弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 本件訴を却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和五四年六月八日付でなした医業停止処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前)
主文同旨
(本案)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 木案前の答弁の理由
原告が本件において取消を求める医業停止処分(以下「本件処分」という。)は、
昭和五四年六月一五日から同年九月一四日まで医師である原告に対し医業の停止を
命じたものであるところ、右期間は既に経過しており、しかも、原告は、本件処分
を取り消さなければ回復し得ないような法律上の不利益を何等受けていないのであ
るから、本件訴訟につき訴の利益を失つたものである。
二 本案前の答弁の理由に対する原告の反論
被告主張のとおり本件訴訟における口頭弁論終結時(昭和五五年七月七日)におい
ては既に本件処分の期間は経過しているが、以下の理由によつて、原告は本件処分
の取消により回復すべき法律上の保護に価する利益を有しているから、未だ本件訴
訟につき訴の利益を失うものではない。
1 将来原告において非違行為があり、医師法七条二項の処分が問題となつた場合
に、本件処分の存することが加重事由とされることは明らかである。
2 医師の業務については、患者の信用が極めて重要であるところ、本件処分を受
けたことによつて原告の業務上の信用は著しく低下したものであつて、その結果、
原告又は原告の所属する医療機関が著しい経済的不利益を受けることは明らかであ
る。
3 原告は、昭和二六年から今日まで営々として医療業務に専念し、医師としての
公共的使命を果たしてきており、そのかたわら新潟大学医学部における研究により
昭和三〇年には医学博士の学位を取得するなど、高度の専門的知識及び技能の保持
に努めてきたのであるが、本件処分を受けた事実が新聞・テレビ等により報道さ
れ、また、医籍に登録されたために、原告のこれまでに築いてきた高い社会的地位
及びその名誉は、患者や一般市民、他の医師等に対する関係で著しく毀損されたの
である。そして、原告の名誉を回復するための最も簡明で直截的な手段は、国家賠
償請求等ではなく、本件処分の取消を得ることである。
三 請求原因
1 原告は昭和二五年医師国家試験に合格し被告の免許を受け、昭和二六年四月以
降医業に従事してきた医師であるところ、被告は昭和五四年六月八日付で原告に対
し、同月一五日から同年九月一四日までの期間医業の停止を命ずる旨の本件処分を
なした。
2 本件処分は、被告がその裁量権の範囲を越えたか、又はこれを濫用してなした
ものであつて、違法なものである。即ち、
(一) 本件処分は、原告が昭和五三年八月一七日新潟簡易裁判所において診療放
射線技師及び診療エツクス線技師法違反(同法二四条一項、三項、二条二項)で略
式命令により罰金一万円に処せられたことをもつて、医師法四条二号に該当すると
して、被告において医師法七条四項、五項の手続を経由した上なされたものであ
る。
(二) ところで、医師法七条二項の医師免許の取消又は医業停止処分に関する規
定は、一定の非違事由のあつた医師に対し、特別予防的見地から行政制裁を加える
ことを目的としており、被告としてはその裁量に当たり、必要な場合に限り必要な
限度でのみ、行政制裁を課すべきであり、いわゆる比例原則を遵守すべきである。
ところが、原告の前記法令違反と本件処分については、その法定刑及び罪数に照ら
し、原告が科せられた罰金一万円は極めて軽い量刑であること、原告は右違反事実
を率直に認めて深く反省しており、病院長の職を辞するなど改悛の情が顕著である
こと、無資格者による診療エツクス線の照射ではあつたが、何等の被害も発生しな
かつたこと、我が国では診療エツクス線技師が極めて不足しており、多くの医療機
関において、特に移動レントゲン車には有資格者が乗つていないことが往々にして
あつたものであり、このような医療の実情も考慮されるべきこと、原告には他に前
科も無く、真面目に医療業務に従事してきた者であること等の諸事実からして、既
に刑事罰と社会的制裁を受けた原告に対して行政制裁は不要であり、少くとも三か
月間の医業停止処分は重きに失するものである。したがつて、本件処分は前記の比
例原則に違反することが明らかである。
(三) また、これまでの実例をみても、医師が罰金以上の刑に処せられても、前
記行政制裁を受けない場合が非常に多く、医事に関しては懲役刑に処せられても行
政制裁を受けない事例がかなり存する。さらに、本件処分と同日付でなされた他の
医師及び歯科医師に対する制裁の内容を比較検討すると、原告の受けた罰金一万円
の刑に対し三か月間の医業停止処分という制裁は、格段に均衡を失して重いもので
あることが明らかである。以上の事実からすれば、本件処分は、被告が裁量に当た
つて遵守すべき平等原則にも違反したものというべきである。
よつて、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(二)、(三)の主張は争う。
本件処分は、次のような経緯でなされたものであり、内容も妥当で、何等違法の点
は存しない。
(一) 原告は、昭和五三年八月一七日新潟簡易裁判所において、診療放射線技師
及びエツクス線技師法違反(医師、歯科医師、診療放射線技師及び診療エツクス線
技師のいずれでもない者一二名と共謀のうえ、同人らにおいて、同年四月一日から
同年七月四日にかけて、三五の事業所における健康診断に際し、合計一六六名に対
し、胸部間接撮影用のエツクス線を照射した事実)により、罰金一万円に処せられ
た。
(二) 医師である原告が罰金刑に処せられたことは、医師法七条二項所定の処分
事由に該当するので、被告は、昭和五三年九月九日新潟県衛生部医務課長をして原
告の弁明を聴取させ、昭和五四年六月八日医道審議会の意見を聴いたうえ、原告の
前記法令違反の内容が重大であつて回数も多いこと、社会に与えた影響が大きいこ
と等諸般の事情を考慮し、被告の裁量権の範囲内において、原告に対し本件処分を
なしたものである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 被告が昭和五四年六月八日付で、医師である原告に対し、同月一五日から同年
九月一四日まで医業停止を命ずる旨の本件処分をなしたことは、当事者間に争いが
ない。
二 そこでまず、本件処分による医業停止期間が既に経過している本件口頭弁論終
結時(昭和五五年七月七日)において、なお原告が本件処分の取消を求める法律上
の利益を有するか否かについて検討する。
1 行政処分の取消の訴は、当該処分の効果が期間の経過その他の理由により消滅
した後においても、なお法律上の利益を有する者に限り、これを提起することがで
きるとされているところ(行政事件訴訟法九条括孤書)、右法律上の利益とは当該
処分の直接的効果としての不利益が何等かの具体的な法律関係において残存し、且
つ、当該処分を取消さなければ右不利益が除去されない状態にある場合をいうもの
と解すべきである。
2 そこで、原告の主張につき順次検討するに、まず、本件処分が将来において原
告の受ける可能性のある同種の制裁的処分の際に加重事由になる旨の主張にづいて
は、医師法中にも、また関連法規の中にも、本件処分をその法定の加重要件とする
法条は存在しないのであるから、仮りに原告が将来受ける可能性のある制裁的処分
の際に本件処分が不利益に考慮される虞れが存するとしても、それは情状として事
実上考慮される蓋然性があるにすぎず、法律上の不利益とはいい難いものである。
次に、原告は、本件処分によつて業務上の信用が低下し、原告又は原告の所属する
医療機関が経済的不利益を受け、また、本件処分が報道され、医籍に登録されたた
め、原告の名誉が毀損されたから、右の経済的利益及び人格的利益の侵害の回復を
図るため本件処分の取消を求める必要がある旨主張する。しかしながら、仮りに原
告主張のように経済的利益及び人格的利益が侵害されたとしても、それは本件処分
の直接的効果ではなく、不利益処分に多少とも共通して伴う副次的な結果にすぎな
いものであるから、行政事件訴訟法九条括孤書において法が特に要求した法律上の
利益を根拠づけるに足りないというべきである。しかも、右のような侵害の回復
は、既に医業停止期間の経過した本件処分の取消によつてではなく、国家賠償法上
の損害賠償請求訴訟によつて直截的にその救済を求めることができ、且つこれをも
つて足りるものというべきである。
3 右に検討したとおり、原告は、本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利
益を有せず、したがつて本件訴は訴の利益を欠くものといわざるを得ない。
三 以上の次第で本件訴は、不適法であるから、本案について判断するまでもな
く、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事
訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 豊島利夫 羽田 弘 小林孝一)

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