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平成20年5月29日判決言渡
平成19年(行ケ)第10215号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年3月13日
判決
原告ザコカ・コーラカンパニー
訴訟代理人弁護士鈴木修
同小林邦聡
訴訟代理人弁理士中田和博
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人長澤祥子
同石田清
同小林和男
主文
1特許庁が不服2005−1651号事件について平成19年2月
6日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年7月2日,別紙商標目録に示すとおりの構成からなる
立体商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を第32類「ビ
ール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用
野菜ジュース」として,商標登録出願(商願2003−55134号。以
下「本願」という。)をしたが,平成16年10月22日付けの拒絶査定を
受けたので,平成17年1月31日,これを不服として審判を請求し(不服
2005−1651号事件),同年11月25日,指定商品を第32類「コ
ーラ飲料」に補正する手続補正をした。特許庁は,平成19年2月6日,「
本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間90日。以下「審
決」という。)をし,同月20日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標は,商品,商品の包
装又は役務の提供の用に供する物(以下,これらを併せて「商品等」という
場合がある。)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる
商標というべきであるから,商標法3条1項3号に該当し,また,本願商標
それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとはいえ
ないから,同法3条2項の要件を具備していない,というものである。
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
(1)取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)
審決は,本願商標が,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する
標章のみからなる商標であって,商標法3条1項3号に該当すると認定判
断した。
しかし,以下のとおり,本願商標に係る立体的形状は,生来的に自他商
品識別力を有するものであり,原告による独占使用が公益に反することも
ないから,審決の上記認定判断は誤りである。
ア本願商標の構成
(ア)立体的形状
a本願商標は,指定商品「コーラ飲料」の容器の立体的形状に係る
ものであり,下記(a)ないし(e)の特徴(以下,これらの特徴をそ
れぞれ「特徴点(a)」などといい,これらをまとめて「本願商標の
特徴的形状」という場合がある。)を有する,極めて斬新なもので
ある(甲70)。
(a)上部から徐々にふくらみをもたせ,底面からほぼ5分の1の
位置にくびれをもたせていること。
(b)くびれの下に台形状の広がりをもたせていること。
(c)ほぼ中央にボトル全長の約5分の1の高さの凹凸のないラベ
ル部分を設けていること。
(d)全体にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に
柱状の凸部を10本並列的に配していること。
(e)ラベル部分の上には同様に柱状の凸部を10本並列的に配
し,上部に行くに従い自然に消滅させていること。
なお,本願商標の構成には,容器としての機能を果たすために必
要な口部が含まれるが,後記(2)ア(ア)bのとおり,口部の形状は,
機能に直結する形状であるとともに,ありふれた形状であって,需
要者が商品を識別する対象とはなり得ないから,本願商標の特徴的
な部分ということはできない。
b被告は,清涼飲料水の容器には,本願商標に類似する立体的形状
を有するものがあると主張するが,現在市場に流通するもので,特
徴点(a)ないし(e)を兼ね備えるものは存在しないし,過去にその
ような例を発見したときは,原告は,直ちに警告して,販売を中止
させている(甲128,129)。
(イ)色彩
審決は,本願商標について,「やや緑がかった半透明」(審決書3
頁7行)であると認定した。
しかし,本願商標の構成要素はその立体的形状のみであり,審決の
上記認定は誤りである。本願の願書(甲70)の写真は,いずれも無
色透明のガラス瓶を撮影したものであり,本願において登録を受けよ
うとする商標の構成要素に色彩は含まれない。
イ本願商標の自他商品識別力
審決は,「本願商標を構成する容器の特徴は,商品の機能をより効果
的に発揮させたり,美感をより優れたものにする等の目的で同種商品が
一般に採用し得る範囲内のものであって,商品『コーラ飲料』の容器と
して予測しがたいような特異な形状や特異な印象を与える装飾的形状で
あるということはできない。」(審決書3頁26行∼30行)と認定判
断した。
しかし,以下のとおり,本願商標の特徴的形状は,美感や機能を高め
るためではなく,同形状に自他商品識別力を持たせることを目的として
原告が開発・採用したものであって,正に生来的な自他商品識別力を有
するものであるから,審決の上記認定判断は誤りである。
(ア)本願商標の特徴的形状の由来
本願商標の特徴的形状は,自他商品識別力を持たせることを目的と
して,原告が開発・採用したものである。すなわち,同形状は,19
15年(大正4年)にアメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)
で考案され,1916年(大正5年)に原告の業務に係るコーラ飲
料「コカ・コーラ」(以下「原告商品」という。)の容器(瓶)への
使用が開始されたもので,消費者が原告商品を模倣品から区別するこ
とができるようにするとともに,原告商品の統一的イメージを形成す
ることを目的として,原告により開発・採用されたものである。同形
状を用いた瓶は,当時,他に全く類を見ない極めて斬新なデザインで
あったことから,デザインの専門家から「現在出まわっているうち
で,最も完璧なデザインの容器」と評され,また,1960年(昭和
35年)にはアメリカの特許商標庁において,その立体的形状のみが
商標として登録されるに至った(甲27,28,33,36∼40,
71∼73)。
本願商標の特徴的形状を備えた原告商品の容器(瓶)は,特徴的な
輪郭(contour)が女性の体のように見えることから「コンツ
アー・ボトル」と呼びならわされ,あるいは,1910年代にアメリ
カで流行した「ホッブル・スカート」に形状が似ていることから「ホ
ッブル・スカート・ボトル」と呼びならわされてきたものであって(
甲1,4,6),ブランドの構築にとって重要な役割を果たす「ブラ
ンド・シンボル」として認識され(甲77),「ブランドのアイデン
ティティと固く結びついているため,世界中どこでもボトルの形だけ
で(製品名が書かれていなくても),コカ・コーラであると認識され
る」(甲79)といわれている。原告商品は,本願商標の特徴的形状
を用いたからこそ,そのブランド構築及びマーケティングに成功し,
世界に知られるヒット商品となり得たのである(甲80,81)。
(イ)本願商標に係る立体的形状の採用の困難性
本願商標の特徴的形状を備えた容器の製造は困難であるから,本願
商標に係る立体的形状は取引業界において容易に採用されるようなも
のではない。このことは,本願商標の特徴的形状を備えた原告商品の
容器(瓶)がアメリカで開発された際,類似の形状のものが存在しな
かったこと,我が国での原告商品の製造,販売の開始に際し,国内で
規格を満たす容器(瓶)を生産できるまで半年の月日を要したこと(
甲76)などから,明らかである。
また,本願商標の立体的形状におけるように,くびれ部分を瓶の中
心より下に配した場合,重心が高くなるため,瓶のくびれ部分を持っ
た際,手で持ちにくくなるが,このようにあえて機能を低下させるよ
うな形状を選択することは容易ではない。
(ウ)本願商標が商標法3条1項3号に該当しないこと
本願の指定商品「コーラ飲料」をはじめとする清涼飲料の容器とし
ては,内容物(清涼飲料)を収納し,外部に漏出しないような形状で
さえあれば,その機能を確保することが可能であるから,特徴点(a)
ないし(e)を兼ね備えた本願商標に係る立体的形状は,清涼飲料の容
器の「機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商
標」(商標法4条1項18号)ではなく,立体商標として登録される
可能性が肯定されるべきである。
そして,本願商標に係る立体的形状は,極めて斬新なものであるこ
と(前記ア(ア)),本願商標の特徴的形状は,消費者が原告商品を模
倣品から区別することができるようにするとともに,原告商品の統一
的イメージを形成することを目的として,原告が新たに開発・採用し
たものであること(前記(ア)),本願商標に係る立体的形状は,取引
業界において容易に採用されるものではないこと(前記(イ))などか
らすれば,本願商標に係る立体的形状は,同種の商品等が一般的に採
用し得る範囲を超えるような特別な印象を与える装飾的形状というべ
きである。
さらに,本願商標の特徴的形状は,世界各国において,著名であ
り,強力な自他商品識別力を有することから,これを指定商品「コー
ラ飲料」に使用することを欲する者は,原告とそのグループ会社以外
には,これまで存在しなかったし,今後も同様であろう。我が国で
は,他の同業者も,原告による本願商標の事実上の独占使用を許容し
ており(甲82∼84),本願商標を登録することは公益に反するも
のではない。
(2)取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)
審決は,本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有する
に至っているとはいえないから,商標法3条2項の要件を具備していない
と認定判断した。
しかし,以下のとおり,本願商標の特徴的形状が長年にわたり使用され
た結果,本願商標に係る立体的形状は,単独で自他商品識別力を獲得する
に至っており,原告による独占使用が公益に反することもないから,審決
の上記認定判断は誤りである。
ア本願商標の特徴的形状の使用実績
(ア)本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の容器(瓶)
a本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の容器(瓶)には,回収
して再利用するもの(以下「リターナブル瓶」という。)と,再利
用を予定しないもの(以下「ワンウェイ瓶」という。)がある。リ
ターナブル瓶は,キャップに王冠を用いたものであり(甲16,4
3,64),ワンウェイ瓶は,キャップにPPキャップを用いたも
のであって(甲61,乙5の1,5の2),いずれも本願商標の特
徴的形状をすべて備えている。なお,原告商品の容器として用いら
れたリターナブル瓶及びワンウェイ瓶には,それぞれ平面標章部分
が異なるものがある(甲16,乙5の1)。
b本願商標に係る立体的形状は,リターナブル瓶の立体的形状と実
質的に同一である。
審決は,「使用に係る商標の,立体的形状部分(判決注,リター
ナブル瓶の立体的形状を意味する。)は,上部のキャップ部分を除
き本願商標と同一の範囲内のものである」(審決書5頁4行∼5
行)と認定判断し,被告は,本願商標とリターナブル瓶とは,その
口部がスクリューキャップ用か王冠用かという点で相違し,また,
口部が全体において占める割合が異なると主張する。
しかし,前記ア(ア)aのとおり,本願商標の構成中,口部の形状
は,機能に直結する形状であるとともに,ありふれた形状であっ
て,需要者が商品を識別する対象とはなり得ないし,リターナブル
瓶の口部の形状も同様であるから,キャップ部分ないし口部に注目
することは誤りである。
王冠は,かつてJISにより標準規格化されていたものであり(
甲125),瓶の口部の下部に設けられるふくらみは,開栓時に瓶
が破損しないよう強度を高めるためのもので,王冠用のガラス瓶に
普通に設けられており(乙2の16,2の17),極めてありふれ
た形状である。
また,スクリューキャップは,標準規格化されていないものの,
清涼飲料など液体の商品の容器はもとより,医薬品,食品その他の
商品の容器に広く用いられており,スクリューキャップを嵌合する
ために瓶の口部に設けられるねじ山部分の形状は,機能的な形状で
あるのみならず,極めてありふれた形状であるということができ
る。なお,ワンウェイ瓶入りの原告商品にコカ・コーラに用いてい
るスクリューキャップは,清涼飲料メーカー各社が様々な製品に汎
用しているものと同じである。
このように,スクリューキャップ用の瓶であれ,王冠用の瓶であ
れ,機能に直結する形状であるとともに,ありふれた形状であるか
ら,需要者が商品を識別する対象とはなり得ない。
c本願商標に係る立体的形状は,ワンウェイ瓶の立体的形状と完全
に同一である。
(イ)本願商標の特徴的形状を用いた原告商品の販売実績
a本願商標の特徴的形状を有するリターナブル瓶は,1916年(
大正5年)にアメリカで原告商品への使用が開始され(甲71),
その後,太平洋戦争が始まるまで,我が国に輸入販売された原告商
品にも用いられた(甲35,85)。太平洋戦争により原告商品の
輸入販売は中断したが,昭和32年,原告の100%子会社である
日本コカ・コーラ株式会社(以下「日本コカ・コーラ」という。な
お,当時の商号は,日本飲料工業株式会社であった。)が,ボトラ
ーである東京コカ・コーラボトリング株式会社(以下「東京コカ・
コーラボトリング」という。なお,当時の商号は,東京飲料工業株
式会社であった。)を通じ,東京においてリターナブル瓶入りの原
告商品の製造,販売を開始した(甲71,86)。昭和35年に
は,大阪,京都,兵庫,福岡,佐賀,長崎において,そして,昭和
38年までには,我が国全土において,リターナブル瓶入りの原告
商品が販売されるに至った。以後,現在に至るまで,我が国で,リ
ターナブル瓶入りの原告商品が販売されている。
また,本願商標の立体的形状と完全に同一の立体的形状を有する
ワンウェイ瓶入りの原告商品も,実際に販売されている。
b我が国におけるリターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は,製
造,販売を開始した昭和32年の直後には年40万ケース(1ケー
スは24本入り,以下同じ)であったが,昭和36年には年100
万ケース(2400万本)を突破し,昭和46年には年9951万
ケース(23億8833万本)を記録した。その後,容器にアルミ
缶,スチール缶,ペットボトルを用いることが多くなるにつれ,リ
ターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は徐々に減少したが,それ
でも年400万ケース(9600万本)前後が販売されている(甲
8,41,86)。
また,ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売数量は,平成18年で
21万2458ケース(約510万本)である(甲126)。
なお,原告商品(ダイエット・コーラ,コカ・コーラ・ライトな
どの姉妹品を含まない。)は,コーラ飲料において常に販売数量1
位を保ち,最大で90%を超える市場占有率を有している(甲8
9,甲90)。
(ウ)本願商標の特徴的形状に係る広告宣伝
原告及び日本コカ・コーラは,本願商標の特徴的形状を用いた瓶入
りの原告商品の販売促進のため,長年にわたり,莫大な費用を投入
し,広告活動を行ってきた(甲91∼94)。昭和36年に本格的な
広告宣伝を開始した後,キャッチフレーズを用いた広告宣伝を展開
し(甲9,42∼55,85),新聞・雑誌における広告の掲載やテ
レビ・ラジオにおけるコマーシャル放送等を繰り返し(甲91,9
2),その結果,原告商品の販売数量は劇的に増加した(甲85,甲
95)。平成9年から10年間の広告宣伝費は,制作費やタレントの
出演費等を含まない媒体費だけで,年30億円である(甲91)。な
お,広告宣伝では,本願商標の特徴的形状を用いた瓶入りの原告商品
を用いることにより,本願商標の特徴的形状を需要者に印象付けてお
り(甲9,43,64),容器にアルミ缶,スチール缶,ペットボト
ルを用いることが多くなった後も,同様である(甲91,甲92,甲
96)。
なお,原告は,瓶入り以外の原告商品においても,本願商標の特徴
的形状を表した平面的図形を表示し(甲59),あるいは,ペットボ
トルに本願商標の特徴的形状と極めて類似したデザインを採用してい
る(甲60,114)。また,原告及び日本コカ・コーラは,本願商
標の特徴的形状を原告商品に使用するほかに,グループ自体を示すコ
ーポレートマークとしても用いてきた(甲115∼117)。さら
に,本願商標の特徴的形状を使用した原告製品の瓶をミニチュアにし
た飾り物やキーホルダーが販売されるなどしており(甲3∼6),本
願商標の特徴的形状は,単なる清涼飲料の容器という概念を超え,ブ
ランドの象徴として,消費者に親しまれている。
(エ)平面標章部分との関係
審決は,「使用に係る商標は,これに接する取引者,需要者におい
て,その構成中,看者の注意を惹くように顕著に書された著名な『C
oca−Cola』の文字部分(平面標章部分)を自他商品の識別標
識として捉えるのに対し,立体的形状部分は,商品の容器の形状を表
すものと認識するにとどまり,それ自体自他商品識別標識として捉え
ることはない」(審決書5頁17行∼21行)と認定判断した。
確かに,「Coca−Cola」の文字等を有する平面標章部分
は,強い自他商品識別力を有しているが,以下のとおり,本願商標の
特徴的形状は,平面標章部分に匹敵する自他商品識別力を獲得するに
至っており,自他識別に平面標章部分が不可欠であるとはいえないか
ら,審決の上記認定判断は誤りである。
a本願商標の特徴的形状は,極めて斬新なものであり,我が国にお
いて,原告商品の製造,販売が開始されて以来,その容器(瓶)に
継続して使用された結果,「ビンが常に中身の飲料Coca−Co
laを想起させ,製品の均一性とその出所を保証している」(甲8
7)と認識されるに至っており,正に,「コンツアーボトルは,文
字表記がなくても,消費者が飲料『コカ・コーラ』を選択購入ある
いは判別するうえでの機能を果たしている」(甲80)と認識され
るに至っている。需要者の多くは,本願商標の特徴的形状を用いた
瓶入りの原告商品を購入しこと,あるいは,その広告宣伝に接した
ことがあり,同形状のみによって,商品の出所を識別することがで
きる。
b本願商標の指定商品「コーラ飲料」を含む清涼飲料は,店頭で文
字等を有する平面標章部分が前面に向けて陳列されているとは限ら
ないし,消費者が同部分をじっくりと確認して購入する性質の商品
ではないから,平面標章部分が常に購入者に認識されるというもの
ではないのに対し,清涼飲料水の容器の立体的形状部分は容易に購
入者に認識され,短時間での商品の識別が可能である(甲78)。
c原告商品は,世界各国において販売されているが,英語,フラン
ス語,ドイツ語,スペイン語,中国語などの主要言語以外の外国語
の文字が記載されている場合には,我が国の需要者は,平面標章部
分から原告商品を識別することができないが,容器の立体的形状に
より,原告商品を識別することが可能であるし,各種イベントにお
いて原告以外の企業のロゴ等を表示した特別なデザインのコカ・コ
ーラが販売され,原告以外のロゴが表示されている場合にも,容器
の立体的形状によって,原告商品を識別することが可能である。
d原告は,瓶入りの原告商品の販売数量が原告商品全体に占める割
合が相当に低下した現在においてもなお,瓶入りの原告商品をいわ
ば旗艦的に用い,本願商標の立体的形状部分を強調した広告宣伝を
しているが(甲96,43,59,61,62),それは,本願商
標の特徴的形状を用いた瓶が,原告商品を象徴し,体現するもので
あるからである。
e後記イ(ア)のとおり,社会調査の結果によれば,文字を含む平面
標章部分の有無は,需要者の識別に決定的な影響を与えていないこ
とが認められる。
f以上によれば,リターナブル瓶又はワンウェイ瓶に付された平面
標章部分は,需要者がその商品を識別するに際し,不可欠ではない
というべきである。
イ社会調査の結果
以下のとおり,本願商標に係る立体的形状が自他商品識別力を有する
ことは社会調査の結果にも,示されている。
(ア)第一次調査
a原告は,審査段階において,社会調査の専門業者である株式会社
インテージ(原告とは何ら支配関係のない独立した調査会社であ
る。)に,本願商標と同一の立体的形状の無色容器(以下「無色容
器」という。),本願商標と同一(口部を除く。)の立体的形状の
薄緑色容器(以下「着色容器」という。),及び,本願商標と同一
の立体的形状の容器に「Coca−Cola」と横書きしてなる文
字商標を付したもの(以下「文字商標付容器」という。)を上記の
順に提示し,当該容器と同じ形状をした飲料を見たことがあるか(
以下「質問①」という。),その飲料の商品名を知っているか(以
下「質問②」という。)を回答させる調査(以下「第一次調査」と
いう。期間:平成15年1月26日から28日,場所:東京及び大
阪,調査対象者:20歳から59歳までの男女合計200名〔東
京,大阪で各100名〕)の実施を依頼した(甲26)。なお,第
一次調査に用いられた調査票に「係りのものの指示があるまでペー
ジはめくらないでください」と記載されているとおり,調査員は各
容器を調査票記載の質問の順番で呈示しており,ある質問を回答し
終えた調査対象者が,それより前の質問に戻り回答をやり直すこと
はできない仕組みとなっていた。
第一次調査の結果は,質問①に対し調査対象者が見たことがある
と回答した割合は,無色容器については91%,文字商標付容器に
ついては98%であり,質問②に対し調査対象者が「コカ・コー
ラ」と回答した割合は,無色容器については81%,文字商標付容
器については97.5%であって,文字商標が付されている場合と
付されていない場合の差は,質問①につき7%,質問②につき1
6.5%というものであった。上記結果は,本願商標の場合,「立
体的形状が識別標識として機能」し,「そこに付された平面標章部
分が不可欠であるとする理由が認められず」,「立体的形状に施さ
れた変更,装飾等をもって需要者に強い印象,記憶を与える」もの
であることを示している。
b審決は第一次調査の信用性を否定するが,以下のとおり,審決の
指摘は不当である。
(a)審決は,第一次調査について,「調査人数は不明であり,調
査地域は東京,大阪のみであって,また,調査対象は20歳から
59歳であるところ,指定商品『コーラ飲料』の需要者は,20
歳未満の者や60歳以上の者も含まれるものであるから,調査対
象者の選定には適切を欠くものがある。」(審決書6頁32行∼
35行)と説示する。
しかし,以下のとおり,第一次調査の調査対象者には,指定商
品「コーラ飲料」を含む清涼飲料の需要者層全体がほぼ含まれて
いると評価される。まず,第一次調査の調査対象者の数は,東
京,大阪で各100名の合計200名であり(甲26),社会調
査の領域において偏りのない調査結果を得るために必要かつ十分
と考えられるサンプル数である(甲99)。また,東京,大阪と
いう大都市の繁華街で調査を実施すれば,調査対象者には隣接府
県から来ている人も含まれることになるから,地域的な偏りが大
きいとはいえない。そして,60歳以上の年齢層の清涼飲料の購
買量及び消費量はそれ程多くないと考えられ,調査対象者である
20歳から59歳の年齢層が清涼飲料の需要者全体において占め
る割合は,我が国の人口全体に占める割合(第一次調査が行われ
た当時は,54.94%であった〔甲101〕。)よりも,はる
かに大きくなると考えられるのであって,指定商品「コーラ飲
料」を含む清涼飲料の需要者層のほとんどをカバーしていると考
えられる(甲100)。
(b)審決は,「本願商標は,別掲のとおり,やや緑がかった半透
明のものであって,調査対象容器中に『着色容器』が含まれてお
り,『着色容器』の銘柄想起理由のうち,約70%の者が『瓶の
色緑色』を挙げていることからみても,調査報告書中,『無色
容器』が本願商標と同一のものであるという請求人の主張は,に
わかに採用し難い」(審決書6頁39行∼7頁4行)と説示して
いる。
しかし,前記(1)ア(イ)のとおり,本願商標の構成要素に色彩は
含まれていないから,本願商標と無色容器の形状が同一であるこ
とは明らかである(甲99)。また,需要者が本願商標(無色容
器)をその形状により識別しているか否かと,「『着色容器』の
銘柄想起理由のうち,約70%の者が『瓶の色緑色』を挙げ
た」かどうかは,何ら関係がない。
(c)審決は,「調査票において示されている容器の立体的形状に
は,上部のキャップ部分が,いわゆるスクリューキャップをはず
した状態のらせん状の溝をもつ本願商標とは相違しているものが
あることからも,本願商標と同一の立体的形状よりなる容器につ
いて,正確な調査がなされたということはできない。」(審決書
7頁4行∼8行)と説示する。
しかし,無色容器は,らせん状の溝があるキャップ部分があ
り,本願商標と同一の立体的形状からなる容器である。着色容器
は,らせん状の溝があるキャップ部分はないが,無色容器の識別
結果との差異があるかを調査する目的のために調査対象に加えた
ものにすぎない。また,前記(1)ア(ア)a及び前記ア(ア)bのとお
り,本願商標の構成中,らせん状の溝があるキャップ部分は,特
徴的な部分ではなく,需要者が商品を識別する対象とはなり得な
いから,当該キャップ部分の有無を問題にすることは誤りであ
る。
(d)審決は,「回答者は,回答に当たり,調査の趣旨を推測しな
がら正解が何であるかについて熟考した上で回答したことが推認
される」(審決書7頁9行∼10行)と説示している。
しかし,審決は「推認」の根拠となる事実を示しておらず,恣
意的な判断というべきである。また,第一次調査のような,単に
設問に回答するだけのアンケート調査においては,調査対象者は
設問等にあまり注意を払うことなく回答する傾向があり,特にC
LT調査(調査対象者を路上で勧誘してブースで調査票に記入し
てもらう方式)の場合には,「早く回答を終わらせて帰りたい」
と思いながら調査に協力するのが普通である(甲99)から,正
答することにインセンティブのない調査対象者が無責任な回答を
してしまわないよう,調査員が傍らで監視するのである。さら
に,第一次調査のように,調査対象者がある物を想起できるかで
きないかという調査においては,調査対象者の回答は,知ってい
るか否かにより直ちに決まるのであり,「熟考」と識別率の向上
に直接の因果関係はない。
(e)審決は,「調査対象容器について『コカ・コーラ』ブランド
の商品を想起した者は,『無色容器』が81%,『着色容器』が
72%であるから,『無色容器』」については19%,『着色容
器』については28%の者が,請求人の取り扱いに係る「コカ・
コーラ」ブランドの商品を想起していない」(審決書7頁12行
∼14行)と説示している。
しかし,平面標章部分がなく,立体的形状のみからなる容器の
形状のみを呈示された調査対象者の91%が「見たことがある」
と回答し,81%が「コカ・コーラ」を想起したという第一次調
査の結果は,本願商標の自他商品識別力の獲得を証するに足りる
ものというべきである。
なお,前記(c)のとおり,着色容器は,無色容器の識別結果と
の差異があるかを調査する目的のために調査対象に加えたものに
すぎないから,着色容器に関する結果は本願商標の識別力とは関
係がないものであり,また,ある商標が自他商品識別力を有して
いるというためには,商品名まで認識される必要はなく,「あの
商品」と需要者に認識されるので十分であるから,本願商標と同
一の形状の容器の自他商品識別力を論じる際に用いられるべき数
値は,質問①に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の
割合であって,質問②に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対
象者の割合ではないともいえる。
(f)審決は,「需要者が,本願の指定商品の購入にあたり,短時
間で購入商品を決定する場合が少ないとはいえず,購入に際して
払う注意力はさほど高いものとはいえない」(審決書7頁15行
∼17行)と説示している。
しかし,短時間での購入商品の決定に必要な識別のために,正
に本願商標のような独特で特徴のある形状を有する容器が用いら
れるのであり,これにより「消費者もまた特定ブランドを容易に
識別でき,購入時の意思決定を単純化できるようになった」(甲
78)といえる。
(イ)第二次調査
原告は,第一次調査の調査結果が信頼に足りることを裏付けるた
め,社会調査に実績がある日本インフォメーション株式会社(原告及
び第一次調査を実施した株式会社インテージとは何ら支配関係のない
独立した調査会社である。)に依頼して,本願商標の形状を用いた瓶
の銘柄想起調査(以下「第二次調査」という。)の実施を依頼した。
第二次調査は,第一次調査と同じCLT調査(場所:東京及び大阪,
調査対象者:15歳以上の男女合計300名〔東京,大阪で各150
名〕)に加え,ウェブ調査(事前に調査対象者候補として登録した者
に対し,ウェブサイトのURLを記載した電子メールを送信し,当該
ウェブサイトにアクセスして質問に回答させ,年齢・性別・居住地域
等,調査対象者に必要とされる条件に適合した者による回答が一定数
に達した時点で調査を終了する方式。調査対象者は,15歳以上の男
女合計1200名〔北海道,東北,関東,北陸・甲信越,東海,近
畿,中国・四国,九州・沖縄の8つエリアにつき各150名〕。)に
より行った。なお,調査対象者は,調査票又はウェブサイト上に表示
された質問の順序どおりに回答し,ある質問を回答し終えた調査対象
者が,それより前の質問に戻り回答をやり直すことはできない仕組み
となっていた(甲102,103)。
CLT調査では,本願商標と同一の形状の容器について,同じ形状
の商品を見たことがあるかという質問(以下「質問①’」という。)
に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は93.7
%,その形状の商品の名前を知っているかとの質問(以下「質問②
’」という。)に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者の割合
は73.3%であり(甲102),ウェブ調査では,本願商標と同一
の形状の容器について,質問①’に対し「見たことがある」と回答し
た調査対象者の割合は89.4%,質問②’に対し「コカ・コーラ」
と回答した調査対象者の割合は60.3%であった(甲103)。な
お,第二次調査の結果によれば,原告商品以外の5つの清涼飲料の容
器についても,調査対象者は容器形状のみで相当程度の識別をしてい
るが,本願商標の形状を用いた容器は,他の容器を圧倒する高い識別
率を示している。
(ウ)第一次調査及び第二次調査の信頼性
社会調査の専門家であるA(第一次調査を行った株式会社インテー
ジ及び第二次調査を行った日本インフォメーション株式会社とは何ら
関係がない。)が,第一次調査及び第二次調査について,「3回の調
査を実施することで,一般的な調査設計により調査を行った場合と同
様の結果が得られるよう工夫されており,調査設計として妥当であ
り,調査ごとのデータを分析することで信頼性に足る結果が提供でき
る。」(甲105)と述べているとおり,第一次調査及び第二次調査
の調査結果は,いずれも社会調査の専門家に支持される方法によって
実施された信頼し得るものである。
ウその他の主張
以下の事情に照らしても,本願商標の形状は自他商品識別力を有する
というべきである。
(ア)原告による独占使用
我が国において,本願商標の指定商品「コーラ飲料」について,本
願商標と同一又は類似の形状の容器を使用する清涼飲料メーカーは,
全く存在しなかったし,今後も同様であろう。我が国では,他の同業
者が,原告による本願商標の形状を指定商品「コーラ飲料」について
独占使用することを事実上許容しているということができ(甲82∼
84),本願商標の登録を認めることに公益上の障害はない。なお,
清涼飲料の容器そのものではないが,我が国において,本願商標の特
徴的形状を冒用した雑誌広告を掲載したアパレル会社があったので,
原告が警告し,中止させたこともある(甲118,119)。
(イ)商標法の専門家及び社会一般の認識
本願商標の特徴的形状は,数多くの商標法の専門家によって,立体
商標として登録すべきもの,あるいは,それ自体が自他商品識別力を
有するものと認識され(甲17∼24,106,108),また,社
会一般からも,原告商品を示すものとして,広く認知されている(甲
37,40,79,106,107,甲80)。
(ウ)諸外国における登録例
本願商標と同一の形状は,既にアメリカ,英国,カナダ,オースト
ラリア,ロシア,中国,欧州共同体を含む世界数十か国において,立
体商標として登録されている(甲27∼32,112,113)。
2被告の反論
(1)取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)に対し
ア本願商標の構成
(ア)立体的形状
本願商標は,液体を収納する容器(瓶)に係る立体商標であり,上
部に口部があり,底部が円形で,縦長の形状を有する。口部は,スク
リューキャップを外した状態の細い形状であり,該口部の下は,容器
の首の部分がやや長く,下方に向かって,なだらかに膨らみがあり,
容器の下方で,ややくびれを持たせたような形状である。また,容器
の中央よりやや上部に,ラベルを貼付する部分があり,該部分は,容
器全体をぐるりと囲むようになっている。該ラベルを貼付する部分を
除き,首の部分の中程より下部分から,瓶の底部より少し上部のあた
りまで,数本の縦のラインが施されている。
(イ)色彩
原告は,本願の願書(甲70)の写真は,いずれも無色透明のガラ
ス瓶を撮影したものであり,本願において登録を受けようとする商標
の構成要素に色彩は含まれていないと主張する。
しかし,登録を受けようとする商標の範囲は,願書に記載した商標
に基づいて定めなければならないところ(商標法27条1項参照),
本願の願書に表された本願商標には,全体として,やや緑がかった白
色半透明の色彩が施されており,無色透明ではない。原告の上記主張
は失当である。
イ本願商標の自他商品識別力
(ア)自他商品識別力が認められないこと
本願の指定商品は「コーラ飲料」であるが,コーラ飲料を取り扱う
業界と清涼飲料,茶飲料,コーヒー飲料,ミネラルウォーター等の飲
料を取り扱う業界とは,その製造者,販売者,需要者等が共通する。
そして,清涼飲料,茶飲料,コーヒー飲料,ミネラルウォーター等の
飲料を収納する容器は,口部分が他の部分に比べ細く,底部が円形
で,縦長のものが多く,飲料の販売に用いられる容器には,文字等が
付されたラベル部分があることが一般的であるが,持ちやすさを考慮
して容器にくびれや膨らみを持たせたり,美感を起こさせるため模様
を施したりされることも少なくなく,透明(無色),半透明,緑色等
の色彩が施されたものも多い(甲2,乙2の1∼2の17)。容器の
口部分の形状は,蓋(スクリューキャップ,王冠,コルク栓,紙蓋な
ど)として何を用いるかにより,相違する。
なお,一般に,炭酸飲料用のガラス瓶の場合,内部圧力に耐え得る
ために,ガラスを厚くする,肩部をなで肩にする,胴部横断面を円形
にすることなどが必要であり,容器という性質上,ある程度似通った
形状にならざるを得ない(乙2の17)。
上記のような取引の実情によれば,本願商標における前記アの各特
徴は,いずれも商品等の機能又は美感に資することを目的とするもの
というべきであり,需要者において予測可能な範囲の飲料の容器につ
いての特徴であるといえる。
そうすると,本願商標の立体的形状は,審決時及び現在において,
指定商品「コーラ飲料」の容器の基本的な機能,美感を発揮させるた
めに必要な形状の範囲内というべきであって,同種の商品等が一般に
採用し得る範囲を超えるものとはいえないから,当該立体的形状は,
これに接する需要者が指定商品「コーラ飲料」の出所を識別する標識
として,認識し得るものとはいえない。
(イ)原告の主張に対し
a原告は,本願商標の特徴的形状は,自他商品識別力を持たせるこ
とを目的として,原告が開発・採用したものであると主張する。
しかし,需要者は,必ずしもそのように認識するものとはいえな
い。また,開発・採用時に,他に全く類を見ないものであったとし
ても,前記(ア)のとおり,審決時及び現在において,同種の商品等
が一般に採用し得る範囲を超えるものとはいえない。原告の上記主
張は,失当である。
b原告は,本願商標の特徴的形状を備えた容器の製造は困難である
こと,くびれ部分の配置に起因して手で持ちにくくなるという機能
の低下があることから,同形状は,取引業界において容易に採用さ
れるようなものではないと主張する。
しかし,技術の進歩により,製造が容易になることはあり得る
し,くびれの配置が直ちに機能を低下させるとはいえない。また,
現実に使用されている等の事実は,商標法3条1項3号の適用にお
いて必ずしも要求されない。原告の上記主張は,失当である。
c原告は,我が国では,他の同業者も,原告による本願商標に係る
立体的形状の独占使用を事実上許容しているから,本願商標を登録
することは公益に反するものではないと主張する。
しかし,商標権は,登録され,更新されることにより,半永久的
な権利となるのであるから,現時点において,指定商品の製造,販
売業者の一部が本願商標の登録を問題視していないとしても,直ち
に公益の問題がないとうことはできない。
(2)取消事由2に対し
ア本願商標の特徴的形状の使用実績の主張に対し
(ア)本願商標との相違について
以下のとおり,本願商標と,原告商品に使用されたリターナブル瓶
及びワンウェイ瓶とは,リターナブル瓶については,平面標章部分の
有無,立体的形状,及び,色彩の3点において,ワンウェイ瓶につい
ては,平面標章部分の有無,及び,色彩の2点において,それぞれ顕
著な差異があり,同一のものということはできないから,本願商標
は,使用された結果,自他商品識別力を有するに至っているというこ
とはできない。
a平面標章部分の有無
リターナブル瓶及びワンウェイ瓶は,平面標章部分に「Coca
−Cola」などの文字を有するところ,同文字は,原告がコーラ
飲料に使用し,我が国において著名な商標であり,同平面標章部分
は,いずれも,容器の中央部分のよく目立つところに,容器全体の
大きさから見て大きく描かれている。なお,イベント用に企業のロ
ゴ等を表した特別デザインの原告商品の容器(瓶)であっても,「
Coca−Cola」などの文字を有する平面標章部分が付されて
いる(乙9)。
また,前記(1)イ(ア)で主張したところに照らせば,リターナブル
瓶及びワンウェイ瓶の立体的形状部分及び色彩は,同種の商品が一
般に採用し得る範囲内のものであるし,原告も,コーラ飲料に,ペ
ットボトル,500ml入り容器(ホームサイズ),300ml入
りの容器,1000ml入り容器など,リターナブル瓶やワンウェ
イ瓶と同一の立体的形状や色彩を有しない容器を使用しているこ
と(甲2,9,乙3)からすれば,リターナブル瓶及びワンウェイ
瓶の立体的形状の特徴は,容器の機能,美感を追求するためのデザ
インとして理解されるべきである。
一般に,出所表示のための標識としては,本来的には識別力のな
い商品の立体的形状よりも,文字や図形などの平面標章(特に文
字)が適しており,本願の指定商品「コーラ飲料」を含む飲料の取
引界においても,需要者が文字等が付されたラベル部分を無視して
商品を購入することは考え難く,現に,商品の広告では,文字等が
付されたラベル部分が確認できるようにされており(乙2の2,4
の1∼4の4),自動販売機や店頭における陳列も同様である。
さらに,原告商品の広告では,常に「Coca−Cola」など
の文字部分が目立つようにされており,立体的形状部分が強調され
ているとはいえないし,容器全体の形状が把握できないものが少な
くない(甲43など)。なお,原告商品には,リターナブル瓶やワ
ンウェイ瓶と同一でない形状の容器を使用したものが少なくない
し,イラストで表されたもの(甲43,59,61,62など)
は,原告主張の特徴点(a)ないし(e)を有するものではなく,リタ
ーナブル瓶及びワンウェイ瓶とも,本願商標とも同一でもない。
上記の点を総合すれば,リターナブル瓶及びワンウェイ瓶におい
て,「Coca−Cola」などの文字を含む平面標章部分は不可
欠であり,立体的形状部分のみが独立して自他商品識別機能を有す
るに至っているとはいえない。
b立体的形状の相違
本願商標に係る立体的形状とリターナブル瓶の立体的形状とは,
口部分や首部分の長さにおいて顕著な差異を有し,全体の印象も大
きく異なる。コーラ飲料が入れられ,実際に販売される際には,本
願商標の口部は,スクリューキャップで覆われてしまうのに対し
て,リターナブル瓶の王冠の下の膨らみ部分は,王冠と首部の間に
あって,キャップで覆われることはなく,存在感のある部分であ
る。
なお,第一次調査(甲26)によれば,容器の口部分がリターナ
ブル瓶と同一である着色容器について,原告商品を想起した理由と
して,「ビンの口」部分を挙げている者が少なからずいる。
このように,本願商標とリターナブル瓶の立体的形状は,口部な
どにおいて明らかに異なるものであり,両者が実質的に同一である
といことはできない。
c色彩の相違
本願商標とリターナブル瓶及びワンウェイ瓶とは,色彩が明らか
に相違する。容器の色彩は,容器全体の印象を左右するものであ
り,重要な構成要素といえる。
(イ)原告商品の販売実績及び広告宣伝について
a上記(ア)のとおり,本願商標と原告商品に使用されたリターナブ
ル瓶とは同一でないから,原告の主張に係るリターナブル瓶を用い
た原告商品の販売実績は,本願商標の使用実績ということはできな
い。リターナブル瓶に関する広告宣伝についても,同様である。
なお,リターナブル瓶を用いた原告商品の販売数量は,我が国の
国民が年間に1本購入するかどうかという程度であり,本願の指定
商品のように日常的に消費される商品にあっては,これを高く評価
することはできない。
b上記(ア)のとおり,本願商標と原告商品に使用されたワンウェイ
瓶とは同一でない。そもそも,ワンウェイ瓶を用いた原告商品につ
いては,その販売実績や広告宣伝を示す具体的な証拠はほとんど存
在しない。
なお,原告は,甲126がワンウェイ瓶入りの原告商品の販売数
量を示すものとしているが,同証拠には,「リターナブルボトルと
ワンウェイボトルは,形状は同じである。」,「500ml等の他
サイズのものの販売数量は含まない。」との記載があるものの,サ
イズが同程度の再利用を予定しない瓶には,王冠を用いるものが存
在すること(乙9),原告がリターナブル瓶を本願商標と実質的に
同一であると主張していることに照らせば,甲126に示される販
売数量がすべてワンウェイ瓶の販売数量であるとは認められない。
仮に,甲126によるとしても,ワンウェイ瓶の販売数量は,平成
18年ですら510万本弱と少ない上,0本の年(その前年は3万
本弱,翌年は18万本弱)もあり,ワンウェイ瓶が継続して使用さ
れているとはいえない。
イ社会調査の結果の主張に対し
以下のとおり,原告の行った社会調査は,第一次調査,第二次調査と
も,実際に使用されていない商標を対象とするなど,十分なものとはい
えないから,本願商標が商標法3条2項に該当するに至っていることを
示す根拠とはならない。
(ア)第一次調査,第二次調査とも,質問では容器の色彩を特定してい
ない(第一次調査では,ことさら容器の色を無視するよう指示してい
る。)から,回答者は容器の色彩を無視して回答している。
(イ)本願の指定商品「コーラ飲料」については,文字等が表示された
ラベルにより商品を識別するのがごく普通であるという取引の実情が
あり,容器の形状に対する注意力は,必ずしも高いといえないとこ
ろ,原告は,本願商標の特徴を有するが,立体的形状や色彩を異にす
る容器やイラストを使用している。してみると,回答者は,質問①又
は①’,②又は②’に対し,原告が使用した複数の瓶や広告宣伝用の
イラスト等に描いた瓶を想起して,「見たことがある」,「知ってい
る」などと回答したものであり,必ずしも調査対象の容器自体を知っ
ていたものではない。
(ウ)本願指定商品の需要者は,20歳未満の者や60歳以上の者も含
むところ,第二次調査の結果によれば,第一次調査の対象となってい
ない10代の原告商品のブランドの想起率は,全体に比べて,低い数
字となっているから,10代の需要者を除いて調査がなされた第一次
調査の調査結果は,本願の指定商品の需要者が認識する割合を正確に
反映しているものとはいえず,調査対象者の選定に適切を欠くもので
ある。
(エ)普通に考えるならば,使用実績のない無色容器よりも,長年使用
している着色容器の割合が高くなるものと思われるが,逆の結果にな
っていることからすれば,無色容器についての回答結果は,他の色彩
の類似する容器をも想起したか,調査における誤差の範囲が小さくな
いことを示すものである。
(オ)第二次調査によれば,10代や20代の原告商品のブランドの想
起率は,全体に比べ,かなり低い数字となっているところ,リターナ
ブル瓶入りの原告商品の販売数量は,1971年(9951万ケー
ス)をピークに減少し,現在15歳の者が生まれた1992年には,
950万ケースとなり,2004年には,404万ケースにまで減少
している(甲41)。平成16年度の原告商品の販売シェアは62.
7%となっているが,その販売比率は,ペットボトル入りが35.2
%,缶入りが30%となっており,瓶入りは,わずかに4%でしかな
い(甲88)。瓶入りの原告製品の販売数量が大きく減少した後に,
コーラ飲料の需要者となった10代の者は,半数程度しか原告商品を
想起していないことからすれば,現在の瓶入りの原告商品の販売数量
や広告宣伝は,瓶入りの原告商品の容器の立体的形状に識別力を与え
るには足りないというべきである。
ウその他の主張に対し
以下のとおり,原告のその他の主張もすべて失当である。
(ア)原告による独占使用の主張に対し
本願商標は,それ自体について使用の継続という事実状態がないか
ら,現実に使用された商標と類似のものであったとしても,取引界に
おいて,原告の独占使用が容認されたものということはできない。な
お,原告が,警告により,使用を中止させたのは,本願商標とは立体
的形状を異にし,平面標章部分を含むリターナブル瓶のイラストであ
って,本願商標ではない(甲118,119)。
(イ)商標法の専門家及び社会一般の認識の主張に対し
原告は,本願商標は,商標法の専門家が立体商標として登録すべき
ものと認識し,社会一般からも広く認知されていると主張するが,本
願商標それ自体がそのように認識されているということはできない。
(ウ)諸外国における登録例の主張に対し
原告の指摘に係る外国での登録例は,いずれも本願商標とはその形
状や色彩が同一ではないし,そもそも,本願商標の登録の可否は,我
が国の商標法により,判断されるべきものである。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1)立体商標における商品等の形状
ア商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図
形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場
合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨
規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。
ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品
質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若
しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場
所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは
提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみか
らなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「
前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需
要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することがで
きるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けること
ができる」旨を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であっ
て,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形
状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受け
ることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状
であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立
体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨
を,それぞれ規定している。
このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性につい
て,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものでは
ないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確
保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を
受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照
らすと,商品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠
な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとして
いるものと理解される。
そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価され
ない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感
を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を
表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれ
ば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべき
ではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定される
ためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),ま
た,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を
獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障は
ないというべきである。
イ以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商
標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア)商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効
果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目
的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品
・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。この
ように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状
は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別
機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして
採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の
観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的
に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために
選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは
認識しない場合が多いといえる。
そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美
感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,
そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情
のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章の
みからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(イ)また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資するこ
とを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基
づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しか
し,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択
と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとし
ても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,
同号に該当するものというべきである。
けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,
同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するもので
あるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の
者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。
(ウ)さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等
であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択
されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれ
ば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。
けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場
合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美
感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠
法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されること
があり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商
標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返
すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品
等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて
半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,
自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。
(2)本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア本願商標の構成
(ア)立体的形状
本願商標は,別紙「商標目録」のとおりの構成からなるものであ
り(甲70),これによれば,本願商標は,本願の指定商品「コーラ
飲料」の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり,同形状
は,次のような特徴(以下,これらの特徴をそれぞれ「特徴点a」な
どという。)を有している。
a底部を円形とし,上部にスクリューキャップをはずした状態の細
い口部を設けた,縦長の容器の形状であること。
b口部の下は,やや長い首部があり,その下方に向かって,上部か
ら徐々にふくらみをもたせ,底面からほぼ5分の1の位置にくびれ
をもたせていること。
cくびれの下に台形状の広がりをもたせていること。
dほぼ中央にボトル全長の約5分の1の高さの凹凸のないラベル部
分を設けていること。
e全体にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に柱状
の凸部を10本並列的に配していること。
fラベル部分の上には同様に柱状の凸部を10本並列的に配し,上
部に行くに従い自然に消滅させていること。
(イ)色彩
審決は,本願商標について,「やや緑がかった半透明」(審決書3
頁7行)であると認定し,被告は,やや緑がかった白色半透明の色彩
が施されていると主張する。
確かに,本願の願書(甲70)は2枚の写真(イメージデータ)を
含むところ,上記写真において,容器はうっすらと緑がかっているよ
うに見えなくもない。
しかし,一般に,無色透明のガラスであっても,照明の当て方によ
り,端部が緑がかって見える場合があること,本願の願書における写
真は,無色透明の容器を被写体として撮影されたものと認められるこ
と(弁論の全趣旨),上記写真において,緑色に見える部分は一様で
はなく,容器の底部など端部(厚みのある部分)の方が,より緑がか
って見えるが,他方凸部など白く見える部分もあること等を総合すれ
ば,上記写真は,背景を黒とし,照度や照明等を工夫することによっ
て,コントラストを強調し,無色透明な容器の立体的形状を,できる
限り明瞭に表現して,本願商標の構成(立体的形状)を特定しようと
したものというべきであって,緑色の色彩を特定したものと認めるこ
とはできない。
イ事実認定
証拠(甲2,乙2の1∼2の17)及び弁論の全趣旨によれば,本願
の指定商品「コーラ飲料」をはじめとする清涼飲料,茶飲料,コーヒー
飲料,ミネラルウォーター等の飲料の容器として用いられるものとして
は,①口部分が他の部分に比べ細く,底部が円形で,縦長のものが多い
こと,②文字等が記載されたラベルが貼付されるのが一般的であるこ
と,③くびれや膨らみを持たせたもの,模様を施したものが少なくない
こと,④口部分の形状は,装着する蓋(スクリューキャップ,王冠な
ど)に合わせて,成形されるものであることが認められる。
ウ判断
前記ア及びイによれば,本願商標の前記ア(ア)の立体的形状のうち,
特徴点aは,液体であるコーラ飲料を収納し,これを取り出すという容
器の基本的な形状であって,このうち口部の形状はスクリューキャップ
の着脱という機能に関連するものであり,特徴点b及びcは,容器の握
り易さに資するとともに,容器の輪郭に美感を与えるものであり,特徴
点dは,容器の美感を維持しつつ,ラベルの貼付を容易にすることに資
するものであり,特徴点e及びfは,容器の輪郭に美感を与えるもので
あことが認められる。また,本願商標に係る立体的形状は,飲料の容器
において通常採用されている,前記イ①ないし④のような形状を組み合
わせた範囲を大きく超えるものとは認められない。
そうすると,本願商標の立体的形状は,審決時(平成19年2月6
日)を基準として,客観的に見れば,コーラ飲料の容器の機能又は美感
を効果的に高めるために採用されるものと認められ,また,コーラ飲料
の容器の形状として,需要者において予測可能な範囲内のものというべ
きである。
エ原告の主張に対し
(ア)原告は,本願商標の特徴的形状について,美感や機能を高めるた
めではなく,同形状に自他商品識別力を持たせることを目的として原
告が開発・採用した斬新な形状であり,技術的観点あるいは機能的観
点から,取引業界において容易に採用されるものではないと主張す
る。
しかし,原告の主観的な意図が,美感や機能を高めるためではな
く,同形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであっ
たとしても,そのことにより,本願商標の立体的形状が有する客観的
な性質に関する判断が左右されるものではない。また,需要者におい
て予測し得ないような斬新な形状であるか否かは,原告が当該形状を
採用した時点ではなく,審決時を基準として判断すべきであり,原告
以外の同業者が当該形状を現実に採用していないとしても,そのこと
から直ちに同形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(イ)原告は,他の同業者が,原告による本願商標に係る立体的形状の
事実上の独占使用を許容していると主張する。
しかし,現時点において,本願商標に係る立体的形状を使用するこ
とを欲する原告以外の第三者が顕在していないとしても,そのことか
ら直ちに,当該形状を独占させることが公益に反しないすることはで
きない。したがって,原告の上記主張は失当である。
(3)小括
以上検討したところによれば,本願商標は,商品等の形状を普通に用い
られる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号
に該当するとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由
がない。
2取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1)立体商標における使用による自他商品識別力の獲得
前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する
商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合に
は,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の
包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除
く。同法4条1項18号)。
立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどう
かは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地
域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に
類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当で
ある。
そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係
る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要す
る。
もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出
所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常
であり,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質
や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすな
らば,使用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文
字が付されたこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによっ
て,直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥
当ではなく,使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されてい
ることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の
目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,
立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判
断すべきである。
(2)本願商標の商標法3条2項該当性
そこで,上記の観点から,本願商標が使用により自他商品識別力を備え
るに至っているかどうかを判断する。以下,「使用商標の使用の実
情」,「使用商標と本願商標との対比」の順で認定,判断をする。
ア事実認定
(ア)リターナブル瓶の採用の経緯
原告は,アメリカにおいて,1915年(大正4年)に現在のリタ
ーナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を考案し,1916年(大正5年)に
これを用いた原告商品の販売を開始した(甲33,35,36∼4
0,71∼73)。
原告商品の瓶の形状の由来は,必ずしも明らかではないものの,1
910年代に,アメリカのファッション界で大流行した「ホッブル・
スカート」(ウエストを締め付け,膝部分を極度に細く絞ったワンピ
ース・スカートの形状)を模したもので,暗闇の中でさわってもコカ
・コーラだと分かるような特別な形状の瓶にすることを意図して創作
したとの逸話が残されている。
上記のとおり,1916年(大正5年)に,アメリカにおいて,リ
ターナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を使用した原告商品の販売を開始し
た。当時,原告商品の上記形状の瓶は,ユニークかつ特徴的であると
評価されて,さまざまな話題を提供し(甲36∼40,71∼7
3),その後,原告商品の上記形状の瓶は,「コンツアー・ボト
ル」,「ホッブル・スカート・ボトル」などと呼ばれたりすることが
あった(甲1,4,6,36∼40)。
(イ)原告商品の我が国での販売実績
我が国では,昭和32年に原告の100%子会社である日本コカ・コ
ーラを通じて,原告商品の製造,販売の準備が開始された。同社はボト
ラーである東京コカ・コーラボトリングを通じ,昭和32年に東京地域
においてリターナブル瓶入りの原告商品の製造,販売を開始した(甲7
1,86)。昭和35年には,大阪府,京都府,兵庫県を営業地域とす
る近畿飲料株式会社及び福岡県,佐賀県,長崎県を営業地域とする日米
飲料株式会社が設立され,上記各府県における販売が開始された。その
後,他の地域にもボトラーが設立され,昭和38年までには,我が国全
域において,リターナブル瓶入りの原告商品が販売されるに至った。昭
和32年の国内における製造,販売の開始から現在に至るまで,半世紀
にわたり,リターナブル瓶入りの原告商品が継続して販売されている。
リターナブル瓶は,本願商標の特徴点a(スクリューキャップをはず
した状態の口部を設けたとの点を除く。)ないしfのすべてを備えてい
る。
(ウ)リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量等
リターナブル瓶入りの原告商品については,我が国において,清涼飲
料分野で記録的な販売実績を挙げた。我が国において製造,販売を開始
した昭和32年には,年間販売数量は40万ケース台にとどまったが,
昭和36年には,年間販売数量は100万ケース(2400万本)を突
破し,昭和46年には,年間販売数量は9951万ケース(23億88
33万本)を記録した。その後,アルミ又はスチール缶入り商品やペッ
トボトル入り商品の比率が上昇するにつれ,リターナブル瓶入りの原告
商品の販売数量は徐々に減少したが,近年でも400万ケース(960
0万本)前後の年間販売数量をあげている(甲8,41,86)。
(エ)リターナブル瓶入りの原告商品の宣伝広告の状況
原告及び日本コカ・コーラは,昭和36年に,リターナブル瓶入り
の原告商品について,本格的な広告宣伝を開始し,以降,多大な広告
費を投入し,長年にわたり,新聞・雑誌における広告の掲載やテレビ
・ラジオにおけるコマーシャル放送等を繰り返し,行うことにより,
リターナブル瓶の形状を印象付ける広告宣伝を継続している。
すなわち,本格的な広告活動が開始されると同時に,キャッチフレ
ーズの使用,新聞・雑誌における広告の掲載,テレビ等におけるコマ
ーシャル放送等が繰り返された。その広告費用は,平成9年からの1
0年間では,広告の制作費用や広告に出演するタレント契約料等を除
外した,テレビの放映,新聞,雑誌等の掲載などの,いわゆる媒体費
用のみでも,年間30億円もの金額が投じられた(甲91)。このよ
うな広告活動においては,登場人物にリターナブル瓶入り原告商品を
持たせたり,リターナブル瓶入りの原告商品を放映,掲載したりし
て,リターナブル瓶入り原告商品の形状を需要者に強く印象づけるよ
うな工夫を施した広告が実施された(甲9,43,64)。
原告商品において,アルミ又はスチール缶入り商品やペットボトル
入り商品の販売数量が増加するにつれ,原告商品全体に占める,リタ
ーナブル瓶入り原告商品の販売数量が占める割合は相対的に低下し
た。それにもかかわらず,原告は,広告活動においては,依然とし
て,リターナブル瓶入り原告商品を用いて,同瓶の形状を需要者に印
象づけるような広告を継続してきた(甲91,92,96)。
原告は,リターナブル瓶入り原告商品の形状を,商品の出所識別標
識として機能させるような宣伝広告態様を継続してきたことによっ
て,リターナブル入りの原告商品の形状は,それ自体が「ブランド・
シンボル」として認識され(甲77),「ブランドのアイデンティテ
ィと固く結びついているため,世界中どこでもボトルの形状だけで(
製品名が書かれていなくても),コカ・コーラであると認識され」(
甲79),「ビンが常に中身の飲料Coca−Colaを想起させ,
製品の均一性とその出所を保証している」(甲87)ものと広く認識
され,理解されるようになった(甲9,43∼55,64,85,9
1∼94,96,114)。
(オ)本願商標と同一の立体的形状の無色容器の出所識別力調査の結果
原告が専門会社に依頼して実施した複数の調査においては,以下のと
おり,本願商標と同一の立体的形状の無色容器(文字等の平面標章は
付されていない。)を示された調査対象者の9割前後(後記第一次調
査では91%,後記第二次調査では93.7%〔CLT調査〕又は8
9.4%〔ウェブ調査〕)が同容器を「見たことがある」と回答し,
6割から8割程度(後記第一次調査では81%,後記第二次調査では
73.3%〔CLT調査〕又は60.3%〔ウェブ調査〕)がその商
品名を「コカ・コーラ」と回答している(甲26,102,10
3)。すなわち,
a第一次調査
原告は,平成15年1月,社会調査の専門会社に委託して,本願
商標の形状と同一の瓶における銘柄想起調査(第一次調査)を実施
した。その概要は,具体的には,CLT調査(街頭等に設置された
ブース内において,任意の調査対象者が調査票に記入する方式)に
より,本願商標と同一の立体的形状の無色容器,本願商標と同一(
口部を除く。)の立体的形状の着色容器,及び,本願商標と同一の
立体的形状の容器に「Coca−Cola」と横書きしてなる文字
商標を付した文字商標付容器を上記の順に提示し,当該容器と同じ
形状をした飲料を見たことがあるか(質問①),その飲料の商品名
を知っているか(質問②)を回答させる調査(期間:平成15年1
月26日から28日,場所:東京及び大阪における書面を用いた調
査,調査対象者:20歳から59歳までの男女合計200名〔東
京,大阪で各100名〕)である(甲26)。
第一次調査の結果は,質問①に対し調査対象者が見たことがある
と回答した割合は,無色容器については91%,文字商標付容器に
ついては98%であり,質問②に対し調査対象者が「コカ・コー
ラ」と回答した割合は,無色容器については81%,文字商標付容
器については97.5%であって,文字商標が付されている場合と
付されていない場合の差は,質問①につき7%,質問②につき1
6.5%であった。
b第二次調査
また,原告は,平成15年4月,別の社会調査の専門会社に委託
して,本願商標の形状を用いた瓶の銘柄想起調査(第二次調査)を
実施した。その概要は,具体的には,第一次調査より規模等を拡大
した調査であり,①東京及び大阪における調査票を用いたCLT調
査(調査対象者は,15歳以上の男女合計300名である。),及
び,②ウェブ調査(事前に調査対象者候補として登録した者に対
し,ウェブサイトのURLを記載した電子メールを送信し,当該ウ
ェブサイトにアクセスして質問に回答させる調査で,調査対象者
は,日本全域の15歳以上の男女合計1200名である。)であ
る(甲102,103)。
CLT調査では,本願商標と同一の形状の容器について,同じ形
状の商品を見たことがあるかという質問(質問①’)に対し「見た
ことがある」と回答した調査対象者の割合は93.7%,その形状
の商品の名前を知っているかとの質問(質問②’)に対し「コカ・
コーラ」と回答した調査対象者の割合は73.3%であり(甲10
2),ウェブ調査では,本願商標と同一の形状の容器について,質
問①’に対し「見たことがある」と回答した調査対象者の割合は8
9.4%,質問②’に対し「コカ・コーラ」と回答した調査対象者
の割合は60.3%であった(甲103)。
cこの点,被告は,原告の行った第一次調査は,20歳未満の者や
60歳以上の者が調査対象者に含まれていない点においても,不適
切であると主張する。しかし,本願の指定商品「コーラ飲料」の需
要者に占める60歳以上の者の割合がさほど大きいとは考えられな
いこと,また,第二次調査の結果によれば,10代の調査対象者が
商品名を「コカ・コーラ」と回答した割合は,全体の平均に比べて
若干低い数字となってはいるものの,6割から7割がその商品名
を「コカ・コーラ」と回答していることに照らすならば,第一次調
査における調査対象者の範囲が不適切であったとはいえない。
d上記各結果は,本願商標に係る立体的形状は,リターナブル瓶の
立体的形状と口部において相違することとはかかわりなく,識別標
識として機能していること,また,当該立体的形状のみでなく,こ
れに「Coca−Cola」などの文字を含む平面標章部分を付す
ることが,商品の出所表示のために不可欠であるとまではいえない
こと,そして,本願商標の立体的形状の特徴的な部分が,需要者に
強い印象,記憶を与えるものであることを示しているといえる。
(カ)リターナブル瓶の形状についての認識
リターナブル瓶の形状については,数多くの専門書籍,一般書籍等に
おいて,商品の立体的形状に自他商品の識別力が存する典型例として
引用されている。例えば,①弁理士会が作成,配布した「商標法の改
正について」と題する冊子の「立体商標の導入」との項目における「
清涼飲料水のビン(写真2)のような立体商標形状も十分に識別標識
として機能を果たしています」との記載及びリターナブル瓶の形状を
撮影した写真,②新・注解「不正競争防止法」(小野昌延編著,青林
書院発行)における「商品の形態が,コカコーラの瓶のように,いわ
ゆるセカンダリー・ミーニングを獲得して商品標識として働きだした
場合の,周知性のある商品形態の模倣に対しては,不正競争防止法上
の周知表示として旧法1条1項1号によって保護され,・・・」との
記載,③第12版「パリ条約講話」(後藤晴男著,社団法人発明協会
発行)における「立体商標は,その典型的なものとしては例のコカコ
ーラのビンがあげられるでありましょう。」との記載など,数多く存
在する(甲17∼24,106,108)。
また,原告商品のリターナブル瓶の形状に関連した歴史,エピソー
ド,形状の特徴等を解説した書籍,雑誌等が,数多く出版され,紹介
されてきた。そのような媒体を通じて,社会一般においも,原告商品
のリターナブル瓶の形状が,原告の出所を示すものとして,広く認識
されているといえる(甲37ないし40,79,80,107,)。
さらに,我が国における,他の清涼飲料水メーカーにおいても,原告
が本願商標を独占的に使用することが,事実上受け入れられ,尊重さ
れている(甲82∼84)。
(キ)リターナブル瓶と類似する他社商品の流通状況
現在,リターナブル瓶のように,本願商標の特徴点a(スクリューキ
ャップをはずした状態の口部を設けたとの点を除く。)ないしfのす
べてを兼ね備えた容器や,ワンウェイ瓶のように特徴点aないしfの
すべてを兼ね備えた容器に収納された清涼飲料水は,原告製品以外に
は,市場に流通していない。
原告は,第三者が,リターナブル瓶と類似する形状の容器を使用した
り,リターナブル瓶の特徴を備えた容器を描いた図柄を使用する事実
を発見した際は,直ちに厳格な姿勢で臨み,その使用を中止させてき
た(甲128,129,118,119)。
この点を例示すると,①平成13年に,原告は,清涼飲料を製造,販
売する会社の商品が,原告商品のリターナブル瓶に類似しているのを
発見し,同年4月4日付けで,同社に対して,同製品の製造,販売の
中止要求を含む警告書を発したところ,同社から,同月11日付けの
書面で,製造工場を閉鎖し,製造,販売を中止し,空き瓶の回収,廃
棄を確約する等の内容を含む回答書を受けたこと,また,②平成19
年に,原告は,デザイン広告社が,装飾雑誌の裏表紙に,原告商品の
リターナル瓶容器に類似ないし連想させるデザインを掲載したのを発
見し,警告したところ,同広告社は,同年2月9日付けで,原告の要
求を受けて,原告の了解なくデザインを使用した事実を確認するとと
もに,原告に対して謝罪する趣旨を含んだ「お詫び」と題する書面を
作成,公表したことがある。
このような原告における,原告商品のリターナブル瓶に類似する容器
に対する厳格な管理態勢の結果として,我が国の市場において,リタ
ーナブル瓶の立体的形状を備えた容器(瓶)は,原告商品を除いて,
市場に流通する清涼飲料水には用いられていない(甲128,12
9)。
(ク)ワンウェイ瓶入りの原告商品の販売状況
清涼飲料業界では,消費者の嗜好,生活様式の変化,販売形態,輸
送,回収費用等の変化に伴って,リターナブル瓶の市場優位性が低下
したため,ワンウェイ瓶への転換が図られるようになった。
原告においても,平成6年ころから,ワンウェイ瓶入りの原告商品
の販売を開始した。その販売数量は変動が激しく,平成6年は年59
万9321ケース(約1440万本)であったが,平成11年には販
売実績がなくなり,その後,平成13年に109万8176ケース(
約2636万本)を記録した後,再び徐々に減少し,平成18年には
21万2458ケース(約510万本)となっている(甲126)。
(なお,ワンウェイ瓶の立体的形状は,本願商標の特徴点aないしf
のすべてを備えているが,原告は,本件訴訟において,ワンウェイ瓶
入り原告商品の形状をもって,原告の使用に係る商標であるとする主
張をしているものではないと理解される。)
前記(エ)において認定したとおり,原告は,ワンウェイ瓶入りの原
告商品の販売を開始した後においても,広告活動に当たっては,リタ
ーナブル瓶入り原告商品を用いて,リターナブル瓶の形状を需要者に
印象づけるような広告を継続している(甲91,92,96)。
(ケ)リターナブル瓶入り原告商品の形状と本願商標との対比
原告の使用に係る商標(リターナブル瓶入りの原告商品の形状)
は,本願商標の特徴点a(スクリューキャップをはずした状態の口部
を設けたとの点を除く。)ないしf,すなわち,「a底部を円形と
し,上部に・・・細い口部を設けた,縦長の容器の形状であるこ
と。」,「b口部の下は,やや長い首部があり,その下方に向かっ
て,上部から徐々にふくらみをもたせ,底面からほぼ5分の1の位置
にくびれをもたせていること。」,「cくびれの下に台形状の広が
りをもたせていること。」,「dほぼ中央にボトル全長の約5分の
1の高さの凹凸のないラベル部分を設けていること。」,「e全体
にラベル部分を除いてラベル近辺から底面近傍まで縦に柱状の凸部を
10本並列的に配していること。」,「fラベル部分の上には同様
に柱状の凸部を10本並列的に配し,上部に行くに従い自然に消滅さ
せていること。」のすべてを備えている。
イ判断
上記アで認定した事実を総合すれば,次の点を指摘することができ
る。
(ア)リターナブル瓶とほぼ同じ形状の瓶を使用した原告商品は,既
に,1916年(大正5年)に,アメリカで販売が開始され,開始当
時から,その瓶の形状がユニークかつ特徴的であるとして評判になっ
たこと,そして,我が国では,リターナブル瓶入りの原告商品は,昭
和32年に販売が開始されて以来,その形状は変更されず,一貫して
同一の形状を備えてきたこと
(イ)リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は,販売開始以来,驚
異的な実績を上げ,特に,昭和46年には,23億8000万余本も
の売上げを記録したが,その後,缶入り商品やペットボトル入り商品
の販売比率が高まるにつれて,売上げは減少しているものの,なお,
年間9600万本が販売されてきたこと
(ウ)リターナブル瓶入りの原告商品を含めた宣伝広告は,いわゆる媒
体費用だけでも,平成9年以降年間平均30億円もの金額が投じら
れ,テレビ,新聞,雑誌等において,リターナブル瓶入りの原告商品
の形状が需要者に印象づけられるような態様で,広告が実施されてき
たこと
特に,缶入り商品やペットボトル入り商品の販売が開始され,その
販売比率が高まってから後は,リターナブル瓶入りの原告商品の形状
を原告の販売に係るコーラ飲料の出所識別表示として機能させるよ
う,その形状を意識的に広告媒体に放映,掲載等させていること
(エ)本願商標と同一の立体的形状の無色容器を示された調査結果にお
いて,6割から8割の回答者が,その商品名を「コカ・コーラ」と回
答していること
(オ)リターナブル瓶の形状については,相当数の専門家が自他商品識
別力を有する典型例として指摘していること,また,リターナブル瓶
入りの原告商品の形状に関連する歴史,エピソード,形状の特異性等
を解説した書籍が,数多く出版されてきたこ
(カ)本願商標の立体的形状の本願商標の特徴点aないしfを兼ね備え
た清涼飲料水の容器を用いた商品で,市場に流通するものは存在しな
いこと,また,原告は,第三者が,リターナブル瓶と類似する形状の
容器を使用したり,リターナブル瓶の特徴を備えた容器を描いた図柄
を使用する事実を発見した際は,直ちに厳格な姿勢で臨み,その使用
を中止させてきたこと
(キ)リターナブル瓶入りの原告商品の形状は,それ自体が「ブランド
・シンボル」として認識されるようになっていること
以上の事実によれば,リターナブル瓶入りの原告商品は,昭和32年
に,我が国での販売が開始されて以来,驚異的な販売実績を残しその形
状を変更することなく,長期間にわたり販売が続けられ,その形状の特
徴を印象付ける広告宣伝が積み重ねられたため,遅くとも審決時(平成
19年2月6日)までには,リターナブル瓶入りの原告商品の立体的形
状は,需要者において,他社商品とを区別する指標として認識されるに
至ったものと認めるのが相当である。
ウその他の事項に対する判断
(ア)リターナブル瓶入りの原告商品に付された「Coca−Col
a」の表示との関係について
リターナブル瓶入りの原告商品及びこれを描いた宣伝広告には,「
Coca−Cola」などの表示が付されているが,この点に関し,
以下のとおり判断する。
取引社会においては,取引者,需要者は,平面的に表記された文
字,図形,記号等からなる1つの標章によって,商品の出所を識別す
る場合が多いし,また,商品の提供者等も,同様に,1つの標章によ
って,自他商品の区別をする場合が多く,また,便宜であるともいえ
る。しかし,現実の取引の態様は多様であって,商品の提供者等は,
当該商品に,常に1つの標章のみを付すのではなく,むしろ,複数の
標章を付して,商品の出所を識別したり,自他商品の区別をしようと
する例も散見されるし,また,取引者,需要者も,商品の提供者が付
した標章とは全く別の商品形状の特徴(平面的な標章及び立体的形状
等を含む。)によって,当該商品の出所を識別し,自他商品の区別す
ることもあり得るところである。そのような取引の実情があることを
考慮すると,当該商品に平面的に表記された文字,図形,記号等が付
され,また,そのような文字等が商標登録されていたからといって,
直ちに,当該商品の他の特徴的部分(平面的な標章及び立体的形状等
を含む。)が,商品の出所を識別し,自他商品の区別をするものとし
て機能する余地がないと解することはできない(不正競争防止法2条
1項1号ないし3号参照)。
そのような観点に立って,リターナブル瓶入りの原告商品の形状を
みると,前記(2)アで認定したとおり,当該形状の長年にわたる一貫し
た使用の事実(ア(イ)),大量の販売実績(ア(ウ)),多大の宣伝広
告等の態様及び事実(ア(エ)),当該商品の形状が原告の出所を識別
する機能を有しているとの調査結果(ア(オ))等によれば,リターナ
ブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は,極めて
強いというべきである。そうすると,本件において,リターナブル瓶
入りの原告商品に「Coca−Cola」などの表示が付されている
点が,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認め
る上で障害になるというべきではない(なお,本願商標に係る形状
が,商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる
商標といえないことはいうまでもない。)。
(イ)リターナブル瓶入りの原告商品における口部の形状について
リターナブル瓶の立体的形状と本願商標とは,口部において,前者
が王冠用であるのに対して,後者がスクリューキャップ用であるとい
う点で相違する。
口部の形状は,機能に直結する形状であるとともに,ありふれた形
状であって,特段の事情のない限り,需要者が商品を識別する対象と
はなり得ないというべきであるから,そもそも,本願商標の特徴的な
部分ということはできない。また,本件において,特段の事情は存在
しない。
のみならず,前記(2)アのとおり,リターナブル瓶入りの原告商品の
形状について,当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実(ア(イ
)),大量の販売実績(ア(ウ)),多大の宣伝広告等の態様及び事実(
ア(エ)),当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有している
との調査結果(ア(オ))等を総合すると,リターナブル瓶の立体的形
状について蓄積された自他商品識別力は,極めて強いというべきであ
るから,リターナブル瓶入りの原告商品の口部の相違が,本願商標に
係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害となる
というべきではない。
エ小括
以上のとおり,本願商標については,原告商品におけるリターナブル
瓶の使用によって,自他商品識別機能を獲得したものというべきである
から,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解す
べきである。これに反する被告の主張は,いずれも採用の限りでない。
(3)以上検討したところによれば,本願商標は,商標法3条2項により商標
登録を受けることができるものであるから,本願商標を同項に該当しない
とした審決の判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。
3結論
以上によれば,審決の認定判断には誤りがあり,この誤りが審決の結論に
影響するから,審決は違法であり取り消されるべきである。よって,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官嶋末和秀
裁判官大鷹一郎は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官飯村敏明
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