弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人奥山八郎、同安田重雄、同手塚義雄の上告理由第一点ないし第四点に
ついて。
 自作農創設特別措置法が、農地買収の手続において、買収の期日を買収計画中に
掲ぐべきものと定めたのは、買収による権利関係の変動がこの時期を基準として惹
起されることを関係人に予告し、これに不測の不利益を及ぼすことを防止しようと
する趣旨に出でたものであることは疑ないが、買収の期日はもともと予定にすぎな
いものであるから、買収計画の樹立庁において、買収手続の進行状況その他事務の
都合から一たん定めた買収の期日を変更することも許されないではない。しかも、
買収の期日の変更によつて、特定人の所有する特定の農地について買収を行なうと
いう買収計画の基本にはなんら変動をきたすものではないから、そのために従前の
買収計画がその同一性を失うものとは認めがたく、またこれを新たな買収計画の樹
立として取り扱わなければ、関係人の利益の保護に欠けるところがあるとも考えら
れない。
 論旨は、買収計画の同一性を維持しながらその買収の期日のみを変更する処分は
許されないものとして、本件上告人らの先代Dの所有地の買収計画における買収の
期日のみの変更を無効といい、また従つて買収の期日の変更には従前の買収計画の
取消と新買収計画の樹立の手続を要するものとして、上告人らの先代に対して買収
の期日変更の通知がなされただけでは従前の買収計画を取り消すに足りないから、
重ねて同一の土地について定められた新買収計画は無効といい、かかる無効な買収
の期日あるいは買収計画をもつてした本件買収処分は違法として取り消さるべきも
のと主張するが、買収計画における買収の期日のみの変更もまた可能なことは前叙
のとおりであり、その変更には変更部分について法定の公告縦覧の手続をとれば足
りると解すべきであるから、論旨はいずれも肯認しがたい。ことに本件においては、
原判決はその変更の手続として、それが昭和二五年一〇月三〇日に決せられ、同年
一一月六日公告され、同日より一〇日間にわたり縦覧の手続がとられ、かつ公告縦
覧は買収の期日の変更の点にとどまらず変更のなかつた事項をも含めて買収計画全
体についてなされた事実の存在を認定しているのであるから、仮に所論のように買
収の期日のみの変更は許されず、そのためには従前の買収計画の取消と新買収計画
の樹立の手続によるべきものと解するとしても、その所要の手続は履践されている
ものということができる。それは、右の事実は新たに買収計画を樹立する手続とし
ても欠けるところはないうえ、同時にこれと相容れない従前の買収期日による買収
計画の取消を意味するものとみることができるからである。論旨は、前叙の原判決
の事実認定につき経験則違背のある旨を主張するが、原判決挙示の各証拠によれば、
そのような認定は可能であつて、所論の非難はあたらない。
 なお論旨は、上告人ら先代が昭和二五年一二月二八日県農地委員会に提起した訴
願に対する裁決は、買収の期日の変更の適否のみを判断し、買収の期日を改めた新
買収計画の全体についての適否の判断に及ばず、それは、裁決に全く理由を付さな
い場合ないし買収計画不服の訴願の裁決のないまま買収処分をした場合と同様、本
件買収処分を違法ならしめるものというが、それが、買収の期日の変更は買収計画
の同一性を失わせることを前提とする点においてすでに首肯しがたいのみならず、
所論のごとく訴願の裁決に判断の不備が存するとしても、このことから裁決に全く
理由を付さない場合あるいは裁決のなかつた場台と同視しがたいことは、原判示の
とおりである。すでに買収計画不服の訴願について裁決があり、裁決庁において不
服に対する処置を了したものとしている以上、たとえその裁決の内容に判断の過誤
ないし不備があるにしても、これを理由として、ついで法定の手続を経てなされた
買収令書の交付による買収処分について、手続上の瑕疵のあるものと主張すること
は失当といわなければならない。これを要するに、論旨はいずれも採用するに値し
ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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