弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を徴役二〇年に処する。
     原審における未決勾留日数中一七〇〇日を右刑に算入する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、検察官大堀誠一作成名義の控訴趣意書、弁護人富永赳夫、
同小沼清敬連名作成名義の控訴趣意書及び被告人作成名義の控訴趣意書に、右検察
官の控訴趣意に対する答弁は、被告人作成名義の答弁書に、右弁護人の控訴趣意に
対する答弁は、検察官五味朗作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりである
から、これらを引用する。
 弁護人の控訴趣意第一について
 所論は、要するに、爆発物取締罰則は、明治一七年太政官布告第三二号として制
定された命令であつて、議会により制定された法律ではないから、憲法三一条、七
三条六号但書に違反し、日本国憲法施行と同時に無効となつたものであり、また、
違憲か否かを判断するまでもなく、同罰則の各規定は、昭和二二年法律第七二号一
条にいう「命令の規定」であつて、「法律を以て規定すべき事項を規定するもの」
に該当するから、昭和二二年一二月三一日をもつて効力を失つたものであり、更
に、内容的にも、同罰則の構成要件は不明確で、とりわけ「治安ヲ妨ケ」る目的な
る概念は漠然としているから、憲法三一条に、右目的を構成要件の要素としている
のは、行為者の思想信条を主たる処罰理由とするものであるから憲法一九条に、同
罰則一条の法定刑は異常に重く、残虐な刑罰というべきであるから憲法三一条、三
六条にそれぞれ違反し無効であるのに、原判決が判示第二ないし第六の各事実に対
し同罰則を適用したのは、法令の適用を誤つたものであるというのである。
 しかしながら、爆発物取締罰則が昭和二二年五月三日日本国憲法施行の際、現に
効力を有する法律として取扱われ、その後も法律としての効力を有していること、
同罰則にいう「治安ヲ妨ケ」るとは、公共の安全と秩序を害することをいうのであ
つて、その意味内容が不明確であるとはいえず、同罰則は、その所定の目的をもつ
て爆発物を使用するなどした行為を罰するのであつて、その行為者の思想信条を理
由に処罰するものではないこと、また、同罰則の定める刑が残虐で違憲な刑罰では
ないことについては、原判決挙示の数次に及ぶ最高裁判所の判例の明示するとおり
であつて、原判決には所論のような法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がな
い。
 弁護人の控訴趣意第二の一について
 所論は、要するに、原判決は、判示第二(古堅方での爆発物の製造)の事実につ
いて、被告人は、Aが、機動隊員や警察施設に爆弾を投擲して警察官を殺害するこ
とを闘争形態とする「B作戦」に使用する意図であることを知りながら、治安を妨
げ、人の身体財産を害する目的をもつて、同人らと共に鉄パイプ爆弾二個を製造し
た旨認定したが、右Aが提唱したとされる「B作戦」なるものは、具体性、現実性
のない想定でしかなく、同人自身爆発物取締罰則三条の目的を有していたとは認め
られないのみならず、被告人は、できあがつた爆弾をAが持ち帰る段になるまで、
その爆弾の使用目的には関心を持つておらず、したがつて、右製造時には、右認定
のような目的を有していなかつたのであるから、原判決が、前記目的があつたと認
定したのは、事実を誤認したものであるというのである。
 そこで、検討してみるのに、関係証拠によれば、被告人は、Aらと共に本件鉄パ
イプ爆弾を製造した当時、同人が、過激派闘争集団である「C派」の幹部で、近く
予定されているD空港建設のための代執行に反対するいわゆるE闘争に際し、機動
隊や警察施設に爆弾を投擲して警察官を殺傷するという「B作戦」と称する武力闘
争を提唱している者であるのを承知していたこと、本件鉄パイプ爆弾は、Aが持参
した材料により、同人が中心になつて製造したものであるが、同人は、製造した爆
弾を右作戦のため使用する意図を有しており、その旨を被告人らに話しているこ
と、製造された二個の爆弾は、いずれも鉄パイプの外周に格子模様の刻み目を入
れ、その中に多数の鉄釘片とダイナマイトを充填し、起爆装置として工業用雷管又
は導火線を用いたもので、右鉄釘片等の飛散による殺傷効果等を狙つた手投げ式の
ものであつたことがそれぞれ認められる。そして、被告人も、捜査段階において
は、右Aの意図を認識していた旨自供しており、所論のように、当時被告人が「C
派」による「B作戦」を全く実現性のないものと考えていたとは認められないこと
等も合わせて考えると、被告人は、当時、Aが本件爆弾を警察官の殺傷を主目的と
する右「B作戦」に使用する意図であることを知りながら、同人らと共同してこれ
を製造したものと認められるから、被告人は治安を妨げ、人の身体財産を害する目
的をもつて本件爆発物を製造したということができ、原判決に所論のような事実の
誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第二の二について
 所論は、要するに、原判決は、判示第四の(二)(四面道派出所での爆発物の使
用)の事実について、被告人は、治安を妨げ、人の身体財産を害する目的をもつて
爆発物を使用した旨認定したが、被告人らによる爆弾設置の状況等に徴すると、被
告人が人の身体を害する目的を有していたとは考えられないから、原判決が人の身
体を害する目的があつたと認定したのは、事実を誤認したものであるというのであ
る。
 そこで、検討してみるのに、被告人らは、ダィナマィト約一〇〇グラムずつを詰
めた鉄パィプ三本を束ねた爆弾を製造し、これを、夜間でも不断に人や車の往来す
る市街地の道路に面した場所にある荻窪警察署四面道派出所の建物に近接して仕掛
けたものであり、右爆弾の威力及び設置した場所付近の状況に徴すると、もし、右
爆弾が発見されることなく爆発しておれば、右派出所及び付近の人家が破壊される
だけでなく、同派出所に勤務する警察官や通行人等に人身被害の発生する可能性が
かなり高かつたものと推定される。そして、被告人は、先に杉並警察署高円寺駅前
派出所で鉄パイプ一本を使つた爆弾を爆発させた経験から、右爆弾よりもはるかに
強烈な破壊力を持つ本件爆弾が爆発すれば、高円寺駅前派出所事件の場合よりも更
に大きな被害を発生させることになるであろうとの認識を有していたことが明らか
である。そして、これらの事実に加えて、関係証拠によつて認められる次のような
事実、すなわち、被告人らは当初は右鉄パイプ爆弾を荻窪警察署本署の建物内に仕
掛ける意図であつたこと、右鉄パイプ爆弾と同時に製造され、本富士警察署弥生町
派出所の屋上に仕掛けられた爆弾が、ダイナマイト一〇本以上を束ねた極めて強力
なものであつたこと、そのほか、被告人は、共犯者らとこれらの爆弾の製造及び使
用について謀議した際には、手投げ式爆弾を製造してこれを直接警察官や警察施設
に投擲することを主張していたこと等の事実並びにこれらの事実から推定される被
告人の犯意並びに被告人及び被告人と共同して四面道派出所に本件爆弾を仕掛けた
Fが、それぞれ、捜査段階においては、右爆弾の製造及び使用にあたり、警察官ら
の殺傷を認容していた旨の自供をしていること等の事実をも合わせて考えると、被
告人及びFは、鉄パイプ三本を束ねた本件時限式ダイナマイト爆弾を四面道派出所
に仕掛けるにあたり、場合によつては、警察官や通行人等を殺傷する結果が発生す
る可能性を認識しながら、敢えてこれを行つたものと認めることができる。もつと
も、被告人らは、一般の通行人らに被害が及ぶことをできるだけ回避したいとの考
えから、時限装置による爆発時刻を深夜の午前二時ころにセツトしており、前記の
とおり本件爆弾の爆発により人身被害の発生する可能性はかなり高かつたけれど
も、人や車の往来が比較的閑散となる右時刻ころの爆発となれば、通行人らに対す
る人身被害の発生が必定とまではいえないこと等から判断すると、被告人が通行人
や近隣の住人等一般人を殺傷する結果について確定的認識を有していたとまでは認
め難い。また、同派出所の警察官に対する関係でも、被告人らは、当初から本件ダ
イナマイト爆弾を同派出所に仕掛けるべく計画していたものではなく、荻窪警察署
本署の建物内に仕掛けようとして同署付近まで赴いたが、果たせず、急遽方針を変
更して四面道派出所に仕掛けることにしたものであつて、被告人らが同派出所に爆
弾を仕掛ける時の認識が、これを製造した時の認識のままであつたか否かについて
はなお検討を要するものと考えられるところ、被告人らは、本件ダイナマイト爆弾
を同派出所北側のコンクリート壁に近接して置いただけであり、前記のとおり、同
爆弾がダイナマイト約三〇〇グラムを使用した破壊力の強いものであつたとして
も、右のような設置方法では、同爆弾の爆発により同派出所内の警察官を確実に殺
傷できるか否かは大いに疑問であり、関係証拠によつて認められる当時の被告人の
ダイナマイト爆弾の破壊力に関する認識の程度等に徴すると、本件爆弾の爆発の結
果についての被告人の認識も右と同様であつたと推定されるから、被告人が、右設
置したダイナマイト爆弾によつて、同派出所内の警察官を確実に殺傷しうるものと
考えていたとまでは認め難い。してみると、原判決が、被告人は、本件爆弾を使用
するにあたり、同派出所内にいる警察官の身体を害することを確定的に認識してい
た旨認定したのは、事実を誤認したものといわなければならない。しかしながら、
先に判示したように、被告人は、未必的には警察官らの殺傷を認識し、かつ、これ
を認容していたものと認められるところ、後記検察官の控訴趣意第二に対する判断
として説示するとおり、爆発物取締罰則一条所定の人の身体を害する目的があると
いうためには、その結果の発生を未必的に認識し、かつ、これを認容するをもつて
足りるものと解されるから、右事実の誤認は、本件犯罪の構成要件的評価に変更を
きたすものではなく、かつ、右の誤認が本件の犯情の評価にそれほど影響するとも
考えられないから、右事実の誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはい
えない。論旨は結局理由がない。
 弁護人の控訴趣意第二の三及び被告人の控訴趣意について
 所論は、要するに、原判決は、判示第五の(一)、(二)(追分派出所に仕掛け
た爆発物の製造及び使用並びに殺人未遂)の事実について、被告人は、治安を妨げ
る目的及び警察官らに対する未必的殺意をもつて本件爆発物を製造及び使用した旨
認定したほか、警察官らを殺傷し同派出所の建物等を破壊する未必的認識を有して
いたことも認められる旨判示しているが、被告人としては、予告電話をすることに
より、これが警察に通報されて、直ちに通行人らは避難させられ、本件爆弾は道路
の真中に持ち出されたうえ、砂袋、古タイヤ等で囲まれ、やがて現場に到着した警
察の爆発物処理班により爆発物処理筒の中で爆発させられるか、又は、右のように
危険防止の措置がとられたのちに爆発することになるものと予想していたのである
から、被告人に治安を妨げる目的があつたとはいえず、警察官らに対する未必的殺
意や警察官らを殺傷したり、同派出所の建物等を破壊する未必的認識もなかつたの
に、原判決が前記のような目的や未必的殺意及び未必的認識があつたと認定したの
は、事実を誤認したものであるというのである。
 そこで、まず、治安を妨げる目的の有無の点について検討してみるのに、被告人
らは、ダイナマイト数百グラム、アンホ(硝安油剤爆薬)及び黒色火薬各約五〇〇
グラムを使用した威力の大きな時限式爆弾を多数の通行人らで混雑する新宿の繁華
街の中にある四谷警察署追分派出所脇に仕掛けたものであるが、関係証拠によれ
ば、被告人は、右爆弾を仕掛けたことを新聞社に電話で知らせることにより、一応
右所論のように事態が進展するものと予想していたことが認められるが、それと同
時に、後記のとおり、被告人は、本件爆弾の爆発により追分派出所の建物等が破壊
されたり、警察官や通行人らが殺傷される可能性もあることを認識していたこと、
被告人らは、本件を含む一連の爆弾闘争により、警察の動揺を惹き起こし、社会不
安を醸成することを意図していたことがそれぞれ認められるのであつて、これら被
告人の認識内容及び意図等に照らすと、被告人が、本件爆弾の製造及び使用にあた
り、治安、すなわち公共の安全と秩序が害される結果の発生することを認識し、か
つ、これを認容していたことは明らかであるというべきであるから、原判決が、被
告人に治安を妨げる目的があつたと認定したのは正当である。
 次に、警察官らに対する未必的殺意の有無及び警察官らを殺傷し追分派出所の建
物等を破壊することについての未必的認識の有無の点について検討してみるのに、
被告人は、捜査段階から一貫して、予告電話のあつたことは当然新聞社から警察に
通報されるものと思つていたので、本件において実際に起こつたように、予告電話
のあつたことが警察に通報されず、追分派出所脇に仕掛けられた本件爆弾が、それ
に対するなんの対応措置も講じられないまま爆発し、補害が発生するというような
事態は全く予想していなかつた旨供述しているところ、新聞社に予告電話をしただ
けでは、特に警察に通報するよう依頼でもしない限り、いわゆるいたずら電話と間
違われることもあり、その予告電話のあつたことが必ず警察に通報されるとは限ら
ないのであつて、このような理は、通常容易に考えられることではあるけれども、
一方、当時は、被告人の属するグループを含むいわゆる過激派による爆弾事件が頻
発し、警察官派出所にも爆弾処理用の砂袋等が配備されていたような世情であつた
うえ、予告電話の先が社会的信用度の高い一流新聞社であつたことを思えば、被告
人において、予告電話のあつたことが新聞社から警察に通報されるものと思い込ん
だとしても、一概に不自然であるともいいきれないのである。しかも、関係証拠に
よれば、被告人は、昭和四六年一二月二三日夜、G方において、Hから、明日の夕
刻、クリスマスイブでにぎわう新宿の繁華街の中にある追分派出所に威力の大きな
爆弾を仕掛けて爆発させようという企てを提案された際、Iと共に、それでは一般
通行人をも傷殺することになるとして右企てに反対したこと、それに対し、Hか
ら、新聞社に予告電話をして、一般通行人を避難させ、多少離れた所で多衆が見守
る中で爆発させるようにする旨の説明があつたため、被告人も右企てに賛成するに
至つたこと、同派出所の爆破は、その実行の前夜、急に実行することが決まり、当
日、現場の下見から爆弾の製造、使用までの全作業が行われたものであつて、あら
ゆる事態の推移を慎重に検討したうえで決行されたというようなものではなかつた
こと、被告人及びIは、当日、J荘で本件爆弾を製造した際、二人で話合いのう
え、予告電話を知つた警察側にこれに対応するだけの時間的余裕を与えるため、前
夜の謀議で決まつていた午後七時の爆発時刻を一〇分間先に繰り下げて時限装置を
作つたこと、本件爆弾は、クリスマスツリーに偽装され、手提げの紙袋の中に入れ
られてはいたが、黒色火薬の間から偽装コードが露出した形状や、それが設置され
た追分派出所脇の状況等からして、警察官の探索によつて発見されるのを当初から
予定していた形跡がうかがわれること、被告人及びIは、テレビのニュースで一般
通行人にも多数の負傷者が出たことを知つて驚き、その原因について、最初は、爆
弾があまりにも強力過ぎたためであろうかなどと想像したが、やがてニュースの詳
報により、予告電話が奏効しなかつたことを知り、翌日、予告電話をしたKに電話
して、予告電話をしたか否かについて問い質していること、そのほか、被告人ら
は、本件以前に行つた爆発物の使用事犯においても、警察官はともかく、一般人に
はできるかぎり被害を出さないようにするという方針で臨んでいたことがそれぞれ
認められ、これらの事実のほか、予告電話をすることを発案し、Kにそれを指示し
た右Hも、検察官に対する供述調書中において、予告電話は当然新聞社から警察に
通報されるものと思つていた旨供述していること等も合わせ考えると、予告電話は
警察に通報されるものと思つていた旨の被告人の前記供述の信憑性をあながち否定
することができないのである。ところで、原判決は、右被告人の供述を信用できな
い理由として、新聞社に予告電話をしたからといつて、それが必ず警察に通報され
るとは限らないという経験則のほかに、被告人が、予告電話についてはHに任せき
りにして、その内内やそれが新聞社から警察に確実に通報されるか否か等の点につ
いて検討した形跡がないことや、本件爆弾を追分派出所脇に仕掛けたのちは、その
後の経過を観察することもなく、直ちに現場を立ち去り、爆弾が発見されなかつた
場合における殺傷や破壊回避の措置を講じていないことを挙げているが、右のよう
な被告人の態度は、被告人が極めて安易に本件爆弾を使用したことをうかがわせる
ところではあるけれども、必ずしも被告人において予告電話のあつたことが警察に
通報されない事態の発生する可能性を認識していたということの根拠となるものと
は考えられない。また、本件以前にIらが行つた仙台国見の通信所爆破の際、予告
電話が失敗に終つたということにしても、その予告電話が警察当局に通じないで人
身被害が発生したというようなものではないうえ、被告人が右Iらの経験から、本
件予告電話が警察に通報されない可能性があると考えていたことをうかがわせるよ
うな証拠もないのである。してみると、原判決が、被告人において、警察官らを殺
傷し、追分派出所の建物等を破壊することを未必的に認識していたということの主
要な根拠として、被告人が予告電話のあつたことが警察に通報されない事態も予想
していたことを挙げているのは、正当ではないといわなければならない。しかしな
がら、関係証拠によれば、実際には、たとえ予告電話のあつたことが新聞社から警
察に通報されたとしても、なんら準備態勢にない警察において、予告電話から爆発
までの三、四〇分間程度の時間内に、多数の人や車で混雑する追分派出所前の交通
を完全に遮断し、人々を同所から遠ざけるのはほとんど不可能であり、また、警察
の爆弾処理班が待機場所から出動して右時間内に本件現場に到着することも期待で
きない状態であつたことが認められる。すなわち、予告電話により、追分派出所脇
に時限装置の付いた本件爆弾が仕掛けられていることが判明しても、警察当局にも
万全の対応手段はなく、とりあえず爆弾を砂袋等で囲い、同派出所の警察官及び爆
発時刻までに同所に到着した警察官らで、通行人らが爆弾に近づかないようできる
限り規制に努める程度のことしかできなかつたわけであるから、たとえ予告電話の
あつたことが警察に通報されたとしても、本件爆弾の爆発は防止できず、追分派出
所の建物等が破壊された可能性は高く、かつ、大混乱の最中に爆弾が爆発し、右の
ような任務にあたつていた警察官や通行人らが死傷した可能性も否定できないもの
といわなければならない。そして、被告人らにおいても、あまり警察当局に時間的
余裕を与えたのでは、爆弾を調べられて起爆装置の電気回路を切断されてしまうお
それがある等の考えから、当初は、予告電話から爆発までの時間を三〇分間程度と
することにしていたが、その後、警察当局の対応の遅れ等を慮つて、右時間を一〇
分間延長したこと等から判断すると、被告人にも前記のような警察当局の対応の困
難さは、ある程度わかつていたと考えられる一方、被告人は、警察の爆弾処理班
は、警察への通報後一五分間程度で到着するものと思つていた旨供述しているけれ
ども、被告人の供述する右到着所要時間は全く根拠のないものであり、被告人がそ
のように信じていたとは認め難いこと、被告人らは、起爆装置の電気回路が切断さ
れるのを警戒してまぎらわしい偽装コードを装着し、それが切断されても爆発する
ような工作をしていたこと、被告人も、捜査段階においては、予告電話のあつたこ
とが警察に通報されても、爆発により同派出所の建物や付近の建物の窓ガラス等が
損壊されたり、警察官や通行人に殺傷の結果が生じる可能性を認識していたとし
て、当時考えたいくつかの場合について具体的に自供していること、前記のとお
り、被告人は、昭和四六年一〇月二三日の少し前ころ、同日に行う爆弾闘争の形態
について共犯者らと謀議した際には、手投げ式爆弾を直接警察官に投擲して警察官
を殺傷する方法を主張しており、関係証拠によれば、被告人は、その後も、Lと二
人で、手投げ式爆弾を持ち、投擲の機会をうかがつてデモ規制中の警察官に近づく
など、警察官の殺傷に対して積極的な姿勢を示していたことが認められ、しかも、
被告人は、捜査段階においては、自分の右のような言動について、警察官の殺害を
意欲してのものであつた旨自供していること、そのほか、本件を中心になつて計画
したHや、いつしよに本件爆弾を製造したIも、検察官に対する供述調書中におい
て、予告電話のあつたことが警察に通報されたとしても、本件爆弾の爆発により警
察官や通行人らが殺傷される可能性があることを認識していた旨供述していること
等を総合すれば、被告人は、予告電話のあつたことが新聞社から警察に通報されて
も、追分派出所の建物等が破壊されたり、警察官や通行人らが殺傷される可能性が
あることを認識し、かつ、これを認容していたものと認めることができる。ところ
で、被告人は、原審公判廷及び当審公判廷において、予告電話が警察に通報された
以降の事態の推移に関する認識の点について、前記所論と同旨の供述をしているけ
れども、およそ考えられる一つの場合を所論のように具体的に予想しながら、事態
がそれとは異なつた展開を見せ、異なつた結果が発生する可能性があることについ
ては全く想い至らなかつたというのは著しく不自然であるうえ、前記のような事実
及び供述と対比して到底信用することができず、被告人の右供述は前記認定を左右
するものとは認められない。そして、原判決は、右に説示したような理由をも含め
て、被告人に警察官らに対する未必的殺意及び警察官らを殺傷し追分派出所の建物
等を破壊することについての未必的認識があつたと判断しているものと解されるか
ら、その限りでは、原判決の認定は正当として是認することができる。すなわち、
原判決は、被告人において、予告電話のあつたことが警察に通報されない可能性が
あることを認識していたものと判断し、このことを被告人の警察官らに対する未必
的殺意ないし殺傷等の未必的認識認定の一根拠としたため、本件爆弾の使用からそ
の爆発に至る経過や爆発による被害の発生状況等の点に関し、被告人の認識の具体
的内容を一部誤認している点があるけれども、前判示のとおり、被告人に犯意ない
し目的の認識があつたことは認められるのであるから、その限りにおいて原判決の
認定を是認することができるのである。しかも、前記摘示の誤認は、犯罪の構成要
件事実の認定に差違をもたらすものではなく、また、予告電話のあつたことが新聞
社から警察に通報されないまま爆発の結果が発生する可能性についての被告人の認
識の程度に関する原判決の判示等に鑑みると、右誤認が本件犯情の評価にそれほど
影響するとも考えられないから、右誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである
とはいえない。なお、被告人の認識の具体的内容が前判示のようなものであるとす
れば、本件爆弾の使用からその爆発に至る経過や爆発による被害の発生状況等の点
において、被告人の認識したところと実際に起こつた事態との間に齟齬があること
になるが、右は同一構成要件内における具体的事実の錯誤にすぎず、右錯誤が故意
ないし目的の存立を阻却するものでないことはいうまでもない。
 以上のとおり、原判決が、被告人において追分派出所に仕掛ける爆弾を製造及び
使用するにあたり、治安を妨げる目的、警察官らに対する未必的殺意及び警察官ら
を殺傷し追分派出所の建物等を破壊する未必的認識を有していたと判断したのは、
結局正当としてこれを是認することができる。論旨は理由がない。
 検察官の控訴趣意第一中高円寺駅前派出所事件の事実誤認を主張する論旨につい

 所論は、要するに、原判決は、判示第三の(一)、(二)(高円寺駅前派出所に
仕掛けた爆発物の製造及び使用)の事実について、被告人は、人の身体を害する結
果の発生について未必的認識しか有していなかつたから、被告人に人の身体を害す
る目的があつたと認めることはできないとして、人の身体を害する目的を罪となる
べき事実から除外しているが、本件爆弾の構造と威力、その使用方法、被告人の一
連の爆弾闘争についての考え方等に徴すると、被告人が同派出所内の警察官の殺傷
について確定的認識を有していたものと認めることができるから、原判決には、右
の点において事実の誤認があるというのである。
 そこで、検討してみるのに、関係証拠によれば、被告人らは、杉並警察署高円寺
駅前派出所に仕掛ける爆弾の製造及び使用を、警察官の殺傷を主たる闘争形態とし
て掲げるC派の「B作戦」に呼応して行つたものと認められ、そして、被告人は、
捜査段階においては、本件爆弾の製造及び使用にあたつては、同派出所の建物が破
壊されるほかに、警察官殺傷の結果も生ずれば、その方がより宣伝効果があがるの
で、それを期待していた旨自供しており、共犯者のIも、検察官に対する供述調書
中において同旨の供述をしていること、本件爆弾は、ダイナマイト約一〇〇グラム
を鉄パイプに充填した威力の大きな時限式爆弾であり、被告人らはこれを同派出所
の外壁に近接して置いていること等から判断すると、被告人が、本件爆弾の製造及
び使用にあたり、同派出所に勤務する警察官が殺傷される可能性があることを認識
し、かつ、これを認容していたことは認められるが、本件爆弾が実際に爆発した結
果をみると、警察官殺傷の結果が発生していないことはもとより、同派出所の建物
の被害としても、爆発地点に近い西側ガラス窓が割れたほかは、右窓の窓枠や羽目
板が一部損傷した程度で、同派出所内にいた警察官が爆発の被害を受ける蓋然性が
高度であつたといえるほどの破壊の結果は生じておらず、原審証人Mの証言によつ
ても、爆弾の金属破片等の飛散や建物の一部破壊により同派出所内の警察官が殺傷
される可能性のあつたことが認められるにとどまるのであつて、被告人も、警察官
殺傷の結果が発生するのを確定的なものとして認識していたとまでは供述していな
いこと等から判断すると、警察官殺傷の結果についての被告人の認識は未必的なも
のにとどまり、これを確定的なものとして認識していたとまでは認め難いというべ
きである。また、被告人らは、通行人らに被害が及ぶのをできる限り回避したいと
の考えから、本件爆弾の爆発時刻を深夜の午前三時ころにセツトしていたこと等か
ら判断すると、通行人らに対する関係でも人身被害の発生を確定的なものとして認
識していたとは認め難い。そうであれば、原判決が、被告人は、人身被害の発生の
点については未必的認識しか有していなかつたと認定したのは正当であり、所論の
うな事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。
 検察官の控訴趣意第一中追分派出所事件の事実誤認を主張する論旨について
 所論は、要するに、原判決は、判示第五の(一)、(二)(追分派出所に仕掛け
た爆発物の製造及び使用並びに殺人未遂)の事実について、被告人には、爆発時に
付近にいる警察官らを殺傷したり、追分派出所の建物等を破壊したりすることにつ
いて、未必的認識があつたことは認定できるが、確定的な認識があつたとまでは認
定できないとして、本件爆弾の製造及び使用につき人の身体財産を害する目的を罪
となるべき事実から除外したが、被告人らの爆弾闘争についての考え方、本件爆弾
の威力及びこれを仕掛けた現場の状況等に徴すると、被告人は、右の点について確
定的認識を有していたものと認められるのであつて、被告人らが予告電話をしたこ
とを過大に評価し、前記結論に到達した原判決に事実を誤認したものであるという
のである。
 そこで、検討してみるのに、既述のとおり、被告人らは、ダイナマイト、アンホ
及び黒色火薬各数百グラムを使用して製造した極めて破壊力の強い本件時限式爆弾
を新宿の繁華街の中にある追分派出所脇に午後七時一〇分ころに爆発するようにセ
ツトして仕掛けたものであつて、右爆弾の使用の仕方は、この事実が事前に警察当
局に通報され、対策が講じられない場合には、本件において現実化したごとく、右
爆弾の爆発により同派出所に詰めている警察官や通行人らに多数の死傷者を出し、
同派出所の建物等を破壊することが必至というべき方法であるが、一方、右爆弾を
仕掛けたことが警察に通報されておれば、前記のように、爆発時刻までには到底十
分な対応はできないにしても、警察官や通行人らが無条件に死傷することはないで
あろうと考えられるので、被告人らが新聞社にした予告電話が警察に通報される客
観的な可能性及びその点に関する被告人の認識のいかんについて検討する必要があ
る。原判決も説示するように、爆弾事件が頻発していた当時の世情や、被告人らが
新聞社に対してした予告電話の内容が爆弾を仕掛けた場所及び爆発時刻を特定した
ものであつたこと等に徴すれば、右予告電話のあつたことが警察に通報される可能
性は十分にあつたと考えられるし、先に説示したように、被告人が、捜査段階から
一貫して、予告電話は当然新聞社から警察に通報され、通行人らを避難させる措置
がとられるものと思い込んでいた旨供述していることからすれば、被告人の右供述
をあながち虚偽として排斥してしまうことはできないのである。そうだとすると、
所論の強調するような諸点を考慮に入れても、被告人が警察官らの殺傷や追分派出
所の建物等の破壊を確定的に認識していたものとは認め難いから、これらの点に関
する被告人の認識が未必的なものにとどまつていたとする原判決の認定は正当とし
てこれを是認することができ、所論のような事実の誤認があるとは認められない。
論旨は理由がない。
 検察官の控訴趣意第一中新潟県a町における爆発物所持事件の事実誤認を主張す
る論旨について
 所論は、要するに、原判決は、判示第六(新潟県a町における爆発物の所持)の
事実について、被告人がその所持する爆発物を警察施設爆破のために使用する意図
で所持していたことは認められるが、これらを使用して警察官らを殺傷する確定的
認識を有していたとまでは認め難いとして、本件爆発物の所持につき人の身体を害
する目的を罪となるべき事実から除外したが、被告人が本件爆発物を同所において
所持するに至つた経緯及び所持の目的、爆発物及びそれと合わせて所持していた各
種の爆弾材料の内訳等に徴すると、被告人は、本件爆発物を警察官の殺傷、すなわ
ち人の身体を害する目的のために使用することを確定的に認識しながら所持してい
たものと認められるから、原判決には、右の点において事実の誤認があるというの
である。
 そこで、検討してみるのに、関係証拠によれば、被告人らは、前記追分派出所事
件後、自分達の身辺に捜査の手が及ぶのをおそれて、これまで爆弾材料の保管、時
限爆弾の製造等に使用していた東京都大田区b所在の原判示J荘の部屋をひき払
い、昭和四七年一月中旬ころ新潟県中蒲原郡a町所在の借家を借り受け、ここにJ
荘等において保管していた爆発物その他の爆弾材料や工具類を運び込み、同年五月
四日ころには、今後の爆弾闘争に備えて、H、Iらと共に同所で保管していた爆弾
材料を使用して手投げ爆弾等を製造し、翌五日には、右製造した爆弾の実験及び新
たに被告人らのグループに加わつたNら数名を訓練する等の目的で右手投げ爆弾の
投擲等を行つていること、原判示のとおり、被告人は、右a町内所在の借家におい
て、大量の爆発物及び雷管等を所持していたほか、爆弾を製造するための各種工
具、爆弾の材料となる積層乾電池、鉄パイプ、鉄釘片等をも所持していたことがそ
れぞれ認められるところ、被告人は、捜査段階においては、右爆発物等を所持して
いた目的について、今後とも、警察せん滅作戦等の爆弾闘争を続けていくために所
持していたものである旨自供していたこと、そのほか、既述のとおり、被告人は一
連の爆弾闘争において警察官らの殺傷を認容していたこと等に徴すると、被告人
が、本件爆発物を警察施設の爆破のためのみならず、場合によつては、警察官殺傷
のためにも用いることがあることを認識しながら所持していたことは認められる
が、被告人がそれまでに行つた一連の爆弾事件においては、警察官らの殺傷を未必
的にしか認識していなかつた場合もあり、現に被告人らが製造した爆発物により人
身被害が発生したのは、追分派出所事件の場合のみであつたこと、本件爆発物を所
持していた当時には、まだその使用場所、使用方法等も具体的には定まつていなか
つたこと等も合わせて考えると、被告人が将来本件爆発物の使用により警察官等の
身体を害する結果を発生させることについて確定的認識を有していたとまでは認め
難く、原判決に所論のような事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がな
い。
 検察官の控訴趣意第二について
 所論は、要するに、原判決は、爆発物取締罰則一条及び三条の目的があるという
ためには、その目的の内容をなす治安を妨げ又は人の身体財産を害する結果の発生
について確定的認識を必要とすると解すべきであるとし、原判示第三、第五及び第
六の各事実について、被告人は右各法条所定の目的の一部については未必的認識し
か有していなかつたとして、これを罪となるべき事実から除外したが、右各法条所
定の目的があるというためには、その目的の内容をなす加害結果の発生について未
必的認識があれば足りると解すべきであるから、原判決は、その点において右各法
条の解釈適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかで
あるというのである。
 そこで、考えてみるのに、爆発物取締罰則一条の爆発物使用罪における目的は、
爆発物使用の時点、すなわち爆発物を爆発すべき状態においた時点において、その
行為者が爆発により惹起される結果について認識したところをその内容としている
ものと解される。ところで、この認識は、将来の事実についての予見を内容とする
ものであるから、爆発物の構造及び威力の程度、その使用方法、使用現場の状況等
のいかんによつては、行為者が、爆発物の使用時に、その爆発によつて同法条所定
の目的の内容をなす人の身体財産を害する等の加害結果が発生するか否かというこ
とを確定的に認識することは、困難な場合も少なくない。殊に、時限装置付きの爆
発物を使用した事犯のように、その使用行為と爆発による結果発生との間に相当の
時間的間隔が設けられ、しかもその間に人の去来があるなど爆発物を仕掛けた現場
の状況が変化する蓋然性があるような場合には、爆発による加害結果発生の有無を
未必的にしか認識しえない場合が少なくないのである。そして、そのことは、同罰
則三条の爆発物等の製造及び所持等においても基本的には同様であるが、爆発物等
の製造及び所持等においては、爆発による結果の発生のみならず、その使用行為ま
でもが将来の事象となるため、製造及び所持等の行為から爆発の結果発生までの間
に種々の不確定要素の介在する可能性があり、中には、爆発物使用の日時、場所等
も特定していないこともあるため、同法条所定の目的の内容をなす爆発により生ず
べき加害結果の発生についての認識は、爆発物の使用の場合に比べて、一層未必的
なものにとどまる場合が多くなるものと考えられるのである。このように、爆発物
の使用、製造及び所持等の行為にあつては、爆発物の爆発による加害結果発生の有
無を確定的に認識することができない場合があり、しかも、その認識が確定的であ
るか否かは、加害結果の発生に対する犯人の意欲の有無、程度とは必ずしも一致せ
ず、また、行為の重大性、客観的危険性等とも直ちには結びつかないものであるか
ら、未必的な認識にとどまる場合が確定的な認識のある場合に比べて罪責が軽いと
は限らないのである。また、確定的といい、未必的といつても、もともと単なる認
識の程度の差にすぎないものであつて、実際上その限界を裁然と画することも困難
である。そうであれば、爆発物の使用、製造及び所持等にあたり、爆発による加害
結果の発生を確定的に認識した場合と未必的に認識した場合との間に、法的評価の
面で決定的差等を設けなければならないほどの実質的差違があるとは考えられない
のである。
 このように、爆発物取締罰則一条及び三条の目的の内容をなす爆発物の爆発によ
る加害結果の発生についての認識の程度については、未必的認識をもつて足りると
解する方が爆発物の使用、製造及び所持等の実態に適合するものと考えられる。一
方、確定的認識を必要とすると解することは、徒に同罰則による処罰の範囲を限定
し、公共の安全と秩序、個人の生命身体及び財産を爆発物による侵害の危険から保
護しようとする同罰則の趣旨に反するおそれなしとしないのである。また、そもそ
も、同罰則一条及び三条が、爆発物の爆発による加害結果の発生を犯罪の成立要件
とせず、単にそれを目的として有するのみで足りるものとし、かつ、比較的重い法
定刑を定めているのは、爆発物の有する危険性に鑑み、これが所定のような加害目
的をもつて使用された場合に生ずべき影響が深刻であることを憂慮したためであつ
て、右のような同罰則の定めには十分な合理性が認められるのであるから、同罰則
の法定刑が比較的重いことを考量して、右目的の意義をことさら限定的に解す<要
旨>るのは相当ではないといわなければならない。してみれば、同罰則一条及び三条
の目的があるというためには、爆発物の使用、製造及び所持等にあたり、爆
発物の爆発により、治安が妨げられ、又は他人の身体財産が害される結果の発生す
ることを確定的に認識するまでの必要はなく、右のような結果の発生することを未
必的に認識し、かつ、これを認容していれば足りると解するのが相当である。そう
だとすると、原判決が、右の点について確定的認識を必要とするとの見解のもと
に、判示第三、第五及び第六の各事実について、被告人の認識は、他人の身体財産
を害する結果については、その全部又は一部が未必的なものにとどまつていたとし
て、爆発物取締罰則一条及び三条所定の他人の身体財産を害する目的の全部又は一
部を認めなかつたのは、同罰則一条及び三条の解釈適用を誤つたものといわなけれ
ばならない。ところで、原判決は、右いずれの事実においても、被告人には、治安
を妨げる結果の発生については確定的認識があつたとし、判示第三及び第六の事実
においては、他人の財産を害する結果の発生についても確定的認識があつたとして
同罰則の目的の一部の存在を認めているので、右解釈適用の誤りは、いずれも一罪
の一部について罪となるべき事実の認定及び法令の適用にそれぞれ異なつた結果を
もたらすにとどまるものであるため、果たして右誤りが判決に影響を及ぼすことが
明らかであるといえるか否かの点が問題となりうるが、右誤りは、爆発物取締罰則
一条及び三条の各罪の重要な要素に関する解釈の誤りであり、かつ、右各事実中に
おいて他人の身体財産を害する目的を有することが罪となるべき事実として認めら
れるか否かは、原判決上重要な意義を有するものと考えられるから、右の誤りは判
決に影響を及ぼすことが明らかであるというべきである。論旨は理由がある。
 してみると、原判決は、検察官及び弁護人らの各量刑不当の控訴趣意について判
断するまでもなく、破棄を免れないから、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原
判決を破棄し、同法四〇〇条但書により本件被告事件について更に次のとおり判決
する。
 原判決の挙示する各証拠並びに当審において取調べたHの検察官に対する各供述
調書謄本及びIの検察官に対する各供述調書謄本によれば、原判示罪となるべき事
実(但し判示第三及び同第六については人の身体を害する目的を、同第五について
は人の身体財産を害する目的をそれぞれ付加する。)を認めることができるので、
これに原判決と同一の法令を適用し処断すべきところ、その量刑にあたつて、検察
官及び弁護人らの各量刑不当の所論に鑑み、犯情について考えてみることとする。
本件は、被告人が、時限式爆弾等を使用して警察施設を破壊するとともに、併せて
警察官らの殺傷をも招来しかねない行為を繰り返すことによつて警察官らを心理的
に動揺させ、社会不安を醸成することにより、我が国に暴力革命の気運を盛り上げ
ようというような考えから、仲間らと共に、このような闘争に使用する目的で、黒
色火薬約六八キログラムを窃取し、治安を妨げ、人の身体財産を害する目的をもつ
て、四回にわたつて、鉄パイプにダイナマイトを充填した爆弾やダイナマイトを束
ねた爆弾等計八個にも及ぶ爆発物を製造し、そのうちの三個をみずから警察官派出
所に仕掛けて爆発させ、追分派出所に仕掛けた爆弾では、その爆発により警察官一
名に瀕死の重傷を負わせたほか、六名の通行人らにもそれぞれかなり重い傷害を負
わせたばかりでなく、その後も、右のような闘争を継続する意思で、ダイナマイト
八一本(一本約一〇〇グラム)及び黒色火薬約六・八キログラム等の爆発物を所持
していたという事案である。被告人らが製造した爆発物がいずれも爆発力の強いダ
イナマイトを用いたもので、なかにはダイナマイトを数本、あるいは一〇本以上も
使つて製造した強力な爆弾もあり、しかも、被告人は、このような爆弾を仕掛ける
にあたり、すべて商店や人家が密集する市街地の中の警察官派出所を選び、殊に追
分派出所の場合は、わざわざ人通りの多い場所、時間帯を選んでいるのであつて、
被告人としては、追分派出所の事件の関係では予告電話をし、その他の警察官派出
所の事件の関係では通行人や通行車両の少ない時間帯に爆発するように時限装置を
セツトしていたとはいうものの、その程度の配慮で通行人らが殺傷される可能性が
解消されるものとは到底考えられず、しかも、警察官が殺傷されることについて
は、それを一部期待するような気持さえ抱いていたことがうかがわれる。このよう
に、被告人のした各爆発物の使用行為は、治安を妨げることは勿論、人の身体財産
を害する危険性の高いものであり、現に、高円寺駅前派出所事件では、同派出所の
建物及び付近の商店に物的被害が発生しており、次に行つた四面道派出所事件で被
害が発生しなかつたのは、たまたま事前に爆弾が発見されたためであつて、危険性
においてはなんら変りはなく、追分派出所事件では、右危険性が現実のものとな
り、同派出所の建物が破壊され、付近のビルのショーケースやガラス戸、看板等が
損壊された等の物的被害が発生したにとどまらず、前記のとおり重大な人身被害ま
で発生しており、これらの犯行が社会に与えた不安も大きかつたと考えられるので
ある。このように、被告人の行つた右一連の犯行は、最も尊重されるべき個人の生
命と身体、個人の財産及び公共の安全と秩序に重大な脅威をもたらすもので、その
影響するところも大きく、現実に本件爆発物の使用により惹起した結果は、極めて
重大であること、また、被告人らが行つた爆発物の使用の態様は、時限装置付爆弾
を紙袋に入れ、あるいは新聞紙に包んでさりげなく目標の派出所付近に置いてくる
というもので、みずからは爆弾の爆発による危険や検挙を避けつつ、確実な爆発を
期するという巧妙かつ卑劣なものであつたこと、そして、被告人は、Iと共に本件
各爆弾の製造を一手にひき受け、追分派出所事件ほか二件の爆発物の使用事犯をみ
ずから実行したものであること等の諸点に照らすと、被告人の刑事責任は極めて重
大であるといわなければならない。しかしながら、他方、被告人は、一連の爆弾闘
争において、警察官らが殺傷される可能性を認容していたものの、それを主眼とし
て爆発物を使用したとまでは認められず、また、一般通行人らに対してはなるべく
危害が及ばないよう予告電話をするとか、深夜人通りの少ない時刻を選ぶなどの配
慮をしており、追分派出所の件にしても、前記判示のように一般通行人に対する無
差別の殺傷という事態までも意図していたとは認め難いこと、被告人は本件一連の
爆弾闘争において、爆弾の製造及びその使用面では積極的役割を果たしているけれ
ども、闘争の主導者はHであり、闘争方針、爆物使用の時期、方法の決定等の面で
は、概ね右Hに追従していた様子がうかがわれること、被告人は、本件犯行当時に
はまだ二〇才前後の若年で、判断力も未熟であつたこと、当審公判廷においては、
各受傷者らに対する謝罪の気持を表明するとともに、今後は非合法闘争は行わない
旨吐露していること等、被告人のために酌むべき情状も認められる。以上のような
諸点を総合考慮したうえ、原判決と同一の処断刑期の範囲内で被告人を懲役二〇年
に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中一七〇〇日を右刑に算入
し、原審及び当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担
させないこととする。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 堀江一夫 裁判官 杉山英巳 裁判官 浜井一夫)

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