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平成11年(行ケ)第184号 商標登録取消決定取消請求事件
     判    決
  原   告        株式会社エアーリンク
  代表者代表取締役     A
  訴訟代理人弁護士     吉  武  賢  次
       弁理士     B
  被   告        特許庁長官 C
  指定代理人        D
               E
      主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成10年異議第91484号事件について平成11年5月6日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、登録第4126798号商標(平成8年6月7日商標登録出願、平成1
0年3月20日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は「ダイレクト
ライン」の片仮名文字と「DIRECTLINE」の欧文字を上下に横書きして成り、第36
類「生命保険契約の締結の媒介、生命保険の引受け、損害保険契約の締結の代理、
損害保険に係る損害の査定、損害保険の引受け、保険料率の算出」を指定役務とす
る。
 平成10年7月15日本件商標について商標登録異議の申立てがあり、特許庁に
おいて平成10年異議第91484号事件として審理されたが、平成11年5月6
日、「登録第4126798号商標の登録を取り消す。」との決定があり、その謄
本は同月26日原告に送達された。
 2 決定の理由の要点
 (1) 平成11年1月11日付けで、原告に下記の取消理由を通知した。
 本件商標は、「ダイレクトライン」「DIRECTLINE」の文字を書して成るものであ
る。
 そして、登録異議申立人(ダイレクトラインインシュアランスパブリックリ
ミテッドカンパニー)の提出に係る証拠を総合勘案すれば、「ダイレクトライン」
及び「DIRECTLINE」の文字は、登録異議申立人の名称の略称として取引者、需要者
の間において広く認識されていたものと認められる。
 そうとすれば、本件商標は、登録異議申立人の名称の著名な略称より成るものと
認めざるを得ず、しかも、商標権者は、本件商標の登録を受けるについて、登録異
議申立人の承諾を得ているものとは認められない。
 したがって、本件商標は、商標法4条1項8号に違反して登録されたものと認め
る。
 (2) 原告の意見
 原告は、意見書を提出して概要次のように主張し、証拠方法として審判乙第1号
証ないし審判乙第9号証を提出した。
  (2)-1 商標法4条1項8号に規定する「著名な」の文字をいかに解すべきか
であるが、他人の承諾を得ないことにより、人格権の毀損が客観的に認められるほ
どの著名性、稀少性等を要求されると解すべきである。そして、この著名性の程度
にあっても登録出願時の需要者・取引者層、地域性、業種、経済環境等を考慮すべ
きものと解される。すなわち、本号が人格権保護の立場をとりつつも、商標法の目
的から逸脱しない範囲で規制が行われると解すべきものであり、当該略称の著名性
について上記した種々の事情を捨象して判断することは、法目的はもちろんのこ
と、本号の趣旨からも逸脱する。
  (2)-2 理由補充書11頁中段に「…異議登録異議申立人もまもなく我が国で
の営業活動を開始する予定である。」と記載されているように、登録異議申立人は
現時点においてさえも我が国での営業活動はしていないから、そもそも広告宣伝活
動は一切していないことは明らかであり、ましてやほぼ2年前の本件登録出願時に
おいては我が国において広告宣伝活動はしていないのは明白な事実である。外国保
険業者は、日本国内に支店等を設けて大蔵大臣の免許を受けなければ広告宣伝活動
を行い得ないことから支店や日本法人が存在していない以上、本件商標登録出願時
はおろか現在でも広告宣伝活動は一切していないことは明らかであり、よっ
て、「DIRECTLINE」「ダイレクトライン」が登録異議申立人の略称として著名性を
獲得していることはあり得ない。したがって、登録異議申立人の引用商標は、本件
商標の出願時において、本号に規定するところの登録異議申立人の名称の「著名な
略称」として需要者、取引者の間において広く認識されていたものとは到底認めら
れるものではない。
  (2)-3 「DIRECTLINE」「ダイレクトライン」が我が国において何も特異な
ネーミングではなく実際の商取引の場において普通に各種商品・役務に採択使用さ
れている具体例を審判乙第1号証ないし審判乙第6号証として提出する。これら事
実からも明らかなごとく、「DIRECTLINE」「ダイレクトライン」はそもそも広く採
択使用され得る可能性を持った商標といえるものである。
 (3) 決定の判断
 登録異議申立人が提出した審判甲第2号証、審判甲第21号証ないし審判甲第4
4号証を総合すると、登録異議申立人は、1985年(昭和60年)に設立された
英国の保険会社であり、保険の直接販売を成功させた会社として欧米では極めて著
名であると認められる。また、登録異議申立人は、「ダイレクトライン社」、「ダ
イレクト・ライン社」、「ダイレクト・ライン」、「ダイレクトライ
ン」、「DirectLine社」などの略称をもって、本件商標の登録出願前に、我が国に
おいてもしばしばその事業活動が業界新聞や業界誌上で紹介されていた事実が認め
られる。
 そうしてみると、少なくとも本件商標の指定役務に係る業務を行っている保険業
界においては、本件商標の登録出願の時に、登録異議申立人及びその前示略称は既
に著名となっていたものと判断できるから、本件商標を構成する「ダイレクトライ
ン」、「DIRECTLINE」の文字からは登録異議申立人が直ちに認識されるものであっ
て、本件商標は、登録異議申立人の著名な略称を表す商標といわざるを得ない。
 ところで、原告は、「DIRECTLINE」「ダイレクトライン」が我が国において何も
特異なネーミングではなく、普通に各種商品・役務に採択使用されており(審判乙
第1号証ないし審判乙第6号証)、これら事実からも、「DIRECTLINE」「ダイレク
トライン」は広く採択使用され得る可能性をもった商標といえる旨主張する。
 しかし、原告が、本件商標を採択した意図がどのようなものであったかにかかわ
りなく、少なくとも保険業界においては、前記認定のとおり本件商標からは登録異
議申立人が直ちに認識されるものであって、本件商標は、登録異議申立人の著名な
略称を表すものということができる。
 したがって、通知した前記取消理由は妥当なものであり、本件商標は、商標法4
条1項8号に違反して登録されたものであるから、その登録は、同法43条の3第
2項の規定に基づき、取り消すべきものである。
第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、登録異議申立人及びその前示略称は、本件商標の登録出願の時に著名と
なっていたと誤って認定し、本件商標が商標法4条1項8号に該当すると誤って判
断したものであるから、取り消されるべきである。
 1 決定は、欧米では極めて著名であると認定し、そして、我が国においてもし
ばしばその事業活動が業界新聞や業界誌上で紹介されている事実が認められるとし
て、その結果、我が国の保険業界においては、本件商標の登録出願の時に、登録異
議申立人及びその前示略称は著名となっていたものと判断できるという事実認定を
している。
 しかしながら、仮に欧米で著名であったとしても、「我が国においてもしばしば
その事業活動が業界新聞や業界誌上で紹介されている事実」をもって、我が国の保
険業界において本件商標の登録出願時に直ちに商標法4条1項8号に該当するほど
の著名性を獲得していたとは到底考えられない。
 2 登録異議申立人は、その名称及び略称を用いて本件登録出願時に、我が国に
おいて営業活動はもちろんのこと、全く広告宣伝活動をしていない。そもそも、保
険業法上、外国保険業者は、日本国内に支店等を設けて大蔵大臣の免許を受けなけ
れば広告宣伝活動を行うことはできないことからすると、少なくとも本件商標の登
録出願時に登録異議申立人の支店や日本法人が存在していない以上、その広告宣伝
活動は一切ないことは明らかである。
 3 株式会社保険研究所発行「Insurance平成10年版」の平成9年度「生命保
険統計号」(甲第4号証)によれば、我が国における生命保険会社は、国内会社が
40社、外国会社が3社、計43社あり、これらに従事する従業員数は約133万
人、これらの個人代理店は約171万店(法人代理店は678店)、集金人は約5
000人存する。
 「Insurance平成10年版」の平成9年度「損害保険統計号」(甲第5号証)に
よれば、国内会社は33社あり、約10万人が従事している。
 したがって、生保、損保の各会社の全従業員数は、約143万人であり、生保の
個人代理店及び集金人を合わせると、保険業界には約316万人もの多くの人が携
わっており、本件商標の登録出願時にいまだ活動していない登録異議申立人の名称
又は略称をどの程度の者が知っていたかはなはだ疑問である。仮に、大手生保、損
保会社の一部の者が知っているからといって、著名性が確立されているとはいえな
い。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 登録異議申立人が欧米で著名な保険会社であったからこそ、その事業活動が我が
国の業界新聞や業界誌上で紹介され、我が国の保険業界で関心を持たれていたと考
えられる。登録異議申立人が我が国においていまだ活動していない保険会社なの
に、我が国の業界新聞や業界誌上で紹介されたのは、むしろ、登録異議申立人の著
名性を示している。
 業界新聞や業界誌は、その業界の多数の者が目を通しているとみてよく、そこに
特定の者の略称として普通に使用される表記は、その業界の多数の者に、その特定
の者を指すものとして認識されるから、その特定の者の著名な略称というべきであ
る。
第5 当裁判所の判断
 1 甲第2号証、第21号証ないし第44号証によれば、決定が認定したよう
に、登録異議申立人(ダイレクトラインインシュアランスパブリックリミテッ
ドカンパニー)は、1985年(昭和60年)に設立された英国の保険会社であ
り、保険の直接販売を成功させた会社として欧米では極めて著名であると認められ
る。また、登録異議申立人は、「ダイレクトライン社」、「ダイレクト・ライン
社」、「ダイレクト・ライン」、「ダイレクトライン」、「DirectLine社」などの
略称をもって、本件商標の登録出願前に、我が国においてもしばしばその事業活動
が業界新聞や業界誌上で紹介されていた事実を認めることができ、その認定に誤り
はない。
 2 特に、甲第2及び第6号証によれば、F著「ダイレクト・インシュアランス
 直販保険会社(増補改訂版)」(1997年12月保険毎日新聞社発行)に、ダ
イレクト・ライン・インシュアランスは、1985年英国ロンドンの郊外に、バン
ク・オブ・スコットランドの子会社として設立されたこと(15頁)、直販専門会
社ダイレクト・ラインの英国保険業界、中でも自動車保険マーケットに与えた影響
は大きなものがあったこと、自家用自動車保険の分野で、ダイレクト・ラインは1
995年には、それまでトップ・シェアを誇っていたノーウィッチ・ユニオンを抜
きリーディング・カンパニーの地位を占めるに至ったこと(25~26頁)の記載
があり、28頁の「資料2.3.1英国の直販損害保険会社(1)(年間収入保険料20億
円以上のもの)1996年」の順位1位として、「DirectLineInsurance」が挙げられ
ていることが認められる。
 同書の初版は1996年(平成8年)7月発行なので、本件商標の登録出願より
も約1か月後のものであり、また、同書のまえがきには「筆者は直販保険会社に関
する可能なかぎりの情報をロイター通信社のパソコン・ネットワーク・システムな
どを利用してあつめ、それをつなぎ合わせるという手法によって実態の解明を試み
た。残念ながら入手できる情報には限界があった」と記載されていることが認めら
れる。しかしながら、甲第21号証によれば、本件商標の登録出願前である平成8
年4月26日に発行されたG著「21世紀の保険システム」(保険毎日新聞社)4
1頁以下にも、「2.6.ダイレクトライン社」という独立の1項目が設けられ、同社
に関する説明が詳細に紹介されており、その中で「この会社は保険の直接販売を成
功させた会社として欧米では極めて著名であるが、その成功の度合いも設立後わず
か10年弱で総合自動車保険の分野で業界1位の引き受けを行っているのだから、
その衝撃は並の物ではない。」と説明されていることが認められ、本件商標の登録
出願日より前に発行された甲第34ないし第44号証の保険毎日新聞及び海外保険
情報における「ダイレクト・ライン社」の紹介記事、その他甲第23ないし第33
号証の新聞記事データベースからの検索結果に表れる日経金融新聞(甲第31号証
は日本経済新聞)の記事(本件商標の登録出願日より前のもの)における「ダイレ
クト・ライン・グループ」あるいは「ダイレクト・ライン」などの紹介によれば、
本件商標の登録出願日より前に、「ダイレクト・ライン社」は、英国の直販保険会
社として我が国にも繰り返し業界紙において報道されてきたことが認められるので
あり、F著の前記書物が本件商標登録出願よりも1か月後に刊行されたものである
ことをもってしても、決定の前記認定に誤りがあるとすることはできない。また、
同書のまえがきの記載も、「ダイレクト・ライン社」の実態に関する詳細かつ正確
な情報収集に限界があったことを述べているにとどまり、我が国において登録異議
申立人(ダイレクトラインインシュアランスパブリックリミテッドカンパニ
ー)が、「ダイレクト・ライン社」、「ダイレクトライン」などの略称の下に紹介
されてきたとの前記決定の認定を左右するものではない。
 3 なお、「ダイレクト・ライン社」を紹介する前記日経金融新聞及び保険毎日
新聞は業界紙であるが、甲第46号証によれば、1997年において、日経金融新
聞の発行部数は5万1000部、保険毎日新聞の発行部数は甲第34ないし第41
号証の損保版で3万部であることが認められ、甲第4号証(「Insurance平成10
年版」の平成9年度「損害保険統計号」)によれば、損害保険の国内会社が平成9
年度において33社あり、従業員総数は約10万人であることが認められるのであ
り、この数値と対比すれば、上記業界紙は相当数の発行部数であることが明らかで
あり、保険業界、とりわけ損害保険業界関係者の相当割合の者が「ダイレクト・ラ
イン社」の名を、本件商標登録出願時において知っていたものと推認することがで
きる。
 4 原告は、少なくとも本件商標の登録出願時に登録異議申立人の支店や日本法
人が存在していない以上、その広告宣伝活動の一切ないことは明らかである旨主張
し、弁論の全趣旨によればこの原告主張事実は認め得るものであるが、このことを
もってしても、上記認定事実を左右するものではない。
 5 したがって、上記1摘示の決定認定事実によれば、「少なくとも本件商標の
指定役務に係る業務を行っている保険業界においては、本件商標の登録出願の時
に、登録異議申立人及びその前示略称は既に著名となっていたものと判断できるか
ら、本件商標を構成する「ダイレクトライン」、「DIRECTLINE」の文字からは登録
異議申立人が直ちに認識されるものであって、本件商標は、登録異議申立人の著名
な略称を表す商標といわざるを得ない。」とし、「本件商標は、商標法4条1項8
号に違反して登録されたもの」であるとした決定の判断に誤りがあるということは
できず、原告主張の決定取消事由は理由がない。
第6 結論
 以上のとおりであり、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成11年12月9日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   市   川   正   巳

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