弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人長沢美智子,同近藤直子,上告補助参加代理人岸和正の上告受理申立
て理由第1について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,株式会社D(以下「D」という。)に対し,以下のとおり,
金員を貸し付けた。
 ア 契約日 平成4年3月13日
   貸金交付日 同月30日に6億1440万円
         同年4月30日に9億0580万円
   元金 15億2020万円
   利率 年5.9%(年365日の日割計算)
   損害金の割合 年14.5%(年365日の日割計算)
   最終返済期限 平成11年3月12日
  (以下,この貸金債権を「本件債権(あ)」という。)
 イ 契約日 平成5年2月22日
   貸金交付日 同年3月30日
   元金 17億7000万円
   利率 年5.1%(年365日の日割計算)
   損害金の割合 年14.5%(年365日の日割計算)
   最終返済期限 平成12年2月21日
(以下,この貸金債権を「本件債権(い)」という。)
 ウ 契約日 平成6年5月23日
   貸金交付日 同年8月30日に22億8350万円
         平成7年9月28日に22億8350万円
   元金 45億6700万円
   利率 年3.75%(年365日の日割計算)
損害金の割合 年14.5%(年365日の日割計算)
   最終返済期限 平成13年5月22日
  (以下,この貸金債権を「本件債権(う)」といい,本件債権(あ)及び本件債権
(い)と併せて「本件各債権」という。)
 (2) 上告人は,各貸金交付日ころ,被上告人に対し,Dの本件各債権に係る債
務を連帯保証した。
 (3) 被上告人は,平成10年12月8日ころ,Dとの間で,最終返済期限を,
本件債権(あ)については平成14年3月10日に,本件債権(い)については同年1
2月10日に,本件債権(う)については平成16年3月10日にそれぞれ変更する
ことを合意した。
 (4) 被上告人は,平成10年12月8日ころ,上告人との間で,上記連帯保証
契約における保証期間を,本件債権(あ)については平成11年3月10日までと,
本件債権(い)については同年12月10日までと,本件債権(う)については平成1
3年3月10日までとそれぞれ定めることを合意した。
 (5) Dは,平成10年12月8日,被上告人との間で,本件各債権を被担保債
権として,D所有の第1審判決別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」と
いう。)につき,第1順位の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定する旨
の合意をし,同月25日,上記合意に基づき,本件不動産につき,抵当権設定登記
を了した。
 (6) 上告人は,本件債権(あ)及び本件債権(い)の保証期間が経過した後の平成
12年2月18日,被上告人に対し,本件債権(う)に係る残債務全額(残元金16
億0500万円,利息1104万8116円,遅延損害金191万2808円の合
計16億1796万0924円)を代位弁済した。
 (7) 上告人は,平成12年4月5日,上記(6)記載の代位弁済を原因とする本件
抵当権の一部移転登記を受けた。
 (8) Dは,平成12年2月15日,東京地方裁判所に対し,会社更生法に基づ
く更生手続開始の申立てをし,同裁判所は,同年5月12日,Dにつき更生手続開
始の決定をした。同裁判所は,平成13年7月30日,Dに対する更生計画(以下
「本件更生計画」という。)の認可決定をし,同年9月1日,本件更生計画は確定
した。Dは,上記更生手続開始の申立てにより,本件各債権につき期限の利益を喪
失した。
 本件更生計画の「更生担保権の権利の変更と弁済方法」の項には,上告人及び被
上告人が有する本件抵当権に係る更生担保権について,本件不動産を売却処分し,
その売却代金につき,「登記簿上の順位に従い1番から順次当該不動産上に担保権
を有する更生担保権者に弁済する」との定めがあるが,この趣旨は,実体法上の担
保権ないし弁済を受ける権利の順位に従って弁済するというものである。
 (9) Dの管財人2名(以下「本件管財人」と総称する。)は,被上告人と上告
人との間で本件管財人が販売する本件不動産の売却代金についての弁済受領権の優
劣関係に争いがあるため,平成13年4月25日,被上告人との間で,①本件不動
産の売却代金につき,被上告人3億6730万円対上告人16億0500万円の割
合で案分した額をそれぞれ被上告人と上告人に弁済すること及び②被上告人と上告
人との間において弁済受領権の優劣関係の争いが和解成立ないし判決確定により解
決した後は,本件管財人は,上記案分額ではなく,上記解決した内容に従った弁済
を行うものとすることを合意し,これに基づき,平成13年10月31日から平成
15年4月30日までの間に,本件不動産の売却代金の中から,被上告人に対して
は合計9243万3531円,上告人に対しては合計4億0390万9025円を
弁済した。
2 被上告人は,本件不動産の売却代金から上告人が受領した弁済金のうち2億9
099万2349円(被上告人の更生担保権の額3億8342万5880円から被
上告人の弁済受領額9243万3531円を控除した額)につき,被上告人が上告
人に優先して弁済を受ける権利を有していると主張して,上告人に対し,不当利得
返還請求権に基づき,2億9099万2349円及びこれに対する遅延損害金の支
払を求めている。
 3 原審は,概要次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 債権の一部につき代位弁済がされた場合,当該債権を被担保債権とする抵当権の
実行による売却代金からの弁済の受領については,代位弁済者は,債権者に劣後す
るものと解するのが相当であるが(最高裁昭和56年(オ)第1175号同60年
5月23日第一小法廷判決・民集39巻4号940頁),ここにいう「債権の一部
につき代位弁済がされた場合」とは,1個の債権の一部につき代位弁済がされた場
合に限らず,抵当権が数個の債権を被担保債権としている場合において,そのうち
の1個の債権に係る残債務全額につき代位弁済がされたときをも含むものと解する
のが相当である。なぜなら,弁済による代位は,代位弁済者が債務者に対して取得
する求償権を確保するための制度であり,そのために債権者が不利益を被ることを
予定するものではないからである。
 以上によれば,本件抵当権の数個の被担保債権(本件各債権)のうちの1個の債
権(本件債権(う))に係る残債務全額につき代位弁済したにすぎない上告人は,本
件不動産の売却代金からの弁済の受領については,債権者である被上告人に劣後す
る。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 【要旨】不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し,そのうちの1
個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場
合は,当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり,当該抵当不動産の換価による
売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには,債権者と保証人
は,両者間に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り,上
記売却代金につき,債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権
額に応じて案分して弁済を受けるものと解すべきである。なぜなら,この場合は,
民法502条1項所定の債権の一部につき代位弁済がされた場合(前掲最高裁昭和
60年5月23日第一小法廷判決参照)とは異なり,債権者は,上記保証人が代位
によって取得した債権について,抵当権の設定を受け,かつ,保証人を徴した目的
を達して完全な満足を得ており,保証人が当該債権について債権者に代位して上記
売却代金から弁済を受けることによって不利益を被るものとはいえず,また,保証
人が自己の保証していない債権についてまで債権者の優先的な満足を受忍しなけれ
ばならない理由はないからである。原判決引用の判例(最高裁昭和60年(オ)第
872号同62年4月23日第一小法廷判決・金融法務事情1169号29頁)は
,第1順位の根抵当権を有する債権者が,その元本確定後に,複数の被担保債権の
うちの1個の債権に係る残債務全額につき代位弁済を受けた場合,残債権額及び根
抵当権の極度額の限度内において,後順位抵当権者に優先して売却代金から弁済を
受けることができる旨を判示したものであり,本件とは事案を異にする。
 以上によれば,本件抵当権の数個の被担保債権(本件各債権)のうちの1個の債
権(本件債権(う))のみについての保証人である上告人は,当該債権(本件債権(
う))に係る残債務全額につき代位弁済したが,本件管財人によって販売された本
件不動産の売却代金が被担保債権(本件各債権)のすべてを消滅させるに足りない
のであるから,上告人と被上告人は,両者間に上記売却代金からの弁済の受領につ
いての特段の合意がない限り,上記売却代金につき,被上告人が有する残債権額と
上告人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受けるものというべ
きである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人が
上告人に優先して弁済を受ける旨の合意の有無等について更に審理を尽くさせるた
め,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島
田仁郎)

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