弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     控訴人の被控訴会社に対する第一次の請求を棄却する。
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴会社は控訴人に対し住友化学株式会社
株式百株券三十枚(一株額面金五十円、全額払込済)の返還をせよ、右株券を返還
することができないときは被控訴会社は控訴人に対し金四十五万五千円の支払をせ
よ、被控訴会社は控訴人に対し金三十四刀円及びこれに対する昭和二十八年二月五
日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ」との判決並びに担保を条件
とする仮執行の宣言を求め、右第一次の請求か認容せられない場合予備的に「被控
訴人等は連帯して控訴人に対し金七十四万五千円及びこれに対する昭和二十八年二
月五日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ」との判決並びに担保を
条件とする仮執行の宣言を求めた。被控訴代理人等は控訴棄却の判決を求め、被控
訴会社代理人は控訴人の第一次の請求につき「控訴人の請求を棄却する」との判決
を求めた。
 当事者双方の主張は、以下に附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、こ
こにこれを引用する。
 第一、 控訴人の主張
 (一) 控訴人は原判決事実摘示第一(1)前半記載の通り昭和二十七年十月十
九日被控訴会社尾道営業所主任たる被控訴人Aに対し被控訴会社に対する株式売買
の信用取引を委託し、証拠金代用として住友化学株式会社株式百株券三十枚(一株
の額面金五十円、全額払込済)を被控訴人Aに交付し、同年十月二十日より同年十
二月九日までの間に原判決末尾添付別表記載の通り株式売買を委託しこれにより控
訴人は金三十四万円の利益を得る計算となつた。控訴人は同年十二月九日手仕舞を
なしたところ、被控訴会社は前示株券を返還せず且つ右利益金を支払わないので、
第一次の請求として控訴人は被控訴会社に対し前記委託契約に基き前示証拠金代用
株券の返還、右返還不能の場合には右株券の時価四十万五千円の支払並びに控訴人
の利益金三十四万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和二十八年二月
五日より完済まで民法所定の年五分の遅延利息の支払を求める。
 なお、控訴人は特定の株券の返還を求めるものではなく、前記株券と同種の株券
の返還を求めるものである。
 (二) 被控訴会社に対する右第一次の請求か理由のない場合には、原判決事実
摘示第一(1) (2) 記載の通り被控訴会社は被控訴人Aの不法行為により控
訴人の被つた損害につき民法第七百十五条によりこれを賠償すべき義務があるか
ら、控訴人は予備的に被控訴会社及び被控訴人Aに対し連帯して右損害金七十四万
五千円及びこれに対する前記昭和二十八年二月五日より完済まで年五分の割合によ
る遅延利息の支払を求める。
 第二、 被控訴会社の主張
 (一) 控訴人の右主張事実を否認する。控訴人主張の取引は、被控訴人Aが被
控訴会社より解雇せられた後に控訴人と被控訴人Aとの間になされたものであるか
ら、被控訴会社は右取引につき何等の責任も負うものではない。
 (二) 被控訴会社尾道営業所の職務範囲は、客からの注文を本社に取次ぐいわ
ゆる取次行為のみである。また、売買報告書は本社が発行するものであつて、営業
所にはこれを発行する権限はない。
 第三、 被控訴人Aの主張
 控訴人は、控訴審において被控訴人Aに対する請求を予備的に併合するに至つ
た。しかし、主観的予備的併合は次に述べるような理由で、訴訟法上不適法であ
る。
 (一) 当事者を変更する訴の変更は現行法上許されない。しかるに、主観的予
備的併合は訴訟の途中において当事者の変更を認めるのと同様となる。
 (二) 主観的予備的に請求を受けている被控訴人Aは、第一次の請求が認容せ
られる限り自己の同意なくして訴訟係属を遡及的に消滅せしめられ、既判力ある判
決を受けることかできなくなる。 (三) 控訴人の本件控訴により第一審判決は
全部移審の効力を生じているのであるか、控訴審において仮に第一次の請求が認容
された場合、被控訴人Aの第一審勝訴判決が遡及的にその効力を失うが如き不当の
結果を招来する。
 証拠として
 控訴代理人は、甲第一号証の一から十四まで、第二、第三、第四号証、第五号証
の一、二、三、四、第六号証の一、二、第七号証から第十号証までを提出し、原審
証人B、C、D、E、当審証人F、E、Gの各証言、原審における被控訴人本人尋
問の結果(第一、二回)、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の
結果を援用し、乙各号証の成立は不知であると述べた。
 被控訴会社代理人は、乙第一、第二、第三号証、第四号証の一から六までを提出
し、原審証人H、G、I、J、当審証人G、K、Lの各証言、原審(第一回)及び
当審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一から十四まで、甲
第六号証の一、二の各成立は否認する。甲第三、四号証の成立は不知である、甲第
七号証が控訴人主張の標識の現場写真であることは認める、その他の甲各号証の成
立を認めると述べた。
 被控訴人A代理人は、乙第一、第二号証を提出し、原審における証人H、G、
I、Jの各証言、被控訴人本人尋問の結果(第一回)を援用し、甲第三、第四、第
七、第八、第九号証の成立は各不知である、その他の甲各号証の成立を認めると述
べた。
         理    由
 控訴人は原審において、被控訴会社の被用者たる被控訴人Aの不法行為を理由と
して民法第七百十五条に基き(一)被控訴人等各自に対し住友化学株式会社百株券
三十枚の返還及び右返還不能の場合金四十万五千円の支払並びに(二)被控訴人等
各自に対し金三十四万円及びこれに対する昭和二十八年二月五日以降完済まで年五
分の割合による金員の支払を請求していたのであるか、当審において訴を変更し、
第一次に控訴人と被控訴会社との間に成立した株式売買委託契約の終了を理由とし
て、更に原判決事実摘示第二記載の事実を予備的請求原因として被控訴会社に対し
右と同趣旨の請求をなし、次いで第二次の請求として被控訴人Aの不法行為を理由
として民法第七百十五条に基き被控訴人等に対し連帯して金七十四万五千円及びこ
れに対する昭和二十八年二月五日より完済まで年五分の割合による金員の支払を請
求するに至つたものである。その結果、原審においては単純な共同訴訟として提起
せられた本件訴訟が、当審において学説上いわゆる主観的予備的併合訴訟となつた
のである。ところで、被控訴人Aはかかる主観的予備的併合の訴訟形態は現行法上
許容せられ得ないものであつて不適法である旨主張するので、まずこの点について
判断する。
 現行民事訴訟法上訴の主観的予備的併合が許されるか否かについては学説の分れ
るところであり、下級審の判決例も区々である。訴の客観的予備的併合について
は、明文の規定かないのにかかわらずこれを許されるものと解するのが学説判例の
一致した見解である。訴の主観的予備的併合についても同じく明文の規定かないの
であるから、これを現行法上禁止せられたものと解しなければならぬ論理的な必然
性は存しない。これを許容すべきか否かは、主としてかかる訴訟形態を認めること
が民事訴訟の要請たる当事者公平の原則に背反するか否か或は訴訟経済の原則に合
致するかの考慮により決定せらるべきものである。現下の我国の経済情勢を眺める
に、中小企業においては同族会社の如く外観上個人企業か会社企業か判明し難いも
の或は実質上は個人企業でありながら形式的に会社組織の形態をとつているものが
多い。かかる企業態と取引した相手方は、その取引についての法律上の責任者が果
して個人であるか或は会社であるかの判断に迷う場合が少くなく、民事訴訟の実際
においても、その取引の責任者として訴えられた個人がその取引は会社の取引であ
ると抗争し或は被告となつた会社がその取引の責任者は個人であるとして抗争する
事件が次第にその数を増している。その他、原告甲において被告として訴を提起す
べき相手方か乙であるか丙であるかを、訴訟の審理を待たずしてあらかじめ確定す
ることに困難を感ずる事例は稀ではない。かかる場合、原告甲が一方の乙を被告と
して訴を提起し、その結果その取引の責任者は乙ではなくて丙であるとの理由で敗
訴した後において、あらためてその丙を被告として訴を提起するより外に途がない
とすれば、これがために原告甲の被るべき費用労力並びに時間的損失は甚<要旨>大
である。右の如き場合に、訴の主観的予備的併合が許されるとすれば、原告甲は一
挙に正当なる被告が乙丙の</要旨>何れであるかを解決し得るのであるから、訴訟
経済の理想に照しても、民事訴訟法第五十九条、第二百二十七条の要件を充たす限
り訴の主観的予備的併合を認めることが望ましいことと考えられる。(数名の原告
の間に主観的予備的併合の関係の存する場合も同様である。)なるほど、右の場合
原告甲の被告乙に対する勝訴判決が確定した場合には、解除条件の成就により予備
的に併合せられた被告丙に対する訴は、判決を受くることなくして終了することに
なるのであるから、それまでの被告丙の応訴行為は徒労に帰し被告丙が不利益を被
ることは明白であるけれども、訴の取下の場合に準じて被告丙の支出した訴訟費用
は原告甲の負担となるものと解すれば、被告丙の被る不利益はある程度緩和し得る
のである。訴の主観的予備的併合を認めることによつて原告の受ける利益と予備的
に併合せられた被告の不利益とを比較した場合、民訴法上の公平の原則に照して許
容し難い程の不公平か生ずるものと解することはできない。一方、乙、丙に対する
訴訟が同時に各別に提起せられ審理せられた場合、訴訟資料が各別に提出せられて
区々となり、裁判の不統一を生むおそれのあることを考えれば、訴訟資料が共通に
利用せられることにより期待し得る訴の主観的予備的併合における裁判の統一は、
法律政策上も望ましいところである。被控訴人Aは、かかる訴は訴訟中に当事者の
変更を認めるのと同様な結果になるから不適法であると主張する。しかし、訴の主
観的予備的併合においては、訴提起の当初から当事者は確定しているのであつて、
訴の途中において当事者の変更を来すものではない。次に、被控訴人Aは、第一次
の請求が認容せられた場合同被控訴人の同意なくして訴訟係属を遡及的に消滅せし
められ、既判力ある判決を受けることができなくなるから、右の如き併合は不適法
であると主張する。なるほど、予備的に併合せられた被告にかかる不利益の生ずる
ことは前述の通りであるが、このことから直ちに訴の主観的予備的併合が訴訟法上
不適法であるとの結論を導き得ないことは、前述したところによつて明らかであ
る。更に、被控訴人Aは、本件において第一次の請求が認容せられた場合同被控訴
人の第一審勝訴判決が遡及的に効力を失う結果を生ずるのは不当である旨主張す
る。本件に在つては、原審においては通常の訴の主観的併合が存在し、原判決は被
控訴人両名に対する控訴人の請求を棄却したのであるから、控訴人の控訴の結果、
原判決全部につき移審の効力を生じている。控訴人はすでになされた控訴人と被控
訴人Aとの間の第一審判決を同被控訴人の同意なくして一方的に失効せしめること
は法律上許されないところであるから、たとえ第二審において被控訴会社に対する
第一次の請求が認容せられその判決が確定しても、被控訴人Aの第一審勝訴判決が
当然にその効力を失うものと解することはできない。本件の場合、控訴人は被控訴
会社に対する第一次の請求か認容せられれば、被控訴人Aに対する第一審敗訴判決
につき第二審の判断を求める意思のないことか明らがであるから、控訴人と被控訴
人Aとの間の控訴審手続は終了し、同被控訴人の第一審勝訴判決はそのまま確定し
既判力を生ずることになる。従つて、同被控訴人の主張する如き不当な結果を生ず
るものと解することはできない。最後に、訴の主観的予備的併合を認めても、上訴
の場合裁判の統一が保障せられないとの非難がある。原告甲が第一審において第一
次の被告乙に勝訴した場合、乙が控訴しても予備的に併合せられた被告丙に対する
原告甲の訴については判決が存在しないのであるから、甲丙間の訴訟は第二審の審
判の対象とならない。若し、第二審が甲乙間の控訴事件につき、乙に対する請求が
理由がないとの結論に達した場合には、第一審は乙に対する第一次の請求を棄却し
た上更に甲の丙に対する第二次の請求につき判断すべきであつたのにかかわらず誤
まつて乙に対する請求を認容して丙に対する第二次の請求につき判断しなかつたこ
とになるわけであるから、第二審は乙に対する第一次の請求を認容した原判決を取
消し、事件を第一審に差戻すべきものである。甲の丙に対する第二次の訴は、乙に
対する第一次の訴につき確定勝訴判決の生ずるまで第一審に係属しているのである
から、右差戻により再び従前の主観的予備的併合の状態に復し、第一審は、第二審
の判決に従い乙に対する第一次の請求を理由のかいものとして丙に対する第二次の
請求の当否につき判断すべきものである。右設例の場合と反対に、甲が第一審にお
いて第一次の被告乙に対し敗訴し、第二次の被告丙に対し勝訴判決を得た場合、丙
がこれに対して控訴しても、甲が乙に対する敗訴判決に対し控訴しなければ、乙に
対する敗訴判決は確定する。この場合、第二審が甲の丙に対する請求は失当である
が乙に対する請求は正当であると認定しても、第二審は原判決を取消して甲の丙に
対する請求を棄却し得るに止まり、甲の乙に対する請求についての判断をすること
がでない。この結果、甲は乙、丙両者に対して敗訴することになるが、これは甲か
乙に対する敗訴判決に対し控訴することを怠つた為に自ら招いた不利益てあつて、
甲は乙に対する控訴をすることによつてかかる不利益を防止することができる。以
上に判断したところから考察すれば、訴の主観的予備的併合を認めても上訴の場合
の裁判の統一が保障せられないとの非難は、かかる併合を認めることによつて生ず
る訴訟経済上の利益を無視せしめるほど強力のものであるとは考えられない。
 訴の主観的予備的併合が、現行法上許さるべきものであると解する以上、控訴人
のなした前示訴の変更もまた適法であると言わねばならぬ。
 そこで、控訴人の被控訴会社に対する第一次の請求について判断する。
 被控訴会社が証券取引去にいわゆる証券業者であつて、昭和二十七年一月十三日
より尾道市a町所在の被控訴人A方に尾道営業所を開設し、同被控訴人を右営業所
主任に選任しその業務を担当させていたことは当事者間に争がない。
 控訴人は、昭和二十七年十月十九日被控訴会社尾道営業所主任たる被控訴人Aに
対し被控訴会社に対する株式売買の信用取引を委託し、証拠金代用として住友化学
株式百株券三十枚を交付した旨主張し、被控訴会社は、同年六月末日限り尾道営業
所を廃止し被控訴人Aを解雇したから、その以後になされた控訴人と同被控訴人と
の間の取引につき被控訴会社は何等の責任も負うものではない旨主張する。書面の
体裁に照し貞正に成立したものと認め得る甲第三号証、原審及び当審証人Gの証
言、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、
被控訴会社は前示の通り昭和二十七年一月十三日尾道営業所を開設し被控訴人Aを
その営業所主任に選任したが、同営業所の成績が思わしくないので、同年六月中旬
頃被控訴会社常務取締役Gは尾道営業所におもむき被控訴人Aに対し同営業所を閉
鎖する旨を告げその営業を停止せしめたこと、その結果同営業所における取引は大
体同月末項には決済せられ、その頃被控訴会社と被控訴人Aとの間の雇傭関係は解
雇により終了したこと、被控訴会社は尾道営業所を他に移転させる計画であつたの
で、同営業所の廃止については直ちにその届出をせず同年十月二十八日に至り三次
町へ同営業所を移転する旨広島証券取引所に届出でたことを認めることができる。
原審及び当審証人Eの証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問
の結果中右認定に反する部分は容易に信用できない。なお、当審における被控訴人
本人尋問の結果により真正に成立したと認め得る甲第一号証の一から十四まで、甲
第六号証の一、二、原審証人Cの証言により成立を認め得る甲第二号証、原審証人
Cの証言を綜合すれば、被控訴人Aは昭和二十八年一月末頃までその店頭に「ウツ
ミ屋証券尾道営業所」の看板並びに証券取引法第四十二条所定の「ウツミ屋証券株
式会社尾道営業所」の標識を掲げていたこと並びに昭和二十七年七月以降において
も被控訴人Aは訴外E或は控訴人に対しウツミ屋証券株式会社尾道営業所なる記名
印及び角印の押しであり私製はがきの用紙を用いて売買報告書を作成交付していた
ことを認めることができるけれども、原審及び当審証人Gの証言、原審(第一、二
回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、前示の通り昭和二十
七年六月中旬頃被控訴会社常務取締役Gが尾道営業所を閉鎖することを被控訴人A
に告知した際、同営業所の看板や標識を撤去するように指示したこと、しかるに被
控訴人Aは多少世間体などを気にして前記看板及び標識を翌年一月末頃まで放置し
ていたが、昭和二十七年七月以降は被控訴会社の尾道営業所としての取引をしたこ
とはないこと、また被控訴人Aは昭和二十六年十月末頃まで大同証券株式会社の尾
道営業所の仕事をしておりその際同会社名義の売買報告書用の私製はがきを多数印
刷していたところ、翌昭和二十七年一月より被控訴会社尾道営業所主任に就職した
ので、右私製はがき用紙中「大同証券株式会社」と印刷せられた部分を訂正し「ウ
ツミ屋証券株式会社尾道営業所」の記名印及び角印を押捺して同営業所の取引につ
き使用していたこと、そして、昭和二十七年六月末日頃被控訴会社尾道営業所が閉
鎖せられ被控訴人Aが解雇せられた以後においても、同被控訴人は自分の世話した
株式売買取引につきメモ代りに前記の通り訂正せられた私製はがきの使用残りの用
紙を利用していたものであつて、甲第一号証の一から十四まで及び甲第六号証の
一、二の各売買報告書は右尾道営業所における取引につき発行せられたものではな
いことを認め得るから、前記甲各号証によつても、被控訴会社尾道営業所が昭和二
十七年六月末頃閉鎖せられ被控訴人Aと被控訴会社との間の雇傭関係が終了したと
の前示認定を左右することはできない。 しからば、控訴人が被控訴人Aに株式売
買の信用取引を委託し証拠金代用として前記株券を交付したと主張する昭和二十七
年十月十九日当時においては、すでに被控訴会社尾道営業所は閉鎖せられ被控訴人
Aは同営業所主任たる地位を失つていたのであるから、被控訴人Aが右営業所主任
として控訴人より控訴人主張の如き株式売買の信用取引の委託を受けたことを前提
として、控訴人と被控訴会社との間に右委託契約の成立したことを主張する控訴人
の被控訴会社に対する第一次の請求は、その余の点について判断するまでもなく失
当であるといわねばならぬ。
 次に、控訴人は、被控訴会社は昭和二十七年七月より昭和二十八年一月まで被控
訴人Aが従前通り店頭に「ウツミ屋証券尾道営業所」の看板及び標識を掲げ且つ被
控訴会社の印章を押捺した用紙を使用して引続き被控訴会社の商号を使用して証券
業を営むことを許容し或はこれを黙認していたため、控訴人は被控訴会社を営業主
であると信じて前示取引をなしたものであるから、被控訴会社は商法第二十三条に
より右取引につき責任を負うべきものである旨主張する。しかし被控訴会社が尾道
営業所を閉鎖した以後においても右看板標識或は用紙を被控訴人Aにおいて使用す
ることを許諾した事実の存しないことは前に認定したところより明白であり、被控
訴会社が同被控訴人にその商号を使用して証券業を営むことを許諾し或は黙認した
事実を認めるに足る証拠は存在しない。更に前記甲第一号証の一から十四まで原審
証人H、J、Iの各証言、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問
の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば控訴人は昭和二十七年十月頃その親族に当
る訴外Eの紹介で被控訴人Aと取引するに至つたこと、Eは被控訴人Aが被控訴会
社の尾道営業所主任となる以前から同被控訴人に株式売買の委託をなし同被控訴人
の勧告に従つて相当の利益を挙げることができたので昭和二十七年六月末頃同被控
訴人が被控訴会社より解雇せられて尾道営業所を閉鎖した以後においてもしばしば
同被控訴人方に出入りして株式売買の相談をなし同被控訴人を通じて被控訴会社以
外の証券業者に株式売買を委託していたこと、右のような経緯から同年十月控訴人
がEより被控訴人Aを紹介された時、控訴人は同被控訴人がその店頭に被控訴会社
尾道営業所の看板及び標識を掲げていてもすでに被控訴会社より解雇せられていた
事実を知つていたこと、控訴人は同被控訴人の株式取引の手腕を利用して利益を獲
得しようと考え、同被控訴人に対し確実な証券業者に株式売買の信用取引を委託す
ることを依頼し、前記株券を証拠金代用証券として交付したこと、同被控訴人は右
委任の趣旨に従い当時同被控訴人において確実な業者であると信じていた訴外土井
証券株式会社に対し控訴人のため同被控訴人名義で株式売買の信用取引を委託し、
控訴人より受取つた前記株券を証拠金代用として同会社に預託して原判決末尾添附
別表(但し十二月九日「〃」とあるのを「海上火災」と訂正する)記載の通り昭和
二十七年十月二十日より同年十二月九日まで株式の売買をなし、右取引成立の事実
を、同被控訴人は前示の通り被控訴会社尾道営業所主任当時に使用していた売買報
告書の私製はがきの使い残り用紙(甲第一号証の一から十四まで)を利用して控訴
人に報告していたこと、控訴人は同被控訴人が右の通り控訴人のため右訴外会社に
同被控訴人名義で前記株券を預託し株式売買を委託していたことを同被控訴人の報
告により了承しており同年十一月中には控訴人自から右訴外会社に電話して株式の
取引につき指示を与え或は同会社より直接控訴人に対し電話で連絡されたこともあ
ること、しかるに右訴外会社は同年十二月十日頃資産状態悪化のためその営業を停
止するに至つたので、控訴人は広島市の同会社本店におもむき他の債権者等と共に
善後策を協議したことを認めることができる。原審証人B、原審及び当審証人Eの
各証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反
する部分は容易に信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。しから
ば、控訴人は被控訴会社を営業主と誤認して取引したものとはいえないから、控訴
人の前記主張は理由がない。
 更に、控訴人は、被控訴人Aは被控訴会社尾道営業所主任であつて被控訴会社の
商業使用人としてその代理人と認むべきところ、被控訴会社は右営業所の廃止並び
に同被控訴人解雇の事実を公示せずまた控訴人に通告していないから、被控訴会社
は同被控訴人の代理権消滅を以て善意の第三者たる控訴人に対抗し得ず控訴人主張
の取引につき本人にして責任を負うべきものである旨主張する。しかし、控訴人が
被控訴人Aを被控訴会社の代理人として前記取引をしたものでないことは、以上に
認定した事実により明白であるから、控訴人の右主張は理由がない。
 そこで、進んで控訴人の被控訴人等に対する第二次の請求について判断する。
 控訴人は、被控訴人Aが控訴人より被控訴会社に対する株式売買の信用取引の委
託を受け証拠金代用として前記株券を受取りながら控訴人を欺いて擅に右株券を訴
外土井証券株式会社に預託して同会社に株式の売買を委託し同会社の営業停止によ
り控訴人主張の如き損害合計金七十四万五千円を控訴人に被らしめたものである旨
主張する。しかしながら、前示認定の通り控訴人は被控訴人Aに対し被控訴会社へ
の株式売買の信用取引を委託したものではなく、また同被控訴人が控訴人の委任の
趣旨に従い控訴人のために同被控訴人名義で右訴外会社に前記株式を証拠金代用と
して預話し同会社に株式の売買を委託したことを控訴人において了承していたので
あるから、同被控訴人が控訴人を欺いたものでないことは明白であつて、たとえ同
会社の営業停止により控訴人が損害を被つたとしても、同被控訴人の所為が不法行
為を構成しないことは明らかである。従つて、同被控訴人の所為か不法行為を構成
することを前提とする控訴人の被控訴人等に対する第二次の請求は、その余の点に
ついて判断するまでもなく、失当であるといわねばならぬ。
 しからば、控訴人の本訴請求はすべて理由がないものといわねばならない。そし
て、控訴人の被控訴会社に対する第一次の請求は、当審において新たに附加せられ
たものであるから、これを失当として棄却し、被控訴人等に対する第二次の請求を
棄却した原判決は相当であるから、本件控訴ほ理由のないものとし棄却すべきもの
である。
 よつて、控訴審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九
条を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛