CPUの負荷を軽くするために表示制御用C
PUを設けて,CPUからの表示用データを受信して表示制御用CPUにてデ
ィスプレイの表示制御を行う表示制御手段(特開昭63−84581号公報,
乙5),及び,CPU自体がディスプレイの表示制御を行う表示制御手段は,
それぞれ周知の表示制御手段であり,いずれを採用するかは単なる設計的事項
である。
したがって,可変表示部の表示制御手段として,前者の表示制御手段が周知
・慣用技術であるとした審決の認定に誤りはない。
6取消事由6(相違点2についての進歩性判断の誤り)について
原告は,審決が相違点2の認定を誤ったことを理由として,相違点2につい
ての進歩性判断を誤った旨主張するが,審決は相違点2の認定を誤っていない
から,失当である。
また,原告は,周知・慣用技術の誤認があることを理由として,審決が相違
点2について進歩性判断を誤った旨主張するが,審決は,周知・慣用技術を誤
認していないから,失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点3の認定の誤り)について
()原告は,審決が,「リーチ演出が,本願発明では,可変表示中の可変表示1
部の表示領域を,特定の識別情報の組合せの成立条件を満たしている可変表
示部の可変開始当初の表示領域にまで拡大させて可変表示中の識別情報を拡
大表示する表示制御を行う拡大表示制御手段を含む可変表示制御手段により
行われるのに対し,引用刊行物1に記載された発明では識別情報を拡大させ
る点。」(審決謄本9頁最終段落)を相違点3として認定したことが誤りで
ある旨主張する。
(2)前記第2の2の特許請求の範囲の記載によれば,本願発明において,可変
表示手段は,可変表示中の可変表示部の表示領域を可変表示部の可変開始当
初の表示領域にまで拡大させて可変表示中の識別情報を拡大表示する表示制
御を行うものであることが認められる。
他方,引用刊行物1には,以下の記載がある。
「次に,上記のように構成されたパチンコ機における遊技について説明す
る。・・・そして,遊技部3に発射された打球がうまく特定入賞口6a∼6
cに入賞すると,デジタル34の図柄が第25図のように上方から下方へ回
転を始め,所定時間経過すると,・・・乱数RANDOM,DISPDTに
より大当たりかどうかおよび左,中,右デジタルA,B,Cに停止する図柄
が決定される。左デジタルAの所定回転時間が経過すると,左デジタルAは
・・・定位置に停止する。この停止後,右デジタルCの所定回転時間が経過
すると,右デジタルCは・・・定位置に停止する。そして,この停止後,中
デジタルBの所定回転時間が経過すると,・・・中デジタルBは・・・定位
置に停止する。また,左,右デジタルA,Cの停止図柄が同一の場合には,
右デジタルCの停止時点にて左,右デジタルA,Cの図柄が大きい図柄に切
り換えられる。・・・この場合,左,右デジタルA,Cの停止図柄が同一と
なると,最後に停止される中デジタルBは,・・・一義的には停止しないた
め,意外性に富み,さらには左,右デジタルの図柄も大きく変化し,このた
め大当たりが発生するかどうかの大きな期待感が得られる。」(9頁左上欄
5行目∼左下欄15行目)
これによれば,引用刊行物1発明においては,左デジタルA,中デジタル
B,右デジタルCが変動表示を始めた後,左デジタルA,中デジタルB,右
デジタルCのすべてが停止する以前の段階で,左デジタルA,右デジタルC
の停止図柄が同一の場合(本願発明におけるリーチ状態の時)に,表示図柄
(本願発明における識別情報)が,大きい図柄に切り換えられることが記載
されているのであるから,引用刊行物1発明において,リーチ演出は,識別
情報を拡大させるものである。
そして,引用刊行物1発明において,上記の「左,右デジタルA,Cの停
止図柄が同一の場合には,右デジタルCの停止時点にて左,右デジタルA,
Cの図柄が大きい図柄に切り換えられる。」との記載に照らしても,大きい
図柄に切り替えられるのは停止図柄であると認められ,この点において,本
願発明が,可変表示中の識別情報を拡大するのとは異なっている。また,引
用刊行物1の第5図や第8図の記載等に照らしても,引用刊行物1発明にお
いては,識別情報は,可変表示部の可変開始当初の表示領域にまで拡大させ
るものではないと認められ,この点においても,本願発明とは異なっている。
審決は,上記と同旨の認定に基づき,相違点3の認定において,引用刊行
物1発明については,識別情報を拡大させることのみを認定し,拡大される
識別情報が可変表示中のものである点,及び,可変表示部の可変開始当初の
表示領域にまで拡大させる点については,引用刊行物1発明が開示するもの
ではないことを前提として,相違点3についての進歩性判断において,その
構成を当業者が容易に想到できたかを検討したものであり,審決の相違点3
の認定に誤りはない。
(3)原告は,審決が,引用刊行物1発明について,単に「識別情報を拡大させ
る」とのみ認定し,①引用刊行物1発明の拡大表示対象が可変表示を終えて
停止している識別情報である点,及び,②引用刊行物1発明の拡大表示対象
領域が特定の識別情報の組合せの成立条件を満たしている可変表示部の可変
開始当初の表示領域にまで拡大されるものでないという拡大表示態様の点に
ついて,本願発明との相違点を看過して,相違点3を誤って認定した旨主張
する。
しかし,上記のとおり,審決は,引用刊行物1発明が,リーチ演出におい
て,拡大される識別情報が可変表示中でなく,また,識別情報を可変表示部
の可変開始当初の表示領域にまで拡大させるものでないとの認定に基づき,
相違点3に係る構成について,引用刊行物1発明は,「識別情報を拡大させ
る点」と認定し,拡大表示の対象や拡大表示態様の相違については,相違点
3についての進歩性判断において検討したのであるから,審決の相違点3の
認定に原告主張の誤りはなく,原告の主張は失当である。
(4)したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点3についての進歩性判断の誤り)について
(1)原告は,審決の「複数個の表示領域を備え,注目すべき表示領域を他の表
示領域にまで拡大して表示内容を見やすくすることは,例えば,上記の引用
刊行物2及び3に記載されたように,周知・慣用の技術である。そこで,引
用刊行物1に記載された発明をみると,リーチ状態発生時に可変表示中の可
変表示部に遊技者が注目することは明らかであるから,当該可変表示中の可
変表示部に対し,遊技者が注目することで共通している上記の周知・慣用の
技術を適用し,相違点3に係る構成とすることは,本願発明及び引用刊行物
1に記載された発明並びに上記の周知・慣用の技術が,拡大表示する画像表
示手段において共通しているので,当業者であれば容易になし得ることであ
る。」(審決謄本10頁第5段落)との判断が誤りである旨主張する。
(2)引用刊行物2に,「参加者3名のテレビ会議システムにおける,唇の動き
等を認識して特定した話者の映像領域を拡大して表示する部分画像の拡大表
示方式であって,通常は個々の映像領域はかなり小さく3名の映像を表示し,
話者として参加者3が特定された場合には,(ア)参加者3の映像領域は参
加者2の映像領域にまで拡大され,参加者1及び2の一方である参加者1の
映像は表示されるが参加者2の映像の一部は表示されないもしくは,
(イ)参加者3のみを拡大して表示する,拡大の割合に制約のない,臨場感
を向上させることのできる部分画像の拡大表示方式。」(審決謄本6頁第1
段落)の発明が記載されていることは,当事者間に争いがない。
そして,引用刊行物2に,「(背景技術)テレビ会議システムにおいて複
数の参加者を同時に撮影する場合は,個々の参加者に対して割り当てられる
画面上の表示領域が小さくなり,このため,表示画面から離れた位置で注視
する際に臨場感が低下する。」(1頁左下欄下から3行目∼右下欄3行目),
「(本発明の効果)本発明は複数の参加者が参加するテレビ会議等において
特定された話者をTV信号の標本化周波数に合わせた高速処理により拡大し
原画像に合成あるいは拡大部分のみの形で表示できる方法を提供するもので
あり,人手を必要とするカメラワーク無しに臨場感を向上させることのでき
る手段として広く用いることができる。」(4頁左下欄4行目∼11行目)
と記載されているとおり,引用刊行物2のテレビ会議システムにおいて,話
者である参加者の映像領域が拡大されることにより,会議の参加者は,話者
の表情や口の動きをよく認識でき,会議の臨場感を高めることができるもの
であるが,これらの効果は,映像領域を拡大することによって,注目される
映像を拡大し,より見やすくすることにより得られるものである。
したがって,引用刊行物2には,複数の映像領域を有する画像表示方式に
おいて,注目される映像を見やすくするという課題を解決するため,注目さ
れる映像が属する映像領域を拡大し,注目される映像を拡大するという技術
が記載されているといえる。
また,引用刊行物3には,「口の動き,すなわち画像の変化量が一定値以
上で,かつ一定時間以上この変化が検出されたなら,発言者として認識する
テレビ会議装置であって,発言者が存在しない場合には,すべての会議者の
画像が同じ大きさで一画面上に表示され,発言者が存在する場合には,その
発言者の画像が非拡大時の発言者以外の人の画像表示部分にまで拡大表示さ
れ,発言者以外の人の画像が一画面上の隅において縮小されて表示される,
発言者以外の人が注目する発言者を明確に表現することのできるテレビ会議
装置」(審決謄本7頁第2段落)の発明が記載されていることは,当事者間
に争いがない。
そして,引用刊行物3には,「さらに通常,発言者以外の人は発言者に注
目するものであるが,・・・会議出席者それぞれの画像が小さいため・・・
発言者の表情などの情報が不足し,発言者を明確に表現できないという問題
もあった。」(1頁右下欄17行目∼2頁左上欄6行目),「本発明は,・
・・発言者を明確に表現することのできるテレビ会議装置を提供することを
目的とする。」(2頁左上欄8行目∼11行目),「これは第3図に示すよ
うに,会議者画像の相対的位置より口を含む検出領域を設定し,その領域内
における画像の変化,すなわち口の動きを検出することにより発言者の認識
を行なうものである。すなわち画像の変化量が一定値以上で,かつ一定時間
以上この変化が検出されたなら,発言者として認識し,その画像番号を出力
する。」(2頁左下欄16行目∼右下欄3行目),「さらにレイアウト部7
a,7bでは,発言者を示す画像番号が存在しない場合には,第4図に示す
ようにすべての画像(第4図A2∼C2)が同じ大きさで一画面上にレイア
ウトされ,発言者を示す画像番号が存在する場合には,第5図に示すように
その番号の会議者の画像(第5図C3)が拡大され,それ以外の人の画像
(第5図A3,B3)が縮小されて一画面上にレイアウトされ,画像情報表
示部8a,8bにおいて表示される。」(2頁右下欄12行目∼20行目)
との記載があり,発言者のいる場合のレイアウト表示を説明する図である第
5図には,第4図と比較して,発言者の画像は非拡大時の発言者以外の人の
画像表示部分にまで拡大表示されことが示されている。
これらによれば,引用刊行物3には,注目される発言者についての情報を
増やし,発言者を明確に表現するため,複数の映像領域を有する映像表示方
式において,発言者として認識された映像領域を他の映像領域にまで拡大し
て,その映像を拡大することが記載されている。
したがって,引用刊行物3には,複数の映像領域を有する画像表示方式に
おいて,注目される映像を見やすくするという課題を解決するため,注目さ
れる映像が属する映像領域を拡大して,注目される映像を拡大するという技
術が記載されているといえる。
そして,これらの刊行物に記載された技術に照らしても,本件出願の出願
日当時,注目される部分の表示内容を見やすくするという課題を解決するた
め,複数個の表示領域を備える表示装置において,注目すべき表示領域を他
の表示領域にまで拡大すること,すなわち,「複数個の表示領域を備え,注
目すべき表示領域を他の表示領域にまで拡大して表示内容を見やすくするこ
と」(審決謄本10頁第5段落)は,周知・慣用の技術であったと認められ
る。
()引用刊行物1には,前示1()のとおり「左,右デジタルA,Cの停止図32
柄が同一の場合には,右デジタルCの停止時点にて左,右デジタルA,Cの
図柄が大きい図柄に切り換えられる。・・・この場合,左,右デジタルA,
Cの停止図柄が同一となると,最後に停止される中デジタルBは,・・・一
義的には停止しないため,意外性に富み,さらには左,右デジタルの図柄も
大きく変化し,このため大当たりが発生するかどうかの大きな期待感が得ら
れる。」と記載されている。これによれば,複数の表示図柄を変動表示可能
な左デジタルA,中デジタルB,右デジタルCを備え,それらの停止図柄が
すべて同一となれば,大当たりの組合せとなるパチンコ機において,左デジ
タルA,右デジタルCの停止図柄が同一の場合に,左デジタルA,右デジタ
ルCの停止図柄が大きい図柄に切り替えられる技術が記載されているところ,
全図柄が同一となれば,大当たりの組合せとなるのであるから,左デジタル
A,右デジタルCの図柄が停止して同一の場合には,当然に,最後に停止さ
れる中デジタルの図柄Bが「大きな期待感」を持って注目されることとなる
ものである。すなわち,引用刊行物1発明においても,複数の映像領域を有
する画像表示方式において,そのうちの一つの映像が注目されるものであり,
その注目される映像を見やすくするという課題を有していたものと認めるこ
とができる。そして,引用刊行物1発明は,左デジタルA,右デジタルCの
停止図柄が同一の場合に,左デジタルA,右デジタルCの停止図柄が大きい
図柄に切り替えられること,すなわち,画像の拡大表示を行うことを開示し
ている。
そして,引用刊行物1発明はパチンコ機に係る技術であるところ,同技術
分野において,図柄が表示される複数の表示領域を有するとともに,図柄を
全表示領域(複数の表示領域)にまで拡大して表示する技術は周知であった。
すなわち,甲4公報には,「第14図は制御系のブロック構成を示すもの
で,制御装置82はCPU127,ROM128,RAM129,バッファ
ゲート,出力ボート等からなるマイクロコンピュータにて構成される。・・
・また画像表示装置4の液晶駆動基板53のLCD表示用ROM85には前
述したように液晶表示バネル(デジタル)52の表示データが格納されてお
り,LCD表示用CPU86は制御装置82の出力ポートから送られた制御
信号に応じて,LCD表示用ROM85から所定の表示データを読み出し,
コントローラドライバ87を介してデジタル52に出力する。第15図
(A),第16図にLCD表示用ROM85に格納された数字,文字等の遊
技用データと,メッセージや動画等のディスプレイ用データの例を示す。な
お,遊技用のデータ表示は,デジタル52の左側(左デジタル),中央(中
デジタル),右側(右デジタル)とも第22図のように2字ずつ行われる。
・・・次に,上記パチンコ機の制御および作用を説明する。まず,遊技が行
われていないときあるいは遊技が行われていても打球発射装置により遊技部
3に発射された打球が特定入賞口6a∼6cに入賞しないときは,デジタル
52に普段動作のディスプレイ表示が行われる。普段動作のディスプレイ表
示では,『襖が開き人形が現れる』,『人形が腕を交差させる』のキャラク
ター,『ショウブ』の文字,『サイコロがころがる』のキャラクター,『3
33555777アラシが大当たり』の文字,『ちどり模様』のキャ
ラクターが順に繰り返し表示される(第17図に人形キャラクターの表示例
を示す)。このためパチンコ台を選ぶときに遊技者を充分に引き付けること
ができるとともに,遊技の楽しさが増す。そして,遊技部3に発射された打
球がうまく特定入賞口6a∼6cに入賞すると,デジタル上部の壺部材41
が昇降され,デジタル52に『壺とサイコロ』のキャラクターが表示された
後(第l8図に壷とサイコロの表示例を示す),デジタル52の図柄が第l
9図のように上方から下方へ回転を始める。次に,デジタル52の自然停止
時間が経過するとあるいはストップスイッチ131が押されると,制御装置
82により生成される乱数SUBGENによるα時間後に同じく制御装置8
2により生成される乱数RNDGEN,RANDOM,HITGENが抽出
され,各乱数により大当たりかどうかおよび左,中,右デジタルA,B,C
に停止する図柄が決定される。」(6頁右下欄4行目∼7頁右下欄15行
目)との記載があり,また,乙3公報にも,同様の技術が記載されている。
これらによれば,本件出願前に,遊技機であるパチンコ機の可変表示装置と
して,左,中,右図柄のそれぞれに対応する複数の表示領域を有するととも
に,その複数の表示領域にわたり,特定の図柄を拡大して表示する技術が知
られており,上記甲4公報に「パチンコ台を選ぶときに遊技者を充分に引き
つけることができるとともに,遊技の楽しさが増す。」と記載されるように,
複数の領域にわたり拡大して図柄が表示されることにより,図柄が見やすく
なり,表示を見る者の注意をひくようにすることが知られていたと認められ
る。
(4)以上によれば,複数の画像表示領域を有する引用刊行物1発明において,
大当たりの組合せとなるか否かを表示する画像表示技術という性質上,大当
たりの組合せとなるか否かを最終的に表示するものである,中デジタルBの
画像が注目されるものであり,同発明は,その注目される中デジタルBの画
像を見やすくするという課題を有していたということができるし,また,画
像を拡大表示することを開示している。
一方,前記(2)のとおり,本件出願の出願日当時,注目される部分の表示
内容を見やすくするという課題を解決するため,複数個の表示領域を備える
表示装置において,注目すべき表示領域を他の表示領域にまで拡大すること
は,周知・慣用の技術であったと認められる。
そうすると,引用刊行物1発明は,上記周知・慣用技術と同様の課題を有
していたものと認められ,引用刊行物1発明が画像を拡大表示することを開
示し,その点において,画像を拡大表示する上記周知・慣用技術と共通する
ことからすれば,引用刊行物1発明に対して,画像表示技術分野における同
様の課題を映像領域の拡大等の手段により解決する上記周知・慣用技術を適
用することに動機付けがあったというべきである。このことに,引用刊行物
1発明が属する遊技機の分野では,複数の画像表示領域からなる画像表示技
術において,複数の表示領域を使用して,図柄を見やすくすることは既に知
られていたことも併せ考慮すると,当業者は,引用刊行物1発明に対して上
記周知・慣用技術を適用することに容易に想到することができたものと認め
られる。
以上によれば,中デジタルBの画像を見やすくするという課題を有してい
た引用刊行物1発明に対し,上記周知・慣用技術を適用し,相違点3に係る
本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであると
認めることができる。
()原告は,引用刊行物1発明に係る遊技機と引用刊行物2及び3に記載され5
るテレビ会議システムとでは,技術分野,背景技術,装置の構成,表示対象,
拡大表示の箇所等があらかじめ定められているか否かの点において,著しく
相違しており,当業者は,引用刊行物2及び3に記載された技術を,引用刊
行物1発明に適用することが困難である旨主張する。
しかし,引用刊行物1発明と上記周知・慣用技術は,ともに画像表示技術
に係る発明として共通する。そして,引用刊行物2及び3に記載されている
と認められる「複数個の表示領域を備え,注目すべき表示領域を他の表示領
域にまで拡大して表示内容を見やすくすること」との技術は,テレビ会議シ
ステムに独特ないし固有のものと認めることはできず,引用刊行物1発明に
おいても,画像の表示技術において,注目される部分を見やすくするという
同様の課題を有しており,その課題解決のために上記周知・慣用技術を適用
することができるというべきである。
また,テレビ会議システムそのものと引用刊行物1発明とでは装置の構成
が異なるとしても,上記のとおり,本願発明との対比において認定されたの
は,「複数個の表示領域を備え,注目すべき表示領域を他の表示領域にまで
拡大して表示内容を見やすくすること」との技術であり,そのような画像表
示方式が,引用刊行物1に記載された画像表示方式と装置の構成において本
質的な相違があるとは認められないし,引用刊行物1発明と引用刊行物2及
び3に記載された技術において,表示対象が異なるとしても,表示対象を見
やすくする点で両技術は共通の課題を有するのであり,表示対象の相違が,
課題の解決手段の選択において,本質的な意味を有するものではない。
原告は,拡大表示の箇所等があらかじめ定められているか否かなどの点に
おいても,引用刊行物1発明と引用刊行物2及び3に記載された技術が異な
る旨主張するが,注目される映像を見やすくするという課題を当該注目され
る映像が属する映像領域を拡大するという技術により解決している引用刊行
物2及び3に記載された技術において,原告主張の点が本質的なものである
ということはできない。
原告は,また,引用刊行物1発明も拡大縮小等の表示変更を行っているこ
とを理由として引用刊行物2及び3記載の技術を引用刊行物1発明に適用す
る際の阻害要因がないとする被告の主張を論難し,周知・慣用技術について
の審決の認定が誤りであり,また,引用刊行物1発明の拡大縮小等の表示変
更手法は,停止している図柄をその図柄表示領域の範囲内で上下方向に伸張
するにすぎず,表示対象をその当初の表示領域を越えて拡大するものではな
い旨主張する。
しかし,周知・慣用技術についての審決の認定には誤りがないことは,前
記()のとおりであり,また,拡大表示の方法は異なるとしても,引用刊行2
物1発明も画像の拡大表示を行っている点において,引用刊行物2及び3記
載の技術と共通するのであるから,原告主張の点は,直ちには引用刊行物1
発明に,引用刊行物2及び3に記載された周知・慣用技術を適用する阻害要
因となるものではなく,その課題の共通性から,これを組み合わせる動機付
けがあることは,前記()のとおりである。4
したがって,原告主張の相違は,いずれも引用刊行物2及び3に記載され
た周知・慣用技術を引用刊行物1発明に適用することを困難とするものとは
認められない。
()原告は,引用刊行物2及び3に記載された技術の技術的思想は,「会議出6
席者は発言者に注目する」という経験則に注目し,会議出席者中の発言者を
識別してその発言者を拡大するものであるところ,遊技機の技術分野の発明
である引用刊行物1発明は,上記経験則とは異なるものであり,両者は技術
的思想が異なるとも主張するが,引用刊行物1発明が,複数の映像領域を有
する画像表示方式において,そのうちの一つの映像が注目されるものであり,
その注目される映像を見やすくするという課題を有していたものであること
は,前記()のとおりであり,引用刊行物2及び3に記載された周知・慣用3
技術も,これと同様の課題を注目される部分を見やすくすることで解決する
ものであり,上記周知・慣用技術の技術的思想は,引用刊行物1発明にも適
用することができるものである。
原告は,引用刊行物2及び3の技術を引用刊行物1発明に適用しても,相
違点3に係る本願発明の構成にならない旨主張し,また,審決が,引用刊行
物2及び3には,遊技者に関する事項は一切記載されていないにもかかわら
ず,「遊技者が注目することで共通している上記の周知・慣用技術」と誤っ
て認定したこと,「拡大表示」という技術と「注目」という事項とを技術思
想的に関連付けたとして,そのような関連づけを行って引用刊行物2及び3
の技術を引用刊行物1発明に適用しても,相違点3に係る本願発明の構成に
ならない旨主張する。
確かに,引用刊行物1発明は,左デジタルA,右デジタルCの停止図柄が
同一の場合に左デジタルA,右デジタルCの停止図柄が大きい図柄に切り替
えられるのであり,拡大されるのは停止図柄である。しかし,前記()のと3
おり,引用刊行物1発明において,左デジタルA,右デジタルCの図柄が停
止して同一の場合には,中デジタルの図柄Bが注目されることとなり,見や
すくするという課題を有する図柄は可変表示中の中デジタルの図柄Bであり,
このことは,引用刊行物1発明において,右デジタルA,右デジタルCが拡
大表示されていても変わるものではない。したがって,引用刊行物1発明に,
注目される図柄を見やすくするという課題を解決する上記周知・慣用技術を
適用すれば,相違点3に係る本願発明の構成となるものと認められる。なお,
引用刊行物2及び3には,遊技者については記載されていないが,そこには,
注目される部分の表示内容を見やすくするという課題を解決するための技術
が記載され,その課題は引用刊行物1発明と共通することから,引用刊行物
1発明に,引用刊行物2及び3に記載された周知・慣用技術を適用する動機
付けがあることは前記のとおりである。
()原告は,「本願発明による効果も格別なものは認められない。」(審決謄7
本10頁第7段落)とした審決の判断を争い,本願発明は,単に可変表示の
見やすさという観点以外に,「迫力のある可変表示で最終的に特定の識別情
報の組合せが揃うか否かの期待感を高めることが可能となる」という特有の
効果を奏するものである旨主張する。
しかし,本件明細書(甲8)に,「【発明の効果】請求項1に記載の本発
明によれば,・・・可変表示中の可変表示部の表示領域を,前記成立条件を
満たしている可変表示部の可変開始当初の表示領域にまで拡大させて可変表
示中の識別情報を拡大表示する表示制御が行われるため,遊技者が可変表示
状態を見やすくなり,さらに,可変表示中の可変表示部に注力し易い迫力の
ある可変表示状態によって,特定の識別情報の組合せに対する遊技者の期待
感を盛り上げることができる。」(段落【0066】)と記載されていると
おり,本願発明の効果は,可変表示状態を見やすくすることを本質的な効果
とすることは明らかである。他方,見やすくすることにより,遊技者の期待
感を高めることができるという効果が認められるとしても,本願発明は,遊
技者に有利な遊技状態となる特定の組合せの有無を表示するものであること
に照らせば,当業者が予測し得る程度の効果にすぎないというべきであるか
ら,本願発明の効果も格別なものとは認められず,審決に原告主張の誤りは
ない。
()したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。8
3取消事由3(引用刊行物1発明の認定の誤り)について
(1)審決は,「引用刊行物1には,『10種類の表示図柄を・・・パチンコ機
であって,主乱数RANDOMにより大当たりかどうかを決定し,前記左,
中,右デジタルA,B,Cをそれぞれ13個の棒状セグメント発光素子38
a∼38mにおいて上方から下方へ変動表示を始めた後,停止時期を異なら
せて左,中,右デジタルA,B,Cの変動表示を停止制御する制御装置78
を備え,該制御装置78は,・・・左,右デジタルA,Cの停止図柄が大き
い図柄に切り換えられることを含む,大当たりが発生するかどうかの大きな
期待感が得られるパチンコ機。』の発明」(審決謄本4頁最終段落∼5頁第
1段落)が記載されていると認定したのに対し,原告は,審決の上記認定は,
引用刊行物1発明において,大当たりかどうかの決定について,「前記変動
表示を始めてから所定時間経過後にランダム時間αが決定され,さらにその
決定に基づくα時間が経過した後に行われるものであ(る)」との点を看過
したものであり,誤りである旨主張する。
(2)しかし,原告の上記主張は,本願発明が,表示結果を特定の識別情報の組
合せにするか否かが,可変開始前に決定され,可変開始前に遊技制御手段に
よって決定された決定結果を示すコマンドデータが送信されていることを前
提として,引用刊行物1発明がそれと異なる構成であることをいうものであ
るが,後記4(4)のとおり,特許請求の範囲の記載に基づくものとは認めら
れない。また,仮に,原告主張の事実が認められるとしても,表示結果を特
定の識別情報の組合せにするか否かが,可変開始前に決定され,可変開始前
に遊技制御手段によって決定された決定結果を示すコマンドデータが送信さ
れているとの構成は,同じく後記4(4)のとおり,周知・慣用技術ともいえ
るものであるから,原告主張の事実が相違点2の容易想到性の判断に影響す
るものではなく,審決の結論に影響しない。
(3)したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4取消事由4(相違点2の認定の誤り)について
()審決は,相違点2として,「本願発明では,表示結果を特定の識別情報の1
組合せにするか否かと,リーチ状態を発生させるか否かとを決定し,決定結
果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制御手段からの
コマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可
変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えるのに対し,引用刊
行物1に記載された発明ではそのような構成を有するかどうか明らかでない
点。」(審決謄本9頁第4段落)を認定したのに対し,原告は,審決の同認
定が誤りである旨主張する。
(2)本願発明は,前記第2の2の特許請求の範囲の記載に照らし,表示結果を
特定の識別情報の組合せにするか否かと,リーチ状態を発生させるか否かと
を決定し,その決定結果をコマンドデータとして送信する遊技機制御手段と,
該遊技制御手段からのコマンドデータを受信し,該コマンドデータに基づい
て,複数の可変表示部を可変開始させてすべての可変表示部が可変表示して
いる状態に制御した後,停止時期を異ならせて各可変表示部の可変表示動作
を停止制御可能な可変表示手段を備えるものである。
ここで,複数の可変表示部を有する遊技機において,その可変表示制御手
段が,「すべての可変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時
期を異ならせて各可変表示部の可変表示動作を停止制御する構成」を備える
ことは技術常識と認められる。
したがって,複数の可変表示部を有する遊技機に係る引用刊行物1発明に
おいても,その可変表示制御手段が,「すべての可変表示部が可変表示して
いる状態に制御した後,停止時期を異ならせて各可変表示部の可変表示動作
を停止制御する構成」を備えるものであると認められる。他方,引用刊行物
1の各記載によっても,引用刊行物1発明においては,「表示結果を特定の
識別情報の組合せにするか否かと,リーチ状態を発生させるか否かとを決定
し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制御
手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変
表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段」との構成を有す
ることが明記されていないのであり,審決の相違点2の認定に誤りはない。
(3)原告は,審決の相違点2の認定は,「前記複数の可変表示部を各々所定の
大きさの表示領域において可変開始させてすべての可変表示部が可変表示し
ている状態に制御した後,停止時期を異ならせて」との部分を看過した点で
誤っている旨主張する。
しかし,上記技術常識によれば,引用刊行物1発明においても,本願発明
と同様,「可変表示部を各々所定の大きさの表示領域において可変開始させ
てすべての可変表示部が可変表示している状態に制御した後,停止時期を異
ならせて各可変表示部の可変表示動作を停止制御する構成」を備えるもので
あると認められるのであり,審決は,同旨の認定判断により,上記構成を本
願発明と引用刊行物1発明との一致点として認定(審決謄本9頁12行目∼
15行目)しているから,審決に原告主張の相違点2の認定の誤りはない。
(4)原告は,審決が「前記複数の可変表示部を各々所定の大きさの表示領域に
おいて可変開始させてすべての可変表示部が可変表示している状態に制御し
た後,停止時期を異ならせて」との部分を看過したことにより,本願発明と
引用刊行物1発明との重要な相違点が看過されたとして,その重要な相違点
として,本願発明では,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かが,
可変開始前に決定され,可変開始前に遊技制御手段によって決定された決定
結果を示すコマンドデータが送信されているのに対し,引用刊行物1発明は
同構成を備えていない点を主張する。
しかし,前記第2の2記載の本願発明の特許請求の範囲には,遊技制御手
段によって決定された決定結果を示すコマンドデータが,可変開始前に送信
されていることが明記されているわけではない。また,本件明細書の発明の
詳細な説明においても,そのようなコマンドデータの送信時期や送信時期の
意義については,全く説明されていないのであって,本願発明において,表
示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かが,可変開始前に決定され,
可変開始前に遊技制御手段によって決定された決定結果を示すコマンドデー
タが送信されているという事実をにわかには認めることができない。
さらに,仮に,本願発明の特許請求の範囲の「該遊技制御手段からのコマ
ンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,前記複数の可変表示部
を・・・可変開始させて・・・」との記載から,表示結果を特定の識別情報
の組合せにするか否かが,可変開始前に決定されて,可変開始前に遊技制御
手段によって決定された決定結果を示すコマンドデータが送信されていると
理解されることがあったとしても,同構成は,下記のとおり,本件出願前に
周知の技術であったと認められるから,引用刊行物1に同構成が記載されて
いないとしても,その相違点の看過は,同構成に係る本願発明の構成の容易
想到性の判断に影響するものではなく,審決の結論に影響しない。
すなわち,乙1公報には,「本発明によれば,価値内容事前決定手段の働
きにより,可変表示装置の停止時の価値内容を該可変表示装置の数回前の可
変表示の段階から予め決定しておくことができる。また,予め定められた停
止条件が成立したことに基づいて可変表示装置の可変表示が停止制御され,
その停止時の識別情報が前記予め決定された価値内容に従ったものになるよ
うに表示制御される。」(2頁右下欄7行目∼14行目),「次にS60で
は,停止図柄決定用カウンタの現在のカウント値を停止図柄データとして始
動記憶カウンタの値に対応する停止図柄データ記憶エリアに記憶する処理が
なされる。」(11頁左下欄4行目∼8行目),「前記可変表示装置の停止
時の価値内容を該可変表示の数回前の可変表示の段階から予め決定しておく
ための価値内容事前決定手段が構成されている。なお,本実施例では,始動
入賞時に価値内容を決定するものを示したが,本発明はこれに限らず,可変
表示の開始時や停止条件成立時に価値内容を決定するものであってもよい。
また,本実施例では,価値内容事前決定手段により決定される価値内容が可
変表示装置により表示される表示内容自体であったが,本発明はこれに限ら
ず,表示内容までは決めずに当り外れのみを決定するものであってもよ
い。」(12頁左上欄下から5行目∼右上欄7行目)との記載がある。
また,乙2公報には,「このS65による変更処理がなされるため,リー
チ目が可変表示装置で表示されてから1∼4回後の可変表示により大当りま
たは中当りが発生することになる。前記S60により,前記可変表示装置の
停止時の価値内容を該可変表示の可変表示が停止する以前において予め決定
しておくための価値内容事前決定手段が構成されている。なお,本実施例で
は,始動入賞時に価値内容を決定するものを示したが,本発明はこれに限ら
ず,可変表示の開始時や停止条件成立時に価値内容を決定するものであって
もよい。また,本実施例では,価値内容事前決定手段により決定される価値
内容が可変表示装置により表示される表示内容自体であったが,本発明はこ
れに限らず,表示内容までは決めずに当り外れのみを決定するものであって
もよい。前記S63により,前記価値内容事前決定手段により決定された価
値内容が前記予め定められた特定の識別情報に対応するものであることを判
別する特定識別情報判別手段が構成されている。また,前記S65に従って
リーチ目を表示する可変表示装置14により,少なくとも前記特定識別情報
判別手段の判別出力に基づいて,該特定の識別情報が表示される予定となっ
ている回の可変表示の開始以前に,前記特定の識別情報が表示されることを
遊技者に事前に報知するための前兆報知手段が構成されている。」(12頁
左上欄10行目∼右上欄15行目)との記載がある。
これらは,「価値内容事前決定手段」が,該当する可変表示の可変開始前
に,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かを決定している構成を
示しており,また,その可変表示の制御は,それらを制御していると技術常
識により認められるCPUから「記憶エリア」にコマンドデータが送信され
ることによりされているのであるから,表示結果を特定の識別情報の組合せ
にするか否かが,可変開始前に決定されて,可変開始前に遊技制御手段によ
って決定された決定結果を示すコマンドデータが送信されているという構成
は,本件出願前に周知であったと認めることができる。
(5)したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
5取消事由5(相違点2に関する周知・慣用技術の認定の誤り)について
(1)審決は,「表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かを決定し,決
定結果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制御手段か
らのコマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部
の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えることは,例え
ば,上記の特開平3−55082号公報(注,甲4公報)に記載されたよう
に,周知・慣用の技術である。」(審決謄本10頁第3段落)と認定したの
に対し,原告は,審決の認定が誤りである旨主張する。
(2)甲4公報の記載によれば,甲4公報には,「各乱数により大当たりかどう
かおよび左,中,右デジタルA,B,Cに停止する図柄を決定する制御装置
82と,制御装置82から送られた制御信号に応じてLCD表示用ROM8
5から所定の表示データを読み出し該データによりデジタル52を制御する
LCD表示用CPU86とを設けたパチンコ機の画像表示装置」(審決謄本
8頁第1段落)が記載されている。
そして,同記載によれば,甲4公報には,表示結果を特定の識別情報の組
合せにするか否かを決定し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技
制御手段と,該遊技制御手段からのコマンドデータを受信し,該コマンドデ
ータに基づいて,各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制
御手段とを備えることが記載されていると認められ,前記4(4)の乙1公報
及び乙2公報の記載も併せ考慮すれば,同構成は,周知・慣用の技術である
と認めることができる。
(3)原告は,出願公開日(平成3年3月8日)が本件出願の出願日(同年10
月31日)に対して8か月も遡ることのない甲4公報のみを引用の上,そこ
に開示された事項を周知・慣用技術と認定することは,誤りである旨主張す
るが,審決は,周知・慣用技術の一例として甲4公報があることを挙げてい
るにすぎず,前記(2)に照らし,原告主張の事実は,甲4公報に開示された
技術が周知・慣用技術であると認めることを左右するものではない。
原告は,甲4公報には,「可変表示部を可変開始させる以前に可変表示制
御手段に送信されるコマンドデータ」に関する開示がなく,「決定結果をコ
マンドデータとして送信する遊技制御手段」及び「コマンドデータを受信し
該コマンドデータにもとづいて,各可変表示部の可変表示動作を停止制御可
能な可変表示制御手段」も開示されていないことを理由として,審決の認定
が誤りである旨主張する。
しかし,審決は,「表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否かを決
定し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該遊技制
御手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデータにもとづいて,各可
変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備えるこ
と」が周知・慣用技術であると認定したのであって,原告が主張するような
事実が甲4公報に開示されていると認定したものではないから,原告の主張
は失当である。
(4)したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。
6取消事由6(相違点2についての進歩性判断の誤り)について
(1)審決は,相違点2について,「『特定の識別情報の組合せにするか否か』
の決定に加えて『リーチ状態を発生させるか否か』の決定を制御手段に備え
させることは,当業者にとっては当然の技術的事項である。」(審決謄本1
0頁第3段落)とした上,「引用刊行物1に記載された発明の制御手段に対
し,上記の周知・慣用の技術を適用し,相違点2に係る構成とすることは,
本願発明及び引用刊行物1に記載された発明並びに上記の周知・慣用の技術
が,遊技機の画像表示制御手段において共通しているので,当業者であれば
容易になし得ることである。」(同段落)と判断したのに対し,原告は,審
決の同判断が誤りである旨主張する。
(2)しかし,上記5のとおり,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否
かを決定し,決定結果をコマンドデータとして送信する遊技制御手段と,該
遊技制御手段からのコマンドデータを受信し該コマンドデータに基づいて,
各可変表示部の可変表示動作を停止制御可能な可変表示制御手段とを備える
ことは遊技機の分野における周知・慣用の技術であり,「『特定の識別情報
の組合せにするか否か』の決定に加えて『リーチ状態を発生させるか否か』
の決定を制御手段に備えさせることは,当業者にとっては当然の技術的事
項」(審決謄本10頁第3段落)である。また,本願発明について,表示結
果を特定の識別情報の組合せにするか否かが,可変開始前に決定されて,可
変開始前に遊技制御手段によって決定された決定結果を示すコマンドデータ
が送信されているとはにわかには認められないものであるし,仮に,それを
認め得るとしても,前記4(4)のとおり,同構成は,本件出願前に周知・慣
用の技術であったと認められるのであるから,引用刊行物1発明の制御手段
に対し,上記の遊技機の分野における周知・慣用の技術を適用して,相違点
2に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到すること
ができるものであったというべきである。
(3)原告は,本願発明に係る遊技制御手段は,決定結果としてのコマンドデー
タを前記複数の可変表示部を可変開始させる前に送信し,本願発明に関わる
可変表示制御手段はそのコマンドデータを受信し当該受信したコマンドデー
タに基づいて前記複数の可変表示部を可変開始させているところ,引用刊行
物1及び審決が周知・慣用技術を立証する甲4公報にもこの点の開示がない
旨主張するが,前示のとおり,本願発明が原告主張の構成を備えるものとは
にわかに認められず,また,表示結果を特定の識別情報の組合せにするか否
かが,可変開始前に決定されて,可変開始前に遊技制御手段によって決定さ
れた決定結果を示すコマンドデータが送信されていることは,遊技機の分野
における周知・慣用技術であったと認められるのであるから,同構成が引用
刊行物1及び甲4公報に記載されていないことは,上記(2)の判断を左右す
るものではない。
(4)したがって,原告主張の取消事由6は理由がない。
7以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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弁護士 求人 採用
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激動の時代に
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