弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人西橋儀三郎の上告理由書記載の上告理由第一点(同代理人の上告理由
補充申立書および上告理由追加申立書各記載の上告理由を含む。)について。
 論旨は、原判決が買収の時期から一四年七箇月余も経過した後になされた買収令
書の交付をもつて有効と判断したことが法令の解釈適用を誤つたものである、とい
う。
 原判決の確定した事実によれば、被上告人知事は、上告人所有の本件農地を買収
するため、昭和二二年三月二九日上告人に対し、登記簿上の住所たる布施市大字a
b番地に宛てて、買収の時期を昭和二二年三月三一日とする買収令書を発給したが、
右住所は昭和一二年に行なわれた町名の変更によつて布施市cd丁目e番地と改称
されていて、同令書は不送達に終つた。そこで、知事は、昭和二三年九月二五日自
作農創設特別措置法九条一項但書の規定に基づき、買収令書の交付に代えて公告を
なし、さらに本件訴訟係属後の昭和三六年一一月二八日にいたり、右公告に瑕疵が
あつたことを知り、これを補正するため、前記昭和二二年三月三一日を買収の時期
とする買収令書を再発行してこれを上告人に交付した、というのである。そして、
本件農地については、これよりさき昭和二二年三月一五日布施市f地区農地委員会
が自作農創設特別措置法三条一号の不在地主の小作地と認めて買収計画をたて、こ
れを公告、縦覧に供し、同月二九日大阪府農地委員会による買収計画の承認があり、
その後本件農地はDに売り渡され、現に同人のための所有権移転登記手続が完了し
ていることは、上告人の自認するところであるかまたは当事者間に争いのない事実
であること記録上明らかである。
 以上の事実関係の下においては、さきに買収令書の交付に代えてなされた公告は、
これを行なうための用件を欠く点において瑕疵ある違法のものといわざるを得ず、
また、右公告の瑕疵を補正するための買収令書の交付は、買収の時期から起算して
一四年七箇月余経過後に行なわれたものであること、まさに、所論のとおりである
が、右公告は買収計画の承認後遅滞なくなされたものであり、しかも、それが有効
であることを前提として、買収の時期に本件農地の所有権が被上告人国に移転し次
いで国から前記買受人に移転したものとして処理され、今日に及んでいることが明
らかである。
 かように、たとえ違法のものであつたとはいえ、買収令書の交付に代わる公告が
当時遅滞なくなされ、且つ、表見的であるにしても、すでに前叙のごとき法律関係
が形成されている場合においては、右公告の瑕疵を補正するために行なわれた買収
令書の交付は、その効力を是認すべきであつて、右令書の交付がそれ自体としては
著しく遅滞して行なわれたという一事をもつてそれによる公告の瑕疵の補正を否定
し、前叙のごとき一連の手続をすべて無効に帰せしめるがごときことは許されない
もの、と解するのが相当である(昭和三三年(オ)第三〇八号、同三六年三月三日
第二小法廷判決参照)。
 されば、叙上と同趣旨に出た原審の判断は相当であつて、所論の違法はなく、論
旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、小作農でない者を小作農と認め、また、小作農の請求がないのに行なわ
れた本件農地買収処分を適法と認めた原判決には、証拠に基づかないで事実を認定
し、法令違背の違法があるという。
 しかし、本件農地買収処分は自作農創設特別措置法三条の規定によつて行なわれ
たものであること記録上明らかであるから、論旨は、所詮、原審の適法になした証
拠の取捨選択、事実の認定を非難するに過ぎないか、その前提を欠くに帰し、採用
の限りでない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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