弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1甲事件被告らの控訴に基づき,原判決主文第1項ないし第3項
を取り消す。
2上記取消しに係る甲事件原告の請求をいずれも棄却する。
3甲事件被告らのその余の控訴をいずれも棄却する。
4甲事件原告の控訴をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,第1,2審を通じて,甲事件原告に生じた費用は
甲事件原告の負担とし,甲事件被告ら及び乙事件被告らに生じた
費用は甲事件被告らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1甲事件原告
(1)原判決を次のとおり変更する。
ア甲事件被告らは,別紙1物件目録記載(1)の図書の出版,配送,発送,
頒布,販売等を一切してはならない。
イ甲事件被告らは,別紙1物件目録記載(2)のウェブサイトにある記載を
削除せよ。
ウ甲事件被告Aは,甲事件被告Aが開設している「B」のウェブサイトに
掲載している「『C被告が胃潰瘍で血便や吐血』と弁護団2010/0
7/13」と題する記事,「広島法務局,C被告の人権救済申し立てに関
する調査を中止2010/07/14」と題する記事及び甲事件原告を
実名で記載した記事をすべて削除せよ。
エ甲事件被告Aは,甲事件被告Aが開設している「B」のウェブサイトに
甲事件原告の実名を含む記事を掲載してはならない。
オ甲事件被告らは,甲事件原告に対し,連帯して,1200万円及びうち
1100万円に対する平成21年10月7日から,うち100万円に対す
る平成22年7月13日からいずれも支払済みまで年5分の割合による各
金員を支払え。
(2)訴訟費用は,第1,2審とも,甲事件被告らの負担とする。
(3)(1)オにつき,仮執行の宣言
2甲事件被告ら
(1)原判決中甲事件被告ら敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消しに係る甲事件原告の甲事件請求をいずれも棄却する。
(3)甲事件原告は,甲事件被告Dに対し,1100万円及びこれに対する平成
22年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,11
00万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の
割合による金員の限度で,乙事件被告E,乙事件被告F及び乙事件被告Gと
連帯して)を支払え。
(4)乙事件被告Eは,甲事件被告Dに対し,1100万円及びこれに対する平
成22年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,11
00万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の
割合による金員の限度で,甲事件原告,乙事件被告F及び乙事件被告Gと連
帯して)を支払え。
(5)乙事件被告F及び乙事件被告Gは,甲事件被告Dに対し,甲事件原告及び
乙事件被告Eと連帯して,1100万円及びこれに対する平成22年1月1
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)甲事件原告は,甲事件被告Aに対し,495万円及びこれに対する平成2
2年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,495
万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合
による金員の限度で,乙事件被告E,乙事件被告F及び乙事件被告Gと連帯
して)を支払え。
(7)乙事件被告Eは,甲事件被告Aに対し,495万円及びこれに対する平成
22年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,495
万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合
による金員の限度で,甲事件原告,乙事件被告F及び乙事件被告Gと連帯し
て)を支払え。
(8)乙事件被告F及び乙事件被告Gは,甲事件被告Aに対し,甲事件原告及び
乙事件被告Eと連帯して,495万円及びこれに対する平成22年1月13
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)訴訟費用は,第1,2審とも甲事件原告及び乙事件被告らの負担とする。
(10)(3)ないし(9)につき,仮執行の宣言
第2事案の概要
1甲事件原告は,18歳当時に殺人事件(いわゆる光市母子殺害事件,以下
「本件刑事事件」という。)を犯し,犯人として起訴され,死刑判決が確定し
ている。甲事件被告Dは,本件刑事事件の差戻し控訴審判決(死刑判決)が言
い渡された後,甲事件原告との面会などに基づき,甲事件原告に関する事柄を
記載した書籍(「C君を殺して何になる―光市母子殺害事件の陥穽(かんせ
い)―」。以下「本件書籍」という。)を執筆し,甲事件被告Aを出版者とし
て,これを出版した。
甲事件は,甲事件原告が,本件書籍の出版によってプライバシー権などの人
格権等が侵害されたとして,(ア)甲事件被告らに対し,本件書籍の出版,販売
等の差止め及び甲事件被告Aが開設している「B」という名称のウェブサイト
(以下「本件ウェブサイト」という。)に掲載されている本件書籍の紹介記事
の削除を求め,(イ)甲事件被告Aに対し,本件ウェブサイトに掲載された甲事
件原告に関する記事の削除及び本件ウェブサイトに甲事件原告の実名を含む記
事を掲載することの禁止を求め,(ウ)甲事件被告らに対し,共同不法行為や債
務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき,連帯して1200万円及びその遅
延損害金の支払を求める事案である。
乙事件は,甲事件被告らが,本件書籍をめぐる甲事件原告,本件刑事事件に
おける甲事件原告の弁護人であった乙事件被告らの発言等により,名誉が毀損
されたとして,共同不法行為に基づき,甲事件原告,乙事件被告らに対し,甲
事件被告Dが1100万円及びその遅延損害金,甲事件被告Aが495万円及
びその遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,甲事件について,本件書籍や本件ウェブサイトの記事により,甲
事件原告のプライバシー権,肖像権などが侵害されたとして,甲事件被告らに
対し連帯して33万円,甲事件被告Dに対し22万円,甲事件被告Aに対し1
1万円及びこれらの遅延損害金を甲事件原告に支払うよう命じ,その余の甲事
件原告の甲事件請求を棄却し,甲事件被告らの乙事件請求をいずれも棄却した
ので,甲事件原告,甲事件被告らがそれぞれ控訴をした。
2前提となる事実(証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1)甲事件原告は,平成11年4月14日,本件刑事事件(いわゆる光市母子
殺害事件)を引き起こし,犯人として起訴され,死刑判決が確定してい
る。
(2)本件刑事事件の概要,審理の経過は,次のとおりである(甲事件の甲2
5)。
ア第1審判決が認定した本件刑事事件の概要
本件刑事事件は,当時18歳の少年であった甲事件原告が,平成11年
4月14日午後2時30分ころ,配水管の検査を装って上がり込んだアパ
ートの一室において,当時23歳の主婦を強姦しようとしたが,激しく抵
抗されたため,同女を殺害した上で姦淫し,その後,同所において,激し
く泣き続ける当時生後11か月の同女の長女をも殺害し,その後,同所に
おいて,上記主婦管理の現金等在中の財布1個を窃取したというものであ
る。
イ本件刑事事件の審理経過
本件刑事事件の第1審裁判所(山口地方裁判所)は,平成12年3月2
2日,上記犯罪事実を認定して,甲事件原告を無期懲役に処する旨の判決
を言い渡した。
第1審判決に対し,検察官が,量刑不当を理由に控訴を申し立てた。差
戻し前の控訴審裁判所(広島高等裁判所)は,平成14年3月14日,第
1審判決の量刑を相当として,検察官の控訴を棄却する旨の判決を言い渡
した。
差戻し前の控訴審判決に対し,検察官が上告を申し立てた。差戻し前の
上告審裁判所(最高裁判所)は,平成18年6月20日,「原判決は,量
刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選択を回避する
に足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく,被告
人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認したものであって,その刑
の量定は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反す
る」として,差戻し前の控訴審判決を破棄し,本件刑事事件を広島高等裁
判所に差し戻す旨の判決を言い渡した。
差戻し後の控訴審裁判所(広島高等裁判所)は,平成20年4月22
日,差戻し前の上告審が指摘した「死刑の選択を回避するに足りる特に酌
量すべき事情」は認められないとして,甲事件原告を無期懲役に処した第
1審判決を破棄し,甲事件原告を死刑に処する旨の判決を言い渡した。
差戻し後の控訴審判決に対し,甲事件原告が上告を申し立てたところ,
差戻し後の上告審裁判所(最高裁判所)は,平成24年2月20日,上告
を棄却する旨の判決を言い渡したので,甲事件原告を死刑に処した差戻し
後の控訴審判決が確定した。
(3)甲事件被告Dは,本件刑事事件の差戻し控訴審判決(死刑判決)が言い渡
された後の平成21年10月7日(当時甲事件原告は28歳),甲事件原告
との面会などに基づき,甲事件原告に関する事柄を記載した本件書籍(「C
君を殺して何になる―光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)―」)を執筆
し,甲事件被告Aを出版者として,これを出版した。
(4)本件書籍の出版に関する甲事件原告及び乙事件被告らと甲事件被告らとの
間のやりとりなどは次のとおりである。
ア甲事件被告Aは,「H」という名称で出版業を営み,本件ウェブサイト
を開設しているところ,平成21年9月27日ころ,本件ウェブサイト
に,本件書籍の紹介記事(別紙2。以下「本件紹介記事」という。)を掲
載した。
イ甲事件原告は,平成21年10月5日,広島地方裁判所に対し,甲事件
被告らを相手方として,本件書籍の出版,販売等の一時差止め等を求める
旨の仮処分(以下「本件仮処分」という。)を申し立てた。
広島地方裁判所は,同年11月9日,本件仮処分の申立てを却下する旨
の決定をした。
ウ本件書籍(初版4000部)は,平成21年10月7日,出版された。
エ甲事件原告は,平成21年10月15日,広島地方裁判所に対し,本件
書籍の出版差止め等を求めて,本件訴えを提起した。
オ乙事件被告F及び乙事件被告Gは,本件刑事事件の甲事件原告の弁護人
であったが,本件仮処分申立て後に,「週刊誌I」の記者から取材を受
け,これに基づき,週刊誌I2009年(平成21年)10月23日号
に,別紙3のとおり,「山口・光市母子殺害事件『元少年実名本』の驚く
中身弁護団vs著者・出版元」と題する記事が掲載された。
乙事件被告Eは,本件刑事事件の甲事件原告の弁護人であったが,本件
仮処分の申立て後である平成21年10月24日,仙台市で開催された市
民集会に参加し,本件書籍の出版等について,発言した。
乙事件被告Fは,平成21年11月26日の甲事件第1回口頭弁論期日
の終了後,記者会見を行った。
カ甲事件被告Dは,上記仮処分の申立て及び本件訴え提起の後に,「週刊
誌J」の記者及び「週刊誌K」の記者から取材を受け(以下「本件週刊誌
インタビュー」という。),これに基づき,週刊誌J2009年(平成2
1年)10月27日号には,別紙4のとおり,「光市母子殺害事件『元少
年』実名本著者の反論」と題する記事が,週刊誌K2010年(平成22
年)2月9日号には,別紙5のとおり,「山口県・光市母子殺害事件C
君のことを,一番知りたがったのは普通のお母さんたちでした」と題する
記事が掲載された。
キ甲事件被告Aは,本件訴え提起後である平成22年7月13日,本件ウ
ェブサイトに,「『C被告が胃潰瘍で血便や吐血』と弁護団著者-A
2010年7月13日(火曜日)04:15」,「当方は,相手方の心な
い準備書面にたびたびキズつけられている。ぼく自身は精神科医から新た
に『ポンタール』という頭痛薬の服用を許可され,精神安定剤も増えてい
る一方だ。どうしてくれる?(原文ママ。以下同)ということである。」
との記事(以下「本件記事1」という。)を掲載した。
甲事件被告Aは,翌14日,本件ウェブサイトに,「広島法務局,C被
告の人権救済申し立てに関する調査を中止」との記事(以下「本件記事
2」といい,本件記事1と併せて「本件各記事」という。)を掲載した。
3甲事件原告の甲事件請求原因
(1)甲事件被告Dの甲事件原告との面会
ア甲事件被告Dは,ジャーナリストである身分を偽り,取材目的を秘し
て,平成20年8月ころから,本件刑事事件のため広島拘置所に在所中の
甲事件原告と面会するようになった。甲事件原告は,取材ではなく,友人
として(プライベートなものとして),甲事件被告Dとの面会を続けてい
た。
イ甲事件被告Dは,甲事件原告と面会を続ける中で(平成20年10月2
7日から29日ころ),甲事件原告に対し,「光市事件について何らか
(の媒体)に文書をまとめて発表したい」旨述べた。これに対し,甲事件
原告は,甲事件被告Dに対し,「何らか(の媒体)に文書を発表する際に
は必ずその原稿内容などを事前に確認させてくれるのか」と質問したとこ
ろ,被告Dは,「そうである。」と答えた。また,甲事件原告は,その
後,甲事件被告Dに対し,甲事件原告の親族,知人及び関係者の実名を出
したり,その人たちの生活を脅かすようなことをしないことを約束するよ
う求めたところ,甲事件被告Dはこれを承諾した。さらに,甲事件原告
は,甲事件被告Dに対し,知人(以下「本件知人」という。)が原告に宛
てた手紙(以下「本件知人手紙」という。)を第三者に公開しないように
念を押したところ,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,本件知人手紙を
第三者に公開しない旨の誓約書を交付した。
(2)本件書籍の出版
甲事件被告Dは,平成21年8月ころまで,甲事件原告と面会等を繰り返
し,これにより得た情報などにより,甲事件原告に関する事柄を記載した本
件書籍(「C君を殺して何になる―光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)
―」)を執筆し,甲事件原告に内容確認の機会を与えず,その同意がないま
ま,同年10月7日,甲事件被告Aを出版者として,これを出版した。
(3)本件書籍による権利侵害
アプライバシー権の侵害
(ア)本件書籍には,甲事件原告が広島拘置所内で甲事件被告Dと面会し
た際に述べた甲事件原告の私的な会話内容が記載されている。
このような私的な会話内容は,甲事件原告が他人にみだりに知られた
くない情報であるから,これを甲事件原告に無断で公開したことは,甲
事件原告のプライバシー権を侵害するものである。
(イ)本件書籍には,甲事件原告の実名が記載されている。甲事件原告の
実名は,甲事件原告が他人にみだりに知られたくない情報であるから,
甲事件原告の実名を公開したことは,甲事件原告のプライバシー権を侵
害するものである。
(ウ)本件書籍には,甲事件原告の親族が「L小学校の近くの戸建て住
宅」に居住していると記載されているので,住宅地図などにより当該地
域以外の者にも特定可能な状態となっている。甲事件被告Dは,甲事件
原告に対し,甲事件原告の親族の生活を脅かすようなことをしないこと
を約束していたのであるから,甲事件被告Dが,甲事件原告の親族の居
住地を具体的に記載したことは,甲事件原告のプライバシー権を侵害す
るものである。
(エ)本件書籍には,甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた最初の手紙(平
成20年5月7日消印の手紙。以下「本件手紙1」という。)の写真が
掲載され,その内容もそのまま引用されている。また,本件手紙1は,
甲事件被告Dが,「私は検察やマスコミにリークすることは決してあり
ません。」と記載した甲事件被告Dの甲事件原告宛ての手紙の返事であ
って,公開されないことが約束されていたものである。そうすると,本
件手紙1は,公開することが予定されておらず,その性質上私生活に属
する事柄であって,一般人の感受性を基準にすれば公開を欲しないもの
である上,甲事件被告Dが公開しないことを約束していたものであるか
ら,甲事件被告Dが,甲事件原告に無断でこれを公開したことは,甲事
件原告のプライバシー権を侵害するものである。
(オ)本件書籍には,本件知人が甲事件原告に宛てた本件知人手紙の写真
が掲載され,その内容もそのまま引用されている。甲事件被告Dは,甲
事件原告に対し,誓約書を差し入れて,本件知人手紙を第三者に公開し
ないことを約束して,甲事件原告から,本件知人手紙の提供を受けてい
たものであるから,本件知人手紙は,公開することが予定されておら
ず,その性質上私生活に属する事柄であって,一般人の感受性を基準に
すれば公開を欲しないものである上,甲事件被告Dが公開しないことを
約束していたものであるから,甲事件被告Dが,甲事件原告に無断でこ
れを公開したことは,甲事件原告のプライバシー権を侵害するものであ
る。
イプライバシー権及び肖像権の侵害
本件書籍には,中学校の卒業アルバムから複写した甲事件原告の顔写真
が掲載されている。甲事件原告の顔写真は,甲事件原告が他人にみだりに
知られたくない情報であるから,甲事件原告の顔写真を無断で公開したこ
とは,甲事件原告のプライバシー権を侵害するものである。
また,上記顔写真は,本件刑事事件発生時から3年以上も前のもので
あり,およそ出版を想定していない中学校の卒業アルバムの写真であり,
また,少年法61条違反であることも考慮すれば,顔写真を掲載する必要
性ないし相当性はなく,無断で公開したことは,甲事件原告の肖像権を侵
害するものである。
ウ名誉権の侵害
本件書籍は,甲事件原告の会話内容について,甲事件被告Dの勝手な解
釈による思い込みを羅列していて,甲事件原告に対する誤ったイメージを
読者に与えるものであり,また,甲事件原告の死刑判決が確定し,死刑執
行されることを前提とした内容となっていて,あたかも甲事件原告が死刑
になることが確定しているかのような印象を読者に与えるほか,甲事件原
告が死刑相当であるとの否定的評価を行っている。したがって,本件書籍
の上記内容は,甲事件原告の社会的評価を低下させるものであって,甲事
件原告の名誉権を侵害するものである。
エ著作者人格権等の侵害
本件書籍には,本件手紙1のほか,甲事件原告の平成20年7月1日付
け手紙(以下「本件手紙2」という。)の内容がそのまま引用されてい
る。本件手紙1及び本件手紙2は,甲事件原告の著作物であるから,無断
で使用したことは,甲事件原告の著作者人格権としての公表権(著作権法
18条)及び著作権としての複製権(同法21条)を侵害するものであ
る。
オ成長発達権の侵害
本件書籍は,タイトル及び内容に甲事件原告の実名が付され,また,中
学校の卒業アルバムから複写した甲事件原告の顔写真,甲事件原告が甲事
件被告Dに宛てた手紙も掲載され,甲事件原告の親族の居住地も記載され
ている。
したがって,本件書籍が,少年のとき犯した罪により公訴を提起された
者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事
件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を出版物
に掲載してはならないと規定する少年法61条に違反し,同条によって保
障された成長発達権を侵害するものである。
カなお,本件書籍の内容には,公共の目的はなく,公益を図るものでもな
く,その違法性を阻却する事由は存しない。
(4)本件紹介記事による権利侵害
本件紹介記事には,「「C君が死刑になることで,何か1つでも,社会に
とって得るものがあってほしい」と願い,取材を続けた著者」との記載があ
って,甲事件原告が死刑になることを前提とするような書きぶりをしてお
り,これは,甲事件原告の人格権を侵害するものである。
(5)本件各記事による権利侵害
本件各記事は,甲事件原告の実名を記載するもので,少年法61条に違反
し,また,本件記事1は,甲事件原告の身体・健康・医療という他人に知ら
れたくない情報を公表し,訴訟目的で裁判所に提出された甲事件原告の陳述
書の一部を無断で原文のまま使用していて,甲事件原告のプライバシー権及
び名誉権を侵害した。
(6)本件週刊誌インタビューによる権利侵害
甲事件被告Dは,本件書籍が出版された後に,「週刊誌J」及び「週刊誌
K」の記者の本件週刊誌インタビューに応じ,甲事件原告が甲事件被告Dに
宛てた手紙を公開するなどして,甲事件原告のプライバシー権及び名誉権を
侵害した。
(7)甲事件被告Dの債務不履行責任及び不法行為責任,甲事件被告Aの不法行
為責任
甲事件被告Dは,甲事件原告との間で,①事前に原稿内容等を確認させる
こと,②本件知人が甲事件原告に宛てた手紙を第三者に公開しないこと,③
甲事件原告の親族,知人及び関係者の実名を出したり,生活を脅かすような
ことをしたりしないことについて合意をしていたが,これらに違反したもの
である。また,本件書籍は,甲事件原告の成長発達権,プライバシー権,名
誉権,肖像権,著作権及び著作者人格権を違法に侵害するものである。
したがって,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,債務不履行責任及び不
法行為責任を負い,甲事件被告Aは,甲事件原告に対し,不法行為責任を負
う。
(8)甲事件原告の被害
甲事件原告は,友人として(プライベートなものとして)甲事件被告Dと
面会を続けていたが,甲事件被告Dに裏切られ,本件書籍が出版されたこと
によって,日々,精神的苦痛を覚え,精神的に不安定な状態に置かれてお
り,精神安定剤の投与量を増加せざるをえない状況に至り,胃潰瘍を発症し
た。
本件書籍の出版,販売等によって,甲事件原告の精神的苦痛が倍加さ
れ,甲事件原告が平穏な気持ちで生活を送ることが困難となるおそれがあ
り,本件書籍の読者が新たに増えるごとに,甲事件原告の精神的苦痛が増
加し,甲事件原告の平穏な生活が害される可能性も増大する。
また,甲事件原告は,本件書籍が出版され,甲事件原告の実名等のプラ
イバシー情報が公開されたことによって,父親や友人との信頼関係を修復
することが極めて困難になるとともに,甲事件原告の実名や顔写真が公知
の事実となり,これを回復することは不可能である。
さらに,甲事件原告は,今後社会復帰した際に,本件刑事事件の犯人で
あり,前科者であるとの偏見にさらされ,社会生活を送る上で,様々な障
害となることが容易に予想される。
以上により,甲事件原告は,慰謝料1100万円,弁護士費用100万
円の合計1200万円の損害を被った。
(9)甲事件原告の甲事件請求
よって,甲事件原告は,
ア甲事件被告らに対し,甲事件原告の人格権(成長発達権,プライバシー
権,名誉権,肖像権,著作権及び著作者人格権)に基づき,本件書籍の出
版,販売等の差止めを求め,
イ甲事件被告らに対し,甲事件原告の人格権に基づき,本件ウェブサイト
に掲載されている本件紹介記事の削除を求め,
ウ甲事件被告Aに対し,人格権に基づき,本件ウェブサイトに掲載された
本件各記事の削除及び甲事件原告の実名が記載された記事の掲載禁止を求
め,
エ甲事件被告らに対し,甲事件被告Dは,債務不履行又は不法行為による
損害賠償請求権に基づき,甲事件被告Aは,不法行為による損害賠償請求
権に基づき,連帯して,1200万円(慰謝料1100万円及び弁護士費
用100万円)及びうち1100万円に対する平成21年10月7日か
ら,うち100万円に対する平成22年7月13日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4甲事件被告らの甲事件請求原因に対する認否,反論
(1)甲事件原告の権利が侵害されたとの主張は争う。
本件書籍,本件紹介記事,本件各記事,本件週刊誌インタビューは,甲事
件原告のプライバシー権,名誉権,肖像権,著作権及び著作者人格権を侵害
するものではなく,また,少年法61条から成長発達権を認めることはでき
ない。かえって,甲事件原告は,甲事件被告Dが甲事件原告の実名を記載す
るなどして本件書籍を出版することを同意していたのである。なお,甲事件
原告の実名及び顔写真は,週刊誌などによって繰り返し報道されており,イ
ンターネット上でも広く公開されているので,公知の事実となっている上,
本件刑事事件は,社会的に正当な関心事であるから,実名及び顔写真の公表
は,表現の自由として許容されるものである。
(2)甲事件被告らに債務不履行責任又は不法行為責任があるとの主張は争う。
甲事件被告Dが,甲事件原告との間で,①事前に原稿内容等を確認させる
こと,②甲事件原告の親族,知人及び関係者の実名を出したり,生活を脅か
すようなことをしたりしないことを合意したことはない。甲事件被告Dは,
甲事件原告に対し,本件知人手紙を第三者に公開しない旨の誓約書を交付し
たが,平成21年6月18日の面会において,本件知人手紙を本件書籍の中
で引用させてほしい旨依頼し,甲事件原告の承諾を得ている。
5甲事件被告らの乙事件請求原因
(1)週刊誌Iの記事
ア週刊誌I2009年10月23日号に,乙事件被告G,乙事件被告Fら
に対する取材に基づき,「山口・光市母子殺害事件『元少年実名本』の驚
く中身」と題する記事(以下「本件週刊誌Iの記事」という。)が掲載さ
れた。
イ本件週刊誌Iの記事には,①甲事件原告が,本件書籍の出版,販売等の
一時差止め等の仮処分の申立てをした理由として,本件書籍を出版する前
に,甲事件原告と甲事件被告Dとの間に,本件書籍の原稿を甲事件原告に
見せて確認させる約束があったのに,甲事件被告Dがこの約束を反故にし
たと説明していること(以下「本件発言1」という。),②乙事件被告G
が,甲事件原告が上記①の説明をしたと述べていること(以下「本件発言
2」という。),③乙事件被告Fが,甲事件被告Dについて,「当初,取
材目的であることを明確に告げず,甲事件原告に心を寄せるひとりの女性
として元少年(甲事件原告)に近づいた手法も認めがたい」と説明してい
ること(以下「本件発言3」という。),④乙事件被告Fが,本件書籍に
つき,「実名表記は話題性だけを狙ったものではないでしょうか。そもそ
もタイトルが,あたかも死刑が確定しているような誤った印象を与える極
めて心ないものです」と説明していること(以下「本件発言4」とい
う。)が記載されている。
ウ(ア)本件発言1は,甲事件被告Dが,取材のためには取材対象者との約
束も平気で反故するジャーナリストであるかのような間違った印象を
与えるものであって,甲事件被告Dの社会的評価を低下させ,その名
誉を毀損するものである。
(イ)本件発言2は,甲事件被告Dが,取材のためには取材対象者との約
束も平気で反故するジャーナリストであるかのような間違った印象を与
えるものであって,甲事件被告Dの社会的評価を低下させ,その名誉を
毀損するものである。
(ウ)本件発言3は,甲事件被告Dが,出版のためには,ジャーナリスト
であることを秘し,女性であることを利用して取材対象者に取り入るこ
とも辞さないジャーナリストであるかのような間違った印象を与えるも
のであって,甲事件被告Dの社会的評価を低下させ,その名誉を毀損す
るものである。
(エ)本件発言4は,甲事件被告D及び甲事件被告Aが,あたかも話題性
だけを狙って出版を行うジャーナリストであり,あるいは,甲事件被告
Aが話題性だけを狙って出版を行う出版者であるとの間違った印象を与
え,かつ,甲事件被告D及び甲事件被告Aが,あたかも死刑が確定して
いるような誤った印象を与える極めて心ないジャーナリストであり,あ
るいは,甲事件被告Aがあたかも死刑が確定しているような印象を与え
る極めて心ない出版者であるとの間違った印象を与えるものであって,
甲事件被告D及び甲事件被告Aの社会的評価を低下させ,その名誉を毀
損するものである。
(2)本件記載に係る記事
ア乙事件被告G及び乙事件被告Fらが週刊誌Iの記者に提供した本件仮
処分の申立書に,「債務者(甲事件被告D)は,債権者(甲事件原告)
が取材に応じない場合は,債権者にとって,ますます不利益な内容を書
くかもしれないなどと脅迫的な言辞を用いて債権者に取材に応じること
を強いるといった経緯もあった」旨の記載(以下「本件記載」とい
う。)があることが,本件週刊誌Iの記事の中に掲載された。
イ本件記載は,甲事件被告Dが,出版のためには,取材対象者を脅迫す
ることも辞さないジャーナリストであるかのような間違った印象を与え
るものであって,甲事件被告Dの社会的評価を著しく低下させ,その名
誉を毀損するものである。
(3)乙事件被告Fの記者会見
ア乙事件被告Fは,平成21年11月26日の甲事件第1回口頭弁論期日
の終了後に,記者会見を行い,「甲事件被告Dは,甲事件原告に友人とし
て接触しており,手段を選ばない取材で,その取材方法には取材者として
の倫理観が欠如しており,営業目的が先行している」旨述べた(以下「本
件発言5」という。)。
イ本件発言5は,甲事件被告Dが,出版のためには,ジャーナリストであ
ることを秘して取材対象者に取り入ることも辞さないジャーナリストであ
り,倫理観が欠如した手段を選ばない取材をする取材者の倫理観が欠落し
ているジャーナリストであるかのような間違った印象を与えるものであっ
て,甲事件被告Dの社会的評価を著しく低下させ,その名誉を毀損するも
のである。
(4)乙事件被告Eの市民集会での発言
ア乙事件被告Eは,平成21年10月24日,仙台市内で開催された
「今,裁判が恐ろしい」と題する市民集会において,「私たち(乙事件被
告Eら)が実名を出すこと自体が彼(甲事件原告)の社会復帰を妨げると
主張したことに対して彼ら(甲事件被告D,甲事件被告A及び両被告の代
理人)は『彼は死刑,良くても無期懲役,社会に復帰することは基本的に
ない。したがって彼の更生を考える必要はない』と言います。それを聞い
て私たちはびっくりしました」(以下「本件発言6」という。),「確か
に出版の自由を止めるということは重大なことかもしれない。ただしこの
表現というものは彼を書くという名を借りて,あるいは実名をタイトルに
載せるというセンセーショナルさに名を借りて出版というある種の営業行
為だと思っています」(以下「本件発言7」という。),「この出版につ
いて彼はこういうことを言っていました。『実名掲載することに関しては
彼はその内容いかんで承諾する。だから原稿を見せてほしい。周りの人に
迷惑がかからなければ自分は承諾する』そういう承諾前の状態であった。
しかし彼の元には原稿は送られてきませんでしたし,実はこの本が売られ
た後にも彼には送られてきてない。出版しましたという報告もしていな
い。私どもが買い求めて彼のところに送ってはじめて彼の手元に届いたん
です」(以下「本件発言8」という。),「こうして,徹底的に利用さ
れ,また今回はこういう形で民間人に商売の道具として彼は利用されまし
た」(以下「本件発言9」という。)と述べた。
イ本件発言6は,甲事件被告らが,甲事件原告の更生を否定する人物,ジ
ャーナリストないし出版者であるかのような間違った印象を与えるもので
あって,甲事件被告らの社会的評価を著しく低下させ,その名誉を毀損す
るものである。
本件発言7は,あたかも甲事件被告らが甲事件原告を利用し,利益優先
の営業行為として本件書籍を執筆し出版したジャーナリストないし出版者
であるとの間違った印象を与えるものであって,甲事件被告らの社会的評
価を著しく低下させ,その名誉を毀損するものである。
本件発言8は,あたかも甲事件被告Dが,出版のためには取材対象者と
の約束も平気で反故にするジャーナリストであるかのような間違った印象
や,取材対象に対して当該書籍すら送らないような不誠実なジャーナリス
トであるかのような間違った印象を与えるものであって,甲事件被告Dの
社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものである。
本件発言9は,あたかも甲事件被告らが,甲事件原告を商売の道具とし
て利用し,利益優先の営業行為として本件書籍を執筆し出版したジャーナ
リストないし出版者であるとの間違った印象を与えるものであって,甲事
件被告らの社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものである。
(5)甲事件被告らの損害
ア甲事件被告Dは,上記行為により,慰謝料1000万円,弁護士費用1
00万円相当の合計1100万円の損害を被った。
イ甲事件被告Aは,上記行為により,慰謝料450万円,弁護士費用45
万円相当の合計495万円の損害を被った。
(6)甲事件被告らの乙事件請求
よって,甲事件原告,乙事件被告らに対し,甲事件被告Dは,不法行為に
よる損害賠償請求権に基づき,連帯して,1100万円及びこれに対する乙
事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平成22年1月10日,乙事件被告
F,乙事件被告Gは同月13日,乙事件被告Eは同月9日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,甲事件被告A
は,不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して,495万円及びこ
れに対する乙事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平成22年1月10
日,乙事件被告F,乙事件被告Gは同月13日,乙事件被告Eは同月9日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
6甲事件原告,乙事件被告らの乙事件請求原因に対する認否,反論
ア甲事件被告らの名誉が毀損されたことは争う。
イ本件発言1ないし9,本件記載は,公共の利害に関する事項であり,その
目的に公益性があり,その内容は真実であり,仮に,真実でないとしても,
真実であると信じるにつき相当な理由があるから,違法性はない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,甲事件原告の甲事件被告らに対する甲事件請求及び甲事件被告
らの甲事件原告及び乙事件被告らに対する乙事件請求は,いずれも理由がない
ものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2本件紛争に至る経緯
前提事実,甲1ないし3,5ないし9,11の1,甲12,13,16の
1,2,甲17の1ないし24,甲18,22,23の1ないし4,甲25,
29,30,33の1ないし3,36,39,41,42,乙2の1,2,4
ないし8,21,22,乙3ないし6,9の1,10,乙10の1,乙11の
1,乙13の1,5,7,9,10,乙14の1,乙16,乙18の1,乙2
0,22,25の1ないし3,乙27の1,乙28,乙事件甲1,3,原審甲
事件原告,同甲事件被告D,同甲事件被告A,同乙事件被告F,同乙事件被告
G及び弁論の全趣旨によれば,本件紛争に至る経緯として,次のとおりの事実
が認められる。
(1)本件刑事事件とこれを犯した甲事件原告に対する社会的注目
ア甲事件原告は,平成11年4月14日,主婦及び幼児の計2名を殺害
して,本件刑事事件(いわゆる光市母子殺害事件)を引き起こし,犯人
として起訴された。
イ本件刑事事件の第1審裁判所(山口地方裁判所)は,平成12年3月2
2日,上記犯罪事実を認定して,甲事件原告を無期懲役に処する旨の判決
を言い渡した。第1審判決に対し,検察官が,量刑不当を理由に控訴を申
し立てたが,差戻し前の控訴審裁判所(広島高等裁判所)は,平成14年
3月14日,第1審判決の量刑を相当として,検察官の控訴を棄却する旨
の判決を言い渡した。
差戻し前の控訴審判決に対し,検察官が上告を申し立てたところ,差
戻し前の上告審裁判所(最高裁判所)は,平成18年6月20日,「原
判決は,量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選
択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くす
ことなく,被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認したもの
であって,その刑の量定は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ
著しく正義に反する」として,差戻し前の控訴審判決を破棄し,本件刑
事事件を広島高等裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した。
差戻し後の控訴審裁判所(広島高等裁判所)では,乙事件被告E(主任
弁護人),乙事件被告F,乙事件被告Gらが,甲事件原告の弁護人となっ
て弁護団を結成し,殺人,強姦,窃盗の故意を否認するなど公訴事実を全
面的に争ったが,広島高等裁判所は,平成20年4月22日,第1審判決
が認定した罪となるべき事実を認定した上,「死刑の選択を回避するに足
りる特に酌量すべき事情」が認められないとして,検察官の量刑不当の控
訴を容れ,甲事件原告を無期懲役に処した第1審判決を破棄し,甲事件原
告を死刑に処する旨の判決を宣告した。
甲事件原告は,上記控訴審判決を不服として,上告したが,差戻し後の
最高裁判所は,平成24年2月20日,上告を棄却する旨の判決を言い渡
し,甲事件原告を死刑に処した差戻し後の控訴審判決が確定した。
ウ本件刑事事件は,犯行当時18歳の少年であった甲事件原告が,白昼,
配水管の検査を装って,夫不在の被害者方のアパートに上がり込み,何ら
落ち度のない主婦及び幼児の計2名を殺害したという残虐な事件として世
間の注目を浴びるとともに,遺族から犯行時少年であっても死刑に処して
欲しいとの厳しい処罰感情が表明され,犯行当時少年であった甲事件原告
を死刑に処すべきかどうかの問題がマスコミで大きく取り上げられ,世間
一般の強い関心と注目を集めた。特に,差戻し後の控訴審では,甲事件原
告の弁護団の訴訟活動や審理状況などが大きく報道され,それまでにも増
して広く社会的関心を集め(甲35),また,この間,本件刑事事件を初
めとする少年による凶悪犯罪への対処や犯罪被害者の手続参加が社会問題
となり,平成16年には犯罪被害者基本法が制定されるに至っていた。
(2)甲事件被告Dが甲事件原告と面会するまでの経緯
ア甲事件被告Dは,東京に居住する者であるが,平成18年3月,M株式
会社に入社し,インターネットのニュースサイトの編集部で記者兼編集者
として勤務するようになり,そのころ,ジャーナリストである甲事件被告
Aと知り合った。甲事件被告Aは,その後,甲事件被告Dの相談に乗った
り,取材上のアドバイスをするようになった。
甲事件被告Dは,平成19年1月ころ,M株式会社を退社し,同年4
月,株式会社Nの内政部でデスク補助のアルバイトとして勤務するかたわ
ら,フリーライターとして,雑誌,インターネットのニュースサイト等に
記事を執筆していた。
イ甲事件被告Dは,本件刑事事件についての報道や裁判のあり方に疑問を
抱くようになっていたところ,差戻し後の控訴審が,平成20年4月22
日,甲事件原告に対し,死刑に処する旨の判決を言い渡し,甲事件原告
が,これを不服として,上告する状況となった。
甲事件被告Dは,これを機に,本件刑事事件に関する取材をして何らか
の原稿を執筆したいと企図し,広島拘置所在所中の甲事件原告に手紙を書
いてみようと考え,甲事件被告Aから拘置所への手紙の出し方などの助言
を得た上,同月30日,甲事件原告に宛てて手紙(甲1,乙2の3)を郵
送した。この手紙には,甲事件被告Dが東京のフリーライターであり,甲
事件原告と同じ昭和55年生まれであること,本件刑事事件の報道は一方
的で,何が真実なのか,何故あのような事件が起こったのか知ることがで
きず,甲事件原告やその家族との関係等がわからないこと,東京から広島
まで行って甲事件原告と面会し,甲事件原告が本件刑事事件,被害者,裁
判,報道及び弁護士について考えていることなどを聞き,本件刑事事件の
真実に迫りたいと考えていること,今回の死刑判決は不当だと思っている
ので,その確定を避けるため,何かできることがあれば,やりたいと思っ
ていること,検察やマスコミにリークすることは決してないことなどが書
かれていた。
甲事件原告は,上記手紙に対し,同年5月7日消印の本件手紙1(乙2
の4)を返信したが,本件手紙1には,甲事件被告Dとの面会を楽しみに
していること,今は事件のことにふれることはできないが,甲事件原告の
個人的なことなら話せるかもしれないなどと書かれていた。
そこで,甲事件被告Dは,同月13日及び同月24日,甲事件原告に宛
て,同年6月中に面会したいとして,その日時を問い合わせる手紙(甲1
7の1,2)を郵送した。
ウ乙事件被告Fは,平成20年5月13日すぎころ,弁護団の一員とし
て,甲事件原告に接見したが,その際,甲事件原告は,乙事件被告Fに対
し,甲事件被告Dの同日付けの手紙を受け取っており,甲事件被告Dが甲
事件原告との面会を希望している旨を告げ,甲事件被告Dが報道関係者か
否か調査してほしいと依頼した。乙事件被告Fは,甲事件被告Dについて
インターネットで検索したところ,甲事件被告Dとあるマスコミ関係会社
との間で紛争が生じていることが判明したので,インターネット記事を書
く記者ではないかと考え,甲事件原告にその旨を知らせた。
甲事件原告は,これを聞いて,乙事件被告Fに対し,甲事件被告Dとは
面会はしない,手紙も送付しないようにしてほしいとして,その旨を通知
をするよう依頼した。そこで,乙事件被告Fは,甲事件被告Dに対し,同
年6月3日付け通知書(乙2の5)を送付した。同通知書には,甲事件原
告への面会の申出は断ること,甲事件原告へ手紙を差し出さないでほしい
こと,甲事件被告Dが報道関係に身を置くことを隠して甲事件原告に手紙
を差し出したとして,これが極めて不適正で,卑劣なことと考えることな
どが記載されていた。
エ甲事件被告Dは,甲事件原告の弁護団と折衝しても甲事件原告との面会
許可は得られないだろうと考え,平成20年6月16日,直接,広島拘置
所に赴いて甲事件原告との面会を申し込んだが,甲事件原告から,弁護団
を通すようにと伝えられて断られ,面会することはできなかった。
そこで,甲事件被告Dは,弁護団と折衝しようと考え,同日,乙事件被
告Fに電話をかけ,同月19日には,乙事件被告Gにも電話をかけて,本
件刑事事件の取材のため,甲事件原告に面会したい旨を申し出たが,いず
れも断られた(乙37の2,3)。
オ甲事件被告Dは,甲事件原告の理解を得ようと,甲事件原告に対し,同
月23日付け及び同月27日付けの手紙(甲17の3,4,乙11の2,
3)を郵送した。これらの手紙には,乙事件被告Fから上記通知書が来た
こと,乙事件被告Fとの電話でのやりとりの中で,甲事件原告が甲事件被
告Dに手紙を出したのは,取材のためとは思っていなかったからであると
言われたこと,甲事件被告Dは,フリーランスなので,どこかの報道機関
に所属しているわけではなく,甲事件原告から聞いた話を即座に記事にし
ようというつもりはないが,取材した結果,記事にすべきだと思うことが
あれば,記事にしようという気持ちでいること,甲事件原告を死刑にすべ
きだという声が社会的に強くなったのは,甲事件原告が本件知人に宛てて
書いた手紙の影響が大きいと思うので,本件知人を訪ねて話を聞きたいこ
と,そのために,本件知人の名前と住所を教えて欲しいこと,同世代の友
人に聞いたところ,甲事件原告が差戻し後の控訴審で主張していること
は,死刑を回避するため,弁護団が作り上げたストーリーだという意見ば
かりであり,甲事件原告の言いたいことを書き手が忖度して書くと,記事
の信憑性が損なわれるかもしれないため,甲事件原告の声をありのままに
報道する方が事実として受け入れられるのだと実感しているなどと記載さ
れていた。
これに対し,甲事件原告は,甲事件被告Dに対し,平成20年7月1日
付けの手紙(乙2の6)を返送したが,この手紙には,心の準備ができて
いないため,現時点では面会することができないこと,安易に取材に応じ
て,被害者らにさらなる悲しみをひろげることは本意ではないこと,面会
の日は,質問の主旨をよく理解した上で応えていくこととなること,甲事
件原告としては,弁護人には,プライベートな付き合いであるとして,あ
くまで取材ではなく,友人に接するようにして,話し合える場所を確保し
たいこと,前向きに待っていてほしいことなどが書かれていた。
甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,同月7日付けの手紙(甲17の
5)を郵送して上記手紙に対する謝礼と所感を述べ,さらに,同月22日
付けの手紙(甲17の6,乙11の4)を郵送したが,この手紙には,同
月12日に東京で開かれた「光市事件」報道を検証する会で乙事件被告G
と話し,甲事件原告と会えるかどうかは甲事件原告次第であると確認した
こと,面会をお願いすること,甲事件原告は積極的に取材に応じて,もっ
とメディアに露出するべきだなどと書かれていた。
(3)甲事件被告Dの甲事件原告との面会及び取材
ア甲事件被告Dは,上記(2)の経緯を経て,平成20年8月4日,事前の
連絡なく,広島拘置所に赴き,甲事件原告との面会を申し込んだところ,
甲事件原告がこれを承諾したので,甲事件原告と面会をした。甲事件被告
Dは,翌5日も同拘置所に赴き,面会を申し込んだところ,この日も甲事
件原告が承諾したので,甲事件原告と面会をした。
上記各面会で,甲事件原告は,甲事件被告Dの質問に対し,上告趣意書
を書いていること,甲事件原告の父のこと,本件知人のこと,被害者遺族
への謝罪のことなどを話した。
甲事件被告Dと甲事件原告との面会は,その後継続して行われたが,い
ずれも,1日1回,15分ないし30分程度であり(面会時間は15分で
あったが,しばしば延長された。),甲事件被告Dは,あらかじめ,取材
対象として興味を持つ事項について,質問事項を紙面に記載しておき,こ
れに従って,甲事件原告に対し,質問し,甲事件原告がこれに回答する
と,その回答を書き取るという方法で行われた。甲事件被告Dは,面会終
了後間もなく,上記の内容(質問と回答など)をまとめて文章化し,この
形で保存した。
甲事件被告Dは,上記各面会後,甲事件原告に対し,同月7日付けの手
紙(甲17の7)を郵送して面会の謝礼を述べ,また,被害者遺族に対
し,同月8日付けの手紙を書いて取材の申入れをしたが,同月18日及び
20日に電話での取材ができたにとどまった。
他方,甲事件原告は,そのころ,接見した乙事件被告Fに対し,甲事件
被告Dとは取材のためではなく,友人として面会しているなどと,事実と
異なることを報告した(甲42)。また,他の乙事件被告らも,甲事件原
告がマスコミ関係者である甲事件被告Dと面会していることを認識した
が,本件紛争が発生するまで,これを問題視することはなかった。
イ甲事件被告Dは,平成20年9月6日,甲事件原告から教えられたとこ
ろに基づき,本件知人を訪ね,その話を聞き,同月8日,甲事件原告と面
会し,本件知人の話を伝え,また,同月12日付けの手紙(甲17の8)
を郵送して面会の謝礼を述べた。
甲事件被告Dは,本件知人の取材をすることができたので,そのころ,
甲事件原告の人物像を描く記事を雑誌に掲載したいと考え,知り合いの編
集長にその話をもちかけたが,掲載を断られたため,更に取材を重ねて単
行本を出版する計画を立て,差戻し後の控訴審で弁護団から甲事件原告の
精神鑑定等を依頼された医師らに取材を申し入れたが,いずれも断られ
た。
ウ甲事件被告Dは,平成20年10月27日,28日及び29日,甲事件
原告と面会して甲事件原告の父母の話や女性観等について質問し,その話
を聞いたが,その中で,同月28日,甲事件原告に対し,本件知人が甲事
件原告に宛てた本件知人手紙を見せてもらいたいと話したところ,翌29
日の面会終了直前,甲事件原告から「第三者には見せない」との自筆によ
る書面の差入れを求められた。甲事件被告Dは,甲事件被告Aに相談した
ところ,甲事件被告Aから,とりあえず手紙を借り,引用する必要が出て
きたら,その旨をきちんと説明すればよいとの助言を得たことから,同
日,甲事件原告から求められたとおりの書面(甲2,乙13の9。以下
「本件誓約書」という。)を作成し,これを甲事件原告に差し入れた。こ
れに対し,甲事件原告は,甲事件被告Dに対し,同年11月4日付けの手
紙(乙2の8)とともに,本件知人の甲事件原告宛ての本件知人手紙を郵
送した。
甲事件被告Dは,同年10月29日,甲事件原告から聞いた甲事件原告
の父宅を訪ねたが,甲事件原告の義母らからは話を聞けたものの,父と会
うことはできなかったため,同年11月16日,再度甲事件原告の父宅を
訪ね,インターホン越しに,取材をした。
甲事件被告Dは,同年12月8日及び10日,甲事件原告と面会し,甲
事件原告から高校2年生時の担任であった女性教師の話を聞いたりした。
エ甲事件被告Dは,上記のとおり,甲事件原告の人物像を描く単行本を出
版しようとしていたが,応じてくれる出版社がなく,平成21年1月こ
ろ,甲事件被告Aの出版の手伝いをしたことなどを契機として,甲事件被
告Aとの間で,上記単行本を甲事件被告A(H)から出版することを合意
した。また,甲事件被告Dは,そのころ,平成21年2月末をもって株式
会社Nの仕事を辞め,同年4月から他の職場(非マスコミ関係)に就職す
ることが決まったため,同年3月中,広島市に滞在して集中的に甲事件原
告の取材をすることとし,甲事件原告に対し,同年2月12日付けの手紙
(甲17の16)でその旨を知らせた。
甲事件被告Dは,同年3月4日から同月16日ころまでの間,広島市に
滞在し,ほぼ連日にわたって甲事件原告と面会し,また,甲事件原告から
教えてもらった小学生時,中学生時,高校生時の同級生の自宅等を訪ねて
取材した。その中で,甲事件原告の中学生時の同級生から卒業アルバム
(以下「本件卒業アルバム」という。)を借りて,甲事件原告に見せたと
ころ,甲事件原告が詳しく見たいと述べたので,同月12日,その全頁を
カラーコピーして甲事件原告に差し入れた(乙2の7)。
オ甲事件被告Dは,平成21年3月27日,甲事件原告と面会し,甲事件
原告に対し,約1年,本件刑事事件を調べてきて,近いうちに単行本にし
ようと思っていること,本件知人の話が聞けたとき,一度,週刊誌の親し
い編集者に記事にしたいと持ち込んだが断られ,それからは単行本にした
いと思っていたこと,今もまだ悩んではいるが,甲事件原告の実名を記載
したいと思っていることなどを伝えた。これに対し,甲事件原告は,「そ
れって,僕の了解が必要なの。週刊誌Oとかは了解なしに書いてるよ
ね。」,「結論から言うと,僕は書いてもらってかまいません。」などと
答え,甲事件被告Dの執筆する単行本に甲事件原告の実名を記載すること
を承諾し,その理由として,匿名だったから甲事件原告への批判はあまり
来ていないが,批判されるべきは甲事件原告であると思うからとの趣旨を
述べた。(乙2の21)。
カ甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,平成21年5月18日付けの手紙
(甲17の19)を郵送したが,この手紙には,3月までに甲事件原告か
ら聞いたことをまとめて文章にしていること,甲事件原告の高校生時の窃
盗事件について不審があるので説明してほしいことや甲事件原告の高校2
年生時の担任女性教師を取材した際に言付かった伝言が記載されていた。
これに対し,甲事件原告は,甲事件被告Dに対し,同月20日付けの手
紙(甲18)を郵送し,その中で,上記窃盗事件の説明をし,またわから
ないところがあれば,尋ねてくれるよう書き添えた。
キ甲事件被告Dは,平成21年6月18日,甲事件原告と面会し,単行本
(以下,これが本件書籍として出版されたので,本件書籍という。)の執
筆が難航していることを報告した上,本件知人が甲事件原告に宛てた手紙
を本件書籍に引用することについて甲事件原告の同意を求めた。甲事件原
告は,当初,難色を示したが,甲事件被告Dが説得に努めたところ,「僕
の手紙だけが報道されているけど,あれはやりとりの中で書かれたものだ
から,それを引用するっていうのは,わかるんだよ。」と答え,上記引用
に理解を示した。そこで,甲事件被告Dが,現在,本件知人に連絡がつか
ないが,本件知人が甲事件原告に宛てた本件知人手紙を本件書籍に引用す
ることを手紙に書いて郵送していること,本件知人から上記手紙を閲読す
ることの同意は得たが,引用については,同意を得ていないことを話す
と,甲事件原告は,「僕が心配するのはそこなんだよ。勝手に引用したこ
とで,何かDさんに不利益があるかもしれない。訴えられるかもしれな
い。」と気遣い,甲事件被告Dが,「それは,まあしょうがないじゃな
い。訴えられたら負けるだろうけど。」,「下手したら刑事罰かもしれな
いし。それはもう,しょうがないよね。」と話したところ,甲事件原告
は,「そう。そんなふうに割り切っているんなら。」と答え,上記引用に
同意した。
また,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,甲事件原告が本件知人に宛
てた手紙の中に足りない手紙があるので,甲事件原告がその手紙を持って
いたら渡してほしい旨を依頼したところ,甲事件原告は,これを承諾した
(乙2の22)。
ク甲事件被告Dは,平成21年6月19日も甲事件原告と面会し,甲事件
原告が甲事件被告Dに宛てた手紙を本件書籍に引用することの同意を求め
たところ,甲事件原告は,甲事件原告が本件知人に宛てた手紙が公になっ
てからは,手紙を書くときは公になってもいいような形で書いており,単
行本に引用することで,甲事件原告に対する固定されたイメージや誤解が
解けるのであれば,願ってもないことであると述べ,上記引用に同意した
(乙25の3)。
ケ甲事件被告Dは,平成21年8月4日から7日まで広島市に滞在し,連
日甲事件原告と面会した(同月7日の面会が最終となったが,同日までの
面会回数は25回に及んだ。)。
同月4日の面会で,甲事件原告は,甲事件被告Dに対し,同年6月18
日に約束した甲事件原告の本件知人宛ての手紙を送付することは,弁護団
に反対の意見があるため,できない旨を話し,同月5日の面会では,第一
審の弁護人のことなどについて話した。
同月6日の面会で,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,本件書籍を概
ね書き終わっており,同年9月ころには出版できると思うと伝えた上,甲
事件原告が取材に協力してくれた理由を尋ねたところ,甲事件原告は,
「甲事件被告Dが弁護側でも検察側でもない立場の人だと思ったからであ
り,逆に言えば,甲事件被告Dが書いたものを自分が読んで疎遠になる可
能性があり,社会から賛同が得られても,甲事件原告は違うと思うかもし
れないし,社会から批判されても,甲事件原告は賛同するかもしれない。
ただ,甲事件原告や誰かのご機嫌取りみたいなことがわかったら,賛同で
きないと答えた。その後,話が被害者遺族に対する謝罪に及び,甲事件原
告は,被害者遺族に面会に来てもらい,弁護団抜きで直接謝りたい」旨を
述べた(乙25の2)。
同月7日の面会で,甲事件被告Dは,甲事件原告に対し,「原稿書いて
いる間に面会するのはたぶんこれが最後で,今度来るときは本を持ってく
ることになると思う。だから,これだけは書いてほしいっていうことがあ
れば考えるけど。」と話し,甲事件原告は,あらためて被害者遺族に対す
る謝罪の言葉を述べた。
コ甲事件被告Dは,甲事件原告がキリスト教に入信した時期等を確かめる
ため,平成21年8月23日,広島市に赴き,翌24日,甲事件原告との
面会を申し込んだが,甲事件原告から体調不良を理由に面会を断られた。
そこで,甲事件被告Dは,同日付けで,甲事件原告の体調について気遣う
とともに,質問事項を4点にまとめた手紙(甲17の22)を郵送し,甲
事件原告に返信を依頼した。
甲事件被告Dは,甲事件原告から上記返信がなかったため,同年9月9
日付けの手紙(甲17の23)を郵送した。この手紙には,甲事件原告の
体調を心配していること,8月24日の面会拒否に衝撃を受けたことのほ
か,本件書籍が同年9月末に出版されることなどが記載されていた。甲事
件原告は,この手紙に対しても返信をしなかった。
サ以上のとおり,甲事件被告Dと甲事件原告は,平成20年8月4日から
平成21年8月7日までの約1年間に合計25回にわたり面会を行った
が,この間,甲事件原告が面会を拒否したことはなく,いずれも穏やかに
行われ,甲事件原告は,甲事件被告Dの質問に素直に応じるなど,甲事件
被告Dの取材に積極的に協力しており,甲事件被告Dは,信頼関係が得ら
れているものと感じていた。
(4)本件書籍の出版と出版差止めを巡る紛争
アPは,平成21年9月26日,新聞各社に対し,甲事件原告を実名表記
し(甲事件原告の了解を得たとされる。),甲事件原告本人と周辺を追っ
たルポルタージュの単行本(本件書籍)が10月に「H」から刊行される
旨の記事を配信し(乙9の9),これが翌27日付けの各新聞社の朝刊で
報道された(甲3,4)。
乙事件被告F及び乙事件被告Gは,これにより,甲事件被告らが本件書
籍を出版する予定であることを知った(それまで,甲事件原告から,乙事
件被告らに対し,本件書籍の出版に関する報告は何らされていなかっ
た。)。
乙事件被告Gは,同日,本件ウェブサイトを確認し,同サイトに別紙2
の本件紹介記事(甲5)が掲載されており,「H」が本件書籍の販売を受
け付けていることを知り,翌28日,甲事件原告と接見した。甲事件原告
によれば,甲事件被告Dとの間で,甲事件被告Dが甲事件原告に対し,発
行前に本件書籍の原稿を見せるとの約束をしたとのことであった。そこ
で,乙事件被告Gは,同日,他の乙事件被告らと打ち合わせた上,翌29
日,乙事件被告らの連名で,甲事件被告らに対し,出版の一時差止めを求
める書面(甲7,8)を送付した。
その後,乙事件被告Gと甲事件被告Aは,何度か電話でやりとりをした
後,同年10月4日,乙事件被告Gの事務所において,乙事件被告Gらと
甲事件被告らとによる協議がもたれ,甲事件原告側が本件書籍の原稿を出
版前に見せるよう求めたのに対し,甲事件被告側がそれは報道の自由に反
するとして,双方が歩み寄らず,協議は決裂した。
イ甲事件原告は,平成21年10月5日,広島地方裁判所に対し,甲事件
被告らを相手方として,本件書籍の出版,販売等の一時差止めを求める本
件仮処分の申立てをした。
本件仮処分の申立書(乙30)には,甲事件原告と甲事件被告Dとの間
に,出版予定の書籍の原稿内容などを甲事件原告が事前に確認するとの合
意がされたのに,甲事件被告Dがこれに違反したとの記載とともに,「甲
事件被告Dは,甲事件原告が取材に応じない場合には,甲事件原告にとっ
て,ますます不利益な内容を書くかもしれないなどと脅迫的な言辞を用い
て甲事件原告に取材に応じることを強いるといった経緯もあった」との記
載(本件記載)もされていた。
ウ甲事件被告Aは,平成21年10月7日,本件書籍の初版4000部を
出版し,うち1冊を宅配便で甲事件原告宛に発送した(乙17の3,
4)。
甲事件原告は,広島地方裁判所に対し,同月15日,本件書籍の出版差
止め等を求めて本件訴訟(甲事件)を提起し,本件訴訟が係属することと
なった。
甲事件被告Aは,同月16日,2万部を増刷し,その後,更に1万部を
増刷した。
エ広島地方裁判所は,平成21年11月9日,本件仮処分の申立てを却下
した(乙1))
(5)本件書籍出版後の状況
ア「週刊誌I」は,本件仮処分の申立て後,本件仮処分の双方の主張を記
事にする趣旨で,双方を取材し,乙事件被告F及び乙事件被告Gも,「週
刊誌I」の記者から,取材を受けた。
上記取材の中で,「週刊誌I」の記者に対し,乙事件被告Gは,本件仮
処分の申立てをした理由について,甲事件原告が,甲事件原告と甲事件被
告Dとの間に,本件書籍を出版する前に,本件書籍の原稿を甲事件原告に
見せて確認させる約束があったのに,甲事件被告Dがこの約束を反故にし
たことにあると説明していると述べ(本件発言2),乙事件被告Fは,甲
事件被告Dについて,「当初,取材目的であることを明確に告げず,甲事
件原告に心を寄せるひとりの女性として元少年(甲事件原告)に近づいた
手法も認め難い。」(本件発言3),「本件書籍について,実名表記は話
題性だけを狙ったものではないでしょうか。そもそもタイトルが,あたか
も死刑が確定しているような誤った印象を与える極めて心ないもので
す。」(本件発言4)などと述べた。
その後,「週刊誌I」2009年10月23日号が発行され,これに
は,「山口・光市母子殺害事件『元少年実名本』の驚く中身」と題する本
件週刊誌Iの記事が掲載され,その中に本件発言2ないし4が掲載された
ほか,乙事件被告Gらが「週刊誌I」の記者に提供した本件仮処分の申立
書から本件記載が引用された。本件週刊誌Iの記事の内容は,別紙3のと
おりである(乙事件甲3)。
イ乙事件被告Eは,本件仮処分の申立て及び本件訴訟の提起の後である平
成21年10月24日,仙台市で開催された「仙台市民集会裁判員制度
の時代の死刑と人権」と称する市民集会(以下「本件集会」という。)に
出席した。
乙事件被告Eは,本件集会の席上,本件仮処分及び本件訴訟の双方の主
張に関して,「私たちが実名を出すこと自体が彼(甲事件原告)の社会復
帰を妨げると主張したことに対しては,彼(甲事件原告)は死刑,そし
て,良くても無期懲役,そして今,無期懲役は事実上終身刑だから社会に
復帰することは基本的にはない。従って,彼の更生を考える必要はないと
いうことを主張しています。私どもは,それを見てびっくりしたわけです
ね。」(本件発言6),「確かに出版の自由を止めることは,大変重要
な,あるいは重大なことであるかもしれないわけですけれども,私は,こ
の表現というのは,彼を救うということに名を借りて,あるいは実名をタ
イトルに載せるということのセンセーショナルさに名を借りて,出版とい
う手段でもって行った一種の営業行為じゃないかというふうに思っている
わけです。」(本件発言7),「実名を掲載するということに関しては,
彼はその内容如何によって承諾すると。だから原稿を見せてほしい。それ
で,周りの人やそういう人たちに迷惑がかからなければ,自分は,承諾す
るという,いわゆる承諾前の状態にあったわけです。しかし,彼の元には
原稿が送られてきませんでしたし,実は,この本は売られたわけですけれ
ども,売られた本自体も彼の所に送られてきていないし,出版しましたと
いう報告も来ていないわけです。結局,私どもが買い求めて,彼の所に送
って初めて彼の所に届いたわけです。」(本件発言8),「こういう形で
徹底して彼は利用されたわけです。また今回はこういうかたちで民間人に
商売の道具として彼は利用されたのです。」(本件発言9)などと発言し
た。
ウ甲事件被告Dは,本件仮処分の申立てないし本件訴え提起後に,「週刊
誌J」の記者及び「週刊誌K」の記者から取材を受けた。
その後,「週刊誌J」(2009年10月27日号)が発行され,これ
には,「光市母子殺害事件『元少年』実名本著者の反論」と題する記事が
掲載された。同記事の内容は,別紙4のとおりである(甲16の2)。
また,上記取材の中で,甲事件被告Dは,「週刊誌K」の記者に対し,
本件手紙1を提供し,その後,「週刊誌K」(2010年2月9日号)に
は,「山口県・光市母子殺害事件C君のことを,一番知りたがったのは
普通のお母さんたちでした」と題する記事が掲載されたが,同記事には,
本件手紙1(封筒を含む)の写真が掲載された。同記事の内容は,別紙5
のとおりである(甲16の1)。
エ乙事件被告Fは,平成21年11月26日に開かれた本件訴訟(甲事
件)第1回口頭弁論期日の終了後,記者会見を行い,甲事件について,
「甲事件被告Dは,甲事件原告に友人として接触しており,手段を選ばな
い取材で,その取材方法には取材者としての倫理観が欠如しており,営業
目的が先行している」と発言した(本件発言5)。
オ乙事件被告F及び乙事件被告Gら甲事件原告訴訟代理人らは,平成22
年7月12日に開かれた本件訴訟の第4回弁論準備手続期日において,同
日付け準備書面を陳述したが,同準備書面には,「本件書籍の出版によ
り,甲事件原告が受けた損害について」と題し,甲事件原告が同年5月下
旬から胃潰瘍を発症し,血便や吐血等の症状を呈しているが,これは,こ
の間の一連の経緯によりストレスを受けたことに加え,甲事件被告らに反
論する書面を短期間にまとめる作業をしたことによって更にストレスが高
まったことに起因するものと思量されるとして,本件書籍の出版は,速や
かに差し止められるべきであるとの記載があった(記録上明らかであ
る。)。
甲事件被告Aは,同年7月13日,本件ウェブサイトに,本件訴訟の進
行を伝えるものとして,本件記事1(「『C被告が胃潰瘍で血便や吐血』
と弁護団著者-A2010年7月13日(火曜日)04:15」,
「当方は,相手方の心ない準備書面にたびたびキズつけられている。ぼく
自身は精神科医から新たに『ポンタール』という頭痛薬の服用を許可さ
れ,精神安定剤も増えている一方だ。どうしてくれる?(原文ママ。以下
同)ということである。」)を掲載し,翌14日,本件記事2(「広島法
務局,C被告の人権救済申し立てに関する調査を中止」)を掲載した。本
件記事1の前段は,乙事件被告Fらが上記準備書面で明らかにした事実で
あり,本件記事1の後段は,上記弁論準備手続期日において提出された甲
事件原告の陳述書(甲29)の12枚目の記載を引用したものであり,本
件記事2は,甲事件原告が同陳述書の6枚目で明らかにした事実であっ
た。
(6)本件書籍の内容
本件書籍(乙事件甲1)の概要は,次のとおりである。
ア本件書籍の題名
本件書籍の題名は,「C君を殺して何になる―光市母子殺害事件の陥穽
(かんせい)―」であり,甲事件原告の実名が含まれ,これが表紙に記載
されている。
イ本件書籍の表紙の帯
表紙の帯には,「死刑か無期懲役か」との記載のほか,Q弁護士の「本
書には,比類ないほど赤裸々に,かつ正確に,関係者の「言の葉」がおさ
められている。それらをどのような枝でつなぎ,幹につないで,木とする
か。「葉を見て木を見ず」では,事件の全体像は見えてこない。」とのの
後記解説中のコメント,甲事件原告の「拘置所のなかで,よくしてくれる
刑務官の先生もいるんだよ。それによって僕はここまで来られた面もあっ
て,そういう先生がいなかったら僕はダメだったと思う。そんな親しくな
った先生たちに(死刑を)執行させるというのは,先生たちの負担を考え
るとよくないと思う。だから,僕はここ(広島拘置所)じゃなくて,大阪
(拘置所)か福岡(同)で執行されたいと思う。」との本文中の発言及び
被害者遺族の「彼を死刑にすることで,この国がいい方向になるかどうか
はわからないけれども,本当の問題は,死刑をしたくないんだったら,ど
うしたら犯罪が減らせるかっていうことを,言論に携わる方たちが,一生
懸命掘り下げてやらないといけないんです。」との本文中のコメントが記
載されている。
ウ本件書籍の構成
本件書籍は,「序章予期せぬ返事」,「1章少年時代」,「2章父
親」,「3章不謹慎な手紙」,「4章謝罪」,「5章虚構」,「6
章弁護士」,「7章死刑」,「終章当事者」の9章に章別されてお
り,文中では,甲事件原告は実名で記載されている。
本件書籍の末尾には,「C君の「言の葉」に込められた魂の逡巡を読み
解いてほしい」との題名で,Q(弁護士)の解説が付せられている。
エ本件書籍の本文
(ア)本件書籍の本文中には,甲事件被告Dと甲事件原告との面会での甲
事件原告の発言,甲事件被告Dの取材時に係る甲事件原告の親族,知人
(本件知人を含む。),同級生,担任教師,被害者遺族等の発言が記載
されているほか,甲事件被告Dの「C君を死刑に処することの意味を考
えてみてほしいと思う。」との思いが披瀝されている。
(イ)本件書籍の「序章予期せぬ返事」の本文中には,甲事件原告が甲
事件被告Dに宛てた平成20年5月7日消印の本件手紙1(乙2の4)
及び同年7月1日付けの手紙(本件手紙2)の内容が引用され,また,
同章の冒頭頁の裏面に本件手紙1の一部が写真で掲載されている。
(ウ)本件書籍の「第2章父親」の冒頭には,本件卒業アルバムから取
られた甲事件原告の中学校卒業時の正面向きの顔写真が掲載されてい
る。また,同章の本文中には,甲事件原告の親族の居住地が「L小学校
近くの戸建て住宅」であると記載されている。
(エ)本件書籍の「第3章不謹慎な手紙」の冒頭頁の裏面に本件知人が
甲事件原告に宛てた複数の手紙のうちの1通の一部が写真で掲載され,
同章の本文中において,その内容が引用されている。また,甲事件原告
が本件知人に宛てた手紙の内容もその一部が引用されている。
オ本件書籍は,甲事件被告Dの甲事件原告に対する上記取材等に基づいて
執筆されており,また,その趣旨は,甲事件原告に対する世間一般のイメ
ージ(凶悪な犯罪者)と異なる甲事件原告の具体的な人間像を甲事件被告
Dの感性で捉え,その情報を社会に報道する趣旨のものということがで
き,その観点から,あえて甲事件原告の実名を記載し,手紙等の写真も掲
載したものということができる。
3本件書籍の出版によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)。
(1)甲事件原告は,本件書籍が無断で出版されたことにより,甲事件原告のプ
ライバシー権,肖像権,名誉権,著作者人格権等,成長発達権が侵害された
と主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,本件書籍には,甲事件原告が広島拘置所内で甲
事件被告Dと面会した際に述べた甲事件原告の会話内容,甲事件原告の実
名,甲事件原告の親族が「L小学校の近くの戸建て住宅」に居住しているこ
と,甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた最初の手紙(本件手紙1)の写真と
その内容,本件知人が甲事件原告に宛てた手紙(本件知人手紙)の写真とそ
の内容,中学校の卒業アルバムから複写した甲事件原告の顔写真,甲事件原
告が甲事件被告Dに宛てた本件手紙2の内容が記載されており,また,甲事
件被告Dは,甲事件原告に対し,本件知人手紙を第三者に公開しない旨の本
件誓約書を差し入れていた。
(3)アしかし,前記2で認定したとおり,甲事件被告Dが,甲事件原告に対
し,平成20年6月23日付け及び同月27日付けの手紙により,自己が
報道機関に所属していないフリーランスであって,甲事件原告から聞いた
話を即座に記事にするつもりはないが,取材した結果,記事にすべきだと
思うことがあれば,記事にしようと思っている旨を伝えて,面会を求めた
ところ,甲事件原告が,平成20年8月4日,甲事件被告Dとの面会を承
諾して,初めて両者の面会が実現し,その後,甲事件被告Dと甲事件原告
は,平成21年8月7日までの約1年間に継続して25回にわたって面会
し,その中で,甲事件原告は,甲事件被告Dが事前に用意していた多岐に
わたる質問に答えるなどして,甲事件被告Dが取材対象として興味を有す
る事項について,素直に情報を提供し,もって,甲事件被告Dの取材に積
極的に協力していたのである。また,甲事件原告は,本件書籍の出版と甲
事件原告の実名表記については,平成21年3月27日の面会において,
本件知人手紙の引用については,同年6月18日の面会において(甲事件
被告Dが平成20年10月29日に差し入れた本件誓約書は撤回されたこ
とになる。),甲事件原告が甲事件被告Dに宛てた手紙の引用について
は,平成21年6月19日の面会において,いずれも同意しているのであ
る。さらに,甲事件原告は,甲事件被告Dが同年9月9日付けの手紙で本
件書籍が同月末に出版されることを伝えても,出版予定日の同月末に至っ
ても,異議を述べなかったのである。
したがって,甲事件原告は,甲事件被告Dが甲事件原告の提供した情報
を基に本件書籍を執筆し,これを発行することを同意していたものという
べきであり,両者のやりとりに照らせば,その中には,本件書籍の中に,
甲事件原告から提供された手紙の写真を掲載することも含まれていたもの
というべきである。
イこれに対し,甲事件原告は,甲事件被告Dとの間で,事前に原稿内容等
を確認させること,甲事件原告の親族,知人及び関係者の実名を出した
り,生活を脅かすようなことをしないことを合意したと主張し,その旨供
述するが,甲事件原告の甲事件被告D宛ての手紙や甲事件被告Dの甲事件
原告宛ての手紙,甲事件被告Dの面会記録には上記合意をうかがわせるも
のはない上,甲事件原告が,本件書籍が出版されることを知らされ,出版
予定日に至っても,異議を述べていなかったことに照らすと,一審原告の
上記供述は,到底採用することができず,他に,上記主張を認めるに足り
る証拠は存しない。
ウ本件書籍の内容についても,前記2で認定したとおりであって,あたか
も甲事件原告が死刑になることが確定しているかのような印象を与えた
り,甲事件原告が死刑相当であるとの否定的評価を行って,甲事件原告の
社会的評価を低下させるようなものと認めることはできない。むしろ,甲
事件原告に対する世間一般のイメージ(凶悪な犯罪者)と異なる甲事件原
告の具体的な人間像を甲事件被告Dの感性で捉え,その情報を社会に報道
する趣旨のものということができるのである。
また,甲事件原告の中学校卒業時の写真の掲載は,甲事件原告の明確な
承諾はないものの,甲事件原告が本件書籍の出版に同意していたことに加
え,甲事件原告に対する社会的関心が高く,そのような関心は正当なもの
といえることなどを考慮すれば,少年法61条を考慮しても,報道の自由
として許されるものであって,違法なものとはいえない。
さらに,甲事件原告の親族が「L小学校近くの戸建て住宅」に居住して
いると記載したことも,この程度の居住地の記載が甲事件原告のプライバ
シーを侵害するものとはいえない。
その上,甲事件原告は,本件手紙1,2の掲載について,著作権(著作
権法21条),著作者人格権(同法19条)を侵害すると主張するが,本
件手紙1,2の公開については,プライバシーの面からその法的保護を図
れば足りるのであって,著作権ないし著作者人格権によって保護を図るも
のではないと解されるが,そうでないとしても,甲事件原告から提供され
た手紙の写真を掲載することが承諾されていたというべきであることに加
え,本件手紙1,2が甲事件被告Dに交付された経緯やその引用が承諾さ
れていたこと,甲事件原告が甲事件被告Dの取材に積極的に協力した上,
本件書籍の出版に同意していたことなどの事情に照らせば,その公開がこ
れらの著作権法上の権利を侵害する違法なものと認めることはできない。
加えて,一審原告は,成長発達権(少年法61条違反)が侵害されたと
主張するが,少年法61条からそのような権利を認めることは困難であ
る。
(4)したがって,一審原告の上記(1)の主張は,いずれも採用することができ
ないものというべきである。
4本件紹介記事によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)。
(1)甲事件原告は,本件紹介記事には,「「C君が死刑になることで,何か1
つでも,社会にとって得るものがあってほしい」と願い,取材を続けた著
者」との記載があって,甲事件原告が死刑になることを前提とするような書
きぶりをしており,甲事件原告の人格権を侵害するものであると主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,本件紹介記事には,上記の記載が存する。
(3)しかし,上記2によれば,本件紹介記事には,本件書籍の題名である「C
君を殺して何になるー光市母子殺害事件の陥穽(かんせい)ー」との記載が
あるほか,「再び最高裁の判断を待つC被告は,どのような心境で過ごして
いるのか。」,「彼の心の深層に迫る。」との記載もあり,これらを総合す
れば,本件紹介記事は,死刑判決に疑問を呈しているともいえるのであっ
て,甲事件原告の死刑を前提とするような書きぶりであるということはでき
ない。
(4)したがって,甲事件原告の上記(1)主張は,採用することができない。
5本件各記事によって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事件)
(1)甲事件原告は,本件各記事は,甲事件原告の実名を記載するもので,少年
法61条に違反し,また,本件記事1は,甲事件原告の身体・健康・医療と
いう他人に知られたくないプライバシー情報を含み,訴訟目的で裁判所に提
出された甲事件原告の陳述書の一部を甲事件原告に無断で原文のまま使用す
るもので,プライバシー権及び名誉権を侵害するものであると主張する。
(2)確かに,前記2で認定したとおり,甲事件被告Aは,本件ウェブサイトに
本件記事1(「『C被告が胃潰瘍で血便や吐血』と弁護団著者-A20
10年7月13日(火曜日)04:15」,「当方は,相手方の心ない準備
書面にたびたびキズつけられている。ぼく自身は精神科医から新たに『ポン
タール』という頭痛薬の服用を許可され,精神安定剤も増えている一方だ。
どうしてくれる?(原文ママ。以下同)ということである。」)及び本件記
事2(「広島法務局,C被告の人権救済申し立てに関する調査を中止」)を
掲載した。また,本件記事1の前段は,乙事件被告Fらが同月12日付け準
備書面で明らかにした事実であり,本件記事1の後段は,同日の弁論準備手
続期日において提出された甲事件原告の陳述書(甲29)の記載を引用した
ものであった。
(3)しかし,上記2のとおり,本件各記事が掲載された平成22年7月当時,
本件刑事事件の被告人である甲事件原告については,社会一般の正当な関心
事となっていて,甲事件原告の実名が既に一部メディア(週刊誌O,月刊誌
R,文庫本「S」)により報道され(乙2の9ないし20),インターネッ
ト(乙7の1ないし5)上でも甲事件原告の実名や写真が多数公開されてい
た上,甲事件原告自身が,本件書籍において実名を報じることを許諾してい
たのである。また,甲事件原告(当時29歳)は本件訴訟(甲事件)の原告
であり,本件各記事は,本件訴訟の進行を伝えるものとして,掲載されたも
のである。
そうすると,甲事件被告Aが本件各記事により甲事件原告の実名を報道し
たことは,少年法61条に照らしても,違法ということはできない。また,
本件記事1に記載された情報は,甲事件原告や乙事件被告Fらが,本件訴訟
(甲事件)において,その請求を理由付けるために主張,陳述したものであ
り,これら民事訴訟における訴訟資料は,原則として一般公開され,何人も
閲覧を請求することができ,利害関係を疎明した第三者であれば,その謄写
等を請求することができる上,本件記事1に係る甲事件原告の健康状態に係
る情報は,特別に保護すべきほどのプライバシーに属する情報ということも
できないから,甲事件被告Aが,本件訴訟(甲事件)の手続から入手した甲
事件原告の上記健康状態に係る情報を公開したからといって,これが違法で
あるということはできず,本件記事2も,同様に違法ということはできな
い。
(4)したがって,甲事件原告の上記主張は,いずれも採用することができな
い。
6本件週刊誌インタビューによって甲事件原告の権利が侵害されたか(甲事
件)
(1)甲事件原告は,甲事件被告Dが,本件書籍出版後,「週刊誌J」及び
「週刊誌K」の記者のインタビューに応じ,甲事件原告の甲事件被告D宛
の手紙を公開するなどして,甲事件原告のプライバシー権及び名誉権を侵
害したと主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,甲事件被告Dが,本件書籍出版後,「週刊誌
J」及び「週刊誌K」の記者のインタビューに応じ,その際,甲事件原告
の甲事件被告D宛の本件手紙1を提示するなどし,これが上記週刊誌の記
事に掲載された。
(3)しかし,上記2のとおり,甲事件原告は,本件書籍の出版や甲事件原告
が甲事件被告Dに宛てた手紙の引用等に同意していたところ,本件書籍の
出版後,これを否定して出版差止めを求める本件仮処分の申立てをするな
どの紛争が生じたため,甲事件被告Dは,上記週刊誌のインタビューで,
上記紛争における自己の主張を述べたものにすぎず,また,掲載された手
紙の写真は不明瞭なものでしかないから,甲事件被告Dの上記(1)の行為が
違法なものということはできない。
(4)したがって,甲事件原告の上記主張は,採用することができない。
7甲事件原告の甲事件被告らに対する甲事件請求の当否について
(1)甲事件原告は,本件書籍が無断で出版されたことによって,甲事件原告の
プライバシー権,肖像権,名誉権,著作者人格権等,成長発達権が侵害さ
れ,本件紹介記事によって,甲事件原告の人格権が侵害され,本件各記事に
よって,甲事件原告のプライバシー権及び名誉権が侵害され,本件週刊誌イ
ンタビューによって甲事件原告のプライバシー権及び名誉権を侵害され,甲
事件被告Dについては,債務不履行及び不法行為責任があり,甲事件被告A
については,不法行為責任があるとして,(ア)甲事件被告D及び甲事件被告
Aに対し,本件書籍の出版,販売等の差止め及び甲事件被告Aが開設してい
る本件ウェブサイトに掲載されている本件書籍の紹介記事の削除を求め,
(イ)甲事件Aに対し,本件ウェブサイトに掲載された甲事件原告に関する本
件各記事の削除及び本件ウェブサイトに甲事件原告に関する記事を掲載する
ことの禁止を求め,(ウ)甲事件被告D及び甲事件被告Aに対し,共同不法行
為や債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき,連帯して1200万円及
びその遅延損害金の支払を求める。
(2)しかし,上記説示のとおり,甲事件原告の主張する上記の権利侵害はいず
れも認められないのである。したがって,甲事件原告の甲事件被告らに対す
る甲事件請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由が
ないものというべきである。
8本件週刊誌Iの記事に係る甲事件原告,乙事件被告らの本件発言1ないし4
が甲事件被告らの名誉を毀損したか(乙事件)。
(1)甲事件被告らは,甲事件原告の本件発言1,乙事件被告Gの本件発言2,
乙事件被告Fの本件発言3が甲事件被告Dの名誉を毀損し,本件発言4が甲
事件被告D及び甲事件被告Aの名誉を毀損したと主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,甲事件原告が,乙事件被告Gと平成21年9月
28日に接見した際,本件発言1(甲事件原告と甲事件被告Dとの間に,本
件書籍を出版する前に,本件書籍の原稿を甲事件原告に見せて確認させる約
束があったのに,甲事件被告Dがこの約束を反故にした旨)を述べ,甲事件
原告の代理人弁護士である乙事件被告らが,本件仮処分の申立てについて,
週刊誌Iの取材を受け,記者に対し,乙事件被告Gが本件発言2(甲事件原
告の本件発言1と同旨)を述べ,乙事件被告Fが本件発言3(当初,取材目
的であることを明確に告げず,甲事件原告に心を寄せるひとりの女性として
元少年(甲事件原告)に近づいた手法も認め難い)」,本件発言4(本件書
籍について,実名表記は話題性だけを狙ったものではないでしょうか。そも
そもタイトルが,あたかも死刑が確定しているような誤った印象を与える極
めて心ないものです)を述べ,これらの発言内容が本件週刊誌Iの記事とし
て掲載された。
(3)アところで,民事裁判における各当事者の事実関係の主張は,一方当事
者から見た事実の主張でしかなく,双方の提出する証拠に基づき,裁判所
によってその真否を判断される性質のものである上,相手方も当該裁判に
おいて反論ができるものである。また,民事裁判における当事者の主張
は,正当な裁判を受けるため必要なものであって,不当に制限されないよ
う保護されなければならないものである。したがって,民事裁判における
各当事者の事実関係の主張は,悪意でことさら必要のない名誉毀損の事実
を繰り返すなど,正当な裁判活動として許容される範囲を逸脱していると
評価される場合以外は,違法なものとはいえないというべきである。ま
た,民事裁判は,原則公開されていることも考慮すれば,裁判外で裁判で
の主張を述べたり,説明したりすることも,上記に準じて取り扱われるの
が相当である。
イ上記見地に立って検討すると,本件仮処分における双方の主張は,正当
な裁判活動として不当に制限されないよう保護されるべきものということ
ができるところ,本件週刊誌Iの記事は,このような本件仮処分における
双方の主張を記事にする趣旨のものであって,申立人である甲事件原告と
相手方である甲事件被告らの双方について,取材をして,本件仮処分につ
いての双方の言い分を記事にしたものである。
そうすると,甲事件原告の本件発言1は,甲事件原告が本件仮処分を申
し立てた理由の説明であり,甲事件被告らの反論も掲載されているから,
そもそも,違法なものということはできない。また,乙事件被告Gと接見
した際の発言であるから,これが甲事件被告Dの社会的評価に影響を与え
るようなものではなく,甲事件原告が乙事件被告Gを通じて本件発言1を
したとみることもできない。
また,乙事件被告Gの週刊誌Iの記者に対する本件発言2は,本件仮処
分の手続における甲事件原告の主張を説明したものにすぎず,甲事件被告
らの反論も掲載されているから,違法なものとはいえない。
さらに,乙事件被告Fの本件発言3,4も,同様に,本件仮処分の手続
における甲事件原告の主張を説明したものでしかなく,甲事件被告らの反
論も掲載されているから,違法なものということはできない。
(4)したがって,甲事件被告らの上記主張は,いずれも採用することができな
い。
9本件週刊誌Iの記事として掲載された本件記載が甲事件被告らの名誉を毀損
するか(乙事件)。
(1)甲事件被告らは,乙事件被告らの提供により,仮処分申立書に記載された
本件記載(債務者(甲事件被告D)は,債権者(甲事件原告)が取材に応じ
ない場合は,債権者にとって,ますます不利益な内容を書くかもしれないな
どと脅迫的な言辞を用いて債権者に取材に応じることを強いるといった経緯
もあった)が週刊誌Iの記事になったことは,甲事件被告らの名誉を毀損す
るものであると主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,仮処分申立書に本件記載が存し,これが乙事件
被告らによって週刊誌Iの記者に提供され,これが週刊誌Iの記事として掲
載された。
(3)しかし,本件記載は,本件仮処分の手続における甲事件原告の主張を掲載
したものでしかないから,上記8(3)アの説示のとおり,違法なものという
ことはできない。
(4)したがって,甲事件被告らの上記主張は,採用することができない。
10乙事件被告Fの記者会見での本件発言5が甲事件被告Dの名誉を毀損するか
(乙事件)。
(1)甲事件被告Dは,乙事件被告Fの本件発言5は,甲事件被告Dの名誉を毀
損すると主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,乙事件被告Fは,平成21年11月26日の甲
事件第1回口頭弁論期日の終了後に,記者会見を行い,「甲事件被告Dは,
甲事件原告に友人として接触しており,手段を選ばない取材で,その取材方
法には取材者としての倫理観が欠如しており,営業目的が先行している」旨
の本件発言5をした。
(3)しかし,乙事件被告Fの本件発言5は,甲事件における甲事件原告の主張
の説明として述べられたものにすぎないから,上記8(3)アの説示のとお
り,違法なものということはできない。
(4)したがって,甲事件被告Dの上記主張は,採用することができない。
11乙事件被告Eの市民集会での本件発言6ないし9が甲事件被告らの名誉を毀
損するか(乙事件)
(1)甲事件被告らは,乙事件被告Eの本件集会での本件発言6ないし9が甲
事件被告らの名誉を毀損すると主張する。
(2)確かに,上記2のとおり,乙事件被告Eは,本件集会の席上,本件仮処分
及び本件訴訟の双方の主張に関して,「私たちが実名を出すこと自体が彼
(甲事件原告)の社会復帰を妨げると主張したことに対しては,彼(甲事件
原告)は死刑,そして,良くても無期懲役,そして今,無期懲役は事実上終
身刑だから社会に復帰することは基本的にはない。従って,彼の更生を考え
る必要はないということを主張しています。私どもは,それを見てびっくり
したわけですね。」(本件発言6),「確かに出版の自由を止めることは,
大変重要な,あるいは重大なことであるかもしれないわけですけれども,私
は,この表現というのは,彼を救うということに名を借りて,あるいは実名
をタイトルに載せるということのセンセーショナルさに名を借りて,出版と
いう手段でもって行った一種の営業行為じゃないかというふうに思っている
わけです。」(本件発言7),「実名を掲載するということに関しては,彼
はその内容如何によって承諾すると。だから原稿を見せてほしい。それで,
周りの人やそういう人たちに迷惑がかからなければ,自分は,承諾するとい
う,いわゆる承諾前の状態にあったわけです。しかし,彼の元には原稿が送
られてきませんでしたし,実は,この本は売られたわけですけれども,売ら
れた本自体も彼の所に送られてきていないし,出版しましたという報告も来
ていないわけです。結局,私どもが買い求めて,彼の所に送って初めて彼の
所に届いたわけです。」(本件発言8),「こういう形で徹底して彼は利用
されたわけです。また今回はこういうかたちで民間人に商売の道具として彼
は利用されたのです。」(本件発言9)などと発言した。
(3)しかし,本件発言6ないし9は,いずれも本件仮処分や本件訴訟の手続に
おける甲事件原告の主張や甲事件被告らの主張に対する反論の説明として述
べられたものにすぎないから,上記8(3)アの説示のとおり,違法なものと
いうことはできない。
(4)したがって,甲事件被告らの上記主張は,いずれも採用することができな
い。
12甲事件被告らの乙事件請求の当否について
(1)甲事件被告らは,本件発言1ないし9,本件記載により,甲事件被告ら
の名誉が毀損されたとして,甲事件原告及び乙事件被告らに対し,不法行
為による損害賠償請求権に基づき,甲事件被告Dについては,連帯して1
100万円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平
成22年1月10日,乙事件被告F,乙事件被告Gは,同月13日,乙事
件被告Eは同月9日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求め,甲事件被告Aについては,連帯して495万円及
びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日(甲事件原告は平成22年1月
10日,乙事件被告F,乙事件被告Gは同月13日,乙事件被告Eは同月
9日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める。
(2)しかし,上記説示のとおり,本件発言1ないし9,本件記載が甲事件被告
らの名誉を毀損したとは認められないのである。したがって,甲事件被告ら
の甲事件原告及び乙事件被告らに対する乙事件請求は,その余の点について
判断するまでもなく,いずれも理由がないものというべきである。
第4結論
よって,甲事件被告らの控訴は一部理由があるから,原判決主文第1項ないし
第3項を取り消した上,上記取消しに係る甲事件原告の請求をいずれも棄却し,
甲事件被告らのその余の控訴及び甲事件原告の控訴はいずれも理由がないから,
これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第4部
裁判長裁判官宇田川基
裁判官近下秀明
裁判官丹下将克
(別紙省略)

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