弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「被告は別紙目録記載のスパイラル紙管製造機を製造販売してはならない。
被告はその占有にかかる前項のスパイラル紙管製造機を廃棄せよ。
被告は原告に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和五〇年四月一三日から支払ず
みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び一ないし三項についての仮執行の宣

二 被告
 主文同旨の判決
第二 請求原因
一 原告は左に記載する特許第四三五七二八号スパイラル紙管製造機(以上「本件
特許」という。)の権利者である。
特許出願 昭和三七年四月一一日(昭和三七年特許出願第一四六五一号)
特許出願公告 昭和三九年八月五日(昭和三九年特許出願公告第一五七九七号)
特許登録 (昭和三九年一二月二三日特許番号第四三五七二八号)
二 本件特許の明細書に記載された「特許請求の範囲」は次のとおりである。
 静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け該巻芯の他側方に始末二個の
プーリーを設備し、該始末二個のプーリーを該基点プーリーより出て相互の角度を
任意調節し得べくなした二本の腕に支持させ、基点プーリーと始プーリーとに亙り
巻芯外周を一巻する状態に於いて始ベルトを架設し、基点プーリーと末プーリーと
に亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態に於いて末ベルトを架設したこ
とを特徴とするスパイラル紙管製造機
本件特許発明にかかるスパイラル紙管製造機の構成要素を分説すると次のとおりで
ある。
(一) 静止状の巻芯
(二) 巻芯の一側方に設けられた基点プーリー一個
(三) 巻芯の他側方に設けられた始末プーリー各一個
(四) 始末プーリーを支持する二本の腕。基点プーリーから出て相互の角度を任
意に調節することができるようになつている。
(五) 基点プーリーと始プーリーとの間に、巻芯の外周を一巻するように架設し
た始ベルト
(六) 基点プーリーと末プーリーとの間に、
巻芯の外周を始ベルトと逆方向に一巻するように架設した末ベルト
三 本件特許発明の目的は、巻製後の紙管に歪みを生ぜしめず、始めより真直状の
紙管を製造するとともに糊目が完全に密着し、重合部に間隙の介在しない良質の紙
管を製造し得ることにある。
本件特許発明の作用効果は次のとおりである。
(一) 本件特許発明にかかるスパイラル紙管製造機を使用するに当つて紙材を異
なる方向から巻芯に対する角度を同一にし相互にズレを存して始ベルトの巻部と巻
芯との間に喰込ませ、始末ベルトを廻転させると、始ベルトで第一回目の巻成及び
圧迫糊着をなし、次に末ベルトで第二回目の圧迫密着を完成させるものであるが、
始末両ベルトの巻芯に対する巻方が逆であるため、軸芯に及ぼす牽引は十一零(プ
ラスマイナス零)となり、巻芯はいずれの方向へも彎曲することなく常に真直を保
持することができ、出来た紙管は歪みなく常に真直であり、その中間において重合
成形した紙材間に動きがなく糊付不良部分の存する余地がない。
 このように二本のベルトの巻芯に対する引つ張り方向が互いに逆のため巻芯が曲
がらない。従つて、従来のように当板をするか、又はベルトをゆるくしか張らない
といつた不便が悉く解消されている。
 巻芯が曲がる虞れがないため、従来の一ベルト式、平行二本ベルト式に比べ、数
倍もベルトを強く張ることが出来、強力な紙管の推進力が得られる。
 強力な紙管推進力のため、紙材テープに強いブレーキ張力を掛けることが可能と
なり、固巻の精巧な紙管が得られる。
 ベルトを十分強く張ることができるので、紙材テープにかなりの張力をつけて
も、ベルトのスリツプ現象がほとんどなくなつた。
 さらに、二本ベルトのため二本のベルトの張力をそれぞれ調節することによつ
て、巻芯に及ぼす力を十一零とするものであるので、巻芯の曲り加減に応じて微妙
に調節することが可能である。
(二) 始末二本のベルトは基点プーリーによつて常に廻転を同調せしめられるも
のであるから、一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリーによつ
て常に同調せしめられ、両ベルトの廻転は常に同一であるから相互関係上相牽制し
て進行不能に陥ることがない。
この意味を説明すると次のとおりである。
 まず、ベルト、プーリー間あるいはベルト、紙管間にいささかのスリツプもない
ようにすることがこの種の機械における重要な技術課題の一つであることが認識さ
れるべきである。けだし巻成の固いしかも膨上りのない良質の紙管を得るために
は、二ベルト式の場合二ベルトが常に同速度で同じ調子で紙を巻成することが必要
であつて、一方のベルトにスリツプが起つた場合、そのベルトは止まつたままで他
方のベルトは巻成を続けるような事態を想起すれば、巻成が二本のベルトでなされ
ないため固い巻成は望むべくもなく、さらに悪いことには両二本のベルトの間に膨
上りなどの現象が生ずる。
 そこでこのスリツプを防ぐためには、ベルトの十分な巻成力が必要とされる。紙
管に使用される紙材は紙の角度を一定に保つためその紙の腰の強さに応じて十分に
引つ張られて機械にかけられるので、ベルトの巻成力は、この紙材の張力とさらに
紙材が巻芯と接触するときの摩擦力の合力に十分打ち勝つ程度でなければならな
い。ベルトの巻成力は即ち巻成された紙管の表面とベルトの接触面との摩擦力を意
味するが、この摩擦力はベルトが紙管に接触する面積の大きさと、そのベルトが紙
管を巻締める力と、ベルトの接触面の摩擦係数によつて決定される。ところが、ベ
ルトの幅が一定であるからこの接触面積もまた一定でありまた摩擦係数も一定であ
るので、巻成力はベルトの巻締の強さによつてその大小が定まることが解る。
 このように、スリツプなくスムーズに二本のベルトを同じ調子で働かせるために
は、ベルトの巻締をより強くしなければならないことが明らかであるが、ここで、
本件特許明細書中でも比較されているように従来技術である四プーリー平行ベルト
式の機械と本件特許発明とを比較すると、四プーリー平行ベルト式では一本ベルト
式のものよりは二本ベルトで巻くので多少の固巻が期待されるが、しかし巻芯に二
本のベルトをかける方向が同一方向になされるため巻芯は一側方にゆがみ真直に保
持されない欠点を有し、この傾向はベルトの巻締めを強くすればするほど増長され
る。そして一側方への牽引力は巻芯固定位置より離れた位置の方ほど強いので、な
るべく牽引力を少くするためより離れた位置にあるベルトの方を他方のベルトより
巻締をゆるくしなければならないことになる。
 これに対し、同じ二本ベルトでも本件特許発明の三プーリーX字ベルト式(一側
方の二つの始末プーリーと他側方の基点プーリーとの間に二本のベルトが一本ずつ
かけられ巻芯に巻かれた二本のベルトが、基点プーリー又は駆動プーリーのある側
で交叉しているものを、平行ベルト式と対比してX字ベルト式と呼ぶ。)において
は、巻芯にかかる二本のベルトの牽引力は十一零となるように構成されているの
で、巻成力を増すため巻締を十分にしても巻芯は真直を保ち何らの不都合も生ぜ
ず、適宜の強さに調節することが可能なのである。従つて本件特許発明にかかる機
械は先行技術と比してもそもそもスリツプしにくい構成となつているのであつて、
本件特許明細書の記載もこの認識を前提として出発している。
 さらに実際ベルトがスリツプするかあるいはスリツプしようとしたとき、四プー
リー平行ベルト式のものと本件特許発明の三プーリーX字ベルト式のものとの作動
の違いを比べてみると次のとおりである。
 本件特許発明にかかる機械では、始末ベルトは、平行にかけられるのではなく基
点プーリーを基点としてX字型にかけられ巻芯へのかけ方を互いに逆方向にしてい
る。このためたとえば、後方から供給される紙材に何らかの原因で異状な張力がか
かり紙管の回転が妨げられ、これにより始ベルトの回転が遅くなりプーリーとベル
ト間でスリツプが起つた場合、働いている方の末ベルトは始ベルトと反対方向に巻
芯に対し牽引力を働かせているので、今まで真直を保つていた巻芯は一方向に彎曲
する。そのことによりプーリーの駆動力が働くべき始ベルトの箇所に緊張が生じ、
始ベルトの巻成力は一時的に正常の状態よりも増大し、かようにしてスリツプから
即座に脱出出来る体勢ができ、再び基点プーリーに同調せしめられて他方のベルト
と同速度で回転することになる。
 これに対して、四プーリー平行ベルト式の場合、二本のベルトは平行に張られ巻
芯へのかけ方も同方向であつて巻芯を同一側方に牽引しているのであるから、前記
三プーリーX字ベルト式にみられるような関係はあり得ず、一方のベルトがスリツ
プした場合他方のベルトの同方向への牽引力のため、スリツプしているベルトが巻
芯、プーリー間でその回転回復力を得るような状態には立ちもどらないのである。
 本件特許明細書一頁右欄三一行ないし三五行の記載は、右に述べたスリツプ防止
の効果を指しているのであつて、これはすでに述べた巻成力における科学的知見及
び二本ベルトをX字型にかけ巻芯へのかけ方を逆方向にした構成を前提として記載
されているのである。
(三) さらに、始末両ベルトの不同調に基づく製品の一方側への膨上りを防ぐ効
果があるが、この効果も、二本のベルトがプーリー、巻芯の接触面のいずれでもス
リツプすることなく常に同調して動くことにより可能となるのである。
四 被告は、昭和四七年五月ごろから別紙図面および説明書記載のスパイラル紙管
製造機(以下「本件機械」という。)を製造販売している。
本件機械の構成要素を分説すると次のとおりである。
(一)´ 静止状の巻芯
(二)´ 巻芯の一側方に設けられた前後駆動プーリー各一個
(三)´ 巻芯の他側方に設けられた始末プーリー各一個
(四)´ その両端に前後駆動プーリー、始末プーリーの各一個を支持する交叉し
た二本の腕。交叉点に取付けた支軸を中心として相互の角度を任意に調節すること
ができるようになつている。
(五)´ 駆動プーリーの一個と始プーリーとの間に、巻芯の外周を一巻するよう
に架設した始ベルト
(六)´ 駆動プーリーの他の一個と末プーリーとの間に、巻芯の外周を始ベルト
と逆方向に一巻するように架設した末ベルト
五 本件機械の構成要素と本件特許発明のそれとを対比すると、両者は(一)
(一)´の巻芯、(三)(三)´の始末プーリー、(五)(六)、(五)(六)´
巻芯を距てて対立する両プーリーの間に、巻芯の外周を一巻するように始末ベルト
が架設されており、
始末両ベルトの巻芯の巻方が逆方向であるスパイラル紙管製造機であることにおい
て一致し、ただ巻芯の一側方に存するプーリーが(二)にあつては基点プーリー一
個であるのに対し、(二)´にあつては駆動プーリー二個である点において相違
し、また(四)(四)´の二本の腕の形状、(五)(五)´、(六)(六)´のベ
ルトの架設された状態も必ずしも同一とはいえないが、(二)(二)´以外の相違
はいずれも(二)(二)´の相違から必然的に生じた構造上の相違にすぎないから
((四)(四)´の二本の腕は両者とも相互の角度を任意に調節することができる
ようになつている。)この(二)(二)´の相違について考察する。
 本件特許発明の構成は、従来法の欠点を抜本的に除去するものである。即ち、二
本のベルトを採用し、しかもその二本のベルトの架設方法を従来より変え、二本の
ベルトの巻芯に及ぼす牽引力が互いに逆方向になるように、巻芯に対するベルトの
かけ方を互いに反対方向に巻いたことである。さらに、右のようにベルトのかけ方
を変えても、巻芯上での二本のベルト巻成部の螺旋角度は、全く両ベルトとも等し
いことが不可欠である。そのために、始ベルトと末ベルトのそれぞれの中心線の延
長線に接するところにプーリーを設けることが必要である。
 本件特許発明では、始ベルト、末ベルトのそれぞれの中心線の延長に接する一つ
の基点プーリーを設置することにより、二本のベルト巻成部の螺旋角度を一定のも
のとした。そして他側方にそれぞれ始、末プーリーを設けた。以上により、二個所
のベルト巻成部を正確に保持しながら、前記巻芯に及ぼす力を十一零とし巻芯を真
直に保ちつつベルトの巻成力を最大限に及ぼすという作用を、最小限の構成で完成
させたものである。
 被告の本件機械では、本件特許発明の構成と同じく、二本ベルトを採用し、二本
の始末ベルトの巻芯に対する巻方向を互いに逆にし、さらに二本のベルトの巻芯上
での螺旋角度を、互いに同一とするために、始ベルトと末ベルトのそれぞれの中心
線の延長にそれぞれ接する二つの駆動プーリーを配置した。
 すなわち、本件機械においても、二本のベルトの巻芯上での螺旋角度が全く等し
くなるように、始ベルト、末ベルトのそれぞれの中心線を延長した二本の線の各内
側に接する位置に二個の駆動プーリーが配置されているから、本件特許発明が解決
した技術課題を同一原理で解決しているのである。二個の駆動プーリーをそのまま
内包する一個の大きなプーリーを想定すれば、これが本件特許発明における基点プ
ーリーに該当するのであり、被告の本件機械は、本件特許発明においては一個の基
点プーリーにかかつていた二本のベルトを、単に一本ずつに分けて二個のプーリー
にかけ直したものにすぎない。このことは、本件機械のベルトのかけ方を駆動プー
リー二個に各別にかけず二本のベルトを二つのプーリーにまとめてかけるようにす
れば、本件特許発明のものと全く同じくなることを見ても明らかである。
 その他の構成の違いは、右の駆動プーリーを二つとした構成より付随的に派生し
たものにすぎない。すなわち、本件特許発明では二本の腕がV字状であるに比し
て、本件機械ではX字状となつているが、これは被告機械では四個のプーリーがあ
るため、前述の本件特許発明の構成と同一の構成をとりつつ、この四プーリーを固
定するためにとられた付随的な構成にすぎない。
六 そこで、本件特許発明の前記作用効果と本件機械のそれとを比較してみると、
本件機械は四プーリー式ではあるが、本件特許発明がのりこえた四プーリー平行ベ
ルト型とは著るしくその効果を異にし、本件特許発明でもたらされる前記作用効果
を悉く備えるものである。それは、本件機械が平行ベルト型をとらずX字型とした
こと、しかも二本のベルトの巻芯へのかけ方を互いに逆方向とした構成によりもた
らされるものである。即ち、本件特許発明における基点プーリーの代替として直径
を同じくする二個の駆動プーリーを相接近して設け、該二個のプーリーはギヤで連
動させてあるため同一周速となり、基点プーリーの上下部に二本の始末ベルトをそ
れぞれかけるのと全く同一の効果をもたらしている。
この作用効果の対比について分説すると、次のとおりである。
(一) 本件機械において巻芯上に異なる方向から角度を同一にして互いにズレを
存して供給された紙材は、駆動プーリーと始末ベルトの間に、それぞれ巻芯の外周
を一巻するように架設された始末二本のベルトによつて、順次巻成、圧迫糊着さ
れ、始末両ベルトの巻芯に対する巻方が逆であるため巻芯に及ぼす牽引力は相殺さ
れ巻芯はいずれの方向へも彎曲することなく常に真直を保持することができ、また
両ベルトの巻部を交互状に保持することができ、また両ベルトの巻部を交互状にし
て巻圧位置を近接せしめているため糊目が完全に密着し重合部分に間隙が介在しな
い良質の紙管を製造することができる。これは、本件特許発明の作用効果として述
べた三の(一)と同一である。
(二) また本件機械ではベルトがX字状に架設されており、また二本のベルトの
巻芯への巻方が互いに逆方向となりいずれも二個の駆動プーリー(同一直径を有し
ギヤで連動している。)により駆動されているので、一方のベルトが仮にスリツプ
しても他方のベルトは駆動力を受け続けているからスリツプから即座に脱出するこ
とができ、よつて両ベルトの回転は常に同一となり、進行不能に陥ることがない
が、これは本件特許発明の作用効果として述べた三の(二)と同一である。
(三) また本件機械は、右の両ベルトの同調により、両ベルトの不同調に基づく
製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起すことがないが、これは本件特許発
明の作用効果として述べた三の(三)と同一である。
七 その構造において本件機械が始末プーリーに対し巻芯の他側方に存する駆動プ
ーリーを二個とし、これと始末プーリーとの間に始末二本のベルトを架設したの
は、本件発明における一個の基点プーリーの胴体の上下に架設した二本のベルト
を、並列する二本のプーリーに分けたものに外ならず、このように一本のプーリー
の上下に架設したベルトを並列する二個のプーリーと代替することは、この種機械
の設計上慣用せられる技術手段であつて、両者は自由な選択範囲に属する設計上の
微差にすぎない。
 また、このように一本のプーリーの上下にベルトを架設する構造を、並列する二
個のプーリーと代替することは出願当時の技術水準からみても当業者にとつては本
件特許発明から容易に実施し得たもので予測可能のものである。
 そもそも本件特許発明の核心とするところは、紙管製造機において二本のベルト
を巻芯に対してそれぞれ逆方向に巻きつけ、真直で均一、且つ固く巻いた紙管を得
る点にある。本件機械は、本件特許発明のスパイラル紙管製造機と全く同一の作
用、同一の効果を有し、両者が有する前述の構造の相違は、本件特許出願当時の技
術的水準において予想可能のものである。
 始、末各プーリーに対置するプーリーとしては、始、末ベルトのそれぞれの中心
線の延長線の内側に接するところに設けられるものであれば、本件特許発明が解決
課題としている技術問題は解決されるのであつて、被告が本件機械で採用している
ように駆動プーリーを二個設置することも、当然、原告が本件特許発明の考案を重
ねていた際、原告において認知し数々の試作を重ねていたものである。しかるに、
本件特許公報において開示されるような基点プーリー一個を配設するものが、同一
の作用、効果を達成し、しかも簡潔な構成であつたため、これを特に本件特許とし
てクレームしたのである。
以上の通りであるから、被告の本件機械の構成は、本件特許発明のものと均等であ
ることは疑いを入れない。
 してみれば本件機械と本件特許発明とはその構成、目的作用効果のいずれの点か
らみても全く同一で、前者は後者の技術的範囲に属するものといわなければなら
ず、被告による本件機械の製造販売は原告の本件特許権を侵害しているものであ
る。
八 被告は、本来紙管の製造を業とする会社であつたが、昭和四七年五月から本件
機械の製造を開始、昭和四八年七月原告が静岡地方裁判所からその製造販売の禁止
を命ずる仮処分決定を得、これが執行せられるまで少なくとも本件機械五台を製造
販売した。本件機械の被告による販売価格は一台金三五〇万円でその利益は一台金
五〇万円を下らないものであるから被告の得た利益は合計金二五〇万円である。
従つて原告は特許法第一〇二条第一項により被告の本件特許権侵害による損害賠償
としてその支払を求めるものである。
九 よつて、原告は被告に対し被告による本件機械の製造販売の差止及び本件機械
の廃棄並びに損害賠償金二五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である
昭和五〇年四月一三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害
金の支払を求める。
第三 請求原因に対する被告の答弁
一 請求原因一の事実は認める。
二 請求原因二の事実は認める。
三 請求原因三のうち、本件特許の目的については、そのような目的が本件特許明
細書の詳細な説明の項に記載のあることは認める。なお、このような目的は紙管製
造機全てに共通する一般的な技術課題であるにすぎない。
 同(一)ないし(三)のうち各冒頭に記載されている作用効果は、それが本件特
許の作用効果として詳細な説明に記載されていることは認めるが、その余の事実は
争う。なお、原告が(二)、(三)の効果として説明するところは、結局巻芯を真
直にするということであつて(一)の効果を裏返したものにすぎず、本件特許明細
書の記載の効果とは無関係である。
四 請求原因四の事実は認める。
五 請求原因五のうち原告主張の相違点があることは認めるが、巻芯の一側方に存
するプーリーが一個であるか二個であるかの相違点以外の相違点が単にプーリーの
数の相違から必然的に生じたものであることは否認する。むしろ、論理は逆であつ
て、二本のベルトの巻圧位置を可及的に近接せしめ、かつベルトと巻芯との距離を
十分とつてベルトに無理を与えず、さらに角度調節にあたつての巻圧位置の変化を
少なくするため支軸を中心に二本の腕をX字状に交叉させ、この上にベルトをX字
状に架設する等の目的のために四プーリー式にしたのであつて、駆動プーリーを二
個にするために他の構成が付随して変更されたものではない。その余の主張は争
う。
六 請求原因六の事実は争う。
七 請求原因七の主張は争う。
八 請求原因八のうち、被告が本件機械を五台以上製造販売し、二五〇万円の利益
を得たこと、
原告がその主張のように仮処分決定を得たことは認めるが、その余の事実は否認す
る。被告が紙管製造機を販売のため製造したのは昭和四七年四月頃からであるが、
被告は、それ以前から自社で使用するために本件機械を含む紙管製造機を製造して
いたものである。
九 請求原因九の主張は争う。
第四 被告の主張
一 本件特許の解決した技術課題及び作用効果は、本件特許明細書の詳細な説明の
項の記載に基づくと左のとおりである。
(一) 従来のスパイラル紙管製造機として、単ベルト二プーリー式と平行二本ベ
ルト四プーリー式とをあげてその欠点を説明し、単ベルト式では紙管の巻固めが不
完全で糊の密着度も不良となり易い欠点があるとしている(公報左欄二七行~三〇
行-単ベルト式の欠点)。
また、二本ベルト四プーリー式では単ベルト式のものに比較して固巻の効果が期待
されるが、
「両ベルトの巻方向が同一なるため、
(1) 巻芯を一方向に弾圧彎曲せしめる傾向があり、このため紙管も彎曲化し歪
を生じこれを真直ならしめるために糊の未乾燥状態に於いて糊付部を動かすことと
なり折角弾圧密着した糊目が隙を生じ不完全化する重大なる欠点を伴うものである
と共に(以下第一の欠点という。)更に第一のベルトと第二のベルトは全く無関係
の二組のプーリーによつて架設廻転するものであるから、
(2) 両ベルト中一方のベルトがスリツプした如き場合両ベルトの廻転が異り互
に牽制して進行不能に陥る欠点があり(以下第二の欠点という。)
(3) 更に製品に一部膨上り状態の不良品を生ぜしめる虞(以下第三の欠点とい
う。)
がある。」(公報左欄三五行~四五行)
とされている。
そして、従来の紙管製造機は、右のような欠点を有するので、
「更に良好な紙管製造機の案出はこの種紙管の需要激増の現在としては切に待望さ
れる所でありこの要望に応えるために本発明は到達され誠に簡易なる装置により容
易に従来品の欠点を除去し良品の製造に成功したもので」
あるとして(公報左欄下三行~右欄上二行)、本件特許の構成により解決した技術
課題を明らかにしている。
(二) 次に本件特許は、右のような従来の機械の解決すべき欠点に対応して次の
ような作用効果があると実施例を挙げて説明されている。
(1) まず、単ベルト式の欠点に対しては、始末二本のベルトを設けて
「始ベルト3にて第一の巻成並に圧迫糊着をなし次に末ベルト9によつて更に第二
回目の圧迫密着を完成せしめるもの」(公報一頁右欄二二行~二四行-二本ベルト
式の効果)
として、二本ベルト式をとることにより単ベルト式の欠点を解決したことを明らか
にしている
(2) 次に、平行二本ベルト四プーリー式の第一の欠点は、二本のベルトが平行
に架設されていることから生じるのであるから、二本のベルトの巻方を逆にするこ
とにより、
「軸芯に及ぼす牽引は十一零となり巻芯1は何れの方向へも彎曲することなく常に
真直を保持することができ依つてできた紙管は歪なく常に真直である大なる効果が
あり斯く真直に進行成形さるる紙管は中間に於いて重合成形せる紙材間に常に動き
がなく間隙糊付不良部分の有する余地なきもの」(公報一頁右欄二五行~三一行-
第一の欠点の解決=第一の効果)
としたとしている。
(3) さらに四プーリー式の第二の欠点及び第三の欠点は、第一のベルトと第二
のベルトが無関係の二組のプーリーにより架設廻転することによるものであるか
ら、二本のベルトを基点プーリーにより常に廻転を同調せしめることにより、
 「一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリーによつて常に同調
せしめられ両ベルトの廻転は常に同一であるから相互関係上相牽制して進行不能に
陥るが如き欠点」
はなくなつたとし(公報一頁右欄三二行~三五行、第二の欠点の解決=第二の効
果)
「更に両ベルトの不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起す欠
点もなく」
なつたとしている(公報一頁右欄三六行~三七行。第三の欠点の解決=第三の効
果)。
(4) なお、右の外の効果としては、
 「腕相互のなす角度を任意調節し得る様にしたからベルトの伸び加減の調節ベル
ト掛外しの時の操作、紙材幅、
管径の大小等に応じて任意調節することができる等附随的操作に於ける便宜をも考
慮したもので」(公報右欄三九行~四二行-附随的効果)あるとしている。
二 右に述べるように、本件特許公報の特許請求の範囲に記載されているスパイラ
ル紙管製造機の構成は、詳細な説明に記載された本件特許の解決したとする技術課
題(従来技術の欠点)及び本件特許の作用効果に対応したもので、その一つづつの
構成がどのような作用効果を達するためものであるかが明細書で明瞭になつてい
る。すなわち、本件特許は一個の基点プーリーとこれに対する二個のプーリーを設
けた三プーリー式のものとし、二本のベルトを同調させるように構成したことによ
り、四プーリー式の第二、第三の欠点を除却し(第二、第三の効果-この効果の達
成にはベルトの巻方向は関係ない。)、かつ基点プーリーを共通にして始末各プー
リーの間に始ベルトと末ベルトを巻芯外周を一巻して牽引力の働く方向が、巻芯を
基準として前後反対となるよう架設したことにより、第一の欠点を解決(第一の効
果)している。
 従つて、請求範囲の記載の構成を一つでも欠くか、相違するものは本件特許の作
用効果を奏し得ないものであるから請求範囲記載の事項は全て必須の要件と見るべ
きものである。
 また、本件特許が、請求範囲記載の三プーリー式のみを対象としていることは、
公報の詳細な説明の冒頭で特許請求の範囲の記載をそのまま引用して構成を説明し
ていること(公報一頁左欄一五行~二二行)、実施例の説明も同様に基点プーリー
3と始プーリー4、末プーリー5からなる三プーリー式のものであるとの説明があ
ること(公報一頁右欄四行~一五行)等から明らかである。
三 このように、本件特許は、一つの基点プーリーと始、末プーリーの三つのプー
リーに始、末各ベルトを巻方が逆になる如く架設したものであるが、本件特許のよ
うに、ベルトの巻方を逆にして巻芯に対する牽引力の働く方向を反対とすることに
より紙管を真直に進行させようという技術思想自体は本件特許出願前公知であつ
た。
 すなわち、本件特許出願のはるか以前の一九三四年(昭和九年)四月一七日特許
庁陳列館に受入られた米国特許第一九四一九九三号特許明細書(乙第一号証)には
螺旋状のチユーブ(紙管)の製造装置に関して四プーリー一ベルト式で巻廻部でベ
ルトをX字状に交錯しチユーブを一定方向に進行させながら、交錯するベルトが離
れる方向、つまり牽引力が巻芯を基準として反対方向になるようにして巻芯に及ぼ
す牽引力を十一零としたベルトの架設構造が記載されている。
 このように紙管の製造技術において、ベルトを交錯状にすることにより巻芯にか
かる牽引力を十一零として紙管を真直に進行させるという技術思想は本件特許出願
前公知であつた。右米国特許における技術分野は、紙管製造機のそれと同一であ
り、かつベルトの駆動力を用いる機械においてこのようにベルトの巻方を逆にして
ベルトの側方への牽引力を相殺する技術思想自体が開示されて公知公用となつてい
たことは、本件特許発明の技術的範囲を確定するにあたつては十分斟酌されるべき
である。
 従つて、本件特許発明にかかるスパイラル紙管製造機は、ベルトの巻方向を逆に
することにより、巻芯を真直に進行させるという公知の技術思想を使用した三プー
リー式の紙管製造機であつて、前記第一ないし第三の効果を達成するようにしたも
のであるということができる。
四 上述した本件特許明細書の請求範囲と作用効果等の記載、そして本件特許出願
前の公知の技術を総合して考えれば、本件特許は特許請求範囲記載のとおりの構成
を有するスパイラル紙管製造機のみを対象とするものであること明白である。
 そして、本件特許発明は一つの基点プーリーを設けた三プーリー式の構造とした
ことにより第二、第三の効果を達したこと、及びこの三つのプーリーに始、末ベル
トをそれぞれの牽引力の働く方向が逆になるようにして、第一の効果を達したこと
の二点に発明の本質的な部分がある。
 特に、前記公知技術から理解されるように、ベルトの巻方によりベルトの牽引力
を相殺するという技術自体はさして新規なものといえないのであるから一つの基点
プーリーにより二本のベルトを架設する三プーリー式にしたことが本件特許の最も
重要な構成要件であると考える。
五 右のように本件特許を理解した上で、これを本件機械と対比すると左のとおり
構成、作用、効果のいずれの点においても差異が認められる。
(一)構成の対比
 本件機械と本件特許とを対比すると、各ベルトが巻芯外周を一巻するように架設
されており、始ベルト8と末ベルト9の巻芯から離れる方向、すなわち、牽引力の
働く方向が巻芯を基準として反対側になつている点では、本件特許のベルトの巻方
と類以しているが、次の点で差異がある。
(1) 本件特許は三つのプーリーよりなつているのに対し、本件機械は四つのプ
ーリーを有している点で相違がある。すなわち、本件特許では、一個に一個の基点
プーリー3、他側に始末二個のプーリー4、5を備える三プーリー式であることが
求範囲に明瞭に記載されているが、本件機械は、各側に二個、合計四つのプーリー
からなつている。
(2) その結果、本件機械の各プーリーは一つが基点プーリーで他方が始末プー
リーといつた関係はない。すなわち、本件機械には本件特許でいう基点プーリーた
るものはない。
(3) 本件特許では、二本の腕6、7は基点プーリー3より出てV字状に構成さ
れているのに対し、本件機械の二本の腕6、7は支軸10により取付けられ、互い
に交叉し、X字状になつている。従つて、本件特許では支軸10がなく、二本の腕
の角度調節は、基点プーリーを中心として行われ、基点プーリーは、角度調節に際
して移動しない(基点プーリーと称される第一の理由である。)のに対し、本件機
械は、支軸10を中心に角度調節を行い、プーリー3、3は腕の角度調節により移
動する。
(4) 以上(1)~(3)のプーリーの数、腕6、7の構成の相違により当然二
本のベルトの架設方式も異なる。すなわち、本件特許では始末二個プーリー4、5
に架設されている始末二本のベルト8、9はどちらも一個の基点プーリーとの間に
架設されている(基点プーリーと称される第二の理由である。)のに対し、本件機
械では対向する無関係な二組のプーリーに全く別々に架設されている。
 このように、本件機械は本件特許が必須の要件とする構成と多くの点で全く異な
る機構のものであつて、両者の作用、効果を比較するまでもなく、この構成上の差
異のみからして明らかに本件機械は本件特許の対象外のものであるといえる。
(二) 作用効果の対比
 本件特許の作用効果として公報に記載されている事項のうち二本のベルトによ
り、二点で巻締し、紙管を固巻しようとする目的では、本件機械と本件特許は同一
の作用効果を目的とする(なお二本ベルト式は本件特許出願前公知)。また、二本
のベルトの巻芯の離れる方向が、巻芯を基準として、反対側となつている点におい
ては本件特許と本件機械は同様であるから、このことによりもたらされる効果も共
通するものがある。すなわち従来の平行二本ベルト式の第一の欠点であつた巻芯を
一方向に弾圧彎曲せしめるという欠点は、二本のベルトの牽引力の働く方向を反対
として、互いに相殺させることによりこれを解決している(なお、この点について
は乙第一号証の公知技術と共通する。)。
 さらに、本件機械も本件特許も、二本の腕のなす角度を任意調節し得るようにな
つているので付随的操作における便宜(付随的効果)という点でも同等なものであ
る(なお、従前の紙管製造機もほとんど角度調節を自由になし得た。)。
 しかしながら、本件特許は一個の基点プーリーと二個の始末プーリーよりなる三
プーリー式のものであるのに対し、本件機械は四プーリー式であるので、本件特許
が三プーリー式にしたことにより達したとする効果は奏し得ない。すなわち、従来
の四プーリー式の欠点は二本のベルトの牽引力の働く方向が同一であること(平行
式)による欠点ではなく、二本のベルトが無関係の二組のプーリーによつて架設廻
転することにより生じるものである(公報一頁左欄三五行以下)が、この点につい
ては、本件機械も二本のベルトが無関係の二組のプーリーによつて架設廻転するの
で何等従来の四プーリー式のものと差異がない。従つて、四プーリー式の欠点に対
応する本件特許の効果、すなわち、「一方のベルトがスリツプしても他方のベルト
は基点プーリーによつて常に同調せしめられ両ベルトの廻転は常に同一であるか
ら、相互関係上相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく」、「更に両ベルトの不
同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起す欠点もない」という効
果(本件特許の第二、第三の効果)を本件機械は備えていない。
 つまり、本件特許の「一つの基点プーリー」を設けるという構成要件を欠くこと
によつて、本件機械は本件特許の特徴とする作用効果を欠如しているのである。し
かしながら、本件機械は、一つの基点プーリーを廃し四プーリー式となしたことに
より本件特許の構成では奏し得ない次のような優れた作用効果を有する。
(1) 四つのプーリーが支軸10を支点として交叉する二本の腕6、7の両端に
それぞれ相対して取付けられ、この相対する二組のプーリーに始末二本のベルト
8、9が架設されてX字状になつているので、ベルトの交点付近、すなわち支軸の
中心付近に巻芯を位置させることによつて、二本のベルトの二つの巻圧位置間の距
離を無理なく近接することができる。このように巻圧位置を近接させることは、ベ
ルトの牽引力をより良く相殺させ巻芯を彎曲させないし、一回目と二回目の巻締が
近接した位置で行われるので、しわ等の発生が無い良質の紙管製造に役立つ。
(2) 四プーリー式で二本ベルトが独立した二組のプーリーに架設されているの
で、二本のベルトの速度を異ならしめることができる(本件特許では二本のベルト
の速度は常に同一である。)。
(3) 腕の角度調節が巻芯に近接した支軸を中心として行われるので、角度調節
による巻圧位置の変化が少い。従つて、角度調節の範囲が広く、しかもどの場合に
も巻圧位置が近接しているので機械の汎用性が極めて大となる。
(4) 二本のベルトが全体としてX字状になつていて、巻圧点がベルトの中間付
近にあるため、プーリーと巻圧点との距離が十分に確保されベルトが無理にねじら
れることはない(ベルトはプーリーと巻芯との間で九〇度ねじられる。)のでベル
トの巻芯に対するなじみが良好である。
(5) 以上(1)~(4)の特質から、本件機械は良質の紙管を高速で製造する
ことができ、しかも機械の汎用性が高い等の優れた機能を有するものである。
(三) 原告は、本件機械において二本のベルトの速度が若干でも大であれば紙管
は製造し得ないと主張しているが、それは誤りであり、現に本件機械ではベルトに
速度差を設けてあつても円滑に稼働している。
 このことは被告の技術認識であるだけでなく、本件特許出願前に発行された実用
新案公報昭三五ー二一〇七二号にも末べルトの速度を早くするため、モーターを各
別にし、変速機を組込んだ紙管製造機についての記載があるのであつて始末ベルト
の速度を異ならしめることは紙管製造機の構成として有用な場合が多々あるのであ
る。
 原告は両ベルトの速度が若干でも異なれば紙管が製造できないとして種々述べて
いるが、それは単なる仮定論であつて、実際の紙管製造技術から首肯し得るもので
ない。
 また、原告はベルト、プーリー間あるいはベルト紙管間にいささかのスリツプも
ないようにすることがこの種機械の重要な技術課題であるとか、ベルトの幅が一定
であるからベルトの接触面積もまた一定であり、摩擦係数も一定であるとか、ベル
トを強く巻締める程スリツプが生じないとか主張しているが、これ等は机上の空論
で現実にはそのようなことはあり得ない。実際にはどのような機械でも平ベルトを
使用する以上、ベルトのスリツプ、これによる伝導力の変化は避けがたいものであ
り、又ベルトや紙の摩擦係数も一定ではあり得ないし、さらにベルトを強く巻けば
紙管が巻芯を強く押しつけその間に大きな抵抗が生じる等の理由から、かえつて各
所においてスリツプしたり円滑に回転しないこともある。
 このように、原告の主張はその前提とする技術認識が紙管製造機の実際とは相違
するものであつて、その結論も誤りである。
六 本件特許発明における基点プーリーの存在は、本件特許発明の本質をなすもの
である。すなわち、従前の四プーリー平行二本ベルト式の場合でも前後二本のベル
トの速度は同一のものが普通であり、その駆動方法としては本件機械のように一個
のモーターからギヤ等により二個のプーリーを連動させて回転数を同一にしていた
ところ、本件特許発明は、このような慣行手段があるにもかかわらず、従前の四プ
ーリー平行二本ベルト式の欠点を解決する手段として一個の基点プーリーを設け、
このことにより第二、第三の効果を生ずるものとしてその権利を付与されたのであ
る。そして、本件特許発明における基点プーリーは、始末両ベルトを架設すること
により第二、第三の効果の達成を図る意味で基点であり、また、ここを中心として
二本の腕の角度調節の基となるという意味でも基点である。従つて、その機能上の
特質は、一個であることにより達せられるものであつて、これを二個のプーリーに
置換することは不可能である。一方、本件機械の二個の駆動プーリーには、始末両
ベルトが別々に架設されているし、また腕の角度調節は支軸を中心として行われ、
駆動プーリーはそれにより移動するものであるから、いずれの点でも基点プーリー
とはいえない。
 また、基点プーリーは一個であるところに基点としての意味があるのであつて、
その技術的特徴を無視して、本件機械の二個の駆動プーリーと対比すること自体無
意味であり、逆に二個の駆動プーリーを一個の基点プーリーと対比するため、原告
が主張するように二個であることによる機能を破壊するようなベルトの架設方法を
想定することは誤りである。そして、原告は、明細書上明らかな本件特許の一個の
基点プーリーの技術的意味を没却し角度調節の基点にもならず、また始末二本のベ
ルトを共に架設することなく、単にそのうちの一本のみを互いに別個に架設するに
すぎない二個の駆動プーリーを一個の基点プーリーと構成上同等であると誤認し、
他の構成上の差異を全く無視している点に基本的な誤りがある。
 このような置換は現実の機械では通常全く不可能であつて試みに本件機械の正確
な図面に原告が主張するような円を記入してみれば、プーリーはとてつもなく大き
くなつて比較対照し得るようなものでなく、その主張の非常識なことは明らかとな
る。特に、固定した状態で二個の駆動プーリーを包含する円を書いた後に角度を変
更して見ると、一個の基点プーリーと二個の駆動プーリーとの構成機能上の差はよ
り一層明白となる。
 これは本件機械が支軸を中心に角度を調節し駆動プーリーはこれに伴い、移動す
るものであるのに対し、本件特許では、基点プーリーを基点に角度調節がなされる
からである。
 このように、原告の主張は本件特許の一個の基点プーリーの技術的特徴を看過
し、技術的に全く別な要素であるプーリーの大小といつた点に問題をすりかえ、し
かも本件特許と本件機械のいずれもが角度調節を行うものであることを無視して、
ある一つの固定された状態において両者が一見類似した構成にある如く主張するも
ので本件特許の明細書の記載や現実の機械とは全く離れた議論である。
 さらに、原告は四プーリー平行二本ベルト式の機械では相互に無関係な二組のプ
ーリーにより架設回転するので、第二、第三の欠点があるとし、そのため基点プー
リーを設け、始末ベルトを共にこれに架設し、第二、第三の効果を得たと説明し、
特許請求の範囲に単に「プーリー」とするのではなくて、巻芯の一側方に「基点プ
ーリー」という他のプーリーとは異なつた機能のプーリーを「一個」設けたとして
構成を積極的に限定しているのであり、四プーリー式の機械は右第二、第三の欠点
があるとして本件特許出願に際し、これを意識的に排除したものである。
 ちなみに、原告が代表取締役をしている訴外岡崎機械工業株式会社においても、
その製品型録(乙第二号証)に本件特許の三プーリー式のもの(TS-三〇〇3機
頭式)とハの字型にプーリーを配置し、本件特許と同様前後巻圧方向を逆にした四
プーリー式のもの(TS-四〇〇4機頭式)を区別して掲げ、それぞれ独自の機能
を有するものとして、その特徴を説明している。
 原告は、明細書に明確に記載された本件特許の特徴的な構成、作用効果を離れて
独自の主観的な技術解釈を前提とした主張を行つているが、権利者が明細書の記載
と相違した技術解釈のもとに均等の主張をすることは均等の判断基準を恣意的に拡
大することになり不当に第三者を害するものである。本件では明細書を一読すれば
明白なように、一個の基点プーリーを基点とした三プーリー二ベルト式を採用し、
かつ二本のベルトの巻方を逆にしたことが構成上の特徴で特許範囲に特定記載さ
れ、これに対応して従来技術の欠点(本件特許の技術課題)及びその作用効果が各
構成ごとに明確に説明されており、その説明は一応当業者をして納得させ得る内容
であるから、この記載に従い権利侵害の判断をなすべきである。
 又均等の認められるべき基準については通常機能や作用効果についての置換可能
性とその置換の予測可能性とが要件として検討されているが、前者については、単
に置換可能というだけでなく、その機能、作用効果を達成する手段(技術原理)の
実質的同一性が存在することをその内容として理解すべきである。けだし発明は機
能や作用効果についてではなくそれを達成する手段、構成にあるからである。
 本件で、原告は本件機械の二個の駆動プーリーが同一回転になるよう構成されて
いる場合をとらえて、本件特許の第二、第三の効果と同一とする主張が見受けられ
るが、本件特許は一個の基点プーリーに始、末二本のベルトを架設するという構成
により一方のベルトがスリツプした場合に、その基点プーリーで両ベルトを同調さ
せるという技術原理を用いているのであつて、一個の基点プーリーによる二本のベ
ルトの同調という技術手段でなく、各プーリーの駆動力伝導機構の機械的な構成に
よつて回転を制禦するものはそれが仮に結果である作用効果において本件特許の第
二、第三の効果と同一な点があつたとしても、両者は技術原理を異にする以上置換
可能性があるとはいえないのである。特に従来の四プーリー平行二本ベルト式でも
前後二本のベルトの速度は同一なものが普通であり、その駆動方法としては本件機
械の一製品のように一個のモーターからギヤ等により二組のプーリーを連動させて
回転数を同一にしていた(特許公報三五-七三四六号)のであるから、本件特許は
二本のベルトを同調せしめる機構を全て含むのではなく、一個の基点プーリーによ
り二本のベルトを同調せしめる技術手段を用いるもののみを対象としていると考え
るべきである。従つて本件機械のような四プーリー式のものでは一個の基点プーリ
ーによる二本のベルトの同調ということはあり得ないから仮に二本のベルトが本件
特許と同一に作動したとしても技術手段原理を異にするものであり、本件特許の均
等の範囲に含ましむることはできない。
 さらに出願人が出願の際に特に意識的に請求範囲において限定した事項について
は、その限定を外して均等を論じることは、権利者が権利の請求を放棄した部分に
ついてまで権利を及ぼすことになるので許されるべきではない。
 原告は予測可能性に関し本件機械のような駆動プーリーを二個設置することも当
然に認知していたが、基点プーリーを一個とするものが作用効果も同一で最も簡潔
な構成であつたのでこれを特に本件特許としてクレームしたと主張しているが、そ
の限定した理由付は主観的なもので本件特許明細書の記載に徴し認められないけれ
ど、このような原告の主張は、出願人が出願当時本件機械のような構成を認識しな
がらあえて一個の基点プーリーを有する三プーリー式のものに積極的に限定してク
レームしたことを認めるものというべきである。そうであれば四プーリー式の本件
機械は本件特許より排除された構成とするのが論理の帰結でなければならない。
 いずれにしても、本件特許は特に一個の基点プーリーという限定された構成要件
を有しているのであるから、その限定を取り除いて権利を拡張することは許されな
い。
 以上述べたとおり、本件機械は、本件特許と対比し、構成、作用、効果が相違
し、かつ用いられている技術原理を異にするものであるし、又、本件特許から意識
的に排除された構成のものであるから、設計上の微差ということができないのはい
うまでもなく、また均等の主張も誤りといわなければならない。
七 原告は、一個の基点プーリーを設けることにより第二、第三の効果が生じるも
のと認識し、その技術的認識に基づいて出願に際し、その発明の詳細な説明の項で
技術課題と作用効果を対応させて本件特許発明の特徴を説明し、特許請求の範囲に
も明確に「一個の基点プーリーを設け」と記載してこれを本件特許発明の核心の一
つと考え、意識的に構成を限定したうえ出願して特許の付与を求め、その結果、右
構成によつて右のような作用効果があるものとして特許権が付与されたのであるか
ら、その後になつて自らその主張した作用効果を否認し、ないしはその記載を無視
してベルトの巻圧方向を反対にしたことによる作用効果であるといつた文理上考え
られない主張をして公報の記載を有利に解釈することは、不当に第三者を害するも
ので、禁反言の原則からも許されるべきではない。
第五 被告主張に対する原告の反論
一 被告の主張三に被告が引用する米国特許が存在することは認めるが、これは、
本件特許発明とその用途、目的を異にしているため、両者の構成も大いに異なつて
いるのであつて、右米国特許の技術思想と本件特許発明のそれとは、根本的に異な
るものである。
 本件特許発明は、紙管製造機に係るものであり、紙材テープにずれや膨上りのし
ない、しかも固巻の紙管を製造することが技術課題である。一方、米国特許は、チ
ユーブ製造機から製造されて出てきた中空のチユーブを推進させつつ保持する機械
に係るものであつて、従つてこの場合には、中空のチユーブを破損しないように最
少の力で保持することが技術課題である(乙第一号証二頁一〇七行ないし一一八
行、被告作成訳文一二頁四行ないし下より六行参照)。
そのため、両者には構成上次のような違いがある。
1 本件特許発明では、二本ベルトを採用しているのに対し、右米国特許では一本
ベルトを採つている。紙材テープの張力に対抗して、ベルトがスリツプなく正確に
紙管を巻成するには、このベルトの張り具合を微妙に調節できることは必須であ
る。
 本件特許発明では、ベルトが二本に分れているから各別に最良の巻締位置に調節
しうる。一方米国特許では、右のような問題意識は全く無く、一本ベルトを採つて
いる。
2 さらに、本件特許発明では二本のベルトの巻芯上での巻成部は互いに離間して
存在しているが、米国特許では、四つのプーリーの対角線の交点にベルトの二つの
巻成部が集中している。紙管製造の目的のためには、ベルトと紙材の摩擦低抵力を
増しスリツプを防ぐため、なるべくベルトの幅は太い方が適している。ところが、
右引用例では、ベルト巻成部が集中するため、本件特許発明のベルト幅の半分の幅
のものしか使用できない構成である。
3 そして、本件特許発明では必須の構成である。紙管の芯となる静止状の巻芯
は、米国特許においては、存しない。紙管製造機では、巻芯を軸としてそのまわり
に、ベルトの強い巻成力により紙材テープを推進させるので、巻芯は欠くことがで
きないものである。引用例では紙管のみを中空のままでささえることが、その中心
課題であるから、巻芯を要しないことは当然である。
 以上のとおり、米国特許は、本件特許発明とは全く別の目的を有するので、これ
を、紙管製造機に転用しようとしても、その目的を達することは難かしい。たと
え、巻芯に該当する部材を付加しても、ベルトの巻成力の調節、スリツプ防止など
が達成できず、良質の商品として通用する紙管を製造することは望むべくもない。
 従つて、本件特許発明の技術的範囲は、米国特許の存在によつても何ら狭められ
るものでないことは明らかである。
二 被告の主張五(二)(1)において被告は、本件機械が本件特許発明に比し
て、より優れた効果を有するものとして、支軸10を支点として交叉する二本の腕
6、7を設けたことにより、二本のベルトの巻圧位置を無理なく近接させうると主
張する。
 しかし、腕をX字状にしたことは基点プーリーを二個の駆動プーリー3、3´に
分けたことにより結果的にもたらされた構成にすぎず、二本のベルトの巻圧位置を
無理なく近接せしめることは、本件特許発明においても全く同じである。本件特許
発明でも、使用上始プーリーと末プーリーとの距離を適宜調節して巻圧位置を自由
に変えることができるのである。
 また、被告の主張五(二)(2)において被告は、二本のベルトの速度を異なら
しめることができると主張するが、実際上本件機械が駆動プーリー3、3´を同じ
直径の大きさにし、しかも同一駆動ギヤで同調せしめている点からみても解るよう
に、異なつた速度で二本のベルトを作動させるということは、本件機械が紙管製造
機であることと自己矛盾を犯すことに他ならず、全く不可解な主張である。
 被告の本件機械は、本件特許発明の有する作用、効果と全く同一の作用効果をも
たらすものである。このことは、前述の構成上の対比の説明から当然の結論として
得られるものである。即ち、本件機械の構成は、二本のベルトの巻芯に対するかけ
方、基点プーリーに変わるべき駆動プーリー3、3´の配置において、全く本件特
許発明がその基本に技術思想としてふまえていること一歩も出ていない。それどこ
ろか、明らかに本件特許発明の迂回方法にすぎない。
 そもそも本件特許発明の核心とするところは、紙管製造機において二本のベルト
を巻芯に対してそれぞれ逆方向に巻きつけ、真直で均一、かつ固く巻いた紙管を得
る点にある。
 本件機械は、本件特許発明のスパイラル紙管製造機と全く同一の作用、同一の効
果を有し、両者が有する前述の構造の相違は本件特許出願当時の技術的水準におい
て予想可能のものである。
 従つて、被告主張にかかる構造の相違は、単に被告が本件特許権の追及から免れ
るための手段にすぎず、改悪又は均等物として、本件特許発明の保護の領域内にあ
るものといわなければならない。
三 本件特許発明の作用効果を被告主張のように、明細書の記載を単に遂字的に読
み、ある一つの構成のみによりもたらされる作用効果であると読むことは、発明の
正しい理解ではない。
 「基点プーリー3により同調せしめられ」との記載の前提として、基点プーリー
により同一回転をする始末ベルトが、巻芯上に間隔を置いて互いに逆向きに巻芯に
巻かれていることを認識しなければいけない。前記記載はこの認識を前提として、
始末ベルトの一方がスリツプした場合は、巻芯が、そのスリツプしたベルトの牽引
力がかかるべき方向とは反対方向に引かれそのためスリツプするベルトの張りを一
時的に緊張せしめるので、たやすくスリツプ状態から脱することが出来るとの関係
を指している。このように始末ベルトはその始末ベルトの中心線の延長上に接する
基点プーリーにより等速で回転され相互に相助け合う関係におかれスリツプを防ぐ
効果を発揮しているのである。
 被告の本件機械を見るに、駆動プーリー3、3´は始末ベルトの中心線の延長線
上の内側に接するように配設され、しかも各プーリーは等速で回転し同一の直径を
有している。始末ベルトが巻芯に対して互いに逆巻になつていることは勿論であ
る。このような構成においては、始末ベルトはやはり等速で互いに相同調して回転
し、ベルトの固しめはもとより、一方がスリツプしようとしたときは他方がこれを
牽引せしめるという関係に立つているのである。結局は本件特許発明のものと全く
同一の効果を有している。
 「更に両ベルト8、9の不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化
を起す欠点なく」との点も被告の本件機械にも全く同じくあてはまることであつ
て、本件機械の始末ベルト8、9が前記のような構成により、互助するようになつ
ているので、そのため良質の紙管が出来るようになつているのである。
以上のとおり、本件特許発明と本件機械とは、全く同一の作用効果を有する。
四 その余の被告の主張はすべて争う。
第六 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告が左に記載する本件特許第四三五七二八号スパイラル紙管製造機の特許権
者であることは当事者間に争いがない。
特許出願 昭和三七年四月一一日
特許出願公告 昭和三九年八月五日(昭三九-一五七九七号)
特許登録 昭和三九年一二月二三日(特許番号第四三五七二八号)
特許請求の範囲
 静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け、該巻芯の他側方に始末二個
のプーリーを設備し、該始末二個のプーリーを該基点プーリーより出て相互の角度
を任意調節し得べくなした二本の腕に支持させ、
基点プーリーと始プーリーとに亙り巻芯外周を一巻する状態に於て始ベルトを架設
し基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態
に於いて末ベルトを架設したことを特徴とするススパイラル紙管製造機
二 被告が昭和四七年五月頃から別紙図面ならびに説明書に示す本件機械を業とし
て製造販売していることは被告の認めるところである。
三 本件特許請求の範囲に記載のスパイラル紙管製造機を構成する要素を分説する
と、つぎのとおりである。
(1) 静止状の巻芯を設ける
(2) 巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設ける
(3) 巻芯の他側方に始、末二個のプーリーを設ける
(4) 始、末二個のプーリーを基点プーリーより出て相互の角度を任意調節し得
べくなした二本の腕に支持させる
(5) 基点プーリーと始プーリーとに亙り巻芯外周を一巻する状態に於いて始ベ
ルトを架設する
(6) 基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻す
る状態に於いてベルトを架設する
四 成立に争いない甲第二号証の本件特許公報によると、従来技術の欠陥、本件特
許発明の目的(課題)、作用効果(解決)につき、発明の詳細な説明の項に、つぎ
の趣旨の記載があることが認められる。
(一) 従来のスパイラル紙管製造機として、単ベルト二プーリー式と平行ベルト
四プーリー式とがあるが、単ベルト式のものは、紙管の巻固めが不完全で糊の密着
度も不良となり易く良品を得難き欠点がある。平行二本ベルト四プーリー式のもの
は、単ベルト式のものに比して固巻きの効果が期待されるがつぎの欠陥がある。す
なわち、(イ)両ベルトの巻方向が同一なるため巻芯を一方向に弾圧彎曲せしめる
傾向があり、このため紙管も彎曲化し歪を生じ、これを真直ならしめるために糊の
未乾燥状態において糊付部を動かすこととなり、折角弾圧密着した糊目が隙を生じ
不完全化する重大なる欠点を伴う(ロ)更に第一のベルトと第二のベルトとは全く
無関係の二組のプーリーによつて架設廻転するものであるから、両ベルト中一方の
ベルトがスリツプした如き場合、両ベルトの廻転が異り、互に牽制して進行不能に
陥る欠点があり、(ハ)製品に一部膨上り状態の不良品を生せしめる虞がある(公
報一頁左欄二四行目以下)。
(二) 本発明の目的とするところは巻製後の紙管に歪を生ぜしめず始めより真直
状に成形せしめると共に糊目の完全に密着した良質の紙管を簡易なる装置により製
造せんとするにある(公報一頁左欄二〇行目以下)。
(三) その目的課題の解決としてなされた本件発明の作用効果は次のとおりであ
る(同右欄一九行目以下)。
(1) 本発明を使用するに当つては紙材10、11を異なる方法で巻芯1に対す
る角度を同一とし相互ヅレを存して始ベルト8の巻部13と巻芯1との間に喰込ま
せベルト8、9を矢印方向に廻転せしめるもので始ベルト8にて第一の巻成並に圧
迫糊着をなし、
(2) 次に末ベルト9によつて更に第二回目の圧迫密着を完成せしめ、
(3) ベルト8、9の巻芯1に関する巻方が逆である為めに軸芯に及ぼす牽引は
プラスマイナス零となり、巻芯1は何れの方向へも彎曲することはなく常に真直を
保持することができ、依つてできた紙管は歪なく常に真直である大なる効果があり
斯く真直に進行成形さるる紙管は中間に於いて重合成形せる紙材間に常に動きがな
く間隙糊付不良部分の有する余地なきもので限る良品を得られ、
(4) 又二本のベルト8、9は基点プーリー3によつて常に廻転を同調せしめら
れるものであるから一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリー3
によつて常に同調せしめられ両ベルト8、9の廻転は常に同一であるから相互関係
上相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく、
(5) 更に両ベルト8、9の不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不
良化を起す(公報に超すとあるのは起すの誤植と認める)欠点もない。
五 本件特許の詳細な説明の項の記載全体をしんしやくし、特許請求の範囲の記載
によると、本件特許発明の本質的特徴は、スパイラル紙管製造機において、
(イ) 静止状の巻芯の一側方に「一個」の基点プーリーを設ける
(ロ) 基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと「逆方向」に一
巻する状態に於いて末ベルトを架設する
との二点からなる技術思想にあると認めるべきである。そして、右の二点は不可分
の緊密な関連を有するものとして構成されていることが明らかである。
六 被告は、右(ロ)の特徴はアメリカ特許第一九四一九九三号の公開により公知
であつて新規性がない旨主張する。
 成立に争いない乙第一号証(昭和九年四月一七日特許局陳列館受入アメリカ特許
第一九四一九九三号公報)によると、本件特許出願時チユーブ製造機の技術分野に
おいて、ら旋状に巻かれたチユーブを廻転させ且つ推進せる機構の改良として、四
プーリー一ベルト式でベルトが二個所の巻成部を形成しがらX字状に交叉し、その
中間に支持したチユーブを一定方向、すなわち真直に進行させながら、一巻したベ
ルトがチユーブから離れる方向か、チユーブを基準として反対方向になるようにベ
ルトのコースを設定し、これによつてチユーブに及ぼす側方への牽引力をプラスマ
イナス零としたベルトの巻掛けの方法が図示して開示されていることが認められ
る。
 しかし、右アメリカ特許の発明は、チユーブを真直に進行せしめることを目的課
題として、ベルトを前記の如くチユーブに巻き掛けて操作することにより解決して
いるのであつて、紙管製造機に関するものではないから、スパイラル紙管製造機に
おいて、「基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻
する状態に於いて末ベルトを架設する」との前記(ロ)の特徴を用いることにより
本件特許発明における作用効果(前記四の(二))殊にベルトの固締めが可能とな
り紙管の巻成力を増大させるなどについて、これを意図するものでもなくその認識
の上開示しているものでもない。すなわち、右引用例におけるベルトの巻き掛け方
法についての開示は、本件特許発明におけるベルトの巻き掛け方法と外見において
類似し、その作用効果において一部共通するところが認められるけれども、両者の
発明の目的課題が相違し、本件特許発明における前記(ロ)の特徴を用いるとの解
決思想を欠くので、この点を公知ならしめる資料とは解せられない。
 また、原告は、本件特許発明の核心は、紙管製造機において、二本のベルトを巻
芯に対してそれぞれ逆方向に巻きつける点にあり、これにより真直で均一、且つ固
く巻いた紙管を得ることができるのである旨主張し、本件特許発明の本質的特徴は
前記(ロ)の点のみに存する如く主張する。
 しかし、「基点プーリー」なる語について、特許請求の範囲の項に、「一個の基
点プーリー」なる語が明記されているほかこれを受けた「基点プーリー」なる語が
三回用いられており、公報図面にも一個の基点プーリーが図示されている。また発
明の詳細な説明の項には、「一個の基点プーリー」と明記されているほか、これを
受けた「基点プーリー」なる語が一〇回用いられていて、その作用効果について前
記四の(三)の(4)、(5)に指摘したとおり、「基点プーリー」によつて二本
のベルトの廻転が常に同調せしめられ相牽制して進行不能に陥つたり両ベルトの不
同調に基く製品の一方側への膨上りなど、製品の不良化を起す欠点を克服しうると
教示しているのであつて、右基点プーリーの作用効果に関する記述は、基点プーリ
ーが名実共一個であり基点となるプーリーであることにより発揮し得るものであ
り、しかもこの点が本件特許発明の目的課題に対する解決となる趣旨に説明されて
いることはその記載に徴して否定し得ないところである。したがつて、本件特許発
明の核心ともいうべき本質的特徴を前記(ロ)の点にのみ求める原告の右主張は採
用することはできない。
七 本件特許発明と本件機械の構成を対比する。
(一) 共通点
 両者はいずれも静止状の巻芯を設けたうえ、その一側方に駆動プーリーを設け、
他側方に始プーリーと末プーリーをそれぞれ設け、該始、末プーリーを相互の角度
を任意に調節することができるようにした二本の腕に支持させ、駆動プーリーと始
プーリーとにわたり巻芯外周を一巻する状態において始ベルトを架設し、駆動プー
リーーと末プーリーとにわたり、巻芯外周を巻芯から難れる方向が始ベルトの場合
とは逆方向になるよう末ベルトを巻芯に巻き掛けてある。
(二) 相異点
(1) 本件特許発明では三個のプーリーよりなつていて、そのうち一個が駆動プ
ーリーで基点プーリーと称しその位置は不動であるのに対し、本件機械において
は、四個のプーリーよりなつていて、そのうち二個が駆動プーリーであつて、その
位置は移動できるようになつている。
(2) 本件特許発明では二本の腕は基点プーリーより出て、V字状に構成され、
始末プーリーはその二本の腕に支持されているのに対し、本件機械においては、二
本の腕は支軸に枢着されて互いに交叉してX字状をなし、始末プーリーと駆動プー
リーはその腕の両端にそれぞれ取付けられている。したがつて、本件特許発明では
二本の腕の角度調節は基点プーリーを中心として行われるのに対し、本件機械にお
いては、その角度調節は支軸を中心に行われる。
(3) 本件特許発明では始、末二個のプーリーに架設されている二本のベルト
は、いずれも一個の共通の基点プーリーとの間に架設されているのに対し、本件機
械においては一個の駆動プーリーと始プーリー、他の駆動プーリーと末プーリーと
にわたり、その二本のベルトがX字状になるように架設されている。
(三) 結局、本件機械は、本件特許発明の前記二に分説した構成要素のうち
(1)、(3)の特特徴を具えているが、一個の基点プーリーなるものを欠くた
め、同(2)、(4)、(5)、(6)の特徴においてその構成が同一ではない。
八 本件特許発明の「一個の基点プーリー」に対応する本件機械における構成は二
個の駆動プーリー3、3´である。
原告は、この点につき次のように主張する。
 本件特許発明は、二本ベルトを採用し、巻芯に対するベルトの巻き掛け方を互い
に逆方向とし、しかも巻芯上での二本のベルトの螺旋角度を等しくし、そのため
始、末ベルトのそれぞれの中心線の延長線に接するところにプーリーを設けなけれ
ばならないとの技術思想を開示している。そうすると、始、末プーリーに対置する
プーリーとしては、始、末ベルトのそれぞれの中心線の延長線の内側に接するとこ
ろに設けられるものである限り本件特許発明が解決課題としている技術問題は解決
されるのであつて、このプーリーを一個とするか二個とするかは技術者が適宜選択
しうる事項で、このような状況のもとで、一個のものを複数のもので代替すること
は、当時予測可能であつたのであり、本件機械にみられる構造の相違は、単に被告
が本件特許権の追及から免れるための手段に過ぎない設計上の微差、改悪、迂回手
段、均等物であつて本件機械は本件特許発明の保護の領域内にあるものであると。
 おもうに、発明を構成するに当り、特定の構成要素を採択するのは、それが発明
において発揮する作用効果(機能)に着目してなされるのであるが、特許発明を構
成するものは、言うまでもなく、作用効果はそれ自体ではなく、その作用効果を発
揮するものとして選ばれた構成要素ないしその組み合せである。保護を求める発明
であるとして、特定の構成要素を選択して特許請求の範囲に記載し特許された以
上、特許請求の範囲の記載は、特許された発明の個性決定の基礎となる。特許発明
の核心ともいうべき本質的特徴は、出願時における技術水準、発明の詳細な説明の
頃、図面の表示などをしんしやくし、特許請求の範囲の記載から抽出、把握すべ
く、その作用効果はその本質的特徴と認められる構成要素が当該発明の目的課題に
対して解決となる所以を支持、説明するものであるにとどまり、その構成要素を無
視し、これに代りうるものではない。すなわち、特許発明の本質的特徴について
は、特許請求の範囲に記載の構成要素と異なる構成による代替、組み替えは、たと
え、作用効果において等価値の構成、あるいは設計上の微差といいうる構成で、し
かもこれによる代替、組み替えが出願時当業者に予測可能であつたとしても、当該
特許発明の本質を変更することに帰する。したがつて、右置換を前提とする特許権
の保護を求める主張は許されないと解すべきである。
 本件特許公報中に、基点プーリーを設ける技術的意味につき、一個の基点プーリ
ーを設けることによる作用効果が終始強調されているだけで、一個の基点プーリー
に代え、二個の駆動プーリーを用いることについては、なんら触れられていない
し、これを示唆する記載はない。要するに、本件特許公報、殊に特許請求の範囲の
記載から、「基点プーリー」について、二個の駆動プーリーを用いる本件機械の構
成をも含む技術思想は引き出せない。
 本件特許発明において、一個の基点プーリーを設けるとの構成は、二本のベルト
の巻芯に対する巻き掛け方法についての構成と緊密な関連を持ち、両者が本質的特
徴をなす技術思想であることは既に述べたとおりである。したがつて、一個の基点
プーリーなる構成を具えていない本件機械における対応構成に対し、右代替はこの
種機械の設計上慣用せられる技術手段であり両者は自由な選択範囲に属する設計上
の微差であるとか、出願時の技術水準からみて当業者に容易に実施し得る均等の手
段あるいは本件特許権の追及から免れるための手段としてなされた改悪であるなど
を理由として原告が主張するところは、畢竟、本件特許発明の本質的特微について
変更を来さしめるものであつて、採用することができない。
 原告は、また本件機械は本件特許発明の迂回方法に過ぎない旨主張する。しか
し、本件機械においてはそもそも本件特許発明における基点プーリーなるものを欠
くのである。なるほど本件機械における駆動プーリーは二個であつて本件特許発明
における基点プーリー一個より数において一個多いが、本件機械における二個の駆
動プーリーは、それぞれ独立して始、末プーリーとの間にベルトが掛け渡されて駆
動するのであつて、そのうち一が基点プーリーの機能を営み、他は余分という関係
のものでないことが明らかである。本件機械について、原告の右主張はおよそ当ら
ないといわなければならない。
九 よつて、被告による本件機械の製造販売が原告の本件特許権を侵害するもので
あることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく
失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 大江健次郎 小倉顕 北山元章)
図面の説明書
 第一図はベルトを省略せる斜面図、第二図は使用状態の平面図
 一端を機壁2に固定し他端を遊離する巻芯1の一側に二個の駆動プーリー3、
3´を、また他側に始末二個のプーリー4、5を設け、これ等のプーリー3´、4
および3、5は交叉する腕6、7の両端にそれぞれ取付け、腕6、7は交叉点に取
付けた支軸10を中心に開閉する。二個の駆動プーリー3、3´は同一直径を有
し、歯車で連動して同一速度で回転するような構造である。そして駆動プーリー
3´と始プーリー4とにわたり巻芯1の外周を一巻きするように始ベルト8を架設
し、駆動プーリー3と末プーリー5とにわたり巻芯1の外周を始ベルト8と逆方向
に一巻きするように末ベルト9を架設する。
<11959-001>
<11959-002>

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