弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決を破棄する。
       本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人片山主水,同中山敬規の上告理由第一について
 1 本件は,F金属株式会社(以下「F金属」という。)の株主である上告人A
1,同A2及び同A3(以下「上告人A1外2名」という。)が,同社の代表取締
役であった亡G(以下「G」という。)及びその子である被上告人において株主総
会の決議を経ることなく役員報酬等を支払ったことにより被上告人はGから相続し
たものを含め同社に対する損害賠償義務を負ったなどと主張して,商法267条に
基づき,被上告人に対し,上記役員報酬等相当額の損害賠償を同社に支払うことを
求めた株主代表訴訟であるが,原審において上告人A4(以下「上告人A4」とい
う。)が,同社の株主であるとして,上告人A1外2名と同様の請求原因事実を主
張した上,旧民訴法75条に基づき,参加の申出(商法268条2項)をした事案
である。
 2 原審の確定した事実関係及び記録によって認められる訴訟の経過等は,次の
とおりである。
 (1) F金属は,昭和23年2月,Gらにより鉄鋼取引等を目的として設立さ
れた会社である。F金属の代表取締役は,設立以来Gであったが,同人は平成5年
11月16日に死亡した。被上告人は,Gの子である。
 (2) Gは,F金属の代表取締役に在任中の昭和60年3月期から平成6年3
月期にかけて,同人及び他の取締役に対し,役員報酬及び役員賞与として合計1億
5350万円(以下「本件役員報酬等」という。)を支払った。また,被上告人は
,F金属の代表取締役として,Gの相続人らに対し,同年6月ころ,Gが代表取締
役を退任したことに伴う退職慰労金6000万円(以下「本件退職慰労金」という。)
を支払った。
 なお,F金属の定款には,役員報酬,役員賞与及び退職慰労金についての定めは
ない。また,F金属においては,設立以来株主総会や取締役会が開催されたことは
ほとんどなかった。
 (3) 上告人A1外2名は,本件役員報酬等及び本件退職慰労金の各支払につ
いてF金属の株主総会決議がされていないことを主張して本訴を提起したところ,
被上告人は,自らが同社の代表取締役,H(以下「H」という。)及びI(以下「
I」という。)が同社の取締役であるとして,平成7年4月29日に同社の取締役
会を招集し,この取締役会は,次の定時株主総会において,本件役員報酬等及び本
件退職慰労金の各支払の件を議題とすること,同総会を同年5月27日に開催する
ことをそれぞれ決議した。同総会は,同日,発行済株式総数20万株の過半数を超
える15万2300株を保有する株主が出席して開催され(以下,この株主総会の
ことを「本件株主総会」という。),同総会において,本件役員報酬等及び本件退
職慰労金の各支払を承認する旨の決議がされた。
 (4) 第1審において,本件株主総会が招集された時点で,被上告人がF金属
の代表取締役に,H及びIが同社の取締役に適法に選任されていたか否かについて
,被上告人は,平成6年5月20日同社の株主総会で被上告人,H及びIが取締役
に,同日同社の取締役会で被上告人が代表取締役にそれぞれ選任されたと主張した。
これに対し,上告人A1外2名は,上記主張事実を認める旨の答弁をしたことから
,第1審は,この事実は争いがないものとし(以下,この自白を「本件自白」とい
う。),本件自白に係る事実を前提として,本件株主総会が適法に成立し,上記各
支払が承認されたものと判断して,これらを理由に上告人A1外2名の請求を棄却
した。
 (5) ところが,上告人A1外2名は,上記判決に対して控訴し,原審におい
て,本件自白を撤回して本件株主総会は不適法である旨を主張した。
 (6) 一方,上告人A4は,原審の第1回口頭弁論期日(平成9年7月7日)
の後である同年8月4日,共同訴訟人として旧民訴法75条に基づき本件訴訟に参
加すること(商法268条2項。以下「本件参加」という。)を申し出た。
 (7) 原審は,平成9年8月18日に第2回口頭弁論期日を,同年9月24日
に第3回口頭弁論期日をそれぞれ開いた上,口頭弁論を終結した。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判示し,上告人A1外2
名の請求を棄却し,上告人A4の本件参加の申出を却下すべきものとした。
 (1) 上告人A1外2名は,本件自白をするについて錯誤があったとは認めら
れないから,その撤回は許されない。そして,上記のとおり本件株主総会において
本件役員報酬等及び本件退職慰労金の各支払を承認する旨の決議がされたから,こ
れらの支払に違法はない。
 (2) 上告人A4は,平成9年8月4日になって本件参加の申出をしたが,本
件訴訟は,同月18日の第2回口頭弁論期日において,口頭弁論を終結することが
可能な状態にあった。そして,上告人A4の本件参加の申出を許した場合,本件訴
訟の目的が上告人A1外2名と上告人A4につき合一に確定すべき場合に当たるた
め,上告人A1外2名のした本件自白は上告人A4が同様の自白をしない限り効力
を生じないことになり,被上告人において本件株主総会等が適法に開催されたこと
を立証しなければならないことなどから,今後関係者の証人尋問の実施など相当期
間にわたる審理が必要となる。そうすると,上告人A4の本件参加の申出は,本件
訴訟を不当に遅延させることが明らかであり,商法268条2項ただし書により許
されないものであって,不適法である。
 4 しかしながら,原審の上記判断3(2)は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
 上告人A1外2名が第1審においてした本件自白に係る事実を前提として同上告
人らの請求が棄却されたことから,原審において上告人A4が本件参加の申出をし
たという経緯にかんがみると,同上告人は,上告人A1外2名の不適切な訴訟追行
を是正するために本件参加の申出をしたものと解されるのであって,その申出が原
審の第1回口頭弁論期日の後にされたとしても遅きに失したとまでいうことはでき
ない。また,上告人A4の本件参加の申出を許した場合,上告人A1外2名のした
本件自白が効力を生じないことになるとしても,記録に表われた当事者の主張及び
証拠関係からすると,原審が指摘するような相当期間にわたる審理が必要となると
も解されない。さらに,記録によって認められる本件訴訟の経緯にかんがみると,
上告人A1外2名がした本件自白は不適切な訴訟行為であったと解されるところで
あり,上告人A4の本件参加の申出が認められない場合には上告人A1外2名以外
のF金属の株主は看過し得ない不利益を被ることになる(記録によれば,同社には
上告人A1外2名以外にも株主が存在することがうかがわれる。)。【要旨】そう
すると,上記3(2)の事情をもって上告人A4の本件参加の申出を商法268条
2項ただし書により許されないものであり,不適法であるとした原審の判断は,同
項ただし書の解釈適用を誤ったものというべきであり,その違法は原判決の結論に
影響を及ぼすことが明らかである。
 5 以上によれば,論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,その余の論
旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
 そして,本件参加の申出は上告人A4がF金属の株主であることなどの参加の要
件を満たしているか,これが肯定される場合には同上告人を本件訴訟に参加させた
上で,改めて当事者双方の主張のいずれに理由があるかについてさらに審理させる
ため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

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