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平成13年(行ケ)第127号 審決取消請求事件
平成14年12月12日口頭弁論終結
判          決
原        告   パラマウントベッド株式会社
訴訟代理人弁護士     竹   川   哲   雄
同            岡       伸   浩
訴訟復代理人弁護士    高   木   亮   二
訴訟代理人弁理士     三   觜   晃   司
被        告   京和装備株式会社
訴訟代理人弁護士     松   田   浩   明
訴訟代理人弁理士     染   谷       仁
主          文
特許庁が無効2000-35405号事件について平成13年2月5日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,考案の名称を「マットレスの滑り落ち防止機構を備えたベッド」と
する登録番号第1908777号の登録実用新案(昭和60年7月19日出願(以
下「本件出願」という。)。平成4年5月26日登録。以下「本件登録実用新案」
といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告は,平成12年7月24日,本件実用新案の登録を無効とすることにつ
いて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2000-35405号事件とし
て審理し,その結果,平成13年2月5日に,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,同年2月26日にその謄本を原告に送達した。
2 本件登録実用新案の登録請求の範囲
「鋼板,合成樹脂板等の表面平滑な床板の端縁あるいはその他の任意の個所
に,表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着してなり,これによ
り床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止するようにしたことを特徴とす
るマットレスの滑り落ち防止機構を備えたベッド。」
3 審決の理由の要点
別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件考案の「滑り防止
片」と,実公昭57-40844号公報(審判においても本訴においても甲第1号
証。以下「甲第1号証刊行物」という。)に記載された考案の「滑り止め体とは,
明確に相違すると認定し,この認定を前提に,①本件考案は,甲第1号証刊行物,
実願昭56-81418号(実開昭57-193826号)のマイクロフィルム
(審判においても本訴においても甲第2号証の1。以下「甲第2号証の1刊行物」
という。),実願昭56-81419号(実開昭57-193827号)のマイク
ロフィルム(審判においても本訴においても甲第2号証の2。以下「甲第2号証の
2刊行物」という。),実開昭57-81820号公報(審判においても本訴にお
いても甲第2号証の3。以下「甲第2号証の3刊行物」という。),実開昭57-
81821号公報(審判においても本訴においても甲第2号証の4。以下「甲第2
号証の4刊行物」という。),実開昭58-58032号公報(審判においても本
訴においても甲第2号証の5。以下,「甲第2号証の5刊行物」という。)記載の
各考案に基づいて当業者がきわめて容易に発明をすることができたものとすること
はできない,②本件考案は,甲第1号証刊行物,甲第2号証の1ないし5各刊行物
及びハード カンパニー発行の価格表 #H-90(1970-11-1)P.9(甲第3号証。以
下「甲第3号証刊行物」という。)記載の各考案(以下,各刊行物に記載された考
案をそれぞれ「甲第1号証考案」,「甲第2号証の1考案」などという。)に基づ
いて当業者がきわめて容易に発明をすることができたものとすることはできない,
として,請求人(原告)主張の無効事由をすべて排斥したものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「〔1〕手続の経緯」,「〔2〕当事者の主張」,「〔3〕
本件実用新案登録に係る考案」(審決書1頁下から11行~3頁1行)は認める。
「〔4〕当審の判断」のうち,3頁3行ないし4頁8行の「記載されている」ま
で,4頁27行ないし33行は認め,その余は争う。「〔5〕まとめ」(5頁14
行ないし19行)は争う。
審決は,本件考案と甲第1号証考案との対比を誤り,甲第1号証考案ないし
第3号証考案を組み合わせる起因ないし動機付けの有無についての判断を誤り,こ
れらの誤りを重ねることにより,本件考案の進歩性の判断を肯定したものであっ
て,上記各誤りが,一体となって結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違
法なものとして取り消されるべきである。
1 審決は,「甲第1号証(判決注・甲第1号証刊行物。以下同じ)の「考案の
詳細な説明」及び各図面の記載からみると,ここにいう「小突起」ないし「突条」
とは,マットレスの敷台1A全体を覆うような滑り止め体2’に群設ないし突設さ
れたものであり,本件考案の床板の端縁その他に複数個付着する表面がぎざぎざな
面で形成された「滑り防止片」と甲第1号証の「滑り止め体」は,「ぎざぎざ」や
「滑り防止片」の大きさや全体構成が明確に相違するものというべきである。した
がって,両者が,ベッドの床板に表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を取
り付けて床板上に載置したマットレスの滑りを防止するようにした点で一致すると
いう請求人の主張には到底首肯することができない。」(審決書4頁8行~17
行)と認定判断した
(1) 甲第1号証考案の「滑り止め体」及び本件考案の「滑り防止片」の大きさ
について
ア 審決は,甲第1号証考案の「滑り止め体」の大きさについて,マットレ
スの敷台全体を覆うような大きさのものである,と認定した。しかし,この認定は
誤りである。
甲第1号証刊行物の実用新案登録請求の範囲は,「ギヤツチベツドにお
けるマツトレス敷台上に表面に断面∩状の小突起を群設するか,断面∩状の突条を
突設せしめた滑り止め体を添着せしめたことを特徴とするギヤツチベツドにおける
滑り止め具。」というものであり,そこでは,「滑り止め体」の寸法は,全く限定
されていない。
甲第1号証刊行物の考案の詳細な説明には,「マツトレス敷台を構成す
るすのこ板2A上に表面に断面∩状の小突起2Cを群設するか,断面∩状の突条2
Dを突設せしめた滑り止め体2’が添着せしめられている。」(1頁右欄1行~4
行)との記載がある。この記載によれば,マットレス敷台を構成する複数のすのこ
板2A上に,小突起を群設した滑り止め体2’を添着するのであるから,滑り止め
体2’の大きさは,すのこ板2Aの大きさである。これをすべてのすのこ板2Aに
張設しても,一枚一枚の滑り止め体2’の大きさは,すのこ板2Aの一枚の大きさ
であって,敷台全体を覆うような大きさではない(別紙図面2第1図ないし第3図
参照)。すのことは,「細い板を横に並べて間をすかしたもの」(三省堂国語辞
典・甲第7号証),すなわち,複数の細い板であるすのこ板を間隔を置いて保持す
ることにより構成されるもののことであるから,すのこ板2Aに,滑り止め体2’
を添着するということは,敷台1Aに,これを構成するすのこ板2Aの大きさの複
数の滑り止め体2’を添着することにほかならない。考案の詳細な説明中には,滑
り止め体2’をすべてのすのこ板2Aに添着するとの記載はなく,仮に,滑り止め
体2’をすべてのすのこ板2Aに添着したとしても,滑り止め体2’の一枚一枚の
大きさに変わりはないから,敷台全体を覆うものとはなり得ない。
イ 本件考案の「滑り防止片」は,実用新案登録請求の範囲において,単に
床板に「複数個付着してなり」と規定されているだけであり,その大きさは何ら数
値的に限定されていないから,本件考案の「滑り防止片」全体の大きさには,甲第
1号証考案の敷台を構成する「滑り止め体」全体の大きさのものも当然に含まれ
る。本件考案の「滑り防止片」も,甲第1号証考案の「滑り止め体」も,いずれ
も,個々の大きさも使用する個数も,全体の大きさがベッド床板の大きさである範
囲内において,任意に,定めることができることが明らかである。
ウ 以上のとおりであるから,甲第1号証考案の「滑り止め体」と本件考案
の「滑り防止片」とが「大きさ」において相違する,とした審決の認定は誤りであ
る。
(2) 甲第1号証考案の「滑り止め体」に群設された「小突起」ないし突設され
た「突条」と本件考案の「ぎざぎざ」について
審決は,甲第1号証考案について,「本件考案の床板の端縁その他に複数
個付着する表面がぎざぎざな面で形成された「滑り防止片」と甲第1号証の「滑り
止め体」は,「ぎざぎざ」や「滑り防止片」の大きさや全体構成が明確に相違する
ものというべきである。」(審決書4頁11行~14行)と認定した。しかし,こ
の認定は誤りである。
本件考案の「ぎざぎざ」の大きさについては,本件出願の願書に添付した
明細書及び図面(甲第6号証参照。以下,併せて「本件明細書」という。)におい
て何ら規定されていない。甲第1号証考案の「小突起」ないし「突条」の大きさに
ついても,甲第1号証刊行物に規定されていない。これらの大きさは,設計的事項
であるということができる。
本件考案において,「ぎざぎざ」と「小さな凹凸」とは同等のものとして
説明されている(甲第6号証2頁左欄5行~6行参照)から,本件考案の「ぎざぎ
ざ」と甲第1号証考案の「小突起」ないし「突条」とは同じである。
(3) (1),(2)に述べたところによれば,審決は,甲第1号証考案の構成を誤認
するとともに,本件考案の実用新案登録請求の範囲において,大きさが全く特定さ
れていない構成要件である「ぎざぎざ」や「滑り防止片」を,図示された実施例に
より限定的に解釈した上で,大きさを判断基準として,本件考案と甲第1号証考案
とを対比して判断した結果,両者の大きさや全体構成が明確に相違する,との誤っ
た認定判断するに至ったことが,明らかである。
2 審決は,「請求人の全主張を考慮しても,甲第1号証乃至甲第3号証に記載
されたものを組み合わせようとする起因ないし契機(動機付け)となるものがある
ものとはいえない。」(審決書5頁6行ないし8行)と判断した。
しかし,甲第1号証考案,甲第2号証の1ないし5各考案及び第3号証考案
は,いずれもベッドについての考案であって,考案の対象物は全く同一の種類の物
であり,一致している。しかも,甲第3号証考案においては,ベッド床板の両端縁
に,ぎざぎざは形成されていないものの,表面平滑な床板にマットレスの滑りを防
止するための「すべり止めゴム」から成る帯状体が取り付けられている。したがっ
て,上記各考案を組み合わせる起因ないし契機(動機付け)となるものがあること
は明らかであり,審決の上記判断は,誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 本件考案と甲第1号証考案との対比の誤りの主張について
(1) 甲第1号証考案の「滑り止め体」及び本件考案の「滑り防止片」の大きさ
について
ア 甲第1号証刊行物の実用新案登録請求の範囲には「マットレス敷台上に
表面に断面∩状の小突起を群設するか,断面∩状の突条を突設せしめた滑り止め体
を添着せしめた」との記載があり,考案の詳細な説明には「マットレス敷台を構成
するすのこ板2A上に表面に断面∩状の小突起2Cを群設するか,断面∩状の突条
2Dを突設せしめた滑り止め体2’が添着せしめられている。」(1頁2欄1行~
4行)との記載がある。
甲第1号証考案において,マットレス敷台は,複数枚のすのこ板2Aで
構成されている。この複数枚のすのこ板2Aの表面には甲第1号証刊行物第3図な
いし第9図に示されているように,断面∩状の小突起を群設するか,断面∩状の突
状を突設せしめるかした滑り止め体2’がすのこ板2Aの両側面にまで覆いかぶさ
った例が示されている。これらの各図面から,滑り止め体2’は,部分的ではな
く,マットレス敷台の全体にわたって添着されていることが示唆される。マットレ
ス敷台を構成するすのこ板2A同士の間に隙間があっても,すのこ板の全部に滑り
止め体2’が添付されていれば,マットレスの敷台全体が滑り止め体で覆われてい
る,ということができる。甲第1号証刊行物には,複数枚のすのこ板のうち,滑り
止め体2’を添着しないすのこ板2Aについての記載はなく,これを示唆する記載
もない。
甲第1号証考案は,マットレス敷台1Aをギヤッチにより操作して所定
角度に斜向したときに,マットレスの斜向方向へのずれを防止するものであり,こ
のような甲第1号証考案の利点を十分に達成するためには,マットレス敷台1Aを
構成する複数のすのこ板2Aの全部に滑り止め体2’が添着されることが要求され
る。
審決が「ここにいう「小突起」ないし「突条」とは,マットレスの敷台
1A全体を覆うような滑り止め体2’に群設ないし突設されたものであり」(審決
書4頁9行~11行)と認定したのは正当である。
イ 本件考案の「滑り防止片」は,本件明細書中の第2図,第3図(別紙図
面1参照)に示されているとおり,床板の端縁等に複数個付着し得る程度の小さな
ものである。
ウ 以上のとおり,甲第1号証考案の「滑り止め体」と本件考案の「滑り防
止片」とは,大きさが異なるから,審決の認定判断に誤りはない。
(2) 甲第1号証考案の「滑り止め体」に群設された「小突起」ないし突設され
た「突条」と本件考案の「ぎざぎざ」について
本件考案の滑り防止片の表面の「ぎざぎざ」は,「ふちにのこぎりの歯の
ような刻み目があるさま」(岩波国語辞典。乙第1号証)あるいは「小さな凹凸」
(甲第6号証2頁左欄6行)を意味し,具体的には,本件明細書の第2図,第3図
(別紙図面1参照)に番号5で示された態様をいう。本件考案の「ぎざぎざ」は,
のこぎりの歯のような小さな形状の凹凸で形成された,せいぜい1~2mm程度の
凹凸をいい,「ぎざぎざ」の用語によって,おのずと大きさが特定される。
これに対し,甲第1号証考案における滑り止め体2’の表面の「断面∩状
の小突起」あるいは「断面∩状の突条」は,同刊行物の実用新案登録請求の範囲に
はその大きさが明示されていないものの,明細書及び図面を参酌すれば(実用新案
法26条で準用される特許法70条参照),同刊行物中の第3図,第5図,第7
図,第8図,第9図の各図面(別紙図面2参照)から明らかなように,すのこ板2
Aの厚さとほぼ同じ高さか,それよりも高い背丈を有するものであり,本件考案の
「ぎざぎざ」よりも相当に高いものである。
このような甲第1号証考案の「小突起」ないしは「突条」は,到底,「ぎ
ざぎざ」と表現することはできず,本件考案の「ぎざぎざ」とは大きさにおいて著
しく相違する。審決の判断に誤りはない。
2 甲第1号証考案,第2号証の1ないし5各考案及び第3号証考案を組み合わ
せようとする起因ないし契機(動機付け)は存在せず,この点についても,審決の
判断は正当である。
第5 当裁判所の判断
1 甲第1号証考案の「滑り止め体」及び本件考案の「滑り防止片」の大きさに
ついて
(1) 審決は,甲第1号証考案の「滑り止め体」の大きさについて,マットレス
の敷台1A全体を覆うような大きさのものであるから,本件考案の「滑り防止片」
とは大きさが相違する,と認定判断した。
しかしながら,甲第1号証考案の実用新案登録請求の範囲は,「ギヤッチ
ベッドにおけるマツトレス敷台上に表面に断面∩状の小突起を群設するか,断面∩
状の突条を突設せしめた滑り止め体を添着せしめたことを特徴とするギヤッチベッ
ドにおける滑り止め具。」(甲第1号証)というものであり,そこに,滑り止め体
の大きさを限定する記載はない。甲第1号証刊行物中の実用新案登録請求の範囲以
外の部分をみても,上記登録請求の範囲にいう滑り止め体の大きさを限定して解釈
することの根拠となるものは,見いだすことができない(甲第1号証)。甲第1号
証考案の滑り止め体が,マットレスの敷台1A全体を覆うような大きさのものであ
るとの審決の上記認定は,誤りであるというべきである。
審決は,甲第1号証刊行物中の考案の詳細な説明及び各図面の記載を上記
認定の根拠とする。しかしながら,本件審判において甲第1号証刊行物に記載され
ているものとして原告が主張している考案(甲第1号証考案)の中には,実用新案
登録請求の範囲に記載された考案(以下「甲第1号証考案(請求の範囲)」とい
う。)も含まれており,これが,甲第1号証刊行物中の考案の詳細な説明及び各図
面に記載された実施例に限定されるものでないことは,明らかである。
試みに,甲第1号証刊行物中の考案の詳細な説明及び各図面に記載された
実施例(以下「甲第1号証考案(実施例)という。」に着目するとしても,そこで
の「滑り止め具」の大きさは,マットレスの敷台1Aを覆う大きさのものであると
までは認めることができない。
甲第1号証刊行物中の考案の詳細な説明中には,「以下,図面を参照しな
がらその1実施例の詳細を説明する。2は本案のギヤッチベッドにおける滑り止め
具である。そして,その構成は,ギヤッチベッドにおけるマットレス敷台を構成す
るすのこ板2A上に表面に断面∩状の小突起2Cを群設するか,断面∩状の突条2
Dを突設せしめた滑り止め体2’が添着せしめられている。」(考案の詳細な説明
1頁1欄34行~2欄4行。別紙図面2参照)との記載がある(甲第1号証)。同
記載によれば,甲第1号証考案(実施例)における滑り止め体は,マットレスの敷
台1Aを構成するすのこ板2A上に添着されているものである。「すのこ」とは
「細い板を横にならべて間をすかしたもの」(三省堂国語辞典第三版。甲第7号
証)のことであり,「すのこ板」とは,すのこを構成する細い板のことであるか
ら,滑り止め体は,マットレスの敷台の一部を構成する細い板であるすのこ板に添
着されていると認められ(すのこ板をどの程度の間隔で設置するかについては,何
も述べられていない。),審決のいうような,マットレスの敷台1A全体を覆うよ
うな大きさのものであるということはできない(この点につき,甲第1号証刊行物
の図面である別紙図面2の第3図は,やや分かりにくいものの,敷台の一部を構成
するすのこ板を表しているものと認めることができる。)。
のみならず,甲第1号証考案(実施例)において,すべてのすのこ板に滑
り止め体が装着されるとされているものと認めることもできない。
被告は,マットレスの敷台1Aが複数枚のすのこ板2Aによって構成され
ることを認めながら,甲第1号証刊行物第3図ないし第9図を引用し,これらの図
には,断面∩状の小突起を群設するか,断面∩状の突状を突設せしめるかした滑り
止め体2’がすのこ板2Aの両側面にまで覆いかぶさった例が示されており,これ
らの各図面から,滑り止め体2’は,部分的ではなく,マットレス敷台の全体にわ
たって添着されていることが示唆されている,と主張する。しかし,上記各図面の
記載からは,上記のとおり,マットレス敷台の一部を構成するすのこ板2Aに滑り
止め体2’が添着されており,その添着の一態様として,すのこ板2Aの側面にま
で覆いかぶさったものがあることまでは認められるものの,滑り止め体2’が添着
されたすのこ板2Aで構成されるマットレス敷台全体を示す図はなく,敷台を構成
する各すのこ板2Aの全部に滑り止め体2’が添着されていることも,滑り止め体
2’によって,すのこ板2Aの間の空間がすべて覆われていることも,認めること
はできない。
被告は,甲第1号証考案は,マットレス敷台1Aをギヤッチにより操作し
て所定角度に斜向したときに,マットレスの斜向方向へのずれを防止するものであ
り,このような甲第1号証考案の利点を十分に達成するためには,マットレス敷台
1Aを構成する複数のすのこ板2Aの全部に滑り止め体2’を添着することが要求
される,と主張する。しかしながら,甲第1号証考案がマットレスの斜向方向への
ずれを防止することを目的としているとしても,そのことから,直ちに,同考案の
滑り止め体2’をすのこ板2Aの全部に添着することが要求されると解すべき根拠
はない。
被告の主張は採用することができない。
上に述べたところによれば,甲第1号証考案の滑り止め体の大きさについ
ての審決の認定は誤りであるというべきである。
(2) 本件考案の実用新案登録請求の範囲は,前記第2の2記載のとおり,「鋼
板,合成樹脂板等の表面平滑な床板の端縁あるいはその他の任意の個所に,表面が
ぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着してなり,これにより床板上に
配置されるマツトレスの滑り落ちを防止するようにしたことを特徴とするマツトレ
スの滑り落ち防止機構を備えたベッド。」というものであり,そこには「滑り防止
片」の大きさ自体を示す文言は全く存在しない。もっとも,上記登録請求の範囲に
は,「滑り防止片」は床板上の端縁その他の任意の個所に複数個付着されるもので
あるとの記載があるから,個々の「滑り防止片」の大きさは床板よりも小さいもの
であるということになる。しかし,設置場所は端縁に限られているわけではなく,
任意の個所とされているのであるから,「滑り防止片」の大きさについて,それ以
上の限定はないということができる。
(3) 上記(1),(2)で述べたところによれば,甲第1号証考案の滑り止め体は,
審決のいうような,マットレス敷台全体を覆うような大きさのものに限られるもの
ではなく,本件考案の滑り防止片も,マットレス敷台の大きさの範囲内で任意の個
所に設置することができるから,甲第1号証考案の滑り止め体の大きさが本件考案
の滑り防止片の大きさと異なるとの審決の認定は,誤っているというべきである。
2 甲第1号証考案の「滑り止め体」に群設された「小突起」ないし突設された
「突条」と本件考案の「ぎざぎざ」について
本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおり
であり,そこでは,滑り防止片の「ぎざぎざ」の大きさについて限定はされていな
い。
甲第1号証考案の滑り止め体及びこれに群設された小突起,突設された突
条の大きさについても,甲第1号証刊行物中には,これを限定する記載は見当たら
ない。
そうである以上,本件考案の滑り防止片の「ぎざぎざ」の大きさと甲第1
号証考案の滑り止め体に群設された「小突起」,突設された「突条」の大きさとが
異なるとすることはできない,というべきである。
被告は,本件考案の滑り防止片の「ぎざぎざ」とは,のこぎりの歯のよう
な小さな形状の凹凸で形成され,せいぜい1~2mm程度の凹凸をいい,「ぎざぎ
ざ」の用語によって,おのずと大きさが特定される,と主張する。しかしながら,
「ぎざぎざ」という語は,「のこぎりの歯のような刻み目があるさま」(岩波国語
辞典・第三版。乙第1号証)を意味するものとはいえるものの,これは形状を意味
するにとどまる語であって,その形状の大きさまで特定する語と解することはでき
ない。本件明細書の第2,3図(別紙図面1参照)も本件考案の滑り防止片の「ぎ
ざぎざ」の大きさを特定するに足りるものではない。仮に上記図面から大きさを把
握することができるとしても,同図面は本件考案の一実施例を示すものにすぎず,
本件考案における「ぎざぎざ」の大きさが,同図面に記載されたものに限定される
ものでないことは,本件明細書の記載から明らかである(甲第6号証)。被告の主
張は,採用することができない。
上に述べたところによれば,本件考案の「滑り防止片」及び「ぎざぎざ」
の大きさと,甲第1号証考案の「滑り止め体」並びに「小突起」及び「突条」の大
きさとが異なるとすることはできず,これらの構成について,本件考案と甲第1号
証考案とで相違するということはできない。
審決が,「本件考案の床板の端縁その他に複数個付着する表面がぎざぎざ
な面で形成された「滑り防止片」と甲第1号証の「滑り止め体」は,「ぎざぎざ」
や「滑り防止片」の大きさや全体構成が明確に相違するものというべきである。し
たがって,両者が,ベッドの床板に表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を
取り付けて床板上に載置したマットレスの滑りを防止するようにした点で一致する
という請求人の主張には到底首肯することができない。」(審決書4頁11行~1
7行)と認定判断したのは,誤りという以外にない。
3 審決は,「請求人の全主張を考慮しても,甲第1号証乃至甲第3号証に記載
されたものを組み合わせようとする起因ないし契機(動機付け)となるものがある
ものとはいえない。」(審決書5頁6行~8行)と判断した。しかしながら,甲第
1号証,第2号証の1ないし5及び第3号証によれば,甲第1号証考案,第2号証
の1ないし5画考案及び第3号証考案は,いずれも,ベッドに関する考案であるこ
と,甲第3号証考案は,表面平滑な床板の端縁に,マットレスの滑り落ち防止のた
めの滑り止めを設置しているものである点において甲第1号証考案と共通性を有す
ること,が認められる。これらの事実によれば,上記各考案を組み合わせようとす
る起因ないし契機(動機付け)となるものがあるというべきである。審決の上記判
断は誤りである。
4 まとめ
審決は,本件考案と甲第1号証考案との対比を誤り,甲第1号証考案,第2
号証の1ないし5各考案及び第3号証考案を組み合わせる起因ないし契機(動機付
け)がないとの誤った判断をし,これらの誤った認定判断を前提として進歩性の判
断を導いたものであり,上記審決の各誤りが,一体となってその結論に影響を及ぼ
すことは,明らかである。
原告主張の取消事由は理由がある。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告の本訴請求は理由がある。そこで,これを認
容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     阿   部   正   幸
裁判官    高   瀬   順   久
※ 別紙図面1として甲第6号証2枚目の第2図,第3図を添付
別紙図面2として甲第1号証2頁目の図面全部を添付

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