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平成26年7月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第23651号特許権侵害差止請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年6月12日
判決
東京都千代田区<以下略>
原告新日鐵住金株式会社
同訴訟代理人弁護士増井和夫
橋口尚幸
齋藤誠二郎
東京都千代田区<以下略>
被告東レ・ダウコーニング株式会社
同訴訟代理人弁護士大野聖二
井上義隆
同訴訟代理人弁理士片山健一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,下記の製造方法により製造されたパワー半導体向け4H型炭化珪素
ウエハ(3インチ及び4インチ)及び同ウエハにエピタキシャル層を設けたエ
ピタキシャルウエハ(3インチ及び4インチ)の輸入,販売又は販売のための
展示をしてはならない。

A●(省略)●方法により
B4H型単結晶炭化珪素を成長させる際に,
C抵抗率が4インチの4H型単結晶炭化珪素につき0.015Ω・㎝から
0.025Ω・㎝,3インチの4H型単結晶珪素につき0.010Ω・㎝か
ら0.028Ω・㎝となるよう,窒素を含む雰囲気ガス中で4H型単結晶
炭化珪素に窒素を導入する。
第2事案の概要
本件は,4H型単結晶炭化珪素の製造方法に関する特許権を有する原告が,
被告によるパワー半導体向け4H型炭化珪素ウエハの輸入,販売等がその特許
権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき,前記ウエハの販売行
為等の差止めを求める事案である。
1前提事実
原告の特許権
ア原告は,発明の名称を「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」とする特許
権(特許番号第3590464号。以下「本件特許権」といい,この特許
を「本件特許」という。)を有している。
イ本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)
の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この請求
項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に,
炭素原子位置に窒素を5×1018
㎝-3
以上5×1019
㎝-3
以下導入する
ことを特徴とする4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法。」
被告の行為
ダウコーニング株式会社は,4H型単結晶炭化珪素インゴッドからパワー
半導体向け4H型炭化珪素ウエハ(3インチ及び4インチ)を切り出してこ
れを製造し,また,同ウエハにエピタキシャル層を設けてエピタキシャルウ
エハ(3インチ及び4インチ)を製造している。
被告は,業として,ダウコーニング株式会社から上記4H型炭化珪素ウエ
ハ(3インチ及び4インチ)及び同ウエハにエピタキシャル層を設けたエピ
タキシャルウエハ(3インチ及び4インチ。以下,上記4H型炭化珪素ウエ
ハと併せて「被告製品」という。)を輸入し,販売し,販売のための展示を
している。
ダウコーニング株式会社が被告製品の原料となる4H型単結晶炭化珪素イ
ンゴッドを製造する方法(以下「被告方法」という。)における本件特許に
係る発明の構成要件充足性
ア本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した
構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
A種結晶を用いた昇華再結晶法により
B単結晶炭化珪素を成長させる際に,
C炭素原子位置に窒素を5×1018
㎝-3
以上5×1019
㎝-3
以下導入
することを特徴とする
D4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法。
イ被告方法
被告方法は,●(省略)●方法により,4H型単結晶炭化珪素を成長さ
せる際に,抵抗率が4インチの4H型単結晶炭化珪素につき0.015
Ω・㎝から0.025Ω・㎝,3インチの4H型単結晶珪素につき0.01
0Ω・㎝から0.028Ω・㎝となるよう,窒素を含む雰囲気ガス中で4H
型単結晶炭化珪素に窒素を導入することを特徴とする4H型単結晶炭化珪
素インゴッドの製造方法である。
ウ被告方法は,本件発明の構成要件B及びDを充足する。
2争点
争点は,被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか,本件特許が特許無効
審判により無効とされるべきものと認められるかであり,これに関する当事者
の主張は,次のとおりである。
被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか
ア原告
構成要件Aについて
本件発明は,種結晶を用いた昇華再結晶法において単結晶炭化珪素を
成長させた場合に結晶成長過程で多形が混在したり,成長条件の僅かな
変動により結晶形が転移しやすいという課題を解決するためのものであ
るから,「種結晶」は,このような課題を有する結晶成長面を意味する。
4H型の単結晶炭化珪素のC面を結晶成長面とした場合でも上記課題が
あるから,4H型の単結晶炭化珪素のC面は「種結晶」に当たる。
炭化珪素の技術分野においては,原料を2000度以上まで加熱し,
昇華に際し,Siの蒸気,SiC2の蒸気,Si2Cの蒸気などが発生
し,これらの蒸気が種結晶上で炭化珪素の単結晶に再構成されるが,こ
のプロセスが「再結晶」であり,その原料としては,昇華に際し,Si
の蒸気,SiC2の蒸気,Si2Cの蒸気などが発生するものであれば
足りるから,「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質又は生成物と異な
る物質からなる多結晶固体原料を昇華させてから結晶させ単結晶の生成
物を得ることを意味する。そうであるから,●(省略)●炭化珪素結晶
を生成する方法は「昇華再結晶法」に当たる。
したがって,被告方法は構成要件Aを充足する。
構成要件Cについて
4H型単結晶炭化珪素の窒素含有量と抵抗率との間には相関関係があ
り,抵抗率が0.028Ω・㎝であると窒素含有量は6.17×1018
㎝-3
であり,抵抗率が0.010Ω・㎝であると窒素含有量は3.0×
1019
㎝-3
である。被告方法において4H型単結晶炭化珪素を成長さ
せる際の抵抗率は,0.010Ω・㎝から0.028Ω・㎝の間にあるか
ら,窒素の導入量は,6×1018
㎝-3
以上3×1019
㎝-3
以下の範囲
内にある。
炭化珪素中に導入された窒素が「炭素原子位置」を置換することは技
術常識であり,測定結果とも合致するから,被告方法において4H型単
結晶炭化珪素インゴッドに導入された窒素は,全て「炭素原子位置」に
ある。
本件発明は,炭化珪素単結晶に高濃度の窒素を含有させることで安定
して高品質の4H型炭化珪素単結晶を得ることを可能にした発明であり,
炭化珪素単結晶の電気的特性(伝導型,抵抗率)が変化することは,本
件発明の実施に付随して必然的に生じる効果に過ぎないから,「炭素原
子位置」に関する被告の解釈は失当である。
したがって,被告方法は構成要件Cを充足する。
イ被告
構成要件Aについて
本件発明は,種結晶を用いた昇華再結晶法において単結晶炭化珪素を
成長させた場合に6H型炭化珪素単結晶が高い確率で形成されるという
課題を解決するためのものであるから,「種結晶」は,このような課題
を有する結晶成長面を意味する。4H型の単結晶炭化珪素のC面を結晶
成長面とした場合には上記課題がないから,4H型の単結晶炭化珪素の
C面は「種結晶」に当たらない。
「再結晶」は,炭化珪素の技術分野においても,文言のとおり,結晶
であったものが一旦結晶でなくなり,その後,再度結晶となることと解
されているから,「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質からなる多結
晶固体原料を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意
味する。そうであるから,●(省略)●方法は「昇華再結晶法」に当た
らない。
したがって,被告方法は構成要件Aを充足しない。
構成要件Cについて
被告方法において4H型単結晶炭化珪素インゴッドに導入された窒素
は,全てが「炭素原子位置」にない。
本件発明において炭化珪素中に窒素を導入する目的は,従来のように
電気的特性(伝導型,抵抗率)を変化させることではなく,ポリタイプ
を制御することで良質の4H型炭化珪素単結晶を再現性よく成長させる
ためであるから,「炭素原子位置」とはポリタイプを制御することで良
質の4H型炭化珪素単結晶を再現性よく成長させることができる位置と
解釈すべきである。被告方法においては,単に電気的特性を得るために
窒素を導入しているに過ぎないから,窒素の導入位置は「炭素原子位置」
に当たらない。
したがって,被告方法は構成要件Cを充足しない。
本件特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか
ア無効理由1(実施可能要件(特許法36条4項1号),サポート要件
(特許法36条6項1号))について
被告
4H型炭化珪素単結晶の炭素原子位置に導入された窒素を直接測定す
る方法はなく,本件明細書の発明の詳細な説明には窒素の活性化率が1
00%である4H型炭化珪素単結晶を製造するための条件が記載されて
いない。そうであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当
業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの
ではないし,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載したもの
でない。
原告
炭化珪素単結晶に取り込まれた窒素量は二次イオン質量分析法(SI
MS)で測定することができる。また,炭化珪素単結晶中の窒素が炭素
原子位置を置換することは技術常識である。そうであるから,本件明細
書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載したものであり,特許請求の範囲の記載は発
明の詳細な説明に記載したものである。
イ無効理由2(明確性要件(特許法36条6項2号),実施可能要件(特
許法36条4項1号),サポート要件(特許法36条6項1号))につい

被告
本件発明の規定する窒素濃度を採用することによって,4H型炭化珪
素が得られることを,本件明細書に記載されている一実施例から知るこ
とはできず,本件発明の構成から4H型炭化珪素を再現性良く成長させ
るという効果を得ることができるかも不明である。そうであるから,特
許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確ではなく,本
件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないし,また,本件明細
書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載したものではない。
原告
本件明細書の発明の詳細な説明は,4H型炭化珪素を成長させる具体
的な条件を示した実施例,及びX線回折及びラマン散乱により4H型炭
化珪素単結晶の品質を確認できることも記載されており,実施例におい
て得られた4H型炭化珪素単結晶が高品質であることが確認されている。
また,本件発明の規定する窒素濃度の上限値は下限値の10倍に過ぎず,
実施例の窒素濃度はこの範囲のほぼ中間であるから,当業者であれば,
実施例の記載をもとに,本件発明の数値範囲で窒素量を増減させること
は困難ではない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受
けようとする発明が明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載
したものであるし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当
業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの
である。
ウ無効理由3(明確性要件(特許法36条6項2号),実施可能要件(特
許法36条4項1号),サポート要件(特許法36条6項1号))につい

被告
「種結晶」に4H型炭化珪素若しくは6H型炭化珪素のSi面を用い
ると4H型炭化珪素が得られないにもかかわらず,特許請求の範囲に
「種結晶」とのみ記載し,そのポリタイプ及び面極性を限定していない。
発明の詳細な説明の記載には,「種結晶」のポリタイプ等に関わらず,
所望の効果が得られることを当業者が認識できる記載がない。そうであ
るから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確で
なく,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないし,また,
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
原告
「種結晶」に4H型炭化珪素若しくは6H型炭化珪素のC面を用いる
ことは技術常識である。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特
許を受けようとする発明が明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明
に記載したものであるし,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載
は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載し
たものである。
エ無効理由4(新規性の欠如(特許法29条1項))について
被告
平成7年9月18日に京都府内で開催された国際会議(Silico
nCarbideandRelatedMaterials
1995)において,本件発明の構成がすべて記載された論文(乙21)
の内容を説明する講演が行われ,この論文は,同年8月18日までにI
CSCREM-95統括委員長宛に提出され正式な守秘義務を負わない
査読者が査読しているから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又
は外国において,公然知られた発明である。
原告
平成7年9月18日に開催された国際会議における講演の内容は明ら
かでないし,上記論文の査読者が原稿を無断で公開することはないから,
本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,公然知られ
た発明ではない。
オ無効理由5(新規性の欠如(特許法29条1項))について
被告
平成7年11月17日頃からアメリカ国防技術情報センターの登録ユ
ーザーがアクセスすることができた,「SiC静電誘導トランジスタ」
プログラムの最終レポート(乙38)には,本件発明が記載されている
から,本件発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布
された刊行物に記載された発明である。
原告
アメリカ国防技術情報センターの登録ユーザーは一般公衆ではなく,
一般公衆が「SiC静電誘導トランジスタ」プログラムの最終レポー
トにアクセスできたのは,平成8年3月15日であるから,本件発明は,
本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載
された発明ではない。
カ無効理由6(進歩性の欠如(特許法29条2項))について
被告
1994年9月に発表され,1995年1月に頒布された「Sili
conCarbideSubstratesandPower
Devices」と題する論文(乙14)に記載された発明と本件発明
とは,種結晶を用いた昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる
際に,炭素原子位置に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素の製造方法
である点で一致し,①窒素の導入量に関し,本件発明が5×1018
㎝-

以上5×1019
㎝-3
以下であるのに対し,上記論文に記載された発明
は1×1020
㎝-3
である点,②本件発明が4H型単結晶炭化珪素イン
ゴッドの製造方法であるのに対し,上記論文に記載された発明はSiC
ウエハを製造する方法である点が相違するが,相違点に係る構成はいず
れも設計事項に過ぎない。そうであるから,本件発明は,本件特許出願
前に当業者が特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行
物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができた。
原告
上記論文に記載された窒素の導入量に関する数値範囲は,本件発明の
数値と大きく離れており,かつ,当業者であれば,これよりも高濃度の
窒素を導入することが自然であって,本件発明の数値範囲を探索する動
機付けは生じないし,上記論文からは,窒素の導入量に関する数値範囲
において,窒素が4H型炭化珪素単結晶の安定性に与える影響を読み取
ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。
そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に
日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすること
ができたものではない。
キ無効理由7(進歩性の欠如(特許法29条2項))について
被告
平成6年11月15日に公開された公開特許公報(特開平6-316
499,甲40の5)に記載された発明と本件発明とは,種結晶を用い
た昇華再結晶法により単結晶炭化珪素を成長させる際に,炭素原子位置
に窒素を導入する4H型単結晶炭化珪素インゴッドの製造方法である点
で一致し,窒素のドープ量に関し,本件発明が5×1018
㎝-3
以上5
×1019
㎝-3
以下であるのに対し,上記論文に記載された発明は抵抗
率が0.1Ω㎝となるドープ量,すなわち,1×1018
㎝-3
未満であ
る点が相違するが,相違点に係る構成は設計事項に過ぎない。そうであ
るから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内
において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすることができた。
原告
上記論文に記載された窒素の導入量に関する数値範囲は,本件発明の
数値と大きく離れており,かつ,当業者であれば,これよりも高濃度の
窒素を導入することが自然であって,本件発明の数値範囲を探索する動
機付けは生じないし,上記論文からは,窒素の導入量に関する数値範囲
において,窒素が4H型炭化珪素単結晶の安定性に与える影響を読み取
ることはできないから,窒素の導入量に関する相違点は設計事項でない。
そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許出願前に
日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明をすること
ができたものではない。
ク無効理由8(進歩性の欠如(特許法29条2項))について
被告
前記論文(乙14,21)に開示された発明において単結晶炭化珪素
への窒素の導入が結晶の電気的特性を変化させるために行われるもので,
本件発明のようにポリタイプの制御を目的としない場合であっても,平
成7年1月に発表された「GrowthofbulkSiC」と
題する論文(乙6)によれば,窒素不純物をドーピングすることが炭化
珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼすことが公知であったから,
上記論文(乙14,21)が開示する種結晶を用いた昇華再結晶法にお
いて,適宜,炭化珪素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼす窒素をド
ーピングし,所望の抵抗率からなる4H型炭化珪素を得ることは容易で
あった。そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が特許
出願前に日本国内において,公然知られた発明に基づいて容易に発明を
することができた。
原告
上記論文(乙6)からは,窒素不純物をドーピングすることが炭化珪
素結晶のポリタイプに大きく影響を及ぼすことが公知であったと認める
ことはできないから,上記論文(乙14,21)が開示する種結晶を用
いた昇華再結晶法において,適宜,炭化珪素結晶のポリタイプに大きく
影響を及ぼす窒素をドーピングし,所望の抵抗率からなる4H型炭化珪
素を得ることは容易であるとはいえない。そうであるから,本件発明は,
本件特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において,公然知られ
た発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
第3当裁判所の判断
1被告方法が本件発明の技術的範囲に属するかについて
構成要件Aについて
ア証拠(甲29の2)によれば,①本件発明は,単結晶炭化珪素の製
造方法に係わり,特に,青色発光ダイオードや電子デバイスなどの基板
ウエハとなる良質で大型の単結晶インゴットの成長方法に関する,②
炭化珪素(SiC)は耐熱性及び機械的強度も優れ,放射線に強いなど
の物理的,化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されているが,
大面積を有する高品質の単結晶炭化珪素を,工業的規模で安定に供給し
得る結晶成長技術は,いまだ確立されておらず,炭化珪素は,多くの利
点及び可能性を有する半導体材料にもかかわらず,その実用化が阻まれ
ていた,③従来,研究室程度の規模では,例えば昇華再結晶法(レー
リー法)で単結晶炭化珪素を成長させ,半導体素子の作製が可能なサイ
ズの単結晶炭化珪素を得ていたが,この方法では,得られた単結晶の面
積が小さく,その寸法及び形状を高精度に制御することは困難で,炭化
珪素が有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易でなく,ま
た,化学気相成長法(CVD法)を用いて珪素(Si)等などの異種基
板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の単結晶炭化
珪素を成長させることも行われていたが,大面積の単結晶は得られるも
のの,基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥を
含む(~107
㎝-2
)単結晶炭化珪素しか成長させることができず,
高品質の単結晶炭化珪素を得ることは容易でなかった,④これらの問
題点を解決するために,種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレー
リー法が提案され,この方法では,種結晶を用いているため結晶の核形
成過程が制御でき,また不活性ガスにより雰囲気圧力を数Torrから
100Torr程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良
くコントロールでき,結晶の抵抗率は,不活性ガスからなる雰囲気中に
不純物ガスを添加する,あるいは炭化珪素原料粉末中に不純物元素ある
いはその化合物を混合することにより,制御することが可能であり,結
晶多形(ポリタイプ),形状,及び抵抗率を制御しながら,大型の単結
晶炭化珪素を再現性良く成長させることができたが,通常の温度条件
(摂氏2200度から2400度)では,6H型の単結晶炭化珪素が高
い確率で形成されてしまい,高周波高耐圧電子デバイスに適した4H型
の単結晶炭化珪素を得るのは困難であり,種結晶の温度を低下させ,さ
らに雰囲気圧力を低下させることにより結晶成長の過飽和度を上昇させ,
4H型単結晶炭化珪素の形成確率を高めても,一般に過飽和度を高める
と欠陥発生の確率も上昇してしまい,また,Sc,Ceといった希土類
金属を炭化珪素成長表面に供給し,表面エネルギーを変化させ4H型結
晶の核発生を促進させることは,半導体デバイスへの応用を考えた場合
には,これらの重金属の使用は好ましくないという問題があった,⑤
本件発明は上記事情に鑑みてされたもので,大型のウエハを切り出せる,
欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く製造し得る単
結晶炭化珪素の製造方法を提供することを目的として,特許請求の範囲
の請求項1の構成を採用した,⑥本件発明の単結晶炭化珪素の製造方
法は,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からな
る種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法に
おいて,炭素原子位置に窒素を5×1018
㎝-3
以上5×1019
㎝-3

下導入することを特徴とするものであり,これにより,大型のウエハを
切り出せる,欠陥が少なく良質の4H型単結晶インゴットを再現性良く
製造し得る,以上の事実が認められる。
上記認定の事実によれば,本件発明は,高品質の単結晶炭化珪素を得
るために導入された炭化珪素原料粉末を原料とし種結晶を用いて昇華再
結晶を行う改良型のレーリー法においても解決できなかった課題を解決
するために,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素
からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する
方法において,炭素原子位置に窒素を5×1018
㎝-3
以上5×1019
㎝-3
以下導入するという技術手段を採用したものであると認められる。
そうだとすれば,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,結晶性固体を「昇
華」させて再び結晶させる,すなわち,生成物と同じ物質からなる多結
晶固体原料を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意
味すると解するのが相当である。
原告は,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,生成物と同じ物質又は生
成物と異なる物質からなる多結晶の固体原料を昇華させてから単結晶の
生成物を得ることを意味すると主張する。
しかし,証拠(甲3,乙23ないし25)によれば,SiCアライア
ンスは,SiCウエハ,SiC素子及びSiC素子の自動車等の最終製
品への実装等のSiCの実用化に係る研究開発並びにSiC半導体の国
内外への普及等について産学官が連携を図り,SiC半導体の導入を促
進することによって,低炭素社会の実現に貢献することを目的とし,平
成24年10月1日当時34の企業,14の大学,8の研究機関が会員
となっている団体であるが,同団体は,ホームページ上で,昇華再結晶
法(改良レーリー法)について,炭化珪素単結晶を製造する結晶成長方
法の一つで,工業的に最も広く用いられている方法であり,炭化珪素固
体原料(通常は粉末)を高温(2000℃以上)で加熱,昇華させ,不
活性ガス雰囲気中を輸送後,低温部に設置された種結晶上に再結晶化さ
せることにより塊状の単結晶を育成するものであると説明していること,
日刊工業新聞社が発行した「半導体SiC技術と応用」は,炭化珪素の
解説書であるが,これには,レーリー法は,純度の良い結晶成長法とし
て初めて試みられた昇華再結晶法であって,グラファイトるつぼ内で原
料の炭化珪素粉末を昇華させ,低温部に再結晶化させる方法である旨の
記載があることが認められ,これらは,レーリー法や改良レーリー法を
昇華再結晶法として説明する場合に,炭化珪素を原料とすることをあえ
て明示し,炭化珪素を原料としないレーリー法や改良レーリー法を昇華
再結晶法としていないことが認められる。また,証拠(甲15,16)
によれば,「HighqualitySiCbulkgrow
thbysublimationmethodusinge
lementalSiliconandCarbonpowd
erasSiCsourcematerials」(甲15)
及び特許第4427470号の特許公報(甲16)には,炭素粉末と珪
素粉末を原料とすることが記載されていることが認められるが,これら
は,いずれも一旦炭化珪素を生成する工程を経て,その炭化珪素を昇華
させて炭化珪素結晶を得る方法を開示するものである。そうであれば,
「再結晶」の原料として,昇華に際し,Siの蒸気,SiC2の蒸気,
Si2Cの蒸気などが発生するものであれば足りるとは認められないか
ら,レーリー法や改良レーリー法において,炭素粉末及び珪素粉末から
なる原料を加熱昇華させて炭化珪素結晶を得る態様のものがあるとして
も,炭化珪素の技術分野において,「昇華再結晶法」が,生成物と同じ
物質又は生成物と異なる物質からなる多結晶の固体原料を昇華させてか
ら単結晶の生成物を得ることを意味するものと解することはできない。
原告の上記主張は,採用することができない。
イ被告方法は,●(省略)●これは構成要件Aの「昇華再結晶法」に当た
らない。
ウしたがって,被告方法は,本件発明の構成要件Aを充足しない。
以上のとおりであって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとは
認められない。
2よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がな
いから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官藤田壮

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