弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人及び検事各提出の上告趣意書並びに検事の上告趣意書に対する弁護人の答
弁書(この答弁書には「被告人A外二名」と記載せられているが、弁護人選任届の
提出のあるのは被告人Aのみであるから、同被告人一人に関する答弁書と認める)
は末尾添附のとおりである。以上各上告趣意に対し当裁判所は次のとおり判断する。
 被告人B、同C、同D、同E、同F、同G六名の弁護人森長英三郎、同青柳盛雄、
同岡林辰雄、同小沢茂連名の上告趣意第一点第二点について。
 仮に、所論被告人B等が結成した「H労働組合退職者同盟」が旧労働組合法(昭
和二〇年法律五一号)上の労働組合であり、然らずとするも右は憲法二八条に定め
る団体交渉その他の団体行動をする権利を保障されている「団結」に当り、従つて
右同盟には憲法二八条並びに旧労働組合法一条二項の適用を受けるものであるとの
論旨が認容され得るものと仮定しても、右憲法二八条の勤労者の団結権、団体交渉
権その他の団体行動権の保障も決して無制限な行使を許容されているものではなく
(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決。集四巻一一号二
二五七頁以下参照)、又旧労働組合法一条二項の規定は同条一項の目的達成のため
の正当な行為についてのみ適用があるのであつて、勤労者の団体交渉等において刑
法所定の犯罪が行われた場合、常に必らず旧労働組合法一条二項により刑法三五条
の適用があり、従つてかゝる行為が漏れなく正当化せられるというわけのものでは
ないのである(昭和二二年(れ)三一九号、同二四年五月一八日大法廷判決。集三
巻六号七七二頁以下参照)。
 さて原審の認定した被告人等の建造物侵入行為に対し、その動機、手段、方法、
情況等仔細に考察するに、右は前記各判例の趣旨に徴しこは正当な団体交渉及び団
体行動の範囲を逸脱したものと認むべきであつて、従つて仮に上示同盟が所論旧労
働組合法上の組合又は憲法二八条の団結に当るものと仮定するも、到底刑事上の免
責が与えられるものとは解せられないのである。
 よつて、被告人等の行為が正当な団体交渉及び団体行動の範囲内の所為であるこ
とを前提とする論旨は到底採用することができない。
 同第三点について。
 原審が被告人等の行為につき自救行為、正当防衛又は緊急避難は、成立しえない
と判断した点につき、何等違法の廉あるを見出しえないから、論旨は理由がない。
 被告人A、同I、同Jに対する検事の上告趣意第一点、第二点について。
 所論は結局、原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難し、延いて事実誤認を主
張するものである。そしで原審の認定判断が経験則に反するものとは未だ解し難い
のである。それ故論旨はすべて採用することができない。
 被告人全員に対する同第三点について。
 (一)刑法二三四条業務妨害罪にいう業務の「妨害」とは現に業務妨害の結果の
発生を必要とせず、業務を妨害するに足る行為あるをもつて足るものであり、又「
業務」とは具体的個々の現実に執行している業務のみに止まらず、広く被害者の当
該業務における地位に鑑みその任として遂行すべき業務をも指称するものと解する
を相当とするのである。しかるに原審は当時工場長Kが工場事務所の二階専務室内
において現実に執務をしていたか否かの点並びにその点に関する被告人等の具体的
認識の有無について判断説示をするに止まり、広く工場長たる地位に鑑みその任と
して遂行すべき業務の範囲並びにその業務の遂行を阻害することについての認識の
有無について判断を加えることなく、たやすく業務妨害罪の成立を否定したもので
あつて、従つて原判決には刑法二三四条の業務妨害罪に関する業務の意義に関し法
令の解釈を誤つたか、又はこの点に関する審理不尽乃至理由不備の違法があるもの
といわねばならない。(被告人等が専務室内において生産計画事務に従事中のK工
場長の業務の執行を妨害したものであるとの本件公訴事実中には、第一審判決認定
のごとく「工場長の生産計画事務その他会社内における執務を妨害した」との事実
をも包含するものと解するを相当とすべきであるのみならず、原審における検事の
公訴事実の陳述は「第一審判決認定の事実と同一」となつているところである)。
されば論旨は理由があり、原判決は既にこの点において破棄を免かれないものであ
る。
 (二)次に原審は被告人等の行為は刑法二三四条業務妨害罪の威力に該当しない
と判断したのであるが、同条の「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢より
みて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするもの
であり、且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであれ
ばよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではな
いと解すベきものである。この点につき原判決は「……以上の供述(工場長K、経
理課長L、新聞記者Mの各供述の意)並びに物証(会談中の写真の意)を綜合判断
すれば工場長Kは経理課長L、専務秘書Nらと最初の侵入を受けた際極力之を阻止
したのであるが、効なきを観念し遂に其の素志に反するけれども事態の成行を察知
し会見の腹を定め丸テーブルの前の一脚に腰を落し入室者の一団と対席し彼らの去
るまで、其の質問に身をさらして辛抱をする決意をしたことが肯認される。即ち彼
のこの意思決定の動因となつた事実は第一次入室者の不法侵入行為であるが、彼が
着席しいよいよ入室者の全部を迎え取つて之を相対した時以後の彼の立場は最早単
なる威力をもつて身心を圧迫され意思の自由を拘束されて已むを得ず業務を拠棄し
ている状態ではなく、先に述べた彼の決意に因る彼の自由な意思に基礎を置いてい
るのであり対談中団体側が継続的に威迫的な態度や言動でも示す為め動きの取れな
いようなものでないこと及び団体側の態度は時偶彌次を飛ばすもののいた外は普通
の交渉におけるものと殆んど異ならない様子のものであつたことは彼自身及びLの
前記供述を綜合して之を認めうるのみでなく、前記Mの供述並びに証第三号写真の
状況を参考すれば更に強く肯定せられるところである。会見当初の其の場の緊張や
危惧の念は不法な侵入行為の余勢の漂う為めであり次第にこれが薄らいだというこ
とは団体側が会見中格別の不法な威力を示すことのなかつたことを雄弁に物語るも
のと云わなければならない。」と判示しているのであるが、右判示自体これが上示
の威力に該当しないものとはいいえないのであつて、即ち業務妨害罪の威力の有無
は被害者の主観的条件の如何によつて左右されるべきものではないといわなければ
ならないのである。されば右前示判示事実をもつて業務妨害罪の要件たる威力に該
当しないとした原判決は、この点に関し法令の解釈を誤つたものというの外はなく、
論旨に理由があり原判決はこの点においても破棄を免かれないものといわねばなら
ない。
 そして被告人全員に対する業務妨害罪は、いずれも建造物侵入罪と牽連犯の関係
にあるものとして起訴せられたものであるから(両者を有罪とした第一審判決も右
は手段結果の関係に立つものとして刑法五四条一項後段、一〇条を適用している)、
業務妨害の点について破棄すべき違法ある以上、原判決の全部について破棄すべき
ものとする。
 よつて旧刑訴四四七条、四四八条の二に従い、次の裁判官小谷勝重の補足意見の
ある外は、全裁判官一致の意見によつて主文のとおり判決する。
 原判決の全部を破棄する理由につき、裁判官小谷勝重の補足意見は次のとおりで
ある。
 本判決理由に説明のとおりの、原判決に刑法二三四条業務妨害罪に関する法律解
釈(及びその他)の違法がある以上は、法律審である当裁判所としてはこの点につ
き原判決を破棄せざるを得ないわけである(検事上告趣意第三点につき)。その結
果建造物侵入の所為と業務妨害の所為とは刑法五四条一項後段の牽連犯の関係にあ
る本件については原判決の全部を破棄せざるを得ないわけである。即ち(1)原判
決において有罪となつた、B外五名の被告人等の建造物侵入の所為については、弁
護人の上告趣意はその理由なく、従つて同所為を有罪の儘で確定せしめるときは、
業務妨害の所為につき、本件差し戻し後の原審において審判の結果もし有罪とせら
れるときは、重き一罪の刑をもつて処断すべき刑法五四条一項後段の牽連犯の趣旨
に背き、手段結果二つの行為につき二つの各有罪の判決を見ることゝなる虞れがあ
るから、かゝる結果を除くため原判決の全部を破棄し全事件を原審に差し戻す必要
があり(以上の理由により、原判決がこの被告人等に対し「業務妨害罪の点は無罪」
の旨主文に判示したのは、誤りであると私は思料する。即ち此罪は牽連犯中の一部
の行為であるから、これが無罪は主文に掲げず、判決の理由中に無罪の旨を判示す
るを正当と解するものである)。(2)またA外二名の被告人等の建造物侵入の所
為に対する無罪の原判決に対しては、検事の上告趣意(第一点第二点)はその理由
なく、従つて同所為に対する無罪の原判決をその儘確定せしめるときは、業務妨害
の所為につき、もし差し戻し後の原審において有罪と審判せられるときは、之又重
き一罪の刑をもつて処断すべき牽連犯の趣旨に背き、手段結果の二つの行為が分離
独立して一は無罪他は有罪の二個の判決を生ずる不合理の結果が想像せられるから、
之又同被告人等に対しても原判決の全部(即ち原判決で無罪となり之に対する検事
上告は理由がなく、従つて建物侵入の所為は本来無罪と確定せられるものであるに
かゝわらず)を破棄し、全事件を原審に差し戻す必要があるわけである。以上、本
判決が原判決の全部を破棄して差し戻ししたのは、以上の理由によるものと私は諒
解するものである。
 公判関与検事 松本武裕。
  昭和二八年一月三〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛