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裁判例


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       主   文
1 原決定を次のとおり変更する。
(1) 抗告人が平成13年8月13日付けで相手方に対して発付した退去強制令
書に基づく執行は,送還部分に限り,本案事件(東京地方裁判所平成13年(行
ウ)第316号退去強制令書発付処分取消等請求事件)の第1審判決の言渡しの日
から起算して10日後までの間これを停止する。
(2) 相手方のその余の申立てを却下する。
2 本件申立費用及び抗告費用は,これを2分し,その1を抗告人の,その余を相
手方の各負担とする。
       理   由
第1 抗告の趣旨及び理由等
1 本件抗告の趣旨は,「(1) 原決定主文第1項を取り消す。(2) 前項の
取消しに係る本件申立てを却下する。(3) 本件申立費用及び抗告費用は,相手
方の負担とする。」というものであり,本件抗告の理由は,別紙1(抗告理由書)
に記載のとおりである。
2 本件抗告の理由に対する相手方の意見は,別紙2-1(平成14年2月18日
付け意見書)及び別紙2-2(同年2月21日付け意見書2)に記載のとおりであ
る。
第2 事案の概要
1 本件は,相手方が,法務大臣が相手方に対して平成13年8月13日付けでし
た出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)49条1項に基づく相手方の
異議申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)及び抗告人が相手方
に対して同日付けでした退去強制令書(以下「本件令書」という。)の発付処分の
各取消しを求めて提起した訴えを本案として,本案事件の判決確定まで本件令書に
基づく執行の停止を求めた事件である。原決定は,相手方の求めた本件申立てにつ
いて,本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後まで本件令書に基
づく執行の停止を求める限度で理由があるとして認容し,その余は理由がないとし
て却下した。
2 前提となる事実(本件記録に照らして一応認められる事実)
(1) 相手方は,昭和46(1971)年10月29日,大韓民国(以下「韓
国」という。)において出生した韓国国籍を有する男子である。
(2) 相手方は,平成4年5月14日,新東京国際空港に到着し,東京入国管理
局(以下「東京入管」という。)成田支局入国審査官に対し,日本の連絡先を東京
都荒川区α24ー20,日本滞在予定期間を15日間,渡航目的を親知訪問とそれ
ぞれ申告して上陸申請をし,同日,法別表第1に定める在留資格を短期滞在,在留
期間を15日とする上陸許可を受けた。
(3) 相手方は,当初から不法就労する目的で我が国に入国したものであり,入
国直後から,法務大臣から法19条2項に定める資格外活動の許可を受けることな
く不法就労を開始し,在留期間の更新等をすることなく,上記上陸許可の在留期限
である平成4年5月29日を超えて我が国に残留し,不法就労を継続した。
(4) 相手方は,平成11年12月14日,東京都葛飾区長に対し,A(昭和2
8年5月28日生。)との婚姻を届け出るとともに,肩書住所地である同区β4番
2ー404号を居住地として外国人登録法3条1項に基づく新規の登録申請をし,
その後間もない平成12年1月6日,東京入管第2庁舎に出頭し,不法残留事実を
申告した。
 なお,上記婚姻届出をしたものの,Aには,平成9年1月に離婚した前夫との間
に3人の子(平成13年11月現在25歳,21歳,10歳のいずれも男子)がお
り,二男及び三男と同居していたこともあって,相手方とAは,直ちには同居をし
なかった。
(5) 東京入管入国警備官は,相手方からの不法残留事実の申告に基づき相手方
の法24条各号該当の有無を調査した結果,相手方に同条4号ロ(不法残留)に該
当すると疑うに足りる相当な理由があるとして,東京入管主任審査官に収容令書の
発付を求め,平成12年8月9日,その発付を受け,同月11日,同令書を執行し
て相手方を収容するとともに,相手方を東京入管入国審査官に引き渡した。東京入
管主任審査官は,同日,相手方の請求に基づき,相手方の仮放免を許可した。
(6) 東京入管入国審査官は,相手方の違反事実の有無を審査した結果,平成1
2年11月20日,相手方に法24条4号ロ(不法残留)に該当する違反があると
認定して,その認定通知書を相手方に交付したところ,相手方は,法48条1項に
基づき口頭審理の請求をした。なお,相手方は,入国警備官の調査及び入国審査官
の審査を通じて,不法残留の事実自体は認めており,婚姻したAやその子のために
我が国で生活したい旨供述していた。
(7) 東京入管特別審理官は,平成13年4月20日,Aの立会いの下に相手方
の請求に係る口頭審理をしたが,その結果,上記(6)の入国審査官の認定に誤り
はない旨判定し,判定通知書を相手方に交付したところ,相手方は,同日,法49
条1項に基づき異議の申出をした。
(8) 法務大臣は,平成13年8月3日,相手方の上記異議の申出には理由がな
い旨の本件裁決をし,抗告人にその旨の通知をした。抗告人は,これをうけて,同
月13日,相手方にその旨の通知をするとともに,本件令書を発付し,これに基づ
いて相手方を収容した。
(9) 相手方は,平成13年11月9日,東京地方裁判所に,法務大臣及び抗告
人を被告として,法務大臣がした本件裁決及び抗告人がした本件令書発付処分の各
取消しを求めて本案事件を提起するとともに,本件令書に基づく執行の停止を求め
る本件申立てをした。相手方が本案事件の理由とするところは,本件裁決は法務大
臣が相手方に法50条1項に定める在留の特別許可(以下「在留特別許可」とい
う。)をすべきであるのにこれをしないでしたもので違法であり,したがって,違
法な本件裁決を前提としてされた本件令書発付処分も違法であるというものであ
る。
第3 当裁判所の判断
1 本件本案事件について
 我が国の憲法上,外国人は我が国に入国する自由や入国後我が国に在留する権利
を保障されているものではなく,したがって,上陸を許された外国人といえども,
その在留期間が経過した場合には,我が国から退去しなければならないことは,当
然のことである。法は,当該外国人が在留資格の変更や在留期間の更新を申請する
ときは,法務大臣はこれを許可することができるとしているが(法20条,21
条),在留資格の変更や在留期間の更新を権利として認めているものではない(最
高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。同様
に,法は,在留期間を経過後も我が国に不法に在留する外国人に対してもその在留
を特別に許可することができるとしているが(法50条1項),そうであるからと
いって,当該外国人にかかる在留特別許可を受ける権利があるということはできな
い。そして,法務大臣が在留特別許可をするか否かについては,単に当該不法在留
に係る事情だけでなく,広く国内外の政治的,経済的諸情勢を含むもろもろの事情
をしんしゃくして判断すべきものであるから,法務大臣は,在留特別許可に関して
は広範な裁量権を有しているものというべきである。したがって,在留特別許可に
係る法務大臣の判断が裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとして違法
と評価されるのは,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある等により同判
断が全く事実の基礎を欠くとか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと
等によりその判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場
合に限られるものと解するのが相当である。
 かかる見地に立って本件をみると,前記前提となる事実によれば,相手方が法2
4条4号ロ(不法残留)に該当することは明らかであり,また,相手方は,当初か
ら不法就労を目的として我が国に入国し,不法在留を続けながら不法就労をしてい
るものであって,相手方の不法在留は初めから意図されたものであり,かつ,その
期間が長期に及んでいるという点において,極めて悪質であることは,否めないと
ころである。しかし,相手方は,入国後,日本人女性Aと婚姻し,Aには未成熟の
子もいるところ,記録によれば,相手方とAが相協力して当該未成熟の子を養育し
ていることも認められなくはないのであって,本案事件の審理のいかんによっては
相手方にとってより有利な事情も明らかにされる可能性もないではない。したがっ
て,本案事件が理由があるか否かについてはなお慎重に審理を尽くす必要があるの
であり,現時点においては,行政事件訴訟法25条3項にいう「本案について理由
がないとみえるとき」に該当するとまではいうことはできない。
2 執行停止の必要性等について
(1) 前記前提となる事実によれば,相手方は,法務大臣及び抗告人を被告とし
て本案事件を提起し,現在その審理が進行中であることが明らかであるところ,本
件令書が執行されて相手方が本国に送還されてしまうと,訴訟代理人との打合せ等
に支障が生じ,相手方が第1審判決までの間訴訟を維持することが相当困難になる
ことは否定し難い上,仮に本案事件について勝訴しても,送還の執行前の状態を回
復することについての制度的な保障はないのであるから,これらのことを勘案する
と,相手方は,送還の執行によって回復の困難な損害を受けるものと認めるのが相
当である。
 そして,本件令書の送還部分の執行を停止しても,公共の福祉に重大な影響を及
ぼすおそれがあるとはいえないから,本件令書に基づく送還部分の執行は,これを
停止すべきものと認めるのが相当である。しかし,第1審判決言渡し後もこの執行
停止を継続すべきかは,第1審の審理の結果明らかになった事情も含めて,第1審
判決言渡し後に改めて判断するのが相当であるから,送還部分の執行を停止すべき
期間は,第1審判決の言渡しの日から起算して10日後までとするのが相当であ
る。
(2) しかしながら,本件令書による収容部分の執行については,これを停止す
べき必要性があるものということはできない。
 すなわち,法52条5項に定める収容は,強制退去令書の発付を受けた者につい
て送還可能の時までその者の送還を確実に実施することができるようにするため,
入国者収容所等の場所に収容してその身体を拘束するものであり,収容部分の執行
により被収容者が入国者収容所等に収容され,その身体の自由が制限される等の不
利益を受けることは,法の当然に予定しているところであるというべきである。そ
して,このように収容部分の執行により当然に生ずる身体拘束による自由の制限等
の不利益は,それのみでは,いまだ行政事件訴訟法25条2項にいう「回復の困難
な損害」に当たるものとはいえず,同項にいう「回復の困難な損害」があるという
ためには,収容部分の執行により当然に生ずる上記のような身体拘束による自由の
制限等の不利益を超え,収容に耐え難い身体的状況があるとか,収容によって被収
容者と密接な関係にある者の生命身体に危険が生ずるなど,収容自体を不相当とす
るような特別の損害があることを要するものと解すべきである。
 しかるところ,本件においては,記録によれば,相手方は,我が国に入国後土木
作業員として稼働し続け,Aと婚姻した後は,Aと共にキムチ販売業を行っていた
ことが認められるのであり,相手方が収容に耐え難いほどの身体的状況にあるもの
と認めることはできない。また,相手方の収容によりAとその未成熟の子の生活に
ある程度の影響があることは考えられるが,もともと,Aは前夫と離婚し,未成熟
の子と生活していたのであるし,未成熟の子については前夫に扶助を求めることや
福祉による保護を得ることも考えられるから,相手方の収容がAらの生活に何らか
の影響を及ぼすとしても,これをもって回復の困難な損害が生ずるとまでいうこと
はできない。その他,本件記録に照らしても,収容によって回復の困難な損害が生
ずるものと認めるに足りる事情があるものということはできない。したがって,本
件令書による収容部分の執行については,これを停止する必要性を認めることはで
きない。
3 結論
 以上のとおりであるから,本件令書に基づく執行の停止を求める本件申立ては,
送還部分については,本案事件の第1審判決の言渡しの日から起算して10日後ま
での間の停止を求める限度で相当であるが,収容部分については,その必要が認め
られず,理由がない。
 よって,当裁判所の上記の判断と一部異なる原決定を変更することとして,主文
のとおり決定する。
平成14年4月3日
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官 石井健吾
裁判官 小田泰機
裁判官 大橋弘

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