弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
(申立)
原告代理人は「昭和五四年四月二二日執行の栃木県那須郡南那須町議会議員一般選
挙(以下本件選挙という。)の当選の効力に関する参加人の審査申立に対し、被告
が同年八月三日にした裁決(以下本件裁決という。)はこれを取消す。訴訟費用は
被告の負担とする。」との判決を求め、
被告代理人、参加人代理人は、いずれも主文同旨の判決を求めた。
(主張)
原告は、請求原因として次のとおり述べた。
一 原告は、本件選挙に立候補し、当選人として告示されたものである。
本件選挙において選挙会は、候補者・原告及び同・参加人の得票数を各二四三票で
あると判定し、公職選挙法(以下単に法という。)九五条二項に基づき選挙長がく
じにより原告を最下位当選人、参加人を落選人と決定した。
二 参加人は、原告の右当選の効力に関し、南那須町選挙管理委員会(以下町選管
という。)に異議の申立をしたが、町選管は昭和五四年五月二八日右異議申立を棄
却する旨の決定をした。参加人は、右決定に対し、さらに、被告に審査の申立をし
たところ、被告は同年八月三日町選管の右決定を取消し、本件選挙における原告の
当選を無効とする旨の本件裁決をし、同裁決書は同月四日原告に交付された。
三 本件裁決の理由の要旨は、次のとおりである。
被告の審理の結果、(イ)選挙会が無効とした投票中に、「A」と記載された投票
一票(以下A票という。)が存在し、右投票は、参加人の氏名を誤記し、または、
その氏名の一部を遺脱したものと認められ、参加人の有効票とする。(ロ)選挙会
が原告の有効票とした投票中に、別記第2ないし第7号のとおり記載された投票各
一票(以下別記六票という。)が存在し、これらはいずれも他事を記載したもので
無効である。
よつて、参加人の得票数は二四四票で、原告の得票数は二三七票を上廻ることとな
るから、前記異議申立を棄却した町選管の決定を取消し、本件選挙における当選人
の原告の当選を無効とすべきである。9
四 しかし
1 A票は、次の理由により無効である。
(一) 候補者の何人を記載したか確認し難いものである。
(1) 参加人の名・BとAとでは、文字相互間において、字形・音感を顕著に異
にし、観念上の連関なく、記憶の混同を生じ難い。
(2) 本件選挙の行われた<地名略>は農村であつて、町内では名を中心に呼び
あつている実情にあり、すくなくとも、名は氏と同等に重視すべきところ、右投票
は、力強く明確に「A」と記載している。
(3) 投票記載場所には、候補者氏名一覧表が掲示され、氏名の誤記が生ずる余
地は極めてすくない。
(二) 候補者でない者、すなわち、参加人の実弟・Cの氏名を記載したものであ
る。
(1) <地名略>内にCが実在し、右投票の記載は同人の氏名に極めて近似する
し、かつ「夫」を「男」とは記憶の混同が生じ易い。
(2) Cは、同町に本店を有し、電気・給排水・冷暖房工事を手広く請負う塩那
電設株式会社の代表取締役であつて、人口約一万一八〇〇人の同町内一般に広く名
を知られている。
(3) Cは、本件選挙前の昭和五〇年四月施行の同町議会議員一般選挙当時、青
年層にこれを候補者として推す動きがあり、本件選挙でも原告の選挙運動に積極的
に参画した。
2 別記六票の「●」「●」等の記載はいずれも無意識ないし不用意になされたも
ので、有意の他事記載でないから、右各投票はいずれも原告に対する有効票と認め
るべきである。
3 原告以外の当選人の有効票とされた投票中にも、他事記載の無効票がある。
五 よつて、本件裁決は違法であるから、その取消を求める。被告は、答弁等とし
て次のとおり述べた。
一 請求原因一ないし三の事実は認める。
同四、五は争う。
二 本件裁決は正当である。
A票については、被告の行なつた<地名略>の選挙人二一九名(全選挙人の二・六
%に当たる二二四人を無作為抽出したうち五人は調査不能)に対する面接調査の結
果によつても、Cはさほど同町民間で知られていないと認められるので、選挙人が
参加人に投票する意思で、その氏名を誤記したものとして有効票と認めるのが法六
七条の趣旨に副う。
参加人は、次のとおり述べた。
一 請求原因一ないし三の事実は認める。
二 同四1、2のうち、投票記載場所に候補者氏名一覧表が掲示されていたこと及
び参加人の実弟・Cが実在し、同人が原告主張の会社の代表取締役であることは認
めるが、その余の事実は否認する。
<地名略>では、ごく親しい間柄を除き、通常姓ないしその省略形で呼ばれ、参加
人は「D」あるいは「E」と呼ばれることが多い。
参加人は、本件選挙当時、現職の同町議会議員で、かねてから立候補を表明してい
たものであり、また同町及び町内各種団体の役員等を歴任している。前記会社は、
もと参加人とその弟Fの営む「塩那電気」であり、Cは昭和四五年頃はじめて同会
社の経営に加わつたに過ぎない。したがつて、同町における参加人の知名度はCに
比しはるかに高い。
三 請求原因五は争う。
(証拠)(省略)
○ 理由
一 請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 本件選挙における投票中に、別記六票が存在し、これらはいずれも選挙会及び
町選管において原告の有効票とされ、本件裁決において無効票とされたものである
こと前記のとおりであるところ、検証の結果によれば、別記六票の氏名(氏のみの
場合を含む。以下同じ。)以外の記載、すなわち「●」「●」「/」の記載は、そ
の位置、形状、筆勢等に照らし、選挙人が候補者の氏名を記載するに際し無意識な
いし不用意に記載したものではなく、意識的に記された符号ないし目印とみられる
こと、なお、選挙会、町選管及び被告において原告の有効票とされたその余の投票
については、その記載において他事記載その他無効と認めるべきものが存しないこ
とが認められ、右事実によると別記六票はいずれも法六八条五号本文により無効と
いうべきである。
検証の結果及び弁論の全趣旨によると、選挙会において原告以外の候補者への有効
投票あるいは無効票とされた投票の中に原告への有効投票とみるべきものが存しな
いことが認められる。
してみると、原告の得票数は、選挙会判定にかかる二四三票から六票を減じた二三
七票であるといわなければならない。
三 選挙会・町選管において参加人の有効票と判定された投票は二四三票であるこ
と前記のとおりであるところ、検証の結果によれば、そのうち、二票(検証調書添
付写真(ト)、(タ))の氏名以外の記載はその位置、形状、筆勢等に照らし意識
的に記された符号ないし目印であると認められ、右二票は法六八条五号本文の他事
記載あるものとして無効投票というべきである。
しかし、検証の結果及び弁論の全趣旨によれば、選挙会・町選管において参加人票
とされた二四三票のうち前記二票を除いては、無効あるいは他候補者への投票と目
すべき投票は存しないことが認められる(原告が検証に際し、無効票と指摘した一
六票のうち、前記二票を除くと、検証調書添付写真(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の投
票の氏名以外の記載は無意識になされた句読点あるいはこれに類似するものであ
り、同(ホ)(ヲ)の投票の記載は、参加人の氏名を記載する意思のもとになされ
たものとみられ、その余の八票(同(ヘ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ワ)(カ)
(ヨ))の記載は、書き損じ部分の抹消を伴い、あるいは書き損じの後改めて正し
く書き直したものとみられ、いずれも、参加人への有効投票であつて、他事記載を
伴うものではないということかできる。)。
してみると、参加人への有効投票は、選挙会において無効とされたA票の効力につ
いてはさておき、選挙会判定にかかる二四三票から二票を減じた二四一票を下らな
いものといわなければならない。
四 その他の当選人の得票数につき、選挙会の判定を左右すべき証拠はない。
五 以上によれば、本件選挙における原告の得票数は、参加人及びその余の各当選
人の得票数を下回ることが明らかである。
六 したがつて、原告と参加人の得票数が同数であつて、原告が法九五条二項によ
る当選人であるとする選挙会の判定及びこれを維持した町選管の前記異議申立棄却
決定は違法であつて、右決定を取消し、本件選挙における当選人・原告の当選を無
効とした本件裁決は相当であり、その取消を求める本訴請求は失当であるからこれ
を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条
後段を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 倉田卓次 井田友吉 高山 晨)

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