弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中八〇〇日を第一審判決の懲役刑に算入する。
         理    由
 一 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、憲法違反をいう点について
 1 所論は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受すること(以
下「電話傍受」という。)は、本件当時、捜査の手段として法律に定められていな
い強制処分であるから、それを許可する令状の発付及びこれに基づく電話傍受は、
刑訴法一九七条一項ただし書に規定する強制処分法定主義に反し違法であるのみな
らず、憲法三一条、三五条に違反し、ひいては、憲法一三条、二一条二項に違反す
ると主張する。
 2 電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害す
る強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されな
いものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。そし
て、【要旨】重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足
りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる
蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必
要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍
受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行う
ことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に
従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。
 3 そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能
であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存してい
なかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合
に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施するこ
とは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。
 (一) 電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、
五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証として
の性質をも有するということができる。
 (二) 裁判官は、捜査機関から提出される資料により、当該電話傍受が前記の
要件を満たすか否かを事前に審査することが可能である。
 (三) 検証許可状の「検証すべき場所若しくは物」(刑訴法二一九条一項)の
記載に当たり、傍受すべき通話、傍受の対象となる電話回線、傍受実施の方法及び
場所、傍受ができる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という
要請を相当程度満たすことができる。
 (四) 身体検査令状に関する同法二一八条五項は、その規定する条件の付加が
強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外
の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、電話傍受の実
施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象
外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない
旨を検証の条件として付することができる。
 (五) なお、捜査機関において、電話傍受の実施中、傍受すべき通話に該当す
るかどうかが明らかでない通話について、その判断に必要な限度で、当該通話の傍
受をすることは、同法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得る。
 もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知
の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があるこ
とは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ない
と認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施
され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許さ
れなかったとまで解するのは相当でない。
 4 これを本件についてみると、原判決及びその是認する第一審判決の認定によ
れば、本件電話傍受の経緯は、次のとおりである。
 (一) 北海道警察旭川方面本部の警察官は、旭川簡易裁判所の裁判官に対し、
氏名不詳の被疑者らに対する覚せい剤取締法違反被疑事件について、電話傍受を検
証として行うことを許可する旨の検証許可状を請求した。警察官の提出した資料に
よれば、以下の事情が明らかであった。すなわち、犯罪事実は、営利目的による覚
せい剤の譲渡しであり、その嫌疑は明白であった。同犯罪は、暴力団による組織的、
継続的な覚せい剤密売の一環として行われたものであって、密売の態様は、暴力団
組事務所のあるマンションの居室に設置された電話で客から覚せい剤買受けの注文
を受け、その客に一定の場所に赴くよう指示した上、右場所で覚せい剤の譲渡しに
及ぶというものであったが、電話受付担当者と譲渡し担当者は別人であり、それら
の担当者や両者の具体的連絡方法などを特定するに足りる証拠を収集することがで
きなかった。右居室には二台の電話機が設置されており、一台は覚せい剤買受けの
注文を受け付けるための専用電話である可能性が極めて高く、もう一台は受付担当
者と譲渡し担当者との間の覚せい剤密売に関する連絡用電話である可能性があった。
そのため、右二台に関する電話傍受により得られる証拠は、覚せい剤密売の実態を
解明し被疑者らを特定するために重要かつ必要なものであり、他の手段を用いて右
目的を達成することは著しく困難であった。
 (二) 裁判官は、検証すべき場所及び物を「A株式会社B支店一一三サービス
担当試験室及び同支店保守管理にかかる同室内の機器」、検証すべき内容を「(前
記二台の電話)に発着信される通話内容及び同室内の機器の状況(ただし、覚せい
剤取引に関する通話内容に限定する)」、検証の期間を「平成六年七月二二日から
同月二三日までの間(ただし、各日とも午後五時〇〇分から午後一一時〇〇分まで
の間に限る)」、検証の方法を「地方公務員二名を立ち会わせて通話内容を分配器
のスピーカーで拡声して聴取するとともに録音する。その際、対象外と思料される
通話内容については、スピーカーの音声遮断及び録音中止のため、立会人をして直
ちに分配器の電源スイッチを切断させる。」と記載した検証許可状を発付した。
 (三) 警察官は、右検証許可状に基づき、右記載の各制限を遵守して、電話傍
受を実施した。
 右の経緯に照らすと、本件電話傍受は、前記の一定の要件を満たす場合において、
対象をできる限り限定し、かつ、適切な条件を付した検証許可状により行われたも
のと認めることができる。
 5 以上のとおり、電話傍受は本件当時捜査の手段として法律上認められていな
かったということはできず、また、本件検証許可状による電話傍受は法律の定める
手続に従って行われたものと認められる。所論は、右と異なる解釈の下に違憲をい
うものであって、その前提を欠くものといわなければならない。
 二 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、その余の点は、単なる法令違反の
主張であり、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、
いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、平成七年法律第九一号による改正
前の刑法二一条により、主文のとおり決定する。この決定は、裁判官元原利文の反
対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官元原利文の反対意見は、次のとおりである。
 私は、電話傍受が本件当時捜査の手段として法律上認められていなかった強制処
分であり、本件電話傍受により得られた証拠の証拠能力は否定されるべきであるか
ら、これを肯定した原判決は破棄すべきものと考える。以下にその理由を述べる。
 一 電話傍受は、憲法二一条二項が保障する通信の秘密や、憲法一三条に由来す
るプライバシーの権利に対する重大な制約となる行為であるから、よしんばこれを
行うとしても、憲法三五条が定める令状主義の規制に服するとともに、憲法三一条
が求める適正な手続が保障されなければならない。電話傍受は、多数意見のいうと
おり、検証としての性質をも有することは否めないところであるが、傍受の対象に
犯罪と無関係な通話が混入する可能性は、程度の差はあっても否定することができ
ず、傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するか否かを判断するために選別的な聴
取を行うことは避けられないものである。多数意見は、そのような選別的な聴取は、
刑訴法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得るというが、犯罪に関係
のある通話についてのみ検証が許されるとしながら、前段階の付随的な処分にすぎ
ない「必要な処分」に無関係通話の傍受を含めることは、不合理というべきである。
電話傍受に不可避的に伴う選別的な聴取は、検証のための「必要な処分」の範囲を
超えるものであり、この点で、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことには無理
があるといわなければならない。
 二 電話傍受にあっては、その性質上令状の事前呈示の要件(刑訴法二二二条一
項、一一〇条)を満たすことができないのはやむを得ないところであるが、適正手
続の保障の見地から、少なくとも傍受終了後合理的な期間内に処分対象者に対し処
分の内容について告知をすることが必要であるというべきである。また、電話傍受
は、情報の押収という側面を有するから、違法な傍受が行われたときは、処分対象
者に対し原状回復のための不服申立ての途が保障されていなければならない。とこ
ろが、検証については、郵便物等の押収に関する処分対象者への事後通知(同法一
〇〇条三項)のような規定はなく、また、「押収に関する裁判又は処分」として準
抗告の対象とすること(同法四二九条一項、四三〇条一項、二項)も認められてい
ない。このように事後の告知及び不服申立ての各規定を欠く点で、電話傍受を刑訴
法上の検証として行うことは、許されないというべきである。多数意見は、右の点
を理由に検証許可状により電話傍受を行うことが許されなかったとまで解するのは
相当でないというが、適正手続の保障への配慮が不十分であり、賛同することがで
きない。
 三 以上の二点において、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことはできない
と解され、他に本件当時電話傍受を捜査の手段として許容する法律上の根拠が存し
たと認めることもできない。そうすると、電話傍受は本件当時捜査の手段として法
律上認められていなかったものであり、検証許可状により行われた本件電話傍受は
違法であるといわざるを得ない。そして、右違法は、法律上許容されない令状に基
づき強制処分を行ったという点において、令状主義の精神を没却するような重大な
違法に当たることが明らかであるから、本件電話傍受により得られた検証調書等の
証拠能力は否定されるべきである(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九
月七日第一小法廷判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。よって、右証拠の証拠
能力を肯定した原判決は法令に違反し、その違法は判決に影響を及ぼし、原判決を
破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田
昌道)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛