弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Cに関する部分を破毀する。
     右被告人に対する事件を仙台高等裁判所に差戻す。
     被告人Dの上告を棄却する。
         理    由
 弁護人遠藤周蔵の上告趣意第一点について。
 原判決書に原審の審理に関与した検事の官氏名の記載がないことも、そのことが
刑事訴訟法第六九条第二項所定の判決書作成手続の規定に違反するものであること
も所論のとおりである。しかし右のような手続規定の違反が、必ずしも常に上告理
由となるのではなくして、上告理由となるべき場合を列挙している刑事訴訟法第四
一〇条は、その第二一号に「判決書ニ判事ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ欠キタルトキ」
を挙げ、その次の条には「前条ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判
決ニ影響ヲ及ボサルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得ズ」と規定
しているから、判決書作成手続の規定に違反したことを理由とする上告は、判事の
署名、捺印又は契印の欠けているとき、若しくはその手続規定の違反が裁判に影響
を及ぼさないこと明白とはいえないときの二種の場合に限られるものと解しなけれ
ばならない。従つて判決書に公判に関与した検事の官氏名を遺脱した違法があつた
場合においても、事実上検事が公判に関与して被告事件の陳述を為す等、公判審理
の手続が適法に施行せられた以上、右の違法は判決に影響を及ぼさないこと明白で
あるから、これを上告の理由とすることはできない。
 記録を調べてみると、原審公判に検事が立会い、その審理手続が適法に施行せら
れたことは、原審公判調書の上に明白であるから、原判決書に立会検事の官氏名の
記載のないことを理由として原判決の破毀を求める論旨は、適法な上告理由となら
ない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決には被告人等に殺人の意思ありや否やに付ての認定に付明確を欠
く違法があるとの主張であるが、原判決の判示に従えば、被告人等は被害者Eが若
し掛け合いに応じなければ「日本刀合口をもつてEやその子分に斬り込みをして報
復しよう。」と取り決めた。もとよりこうして斬り込む上はEやその子分を傷つけ
これを殺すに至ることをも覚悟の上で、ここに共謀して各自兇器を携えてE方に赴
き、相手方からけんかを挑まれるや「もはや斬り込みを行う外ないと決心し」て、
Eを突き刺し、斬りつけなどして、その場で失血死に至らしめたというのである。
これは即ち被告人等がEを殺すに至るかも知れないことを認識しながら、斬り込み
を敢えて行つたことを判示しているのであるから、これを以て殺人の故意の認定を
欠くものとする非難はあたらない。論旨は理由がない。
 弁護人松原正交及び相川耕平の上告趣意第三点について。
 記録を調べてみると、原審第三回公判において、被告人Cの弁護人関川重雄より
証人としてB病院の医師某の喚問を求めたのに対して、原裁判所は検事の意見を聽
き、合議の上、右申出に係る証拠調を採用する旨の決定を言渡したが、その後第四
回及第五回公判において、右B病院の医師某を喚問することなく、又右証拠調の決
定を取消すこともなくして審理を終結し、第六回公判において判決を言渡したこと
明白である。裁判所が証拠調を為す旨の決定をしたときは、自らその決定に拘束せ
られ、その決定を施行しなければならないことは勿論であつて、原裁判所の前記措
置は違法である。もつとも原審第五回公判において、原審相被告人Aの弁護人南出
一雄がさきに申出た証人B病院の医師の喚問の申請を抛棄する旨を申出てはいるが、
証拠調の申請をしたのは被告人Cの弁護人関川重雄であるに対し、申請抛棄の申立
てをしたのは原審相被告人Aの弁護人南出一雄であるから、前者の申請は後者の申
請抛棄によつて適法に撤回されたことにはならないのである。よつて原裁判所の訴
訟手続は違法であり、論旨は刑事訴訟法第四一〇条第一三号によつて理由がある。
原判決は破毀を免れない。そうして右の違法は、事実の確定に影響を及ぼすおそれ
あること明白であるから、被告人Cに関する原判決を破毀して同人に対する事件を
原裁判所に差戻す次第である。
 原判決中被告人Cに関する部分は右の点に於て破毀せられるから、弁護人松原正
交及び相川耕平の、その他の点に関する上告趣意並に弁護人加藤良二の上告趣意に
ついては判断を省略する。
 なお右の破毀の理由は、被告人Cにのみ関することであつて、共同被告人Dには
関係のないことであるから、刑事訴訟法第四五一条の場合に該当しない。従つて被
告人Dに対する原判決は破毀しない。
 以上の理由により刑事訴訟法第四四六条、第四四七条及第四四八条ノ二に従い主
文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二三年一二月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    河   村   又   介

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