弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人木崎為之の上告理由第一および第二について。
 論旨は、本件土地は、上告人の先代Dが昭和二一年四月八日農地調整法による被
上告人知事の認可を得て訴外Eから譲り受け、これを上告人において相続したもの
であるから、右認可の取消しもなくして自作農創設特別措置法六条の二の規定によ
りこれを遡及買収することは許されないものと主張し、この点について説示するこ
となく被上告人の買収処分を有効とした原判決には、理由の不備があり、また法律
の解釈適用に誤りがあるというのである。
 しかし、この点に関し原判決の引用する第一審判決の判示するところは正当であ
つて、農地調整法による本件土地の譲受けについての知事の認可の存在は、その認
可以前の昭和二〇年一一月二三日現在の状態を基準とする本件遡及買収を妨げるも
のではなく、それを特に買収除外事由と解すべき法律上の根拠も認めがたい。原判
決に所論の違法は存せず、論旨はいずれも理由がない。
 同第三について。
 論旨は、訴外Fの請求によつた本件遡及買収により、上告人は唯一の財産を失う
のに対し、Fは本件土地まで取得しなくても立派に生活しうる身分であるから、右
買収の請求は相手方の困窮を意に介しないもので、自作農創設特別措置法六条の二、
二項二号および四号の趣旨に違背するとの上告人の主張を排斥した原判決は、同法
の解釈を誤つたものというにある。
 しかし、原判決が上告人の右の主張を認めなかつたのは、上告人の生活状態がF
にくらべて著しくわるくなるとの証拠はなく、かえつてその挙示した各証拠および
弁論の全趣旨を照合すれば、必らずしもそうとはいえない事情を認めうるとしたた
めであつて、この認定に違法と目すべき点は存しない。したがつて、論旨は原審の
専権に属する事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第四について。
 論旨は、本件土地の買収価額は低廉に失し、憲法二九条に違反するというにある。
 しかし、自作農創設特別措置法六条三項本文の買収対価は、憲法二九条三項にい
う正当な補償にあたり、右対価による農地の買収の無効でないことについては、当
裁判所大法廷判決の存するところであり(昭和二九年一一月一〇日大法廷判決、民
集八巻一一号二〇三四頁、なお昭和二八年一二月二三日大法廷判決、民集七巻一三
号一五二三頁参照)、本件土地が右の農地にあたることは原判決の認定するところ
である。してみれば、論旨の理由のないことは多言を要しない。
 同第五について。
 論旨は、本件買収についてはその主張の各無効事由を総合一括すれば処分の無効
の度は増大明確となるものというにあるが、その各論旨に対する判断は前叙のとお
りであるから、採用に由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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