弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を仙台高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人庄司作五郎及び同中里建夫の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通
りである。
 弁護人庄司作五郎及び同中里建夫の上告趣意について。
 論旨は多岐にわたつているが結局原判決が本件控訴申立を不適法として却下した
のは違法であるというに帰着する。按ずるに旧刑事訴訟法第四六条同第三七九条の
趣旨は、主として原審に関与した弁護人はその審理に基く判決に対し上訴を為すべ
きか否かを独立して決定するに適するものと認めたからである。それ故原審の弁護
人でない者、若くは判決宣告後において被告人の選任した弁護人は、たとい被告人
の明示した意思に反しなくとも、独立しては上訴を為すことを得ないものと解しな
ければならない。記録に徴するに、被告人は弁護人を選任することなく、昭和二三
年二月二七日仙台地方裁判所石巻支部において有罪の判決を受け、その後同年三月
二日弁護士中里建夫を弁護人に選任し同弁護人は其名において同日控訴の申立を為
したものであることが明らかであるから、同弁護人は所謂原審における弁護人には
該当しない。従つて被告人の為独立しては上訴を為し得ないといわなければならな
い。しかし被告人は弁護士に対し特に上訴を為すことを依頼する旨を明示しなくと
も自ら上訴をしないで、上訴審における弁護を弁護士たる弁護人に依頼したときは、
上訴をすることをも依頼したものと見るを相当とするから、かかる場合はその弁護
人は被告人を代理して被告人の為上訴をすることができるものと言はなければなら
ない。そして上訴をなすに当つては、被告人の代理たる旨を明示することは必ずし
も必要とするものではなく、弁護届、上訴状等により、其趣旨を看取し得るを以て
足るものと言はなければならない。前に述べたとおり本件においては、被告人は自
ら上訴を為すことなく弁護士中里建夫に控訴審における弁護を依頼する旨の弁護届
を同弁護士と連署して第一審裁判所に提出し同時に同弁護士において第一審判決に
対し控訴を為す旨の控訴状を同裁判所に提出したのであるから、同弁護士の控訴状
は被告人を代理して被告人の為に控訴の申立をしたことを窺い知ることができる。
それ故本件控訴は適法に申立てられたものと言はなければならない。然るに原判決
は右弁護士中里建夫は旧刑事訴訟法第三七九条に所謂原審の弁護人でない点にのみ
着眼し同弁護士は被告人を代理して上訴の申立を為したることを看過し、適法にな
されたる控訴申立を不適法として却下したるものであるから本件上告は理由がある。
 よつて刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四四七条同第四四八条ノ二により
主文の通り判決する。(昭和二三年(れ)第三七四号事件同二四年一月一二日大法
廷判決参照)
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二四年二月八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    河   村   又   介

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