弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
中央労働委員会が、同委員会平成18年(不再)第4号事件及び同第7号事件
について平成19年8月1日付けでした命令のうち、主文第Ⅰ項の1の上記第4
号事件再審査被申立人兼上記第7号事件再審査申立人A及び同Bに関する部分及
び主文第Ⅰ項の2をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は、中央労働委員会が、原告に対し、参加人A、同B及び同Cに対し、一
時金及び給与の額を是正した上、未払分の支払(主文第Ⅰ項の1)及び参加人ら
への文書交付を命じた(主文第Ⅰ項の2)命令について、原告が、参加人A及び
同Bに対する一時金及び給与の額の是正並びに未払分の支払、文書交付を命じた
部分を不服として、その取消しを求めた事案である。
1前提事実(証拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣
旨により認められる)。
(1)当事者等
、、、。ア原告は幼稚園中学校高等学校及び大学を設置する学校法人である
イ(ア)参加人松蔭学園教職員組合(以下「参加人組合」という)は、昭。
和55年4月6日に結成された原告に勤務する教員で組織する労働組合
である。
(イ)参加人A(昭和▲年▲月生まれ)は、昭和48年、高等学校の社会
科教諭として原告に採用された者で、参加人組合の組合員であり、平成
18年3月末日、原告を定年退職した。
(ウ)参加人B(昭和▲年▲月生まれ)は、昭和49年、高等学校の家庭
科教諭として原告に採用された者で、参加人組合の組合員であり、昭和
56年11月20日、原告から解雇されたが、平成8年4月1日、解雇
を無効とする判決の確定によって原告に職場復帰した。
(エ)参加人C(昭和▲年▲月生まれ)は、昭和45年、高等学校の英語
科教諭として原告に採用された者で、参加人組合の組合員である。
(2)原告と参加人Aとの間の訴訟等
ア原告は、参加人Aを、昭和56年4月から、職員室の一角に机を移動し
て生徒や教職員との接触を禁止し、昭和57年3月8日、書類、ロッカー
が置いてある部屋の一部を仕切った部分である「第三職員室」への入室を
命ずるなどして隔離し、昭和61年9月2日、課題を与えずに自宅研修を
命じた。
イ参加人Aは、原告から、昭和55年4月以降、月額給与(以下「賃金と
いうこともある)として昭和54年度の給与額である14万7500円。
の支給を受けていたが、一時金(夏期、冬期、年度末に支払われるもの。
一般的にいう賞与に相当し、以下「賞与」ということもある)は、昭和。
54年12月以降、全く支給されなかった。
ウ参加人Aは、東京地方裁判所に、昭和61年9月、原告を被告として、
前記アイのとおり、隔離や自宅研修を命じられ、賃金据置き等の差別的取
扱いを受けているのは、参加人Aが組合活動を行っていることを理由とし
た不当労働行為であって、業務命令権の行使を濫用した不法行為であると
して、損害賠償を求める訴えを提起した。
エ東京地方裁判所は、平成4年6月11日、前記ウの事件について、隔離
や自宅研修は不当労働行為であり違法であるとして、原告に対し、参加人
Aへ、慰謝料400万円を支払うよう命ずる判決を言い渡した。
、、、原告は上記判決を不服として控訴し参加人Aは附帯控訴したところ
東京高等裁判所は、平成5年11月12日、控訴を棄却し、慰謝料を60
0万円に増額する判決を言い渡し、同判決は確定した。
(3)原告と参加人Bとの間の訴訟等
ア原告は、昭和56年11月20日、参加人Bを普通解雇した。
イ原告は、東京地方裁判所に、昭和57年2月、参加人Bを被告として、
雇用関係不存在確認の訴えを提起し、参加人Bは、昭和59年11月、解
雇無効を前提として賃金の支払を求める反訴を提起した。
ウ東京地方裁判所は、平成5年6月23日、前記イの事件について、参加
人Bに対する解雇は無効であるとして、原告の本訴請求を棄却し、参加人
Bの反訴請求について、原告に対し、参加人Bへ、賃金と付加金を支払う
よう命ずる判決を言い渡した。
原告は、上記判決を不服として控訴したが、東京高等裁判所は、平成7
年6月22日、控訴棄却の判決を言い渡し、原告は、同判決を不服として
上告したが、最高裁判所は、平成8年2月22日、上告を棄却した。
(4)参加人Aと原告及び参加人Bと原告との間の和解
ア参加人らは、東京都労働委員会に対し、昭和56年から昭和58年にか
けて、原告による参加人Aに対する職務外し、組合活動に対する干渉や、
隔離及び自宅研修命令、参加人Bの解雇について、不当労働行為救済を求
める申立てをしていたところ、東京都労働委員会は、原告に対し、平成5
年1月28日、参加人A及び同Bの原職復帰、バックペイ、組合活動への
干渉禁止等を命ずる平成4年11月24日付け命令書を交付した。
原告は、中央労働委員会に対し、平成5年2月9日、上記命令を不服と
して再審査を申し立てた。
イ原告と東京私立学校教職員組合連合会(以下「東京私教連」という、。)
参加人組合及び同Aは、前記(2)エの判決が確定したのを受けて、参加人
Aの職場復帰について交渉し、平成7年3月3日、前記アの再審査申立事
件の係属する中央労働委員会において、大要、以下のとおりの和解をした
(以下「本件A和解」という。。)
(ア)原告は、参加人Aに対し、平成7年3月1日付けをもって自宅待機
命令を解除して職場復帰を認めるとともに、原告が相当と認める校務分
掌を担当させる。
(イ)平成7年3月分及び平成7年度における参加人Aの賃金は、月額2
7万9000円とする。
(ウ)原告は、参加人Aに対し、平成8年度から授業を担当させることと
する。ただし、参加人Aが就業規則、内規に違反した場合には、これを
次年度に延期することがある。
(エ)原告は、東京私教連及び参加人組合に対し、和解金として1736
万円を支払う。
(オ)本和解成立により、原告は、本件再審査申立事件のうち参加人Aに
関する部分を取り下げ、参加人組合及び同Aは、当事者間の東京都労働
委員会平成2年(不)第56号事件及び同平成5年(不)第23号事件
のうち参加人Aに関する部分を取り下げるとともに、本件初審命令のう
ち参加人Aに関する部分の履行を求めない。
(カ)原告と参加人組合(東京私教連を含む)及び参加人Aは、本和解。
成立をもって参加人Aに関する問題が一切円満に解決したものであるこ
とを確認し、この和解協定書成立に至るまでの間における問題につき、
原告に対しいかなる請求、異議の申立てをしない。
ウ原告と東京私教連、参加人組合及び同Bは、前記(3)ウの判決が確定し
、、、たのを受けて参加人Bの職場復帰について交渉し平成8年5月29日
前記アの再審査申立事件の係属する中央労働委員会において、大要、以下
のとおりの和解をした(以下「本件B和解」といい、本件A和解と総称し
て「本件各和解」という。。)
(ア)原告は、参加人Bに対する昭和56年11月20日付け解雇の意思
、、表示を撤回し平成8年4月1日から同人の職場復帰を認めるとともに
原告が相当と認める校務分掌を担当させる。
(イ)平成8年度における参加人Bの賃金は月額27万円とする。
(ウ)原告は、参加人Bに対し、平成9年度から授業を担当させることと
する。ただし、参加人Bが原告の就業規則、内規に違反した場合には、
これを次年度に延期することがある。
(エ)原告は、参加人B、私教連及び参加人組合に対し、和解金として1
456万2925円を支払う。
(オ)本和解成立により、原告は、本件再審査申立てを取り下げ、参加人
組合及び同Bは、当事者間の東京都労働委員会平成2年(不)第56号
事件及び同平成5年(不)第23号事件のうち参加人Bに関する部分を
取り下げるとともに、本件初審命令の履行を求めない。
(カ)原告と参加人組合(東京私教連を含む)及び参加人Bは、本和解。
成立をもって参加人Aに関する問題が一切円満に解決したものであるこ
とを確認し、この和解協定書成立に至るまでの間における問題につき、
原告に対しいかなる請求、異議の申立てをしない。
(5)原告と参加人らの間の給与及び一時金の妥結状況並びに仮処分における
和解
原告は、参加人組合に対し、参加人Aについては平成7年度以降、参加人
Bについては平成8年度以降、給与につき、毎年7月に、当該年度の給与額
として、平成7年度(参加人Aのみ)と平成8年度は、本件各和解における
給与額を、平成9年度は、本件各和解における給与額を基礎としてこれに昇
給させた金額を、平成10年度以降は、前年度の提示額を基礎としてこれに
昇給させた金額を、それぞれ提示し、一時金につき、毎年7月と12月に、
いずれも給与の(以下も同様である)1.0か月分とする提示をしたが、参
、。、、加人らはこれに応じず妥結しなかった原告は参加人A及び同Bに対し
、、平成9年度以降平成8年度の給与額であるそれぞれ月額27万9000円
27万円を支給し、参加人Aについては平成7年度以降、参加人Bについて
は平成8年度以降、賞与を支給しなかった。
参加人A及び同Bは、東京地方裁判所において、各年度の給与額及び賞与
の提示後、原告を債務者として、各年度の給与及び賞与につき、給与につい
ては原告提示額と支給額との差額、賞与については原告提示額又はそれを上
回る金額の仮払を求めて仮処分を申し立てた。参加人A及び同Bと原告は、
各年度の各仮処分申立事件において、各年度の賃金額及び賞与額についての
合意が未だ成立しておらず、具体的な賃金請求権及び賞与請求権が発生して
いないことを確認した上で、原告が、参加人A及び同Bに対し、おおむね原
告提示の給与額及び賞与と支給額との差額の約7割を仮払金として支払うと
の和解をした(乙69ないし73(枝番含む、77(枝番含む、10。。)。)
1ないし107、弁論の全趣旨)
(6)本件救済申立ての経過等
ア参加人らは、東京都労働委員会に対し、平成13年3月27日、原告を
被申立人として、参加人Aに対する平成7年度及び平成8年度の夏期・冬
期・年度末一時金支給差別並びに平成9年度から平成11年度までの給与
引上げ及び夏期・冬期・年度末一時金支給差別、参加人Bに対する平成8
年度の夏期・冬期・年度末一時金支給差別並びに平成9年度から平成11
年度までの給与引上げ及び夏期・冬期・年度末一時金支給差別、並びに参
加人Cに対する平成11年度の給与引上げ及び夏期・冬期・年度末一時金
支給差別について、救済を求める申立てをした(東京都労働委員会平成1
3年(不)第20号事件(以下「本件救済命令申立て」という。)。)
イ参加人らは、東京都労働委員会に対し、平成14年3月28日、原告を
被申立人として、参加人A、同B及び同Cに対する平成12年度及び平成
13年度の給与引上げ及び夏期・冬期・年度末一時金支給差別について、
救済を求める申立てをした(東京都労働委員会平成14年(不)第29号
事件。)
ウ参加人らは、東京都労働委員会に対し、平成15年11月7日、原告を
被申立人として、参加人A、同B及び同Cに対する平成14年度の給与引
上げ及び夏期・冬期・年度末一時金支給差別について、救済を求める申立
てをした(東京都労働委員会平成15年(不)第102号事件。)
エ東京都労働委員会は、原告に対し、平成17年12月20日、前記アな
いしウの申立てにつき、すべての年度の給与引上げ及び一時金支給差別の
是正(ただし、是正水準については、参加人Aの請求額のおおむね75パ
ーセント、参加人B及び同Cの請求額のおおむね85パーセント、是正)
差額の支払並びに文書手交を命じ、平成18年1月30日、同命令書を交
付した。
原告は、同年2月9日、上記初審命令を不服として、同命令の取消し及
び救済命令の申立ての却下を求め、参加人らは、同月14日、請求どおり
の救済を求めて、それぞれ再審査を申し立てた。
オ中央労働委員会は、平成19年8月1日、前記エの再審査申立事件にお
いて、原告の提示する給与の昇給幅や一時金の月数は、非組合員(参加人
組合に属していない者をいう。以下も同じ)に比して明らかに低額であ。
、、って労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為となるところ
給与については、本件A和解によって定められた月額27万9000円の
給与は原告の賃金体系の(以下も同じ)Ⅲ等級48号俸に相当し、本件。
B和解によって定められた月額27万円の給与はⅢ等級43号俸に相当す
るが、平均的な非組合員と同様の号俸になるように、平成9年度につき、
参加人AはⅢ等級88号俸、参加人BはⅢ等級79号俸として、以後、平
均的な非組合員と同様に昇給するよう是正し、一時金についても、平均的
な非組合員と同様の月数に是正するとして以下のとおり命令し以下本、(「
件命令」という、原告に対し、同月22日、同命令書を交付した。。)
Ⅰ初審命令主文を次のとおり変更する。
1原告は、参加人Aの平成7年度及び平成8年度の夏期・冬期・年度
末一時金(平成11年度から平成14年度までの年度末一時金を除
く、参加人Bの平成8年度の夏期・冬期・年度末一時金並びに平。)
成9年度から平成14年度までの給与及び夏期・冬期・年度末一時金
(平成11年度から平成14年度までの年度末一時金を除く、並。)
びに参加人Cの平成11年度から平成14年度までの給与及び夏期・
冬期一時金をそれぞれ別紙「是正給与及び一時金表」記載のとおり是
正し、同人らに対して、是正後の給与及び夏期・冬期・年度末一時金
の額から既に支払った給与及び東京地方裁判所における賃金仮払仮処
分請求事件の和解による仮払金の額を控除した金額に年5分の割合に
よる金員を付加して支払わなければならない。
2原告は、参加人らに対して、本命令書受領の日から1週間以内に、
下記内容の文書を交付しなければならない。

平成年月日
松蔭学園教職員組合
執行委員長C殿
A殿
B殿
C殿
学校法人松蔭学園
理事長D
当学園が、貴組合の組合員A氏、同B氏及び同C氏に対して、平
成7年度から14年度までの給与引上げ及び夏期・冬期・年度末一
(。)時金支給11年度から14年度までの年度末一時金支給を除く
を差別したこと(組合員により、一部年度の給与引上げ及び夏期・
冬期・年度末一時金支給を除く)は、中央労働委員会によって、。
労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である
と認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないように
致します。
(注:年月日は、交付する日を記載すること)。
Ⅱ原告並びに参加人らのその余の本件各再審査申立てを棄却する。
カ原告は、東京地方裁判所に、平成19年9月19日、前記オの命令のう
ち、主文第Ⅰ項の1の参加人A及び同Bに関する部分並びに主文第Ⅰ項の
2の取消しを求めて、本件訴えを提起した。
2争点
(1)原告が、参加人Aの平成7年度以降の給与及び一時金、参加人Bの平成
8年度以降の給与及び一時金の決定に当たり、平均的な非組合員の給与額を
基礎とせずに、本件各和解の給与額を基礎として提示したこと等は不当労働
行為か。本件各和解は、参加人Aの平成7年度以降、参加人Bの平成8年度
以降の給与、一時金について、本件各和解における給与額を基礎とすること
も合意したものであるか(本件各和解の効力等)。
(2)本件救済命令申立てのうち、平成10年度以前の給与引上げ及び平成1
1年度冬期賞与以前の一時金の支給差別の救済を求める部分は、労働組合法
27条2項に定める申立期間を経過しているか(申立期間の経過)。
(3)本件命令のうち文書交付命令部分の要否
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件各和解の効力等)
(原告の主張)
本件各和解においては、参加人A及び同Bの職場復帰時の給与が定められ
ているところ、同和解によって、一切の問題が解決しているのであるから、
同給与が、その後の昇給決定の基礎となるべきである。
したがって、本件各和解以後の昇給決定においては、同和解によって決定
された給与を前提として、非組合員と同等に昇給させれば、不当労働行為と
はならないところ、本件命令は、同和解によって決定された給与を前提とせ
ず、参加人Aについては、平成8年度Ⅲ等級50号俸を翌年度にはⅢ等級8
8号俸へ、参加人Bについては平成8年度Ⅲ等級44号俸を翌年度にはⅢ等
級79号俸へ是正するよう命じており、本件各和解によって解決した事項を
蒸し返すことにほかならないから、取り消されるべきである。
本件各和解は、不当労働行為救済申立事件を審理する中央労働委員会にお
いて成立したもので、私法上の権利関係を定めるものというより、労使紛争
を解決する労使協定であることからすると、中央労働委員会は、私法上の権
利関係と一致しない回復措置も命令できるとの被告の主張は、理由がない。
(被告の主張)
本件各和解は、それぞれ和解の成立した日以前の紛争を解決したものにす
ぎず、定められた給与額が将来の給与額決定の基礎となることについては何
ら合意されていないから、その後の救済命令において、同給与額を基礎とし
て是正を命ずるべきものではない。
たとえ本件各和解によって、同所定の給与額が、将来の給与額決定の基礎
とする合意がされたとしても、労働委員会には、賃金差別是正の救済命令を
発するに当たり、その内容決定について広い裁量権が与えられており、救済
命令によって作出される事実上の状態は必ずしも私法上の法律関係と一致す
る必要はなく、不当労働行為による侵害状態を除去是正するために本件命令
のとおり是正するのは相当である。
(参加人らの主張)
本件各和解は、裁判所の判決により、参加人Aに対する隔離や自宅研修命
令が違法とされ、参加人Bへの解雇が無効とされ、参加人A及び同Bが、原
告と、職場復帰を求めて交渉をする中でされたものであるところ、原告は、
交渉経過の中で賃金体系を明らかにせず、単に賃金について結論を示すのみ
で、賃金についてまとまらなければ、職場復帰をさせないとの態度に終始し
ていた。参加人A及び同Bは、そのような中で職場復帰を優先するために、
本件各和解をしたのであり、本件各和解により、それ以前の差別的賃金の是
正を求めることはしないとの譲歩はしたものの、将来の賃金決定の基礎とす
るとの合意まではしていなかった。
したがって、本件各和解所定の賃金額を前提とせずに、賃金差別の是正を
命じた本件命令は適法である。
(2)争点(2)(申立期間の経過)
(原告の主張)
原告は、参加人組合に対し、毎年、賃金及び賞与について具体的な提示を
していたのに、参加人組合の拒否により妥結ができなかったから、原告によ
る査定はあったと評価すべきである。不当労働行為救済申立ては、査定に基
づく賃金の最後の支払時から1年以内にされることを要するところ、本件救
済申立てがされたのは平成13年3月27日であり、1年前の平成12年3
月分給与の査定は平成11年度にされているから、給与についての平成10
年度以前の救済申立てと、賞与については、査定に基づく支給期間がないた
め、平成11年度冬期賞与以前の救済申立ては、申立期間の経過により却下
されるべきである。
被告は、原告が交渉未妥結の状態を利用して、各年度の給与引上げ及び一
時金支給の決定をしていないと主張するが、交渉未妥結の状態の責めを原告
のみに帰することはできず、理由がない。
(被告の主張)
そもそも原告は、参加人A及び同Bに対する考課査定をしていない。原告
は、各年度において、非組合員に比べて明らかに低額な回答を提示した上、
実質的な団体交渉を行わず、交渉未妥結の状態になることを利用して、給与
引上げ及び一時金支給の決定をしていないところ、このような不作為は、本
件救済申立て時まで継続しているから、申立期間経過の問題は生じない。
(参加人らの主張)
原告は、参加人A及び同Bに対し、賃金決定行為をしていない。また、原
告は、参加人A及び同Bに対し、交渉未妥結であることを理由として、最後
に妥結した平成8年度の給与額のみしか支給しておらず、参加人A及び同B
から、原告提示額との差額の支払を求める仮処分命令の申立てを受け、同手
続中の和解において、仮払として差額の一部を支払ったにすぎないから、査
定に基づく支払をしたということもできない。そして(被告の主張)のと、
、、、。おり原告は不作為を継続しているから申立期間経過の問題は生じない
(3)争点(3)(本件命令のうち文書交付命令部分の要否)
(原告の主張)
本件命令主文第Ⅰ項の2のうち、参加人Cに対する文書交付を命ずる部分
については、本件命令主文第Ⅰ項の1の参加人Cに対する救済部分は、労使
双方が争わず、既に確定した平成17年2月2日付け中央労働委員会平成1
3年(不再)第3号事件及び同第7号事件の命令による救済基準に従ってい
るから、必要性を欠くことが明らかである。
(被告及び参加人の主張)
争う。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件各和解の効力等)について
(1)前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ
る。
ア参加人らは、東京都労働委員会に対し、昭和56年から昭和58年にか
けて、原告による参加人Aに対する職務外し、組合活動に対する干渉や、
隔離及び自宅研修命令、参加人Bの解雇について、不当労働行為救済を求
める申立てをしていた。東京都労働委員会は、原告に対し、平成5年1月
28日、参加人A及び同Bの原職復帰、バックペイ、組合活動への干渉禁
止等を命ずる平成4年11月24日付け命令書を交付した。なお、同命令
書において、バックペイが命じられているが、同命令主文では、参加人A
については、昭和55年4月以降原職に復帰するまでの間、参加人Bにつ
いては、昭和56年11月21日以降原職に復帰するまでの間、支払われ
るべき賃金相当額を支払うこと、とされているにとどまり、具体的な金額
は記載されていない。
原告は、中央労働委員会に対し、平成5年2月9日、上記命令を不服と
して再審査を申し立てた(前提事実(4)ア、乙36。。)
イ参加人組合は、原告との間で、平成5年12月から、前提事実(2)のと
おり、参加人Aに対する隔離や自宅研修命令は不法行為であるとする判決
が確定したのを受けて、平成6年4月からの職場復帰を目指して交渉をし
たが、原告からの賃金是正もした上で職場復帰させたいとの主張を受け、
賃金についても交渉することとなった。参加人組合は、原告に対し、同年
3月からの交渉において、賃金体系や他の教員の給与水準等関係資料の提
示を要求したが、原告は、これら資料等を提出せず、同年4月までには合
意に至らなかった(弁論の全趣旨)。
ウ前記アの事件に対する再審査申立事件が係属していた中央労働委員会
は、参加人組合からの上申を受け、前記イの交渉について、和解を試み、
参加人Aが平成7年3月から職場復帰することについては合意に至った
が、賃金額については合意に至らなかったため、当事者間の交渉に委ねら
れた(弁論の全趣旨)。
エ原告は、参加人組合に対し、平成7年2月21日、参加人Aの復帰時の
賃金を月額27万9000円とする提案をし、参加人組合も受け入れたた
め、原告と参加人組合及び同Aは、前提事実(4)イのとおり和解した。な
お、前提事実(4)イ(オ)において、参加人組合及び同Aが取り下げた東京都
労働委員会平成2年(不)第56号事件及び同平成5年(不)第23号事
件は、賃金差別の是正等について救済を求めた事件である(乙36、参。
加人A本人、弁論の全趣旨)
オ参加人組合は、原告との間で、平成8年2月23日から、前提事実(3)
のとおり、参加人Bに対する解雇が無効であるとの判決が確定したのを受
けて、職場復帰に関する交渉を始めた。原告は、参加人組合に対し、参加
人Bの給与についても具体的賃金資料等を提出せず、同人の在職期間が参
加人Aよりも1年少ないことを理由に27万円を提示し、参加人組合も受
け入れたため、原告と参加人組合及び同Bは、前記アの事件に対する再審
査申立事件の係属していた中央労働委員会において、前提事実(4)ウのと
おり和解した。なお、前提事実(4)ウ(オ)において、参加人組合及び同Aが
取り下げた東京都労働委員会平成2年(不)第56号事件及び同平成5年
(不)第23号事件は、賃金差別の是正等について救済を求めた事件であ
る(乙36、参加人A本人、弁論の全趣旨)。
、(「」。)、カ参加人組合同C及び参加人組合の組合員E以下Eというは
東京都労働委員会に対し、原告を被申立人として、参加人C及びEの賃金
差別の是正を求める救済申立てをしていた。原告は、東京都労働委員会か
ら、賃金決定の具体的な基準・方法、非組合員の賃金実態等について明ら
かにするよう求められたが、これに応じなかった。東京都労働委員会は、
平成12年12月5日付けで、ほぼ請求どおり、参加人Cについては昭和
56年度から平成10年度までにつき、Eについては昭和56年度から平
成8年度までにつき、是正後の賃金額も具体的に示して賃金を是正する命
令をした(乙42、弁論の全趣旨。。)
キ原告は、前記カの事件に対する再審査申立事件(中央労働委員会平成1
3年(不再)第3号、同第7号)において、原告の賃金決定の具体的な基
準・方法、非組合員の賃金実態等について、一定限度まで明らかにした。
中央労働委員会は、平成17年2月18日、参加人Cについては平成元年
度から平成10年度までにつき、請求のおおむね85パーセントとなるよ
う、Eについては平成元年度から平成8年度までにつき、請求のおおむね
95パーセントとなるよう、是正後の賃金額も具体的に示して賃金を是正
する同月2日付け命令書を交付し、同命令は確定した(乙165、弁論。
の全趣旨)
ク前記キの中央労働委員会における再審査申立事件等において明らかにさ
れた原告の賃金体系からすると、前記エの参加人Aの復帰時賃金月額27
万9000円はⅢ等級48号俸に相当し、前記オの参加人Bの復帰時賃金
月額27万円はⅢ等級43号俸に相当する。なお、原告の賃金体系におけ
る平均的な非組合員の昇給実態からすると、参加人Aの経歴や年齢と同等
の非組合員の給与を想定すると、平成7年度においてⅢ等級82号俸(月
額34万7000円、参加人Bの経歴や年齢と同等の非組合員の給与を)
、()想定すると平成8年度においてⅢ等級76号俸月額33万7000円
となる(弁論の全趣旨)。
ケ同様に、参加人Aの経歴や年齢と同等の平均的な非組合員の平成9年以
降の給与額及び参加人Bの経歴や年齢と同等の平均的な非組合員の平成9
年以降の給与額を想定すると、別紙「是正給与及び一時金表」中の、参加
人A及び同Bの各「等級−号俸「給与額」記載のとおりとなる。また、」、
平成7年以降の平均的な非組合員の一時金の支給月数は、同表中の「一時
金」欄の月数分である(弁論の全趣旨)。
(2)前提事実(4)イウのとおり、本件各和解においては、参加人A及び同Bに
ついて、職場復帰する際の賃金が定められているものの、その後の賃金決定
において、本件各和解における賃金を基準とするかどうかについては、何ら
明文の定めがされていない。
前提事実(4)イウ、前記(1)アないしオのとおり、本件各和解が、参加人組
合、同A及び同Bが、原告に対して賃金差別の是正を求めた救済申立事件の
再審査申立事件においてされていること、本件各和解においては、参加人A
及び同Bは、原告に対して賃金差別の是正を命じた東京都労働委員会の初審
命令の履行を求めないとされており、他にも係属していた賃金差別の是正を
求める救済申立事件を取り下げるとされていること、参加人組合と原告との
間の職場復帰交渉において、職場復帰の際の賃金が重大な問題となり、長期
間の交渉が重ねられたことが認められるところ、これら事実は、本件各和解
において定められた職場復帰の際の賃金により、賃金差別問題はすべて解決
したものとして、同賃金をもってその後の賃金決定の基礎とする趣旨であっ
たと解釈すべき方向に働く事実である。
しかし、本件各和解の文言上、同和解で定めた賃金が、その後の賃金決定
の基礎となるとはされていないこと、本件各和解において、参加人A及び同
Bが履行を求めないとした初審命令は、それぞれ原職復帰までの賃金差額で
あり、取り下げをした東京都労働委員会に係属中の不当労働行為救済申立事
件も、過去分の賃金差別の是正を求めるものと考えられることからすると、
本件各和解においては、和解以前の賃金差別については、同和解をもって解
決したものとして、蒸し返さないという限度の合意しかされていないとの解
釈も可能である。
そして、前記(1)イ、オないしキに認定したとおり、本件各和解は、参加
人Aに対する隔離や自宅研修が不法行為であるとの判決や、参加人Bに対す
る解雇が無効であるとの判決を受けて、参加人組合において、職場復帰を目
、、指して交渉を始めた結果としてされたのでありとくに参加人A及び同Bは
異常に長期間にわたって教室や学校から遠ざけられている状態(参加人Aに
ついては約14年間、同Bについては約15年間)を少しでも早く解消する
ため、復帰時の給与額について、原告の提示額をそのまま受け入れざるを得
なかったことが明白に窺える。しかも、職場復帰と給与額に関する交渉の過
程において、原告は、非組合員の賃金実態は個別にも総体的にも明らかにし
ないだけでなく、原告における賃金体系(経歴や年齢と給与額の関係を明ら
かにする表や、昇給の基準等)も一切明らかにせず、本件各和解以後に、一
定限度で明らかにしたにすぎないのであって、参加人らは、本件各和解をす
る際に、原告の提示額について、平均的な非組合員の給与額との比較など的
確な検討をすることが可能な状況では全くなかったことが認められる。参加
人らは、職場復帰時の給与額として、原告の提示額を受け入れることとした
けれども、その金額が参加人A及び同Bの給与額として、非組合員との比較
等において適正な金額であるとして合意したものではないことは明らかであ
る。このように、本件各和解に至るまでの交渉が始められた経緯や、原告に
おいて、交渉過程において、賃金決定の参考となるべき情報を全く開示しな
いまま本件各和解に至ったという事実経過に照らすと、本件各和解において
明文の合意がない以上、本件各和解における賃金が、その後の賃金決定の基
礎となるとの合意はなかったと認めるのが相当である。
(3)前記(1)クのとおり、参加人A及び同Bの本件各和解における賃金額は、
平均的な非組合員に比して大幅に低いものであったところ、前提事実(5)の
とおり、原告は、参加人組合に対し、本件各和解における賃金額を基礎とし
て、その後の賃金額の提示をしているから、これら提示の賃金額も平均的な
非組合員の賃金額(前記(1)ケ)に比して大幅に低いものとなる。証拠(参
加人A本人)及び弁論の全趣旨によれば、参加人A及び同Bの能力は平均的
な非組合員と比較して劣ってはいなかったと認められ(原告も参加人Aや同
Bの能力が劣っていたとは主張していない、前提事実(2)(3)、前記(1)カ。)
のとおり、原告は参加人Aや同Bに対して自宅研修命令や解雇処分等をした
ほか、原告と参加人組合との間には多くの救済申立てがされるなど紛争が続
き、原告が参加人組合を嫌悪していたと認められるところ、上記に説示した
とおり、本件各和解においては、定められた賃金がその後の賃金決定の基礎
となるとの合意はなかったのであるから、同賃金を前提として提示して賃金
を引き上げないことは、参加人A及び同Bを組合員であることの故をもって
不利益に取り扱うものであり、かつ経済的打撃を与えることにより参加人組
合の弱体化を企図してその運営に支配介入したものということができ、した
がって、労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為である。一時
金について、平均的な非組合員の月数でなく、1.0か月分の提示をしたこ
、、。とも同様に労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為である
(4)上記説示のとおり、平均的な非組合員の給与額を基礎とせずに、本件各
和解によって定められた賃金額を基礎として、その後の賃金の提示をし、あ
るべき賃金額を決定しないこと等は、不当労働行為となるから、平均的な非
組合員と同様の賃金となるよう是正を命じた本件命令に裁量の逸脱はなく、
正当である。
2争点(2)(申立期間の経過)について
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア原告の就業規則においては、昇給につき「予算の範囲内において、4、
月期に行うことがある」と規定されていて、実績としては、毎年4月1日
付けで行われているところ、原告には、具体的かつ明確な査定基準及び昇
給基準は設けられておらず、最終的には、理事長の判断により決定され、
査定結果は明らかにされていない。
原告が準拠している昇給に関する「賃金管理研究所」の指導基準では、
、、毎年度の昇給号俸数について年齢と共に逓減させることとされているが
成績が普通であれば、年齢が上がっても毎年昇給するとされている(乙。
165、弁論の全趣旨)
、、、イ原告は本件各和解以降参加人組合員の給与額及び夏期賞与について
参加人組合に対し、毎年7月に開かれる団体交渉で額を提示していた。原
告は、参加人組合が同提示に納得せず妥結しないため、参加人組合の申入
れにより、さらに12月、翌年3月に団体交渉を開き、12月に冬期賞与
の提示をしたものの、当初の提示を変更しなかったため、妥結しないまま
となり、参加人組合員の給与については、最後に妥結した年度の給与額の
支払を続け、賞与については全く支払わなかった(前提事実(5)、参加。
人A本人)
ウ(ア)原告は、参加人組合に対し、平成7年7月21日、参加人Aについ
て、給与を月額27万9000円、夏期賞与を1.0か月分とする提示
、、.、をし同年12月21日冬期賞与を10か月分とする提示をしたが
妥結しなかった。
参加人Aは、東京地方裁判所において、平成8年9月25日、上記の
夏期賞与及び冬期賞与が支払われなかったことから、原告を債務者とし
て、原告提示額である55万8000円の仮払を求めて仮処分を申し立
てたところ、参加人Aと原告は、同年10月14日、平成7年度の賃金
額及び賞与額についての合意が未だ成立しておらず、具体的な賃金請求
権及び賞与請求権が発生していないことを確認した上、原告が、参加人
Aに対し賞与の仮払金として39万円を支払うとの和解をした乙、、。(
77の1及び2、101、弁論の全趣旨)
(イ)原告は、参加人組合に対し、平成8年7月22日、参加人Aについ
て、給与を月額27万9000円、参加人Bについて、給与を月額27
万円、同人らについて、夏期賞与をそれぞれ1.0か月分とする提示を
し、同年12月24日、参加人A及び同Bについて、冬期賞与をそれぞ
れ1.0か月分とする提示をしたが、妥結しなかった。
参加人Aは、東京地方裁判所において、平成9年11月28日、上記
の夏期賞与及び冬期賞与が支払われなかったことから、原告を債務者と
して、原告提示額である55万8000円の仮払を求めて仮処分を申し
立てたところ、参加人Aと原告は、同年12月22日、平成8年度の賃
金額及び賞与額についての合意が未だ成立しておらず、具体的な賃金請
求権及び賞与請求権が発生していないことを確認した上、原告が、参加
人Aに対し、賞与の仮払金として、39万円を支払うとの和解をした。
参加人Bは、東京地方裁判所において、平成9年12月3日、上記の
夏期賞与及び冬期賞与が支払われなかったことから、原告を債務者とし
て、原告提示額である54万円の仮払を求めて仮処分を申し立てたとこ
ろ、参加人Bと原告は、同月22日、平成8年度の賞与額についての合
意が未だ成立しておらず、具体的な賞与請求権が発生していないことを
確認した上、原告が、参加人Bに対し、賞与の仮払金として、38万円
を支払うとの和解をした(乙69の1ないし3、102、103、弁。
論の全趣旨)
(ウ)原告は、参加人組合に対し、平成9年7月22日、参加人Aについ
て、給与を月額28万7090円、参加人Bについて、給与を月額27
万7140円、同人らについて、夏期賞与をそれぞれ1.0か月分とす
る提示をし、同年12月22日、参加人A及び同Bについて、冬期賞与
をそれぞれ1.0か月分とする提示をしたが、妥結しなかった。
参加人A及び同Bは、東京地方裁判所において、平成11年1月29
日、平成8年度と同額の給与しか支払われず、夏期賞与及び冬期賞与が
支払われなかったことから、原告を債務者として、給与については原告
提示額との差額、賞与については夏期賞与は1.0か月分、冬期賞与は
1.4か月分の合計である、参加人Aについて81万4805円、参加
人Bについて77万8530円の仮払を求めて仮処分を申し立てたとこ
ろ、原告と参加人A及び同Bは、平成11年2月19日、平成9年度の
賃金額及び賞与額についての合意が未だ成立しておらず、具体的な賃金
請求権及び賞与請求権が発生していないことを確認した上、原告が、参
加人Aに対しては、賃金及び賞与の仮払金として46万円、参加人Bに
対しては、賃金及び賞与の仮払金として43万円を支払うとの和解をし
た(乙70の1及び2、104、弁論の全趣旨)。
(エ)原告は、参加人組合に対し、平成10年7月17日、参加人Aにつ
いて、給与を月額29万1190円、参加人Bについて、給与を月額2
8万1140円、同人らについて、夏期賞与をそれぞれ1.0か月分と
する提示をし、同年12月22日、参加人A及び同Bについて、冬期賞
与をそれぞれ1.0か月分とする提示をしたが、妥結しなかった。
参加人A及び同Bは、東京地方裁判所において、平成11年9月24
日、平成8年度と同額の給与しか支払われず、夏期賞与及び冬期賞与が
支払われなかったことから、原告を債務者として、給与については原告
提示額との差額、賞与については夏期賞与は1.0か月分、冬期賞与は
1.4か月分の合計である、参加人Aについて87万4255円、参加
人Bについて83万6530円の仮払を求めて仮処分を申し立てたとこ
ろ、原告と参加人A及び同Bは、平成11年10月25日、平成10年
度の賃金額及び賞与額についての合意が未だ成立しておらず、具体的な
、、賃金請求権及び賞与請求権が発生していないことを確認した上原告が
参加人Aに対しては、賃金及び賞与の仮払金として51万円、参加人B
に対しては、賃金及び賞与の仮払金として48万円を支払うとの和解を
した(乙71の1及び2、105、弁論の全趣旨)。
(オ)原告は、参加人組合に対し、平成11年7月22日、参加人Aにつ
いて、給与を月額29万5190円、参加人Bについて、給与を月額2
8万5040円、同人らについて、夏期賞与をそれぞれ1.0か月分と
する提示をし、同年12月21日、参加人A及び同Bについて、冬期賞
与をそれぞれ1.0か月分とする提示をしたが、妥結しなかった。
参加人A及び同Bは、東京地方裁判所において、平成12年8月10
日、平成8年度と同額の給与しか支払われず、夏期賞与及び冬期賞与が
支払われなかったことから、原告を債務者として、給与については原告
提示額との差額、賞与については原告提示額の合計である、参加人Aに
ついて81万4179円、参加人Bについて77万9064円の仮払を
求めて仮処分を申し立てたところ、原告と参加人A及び同Bは、平成1
2年9月18日、平成11年度の賃金額及び賞与額についての合意が未
だ成立しておらず、具体的な賃金請求権及び賞与請求権が発生していな
いことを確認した上、原告が、参加人Aに対しては、賃金及び賞与の仮
払金として54万円、参加人Bに対しては、賃金及び賞与の仮払金とし
て52万円を支払うとの和解をした(乙72の1及び2、106、弁。
論の全趣旨)
(カ)原告は、参加人組合に対し、平成12年7月18日、参加人Aにつ
いて、給与を月額29万9090円、参加人Bについて、給与を月額2
8万8740円、同人らについて、夏期賞与をそれぞれ1.0か月分と
する提示をし、同年12月22日、参加人A及び同Bについて、冬期賞
与をそれぞれ1.0か月分とする提示をしたが、妥結しなかった。
参加人A及び同Bは、東京地方裁判所において、平成13年7月27
日、平成8年度と同額の給与しか支払われず、夏期賞与及び冬期賞与が
支払われなかったことから、原告を債務者として、給与については原告
提示額との差額、賞与については原告提示額の合計である、参加人Aに
ついて86万9169円、参加人Bについて83万6310円の仮払を
求めて仮処分を申し立てたところ、原告と参加人A及び同Bは、平成1
3年9月7日、平成12年度の賃金額及び賞与額についての合意が未だ
成立しておらず、具体的な賃金請求権及び賞与請求権が発生していない
ことを確認した上、原告が、参加人Aに対しては、賃金及び賞与の仮払
金として57万円、参加人Bに対しては、賃金及び賞与の仮払金として
55万円を支払うとの和解をした(乙73の1及び2、107、弁論。
の全趣旨)
(2)原告は、本件救済申立てがされたのは平成13年3月27日であり、1
年前の平成12年3月分の給与の査定は平成11年度にされているから、給
与についての平成10年度以前の救済申立てと、平成11年度冬期賞与以前
の救済申立ては、申立期間の経過により却下されるべきであると主張する。
ア使用者が行っている昇給に関する考課査定が、その従業員の向後1年間
における毎月の賃金額の基準となる評定値を定めるものであるときに、そ
のような考課査定において使用者が労働組合の組合員について組合員であ
ることを理由として他の従業員より低く査定した場合、その賃金上の差別
的取扱いの意図は、賃金の支払によって具体的に実現されるのであって、
同査定とこれに基づく毎月の賃金の支払とは一体として一個の不当労働行
為をなすものとみるべきである。そうすると、同査定に基づく賃金が支払
われている限り不当労働行為は継続することになるから、同査定に基づく
賃金上の差別的取扱いの是正を求める救済の申立てが同査定に基づく賃金
の最後の支払の時から1年以内にされたときは、同救済の申立ては、労働
組合法27条2項の定める期間内にされたものとして適法というべきであ
る(最高裁平成3年6月4日第三小法廷判決・民集45巻5号984頁参
照。)
イ前記(1)イウに認定したとおり、原告は、参加人組合の組合員の給与及
び賞与については、参加人組合に対し、毎年7月の団体交渉において、当
該年度の給与額及び夏期賞与の割合を提示し、毎年12月の団体交渉にお
いて、当該年度の冬期賞与の割合を提示していたが、参加人組合との間で
妥結に至らない場合は、給与については、最後に妥結した年度の給与額の
みを支払い、賞与については支払っておらず、仮処分命令申立事件の和解
において、原告提示額と支給額の差額の約7割を仮払金として支払ってい
た。
このように、原告において、参加人組合に対し、毎年同じ時期に、組合
員の給与及び賞与について、具体的な金額や割合を提示していた事実はあ
る。
しかしながら、原告は、参加人組合との間で、妥結していないことを理
由として、原告が提示した額すら支払わず、任意の支払としては、最後に
妥結した年度の給与額(本件各和解の給与額)を支払い続けているだけで
あるから、原告が毎年何らかの形で賃金決定をしたとは評価できないし、
当該決定に基づく毎月の賃金支払をしたともいえない。さらに、原告は、
参加人Aや同Bからの仮処分命令の申立てを受けて、和解により、原告提
示額と支給額の差額の約7割を仮払金として支払っていたが、仮処分申立
事件における裁判上の和解に基づく支払であって、原告の自主的な支払と
は性格が違うし、その金額は、原告提示額にも届かず、かつ、和解におい
て、賃金額及び賞与額の合意がされていないこと、すなわち、賃金額及び
賞与額が決定されていないことを確認した上での支払にすぎないのである
から、このような支払をもって、原告における賃金決定に基づく支払をし
たとの評価もできない。
前記(1)アウのとおり、原告においては、原則的に毎年昇給する賃金体
系となっており、かつ、参加人組合に対し、前年度を上回る賃金額を提示
していたから、昇給させないのであれば、昇給させないとの決定をすべき
ところ、原告は、参加人組合と妥結できなかった後に、昇給させないとの
決定をしていない。このことは、証拠(丙31)及び弁論の全趣旨によれ
ば、原告は、本件命令の初審である前提事実(6)アないしウの東京都労働
委員会における救済申立事件において、賃金に不当な格差があるというた
めには、これが決定、支給されて、初めてその当否が問議されるべきであ
るのに、本件においては、給与及び賞与は未だ決定されず、賞与を支給で
きず、格差さえ存在しないのであるから、参加人らの主張は前提を欠く理
由のないもので、主張自体失当で却下されるべきであると主張しているこ
とが認められることからも裏付けられる。このように、原告は、参加人組
合、同A及び同Bに対して、昇給の決定(又は昇給をしない旨の決定)や
一時金支給の決定(又は支給をしない旨の決定)をせずに、昇給も一時金
支給も分からない状態のまま放置していたとみざるを得ない。
以上のとおり、本件において、原告は参加人組合に対する給与及び賞与
提示の前提となる何らかの決定をしたとは認められず、賃金決定に基づく
支払をしたともいえず、原告は、賃金決定をしないという不作為を継続し
ているといわざるを得ない。そうすると、本件救済命令申立てが、行為の
日から1年を経過してされたとはいえず、労働組合法27条2項により却
下すべきとはいえない。このように、本件において申立期間経過の問題は
生じないとの解釈は、参加人らにおいて、原告による賃金決定とそれに基
づく支払がない以上、賃金差別があるかどうか判断し難い状態にあったと
評価できることからしても正当である。
(3)よって、本件救済命令申立てのうち、給与についての平成10年度以前
、、の救済申立てと賞与についての平成11年度冬期賞与以前の救済申立ては
申立期間の経過により却下されるべきとの原告の主張は理由がない。
3争点(3)(本件命令のうち文書交付命令部分の要否)
原告は、本件命令のうち主文第Ⅰ項の2の参加人Cについての文書交付命令
部分は労使双方が平成17年2月2日付けの中央労働委員会平成13年不、、(
再)第3号、同7号についての命令を争わず同命令が確定していて、本件命令
が、同命令の延長線上であることからすると、その必要性がないと主張する。
しかし、本件命令のように文書交付命令を発するかどうかは、労働委員会の
合理的な裁量によるところ、原告の指摘する事情によっても、本件命令に裁量
権の逸脱があるとはいえないから、原告の主張は採用できない。
第4結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官荒谷謙介
裁判官遠藤貴子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛