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平成15年(行ケ)第337号 審決取消請求事件(平成16年3月31日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   株式会社ジャパン・システム・アドバイス
   原      告   今 田 哲 夫
       両名訴訟代理人弁護士 高 橋 隆 二
同      弁理士 福 田 賢 三
       同          福 田 伸 一
同          福 田 武 通
同          加 藤 恭 介
       被      告   特許庁長官 今 井 康 夫
       指定代理人      吉 村 宅 衛
       同          治 田 義 孝
同          矢 島 伸 一
同          高 橋 泰 史
同          伊 藤 三 男
          主           文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が訂正2002-39251号事件について平成15年6月16日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告らは,発明の名称を「遊技機用釘間隔の測定装置及び測定方法」とする
特許第3084560号発明(平成4年9月18日原出願,平成11年6月23日
分割出願,平成12年7月7日設定登録,以下,この特許を「本件特許」とい
う。)の特許権者である。
 本件特許につき,無効審判請求がされ,特許庁に無効2001-35180
号事件として係属したところ,原告らは,本件特許出願の願書に添付した明細書
(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正の請求をした。
特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成14年7月16日,「訂正を認め
る。特許第3084560号の請求項1ないし3に記載された発明についての特許
を無効とする。」との審決(以下「本件無効審決」という。)をした。
 原告らは,本件無効審決の取消請求訴訟(当庁同年(行ケ)第437号事
件)を提起した後,同年10月18日,特許請求の範囲の減縮等を目的として,本
件明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を求める
訂正審判の請求をし,特許庁に訂正2002-39251号事件として係属した。
特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成15年6月16日,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告らに送達さ
れた。
2 本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明の要

 1対の障害釘の内法間隔を2個の釘接触ゲージ手段にそれぞれ接続する2個
の杆体の動きによる読取ディジタルデータにより測定する障害釘測定手段,前記障
害釘測定手段の測定動作の実行または停止を制御する動作制御手段,前記動作制御
手段から測定を実行すべき動作制御信号が発せられた場合に,前記釘接触ゲージ手
段を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に,釘接触ゲージ手段が障害釘の内面に
追随するまでの間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込
み,前記障害釘測定手段が障害釘の内法間隔を測定してデータとし,当該データを
演算して数値表示するとともに出力するデータ演算出力手段を少なくとも有する遊
技機用釘間隔測定装置により,1対の障害釘の内法間隔を釘接触ゲージ手段が充分
に追随した後のデータとして測定したら,測定値をデータとして数値表示するとと
もに出力してコンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータ
を転送するようにしたことを特徴とする遊技機用釘間隔の測定方法。
(本件訂正により,従前の請求項1を削除し,従前の請求項2を請求項1に繰
り上げた上,発明の構成を限定して特許請求の範囲の減縮をしたもの。以下「本件
訂正発明1」という。)
3 審決の理由
審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正発明1は,特開平4-9
5704号公報(甲3,以下「刊行物1」という。),昭和59年6月6日株式会
社三豊製作所発行「みつとよ技報25号」(甲4,以下「刊行物2」という。),
実願平1-94280号(実開平3-33302号)のマイクロフィルム(甲5,
以下「刊行物3」という。),特開昭58-55709号公報(甲6,以下「刊行
物4」という。),実公平1-20653号公報(甲7,以下「刊行物5」とい
う。)及び実願昭55-83622号(実開昭57-8560号)のマイクロフィ
ルム(甲8,以下「刊行物6」という。)に記載された発明並びに周知の技術的事
項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,本件
訂正に係る審判の請求は,特許法126条4項の規定に適合しないとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由
 審決は,刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)が未
完成発明であることを看過した(取消事由1)上,本件訂正発明1と刊行物1発明
との相違点(ⅰ)及び(ⅱ)に関する判断を誤った(取消事由2,3)結果,本件
訂正は認められないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消さ
れるべきである。
1 取消事由1(刊行物1発明が未完成発明であることを看過した誤り)
(1) 遊技機障害釘の間隔の測定には特殊の技術上の問題が存在することから,刊
行物1に記載された技術はおよそ実施不能であって,刊行物1発明は未完成発明に
すぎないから,他の技術と組み合わせて新しい技術を創作する前提を欠くものであ
る。したがって,審決が,刊行物1発明を,本件訂正発明1の進歩性を判断するた
めの引用発明としたことは違法である。
(2) 遊技機障害釘の間隔は,遊技機障害釘の頭部を打ち,基盤に対する釘の方向
と傾斜角度を何時方向に何度というように変えることにより,基盤から高さ方向の
中間部(5.5mmの高さ)の内法寸法において,パチンコ玉の直径部分(最厚
部)が通過(又は非通過)できるようにする必要があるから,遊技機障害釘の頭部
近傍や基盤近傍における間隔を測定しても意味がない。遊技機障害釘には,何時方
向に何度曲げられたものや,遊技機障害釘が植設された時点で根元が異なる位置で
植設されたものがある。曲げられた二本の障害釘間隔の測定においては,光の投射
やノギスのゲージで測定する場合,斜め方向から測定すると,その角度と高さ方向
の測定位置によって,異なった距離として測定されてしまう。また,基盤上には,
多数植設されている遊技機障害釘,複数個の入賞装置(役物),風車,ランプ等が
存在しており,これらが邪魔になるため,一般的測定器によっては二本の遊技機障
害釘の所定高さにおける間隔を正しく測定することはできない。
(3) 刊行物1には,2本の遊技機障害釘に対して平行な光を投光し,反対側の受
光素子でこれを受光することにより,その間隔が測定できると記載されている。
 しかし,上記方法による遊技機障害釘の間隔の測定には,垂直に植設され
た2本の遊技機障害釘の間隔と,光が進む方向と同じ方向で,互いに反対方向に角
度を傾斜させた2本の遊技機障害釘(例えば,0時方向から6時方向に向かって光
を当てた場合において,0時方向と6時方向に傾斜された釘)の間隔とは,根元が
同じ位置に植設されたものであっても,所定の高さにおいて異なる距離として測定
されるべきところ,同じ距離として測定されてしまうという問題がある。さらに,
測定器を当てた高さ位置や測定器の方向によって遊技機障害釘の間隔が異なって測
定される,他の遊技機障害釘が障害になり,目的の遊技機障害釘の間隔が測定でき
ない,光発光部からの光が遊技機障害釘で反射して雑音になり正確な測定ができな
い,光発光部の配置により遊技機障害釘の頭部による死角エリアができるなど,遊
技機障害釘の間隔の正確な測定を阻害する要因もある。
 このように,光を利用した遊技機用釘間隔の測定方法には,正確な測定を
阻害する要因があるところ,刊行物1には,正しいディジタルデータを得るための
ゲージ部の構造,例えば,多数の遊技機障害釘等の間に入れるコンパクトなゲージ
部の具体的な形状,遊技機障害釘の植設態様や測定する者の熟練度の違いによって
生じる正しいディジタルデータを得るために必要な時間の差異への対応等につい
て,具体的な技術的思想が開示されていない。また,刊行物1の4図を見ても,障
害釘の間隔を測定する位置は特定されないから,「投光手段」及び「受光手段」等
のゲージ部を,光の直進性及びゲージ部の形状を斟酌した遊技機障害釘の最適位
置,すなわち,本件訂正発明1の構成である「2個の接触ゲージ部の最厚点におい
て測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔をなす2個の内法点に接触するよう」
に配置することができないから,正しいディジタルデータを得ることができない。
 そうすると,刊行物1発明は,単なるアイデアにすぎないものというべき
であり,現在においても,光を利用して遊技機障害釘の間隔を測定する方法は存在
しない。
(4) 以上のとおり,刊行物1発明は未完成発明にすぎず,これを引用例として本
件訂正発明1と対比した審決は誤りであるから,取り消されるべきである。
2 取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)
(1) 審決は,本件訂正発明1と刊行物1発明との相違点(ⅰ)として,「障害釘
測定手段とその読取データが,本件訂正発明1にあっては,2個の釘接触ゲージ手
段にそれぞれ接続する2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータにより測定す
るものであるのに対して,引用刊行物1(注,刊行物1)にあっては,投光手段
(M1)と受光手段(M2)とによる障害釘測定手段で明度信号(lig)の光学
的読取データにより測定するものである点」(審決謄本12頁第4段落)を認定し
た上,相違点(ⅰ)について,「刊行物2乃至4及び周知の技術的事項を参酌する
ことにより当業者が容易になし得ること」(同13頁第2段落)であると判断した
が,誤りである。
(2) 刊行物3には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載されているものの,刊
行物1に記載される投光手段(Ml)及び受光手段(M2)に換えて刊行物3に記
載された発明(以下「刊行物3発明」という。)における釘接触ゲージ手段の構成
を採用することは当業者にとって容易なことではない。
 遊技機用釘間隔の測定方法の技術分野にあっては,機械式手段によるゲー
ジ手段(本件訂正発明1,刊行物3発明)と非接触の光学式手段によるゲージ手段
(刊行物1発明)とはその構造及び測定原理が全く異なり,測定装置の重要な部分
に関するゲージ手段の置換が容易であるとはいえない。その置換が周知事項である
とする証拠もなく,刊行物2,4には単に機械式寸法測定器が記載されているにす
ぎないから,その置換容易性を裏付けるものではない。
 また,刊行物1発明は,光学的手段により非接触の状態で釘間隔を客観的
かつ正確に測定することがその技術的思想の中核であるのに対し,刊行物3発明
は,釘接触ゲージ手段という機械的手段により釘間隔を測定するものであるから,
遊技機用釘間隔の測定方法という共通の技術分野に属するものではあっても,刊行
物1発明の技術的思想の中核である光学式手段を放棄して,刊行物3発明の機械的
手段に置換する動機を見いだすことはできない。さらに,刊行物3発明はデータを
ディジタル的に処理しようとする発想がない機械的手段を有するアナログ方式であ
るから,ディジタル方式に係る刊行物1発明に直ちには適用できない阻害要因があ
るとみなければならない。被告は,刊行物1発明は「非接触」に限定されないと主
張するが,刊行物1発明における当該光学式手段は障害釘に非接触の状態で釘間隔
値を測定するものであることは明らかである。
(3) 上記1(2)のとおり,遊技機障害釘の間隔測定には特殊性があり,刊行物3
発明の遊技機用釘間隔の測定方法によっても,多数複雑な方向と傾斜角度で植設さ
れた遊技機障害釘の中で,釘師にとって代わることができるような測定ができなか
った。
 これに対し,本件訂正発明1は,手で持ったままの状態で,遊技機障害釘
の所定の高さにおける間隔をディジタルデータとして正確に測定できる初めての測
定方法に係るものであるにもかかわらず,審決は,本件訂正発明1を一般的な計測
器の技術分野のものとして判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における本
件特許出願当時の技術レベル及び特有の課題を解決した点を看過したものである。
(4) 以上のとおり,審決は,相違点(ⅰ)に関する判断を誤ったものであるか
ら,取り消されるべきである。
3 取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)
(1) 審決は,本件訂正発明1と刊行物1発明との相違点(ⅱ)として,「データ
演算出力手段が,本件訂正発明1にあっては,釘接触ゲージ手段を1対の遊技機障
害釘の間に挿入した際に,釘接触ゲージ手段が障害釘の内面に追随するまでの間デ
ータを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むものであり,データ
が,釘接触ゲージ手段が充分に追随した後のデータとして測定したら,測定値をデ
ータとして数値表示するとともに出力してコンピュータ等に釘間隔をディジタル値
で計測したディジタルデータを転送するものであるのに対して,引用刊行物1
(注,刊行物1)にあっては,データを取り込み,当該データを演算して数値表示
するものである点」(審決謄本12頁第5段落)を認定した上,相違点(ⅱ)に係
る構成について,当業者が容易になし得ることであると判断したが,誤りである。
(2) 審決は,相違点(ⅱ)のうち,「充分に追随した後にデータを取り込む」と
の構成に係る部分について,「このような表示,読取誤差に係わる構成として,充
分に追随した後にデータを取り込むようになすことは・・・この構成は上記引用刊
行物4乃至6(注,刊行物4~6)及び周知の技術的事項を参酌することにより当
業者が容易になし得ること」(同13頁下から第2段落)であると判断した。
 しかしながら,刊行物4(甲6)における測定器は,一般的な測定処理で
あるため,測定に先立ち,一律に0.4秒遅延させるものであり,そうすること
で,誰が測定しても正確に測定できるというものである。また,刊行物5(甲7)
及び刊行物6(甲8)に係る技術は,液体容器内における液量を検出し表示すると
いうもの,あるいは穀物の含水率測定方法に関するもので,試料穀物を1対の電極
間で圧砕挟持して通電した際,電極間に発生する電気抵抗を測定するものであり,
測定時間を一定時間又は所定時間遅延させている。
 これに対して,本件訂正発明1は,上記各刊行物とは全く異なる技術分野
に係る発明であり,解決しようとする課題,構成及び効果の点で相違するものであ
る。また,上記各刊行物は,遊技機用釘間隔の測定方法の技術分野において,いま
だかつて引用されたことがなく,適用することが慣用手段になっていない。
 さらに,上記刊行物4~6に係る技術は,すべての測定に対して一定時間
又は所定時間の遅延を行うものであるが,本件訂正発明1は,方向と傾斜角度が異
なる多数の遊技機障害釘が植設されている状態の中で,熟練した測定者であって
も,2個の杆体からなる接触ゲージ部の最厚点において遊技機障害釘の間隔を正確
に測定することが難しいという課題を解決するために,遊技機障害釘の植設態様の
違い,測定者の熟練度による測定時間の差異に対応するべく,「接触ゲージ部を1
対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随す
るまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むよう
にした」データ演算出力手段を有するようにしたものである。すなわち,審決は,
本件訂正発明1における遊技機障害釘の間隔の測定は,熟練した者であっても,遊
技機障害釘の植設態様によって正しいディジタルデータを得るまでの時間が異なる
という特殊な技術であるのに,その点を無視して上記刊行物4~6に係る技術と同
一視した点において誤りがある。
(3) また,審決は,相違点(ⅱ)のうち,「測定したデータをコンピュータ等に
転送する」との構成に係る部分について,「測定したデータをコンピュータ等に転
送することは上記引用刊行物2,4(注,刊行物2,4)に開示されており,また
引用刊行物1(注,刊行物1)においても電子制御装置(7)には外部入出力回路(7e)
を具備するものであって,この電子制御装置(7)はCPU構成であるから,この外部入
出力回路(7e)を介して『コンピュータ等に計測したディジタルデータを転送する』
ことができるように構成することは,当業者が容易になし得ること」(同)である
と判断した。
 しかしながら,本件特許出願当時における遊技機障害釘の間隔の測定に関
する技術は,熟練した釘師の勘によるものであり,遊技機用釘間隔測定装置は実用
化されていなかった。また,パチンコホールを運営する店舗には,多数の遊技機が
設置されており,個々の遊技機の有する釘間隔値と出玉データ等を有機的に関連し
てパチンコホール全体の経営状況を管理する遊技機管理システムを構築する発想は
全く存在していなかった。そのため,刊行物1発明及び刊行物3発明が公知であっ
たとしても,それは,釘師が釘間隔を調整する際の確認手段としての道具として考
えられていたにすぎない。
 本件訂正発明1に係る「データ演算出力手段」は,単に計測値をディジタ
ル表示するためのものではなく,外部コンピュータ等に出力し,即座に測定データ
の整理,処理を行うためのものであり(本件明細書の段落【0040】),測定し
た多数の遊技機に関する釘間隔測定値を事後的に遊技機管理システム上において整
理,処理を行い,パチンコホール全体の経営状況を管理することが可能となるとい
う格別の効果を奏するものである。
 この点について,審決は,「本件訂正発明1が奏する作用効果も,当業者
が予測できる程度のものであって格別なものとは認められない」(審決謄本13頁
最終段落)というが,本件訂正発明1の効果である「測定データの事後処理が可能
となる」ことは,本件特許出願当時における当業者の予測の範囲を超えている。確
かに,刊行物2,4には,読取データの外部出力に関する記載があるものの,本件
訂正発明1の技術分野における,上記のような効果を示唆するものではない。審決
は,相違点(ⅱ)につき,本件訂正発明1の技術分野の特殊性を考慮せず,一般的
なディジタルデータの処理技術を念頭において判断したものであって,誤りであ
る。
(4) 以上のとおり,審決は,相違点(ⅱ)に関する判断を誤ったものであるか
ら,取り消されるべきである。
第4 被告の反論
 審決の認定判断は正当であり,原告らの取消事由の主張はいずれも理由がな
い。
1 取消事由1(刊行物1発明が未完成発明であることを看過した誤り)につい

 刊行物1(甲3)の発明の詳細な説明や図面は,当業者が実施することがで
きるように記載されているから,仮に,刊行物1発明に原告らが主張するような短
所があるとしても,このことから刊行物1発明が実施不能あるいは未完成発明であ
るとはいえない。また,刊行物1において,「遊技盤上の2本の釘Kg1とKg2
との釘間隔lは,一律に,しかも正確に1/100[mm]の単位以上に細かく容
易に客観的に求めることができるという効果を有する」(3頁左下欄最終段落)と
記載されているように,刊行物1発明を引用発明とすることに支障はなく,これを
他の技術(刊行物3に記載の技術)と組み合わせることにも障害はない。原告らは
刊行物1発明の測定態様を図示して種々主張するが,これらは専ら特異な測定態様
を図示するものであって,「使用不可能」,「現在に至っても使用されていない」
とはいえないし,また,仮に,「現在に至っても使用されていない」としても,そ
のことが刊行物1における引用発明の認定の障害になるものではない。
2 取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)について
(1) 刊行物1発明と刊行物3発明とは,いずれも「遊技機」に関する技術分野に
属するものであり,かつ「測定方法」に関する技術分野に属するものであって,本
件訂正発明1の属する技術分野とも相違しないものであるから,両発明を組み合わ
せることに困難性はない。
(2) 機械式手段によるゲージ手段(本件訂正発明1及び刊行物3発明)と光学式
手段によるゲージ手段(刊行物1発明)は,いずれも遊技機障害釘の間隔の測定手
段として共通するものであり,本件において,ゲージ手段として置換が容易にでき
ないような重要な部分を置換するものではない上,原告らも自認するとおり,刊行
物3には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載されているのであるから,両者の
構造及び測定原理の相違が置換を阻害する要因となるものではない。
 原告らは,両者の置換が周知事項でない旨主張するが,審決は,両者の置
換が「周知」であると認定しているわけではないから,原告らの上記主張は審決の
論旨と関係のないものである。さらに,原告らは,刊行物3発明に係る測定方法が
アナログ方式であることは,ディジタル方式に係る刊行物1発明には直ちに適用で
きない阻害要因があるとみなければならないとも主張するが,測定方法においてデ
ィジタル方式とすることは,刊行物2,4に開示されており,アナログ方式とディ
ジタル方式の選択が当業者の設計事項であることは技術常識(刊行物4にも,アナ
ログ式からディジタル式への設計変更,置換が記載されている。)であるから,阻
害要因となるものではない。
 なお,原告らは,刊行物1発明の光学式手段によるゲージ手段を「非接
触」のものであると主張するが,刊行物1には「非接触」であるとの記載及び「非
接触」に限定した構成であるとの開示はないから,刊行物1発明の光学式手段によ
るゲージ手段は,「非接触」のものに限定されるものではない。
(3) 原告らは,審決は,本件訂正発明1を一般的な計測器の技術分野のものとし
て判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における技術レベル及び特有の課題
を看過したものである旨主張する。しかしながら,審決は,本件訂正発明1を一般
的な計測器の技術分野のものとして判断しているものではなく,遊技機障害釘を有
する遊技機における本件特許出願当時の技術レベル,課題等を勘案した上で,本件
訂正発明1の進歩性の判断を行っている。
 なお,本件訂正発明1は,その発明の名称に示されるとおり,「遊技機用
釘間隔の測定方法」の発明であり,技術分野としては遊技機の技術とともに,一般
的な測定方法に関する技術をも参酌し,また,当該分野の技術常識に基づいて認
定,判断を行うことは当然である。そして,刊行物1発明及び刊行物3発明は,い
ずれも,「遊技機」に関する技術分野に属するものであり,かつ「測定方法」に関
する技術分野にも属するものであって,本件訂正発明1の属する技術分野と何ら相
違しないものである。刊行物2,4~6は,相違点(ⅰ)の判断に当たり,技術常
識,周知技術として,「測定方法」に関する技術を参酌したものであって,これら
を参酌すべきことは当然である。
3 取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)について
(1) 本件訂正発明1が規定する「追随するまでの期間データを取り込まないで,
充分に追随した後にデータを取り込む」ことは,「自動的に表示可能」で「読取誤
差も生じない」(本件明細書の段落【0040】)という技術的意義を有するもの
であると認められるから,刊行物4~6に開示された技術と差異を有するものでは
ない。なお,本件明細書にも,実施例の説明として,所定期間の後に測定すること
が記載されている(段落【0018】)。
 他方,例えば,刊行物4(甲6)には「時限素子により信号処理は測定に
対して少なくとも約0.4秒遅延される」(3頁左上欄最終段落)と記載されてお
り,また,上記のとおり技術的意義においても差異がないのであるから,そこに開
示された測定時間を一定時間又は所定時間遅延させるとの技術的思想は,本件訂正
発明1の規定する「追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した
後にデータを取り込む」ものと変わりがない。
(2) 刊行物1,3は,いずれも,本件特許出願前のものであって,これらに開示
された技術は,「遊技機」及び「釘間隔の測定方法」に関する技術であるから,審
決が,本件特許出願当時における遊技機障害釘の間隔の測定に関する従来技術及び
周知技術を考慮していることは明らかである。また,審決の論旨は釘間隔測定装置
が実用化されていることを前提としているものではないから,その点に関する原告
らの主張は失当である。
 また,本件訂正発明1のデータ演算出力手段は,「演算されたディジタル
データを数値表示」し,「逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュ
ータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力する」もの
であればよいのであるから,「外部出力」後のデータの処理態様までをも,その要
旨としているものではない。すなわち,本件訂正発明1は,外部コンピュータ等に
「外部出力」されたディジタルデータをどのように利用するかまでをも構成要件と
して規定しているものではないから,原告ら主張のように,それが「即座に測定デ
ータの整理,処理を行うためのもの」であるということはできない。原告らの主張
する本件訂正発明1の作用効果は,本件特許請求の範囲の記載に基づくものではな
い。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1発明が未完成発明であることを看過した誤り)につい

(1) 原告らは,遊技機障害釘の間隔測定の特殊性を主たる理由として,刊行物1
発明は未完成発明であると主張する。
 そこで検討すると,刊行物1(甲3)には,以下の各記載がある。
ア 「遊技盤上の複数本の釘に対して所定光量の光を投光する投光手段と,
該投光された光を受光する受光手段と,該受光された光の明度を所定値と比較する
ことにより上記複数本の釘の間隔を測定する釘間隔測定手段と,を備えて構成され
たことを特徴とする釘間隔測定装置。」(特許請求の範囲)
イ 「本発明は,パチンコ機やアレパチ機等の弾発遊技機に関し,詳しくは
遊技盤上の釘の間隔を測定する装置に関する」(1頁左下欄下から第2段落)
ウ 「本発明-実施例の釘間隔測定装置は,第2図に示すように,指向性の
強い光を発するレーザー発振器1と,レーザー発振器1による光を遊技盤上の2本
の釘Kg1及びKg2に投光するための後に詳述する光学素子系2と,該光学素子
系2により投光された光を釘Kg1及びKg2の反対側で受光する光学素子系3
と,該受光された光を電気信号に変換するためのイメージセンサ4と,該イメージ
センサ4より出力されるアナログ信号としての電気信号をデジタル信号に変換する
デジタル変換回路5と,該デジタル化された信号から上記釘Kg1と釘Kg2との
離間距離を演算する釘間隔演算回路6と,から構成されている」(2頁左下欄下か
ら第2段落)
エ 「本実施例では,デジタル変換回路5と釘間隔演算回路6とは,第3図
に示すように,電子制御装置7として一体に構成されている。電子制御装置7は,
CPU7aを中心として,これとROM7b,RAM7c,A/Dコンバーター7
d及び外部入出力回路7eをパス7fにより相互に接続した論理演算回路として構
成されている。電子制御装置7の外部入出力回路7eにはデジタル表示装置8が接
続されている」(2頁左下欄末行~右下欄第1段落)
オ 「光学素子系2は,第4図及び第5図に示すように,レーザー発振器2
からの光をその断面が幅約2cmの一文字状の光とするビームスプリッタ2aと,
ビームスプリッタ2aからでる光を遊技盤上の釘Kg1及びKg2に直角に投光す
るための光通路2bとから構成されている。光学素子系3は,光学素子系2の光通
路2bと同様の構成であり,釘Kg1及びKg2に投光された後の光をイメージセ
ンサ4に導くための光通路3aから構成されている。これらの光通路2b及び3a
のうち光を直角に屈曲させる部分はガラスより構成されている」(2頁右下欄第2
段落~第3段落)
カ 「尚,本実施例では,レーザー発振器1及び光学素子系2が投光手段
(M1)に,光学素子系3及びイメージセンサ4が受光手段(M2)に,デジタル
変換回路5及び釘間隔演算回路6としての電子制御装置7が釘間隔測定手段(M
3)に,各々対応する」(3頁左上欄第1段落)
キ 「この『釘間隔測定ルーチン』は,電子制御装置7のCPU7aにより
実行される処理である。まず,イメージセンサ4からの出力が有るか否かが判定さ
れ(ステップS100),出力が有ると判断されるとA/Dコンバーター7dを介
してイメージセンサ4の出力するアナログ信号をデジタル信号に変換してRAM7
cに明度信号ligとしてセイブする(ステップS110)。・・・レーザー発振
器1から発される光は,第4図に示すように,ビームスプリッタ2aによりその断
面が横真一文字状の光とされ,光通路2bにより遊技盤上の2本の釘Kg1及びK
g2に直角に投光され,しかる後に光通路3aを介してイメージセンサ4に入力さ
れる。このとき光通路2bにより投光されるレーザー光たる光は,第5図に示すよ
うに,2本の釘Kg1及びKg2により遮られる。これにより明度信号ligの
内,2本の釘Kg1及びKg2に対応する部分は明度の低い信号llとなる。これ
は,レーザー光が,指向性の強い光であることから明度の差が特に激しくな
る。・・・明度信号ligを2値化信号とする処理を行う(ステップS130)。
これにより第7図のタイミングチャートに示す2値化信号Sgが得られる。次にこ
の2値化信号Sgから2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lを演算する処理が行わ
れる(ステップS140)。・・・2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lが演算さ
れると,この釘間隔lは外部入出力回路7eを介してデジタル表示装置8に出力さ
れ表示される(ステップS150)」(3頁左上欄第2段落~左下欄第2段落)
ク 「遊技盤上の2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lは,一律に,しかも
正確に1/100[mm]の単位以上に細かく容易に客観的に求めることができる
という効果を有する」(3頁左下欄最終段落)
ケ 「更に,釘調整を行った後の釘の間隔lを正確に知ることができるの
で,営業後の売上等と正確に比較してデータ分析を行うことができるという優れた
効果も奏する」(3頁右下欄第2段落)
(2) 上記各記載及び刊行物1の第1図~第5図によれば,刊行物1発明において
は,レーザー発振器2からの光を,ビームスプリッタ2aによりその断面が幅約2
cmの横真一文字状の光とし,この光を光学素子系2の光通路2bから光を直角に
屈曲させて遊技盤上の釘Kg1及びKg2に直角に投光し,両釘を通過した光を再
度直角に屈曲させて光学素子系3の光通路3aで受光してイメージセンサ4に導
き,イメージセンサ4より出力されるアナログ信号をデジタル変換回路5によりデ
ジタル信号に変換し,釘間隔演算回路6により該デジタル信号から釘Kg1と釘K
g2との離間距離を演算するものであり,釘間隔演算の具体的処理についても,電
子制御装置7のCPU7aにより実行される釘間隔測定ルーチン処理として開示さ
れている。
 以上によれば,刊行物1発明は,刊行物1において,当業者がその反復実
施をすることができる程度に具体的,客観的に開示されていると認められるから,
未完成発明であるということはできない。
(3) これに対し,原告らは,遊技機障害釘の間隔は基盤からの高さ方向の中間部
(5.5mmの高さ)の内法寸法において測定する必要があるところ,刊行物1発
明では,①根元が同じ位置に植設された遊技機障害釘の間隔は,両釘が光の進行方
向であって反対方向に傾いていても同じ距離として測定されてしまう,②測定器を
当てた高さ位置や測定器の方向によって遊技機障害釘の間隔が異なって測定され
る,③他の遊技機障害釘が障害になり,目的の遊技機障害釘の間隔が測定できな
い,④光発光部からの光が遊技機障害釘で反射して雑音になり正確な測定ができな
い,⑤光発光部の配置により遊技機障害釘の頭部による死角エリアができるなど,
遊技機障害釘の間隔の正確な測定を阻害する要因があると主張する。
 しかしながら,遊技機障害釘の間隔は,パチンコ玉の直径部分が通過でき
るか否かを決定するものであり,基盤から高さ方向の中間部(パチンコ玉の半径に
相当する5.5mmの高さ)において内法寸法を測定すべきであることは,当業者
にとって自明の事項であるから,刊行物1発明においても,光が通過するのは基盤
からの高さが5.5mmの位置であり,「釘Kg1及びKg2に直角に投光」する
とは,高さが5.5mmの断面において,両釘を結ぶ直線に対して直角に投光する
ことを意味していると解するのが相当である。そして,このように測定器を配置す
れば,遊技機障害釘の間隔を正確に測定できることは明らかであるから,上記①及
び②の主張は理由がない。また,上記③の主張についても,光通路2b及び光通路
3aは,断面が幅約2cmの横真一文字状のレーザー光を通過させることができる
ものであれば足り,厚みが極めて薄いものを使用することが可能であるから,ハカ
マ釘やカゴ釘等の密に接触した釘を除けば,他の命釘などの間隔を測定することに
支障があるとは考えられない。さらに,光が釘で反射して雑音になる,光発光部の
配置により死角エリアができるとの原告らの主張(上記④,⑤)は,いずれも,
「釘Kg1及びKg2に直角に投光」するという刊行物1発明の測定器の配置を前
提にすれば問題にならないと解されるから,採用の限りではない。
(4) また,原告らは,刊行物1には,多数の遊技機障害釘等の間に入れるコンパ
クトなゲージ部の具体的な形状,遊技機障害釘の植設態様や測定する者の熟練度の
違いによって生じる正しいディジタルデータを得るために必要な時間の差異への対
応等について具体的な技術的思想が開示されていないから,刊行物1発明は単なる
アイデアにすぎないなどとも主張する。
 しかしながら,原告らの上記主張は,光を利用した遊技機用釘間隔の測定
方法には,正確な測定を阻害する要因があるとの上記(3)記載の主張を前提とするも
のであるところ,刊行物1の記載及び当業者の技術常識に基づいて,光を利用した
遊技機用釘間隔の測定方法により,正確な遊技機障害釘の間隔を測定することは可
能であると認められるから,原告らの主張はその前提において誤りというべきであ
り,採用することができない。すなわち,例えば,刊行物1発明において,投光部
と受光部とを基盤から5.5mmの高さに位置させ,その高さにおいて二つの遊技
機障害釘を結ぶ直線に対して正対する方向になったことを検知する手段(機械的接
触手段,光,音,電波,電磁気的変量を使用した距離測定手段等,どのような手段
でも使用可能)を利用して,基盤からの高さが5.5mmの断面において,二つの
遊技機障害釘を結ぶ直線に対して直角に投光することができるようにゲージ部を配
置すればよいのであるから,ゲージ部の具体的な形状を特定する必要はないという
べきであるし,正しいディジタルデータを得るために必要な時間は,上記の検知す
る手段として何を選択したかに応じて適宜決定されるべきものであるから,これも
当業者の技術常識にゆだねれば足りる事項である。
 さらに,原告らは,現在においても,光を利用して遊技機障害釘の間隔を
測定する方法は存在しないとも主張するが,光を利用した遊技機用釘間隔の測定方
法が実施されているかどうかは,刊行物1発明が未完成発明か否かの問題とは関係
しないというべきであるから,原告らの上記主張は,それ自体失当である。
(5) 以上のとおり,刊行物1発明は未完成発明であるとは認められないから,原
告らの取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)について
(1) 審決は,本件訂正発明1と刊行物1発明との相違点(ⅰ)として,「障害釘
測定手段とその読取データが,本件訂正発明1にあっては,2個の釘接触ゲージ手
段にそれぞれ接続する2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータにより測定す
るものであるのに対して,引用刊行物1(注,刊行物1)にあっては,投光手段
(M1)と受光手段(M2)とによる障害釘測定手段で明度信号(lig)の光学
的読取データにより測定するものである点」(審決謄本12頁第4段落)を認定し
た上,相違点(ⅰ)について,「刊行物2乃至4及び周知の技術的事項を参酌する
ことにより当業者が容易になし得ること」(同13頁第2段落)であると判断し
た。これに対し,原告らは,刊行物3には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載
されているものの,遊技機用釘間隔の測定方法の技術分野にあっては,機械式手段
によるゲージ手段と非接触の光学式手段によるゲージ手段とはその構造及び測定原
理が全く異なり,刊行物1発明は,光学的手段により非接触の状態で釘間隔を客観
的かつ正確に測定することがその中心的思想であるから,その中心的技術思想であ
る光学式手段を放棄し,刊行物3発明の機械的手段に置き換える動機を見いだすこ
とはできないとして,審決の上記判断は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,本件訂正発明1,刊行物1発明,刊行物3発明は,いずれも
遊技機用釘間隔の測定方法に関する技術分野に属するものであるから,刊行物3発
明の技術的事項を,刊行物1発明に適用することに格別の困難性は認められないと
いうべきである。原告らは,機械式手段によるゲージ手段と非接触の光学式手段に
よるゲージ手段との相違を強調するが,間隔測定方法として,機械式手段や光学的
手段などの適宜の手段を用いることは,当業者が必要に応じて選択し得る設計的事
項というべきものであり,現に,本件明細書(甲1)においても,「例えば,上記
実施例においては,ゲージ間隔読取手段として,ロータリーエンコーダとパルスカ
ウンタを用いる例について説明したが,これは,距離を検出できる手段であれば,
いかなる形式のものであってもよく,電気的,磁気的,光学的,機械的等,種類を
問わない」(段落【0039】)と,杆体4Lと杆体4Rとの間隔を光学的,機械
的等いかなる形式のもので検出してもよいことが記載されている。
 また,原告らは,刊行物3発明はデータをディジタル的に処理しようとす
る発想がないアナログ方式であるから,ディジタル方式に係る刊行物1発明に直ち
には適用できない阻害要因があるとみなければならないとも主張する。しかしなが
ら,刊行物4(甲6)に,「従来より公知のパス腕形測定計器においては,リング
形状の目盛と協働する指針が設けられている。したがって,アナログ表示を行なう
ことができる」(3頁左下欄最終段落~右下欄第1段落),「パス腕形測定計器に
おいて,本発明に従い,測定機構軸に増分発生器を設け,該増分発生器により,軸
回転に比例する数の信号を発生し・・・センサの出力を信号処理装置に接続し,該
信号処理装置において信号列をディジタル表示装置のためのディジタル信号に変換
することにより解決される」(4頁左上欄第3段落)と記載されているように,ア
ナログ方式はディジタル方式に変更可能なものであるから,アナログ方式の測定方
法をディジタル方式の測定方法に適用することに阻害要因があるとはいえない。
 以上によれば,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができな
い。
(3) さらに,原告らは,審決は,本件訂正発明1を一般的な計測器の技術分野の
ものとして判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における出願時の技術レベ
ル及び特有の課題を解決した点を看過している旨主張する。
 しかしながら,刊行物1発明及び刊行物3発明は,いずれも本件訂正発明
1と同様の遊技機用釘間隔の測定方法に関する発明であるから,審決が,本件訂正
発明1を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しているということはでき
ず,原告らの上記主張は失当である。
(4) 以上によれば,原告らの取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)について
(1) 審決は,本件訂正発明1と刊行物1発明との相違点(ⅱ)として,「データ
演算出力手段が,本件訂正発明1にあっては,釘接触ゲージ手段を1対の遊技機障
害釘の間に挿入した際に,釘接触ゲージ手段が障害釘の内面に追随するまでの間デ
ータを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むものであり,データ
が,釘接触ゲージ手段が充分に追随した後のデータとして測定したら,測定値をデ
ータとして数値表示するとともに出力してコンピュータ等に釘間隔をディジタル値
で計測したディジタルデータを転送するものであるのに対して,引用刊行物1
(注,刊行物1)にあっては,データを取り込み,当該データを演算して数値表示
するものである点」(審決謄本12頁第5段落)を認定した上,相違点(ⅱ)のう
ち,「釘接触ゲージ手段を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に,釘接触ゲージ
手段が障害釘の内面に追随するまでの間データを取り込まないで,充分に追随した
後にデータを取り込む」との構成に係る部分について,「このような表示,読取誤
差に係わる構成として,充分に追随した後にデータを取り込むようになすこと
は・・・この構成は上記引用刊行物4乃至6(注,刊行物4~6)及び周知の技術
的事項を参酌することにより当業者が容易になし得ること」(同13頁下から第2
段落)であると判断している。これに対し,原告らは,①刊行物4~6に係る技術
は,本件訂正発明1とは全く異なる技術分野に属するものである,②刊行物4~6
に係る技術は,測定時間を一定時間又は所定時間遅延させるものであるが,本件訂
正発明1は,遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測定時間の差
異に対応するために,接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間デ
ータを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにしたものであ
るのに,審決は,遊技機障害釘の間隔測定における技術の特殊性を無視して,刊行
物4~6に係る技術と同一視したものであるとして,審決の上記判断は誤りである
旨主張する。
(2) そこで検討すると,本件明細書(甲1)において,データの取り込みについ
て記載されているのは,「上記基板内に遅延回路等を設け,接触ゲージ部2R,2
Lが釘の間に挿入された場合に一旦縮み,次いでバネ8の弾性復元力により接触ゲ
ージ部2R,2Lが釘の内面に追随するまでの期間(例えば,ゲージの接触から
0.5秒間など),データの取り込みを一時行わず,接触ゲージ部2R,2Lが釘
の内面に十分追随した後にデータを取り込むような構成としてもよい」(段落【0
018】)との記載のみである。上記記載によれば,「接触ゲージ部が遊技機障害
釘の内面に追随するまでの期間」とはバネ8の弾性復元力に関連する時間であり,
例えば,遅延回路等により,ゲージの接触から0.5秒間だけデータを取り込まな
いようにするものであると認められるから,本件訂正発明1における「釘接触ゲー
ジ手段が障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随
した後にデータを取り込む」との構成は,遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者
の熟練度による測定時間の差異に対応するものであるとの原告らの主張は,明細書
の記載に基づくものではない。
 また,刊行物5(甲7)には,「このゲートに入力されるラッチ信号は前
記測定開始パルス発生回路24で作られるものであるが,第4図ホに示す様に,測
定開始パルスから一定時間遅れて発生する。この時間はコンデンサCxの充電に要
する最大時間及び,カウンタ29の遅れ時間から設定されている」(6欄20行目
~25行目),刊行物6(甲8)には,「このタイマーTAの設定時間は,測定開
始から電極間で圧砕された試料穀物の電気抵抗値が測定時間の経過に従って十分安
定するまでの時間になるようにあらかじめ設定されている」(明細書11頁第1段
落)と記載されているように,測定方法においては,測定値が安定するまでの一定
時間データを取り込まないようにすることは周知の技術的事項であると認められ
る。原告ら主張に係る「遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測
定時間の差異に対応する」データを取り込まない時間とは,測定者が遊技機障害釘
の植設態様を観察し,自らの熟練度を考慮して,正確な測定値が得られると判断し
た一定の遅延時間を指すものと解されるから,原告らの主張を前提としたとして
も,本件訂正発明1における「釘接触ゲージ手段を1対の遊技機障害釘の間に挿入
した際に,釘接触ゲージ手段が障害釘の内面に追随するまでの間データを取り込ま
ないで,充分に追随した後にデータを取り込む」との構成と,上記周知の技術的事
項とは,当該技術が対象とする測定の具体的状況に対応して,正確な測定値を得る
べく一定の遅延時間を設定するという点において,技術的な差異は認められないと
いわざるを得ない。原告らは,本件訂正発明1と刊行物4~6に記載された技術と
は技術分野を異にする旨主張するが,本件訂正発明1は「遊技機用釘間隔の測定方
法」の発明であり,刊行物1発明も「釘間隔測定方法」の発明であるから,「測定
方法」における上記周知技術を適用することに困難性はないというべきである。
 そうすると,刊行物3発明を適用してゲージ手段を機械的手段とした刊行
物1発明に上記周知技術を適用すれば,「釘接触ゲージ手段を1対の遊技機障害釘
の間に挿入した際に,釘接触ゲージ部が障害釘の内面に追随するまでの期間データ
を取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込む」ものとなるから,審決
の相違点(ⅱ)に関する判断に誤りはない。
(3) また,審決は,相違点(ⅱ)のうち,「測定値をデータとして数値表示する
とともに出力してコンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデ
ータを転送する」との構成に係る部分について,「測定したデータをコンピュータ
等に転送することは上記引用刊行物2,4(注,刊行物2,4)に開示されてお
り,また引用刊行物1(注,刊行物1)においても電子制御装置(7)には外部入出力
回路(7e)を具備するものであって,この電子制御装置(7)はCPU構成であるから,こ
の外部入出力回路(7e)を介して『コンピュータ等に計測したディジタルデータを転
送する』ことができるように構成することは,当業者が容易になし得ること」(審
決謄本13頁下から第2段落)であると判断し,さらに,「本件訂正発明1が奏す
る作用効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別なものとは認められな
い」(同最終段落)と判断しているところ,原告らは,本件訂正発明1の「データ
演算出力手段」は,外部コンピュータ等に出力し,即座に測定データの整理,処理
を行うためのものであり,測定した多数の遊技機に関する釘間隔測定値を事後的に
遊技機管理システム上において整理,処理を行い,パチンコホール全体の経営状況
を管理することが可能となるという格別の効果を奏するものであるとして,審決の
上記判断は誤りである旨主張する。
(4) しかしながら,相違点(ⅱ)の上記部分に係る本件訂正発明1の構成は,
「測定値をデータとして数値表示するとともに出力してコンピュータ等に釘間隔を
ディジタル値で計測したディジタルデータを転送する」というものであって,「出
力」ないし「転送」後のデータの処理態様までをも要旨としているものではないか
ら,原告らの主張する本件訂正発明1の作用効果は,特許請求の範囲に記載された
構成に基づくものではない。
 また,刊行物1(甲3)には,「更に,釘調整を行った後の釘の間隔lを
正確に知ることができるので,営業後の売上等と正確に比較してデータ分析を行う
ことができるという優れた効果も奏する」(3頁右下欄第2段落)と記載されてお
り,刊行物1発明は,釘間隔と営業後の売上等とを正確に比較してデータ分析を行
うことができるという効果も奏するものと認められるところ,この効果は,原告ら
の主張する本件訂正発明1の作用効果と同じである。したがって,原告らの主張す
る本件訂正発明1の作用効果を前提としたとしても,「本件訂正発明1が奏する作
用効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別なものとは認められない」
とした審決の判断は正当であり,審決に原告ら主張の誤りはないというべきであ
る。
(5) 以上によれば,原告らの取消事由3の主張は理由がない。
4 以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判
決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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