弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
押収してある偽造有価証券の全部及び偽造文書の各偽造部分を没
収する。
理 由 要 旨
(証拠により認定した犯罪事実)
 被告人は,平成8年4月3日ころから平成11年6月24日ころまでの間,業務
上保管していた小
切手を3回にわたり横領し,甲組合の理事を欺罔して小切手を1回詐取し,また,
小切手及び普通預
金払戻請求書を偽造するなどして銀行預金等を21回にわたり詐取した。
(量刑の理由)
 本件は,甲組合の経理担当職員として稼働していた被告人が,甲組合組合員の同
組合に対する借
入金の返済手段として,業務上預かり保管していた組合員振出の小切手を横領し,
小切手振出権限を
有する理事を欺罔して甲組合振出の小切手を詐取し,並びに甲組合振出の小切手を
偽造し,または甲
組合名義の普通預金払戻請求書を偽造の上,同偽造小切手ないし同偽造普通預金払
戻請求書を用いて,
その支払や甲組合名義の銀行預金の払戻しを受け,あるいは自己の債権者の預金口
座に振込入金して
債務を免れるなどの方法により,3年余の間に,多数回にわたり,総額5000万
円以上の甲組合の
金員を不正に取得したという事案である。
 被告人は,買い物をしてストレスを発散するためであるとか,自己の交際する男
性を理想の男性に
仕立てたいという見栄のためなどから本件各犯行を敢行したと述べているが,その
供述を見ても身勝
手なものである上,実際に不正に取得した金員は,服飾類,パソコン,自動車,上
記男性との密会場
所であったマンションの家賃及び遊興費などに使われているのであって,その使途
を見ても身勝手で
自己中心的な動機に基づいて行われたことは明らかであり,その動機に酌量の余地
は何もない。
 そして,その犯行態様を見ると,甲組合の組合員振出の小切手や甲組合名義の小
切手帳及び印鑑等
の保管・管理が,実質上被告人一人に任されているという自己の立場を利用した背
信的なものであり,
しかも,その犯跡隠蔽のために,架空伝票を作成し,あるいは,毎月末の預金残高
を,甲組合の銀行
預金口座間の振替操作を行うなどして調整し,さらに,決算期には,銀行発行の残
高証明書を改ざん
した上,そのコピーを税理士に交付するなどの多数の罪証隠滅工作をも繰り返して
いたこともうかが
われるのであって,巧妙で悪質である。
 さらに,本件は,被告人により長期間にわたって行われ,その被害も極めて多額
に及ぶ一連の犯行
の一環をなすものであり,被告人にこの種犯行の常習性があることは明らかであ
る。
 加えて,今後の被害回復も困難であることなどからすれば,被告人の刑責は重大
である。
 なお,このような結果を招いた一因として,一経理担当職員にすぎない被告人に
対し,経理業務を
実質上全面的に委ねた甲組合の管理体制に不備があったことは否めないが,前記の
とおり,被告人が
巧妙な罪証隠滅工作を繰り返していたことからすれば,そのことは被告人の刑事責
任を軽減する事情
と見るのは相当ではない。
 そうすると,被告人に前科前歴のないこと,被告人は,本件が発覚した後,犯行
を素直に認め,進
んで捜査に協力したこと,本件犯行を反省し,社会復帰後,少しずつでも弁償した
いと述べているこ
と,被告人の前夫が,合計約650万円を返済した上,被告人との共有家屋に,甲
組合のための譲渡
担保権を設定したことなど被告人に有利な事情を斟酌しても,主文の実刑は免れな
い。
 よって,主文のとおり判決する。
平成15年1月16日
    仙台地方裁判所第2刑事部
        裁判長裁判官 本 間 榮 一
裁判官 齊 藤 啓 昭
裁判官 菅 原   暁

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