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平成28年7月13日判決言渡名古屋高等裁判所
平成27年(行コ)第71号難民不認定処分取消等請求控訴事件
(原審・名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第136号)
主文
1原判決を取り消す。
2法務大臣が平成23年11月14日付けで控訴人に対してした難民の認定を
しない処分を取り消す。
3名古屋入国管理局長が平成23年11月21日付けで控訴人に対してした出
入国管理及び難民認定法61条の2の2第2項による在留特別許可をしない旨
の処分が無効であることを確認する。
4名古屋入国管理局主任審査官が平成23年12月13日付けで控訴人に対し
てした退去強制令書発付処分が無効であることを確認する。
5訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
主文同旨
2被控訴人
()本件控訴を棄却する。1
()控訴費用は控訴人の負担とする。2
第2事案の概要
1本件は,ネパール連邦民主共和国(以下「ネパール」という。)の国籍を有
する控訴人が,難民認定申請(以下「本件難民申請」という。)をしたとこ
①法務大臣からで難民の認定をしない処分ろ,平成23年11月14日付け
(以下「本件難民不認定処分」という。)を受け,②法務大臣から権限の委
任を受けた名古屋入国管理局長(以下,名古屋入国管理局を「名古屋入管」
月21といい,名古屋入国管理局長を「名古屋入管局長」という。)から同
出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の2日付けで
の2第2項に基づく在留特別許可をしない旨の処分(以下「本件在特不許可
処分」という。)を受け,③名古屋入管主任審査官から同年12月13日付
けでネパールを送還先とする退去強制令書発付処分(以下「本件退令発付処
分」という。)を受けたことから,①本件難民不認定処分の取消し,②本件
在特不許可処分の無効確認及び③本件退令発付処分の無効確認を求めた事案
である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が本件控訴をした。
2本件の前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり付加
するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の2ないし4の
とおりであるから,これを引用する。
()原判決5頁23行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。1
「控訴人がネパールを出国し,本邦に入国した平成12年(2000年)
当時,ネパールの政情は,マオイストによる警察への攻撃もあるなど,非
常に不安定で,マオイストは,民間人も標的にして,殺す,負傷させる,
誘拐するなどの行為を続けており,劣悪な人権状況にあった。
本件難民不認定処分がされた平成23年(2011年)当時も,ネパ
ール国内では,対立する政治勢力の和平プロセスや憲法制定会議の停滞
が続き,同年11月には制憲議会の6か月延長が決定されるなど,政情
が安定することはなく,実力行使等の可能性もある緊張状態で,ネパー
ル政府は,有罪判決を受けた軍人やマオイストの逮捕さえ実行できてお
らず,マオイストやマオイストに関係する武装組織等により,年間を通
じて,民間人に対する暴力,恐喝,脅迫が行われるなど,劣悪な人権状
」況にあった。
ネパール政府は,()原判決7頁24行目の「不認定処分当時,」の次に「2
統治能力を失っておらず,実質的に無政府状態となっているような状況に
はなく,マオイストないしAの違法行為に対して取締り等を行ってお
」を加える。り,
マオイスト及びAの違法行為に対し,()原判決7頁25行目末尾の次に「3
ネパール政府が効果的に対処し切れていないだけでは,国籍国の保護を受
当時のネパールの一般情勢におけることができないとはいえないところ,
いて,国家が私人の違法行為を完全に抑止することまでは不可能であったこ
とは明らかであるが,特定の個人又は集団が意図的に監視されて生命の危険
にさらされているとか,統治能力を失うまでに政府の機能が破綻していたも
のではなく,警察等が効果的に対処しきれていないなど国の治安が徹底され
ていないというものにすぎないから,国家による直接的・間接的な作用によ
って迫害を受けるおそれがあるとはいえないし,『国籍国の保護を受けるこ
とができない』ともいえない。」を加える。
第3当裁判所の判断
1本件難民不認定処分の適法性(争点1)について
()難民の認定について1
原判決9頁22行目の冒頭から10頁1行目末尾までを次のとおり改める
ほかは,原判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の1()のと1
おりであるから,これを引用する。
「もっとも,難民条約が,国際連合憲章及び世界人権宣言が人間は基本的
な権利及び自由を差別を受けることなく共有するとの原則を確認している
こと等を考慮して協定されたこと(前文)からも明らかなように,難民の
保護は,単なる恩恵ではなく,普遍的権利に基づく人道上のものとして,
締約国に要請されているものであるし,難民認定申請をする者は,通常,
非常に不利な状況に置かれているのであって,証明責任を不当に厳格に解
して,保護を受ける必要のある難民が,保護を受けられなくなる事態が生
じてはならないというべきである(国連難民高等弁務官駐日事務所作成の
『難民認定基準ハンドブック』(以下『難民認定ハンドブック』とい
う。)では,『難民の地位の認定を申請する者は,通常,非常に不利な状
況に置かれていることが想起されねばならない。そのような者は慣れない
環境の中にあって,しばしば母国語以外の言葉で,外国の当局に自らの事
案を申請するについて技術的及び心理的な重大な困難を経験するかもしれ
ない。』(52頁),『申請を提出する者に立証責任があるのが一般の法
原則である。しかしながら,申請人は書類やその他の証拠によって自らの
陳述を補強することができないことも少なくなく,むしろ,その陳述のす
べてについて証拠を提出できる場合のほうが例外に属するであろう。・・
・立証責任は原則として申請人の側にあるけれども,関連するすべての事
実を確認し評価する義務は申請人と審査官の間で分かちあうことにな
る。』(54頁),『証拠の要件は,難民の地位の認定を申請する者のよ
ってたつ特殊な状況に起因する困難さにかんがみ,あまりに厳格に適用さ
れることのないようにしなければならない。』(55頁)などとされてい
ることは,顕著な事実である。)。また,処分行政庁(法務大臣)も,締
約国として,迫害のおそれのある者を,みだりに送還してはならないので
あり,難民認定手続を難民を保護するために実効性があるものとして,公
正に行うべきことが求められているのであって,取消訴訟における当事者
としての主張立証に当たっても,同様の要請が及んでいるというべきであ
る。
そして,迫害を免れるため出国した申請者は,出国時の自らの周辺状況
については自らも把握できているものであるし,これを立証することも直
ちに困難とはいえないものの,その時点での全国的な状況や,その後,相
当期間が経過した後の状況については,国外にいる者がこれを明確に把握
することは困難であるし,これを立証することも容易ではない。特に,国
内が混乱し,政府の力が及ばず,武装勢力等によって国民が迫害を受ける
恐れのある状況であったものが,その後,治安を取り戻し,迫害を受ける
恐れがなくなったか否か,政府の保護を受けることができるか否か等につ
いて,国外へ離れた申請者の側が把握し,これを立証することは非常に困
難である。これに対し,処分行政庁の側は,在外公館や外交ルートを使う
などして,出国時及び処分時の国籍国の具体的な政治情勢や治安状況を収
集して把握し,立証のための資料とすることは容易であるし,過去の状況
についても,その把握に困難があるものではない(そもそも,訴訟になっ
てから収集すべき性質のものではなく,処分時において収集し,具体的根
拠に基づいて,公正な判断を行うことが求められているものである。)。
そうすると,処分行政庁の側は,単に申請者側の主張立証を争えば足り
るものではなく,積極的な主張立証が要請されているというべきであ
る。」
()認定事実2
本件における事実関係については,以下のとおり付加訂正するほかは,原
判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の1()ア並びに同イ(ア)2
及び(イ)のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決10頁13行目の「開始した。」の次に「マオイストは,ゲリラ
的な組織から発展し,次第に勢力を拡大して,ルクム郡での『人民政府』
の樹立など,ネパール国内の広い地域を支配下に収めていった。その過程
で,殺傷力の高い武器が使用され,マオイストは,警察官や公務員に対し
てだけでなく,民間人に対しても,手足を切断するなどの残虐な行為を行
い,特に平成10年(1998年)から平成11年(1999年)にかけ
ては,「革命の敵」とみなした民間人80人を殺害し,平成12年(20
00年)中には,他の政党のメンバーに対し,衆人環視の下で斬首して殺
害したり,誘拐の後に殺害するなどの挙に出た。同年頃には,マオイスト
と警察との衝突による死者は,警察官の方が多いと報じられる状況であっ
た。」を加え,同頁21行目の「(」の次に「甲16ないし19,2
2,」を加え,「ないし39」の次に「,81,82」を加える。
イ原判決12頁13行目の「選出された。」の次に「しかし,和平プロセ
スや憲法制定作業の停滞が続き,主要政党がカナル首相の辞任を合意する
など,不安定な政治状況が続いていた。」を加え,同頁14行目の「選出
された。」の次に「そして,刑事関係の法案が立法議会に提出され,一部
の地域で警察がマオイストを逮捕したりしているものの,マオイストの違
有罪判決法行為は続き,ジャーナリストや経済人の殺害事件も多発し,
など,法の支配を受けた軍人やマオイストの逮捕さえ実行できていない
の欠如は改善が見られなかった。なお,国際連合は,平成22年(201
0年)中に行われた憲法制定作業に協力するため,国連ネパール政治ミッ
ションを派遣していたが,同作業が進捗しなかったことから,国際連合の
潘基文事務総長(以下『国連事務総長』という。)は,ネパールの和平行
程は不安定で,マオイスト兵の国軍への統合や社会復帰など主要問題は未
解決のままであり,崩壊の危険性は高まっていて,人権問題をめぐる状
況,法の支配なども改善の兆しがなく,ネパール政府の無関心状態が続い
ているとの認識を表明した。しかし,同作業は進捗せず,結局,国連ネパ
ール政治ミッションは,平成23年(2011年)1月15日に撤退し
た。そのほか,政府とマオイストとの間で,国内避難民が安全に尊厳を持
って自主的に故郷に戻るのを支援することが合意されたものの,平成23
年4月8日付けの米国国務省『2010年人権状況報告書:ネパール』に
よると,このような取決めは実行されないままの状態であり,マオイスト
派は,日常的に一般市民やから金銭を巻き上げ,応じない者には暴NGO
力を加えるなどしているが,警察はほとんどの暴力事件に対応していな
い。」を加え,同頁同行目の「(乙35,36)」を「(甲16,20,
23,乙35,36,74,75,83ないし89)」と改める。
ウ原判決12頁21行目の「(乙36,47)」を「しかし,国軍からの
激しい抵抗もあり,その具体化については,ほとんどが平成24年(20
12年)に持ち越され,しかも,これについては,主要政党と国軍を巻き
込んだ政治的駆け引きの場となることは火を見るよりも明らかな情勢にあ
るものと考えられていた。(甲21,乙36,47,70ないし73)」
と改める。
エ原判決13頁20行目の「こともない。」から同頁21行目末尾までを
次のとおり改める。
「こともないが,マオイストの活動に対しては,テロリストと同じだと考
えており,明らかに否定的な立場であった。
控訴人は,英語教師として稼働していた平成11年(1999年)1
2月頃,aにおいて,喫茶店でコーヒーを飲んでいたところ,見知らぬ
男性から,マオイストの活動に参加するよう求める旨の手紙を渡された
が,控訴人は,マオイストには入党せず,そのままにしておいた。
その後,平成12年(2000年)1月頃,控訴人は,仕事から帰宅
する途中,五,六人の銃を所持しているマオイストに囲まれ,自動車に
乗せられ,さらに,自動車から降りたところで,手を後に回され,徒歩
でジャングルの奥まで連行された。そこで,控訴人は,マオイスト達か
ら,入党の勧誘に返事をしないことを責められ,銃を突きつけられ,言
うことを聞かなかったら自分たちが何をするか分かっているだろうなど
と脅された。控訴人は,時間を下さいと述べるなどしてその場をしの
ぎ,元の場所へ戻されて解放された。
控訴人は,マオイストに入党しなければ銃で撃たれると考えたため,
控訴人の母(E)と相談し,夜間,バスでネパールの首都カトマンズに
逃れ,a出身の知り合いが経営するホテルに滞在させてもらい,仕事を
手伝ったり,経営者の娘の家庭教師をしたりしていた。
(甲15,控訴人本人)」
オ原判決13頁22行目の「ブローカーから」を「海外へ逃れたいと思う
ようになっていたところ,ホテルで出会ったブローカーから,安全な国で
あるとして,」と改め,同頁23行目の「考えるに至り,」の次に「一
旦,夜間にaへ戻り,両親に別れを告げ,勤務先にも了解も得た上,再び
夜間にカトマンズへ来て,」を加える。
カ原判決14頁2行目の「原告は,」の次に「難民認定申請についての知
識がなく,」を加え,同頁4行目の「乙20」を「甲15,乙20,3
2,控訴人本人」と改める。
キ原判決14頁4行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「e控訴人の母は,平成17年(2005年)頃,家族が外国に行ってい
ることを理由としてマオイストから金を差し出すよう要求されて2万5
000ルピーを支払った。さらに,控訴人の母は,平成23年(201
1年)秋頃,マオイストの青年組織であるAから,控訴人が日本にいる
ことを理由として2万ルピーを支払うよう要求された。(甲15,乙3
2,控訴人本人)」
ク原判決は14頁14行目の「かった。」の次に「しかし,控訴人は,平
成14年(2002年)に控訴人の父が死亡した際にも,マオイストが怖
かったため,ネパールに帰国しなかった。また,控訴人は,控訴人の母か
ら,大学時代の友人や先輩が殺されたり,暴行を受けたりしていること,
元勤務先の経営者の息子が連れ去られ,軍隊のような仕事をさせられ,半
年ほどで戻されたこと等を聞いていた。」を加える。
ケ原判決14頁14行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(ウ)本件難民認定申請等
控訴人は,ネパールに帰国すれば,殺されたりするなど,マオイスト
から何をされるか分からないとの恐怖心を持っていたところ,愛知県豊
田市のネパール食材店のオーナーから,難民認定申請について教えても
らい,これを行うために,平成23年7月7日,自ら名古屋入管に出頭
し,不法残留の事実を申告するとともに,本件難民申請をした。控訴人
は,仮に本件難民申請が認められない場合でも,マオイストへの恐怖か
ら,ネパールへの帰国は望んでおらず,第三国への出国を希望してい
る。(甲15,乙5,7,20,32,控訴人本人)」
()事実認定についての補足3
ア被控訴人は,マオイストによる脅迫等に関する控訴人の供述には主要部
分につき変遷がみられるから,信用することはできないし,控訴人がマオ
イストからの脅迫を立証する証拠として提出した文書の記載内容等はいず
れも極めて不自然で,信用性はないなどと主張する。
しかし,控訴人が述べているマオイストからの接触や,連行され,脅
迫,強要を受けたという点については,主要な部分において一貫してお
り,不自然ではなく,誇張等もうかがわれず,前記認定に係る当時のネパ
ールにおけるマオイストの活動状況にも合致し,十分に信用できるもので
ある。控訴人の供述が書証の記載からは食い違っているようにみられると
ころについても,質問の仕方や,通訳の仕方,まとめ方によって異なり得
るものであるから,信用性を失わせるものではない。
また,控訴人がマオイストからの脅迫等の証拠として提出した各文書
(乙29,31)については,そもそも,控訴人がマオイストから脅迫,
強要を受けたなどとして述べる事実自体,控訴人及び控訴人に脅迫等を行
ったマオイストのほかに目撃者等がいたというものではなく,控訴人がそ
の時点で警察等に被害届等を出して,捜査が行われたというものでもない
から,これを直接的に裏付けることはほとんど不可能に近いものであっ
て,上記各文書の信用性等は,直ちに上記認定を左右するものではない。
なお,上記各文書は,控訴人が控訴人の母に依頼して事後的に入手したも
のであるから,これらの作成者は,控訴人の母が述べるところに基づいて
上記各文書を作成したと考えられるところ,控訴人の母が述べるところ
が,控訴人がネパールから出国した当時の状況から不自然ではないこと,
平成23年(2011年)11月15日(乙29)ないし平成24年(2
012年)3月27日当時,控訴人が出国時に居住していたaの周辺が,
いまだに控訴人のような立場の者が帰国するのには安全でないことを示し
ているものということができ,これについては,前記認定のネパールの一
般的状況に照らし,信用できるものである。
なお,被控訴人は,大阪入国管理局における第1回口頭意見陳述・審尋
調書(乙33)を提出しているが,控訴人について難民の認定に関する意
見を提出したと考えられる難民審査参与員は,「私たちは,ネパールの件
を何件も担当していますが,この種のことは極めて一般的ですし,さらに
言えば,これまで経験したケースと比べると,被害の度合いは極めて低い
という事実を指摘せざるを得ません。」(16頁)と発言している。この
発言は,控訴人に対し,難民審査参与員が本件難民認定申請の理由とされ
ているマオイストには入党したくないのに強制的に連行され銃を突きつけ
られて入党を強要されたという程度では,難民認定はしないとの意見を有
しており,このような立場から質問等を行い,法務大臣に対する意見を述
べるのではないかとの危惧を生じさせるものである。難民審査参与員がこ
のような発言をすることは,法務大臣の難民の認定に関する処分について
疑義が生じかねないものであって,難民条約及び難民議定書の締約国の難
民認定に関する姿勢としても到底望ましいものとはいえないのである(難
民認定ハンドブック56頁では,審査官についての記述ではあるが,「当
該事案の事実についての審査官の結論及び申請人についての審査官の個人
的印象が人間の命に影響するような決定をもたらすことになるのであるか
ら,審査官は正義と理解の精神で基準を適用しなければならず,申請人は
『保護に値しない事案』であるかもしれないといった個人的な考慮によっ
てその判断が影響されるようなことがあってはならない。」とされてい
る。)。
イ被控訴人は,控訴人は政治的意見を有していないに等しいというべきで
あるから,控訴人がマオイストから政治的意見を理由として敵視されてい
たとは認められないなどと主張する。
しかし,前記認定のとおり,控訴人は,マオイストはテロリストと同じ
だと考えており,マオイストの行動に同調できず,マオイストに加わるこ
とはできないという点において,確たる政治的意見を有しているのである
し,マオイストからの入党の求めに応じなかったことにより,その意見を
マオイストに対して表明したに等しい。そうである以上,控訴人を連行し
て,脅迫,強要を行ったマオイストが,控訴人を名前,住所,風貌等から
特定し,マオイストに参加しないとの政治的意見を有していることを理由
に控訴人を敵視するに至ったと認めるのが相当である。
ウ被控訴人は,控訴人が,本件難民申請をしたのは,本邦に入国してから
約10年9か月が経過した平成23年(2011年)7月7日で,その
間,関係官署に庇護を求めることなく,不法就労を行って得た収入をネパ
ール在住の母に送金するなどしており,これらの控訴人の一連の行動によ
れば,自己の生命・身体に関わる迫害の恐怖を抱いていた者のとる行動と
して,不自然・不可解というほかないなどと主張する。
しかし,前記認定のとおり,控訴人は,難民認定申請について知らなか
ったのであり,不法残留等により摘発されたことから本件難民申請をした
わけではなく,難民認定申請について教えられると,自ら名古屋入管に出
頭し,不法残留の事実を申告するとともに,本件難民申請をしたのであっ
て,不自然でもないし,不可解でもない。被控訴人の主張は,迫害を免れ
るため本邦に入国した者が難民認定についての知識を有していることを前
提とするものであるが,そのような事実を認めるに足りる証拠はないし,
そのような経験則も認められないのであって,失当というほかない。そし
て,控訴人は,大学院修士課程まで進学し,大学で英語を履修し,中学校
で英語の教員をして月3000ネパールルピーの給与を得ていたのであ
り,ネパールにいれば知的労働に従事できる可能性が高いのに対し,日本
では不安定な肉体労働等に従事するしかないにもかかわらず,帰国を希望
していないこと,いわゆる一人息子であるのに,平成14年(2002
年)に父Fが死亡した際にも帰国しておらず,年老いた母Eが一人残され
ているのにネパールへの帰国を希望せず,難民認定されない場合には,第
三国への退去を希望していることからしても,控訴人が,マオイストから
の生命・身体に関わる迫害の恐怖を抱いていたことは明らかというべきで
ある。
エ被控訴人は,控訴人の母がマオイストから多額の現金を要求された旨の
控訴人の供述は,献金の額及びその時期等の供述が大きく変遷しており,
信用性が認められないなどと主張する。
しかし,上記の事実関係については,そもそも控訴人が自ら経験したも
のではなく,伝聞であり,しかも対面して聞いたのでもなく,電話で聞い
たという点で不正確になる可能性が高いものであるから,一部に変遷がみ
られたとしても,信用性が否定されるものではない。
()控訴人の難民該当性について4
アまず,前記認定のとおり,控訴人は,マオイストの行動に同調できず,
マオイストに加わることはできないという点において,確たる政治的意見
を有しているのであり,マオイストは,控訴人がマオイストに参加しない
ことについて,控訴人を連行した上,脅迫,強要を行い,控訴人は,この
ような状況から免れるためにネパールを出国したのである。そして,前記
認定に係るネパールにおけるマオイストの活動状況等によれば,控訴人が
におネパールを出国し,本邦に入国した平成12年(2000年)当時
,控訴人が,ネパールを出国しなければ迫害を受けるおそれがあるいて
本件難民不認定処分がされた平成23年(2011年)当時にと考え,
,控訴人が,ネパールに戻れば迫害を受けるおそれがあると考えおいて
ることにはいずれも合理性があり,これは客観的にみて耐え難い状況であ
って,通常人が控訴人の立場に置かれた場合に迫害の恐怖を抱くような客
観的事情が存在しているものといえる。
したがって,控訴人は,政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある
という十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者である
と認められる。
イ被控訴人は,迫害主体と国籍国の保護について,難民に該当すると認め
られるためには,迫害の主体が国籍国の政府そのものであるか,そうでな
い場合には,政府が当該迫害を知りながらこれを放置ないし助長するよう
な特別の事情が必要であり,本件難民不認定処分当時,ネパールは,無政
府状態ではなく,ネパール政府は,マオイストの違法行為の取締りをして
おり,マオイストによる違法な暴力行為を放置ないし助長していたことは
なく,控訴人は,特定の個人又は集団として意図的に監視され,生命の危
険にさらされていたわけではなく,国籍国の保護を受けることができる者
で,警察等が効果的に対処しきれていないなど国の治安が徹底されていな
いというにすぎないから,国家による直接的・間接的な作用によって迫害
を受けるおそれがあるとはいえないし,「国籍国の保護を受けることがで
きない」ともいえないもので,難民には該当しないなどと主張する。
しかし,上記特別の事情とは,政府が迫害を放置ないし助長している場
合のほか,迫害の主体が公然かつ広範囲に迫害行為を繰り返し,政府がこ
れを制止し得ず,制止し得る確実な見込みもない場合も含まれると解すべ
きである。
そして,前記認定のとおり,控訴人がネパールを出国し,本邦に入国し
た平成12年(2000年)当時,ネパールでは,マオイストが勢力を拡
大し,「人民政府」の樹立など,ネパール国内の広い地域を支配下に収
め,殺傷力の高い武器を使用して,多くの民間人を殺害し,マオイストと
警察との衝突による死者は警察官の方が多いと報じられるなど,混迷を極
めていたのであるから,マオイストが公然かつ広範囲に迫害行為を繰り返
しているにもかかわらず,ネパール政府はこれを制止し得ず,制止し得る
確実な見込みもなかったというほかない。
本件難民不認定処分がされた平成23年(2011年)当時また,
刑事関係の法案が議会に提出され,一部地域で警察も,ネパールでは,
がマオイストを逮捕したりしているものの,マオイストの違法行為は続
有罪判決を受けた軍き,ジャーナリストや経済人の殺害事件も多発し,
法の支配の欠如は改善が人やマオイストの逮捕さえ実行できておらず,
見られず,政府とマオイストとの間で,国内避難民が安全に故郷に戻るの
を支援することが合意されたものの,実際には実行されないままで,マオ
イストは,日常的に一般市民やから金銭を巻き上げ,応じない者にNGO
は暴力を加えるなどしているが,警察はほとんどの暴力事件に対応してい
ない状態であった。他方,同年11月1日に,マオイストを含む主要3党
間で,軍の統合問題に関する合意がされ,1万9000名を超える元マオ
イスト兵が,①国軍への統合,②社会復帰プログラムの受講,又は③退職
金支払による自主除隊を選択し,紛争中に占拠した家や土地などを返還す
ること等が決められたが,国軍からの激しい抵抗もあり,その具体化につ
いては,ほとんどが翌年に持ち越され,主要政党と国軍を巻き込んだ政治
的駆け引きの場となることが不可避と考えられていた。これらの事実に照
らすと,この時点でも,マオイストは公然かつ広範囲に迫害行為を繰り返
していたにもかかわらず,ネパール政府は,これを制止し得ず,制止し得
る確実な見込みもなかったと認めるのが相当である。
したがって,控訴人は,国籍国(ネパール)の保護を受けることができ
ない者に該当すると認められる。
ウ以上によれば,控訴人は,政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国(ネパール)の外
にいる者であって,国籍国(ネパール)の保護を受けることができない者
であるから,難民に該当するものと認められる。
本件難民不認定処分は()以上のとおり,控訴人は,難民に該当するから,5
違法なものであり,取消しを免れない。
2本件在特不許可処分の無効事由の有無(争点2)について
前記1のとおり,控訴人は,難民に該当するから,本件在特不許可処分は,
控訴人が難民に該当しないとの誤った前提に立つものであり,処分行政庁(名
古屋入管局長)の裁量権の範囲を逸脱し,かつこれを濫用する違法なものであ
り,無効である。
3本件退令発付処分の無効事由の有無(争点3)について
前記1のとおり,控訴人は,難民に該当するから,控訴人をネパールに送還
することは許されず,ネパールを送還先としてされた本件退令発付処分は無効
である。
本件難民不認定処分を取り消し,本件在4よって,原判決を取り消した上,
することと特不許可処分の無効及び本件退令発付処分の無効をそれぞれ確認
して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官上杉英司
裁判官長谷川恭弘は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官藤山雅行

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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