弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原決定を破棄し,原々決定に対する相手方の抗告を棄却
       する。
       抗告手続の総費用は相手方の負担とする。
         理    由
 抗告代理人齊木敏文ほかの抗告理由について
 1 A保険株式会社は,相手方を被告として,相手方及びその共犯者らが共謀し
て故意に交通事故を作出し,同社から保険金名下に208万円を詐取したと主張し
て,保険金詐欺の不法行為に基づき上記保険金相当額の損害賠償を求める訴訟(静
岡地方裁判所平成14年(ワ)第739号損害賠償請求事件。以下「本件本案訴訟」
という。)を提起した。本件は,本件本案訴訟において,相手方が,抗告人が保管
する上記保険金詐欺等に係る被疑事件(以下「本件被疑事件」という。)で共犯者
とされた者(以下「本件共犯者ら」という。)の検察官又は司法警察員に対する各
供述調書のうち,相手方を被告人とする詐欺等被告事件の公判(以下「本件刑事公
判」という。)に提出されなかったもの(原々決定別紙(2)「審尋書に対する回答」
2枚目記載の各文書。ただし,番号3,16,28及び43の文書を除く。以下「
本件各文書」という。)につき,民訴法220条2号又は3号に基づき,文書提出
命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事件である。
 相手方は,本件刑事公判において,本件共犯者らとの上記共謀の事実を否認して
詐欺罪の成立を争ったが,1審において有罪判決を受け,これを不服として控訴を
し,更に上告をしたが,いずれも棄却され,上記有罪判決が確定した。相手方は,
本件本案訴訟においても,本件刑事公判におけるのと同様に,上記共謀の事実を否
認し,不法行為の成立を争っている。
 2 原々審は,本件各文書が,民訴法220条3号所定の「挙証者と文書の所持
者との間の法律関係について作成されたとき」(以下,便宜同号のこの部分を「民
訴法220条3号後段」といい,これに該当する文書を「法律関係文書」という。)
に該当するが,刑訴法47条により,抗告人はその提出義務を負わない旨判示して
,本件申立てを却下したが,原審は,次のとおり判示して,原々決定を取り消し,
本件申立てを認容した。
 (1) 相手方は,本件共犯者らと共に本件被疑事件の被疑者となり,本件各文書
は,その捜査の過程において作成されたものであり,その後,相手方は,起訴され
て刑事被告人となったことからすると,本件各文書は,捜査機関と相手方との間に
形成された本件被疑事件に関する法律関係に関連のある事実が記載されているもの
であって,その法律関係を明らかにする目的で作成されたものとみるべきであるか
ら,法律関係文書に該当する。
 (2) 本件各文書は,本件刑事公判には提出されなかったものであるから,法律
関係文書に該当するとしても,その提出に当たっては,刑訴法47条による制約を
受ける。同条所定の「訴訟に関する書類」を公にするか否かの判断は,その保管者
の合理的裁量にゆだねられていると解されるから,保管者が当該「訴訟に関する書
類」を公にすることを不相当と認めて提出を拒否した場合には,裁判所は,保管者
による当該「訴訟に関する書類」の提出の拒否が,その裁量権の範囲を逸脱し,又
はこれを濫用していると認められる場合に限って,民訴法220条3号後段の規定
に基づき,その提出を命ずることができると解すべきである。
 (3) 本件本案訴訟において,相手方が本件各文書を証拠として提出する必要性
がないとはいえないこと,相手方の有罪判決は既に確定しており,本件共犯者らに
ついても同様であるから,本件各文書の提出に関しては,捜査の密行性の保持や,
刑事裁判への不当な圧力の防止などの点を考慮する必要はないこと,本件各文書が
共犯関係にあるとされた相手方に開示されたからといって,本件共犯者らの名誉や
プライバシーが侵害されるおそれがあるともいえないことなどからすると,抗告人
が本件各文書の提出を拒否することは,上記の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを
濫用するものというべきである。
 したがって,抗告人は,民訴法220条3号後段の規定に基づき,本件各文書を
提出すべき義務がある。
 3 しかしながら,原審の上記(3)の判断は是認することができない。その理由
は,次のとおりである。
 (1) 刑訴法47条は,その本文において,「訴訟に関する書類は,公判の開廷
前には,これを公にしてはならない」と定め,そのただし書において,「公益上の
必要その他の事由があって,相当と認められる場合は,この限りでない」と定めて
いる。同条所定の「訴訟に関する書類」には,本件各文書のように,捜査段階で作
成された供述調書で公判に提出されなかったものも含まれると解すべきである。
 同条本文が「訴訟に関する書類」を公にすることを原則として禁止しているのは
,それが公にされることにより,被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシー
が侵害されたり,公序良俗が害されることになったり,又は捜査,刑事裁判が不当
な影響を受けたりするなどの弊害が発生するのを防止することを目的とするもので
あること,同条ただし書が,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められ
る場合における例外的な開示を認めていることにかんがみると,同条ただし書の規
定による「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否か
の判断は,当該「訴訟に関する書類」を公にする目的,必要性の有無,程度,公に
することによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害等の上記の
弊害発生のおそれの有無等諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,
当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量にゆだねられているものと
解すべきである。
 そして,【要旨1】民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づ
き,刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合
においても,当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該
文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが
,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示さ
れることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量
権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該
文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である。
 (2) 上記の見地に立って本件をみると,本件申立ては,既に有罪判決が確定し
ている相手方が,本件本案訴訟において,本件刑事公判において採用されなかった
主張と同様の主張をして,その主張事実を立証するために本件刑事公判に提出され
なかった本件共犯者らの捜査段階における供述調書(本件各文書)の提出を求める
というものであるが,相手方が,その主張事実を立証するためには,本件各文書が
提出されなくても,本件共犯者らの証人尋問の申出や,本件刑事公判において提出
された証拠等を書証として提出すること等が可能であって,本件本案訴訟において
本件各文書を証拠として取り調べることが,相手方の主張事実の立証に必要不可欠
なものとはいえないというべきである(なお,記録によれば,相手方は,現在提出
されている証拠だけでも十分に自己の主張を立証することができると考えている旨
,及び本件申立ての主たる目的は,上記の確定した有罪判決に対して自己が申し立
てている再審請求の裁判に有利に働くようにするためである旨の書面を原々審に提
出していることが明らかである。)。また,本件各文書が開示されることによって
,本件共犯者らや第三者の名誉,プライバシーが侵害されるおそれがないとはいえ
ない。
 【要旨2】そうすると,本件においては,相手方及び本件共犯者らの有罪判決が
既に確定していることを考慮に入れても,本件各文書を開示することが相当でない
として本件各文書の提出を拒否した抗告人の判断が,その裁量権の範囲を逸脱し,
又はこれを濫用したものであるということはできない。
 以上によれば,本件各文書が法律関係文書に該当するか否かについて判断するま
でもなく,民訴法220条3号後段の規定に基づく本件申立ては,その理由がない
ことは明らかである。
 また,上記の事実関係によれば,本件各文書が,民訴法220条2号及び3号前
段(民訴法220条3号後段以外の同号の部分をいう。)に該当するものでないこ
とは明らかである。
 4 以上によれば,抗告人に対して本件各文書の提出を命じた原審の判断には,
裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。上記と同旨をいう論旨は理
由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。
そして,前記説示によれば,相手方の本件申立てを却下した原々決定は,相当であ
るから,これに対する相手方の抗告を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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