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裁判例


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平成17年(行ケ)第10317号 審決取消請求事件
平成17年7月19日口頭弁論終結
     判    決
原 告 株式会社日研工作所
 訴訟代理人弁理士 安田敏雄,吉田昌司,安田幹雄,山本淳也
 被 告 大昭和精機株式会社   
訴訟代理人弁護士 森﨑博之,根本浩,安藤誠悟,弁理士 稲葉良幸,土屋徹雄
     主    文
 特許庁が無効2003-35369号事件について平成16年7月7日にした審
決を取り消す。
 訴訟費用は,被告の負担とする。
     事実及び理由
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って
表記を変えた部分がある。
第1 原告の求めた裁判
 主文同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告の有する本件特許について無効審判請求をしたところ,審
判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案であ
る。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件特許(甲2)
 特許権者:大昭和精機株式会社(被告)
 発明の名称:「工具ホルダー取付装置」
 出願日:平成4年4月14日(特願平4-94526号)
 手続補正日:平成7年3月17日(甲5,以下「本件第1補正」という。)
 手続補正日:平成8年2月21日(甲6,以下「本件第2補正」という。)
 設定登録日:平成8年10月24日
 特許登録番号:第2571325号
 (2) 本件手続
 審判請求日:平成15年9月2日付け(無効2003-35369号,甲7)
 審決日:平成16年7月7日(甲1)
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成16年7月20日(原告に対し)
 2 本件発明の要旨(甲6,本件第2補正後のもの。)
【請求項1】回転又は非回転主軸(以下,主軸という)1に設けたテーパ孔2
に,鍔部5を有する工具ホルダー3のテーパシャンク部4を嵌合して主軸1に工具
ホルダー3を取付けるようにした工具ホルダー取付装置であって,主軸1のテーパ
孔2及びこれに嵌合される工具ホルダー3のテーパシャンク部4の最大径D,主軸
側端面1aとこれに対向する鍔部端面5aとの間の許容の対向間隙Yが工業規格で
定められた数値の範囲内で製作される工具ホルダーの取付装置において,上記主軸
側端面1aと,これに対向する鍔部端面5aとのそれぞれを,工業規格で定められ
た許容の製作誤差Δiの数値より多く延出すると共に,両延出量α1,α2の合計
が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲内で,互いに対向方向に延出してそれぞれ延
出端面1b,5bに形成し,しかして,両延出端面1b,5bが互いに吻合するよ
うにして,主軸1に工具ホルダー3を取付けることが可能となっている工具ホルダ
ー取付装置。 
 3 審決の理由の要点
 審決は,本件第2補正は明細書の要旨を変更するものではなく,本件特許出願は
本件第2補正の手続補正書が提出された時にしたものとはみなされないのであるか
ら,本件発明は,本件特許の出願特許公報(審判甲1・本訴甲3)に記載された発
明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえず,また本件発明に係る特許
請求の範囲請求項1及び明細書の記載が特許法の定める要件に反するともいえない
ので,本件特許を無効とすることはできないとした。
 (1) 審判手続における証拠方法
 ① 審判甲1(本訴甲3):特開平5-285715号(本件特許公報)
 ② 審判甲2(本訴甲6):平成8年2月21日付け手続補正書
 ③ 審判甲3(本訴甲5):平成7年3月17日付け手続補正書
 ④ 審判甲4(本訴甲14):被告会社のカタログ「BIG-PLUS」,CATALOG
NO.48-2
⑤審判甲5(本訴甲4):平成7年3月17日付け特許出願人(被告)意見書
 ⑥ 審判甲6:特開昭59-196143号公報
(以下,審決引用部分についても,本訴の証拠番号で表記する。)
 (2) 請求人(原告)の主張
 ア 無効理由1
 「本件の特許出願手続中にされた本件第2補正書(本訴甲6)による明細書の補
正は,願書に最初に添附した明細書の要旨を変更するものであるから,本件の特許
出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされるもので
ある。その結果,本件発明は,本訴甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に
発明をすることができたものであるので,本件特許は,特許法29条2項の規定に
違反してされたものである。」
 イ 無効理由2
 (ア) 「本件発明の構成要件である「両延出端面1b,5bが互いに吻合する」に
関して,本件の明細書(判決注:本訴甲3。以下,審決の引用部分も含め,本件特
許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明には,
どのように吻合させるかについては,…一切説明されておらず,当業者が実施をす
ることができる程度に構成が記載されていないので,平成5年法律第26号改正前
の特許法36条4項(判決注:以下「特許法36条4項」という。)に規定する要
件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」
 (イ) 「本件発明の構成要件である「両延出端面1b,5bが互いに吻合するよう
にして,主軸1に工具ホルダー3を取付けること」は,本件明細書等の発明の詳細
な説明に記載されていないので,本件特許は,平成5年法律第26号改正前の特許
法36条5項1号(判決注:以下「特許法36条5項1号」という。)に規定する
要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」 
 (ウ) 「本件明細書等の特許請求の範囲には,「両延出量α1,α2の合計が上記
許容の対向間隙Yの数値の範囲内」で「吻合」をどのように達成するかの構成が記
載されていないので,本件特許は,平成5年法律第26号改正前の特許法36条5
項2号(判決注:以下「特許法36条5項2号」という。)に規定する要件を満た
していない特許出願に対してされたものである。」
 (3) 判断
ア 無効理由1について
 (ア) 当初明細書等に記載された事項
 「本件特許の願書に最初に添附した明細書又は図面(以下「当初明細書等」とい
う。)には,次の事項が記載されていると認める。
 b「【0010】【作用】上記構成によれば,主軸1の基準端面1aと工具ホル
ダー3の鍔部端面3aとを所要の突出量α延出して延出端面1b,3bを形成し,
該両延出端面1b,3bが互いに吻合するようになっているから,主軸1のテーパ
孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4を密着嵌合させると同時に,主軸1の
延出端面1bに工具ホルダー3の延出端面3bを密着させることができる。従っ
て,切削負荷を両延出端面1b,3bでも受けるようになり,テーパ孔2とテーパ
シャンク部4との間に切削負荷が集中してかかることがなく,そのテーパ孔2とテ
ーパシャンク部4との間の密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗
されることがない(図1及び図2参照)。」(本訴甲3,2欄40行~3欄3行参
照。)」
 (イ) 当初明細書等に記載された事項の技術的意味
 「前記bの「主軸1の基準端面1aと工具ホルダー3の鍔部端面3aとを所要の
突出量α延出して延出端面1b,3bを形成し,該両延出端面1b,3bが互いに
吻合するようになっているから,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシ
ャンク部4を密着嵌合させると同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3の
延出端面3bを密着させることができる。」の技術的意味について,以下検討す
る。
 まず,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させる際
に,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態から,工具
ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移動,換言すると,工
具ホルダーの基準端面である鍔部端面を主軸の基準端面側に移動することにより,
主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させることは,本件
出願時の技術常識である。
 そして,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部4との密着嵌
合は,当初明細書等に記載されているような主軸1の基準端面1aと工具ホルダー
3の鍔部端面3aとから所要の突出量α延出した延出端面1b,3bを形成したも
のであって,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部4とが接す
る状態から,工具ホルダー3を主軸1奥側に引き込んで工具ホルダー3を主軸1奥
側に移動することにより行われるものであることは,上記技術常識より明らかであ
る。
 また,当初明細書等には,主軸1の基準端面1a又は工具ホルダー3の鍔部端面
3aから対向間隔(判決注:間隙の誤りであり,以下「間隙」とする。)Yだけ延
出した場合についてであるが,…「テーパ孔2とテーパシャンク部4とを互いに密
着嵌合させると同時に,上記基準端面1aと鍔部端面3aとを互いに密着させるこ
とが考えられる。上記構成によると,切削負荷が基準端面1aにもかかるようにな
るため,テーパ孔2とテーパシャンク部4との密着面がフレッティングコロージョ
ン現象等により磨耗されなくなる。ところが,…テーパ孔2にテーパシャンク部4
が密着嵌合する前に,基準端面1aに鍔部端面3aが当接するため,テーパ孔2と
テーパシャンク部4との間に隙間βが生じ,主軸1に工具ホルダー3を確実に取付
けることができなくなる。」と,基準端面1aと鍔部端面3aとが密着して切削負
荷を負担するものであっても,主軸1に工具ホルダー3を確実に取付けるために
は,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部4とが密着嵌合する
ことが必須であり,工具ホルダーの取付の前提となっていることが示唆されてい
る。また,このことは,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部
4との嵌合により強固な固着力が得られることからも明らかである。
 そうすると,上記「主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4
を密着嵌合させる」とは,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク
部4とが接する状態から,工具ホルダー3の主軸1奥側への引き込みによる工具ホ
ルダー3の主軸1奥側への移動により,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテ
ーパシャンク部4を密着嵌合させることを意味するものであり,上記「密着嵌合さ
せると同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3の延出端面3bを密着させ
ることができる。」とは,上記密着嵌合する前に工具ホルダー3の延出端面3bが
主軸1の延出端面1bに密着すると,上記密着嵌合が行われなくなることから,工
具ホルダー3が主軸1奥側への引き込みにより移動する前の主軸のテーパ孔2と工
具ホルダー3のテーパシャンク部4とが接する状態において,主軸1の延出端面1
bに工具ホルダー3の延出端面3bが密着するのではなく,上記工具ホルダー3の
主軸1奥側への引き込みによる工具ホルダー3の主軸1奥側への移動により上記密
着嵌合が行われた時に,上記引き込みにより主軸1の延出端面1b側へ移動した工
具ホルダー3の延出端面3bが主軸1の延出端面1bに密着することを意味するも
のと解される。
 つまり,上記「主軸1の基準端面1aと工具ホルダー3の鍔部端面3aとを所要
の突出量α延出して延出端面1b,3bを形成し,該両延出端面1b,3bが互い
に吻合するようになっているから,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパ
シャンク部4を密着嵌合させると同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3
の延出端面3bを密着させることができる。」とは,工具ホルダー3を主軸1奥側
への引き込む前の主軸のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部4とが接
する状態では,工具ホルダー3の延出端面3bが主軸1の延出端面1bに密着して
おらず,この状態から工具ホルダー3の主軸1奥側への引き込みによる工具ホルダ
ー3の主軸1奥側への移動により,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパ
シャンク部4を密着嵌合させ,上記密着嵌合時に上記引き込みにより主軸1の延出
端面1b側へ移動した工具ホルダー3の延出端面3bが主軸1の延出端面1bに密
着することを意味すると解される。
 そして,このことは,工具ホルダー3を主軸1奥側への引き込む前の主軸のテー
パ孔2と工具ホルダー3のテーパシャンク部4とが接する状態での主軸1の基準端
面1aと工具ホルダー3の鍔部端面3aとの対向間隙が当初明細書等に記載の対向
間隙Yを意味するものとして,主軸1の延出端面1bの突出量α1,工具ホルダー
3の延出端面3bの突出量α2及び対向間隙Yの関係について言えば,両突出量α
1,α2の合計が対向間隙Yの数値より少ないこと(α1+α2<Y)を意味する
ものと解される。
 これに対して,…当初明細書等には,主軸1の基準端面1aと工具ホルダー3の
鍔部端面3aとからそれぞれ延出する所要の突出量αについて,実施例として,対
向間隙Yの2分の1とすること及び対向間隙Yが3mmと規定されているものに対
して1.5mmとすること,すなわち,両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの
数値に等しく(α1+α2=Y)なることが記載されている。
 しかし,(a)両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に等しく(α1+α
2=Y)なれば,工具ホルダー3を主軸1奥側へ引き込んで移動させて主軸1のテ
ーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4を密着嵌合させる前に,主軸1の
延出端面1bと工具ホルダー3の延出端面3bとが密着するので,主軸1に工具ホ
ルダー3を確実に取付けるために必須な上記密着嵌合ができなくなること,(b)工
具ホルダー3を主軸1奥側への引き込む前の主軸のテーパ孔2と工具ホルダー3の
テーパシャンク部4とが接する状態から,工具ホルダー3の主軸1奥側への引き込
みにより上記密着嵌合を行う際の工具ホルダー3の延出端面3bの移動量は,弾性
変形によるものであって,突出量α1,突出量α2及び対向間隙Yの数値に比べわ
ずかな量であること等を考慮すると,当初明細書等に記載の両突出量α1,α2の
合計が対向間隙Yの数値に等しく(α1+α2=Y)なる旨の記載事項は,両突出
量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に厳密に等しくなることを意味するもので
はなく,ほぼ等しいことを意味するものと解すべきものであり,また,両突出量α
1,α2の合計が対向間隙Yの数値より多い(α1+α2>Y)と,上記密着嵌合
させる前に主軸1の延出端面1bと工具ホルダー3の延出端面3bとが密着して,
上記密着嵌合ができなくなることから,当初明細書等には,両突出量α1,α2の
合計が対向間隙Yの数値より少ない(α1+α2<Y)ことが記載されていると解
すべきである。」
 (ウ) むすび
 「以上のとおり,当初明細書等には,両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの
数値Yより少ない(α1+α2<Y)ことが記載されており,そして,本件発明の
構成要件である「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲
内で,互いに対向方向に延出してそれぞれ延出端面1b,5bに形成し」は,その
「対向間隙Yの数値の範囲内」が本件明細書等の段落【0010】に記載の「許容
対向間隙Yの範囲内,すなわちその数値より少ないこと」より「対向間隙Yの数値
より少ないこと」を意味するものであるから,当初明細書等に記載した事項の範囲
内の事項である。
 したがって,上記「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の
範囲内で,互いに対向方向に延出してそれぞれ延出端面1b,5bに形成し」とす
る本件の特許出願手続中にされた平成8年2月21日付手続補正書(判決注:本訴
甲6。本件第2補正)による明細書の補正は,明細書の要旨を変更するものではな
く,本件の特許出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみ
なされて出願日が繰り下がるものではないので,本件発明は,本件の特許出願につ
いての出願公開特許公報である本訴甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に
発明をすることができたものとすることはできない。」
 イ 無効理由2について
 (ア) 特許法36条4項違反について
 「主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させる際に,主
軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態から,工具ホルダ
ーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移動,換言すると,工具ホル
ダーの基準端面である鍔部端面を主軸の基準端面側に移動することにより,主軸の
テーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させることは,本件出願時
の技術常識であるので,本件発明の構成要件である「両延出端面1b,5bが互い
に吻合する」ことは,工具ホルダーを主軸奥側に引き込んで工具ホルダーの鍔部端
面を主軸の基準端面側に移動することにより行われるものであることが明らかであ
るので,本件明細書等の発明の詳細な説明には,当業者が本件発明を容易に実施す
ることができる程度に記載されていないとすることはできない。」
 (イ) 特許法36条5項1号違反について
 「本件明細書等の段落【0009】には,「しかして,両延出端面1b,5bが
互いに吻合するようにして,主軸1に工具ホルダー3を取付けることが可能になっ
ている構成を採用するものである。」と記載されているので,本件発明の構成要件
である「両延出端面1b,5bが互いに吻合するようにして,主軸1に工具ホルダ
ー3を取付けること」は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものであ
る。」 
 (ウ) 特許法36条5項2号違反について
 「工具ホルダーを主軸奥側に引き込んで工具ホルダーの鍔部端面を主軸の基準端
面側に移動することにより両延出端面1b,5bを互いに吻合することは,明記す
るまでもなく明らかな事項であるので,このことが明記されていないという理由
で,本件明細書等の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成に欠く
ことができない事項のみが記載されていないとすることはできない。」
 (4) 結論 
 「以上のとおり,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件
特許を無効とすることはできない。」
第3 原告の主張の要点
 審決は,本件第2補正の補正要件は当初明細書の要旨を変更するものではないと
誤って判断した結果,本件発明の進歩性の判断を誤り(取消事由1),また本件明
細書の記載不備を看過したものであって(取消事由2),これらの誤りが審決の結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきで
ある。
 1 取消事由1(補正要件の判断の誤りに基づく進歩性判断の誤り)
 (1) 本件特許請求の範囲請求項1の「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対
向間隙Yの数値の範囲内で,互いに対向方向に延出してそれぞれ延出端面1b,5
bに形成し,」との構成は,本件第2補正においてなされたものである。また,本
件明細書等の段落【0010】の「本発明は,上述のように主軸1の基準端面1a
と工具ホルダー3の通常の鍔部端面5aとのいずれも延出させて所要の延出量α
1,α2の延出端面1b,5bに形成するようにしたこと,その延出量α1,α2
の合計が前述の許容対向間隙Yの範囲内,すなわちその数値より少ないこと,及
び,それぞれの延出量α1又はα2が,少なくとも上記対向間隙Yの製作誤差Δ
i,すなわちその数値より多いことが必要である。」との記載は,本件第1補正に
おいてなされたものである。上記請求項1の「両延出量α1,α2の合計が上記許
容の対向間隙Yの数値の範囲内」とは,本件明細書等の記載を参酌すれば,「α1
+α2<Y」を意味する。
 他方,当初明細書等の請求項1には「主軸の上記既存の基準端面と,これに対向
する工具ホルダーの前記既存の鍔部端面とを,互いの対向方向に所要の突出量延出
して延出端面に形成し,しかして,両延出端面が互いに吻合するようにして」と記
載されている。また,当初明細書等の段落【0012】には「上記主軸1の既存の
端面1aと,これに対向する工具ホルダー3の既存の鍔部端面3aとを,互いの対
向方向に所要の突出量α(通常規格における対向間隙Yの2分の1)延出して延出
端面1b,3bを形成し,両延出端面1b,3bを互いに吻合させている。この突
出量αは,両者同一であることが好ましいが,必ずしもその必要はなく互いの突出
量αが異なっていてもよい。」と記載されている。上記当初明細書等の記載によれ
ば,当初明細書等には「α+α=Y,又は,α1+α2=Y」の構成しか開示され
ていない。
 以上によれば,本件第2補正による手続補正は,当初明細書等に記載した事項の
範囲内においてされたものではなく,その補正は明細書の要旨の変更に当たるとい
うべきである。そうすると,本件特許出願は,本件第2補正に係る平成8年2月2
1日付け手続補正書を提出した時になされたものとみなされ(平成5年法律第26
号改正前の特許法40条),出願日が繰り下げられる。本件発明は,当初明細書等
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2) これに対し,審決は,「主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部
を密着嵌合させる際に,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接
する状態から,工具ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移
動,換言すると,工具ホルダーの基準端面である鍔部端面を主軸の基準端面側に移
動することにより,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合
させることは,本件出願時の技術常識である。」とした上で,「工具ホルダー3の
主軸1奥側への引き込みにより上記密着嵌合を行う際の工具ホルダー3の延出端面
3bの移動量は,弾性変形によるものであって,突出量α1,突出量α2及び対向
間隙Yの数値に比べわずかな量であること等を考慮すると,当初明細書等に記載の
両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に等しく(α1+α2=Y)なる旨
の記載事項は,両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に厳密に等しくなる
ことを意味するものではなく,ほぼ等しいことを意味するものと解すべきものであ
り,…当初明細書等には,両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値より少な
い(α1+α2<Y)ことが記載されていると解すべきである。」と説示し,本件
第2補正による明細書の補正は,当初明細書等の要旨を変更するものではないと判
断したが,この判断は誤りである。
 ア 審決の認定によれば,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部と
が接する状態から,工具ホルダーを主軸奥側に引き込むというのであるから,主軸
のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態においては,工具ホ
ルダーの基準端面である鍔部端面と主軸の基準端面との間に間隙が形成され,両端
面が非接触状態でなければならない。しかしながら,本件明細書等や当初明細書等
には,「接する状態」なる概念は全く記載されておらず,主軸のテーパ孔と工具ホ
ルダーのテーパシャンク部とが「接する状態」において,工具ホルダーの鍔部端面
と主軸の基準端面とが非接触であるとの開示がないにもかかわらず,審決はこの点
を検討していない。また,「接する状態」が「密着嵌合」との概念上の違いも明ら
かではない。
イ 審決がいうように,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが
接する状態から,工具ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に
移動するとしても,その移動量はせいぜい0.02mm程度(甲14,15)であ
る。しかしながら,本件特許請求の範囲請求項1の記載によれば,例えば,「対向
間隙Y=3.0mm,端面からの突出量α1=0.4mm,α2=0.4mm」のもの
も本件特許請求の範囲に含まれることになるが,この場合に工具ホルダーの鍔部端
面と主軸の基準端面とが吻合するためには,工具ホルダーを2.2mmも引き込まな
ければならない。これは,弾性変形による移動量としては大きすぎるというべきで
あり,審決が認定した技術常識を前提とする移動量0.02mm程度をはるかに上
回ることになるが,審決は,どの程度の移動量であれば技術常識といえるかについ
て検討していない。つまり,審決は,本件特許請求の範囲に弾性変形による移動以
外のものが含まれているにもかかわらず,これを誤って看過したものである。原告
は,審判手続において,審決のいう技術常識が存在することは確かに認めたが(甲
10),これは弾性変形の範囲内での移動に関するものにすぎない。
 ウ 審決は,工具ホルダーを主軸奥側に引き込むことにより密着嵌合させるのが
技術常識であるとするが,当初明細書等の段落【0013】には,「上記構成によ
れば,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4が密着嵌合する
と同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3の延出端面3bが密着するよう
に特殊な精密加工を施しているため,切削負荷を両延出端面1b,3bでも受ける
ようになり,テーパ孔2とテーパシャンク部4との間に切削負荷が集中してかかる
ことがないから,そのテーパ孔2とテーパシャンク部4との密着面がフレッティン
グコロージョン現象等により摩耗されるおそれがない。」との記載があり,主軸の
延出端面と工具ホルダーの延出端面とを弾性変形による移動で密着させるのではな
く,特殊精密加工により密着させる技術が開示されている。したがって,本件明細
書等及び当初明細書等は,審決が認定した技術常識とは異なる技術を前提としてい
るというべきである。
 エ したがって,審決が上記技術常識を認定し,それに基づいて判断したのは誤
りである。
 2 取消事由2(本件明細書等の記載不備の看過)
 (1) 特許法36条4項違反
 審決のいう技術常識を前提としたとしても,本件明細書には,弾性変形に基づか
ない大きな移動量の場合に,当業者が本件発明を実施できる程度にその移動量と吻
合方法が記載されていない。したがって,本件明細書の記載は特許法36条4項に
違反する。
 (2) 特許法36条5項1号違反
 本件特許に係る請求項1には「両延出端面1b,5bが互いに吻合する」と記載
されているが,これは,弾性変形に基づかない大きな移動量の場合にも吻合すれば
成り立つものである。しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記のような
大きな移動量の場合にどのようにして吻合させるかについての記載がないので,特
許請求の範囲に記載された上記構成は,本件明細書に記載されているとはいえな
い。
 (3) 特許法36条5項2号違反
 本件発明は,弾性変形に基づかない大きな移動量の場合も含むが,弾性変形に基
づかない場合にどのように吻合を達成するかについての構成が特許請求の範囲に記
載されていないので,本件特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成
に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。
第4 被告の主張の要点
 審決の認定判断は正当であり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(補正要件の判断の誤りに基づく進歩性判断の誤り)に対して
 (1) 原告は,審決は技術常識を誤って認定したものであると主張する。しかしな
がら,審決の認定した技術常識は,審判手続の段階で原告も本件特許出願当時の技
術常識であると合意したものであり,審決は,当事者間に争いのない技術常識を前
提として判断したものであって誤りはない。そもそも,技術常識は当業者に一般的
に知られている技術をいうのであるから,明細書に記載されていないとしても,当
然の前提として参酌することは許されるものである。
 また,原告は,審決が,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが
接する状態において工具ホルダーの鍔部端面と主軸の基準端面とが接するか否かを
検討することなく,技術常識を認定したのは誤りであると主張する。しかしなが
ら,審決が認定した技術常識は,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク
部とが接する状態において両端面が接していないことを当然の前提とするものであ
るから,審決が工具ホルダーの鍔部端面と主軸の基準端面とが接するか否かを検討
していないのは誤りであるとの原告主張は失当である。
さらに,原告は「接する状態」と「密着嵌合」の概念上の差異が不明であると主
張する。しかしながら,当業者であれば,審決が認定した技術常識における「接す
る状態」が工具ホルダーを主軸に単に接触させているだけで主軸奥側に引き込んで
いない状態を意味し,一方,上記技術常識における「密着嵌合」が工具ホルダーを
主軸に接触させてから主軸奥側に引き込んでいる状態を意味することは明白であ
る。
 (2) 原告は,審決が工具ホルダーの移動量について十分に考慮していないと主張
する。しかしながら,基準端面及び鍔部端面からの突出量α1,α2の合計が対向
間隙Yの数値より少ないこと(α1+α2<Y)を意味するかどうかの判断にかか
わるのは工具ホルダーが移動するか否かであって,その移動量の大小はこの判断を
左右するものではない。また,原告は「対向間隙Y=3.0mm,端面からの突出
量α1=0.4mm,α2=0.4mm,工具ホルダーの引込量=2.2mm」の
ものを本件特許請求の範囲に含まれるとするが,本件特許請求の範囲に含まれるた
めには,延出量の要件に加えて,主軸側端面と鍔部端面が吻合することが必要であ
るから,上記具体例が本件特許請求の範囲に含まれるとする原告の主張は失当であ
る。
 (3) 原告は,本件明細書等及び当初明細書等には,主軸の延出端面と工具ホルダ
ーの延出端面とを特殊精密加工により密着させる技術が開示されているが,これは
審決が認定した技術常識とは異なる技術を前提とするものであると主張する。しか
しながら,基準端面及び鍔部端面に対して精密加工を施すことと,主軸のテーパ孔
と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態から工具ホルダーを主軸奥側に
引き込むという技術とは何ら矛盾することなく両立するものであって,原告の主張
は失当である。
 (4) 以上のとおり,原告の主張する取消事由1には理由がない。
 2 取消事由2(本件明細書等の記載不備の看過)に対して
 (1) 特許法36条4項違反の主張に対して
原告は,本件明細書は,弾性変形による移動量が大きい場合の吻合方法について
記載されていないと主張する。しかしながら,弾性変形による移動量は吻合方法に
影響を与えるものではなく,移動量を2.2mmとする原告の具体例が適切でない
ことは前記のとおりである。したがって,原告の主張は失当である。
 (2) 特許法36条5項1号違反の主張に対して
本件特許に適用される当時の特許庁の審査基準では,特許法36条5項1号につ
いて,「特許を受けようとする発明が,『発明の詳細な説明に記載したもの』か否
かの判断は,特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が,形式的にみて発
明の詳細な説明に記載されているか否かによって行うものとする。」と定められて
いる。本件明細書の段落【0009】の記載を根拠に,特許法36条5項1号の規
定の要件を充足するとした審決の判断に誤りはない。
 (3) 特許法36条5項2号違反の主張に対して
審決が認定した技術常識と,本件特許請求の範囲の「両延出端面1b,5bが互
いに吻合するようにして,主軸1に工具ホルダー3を取り付けることが可能となっ
ている」という構成要件から,工具ホルダーを主軸奥側に移動させることで吻合が
達成できることは明らかであり,本件特許請求の範囲には,特許を受けようとする
発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとした審決の判断に誤
りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(補正要件の判断の誤りに基づく進歩性判断の誤り)について
 (1) 本件発明について適用される平成5年法律第26号による改正前の特許法4
0条は,「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄
本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があっ
た後に認められたときは,その特許出願は,その補正について手続補正書を提出し
た時にしたものとみなす。」と定めており,同法41条は,「…願書に最初に添附
した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少
し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と定めてい
る。本件第2補正は,「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前」になされたも
のであるから,本件特許の出願時期は,本件第2補正による特許請求の範囲の変更
が当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたかどうかによって定まることに
なる。
 (2) 原告は,本件発明の当初明細書等には,基準端面及び鍔部端面の突出量α
1,α2と対向間隙Yが「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されていたと
ころ,本件第2補正による補正後の本件明細書等には,両端面の突出量α1,α2
と対向間隙Yが「α1+α2<Y」の関係にあることが記載されているのであるか
ら,本件第2補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものでは
なく,その補正は明細書の要旨の変更に当たると主張する。これについて,審決
は,本件特許出願当時の技術常識を参酌すれば,当初明細書等には,主軸側端面及
び鍔部端面の突出量と対向間隙が「α1+α2<Y」の関係にあることが記載され
ているといえるのであるから,本件第2補正は明細書の要旨の変更には当たらない
とし,被告は審決の認定判断に誤りはないと主張する。
 (3) そこで,主軸側端面及び鍔部端面の突出量αと対向間隙Yが「α1+α2<
Y」の関係にあることが当初明細書等に記載されているかどうかについて,検討す
る。
 ア 当初明細書等には,以下の記載がある。
(ア) 「【請求項1】回転又は非回転主軸(以下単に主軸という)に設けたテー
パ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を嵌合し,主軸先端の既存の基準端面と工
具ホルダーの既存の鍔部端面との間に許容の対向間隙を有するようにして,主軸に
工具ホルダーを取付けるようにした工具ホルダー取付装置において,主軸の上記既
存の基準端面と,これに対向する工具ホルダーの前記既存の鍔部端面とを,互いの
対向方向に所要の突出量延出して延出端面に形成し,しかして,両延出端面が互い
に吻合するようにして,主軸に工具ホルダーを取付けるようにした工具ホルダー取
付装置。」
 (イ) 「【0002】【従来の技術】従来,この種装置として図5に示すものがあ
る。これは,工作機械の回転又は非回転主軸…1に設けたテーパ孔2に工具ホルダ
ー3のテーパシャンク部4を嵌合させたものであって,JIS規格またはISO規
格によれば,上記テーパ孔2及びテーパシャンク部4の最大径D,長さL等を規格
化すると共に,ある程度の製作誤差(Δi)を見込んで,主軸1の基準端面1aと
工具ホルダー3の鍔部端面3aとの間に所定の対向間隙Yを設けることも規格化さ
れている。
【0003】上記構成によれば,同図仮想線に示すように,基準端面1aが製作誤
差(Δi)によりわずかに鍔部端面3a側に突出したり,鍔部端面3aが製作誤差
(Δi)によりわずかに基準端面1a側に突出したとしても,上記対向間隙Yによ
り,その製作誤差(Δi)が吸収されて,基準端面1aと鍔部端面3aとが互いに
当接することがないため,テーパ孔2にテーパシャンク部4を確実に密着嵌合させ
ることができる。
【0004】しかし,上記基準端面1aと鍔部端面3aとが互いに離れており,切
削負荷がテーパシャンク部4に集中的にかかるため,テーパ孔2とテーパシャンク
部4との密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗されやすくなる。
【0005】そこで,主軸1及び工具ホルダー3に精密加工を施して,主軸1の既
存の基準端面1aを対向間隙Y分だけ鍔部端面3a側に延出したり(図6),工具
ホルダー3の既存の鍔部端面3aを対向間隙Y分だけ基準端面1a側に延出して
(図7),テーパ孔2とテーパシャンク部4とを互いに密着嵌合させると同時に,
上記基準端面1aと鍔部端面3aとを互いに密着させることが考えられる。上記構
成によると,切削負荷が基準端面1aにもかかるようになるため,テーパ孔2とテ
ーパシャンク部4との密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗され
なくなる。
【0006】ところが,この特殊精密加工が施された主軸1や工具ホルダー3を前
述した通常規格の工具ホルダー3や主軸1に共用して使用すると,その通常規格に
は製作誤差(Δi)が許容されていることから問題が生じる。
【0007】すなわち,図6に仮想線で示すように,特殊精密加工を施した主軸1
に,テーパシャンク部4の長さが製作誤差(Δi)によりわずかに短くなった通常
規格の工具ホルダー3を取付けたり,図7に仮想線で示すように,特殊精密加工を
施した工具ホルダー3を,テーパ孔2の長さが製作誤差(Δi)によりわずかに長
くなった通常規格の主軸1に取付けた場合には,テーパ孔2にテーパシャンク部4
が密着嵌合する前に,基準端面1aに鍔部端面3aが当接するため,テーパ孔2と
テーパシャンク部4との間に隙間βが生じ,主軸1に工具ホルダー3を確実に取付
けることができなくなる。
【0008】【発明が解決しようとする課題】従って,本発明は,主軸の既存の基
準端面または工具ホルダーの既存の鍔部端面をその両者間の対向間隙だけ延出した
ものでは,通常規格の工具ホルダーや主軸として使用することができないため,こ
れを解決することを目的とする。」
 (ウ) 【0010】【作用】上記構成によれば,主軸1の基準端面1aと工具ホル
ダー3の鍔部端面3aとを所要の突出量α延出して延出端面1b,3bを形成し,
該両延出端面1b,3bが互いに吻合するようになっているから,主軸1のテーパ
孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4を密着嵌合させると同時に,主軸1の
延出端面1bに工具ホルダー3の延出端面3bを密着させることができる。従っ
て,切削負荷を両延出端面1b,3bでも受けるようになり,テーパ孔2とテーパ
シャンク部4との間に切削負荷が集中してかかることがなく,そのテーパ孔2とテ
ーパシャンク部4との間の密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗
されることがない(図1及び図2参照)。」
 (エ) 「【0012】【実施例】図1は本発明の一実施例たる工具ホルダー取付装
置を示すものであって,主軸1に設けたテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャ
ンク部4を嵌合させると共に,図2にも示すように,上記主軸1の既存の基準端面
1aと,これに対向する工具ホルダー3の既存の鍔部端面3aとを,互いの対向方
向に所要の突出量α(通常規格における対向間隙Yの2分の1)延出して延出端面
1b,3bを形成し,両延出端面1b,3bを互いに吻合させている。この突出量
αは,両者同一であることが好ましいが,必ずしもその必要はなく互いの突出量α
が異なっていてもよい。…
【0013】上記構成によれば,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシ
ャンク部4が密着嵌合すると同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3の延
出端面3bが密着するように特殊な精密加工を施しているため,切削負荷を両延出
端面1b,3bでも受けるようになり,テーパ孔2とテーパシャンク部4との間に
切削負荷が集中してかかることがないから,そのテーパ孔2とテーパシャンク部4
との密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗されるおそれがない。
【0014】ここで具体的寸法の一例を示すと,JIS規格の呼び番号BT50で
は,テーパ孔2及びテーパシャンク部4の最大径Dが69.850mm,テーパ孔
2の長さLが100.8mm,対向間隙Yが3mmと規定されており,既存の基準
端面1aまたは鍔部端面3aに対する両延出端面1b,3bの突出量αは1.5m
mとなる(ISO規格でもほぼ同じ寸法である)。」
 (オ) 「【0016】【発明の効果】本発明によれば,主軸及び工具ホルダーに精
密加工を要するという面倒さはあるが,これによってその両者の延出端面を互いに
吻合状態にして取付けることができるため,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテー
パシャンク部との密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗されるこ
とがなく,また剛性が著しく高いため,重切削を容易に行うことができ,しかも,
通常規格の工具ホルダーや主軸にも使用でき,互換性が失われることもない。」
 イ 以上の記載によれば,①従来は,テーパ孔にテーパシャンク部を嵌合させる
際に,製作誤差(Δi)を見込んで,主軸側の基準端面と鍔部端面との間に所定の
対向間隙Yを設けられていたが,そうすると,切削負荷がテーパシャンク部に集中
的にかかるため,テーパ孔とテーパシャンク部との密着面がフレッティングコロー
ジョン現象等により磨耗されやすくなる,②この課題に対応するため,基準端面又
は鍔部端面の一方に精密加工を施して,対向間隙Y分だけ他方の端面側に延出する
ことも考えられ,そうすると,フレッティングコロージョン現象等により磨耗され
なくなるが,この特殊精密加工が施された主軸や工具ホルダーを通常規格の工具ホ
ルダーや主軸に共用して使用すると,その通常規格には製作誤差(Δi)が許容さ
れていることから,テーパ孔とテーパシャンク部との間に隙間が生じ,主軸に工具
ホルダーを確実に取付けることができなくなるという問題点が生ずる,③そこで,
当初明細書等に記載された発明では,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャ
ンク部を嵌合し,基準端面と鍔部端面との間に許容の対向間隙を有するようにした
工具ホルダー取付装置において,両端面に精密加工を施し,互いの対向方向に所要
の突出量延出し,両延出端面を互いに吻合させることにより,フレッティングコロ
ージョン現象等により磨耗されることがないようにするとともに,主軸に工具ホル
ダーを確実に取り付けることができるようにしたものと認められる。
ウ このように,当初明細書等には,基準端面と鍔部端面との間に許容の対向間
隙Yを有するようにした工具ホルダー取付装置において,両端面を「所要の突出
量」延出し,両端面を「吻合」,すなわち「ぴったりと合う」(広辞苑第5版)よ
うにすることが記載されているのであるから,当初明細書等に記載された工具ホル
ダー取付装置の両端面からの突出量の合計(α1+α2)は両端面間の対向間隙Y
に一致すると理解するのが自然である。そして,本件明細書等には,実施例とし
て,対向間隙Yが3mm,基準端面及び鍔部端面からの突出量αが1.5mmの工
具ホルダー取付装置が開示されているが(段落【0014】),この実施例におけ
る突出量αと対向間隙Yの関係が「α1+α2=Y」であることも明白である。審
決も,当初明細書等の実施例に「両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に
等しく(α1+α2=Y)なることが記載されている」ことを認めている。
 エ ところが,審決は,「主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を
密着嵌合させる際に,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接す
る状態から,工具ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移動
…することにより,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合
させることは,本件出願時の技術常識である」と認定した上で,「工具ホルダー3
を主軸1奥側への引き込む前の主軸のテーパ孔2と工具ホルダー3のテーパシャン
ク部4とが接する状態から,工具ホルダー3の主軸1奥側への引き込みにより上記
密着嵌合を行う際の工具ホルダー3の延出端面3bの移動量は,弾性変形によるも
のであって,突出量α1,突出量α2及び対向間隙Yの数値に比べわずかな量であ
ること等を考慮すると,当初明細書等に記載の両突出量α1,α2の合計が対向間
隙Yの数値に等しく(α1+α2=Y)なる旨の記載事項は,両突出量α1,α2
の合計が対向間隙Yの数値に厳密に等しくなることを意味するものではなく,ほぼ
等しいことを意味するものと解すべきものであり,…当初明細書等には,両突出量
α1,α2の合計が対向間隙Yの数値より少ない(α1+α2<Y)ことが記載さ
れていると解すべきである。」と認定判断した。
 (ア) 確かに,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させ
る際に,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態から,
工具ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移動することによ
り,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させることが本
件出願時の技術常識であることは,原告も認めるところである(甲10)。また,
技術常識は,当業者が当然の前提とするものであるから,明細書等に記載されてい
ないとしても,これを認定することが妨げられるものではない。
 (イ) しかしながら,審決が認定した技術常識は,被告作成に係るパンフレット
(甲14)に「ホルダをクランプする前にはテーパ同士が密着し,この状態では端
面に20ミクロンの隙間があります。クランプ装置で引き込むことにより主軸が弾
性変形で拡がり,端面が完全に密着します。」と記載されているように,主軸と工
具ホルダーを密着嵌合させる過程において,端面間に発生するわずかな隙間をなく
すための技術であり,弾性変形による移動量もわずかであることから,当初明細書
等がこのわずかな移動量を考慮して「対向間隙Y」と「所要の突出量」を定めてい
ると直ちにいえるものではない。
 当初明細書等には,上記技術常識の存在はもとより,主軸のテーパ孔に工具ホル
ダーのテーパシャンク部4を密着嵌合させる際に,弾性変形による移動量が発生す
る旨の記載は一切なく,またこのような移動量が発生することを前提とする記載も
ない。また,実施例にも「α1+α2=Y」の関係が示されているにすぎず,弾性
変形による移動量が考慮されている形跡はない。
 そうすると,審決の認定した技術常識が,本件特許出願当時に存在したとして
も,当初明細書等が,「対向間隙Y」と「所要の突出量」の関係を定める上で,こ
の技術常識を適用し,あるいは考慮しているとは認めることができない。
 (ウ) 審決は,上記技術常識を前提とし,当初明細書等には記載のない「主軸のテ
ーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態」を想定した上で,「主軸
のテーパ孔2と…テーパシャンク部4とが接する状態での…基準端面1aと…鍔部
端面3aとの対向間隙が当初明細書等に記載の対向間隙Yを意味する」(7頁10
行~16行)とする。
 しかしながら,当初明細書等には,「…主軸…に設けたテーパ孔に工具ホルダー
のテーパシャンクを嵌合し,主軸先端の既存の基準端面と工具ホルダーの既存の鍔
部端面との間に許容の対向間隙を有するようにして,主軸に工具ホルダーを取り付
けるようにした」(請求項1),「…主軸…に設けたテーパ孔2に工具ホルダー3
のテーパシャンク部4を嵌合させたものであって,…主軸1の基準端面1aと工具
ホルダー3の鍔部端面3aとの間に所定の対向間隙Yを設けることも規格化されて
いる」(段落【0002】)との記載があり,これらの記載によれば,当初明細書
等における「対向間隙Y」とは主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部
が密着嵌合した状態における間隙を意味するというべきである。
 そして,当初明細書等の「対向間隙Y」は規格化された許容の対向間隙であるこ
とに照らせば,その数値は,主軸に工具ホルダーを取り付けた状態,すなわち主軸
のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合した状態での対向間隙の
数値を意味すると理解すべきであり,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャ
ンク部を密着嵌合する前の「接する状態」の間隙であるということはできない。当
初明細書等には,「対向間隙Y」が主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャン
ク部が接する状態における間隙であることを示唆する記載は存在しない。
 したがって,審決が,当初明細書における対向間隙Yが,主軸のテーパ孔と工具
ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態における対向間隙であると認定判断し
たことは誤りである。
 (エ) 審決は,両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値に等しくすると,
「工具ホルダー3を主軸1奥側へ引き込んで移動させて主軸1のテーパ孔2に工具
ホルダー3のテーパシャンク部4を密着嵌合させる前に,主軸1の延出端面1bと
工具ホルダー3の延出端面3bとが密着するので,主軸1に工具ホルダー3を確実
に取付けるために必須な上記密着嵌合ができなくなる」との不都合が生ずるとす
る。
 確かに,審決のように,当初明細書等における対向間隙Yがテーパ孔とテーパシ
ャンク部が「接する」状態における対向間隙であることを前提とするのであれば,
テーパ孔とテーパシャンク部が接する状態において「α1+α2=Y」の関係が成
立してしまうと,その時点で両端面が吻合してしまうので,工具ホルダーを主軸奥
側に引き込んでテーパ孔とテーパシャンク部を密着嵌合させることができなくなる
との不都合が生ずる。
 しかしながら,当初明細書等における対向間隙Yがテーパ孔とテーパシャンク部
が接した状態における対向間隙であるとの審決の認定判断が誤りであることは,前
記判示のとおりである。
 逆に,当初明細書等における対向間隙Yが主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテー
パシャンク部を嵌合した状態における間隙を意味すると理解すれば,基準端面と鍔
部端面の「所要の突出量」の合計(α1+α2)は,対向間隙Yと等しくなるよう
に設定すれば足りるのであり,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部
が接する状態から密着嵌合させるまでに発生するわずかな移動量は考慮する必要が
ないことになる。そして,このような理解が当初明細書等の記載に沿うものである
ことは,前記判示のとおりである。
 (オ) 審決は,当初明細書等の実施例として「両突出量α1,α2の合計が対向間
隙Yの数値に等しく(α1+α2=Y)なる旨の記載」がなされていることは認め
ながらも(7頁19行~22行),同記載事項は,「両突出量α1,α2の合計が
対向間隙Yの数値に厳密に等しくなることを意味するものではなく,ほぼ等しいこ
とを意味するものと解すべき」であるとする。
 しかしながら,当初明細書等の実施例には,「α=1.5mm,対向間隙Y=3
mm」とする工具ホルダー取付装置が記載されている以上,「α1+α2=Y」で
あることが記載されていることは明白であり,この記載事項を「両突出量α1,α
2の合計が対向間隙Yの数値に厳密に等しくなることを意味するものではなく,…
両突出量α1,α2の合計が対向間隙Yの数値より少ない(α1+α2<Y)こと
が記載されている」と理解するのは,当初明細書等の記載の文言にも,また,その
趣旨にも反する解釈であるというほかない。
 オ 以上によれば,当初明細書等には,基準端面及び鍔部端面の突出量と対向間
隙Yが「α1+α2=Y」であることが記載されているのであって,「α1+α2
<Y」の関係が記載されているとした審決の認定判断は誤りであるというべきであ
る。
 (4) なお,当初明細書等における「対向間隙Y」は,本件明細書等における「対
向間隙Y」と同じ概念であると解されるところ,本件明細書等における「対向間隙
Y」が主軸のテーパ孔と工具ホルダーテーパシャンク部が密着嵌合した状態におけ
る間隙であるといえるかについて,念のために検討しておくこととする。
 ア 本件特許請求の範囲請求項1には「…主軸側端面1aとこれに対向する鍔部
端面5aとの間の許容の対向間隙Yが工業規格で定められた数値の範囲内で製作さ
れる工具ホルダーの取付装置において,上記主軸側端面1aと,これに対向する鍔
部端面5aとのそれぞれを,工業規格で定められた許容の製作誤差Δiの数値より
多く延出すると共に,両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の
範囲内で,互いに対向方向に延出してそれぞれ延出端面1b,5bに形成し,しか
して,両延出端面1b,5bが互いに吻合するようにして,」との記載が存在す
る。 ここでいう「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範
囲内」とは「α1+α2<Y」を意味すると理解し得るが,他方で上記請求項1に
は「両延出端面1b,5bが互いに吻合する」との記載があり,両記載を矛盾なく
理解しようとすれば,本件明細書等における「対向間隙Y」は主軸のテーパ孔と工
具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態における間隙を意味し,その状態では
「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲内」であるが,
工具ホルダが弾性変形により主軸奥側にわずかに移動することにより「両延出端面
1b,5bが互いに吻合する」と解する余地がある。
 イ しかしながら,本件明細書等には,「対向間隙Yが工業規格で定められた数
値の範囲内」(請求項1),「対向許容間隙Yは3mm(ISO規格では3.20
mm)」(段落【0003】)との記載があり,本件明細書等の「対向間隙Y」
も,当初明細書等における「対向間隙Y」と同様,規格化されたものであると認め
ることができる。このように規格化された「対向間隙Y」は,主軸に工具ホルダー
を取り付けた状態,すなわち主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部が
密着嵌合した状態における対向間隙の数値であると理解すべきであることは,前記
判示のとおりである。
 また,本件明細書等には,「対向間隙Yが3mm,基準端面及び鍔部端面からの
延出量α1,α2がそれぞれ1.5mm」「対向間隙Yが3mm,基準端面からの
延出量α1が1mm,鍔部端面からの延出量α2が2mm」の工具ホルダー取付装
置が実施例として示され,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+
α2=Y」の関係を満たしていることが記載されている。対向間隙Yが主軸のテー
パ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態での間隙であることを前提と
すれば,対向間隙Yと両端面からの延出量α1,α2の関係は,「α1+α2<
Y」でなければならないのであって,この実施例に照らすと,本件明細書等の対向
間隙Yが主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態での間隙
であるとはいうことができない。
 さらに,本件明細書等の記載によれば,本件発明は,例えば「対向間隙Yが3m
m,延出量αがそれぞれ0.5mm」のものも含み得ることになり,この場合,審
決の認定した技術常識を前提とすれば,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシ
ャンク部が接する状態から密着嵌合する際に,工具ホルダーは2mmも移動するこ
とになる。しかしながら,審決も弾性変形による移動量は「わずか」であるとし,
甲14でも主軸の引き込み前の隙間は0.02mmであるとされているように,2
mmという移動量は弾性変形によるわずかな移動量とは到底いえないものである。
そうすると,本件明細書等における「対向間隙Y」を主軸のテーパ孔と工具ホルダ
ーのテーパシャンク部が接する状態における間隙であると理解することは困難であ
る。
以上によれば,本件明細書等における「対向間隙Y」も,当初明細書等における
「対向間隙Y」と同様,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接す
る状態における対向間隙を意味するのではなく,テーパ孔とテーパシャンク部が密
着嵌合した状態における対向間隙を意味するというべきである。
 (5) 以上検討してきたとおり,当初明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突
出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されており,他方,
本件特許請求の範囲請求項1には,「α1+α2<Y」との関係が記載されている
(この点は当事者間に争いがない。)ということができるので,本件第2補正は当
初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく,当初明細書の要
旨の変更に当たるというべきである。そうすると,本件特許出願は,本件第2補正
に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされることになるから,本件第2
補正が当初明細書の要旨の変更に当たらないとした審決の判断の誤りが結論に影響
を及ぼすことは明らかである。
 2 結論
 以上のとおり,原告の主張する取消事由1は理由があるので,審決は違法として
取消しを免れない。なお,その余の取消事由については,判断するのが相当ではな
いので,判断しないこととする。
     知的財産高等裁判所第4部
         裁判長裁判官     塚  原  朋  一
            裁判官     田  中  昌  利
           裁判官     佐  藤  達  文

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