弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成29年12月15日宣告
組織的な犯罪
の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告
事件
主文
被告人を懲役30年に処する。
未決勾留日数中800日をその刑に算入する。
理由
※人名については,特記がある場合を除き再出時以降は本名の姓のみで表記する。また,肩書きは,
いずれも当時のものである。
※共犯者として認定した者並びにW1及びX1は,いずれも分離前の相被告人である。
(罪となるべき事実)
被告人は,指定暴力団(平成24年12月27日以降は特定危険指定暴力団)五
代目甲會(以下,その前身となる暴力団組織を含め,「甲會」という。)五代目乙組
(以下,同様に「乙組」という。)の組員(甲會専務理事兼乙組組長付,第3の犯行
当時は以上と兼ねて乙組若頭補佐)であったが,
第1(以下「元警察官事件」という。)A1(甲會総裁),B1(甲會会長),C1
(甲會理事長兼乙組組長),D1(甲會乙組若頭),E1(甲會乙組若頭補佐),
F1(甲會乙組筆頭若頭補佐),G1(甲會乙組組員),H1(同),I1(同)
及びJ1(同)と共謀の上,組織により,元福岡県警察警察官K1に対し,こ
とによれば同人が死亡することになるかもしれないことを認識しつつあえて
同人の身体に危害を加えることを企て,甲會の活動として,A1の指揮命令に
基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,いずれも法定の除外事由が
ないのに,
1平成24年4月19日午前7時6分頃,不特定若しくは多数の者の用に供さ
れる場所である北九州市a区b・c丁目d番e号付近路上において,被告人が,
K1(当時61歳)に対し,前記のとおりの殺意をもって,所携の自動装てん
式けん銃(福岡地方検察庁平成28年領第67号符号1)で,K1の身体を目
掛けて弾丸2発を発射し,同人の左腰部及び左大腿部に1発ずつ命中させ,も
って団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,同人に約1か月の
入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負わせ
たにとどまり,殺害には至らず,引き続いて,同所において,所携の前記けん
銃で,地面に向けて弾丸1発を発射した。
2前記1記載の日時場所において,前記1記載のけん銃1丁を,これに適合す
るけん銃実包3発と共に携帯して所持した。
第2(以下「看護師事件」という。)A1(甲會総裁),B1(甲會会長),C1(甲
會理事長兼乙組組長),L1(甲會理事長補佐兼丙組組長),D1(甲會上席専
務理事兼乙組若頭),F1(甲會専務理事兼乙組風紀委員長),E1(甲會専務
理事兼乙組筆頭若頭補佐),M1(甲會専務理事兼乙組若頭補佐),N1(甲會
専務理事兼乙組組織委員),O1(同)及びP1(甲會常任理事兼乙組若中)と
共謀の上,組織により,Q1に対し,ことによれば同人が死亡することになる
かもしれないことを認識しつつあえて同人の身体に危害を加えることを企て,
甲會の活動として,A1の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担
に従って,平成25年1月28日午後7時4分頃,福岡市f区g・h番i号の
j北側歩道上において,M1が,Q1(当時45歳)に対し,前記のとおりの
殺意をもって,所携の刃物で,その左側頭頚部等を目掛けて数回突き刺すなどし,
もって団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが,Q1に約3週間
の入院及び通院による加療を要する左眉毛上部挫創,顔面神経損傷,右前腕部
挫創及び左臀部挫創の傷害を負わせたにとどまり,殺害には至らなかった。
第3(以下「歯科医師事件」という。)北九州市内及びその周辺を主たる縄張とす
る甲會の不正権益を維持・拡大する目的を有していたA1(甲會総裁)及びB
1(甲會会長)のほか,C1(甲會理事長兼乙組組長),E1(甲會専務理事兼
乙組本部長),N1(甲會専務理事兼乙組若頭補佐)及びH1(甲會理事兼乙組
若中)とも共謀の上,組織により,R1に対し,ことによれば同人が死亡する
ことになるかもしれないことを認識しつつあえて同人の身体に危害を加える
ことを企て,甲會の活動として,A1の指揮命令に基づき,あらかじめ定めら
れた任務分担に従って,平成26年5月26日午前8時28分頃,北九州市k
区l・m丁目n番所在のo駐車場において,被告人が,R1(当時29歳)に
対し,前記のとおりの殺意をもって,所携の刃物で,その胸部,腹部,背部,
大腿部等を目掛けて多数回突き刺すなどし,もって団体の活動として組織によ
り人を殺害しようとしたが,R1に入院加療約14日間及び外来加療約3か月
間を要する左大腿部刺創,腹部刺創,胸壁刺創及び背部刺創の傷害を負わせた
にとどまり,殺害には至らなかった。
(証拠の標目)(記載省略)
(事実認定の補足説明)
弁護人らは,各犯行に被告人が関与していることは認めつつも,いずれの犯行に
ついても実行犯には殺意がなく,かつ団体の活動として組織によりなされたもの
ではないと主張するほか,一部の共犯者について共謀関係にあったことを争って
いる。そこで,以下,全ての犯行に関連する前提事実を認定した後,各犯行ごとに,
罪となるべき事実を認定した理由について補足して説明する。
第1前提事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1甲會について
甲會は,北九州市内に本拠を置き,同市及びその周辺地域を独自の縄張であると
主張する暴力団組織である。
甲會は,昭和21年頃,「甲組」として結成され,北九州地区最大の暴力団組織
となったが,その後分裂や抗争を経て,昭和62年に「甲連合丁一家」として再結
成された。以降,代替わりしながら組織は存続し,平成11年には「三代目甲會」
を名乗り,平成23年7月には,総裁をA1,会長をB1,理事長をC1とする「五
代目甲會」が発足して,本件各犯行に至っている(平成27年12月時点の構成員
及び準構成員は800人余りである。)。
その組織構成は,最上位が総裁,それに次ぐのが会長とされ,「五代目甲會」発
足以降,本件各犯行時に至るまで,一貫して,A1が総裁,B1が会長の地位にあ
った。また,その下に,会長代行,理事長,最高顧問,総本部長,幹事長,組織委
員長,風紀委員長,懲罰委員長,渉外委員長,総務委員長,慶弔委員長,事務局長,
理事長補佐等の役職が設けられている(最高顧問を除く会長代行以下理事長補佐
までを「執行部」と称している。)。甲會構成員は,この序列を前提として下位者は
上位者の指示・命令に従うべきものとされ,その統制は厳格なものであった。
平成4年6月,甲會(当時は「二代目甲連合丁一家」)は,暴力団員による不当
な行為の防止等に関する法律に基づき,福岡県公安委員会から指定暴力団として
指定され,平成24年12月には特定危険指定暴力団にも指定された。また,元警
察官事件が発生するまでに,甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多
数の報道がされている。
2乙組について
乙組は,甲會傘下の二次団体(暴力団)の一つである。昭和44年に「乙組」と
して結成されたことから始まり,平成23年6月にはC1が組長,D1が若頭とし
て「五代目乙組」が発足した。乙組内の序列は,最上位である組長の下に,執行部
として若頭,本部長,幹事長,組織委員長,風紀委員長,筆頭若頭補佐が続き,執
行部の下には,若頭補佐,組長秘書,組長付などが役付とされていた。
3被告人と甲會との関係について
被告人は,平成15年頃,甲會(当時は「四代目甲會」)乙組戊組の組員となり,
平成23年6月頃乙組に移籍した。元警察官事件及び看護師事件当時の肩書きは
乙組組長付,歯科医師事件当時はそれに加えて乙組若頭補佐も兼ねていた。さら
に,全ての事件当時を通じて,甲會専務理事の地位にもあった。
第2元警察官事件
1争点
弁護人らは,被告人がK1に対してけん銃を発射するなどの実行行為をしたこ
とは争わないものの,①被告人には殺意がなく,②甲會の活動として組織によりな
されたものでもないと主張し,さらに,③共犯者とされている者ら(特に,A1,
B1,C1,F1,G1,J1)との間の共謀についても争っている。
2認定事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
K1と甲會の関係等について
K1は,×××警察の警察官として,昭和53年頃から一貫して暴力団捜査を専
門とする部署に所属し,主として甲會の事件捜査に携わり,平成23年3月に退職
した。その中で,昭和60年頃からはA1と,平成元年頃からはB1とも面識を有
するようになったほか,S1(平成23年7月以降甲會最高顧問になった者)とも
接点を持ち,警察内部でも甲會上層部と話ができる数少ない捜査員のひとりであ
った。しかし,平成21年4月頃,K1は,甲會に関する情報収集のため甲會を破
門されていたT1と会った際,T1に対し,A1が約20億円の現金を私的に貯め
ていることやA1の命が他の暴力団組織から狙われていることなどを話したとこ
ろ,その音声の録音媒体がB1の手に渡った。そして,同月22日,K1が甲會の
動向視察中にA1とゴルフ場で顔を合わせた際,A1はK1に対し,怒った様子
で,「あんた,俺に先輩のような物言いをしよるな。」「T1と会うとるな。」などと
告げた(なお,検察官は,このときA1がK1に対して「最後になって悪いもん残
したな。」と告げたと主張し,証人として出廷したK1及びU1(警察官)もそれ
に沿う供述をしているが,同日のA1の言動について上司に報告するためにK1
及びU1が作成した捜査報告書にはその旨の記載がなく,両名の供述によっても
その点に関する記載が省かれたことについて合理的な理由が見出せないことから,
この点についての両名の供述の信用性には疑問がある。よって,検察官主張の上記
事実を認定することはできない。)。
本件犯行前日までの経過について
平成24年3月末頃以降,D1(乙組若頭)はK1の行動確認を開始し,G1(乙
組組員)及びJ1(同)にも,同年4月上旬頃にE1(乙組若頭補佐)を介してK
1の容貌を覚えさせるなどして,K1の自宅の人の出入りやその最寄り駅でのK
1の行動等を確認するよう指示した。D1は,G1に,K1が自宅最寄り駅を通過
する時刻等を報告させ,おおむね午前7時頃に到着することを把握し,自らも,K
1方付近で,出勤のため同人が同駅に向かう様子を複数回確認した。
また,D1は,同月上旬ころ,被告人(乙組組長付)に対して「仕事がある。」
などと告げ,同月17日頃には,E1が運転する車にD1と被告人が同乗し,北九
州市a区内のホテル(以下「本件ホテル」という。)付近から北九州市a区b・c
丁目d番e号付近(後に本件犯行が実行された場所。以下,本件犯行に関して「犯
行現場」というときはこの場所を指す。)まで行った。その際,D1は,移動中の車
内で,被告人に対し,前記の「仕事」とは犯行現場で人を銃撃するというものであ
ることを告げた上,犯行時は他の組員が用意した原動機付自転車を使って標的に
接近し実行することを指示し,原動機付自転車の隠匿場所や犯行後の逃走経路等
について説明した。さらに翌18日頃,D1は,被告人に対し,明日銃撃を決行す
ることと銃撃の標的がK1という元警察官であることを伝えると共に,犯行前後
の行動について指示した。その内容は,H1が運転する車で,原動機付自転車の隠
匿場所である北九州市a区内にあるpの駐車場(以下「本件歯科駐車場」という。)
へ向かい,隠匿されている原動機付自転車で指定した待機場所へ行き,携帯電話へ
の着信を合図に同車で犯行現場へ行ってK1を銃撃し,けん銃を投棄した後,H1
が待機している本件ホテル付近に向かうこと,当日使用する着衣等はH1運転車
両に用意してあり,それらは銃撃後は同車に置いていくことなどであった。その上
で,D1は,被告人に対し,自動装てん式けん銃(タンホグリオGT27型という
名称のイタリア製真正けん銃で,25口径のもの。以下「本件けん銃」という。)及
びそれに適合する実包が入ったポーチと携帯電話を渡した。
他方,D1は,同日頃,H1(乙組組員)に対し,犯行当日の朝に北九州市a区
内の住宅街で被告人を自動車に乗せて本件歯科駐車場まで送り,その後は本件ホ
テル付近で待機すること,その後原動機付自転車に乗って来る被告人と合流し,被
告人を当初乗せた場所まで送り届け,被告人が前記自動車内に残した荷物はF1
が取りに来るため庚組の事務所にいるV1に渡すよう指示し,被告人が乗った原
動機付自転車は別の人間が乗っていく旨を告げた(その際,E1もその場にいた。)。
また,D1は,I1(乙組組員)に対しても,本件ホテル付近で被告人から原動機
付自転車とヘルメットを受け取り,原動機付自転車は北九州市a区内の水路に投
棄し,ヘルメットはI1の居室付近に隠匿するよう指示し,原動機付自転車の投棄
場所にはG1が迎えに来る旨を告げ(水路での指示説明には少なくともE1,G1
が伴っていた。),G1に対しては,犯行当日はK1が自宅付近の通勤路を通過した
ことを確認した後直ちに指定した携帯電話に架電すること,原動機付自転車の投
棄場所までI1を迎えに行くことを指示し,F1(乙組筆頭若頭補佐)に対しても,
庚組の事務所に届けられる荷物やI1が隠匿したヘルメットを跡形もなく処分する
ことを指示した。
翌19日午前零時頃,G1は,D1の指示を受け,H1と共に原動機付自転車1
台を盗み,I1も協力してこれを本件歯科駐車場に隠匿した。
犯行当日の経過について
平成24年4月19日朝,被告人は,自動車で迎えに来たH1と合流し,同車内
に用意されていた衣服等に着替えた上,同車に乗って本件歯科駐車場へ行き,隠匿
されていた原動機付自転車に乗り換え,D1から指示された場所で待機した。一
方,G1は,K1が通勤経路を通過するのを確認し,自己の携帯電話から,被告人
がD1から渡されていた携帯電話に合図の電話を掛けた。被告人はその着信を受
け,犯行現場に向かい出発した。
同日午前7時6分頃,K1は,徒歩で犯行現場に差し掛かり,被告人もK1の対
向方向から犯行現場付近に到着した。被告人は,自分の方に向かい歩いてくるK1
の姿を認めると,原動機付自転車を減速させながら近づき,K1の左横付近でブレー
キをかけ,K1まで約1.2mの位置で停止した。そして,K1の方に向かって上
半身を左方向に約90度ひねり,ポケットから本件けん銃を取り出して両手で構
え,K1の左大腿部付近を狙い,続けて2度その引き金を引き,銃弾2発を発射さ
せ,それらの銃弾は同人の左腰部と左大腿部に1発ずつ命中した。被告人は,K1
が命中した箇所を手で押さえる様子を確認すると,数m前方へ進んだ後,地面に向
けて銃弾を1発発射し,原動機付自転車を急加速させて逃走した(なお,検察官は,
被告人が立ち会った犯行状況の再現を根拠として,被告人がK1を銃撃した際の
両者の距離は約2.8mであると主張する。しかし,上記再現は,犯行から約3年
後,犯行現場とは異なる場所で行われており,その正確性には疑問がある。これに
対し,K1が立ち会った被害状況の再現は,その記憶が鮮明であったと考えられる
犯行の約1か月後に犯行現場で行われたもので信用でき,これによれば,犯行時の
両者の距離は約1.2mであったと認められる。)。
被告人がK1に向けて撃った2発の銃弾のうち,左腰部に命中した1発は,やや
下向きに体内に入って左大腿骨の大転子に当たり,跳ね返って体外に排出された。
左大腿部に命中した1発は,やや下向きに体内に入って左大腿骨の背中側部分に
残った。これにより,K1は,約1か月の入院及び通院加療を要する左股関節内異
物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。
犯行後の経過について
被告人は,本件犯行を実行した後,本件けん銃を北九州市a区内の河川に投棄
し,本件ホテル付近で待機していたH1及びI1と合流し,原動機付自転車とヘル
メットをI1に渡し,H1が運転する車に乗り,帰宅した。
I1は,原動機付自転車を指定された水路に投棄し,G1運転の車で己組の事務
所に赴きヘルメットを置いた。ヘルメットは,その後,G1がF1に渡した。H1
は,被告人が犯行に使用した着衣等が入った荷物を庚組の事務所でV1に渡した。
F1は,V1と共にこの荷物とG1から受け取ったヘルメットを燃やして処分し
た。
平成24年4月末頃,D1は,乙組の本部事務所で,被告人に対し,茶封筒に入
った新券の1万円札50枚を手渡した。
本件けん銃の性能等について
本件犯行後,福岡県警察科学捜査研究所において本件けん銃を分解し,錆などを
除去して再度組み立てた上で4回試射を行った結果,単位断面積当たりの活力の
平均値は279ジュール(J)毎㎠であった。また,警察官が本件けん銃を2回試
射したところ,弾丸は厚さ約0.4cmのベニヤ板十五,六枚を貫通し,その発射弾
丸の速度を測定して運動エネルギーを算出した結果は,それぞれ281J毎㎠,267
J毎㎠であった(以上の値は,銃砲刀剣類所持等取締法2条1項の「人の生命に危
険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値(運動エネルギーの値)」である20
J毎㎠(銃砲刀剣類所持等取締法施行規則3条)の約13ないし14倍に当たる。)。
また,過去には本件けん銃と同様の25口径のけん銃が使用された殺人事件が複
数発生している。
3被告人の殺意の有無について
既に認定したとおり,本件犯行の態様は,約1.2mという近い距離から,比較
的小型とはいえ人を殺傷する能力を十分備えた真正けん銃を用いて,K1の左腰
部及び左大腿部という身体の枢要部に近い部位に向けて銃弾を2発撃ち込んだも
のである。銃弾のうち1発は大腿骨にまで達して体内で跳ね返り,もう1発は大腿
動脈から約7cmの位置に至っていた。本件犯行による負傷そのものは結果的に生
命の危険を生じさせるには至らず,銃弾の向きも腹部に向かうものではなかった
が,わずかでも銃弾の軌道がずれ(被告人はそれまで人を銃撃した経験がなかった
のであるから,狙いどおりに銃撃できない可能性は十分あったと考えられる。),あ
るいは,歩行中であったK1が別の身体の動かし方をするなどしていれば,銃弾が
大腿動脈や腹部大動脈,心臓,肝臓等の重要な臓器等を損傷して死に至らせる危険
性があった。そして,そのことは,自らK1に近付き,けん銃を構えて発射するな
どした被告人においても認識していたと認められる。そうすると,被告人は,本件
犯行の当時,ことによればK1が死亡する危険性はあるが,それでもやむを得ない
という程度の殺意を有していたと認められる。
なお,弁護人らは,①被告人は,本件犯行前にD1から「足を2発撃て。地面を
2発撃て。絶対殺したらつまらんぞ。」などと指示され,現に,口径の小さい護身
用の本件けん銃を使用して狙った部位に銃弾を命中させており,②被告人が大腿
動脈や腹部大動脈の存在を知らなかった旨主張する。しかし,①については,被告
人は公判廷でそれに沿う供述をしているが,それに加えて,被告人はD1に対し
て,K1のももを狙ってよいかとたずね,D1もそれを禁じていなかった旨の供述
もしているから,被告人とD1との間に被告人の供述どおりのやりとりがあった
としても,本件犯行で実際にK1が負傷した部位を狙うことはD1と被告人との
間で了解されていたというべきである。そうすると,仮に被告人がD1から前記の
ような指示を受けていたとしても,そもそもその内容はけん銃を使って人のもも
付近を複数回撃つという人命に対する危険性が想定される行為が含まれていたの
であり,殺さないように命じているとはいっても,K1の生命に危険が及ばないよ
うにするための具体的かつ確実な方法が伝えられていたわけではないから,この
ような指示があったからといって,被告人においてK1が死亡する可能性に関す
る認識が一挙に払拭されるものではないことは明らかである(このことは,指示を
しているD1本人についても同様と考えられる。)。そして,その指示に基づいて実
際に被告人が実行した犯行態様は前記のとおりであり,それに照らせば,被告人に
おいて,一歩間違えればK1が死亡する危険性を認識した上で本件犯行を実行し
たとみざるをえないことも既に検討したとおりである。そうすると,被告人がD1
から前記のような指示を受けていたことや,被告人がその指示どおりに犯行に及
んでおおむね狙いどおりの結果に終わったことなどは,被告人の殺意の認定を妨
げるものではないというべきである。また,②については,大腿部や腹部付近には
生命を維持する上で重要な臓器や血管等があることは常識といってよく,被告人
が人体構造の詳細を知らなかったとしても,そのことは殺意の認定を左右するも
のではない。その他弁護人らが主張する諸点を十分に考慮検討しても,上記認定は
揺らがない。
4甲會の活動として組織により行われたか否かについて
既に認定した事実関係からすると,遅くともD1がK1の行動確認を始めた平
成24年3月末頃までに甲會内の何者かによりK1を襲撃することが企てられ,
D1が配下の乙組組員であるF1,G1,J1,H1,I1らに対してK1の行動
確認や犯行に使用する道具の準備,移動手段の確保,犯行後の証拠隠滅等を事細か
に指示すると共に,被告人に対して本件犯行の実行を命じ,D1の側近であるE1
の運転する車で被告人と共に犯行現場などを下見するなどした上で,同年4月1
9日に実行に至ったことが認められる。この間,被告人を含め,D1から指示を受
けた者らは,おおむねD1の指示どおりに行動してその役割を果たしている。こう
したことからすると,本件は,少なくともD1以下の乙組の組員が,D1の指示に
より定められた役割分担に従って敢行したものであることが明らかである。
他方,証拠によれば,D1や被告人を含め,本件犯行において一定の役割を担っ
た前記の者らは,いずれもK1とは面識がなく,K1との間に怨恨や確執があった
ことは一切うかがわれない。また,本件犯行は,長年甲會の捜査に携わった元警察
官に対してけん銃を用いて襲撃するというものであり,そのこと自体から本件犯
行が甲會によるものと疑われることは明らかであって,本件犯行後,警察による取
締りが一段と厳しくなり,A1,B1,C1などの上層部も捜査の対象とされるお
それがあるなど甲會全体に重大な影響が及ぶことが容易に想定され得る。こうし
たことからすると,上層部の了解なくD1以下の者らが本件犯行を計画・実行する
ことは考え難く,仮にそのようなことがあれば甲會内で何らかの粛清や処分を受
けてしかるべきであるが,そのようなこともなかった(そればかりか,既に認定し
たとおり,被告人は本件犯行の約2週間後にD1から50万円の現金を受け取っ
ているところ,その直前,D1はC1と2人で会議室に入っていたこと,当日C1
の財布から50万円が減っていたこと,被告人において本件犯行に対する報酬以外
にはその現金を受け取る心当たりがないことなどからすると,その50万円は,C1
が実行役の被告人に対する報酬として用意したものと推認される。)。さらに,既に
認定したとおり,K1はT1に対してA1を批判する言動をしているところ,その
後の事実経過からすれば,その発言内容をA1やB1が知り,そのことでA1はK
1に対して強い不快感を抱いていたことが推認できる。このような事情も考慮す
ると,A1が,K1に対しけん銃を用いて襲撃するという強い手段で報復すること
により,警察や世間一般に甲會の威力を見せ付けて勢力や影響力を維持・拡大さ
せ,組織の結束を図ろうとすることは想定しうることであり,かつそれ以外にK1
を襲撃する理由は見出しがたい。
以上の検討からすれば,本件犯行に当たり,関与した組員に対して直接の指示を
行ったのはD1ではあるが,本件犯行がD1の一存で企図,計画されたものとは到
底考え難く,D1らが属する乙組の組長であるC1はもとより,甲會最上位のA1
やB1の関与を想定しなければ合理的に説明することが極めて困難である。そし
て,既に認定した甲會内の序列に加え,本件犯行当時,A1とC1との間に特段親
密な関係はなく,B1を介さずにA1とC1が直接重要な事柄を決めることは考
えにくいことなども考慮すると,本件犯行は,最上位にあったA1が本件犯行を実
行することについて意思決定をした上で,序列2位のB1,3位のC1と順次指揮
命令が伝達され,C1から,自らが組長を務める乙組の序列2位に当たる若頭のD
1に対して指揮命令が行われたことが合理的に推認される。
よって,本件犯行は,甲會の組織によりK1をけん銃を用いて襲撃しようと企て
られ,団体としての甲會の活動として,組織の最上位にあったA1の指揮命令に基
づき,あらかじめ定められた任務分担に従って敢行されたものであると認定できる。
5共犯者らとの共謀の有無について
前項で検討したとおり,本件犯行は,A1が意思決定をし,B1,C1,D1の
順で順次指揮命令が行われた上,D1が被告人を含む配下組員に指示を下し,指示
を受けた配下組員が細分化された任務をそれぞれ分担した上,被告人により実行
されたものと認められる。
A1からD1までの指揮命令については,その具体的な内容は明らかでないが,
前記のとおり,元警察官をけん銃を用いて襲撃するという本件犯行態様の核心部
分についてD1がその一存で決めたことはありえないから,少なくともその点に
ついてはA1,B1,C1との間でも意思疎通があったものと推認できる。そして,
そのような態様を取ることについて認識がある以上,(積極的にK1の殺害を意欲
していたとまでは認定できないものの)ことによればK1が死亡することになるか
もしれないという程度の認識すら有していなかったとは考えられない。甲會の組織
構成やその性質を前提とすれば,A1らにおいても,犯行に当たってC1以下の甲
會組員が指揮命令に従い役割を分担して実行に至ることの認識があったことも疑い
を容れない。かくて,A1,B1,C1について本件犯行の共謀があったと認めら
れる。
D1が被告人に対してした指示命令の状況は既に認定したとおりであり,D1と
被告人との間で本件犯行の共謀があったことは明白である。D1が被告人に対して
「絶対殺したらつまらんぞ。」などと告げたとしてもD1や被告人の殺意が認定で
きることは既に検討したとおりである。本件が組織的になされていることについて
は,具体的な指揮命令に当たったD1においてその認識があったことはもとより,
被告人においても多数の組員が様々な関与をすることを承知していたのであるから,
組織性の認識に欠けるところはない。
被告人以外の組員の関与についても既に認定したとおりである。E1については,
K1の行動確認において下位の組員を指示するなどしたほか,D1が被告人に対し
て本件犯行を指示したその場にもいて,下見のために自動車を運転するなどしてい
たことから,殺意や組織性の点も含めて本件犯行について共謀があったと認められ
る。その他の組員については,本件犯行の概要を知らされないままD1の指示に従
って行動していたとみられるが,D1の指示内容に加え,本件犯行当時,甲會が起
こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がなされていたことなども考
慮すれば,複数の組員が上位者からの指示に基づく役割分担をした上,ことによれ
ば人の生命を奪いかねない襲撃事件を起こそうとしているという程度の認識を有し
ていたことは明らかと認められる(なお,J1については,K1の行動確認をした
後,D1から謹慎を命じられるなどしてそれ以上の役割を果たさなかったが,その
ような事情があったとしても共謀関係から離脱したとは認められない。)。これらの
者についても,本件犯行の共謀があったと認められる。
6結論
以上の次第で,被告人は判示第1の罪を犯したと認められる。
第3看護師事件
1争点
弁護人らは,被告人が実行犯であるM1を犯行現場まで送り届けて本件に関与し
たことは争わないものの,①M1には殺意がなく,②甲會の活動として組織により
なされたものでもないと主張し,さらに,③共犯者とされている者ら(特に,A1,
B1,C1,L1,D1,W1,X1及びO1)との間の共謀についても争ってい
る。
2認定事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
Q1とA1の関係等について
A1は,平成24年8月から北九州市内の美容形成外科医院(以下「本件医院」
という。)に通院し,亀頭増大手術やレーザー脱毛の施術などを受けた。Q1は,本
件医院においてA1を担当していた看護師であり,A1に対して前記の施術を自ら
行うなどした。
A1は,通院初日に前記の手術を受けたが,その直後から,患部の異常を訴えて
頻繁に本件医院に電話で問い合わせたり,通院予定日以外の日に来院して患部が腐
っているのではないかと述べるなどした。この間,A1の代理人が患部に使用する
包帯を求めて来院したのに対しQ1がそれに応じなかったことがあり,A1はその
対応についても不満を述べるなどした。さらに,Q1は,同年10月中旬,A1に
対して脱毛の施術を行ったが,その3日後,A1は,予約なく本件医院を訪れ,対
応した別の看護師に対し,陰茎部の診察を求めると共にQ1が施術を行った部分が
炎症を起こしたので診療してほしい旨求め,その際,強い口調で,炎症はQ1が故
意に強度のレーザーを照射したために生じたのではないかと述べたり,前記の手術
の際に通常より多く薬品を注入したのではないかなどと告げた上,「ああいう人に
なったらいけん。」などとQ1に対する不満を言い,裁判に訴えることもできる旨も
述べるなどした。その日の夜,Q1は,A1に対して電話で謝罪したが,その際も,
A1は,これまでの治療や対応に対する不満を繰り返し述べた。A1は,2日後の
同月20日に本件医院で医師の診察を受けた際には,本気で裁判を考えてはおらず,
Q1に最後まで担当してもらいたい旨述べ,その後も本件医院に通院していたが,
同年11月12日に来院した際,Q1に対し,前記手術で薬品を注入しすぎたこと
が原因で性交渉が不可能になった旨強い不満を訴えるなどした。
本件犯行前日までの犯行準備状況等について
E1(乙組筆頭若頭補佐)は,N1(乙組組員)に命じ,少なくとも平成24年1
1月1日及び同月5日の2度にわたり,受診希望者を装って本件医院内に立ち入ら
せた上,N1にQ1の行動確認を指示した。N1はこれに従ってQ1の行動を監視
し,平成25年1月中旬から同月下旬までの間には,5回にわたり,JR○○駅構
内やその周辺でQ1を尾行するなどした。また,平成24年11月又は同年12月
頃,O1(乙組組員)は,氏名不詳者からの指示で,帰宅中のQ1を,JR○○駅
から福岡市f区の自宅付近まで,新幹線やバスに同乗して尾行し,Q1が自宅付近
のバス停で下車したことなどを報告した。
一方,E1は,平成25年1月初旬,被告人に対して仕事がある旨告げた上,自
動車1台を準備するよう指示し,被告人はそれに従って日産ADバン(以下,単に
「ADバン」という。)を用意した。さらに,E1は,被告人とM1をQ1が帰宅の
際に自宅まで徒歩で移動する経路にほど近い福岡市f区g・q番i号所在のマンシ
ョン「r」(以下「r」という。)等に案内した上,指定された集合場所(以下「本
件集合場所」という。)からrまで被告人がバイクでM1を送迎するよう指示した。
同月中旬頃,F1(乙組風紀委員長)は,甲會内の上位者から,手伝ってほしい
仕事がある旨告げられて福岡市f区まで案内された上,そこで他の者と合流して別
の場所まで移動すること,移動した先で,合流したメンバーは用意されたバイクに
乗って別の場所に行くので,同人らが戻るまで待つこと,同人らが戻ってきたらそ
のバイクの投棄作業を手伝うこと等を指示された。さらにその頃,F1は,上位者
からの指示に従い,知人から自動車1台(マツダRX7。以下,単に「RX7」と
いう。)を借りた。
同月24日,被告人は,E1の指示で,M1と共に,F1が運転するADバンに
乗り,同人が上位者の指示で運んできた衣服に着替えて本件集合場所まで赴いたが,
用意されたはずの送迎用のバイクが発見できず,襲撃は中止になった。また,翌2
5日,被告人は,E1の指示で,N1が用意したバイクで本件集合場所まで赴き,
ADバンに乗ったE1及びM1と合流して着替えを済ませたが,この日はQ1が出
勤しておらず,襲撃は中止になった。
同月26日,E1は,W1(乙組組織委員長)に対して,L1(甲會丙組組長)
の指名により,M1に代わり同月28日午前9時から翌29日午前9時までの間の
本家当番(A1の自宅で待機する当番のこと)を受け持つよう依頼し,W1はそれ
に応じた(その際,E1はW1に対して「仕事なんです。」と告げ,W1は「知っち
ょう,分かる。」「言わんでいいよ。」などと述べた。)。
同月27日の深夜頃,E1は,乙組一門である丙組に所属しL1の直属の配下で
あったP1に対し,バイクを盗んだ上,犯行が発覚しないように,その車体に塗装
をし,ナンバープレートを付け替えるよう指示し,P1はそのとおり実行した。
犯行当日の経過について
平成25年1月28日昼過ぎ,E1はF1からRX7を借り受けた(その際,R
X7には,F1が上位者の指示により準備した実行犯らが身に着ける衣服等の犯行
道具等が入ったバッグが積まれたままの状態であった。)。
N1は,E1の指示に従い,本件医院からJR○○駅構内までQ1を尾行し,同
人が新幹線の改札口に入ったことを確認し,JR△△駅で待機していたO1にその
旨を電話で連絡した。その後,O1は,Q1がJR△△駅付近でバスに乗ったこと
を確認し,その旨を他の者に電話で連絡した。
一方,被告人は,E1の指示で,P1が用意したバイクで北九州市内から本件集
合場所に赴き,ADバンに乗って来たE1及びM1と合流し,M1と共に,車内に
用意されていた衣服(RX7に積まれていたものと推認される。)に着替えて待機し
た。このときM1は,覆面をし,作業着の上下と手袋を着用した。その後,被告人
は,E1の指示で,前記バイクにM1を乗せてr脇付近に移動し,そこで待機した。
それから5分程度経過した同日午後7時4分頃,M1は,バスから降りて徒歩で
道路を通行中のQ1の姿を認めると,本件現場歩道上で,背後から近づき,その髪
の毛を手で掴み,刃物で左側頭頚部付近を切り付けた。さらに,M1は,その刃物
を手にした状態のままQ1ともみ合うような形になった後,Q1の左臀部を1回そ
の刃物で突き刺し,逃走した。
M1から刃物で切り付けられるなどしたことにより,Q1は,約3週間の入院及
び通院による加療を要する左眉毛上部挫創,顔面神経損傷,右前腕部挫創及び左臀
部挫創の傷害を負った。このうち,左眉毛上部挫創は,左眉毛外側から側頭部にか
けての位置にあり,長さ約7ないし8cm,幅約2cmの大きさで,筋層に達する
深さがあり,浅側頭動脈が完全に切断されていた。また,左臀部挫創は,長さ約2
ないし3cm,幅約1.5cmで,深さは約1.5ないし2cmのものであった。
犯行後の経過について
被告人は,犯行後逃走してきたM1を前記バイクに乗せて本件集合場所まで連れ
て来た後,M1及びE1と共に,前記バイクを付近の岸壁から海に投棄した。その
後,被告人は,M1と共に,E1が運転するADバンに乗り,車内で元の衣服に着
替え,犯行時に着用していた衣服等をバッグに入れてRX7に積み,E1とは別れ
てADバンで北九州市内に戻った。また,同日の夜,F1は,E1からRX7の返
却を受け,車内に積まれていた上記バッグを処分した。
3M1の殺意の有無について
既に認定したとおり,本件犯行の態様は,M1が,歩行中のQ1に背後から近付
き,その頭髪をつかんだ上,刃物でその左側頭頚部付近を切り付け,さらにもみ合
いの後,Q1の左臀部を刃物で突き刺したというものである。左側頭頚部付近への
攻撃は,その態様からして,明らかにその部位(それが人の身体の中でも特に重要
な部位であることはいうまでもない。)を狙ったものであると認められる上,その攻
撃の結果Q1が負ったけが(左眉毛上部挫創)は筋層に達し浅側頭動脈を完全に切
断するほどの深さで,これによってQ1は外傷性出血性ショックにも陥っているこ
とからして,相応に強い力を込めた攻撃であったと認められる。さらに,M1は,
もみ合いの後,臀部にも刃物を突き刺しているところ,それにより生じた左臀部挫
創も相応の深さがあり,この際にもM1が力を込めて攻撃していたことがうかがわれ
る。
M1が犯行に用いた刃物の形状の詳細や大きさ等は明らかでない(この点,検察
官は,本件犯行状況の一部が映った防犯カメラ映像を解析した証人Y1が,防犯カ
メラ画像上でM1が本件刃物を握った手から飛び出している部分の長さが18ない
し22cmであると推測される旨供述すること等に基づき,M1が犯行に使用した
刃物の刃体の長さは10cm前後であると主張するが,同証人が防犯カメラ画像の
上で本件刃物の先端と特定した部分の画像は甚だ不鮮明である上,同証人がそのよ
うに推測した根拠も定かでないから,同証人の供述に基づいて刃体の長さを特定す
ることはできず,他にそれを特定しうる証拠もない。)が,Q1の負った重いけがの
状況からすれば,十分鋭利で人の生命に危険を及ぼしうる刃物であったことは明ら
かである。
そうすると,M1の行為は,Q1を死亡させる危険性があり,そのような行為を
自らの手で行っていたM1においても,少なくとも,ことによればQ1が死亡する
かもしれないという程度の認識を有していたと認められるから,M1に殺意があっ
たことは明らかである。
4甲會の活動として組織により行われたか否かについて
既に認定した事実関係によれば,遅くとも平成24年11月上旬までに,甲會内
でQ1を襲撃することが企てられ,その後,F1,E1,M1,N1,O1,被告
人ら乙組組員のほか,乙組一門の丙組組員であったP1も加わり,Q1の行動確認,
実行犯が使う道具の調達,移動手段の確保,現場の下見等の準備をした上,M1に
よって実行されたことが明らかである。この間,E1と,N1,M1,被告人の間
には,乙組内の序列に従った指示と服従の関係があり,乙組一門に属するP1も乙
組の幹部組員であるE1の指示で行動している。また,F1やO1も上位者からの
指示を受けていた旨述べ,F1やE1の更に上位者であったD1(乙組若頭)も,
詳細を述べてはいないものの,本件に深く関与したことを認める供述をしている。
そうすると,本件は,D1の指揮命令の下,乙組を中心として組織的に敢行された
ものであると認められる。
他方,前記の者らはQ1とは面識すらないのに対し,A1とQ1とは平成24年
8月以降,既に認定したとおりのかかわりがあり,本件犯行の約3か月前には,A
1が自己の意に沿わないQ1の対応や人格等につき本件医院の別の職員に強い口調
で不満を述べて訴訟提起にまで言及し,Q1から謝罪を受けた後もなお,Q1に対
し手術が原因で性交渉ができなくなった旨強い不満を訴えるなどしている。以上の
ような事情からすると,本件犯行が前記のようなA1とQ1との間のトラブルと無
関係になされたとは到底考えられず,前記トラブルを巡り,Q1に対して報復ない
し制裁としてなされたものと見ざるを得ない。また,前記トラブルは,A1の極め
て私的でデリケートな事柄にかかわるところ,本件犯行が甲會組員の手によるもの
と疑われれば,直ちにA1の関与が疑われ,その私事も含めて捜査の対象とされる
など,A1の名誉が傷付けられ,ひいては甲會全体にも重大な影響が及ぶことが容
易に想定され得る。にもかかわらず,M1は本件犯行を実行したことについて甲會
内で何ら粛清・処分されていない。
以上の各事実によれば,本件犯行がD1以下の者らの一存で企図,計画されたも
のとは到底考え難く,A1の関与がないとすると,本件犯行を合理的に説明するこ
とは極めて困難である。本件犯行は,A1の意思決定に基づき,その指揮命令の下,
多数の甲會組員が動員され,あらかじめ定められた任務の分担に従って実行され
たものと強く推認される。当時,本件犯行に関与した甲會組員が二次団体の乙組や
丙組に所属し,A1とC1との間に特段親密な関係はなかったことからすると,甲
會内の指揮命令系統に基づき,その序列に従って,A1から序列第2位に当たる会
長のB1,序列第3位に当たる理事長のC1へと指揮命令がなされ,さらに,C1
からは,まず,甲會の序列下位者であるL1,同人が組長を務める丙組組員で直属
の配下のP1へと指揮が伝達される一方,C1が自ら組長を務める乙組の序列第2
位に当たる若頭のD1にも指揮がなされ,D1以下の組員へ順次指揮命令が行われ
たことが推認される。また,こうした組織的な対応に加え,本件犯行が甲會の最上
位者であるA1の意に沿わない対応を重ねたQ1を襲撃し,その身体を刃物で切り
付け深刻な傷害を負わせるという経緯や態様等にも照らせば,本件犯行は,世間一
般に甲會序列第1位のA1,ひいては甲會の威信を維持し,組織の結束を図るとい
う利益や効果が団体としての甲會に帰属するものと認められる。
以上によれば,本件犯行は,団体である甲會の活動として組織により行われたも
のと認められる。
この点,弁護人は,①A1とQ1の関係は本件犯行前に修復されており,現にA
1が本件犯行後も本件医院にQ1が担当看護師のまま通院したこと,②A1の本件
医院での受診の事実は一部の者しか知らなかったため本件犯行によっても甲會の威
信を対外的に示せないこと,③本件犯行はA1自身が定めた女性を襲撃しない旨の
不文律に反するため,下位者が手柄にするためA1に無断で行った可能性があるこ
となどを主張する。しかしながら,①については,既に認定したとおり,A1はQ
1の謝罪後も同人に対して強い不満を訴えていたのであり,A1が本件医院への通
院を継続していたとしても,Q1に対する怒りや恨みが解消していたとは考え難い
(現に,A1は,Q1が本件犯行による被害を受けた後,別の看護師に対して,Q
1は刺されても仕方がない旨述べている。)。②については,A1が本件医院へ通院
していた事実は,Q1をはじめ本件医院関係者は知っていたことであるし,甲會内
においても一部であれ組員が知っていた以上,これらの者を通じて他の組員に伝わ
ることは十分に想定されるから,甲會の威信を維持する意味がないとはいえない。
③については,上位者の下位者への指示が絶対であった甲會において,序列第1位
のA1が定めた不文律を下位者が破る可能性の方がむしろ考え難い。現に,既に判
示のとおり,本件犯行にかかわった者で粛清や処分を受けた者はだれもいない。そ
して,本件犯行により甲會関係者で嫌疑が生じるとすればまずA1であることから
しても,下位者がA1に無断で実行した疑いは排除できる。よって,弁護人の各主
張によっても,上記の判断は揺らがない。
5共犯者らとの間の共謀の有無について
M1及びE1との共謀について
既に認定したとおり,M1及び被告人は,E1の案内で本件現場を下見するなど
した上,本件犯行前後の行動について詳細な指示を受け,それぞれその指示に従っ
て行動した上,M1において本件犯行の実行に至っている。M1自身は本件犯行を
実行した理由について供述してはいないものの,これらのことからすれば,M1は
E1からの具体的な指示命令に従い本件犯行を実行したことが強く推認されるので
あり,両名の間に共謀があったと認められる。他方,被告人は,M1がQ1を襲撃
することについて明確に知らされてはいなかったが,E1から仕事がある旨告げら
れた上,本件犯行における役割等について具体的に指示を受け,移動用の車を調達
し,丙組のP1から受け取った本件バイクを運搬し,これを使用して犯行現場付近
までM1を送るなどの準備行為を実行しているほか,本件犯行前に2回襲撃が中止
された際にも,F1が運転する車で本件集合場所まで移動し,N1からM1を乗せ
るバイクを受け取るなどしていた。これらによれば,被告人は,本件犯行について,
乙組組員のみならず多数の甲會組員が動員されて組織的に犯行を実行するための準
備が行われたことを十分に認識していたといえる。加えて,本件犯行の当時,既に,
被告人は元警察官事件に実行役として関与し,自らけん銃を発射して命中させた経
験があった上,甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がさ
れていた。これらの各事実に照らせば,被告人は,自らの準備行為に基づいて,団
体である甲會が,組織により,人を襲撃し,場合によっては実行役であるM1が刃
物等の凶器を用いてその命を奪う可能性があることも当然に認識しており,それら
についてE1やM1と意思を相通じていたと認められる。
弁護人は,被告人はM1を送迎する目的について,主に違法な物の取引の可能性
を想定しており,M1が人を殺害する可能性については全く考えなかったと主張す
るが,被告人はM1が人を襲撃するのかもしれないとも思っていたと述べている上,
被告人がM1を犯行現場まで送り届けた際,同人は手に特段の荷物を持っておらず,
禁制品の授受をするのにそぐわない様子であったことは一見して明らかであったと
考えられることなどからすれば,弁護人の主張は採用できない。
よって,被告人が,直接指示を受けたE1との間はもちろん,実行犯であるM1
との間でも,少なくともE1を通じて順次,組織的殺人未遂,すなわち本件犯行に
ついて共謀した事実が認められる。
F1,N1,O1及びP1との共謀について
F1,N1及びP1は,実行犯であるM1とは直接のやり取りを行っていないが,
E1ら甲會の上位者から指示又は依頼されて,移動用の車の調達,被害者の行動確
認,送迎用のバイクの調達等本件犯行の準備行為に関与し,その際に被告人との接
点もあったものである。これらの各事実に照らせば,F1,N1及びP1において
は,上位者から指示を受けて自身の役割を果たす中で,多数の甲會組員が動員され
て組織的に犯行を実行するための準備が進行していることを認識していたものと
考えられる上,本件犯行の当時,既に甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件に
ついて多数の報道がされてもいたから,自らの関与していることが人を襲撃する
ための準備で,それが実行されれば場合によっては命を奪うことになる可能性が
あることも認識しており,これらのことについて指示者を介して,M1や被告人と
も意思を相通じていたと認められる。また,O1については,M1のみならず被告
人とも直接のやり取りはないものの,上位者の指示に従って被害者の行動確認を
するなどしたことは前記の者らと同様であり,やはりM1や被告人との共謀があ
ったと認められる。
A1,B1,C1,L1及びD1との共謀について
既に詳述したとおり,本件犯行については,A1が意思決定をした上で,B1,
C1と順次指揮命令が行われ,さらに,C1から,L1やD1等の序列下位者に対
して順次指揮命令がされ,その中で,E1から実行役のM1や被告人への指示が行
われたことが推認される。その間の具体的な指揮命令や謀議の内容は明らかでない
が,少なくとも鋭利な刃物でQ1に襲い掛かるという核心部分については,下位の
者が上位者の了承を得ずに決めるとは考え難く,上位者の間でもその点に関する意
思疎通があり,それが下位の者らに伝達されたことが明らかである。もっとも,本
件の発端は前記のようなA1とQ1の私的なトラブルであり,Q1が死亡すれば,
A1を対象とする捜査の実行等,甲會全体に重大な影響が及ぶことが容易に想定可
能であるから,A1らがそこまで意欲していたとまでは考えられないが,刃物を使
用することにより,ことによればQ1を死に至らせる危険性があることは十分認識,
認容していたものと考えられる。甲會の組織構成やその性質からして,本件犯行が,
下位者が上位者の指揮命令に従って役割を分担して実行に至ることの認識が共有さ
れていたことも疑いを容れない。
以上によれば,A1,B1,C1,L1及びD1は,実行役のM1や被告人との
間では直接のやり取りをしていないものの,同人らの指示役であるE1らを介し,
順次,M1及び被告人との間で,本件犯行について共謀したものと認められる。
W1との共謀について
W1は,甲會専務理事兼乙組組織委員長であったところ,E1から,甲會の最高
幹部の1人であったL1の指名である旨告げられた上,実行役であるM1と本件犯
行当日の本家当番を交代し,その際,E1から,「仕事」が理由と伝えられ,分かっ
ているなどと述べていることが認められ,客観的にみれば,本件犯行はW1との関
係でも団体である甲會の活動として組織により行われたというべきである。また,
W1は,交代の理由が,甲會の最高幹部であるL1が関与するほどの重大事である
ことを推知していたと考えられる。しかし,E1がW1に対して「仕事」の内容を
説明したと認めるに足りる証拠はない上,W1が応じた本家当番の交代という行為
自体からその「仕事」の内容を具体的に推測することは困難といえる。また,当時
のW1の甲會内での序列はD1よりも下位であった。これらのことからすれば,W
1が,多数の甲會組員が動員されて準備を行い,M1が人を襲撃することまで認識
していたことについては疑問が残る。よって,W1については,本件犯行について
被告人やM1と共謀したとは認められない。
X1との共謀について
検察官は,被告人とX1(甲會専務理事兼乙組組長秘書)との間にも共謀があっ
たと主張する。証拠によれば,襲撃が中止となった平成25年1月24日夕方,E
1は,X1に対し,電話で,「ちょっと微妙微妙な感じ。」と告げ,X1は,「腹九分
くらいですか。」などと返している。また,本件犯行を実行した直後も,E1はX1
に電話を掛け,「おなか一杯っち言っとって。」と言い,X1は「おなか一杯やった
んすか。食べ過ぎですよ。」「今日はあれした方がいいですよ,上がった方が。」など
と述べている。さらに犯行翌日にも,E1はX1に電話を掛け,「今,ちょっと,用
事言われとったの終わったんよ。」「分配。」などと告げ,X1から「おいしかったで
すか分配。」などと尋ねられると,「兄弟。」「ちょっとやるね。小遣い。」と述べた。
さらに,E1は,X1から「電話してから,終わりましたち言ったらいいやないで
すか。」と告げられると,同人との電話を終えた約30秒後にC1あて電話を掛け,
その旨告げたが,「そんなん電話で言うたらつまらん。」などとたしなめられたこと
も認められる。
こうしたやりとりに加え,X1の当時の地位からすると,X1は,本件犯行に関
してE1とC1の間の伝達役ないしそれを超える役割を担っていた可能性が疑われ
る。しかし,前記の会話の全てが本件に関するものとは断じ難い上,会話の内容か
らしても,X1が本件犯行についてどの程度の認識を持っていたか判然としない。
さらに,X1の乙組内での序列は組長秘書であり,D1よりも遥かに下位であった。
これらのことからすれば,X1が,E1とC1との伝達役を担ったことにより,多
数の甲會組員が動員されて準備を行い,実行役が人を襲撃することまで認識し得た
とまでは考え難い。
よって,X1が本件犯行について共謀したとは認められない。
6結論
以上検討したところによれば,判示第2のとおり,①M1に殺意があったこと,
②団体である甲會の活動として組織により行われたことが認められる。また,③共
謀関係については,W1及びX1との間の共謀は認められないものの,A1,B1,
C1等判示の者らとの共謀があったと認められる。
第4歯科医師事件
1争点
弁護人らは,被告人が刃物でR1の身体を突き刺すなどの実行行為をしたことは
争わないものの,①被告人には殺意がなく,②甲會の活動として組織によりなされ
たものではなく,③甲會の不正権益を維持・拡大する目的で行われたものでもない
と主張するほか,④共犯者とされている者ら(特に,A1,B1,C1)との間の
共謀についても争っている。
2認定事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
被害者の親族と甲會の関係について
本件が発生した平成26年5月当時,R1は病院に勤務する歯科医師で,甲會と
は一切接点がなかったが,R1の親族(祖父のZ1,父のA2,Z1の弟であるB
2,B2の子であるC2,Z1及びB2の甥で,A2及びC2の従兄弟,かつR1
の叔父に当たるD2等。)と甲會の間には以下のようなかかわりがあった。
すなわち,昭和50年代,Z1は,辛市内にあるs漁港を拠点とするs漁業協同
組合(以下「s漁協」という。)の組合長であったが,甲會の前身のひとつである丁
一家の会長であったE2と親交があり,その頃,s漁港周辺海域に石油備蓄基地を
設置する事業が企画され,Z1が周辺漁協の意見の取りまとめに奔走した際にはE
2がこれに助力し,結果的に工事を請け負った企業から多額の現金を受領したこと
があった。さらに,昭和60年代に丁一家と「甲会」が合併して甲連合丁一家にな
った後は,E2の配下となったA1とも中元や歳暮のやりとりをするようになった。
しかし,平成3年にE2が死亡した後,Z1は暴力団とのかかわりを断とうとし
始め,A2も同席しA1,B1と食事をする機会が設けられた際にA1らから懇意
の交際を求められた後も,A2がB1の求めに応じて多額の融資をしたことはあっ
たものの,交際を深めることはなかった。さらに,平成8年頃に辛市がs漁協が漁
業権を有する同市t区u地区(以下「u地区」という。)での港湾整備事業構想を発
表した後には,s漁協専務理事であったB2が漁協側の中心として漁業補償交渉に
当たったが,この際,甲會組員が複数回にわたってB2に面会を求めてきたのに対
し,B2はこれを拒否した。また,この間,A2に対しても甲會組員が接触して,
同事業に甲會を関与させるよう要求したが,A2はこれを拒絶した。そうした中,
平成10年には甲會組員がZ1を殺害する事件が発生し,その後B1やL1がA2
に甲會と利権交際を持つよう求めるなどしたが,A2はこれに応じることはなかっ
た。
平成19年,s漁協等の7つの漁協が合併して辛漁業協同組合(以下「辛漁協」
という。)が設立され,s漁協は辛漁協の支所(s支所)になったが,その際,辛漁
協の組合長に就任したのはB2であった。また,B2の子であるC2は港湾建設会
社(株式会社壬,以下「壬」という。)を経営し,A2も同様の会社(株式会社癸,
以下「癸」という。)を経営していたが,いずれの会社も辛市内の同種業者の中で最
上位の売上げを有し,壬は,売上高のうち二,三割をs地区の工事から得ていた。
こうした状況に対し,当時,辛漁協s支所の理事であったD2は,s地区の公共工
事につき,辛漁協の組合長であるB2及び辛漁協s支所の代表理事であるA2だけ
が,その権限に基づき,事業主体の地方公共団体や元請会社等に対し,工事の元請
会社や下請会社につき地元企業を選定するよう依頼でき,その結果として壬や癸に
仕事が下りているなどと認識していた。そして,D2は,親交のあったB1に対し,
辛漁協においては,漁業権の交渉はs支所等の各支所が独立して権限を有し,その
権限は同支所の代表理事が行使できるなどと説明し,B1は,D2に対し,r地区
の公共事業の仕事をB2やA2らだけがしているなどと不満を述べた上,D2の権
限でB1が希望する企業を一次下請業者にすることはできないのかなどと話してい
た。
さらに,平成25年に辛市がu地区での廃棄物処分場等の事業を実施する旨広く
報道されると,B1は,D2に対し,同事業における工事に関与できるか否か等を
尋ねたが,D2は,現在の自己の地位では絶対に無理である旨告げた。そうした中,
同年12月,B2が何者かによって殺害される事件が起きた。
本件犯行前のB1の言動等について
証人として出廷したD2は,平成26年2月から3月にかけてのB1の言動(D
2とのやりとり)について,おおむね以下のように供述する。すなわち,平成26
年2月上旬,B1は,D2に対し,同人を辛漁協s支所の代表理事にしたいがどう
したらできるかなどと尋ねたが,D2は,A2が辛漁協の組合長に就任し同人がs
支所の代表理事を決める可能性が高く,D2自身では決められない旨答えた。同月
中旬,B1は,D2に対し,甲會の方針であるため辛漁協s支所の代表理事には無
理にでもD2を就任させるしかなく,A2と話ができなければ最悪の場合同人に危
害を加えなければならない旨を告げ,そのことをA2にも伝えるよう依頼した。こ
れを受けたD2は,同月26日,辛漁協の理事会において,辛漁協の組合長とs支
所等の支所の代表理事を兼任可能とする旨の提案に反対した上,会議後,A2に対
し,B1からの伝言である旨告げて,現在の甲會の執行部は何でもするし,B2の
殺害は見せしめであって,甲會との関係を考え直さなければA2らに危害が及ぶ旨
を伝えた。これに対し,A2は,そのような話は聞かなかったことにする旨述べて
拒否した。同年3月6日,D2は,B1に対し,伝言を告げられたA2が青ざめて
いたなどと伝え,B1は後はA2の判断次第である旨述べた。
以上のD2の供述は,一定の時間を経ているため曖昧な点もあるが,核心部分に
おいては十分に具体的かつ詳細で,不自然不合理な点も見当たらない。また,これ
に関連するA2の供述や同人作成のメモの内容とも整合し,これらによって裏付け
られている部分もある。D2が報復の危険を冒してまで,あえて甲會の関係者に不
利益な内容の虚偽供述をする動機もおよそ考え難い。弁護人は,D2は辛漁協s支
所に絡む利権に最も強い利害関係を有し,自己の利益を図るためB1の名を利用し
た可能性があるため,D2の供述は信用できない旨主張するが,それを踏まえて慎
重に検討しても,D2の前記供述は,高い信用性を有するというべきである。
そうすると,B1はD2が供述するとおりの言動をしていたと認められる。
その後の経過について
平成26年5月12日,D2は別事件の被疑者として逮捕された。同年6月上旬
頃に投票が行われる予定であった辛漁協s支所の代表理事選挙は同月26日に立候
補が締め切られ,D2は同選挙への立候補を断念した。
本件犯行に至るまでの甲會関係者の指示・準備状況等について
平成26年3月頃から,E1(乙組本部長,なお,この頃,乙組若頭のD1が逮
捕勾留されていたため,E1は乙組内において組長のC1に次ぐ地位にあった。)は,
複数の甲會組員に対し,R1及びA2が使用していた自動車の動静や警察による警
備の有無等を確認するよう指示した。その結果,E1は,R1が使用する自動車(黒
色セルシオ)が日ごろ北九州市k区l・m丁目n番所在のo駐車場(以下「本件駐
車場」という。)に到着する時刻を把握するとともに,A2が使用する自動車が警察
による厳重な警備を受けていることなどの情報を入手した。
同年5月中旬,E1は,被告人(乙組若頭補佐兼組長付)に対し「仕事がある」
旨伝え,同月22日頃,被告人及びN1(乙組若頭補佐)を本件駐車場まで連れ出
し,被告人に対し,本件駐車場を利用する黒色セルシオから降りた人物を襲撃する
ように指示した。さらにその後,E1は,N1に対し,被告人は襲撃を実行した後,
H1(乙組組員)が運転するバイクで本件駐車場から北九州市k区v所在のw(以
下「w」という。)まで逃走することを伝えた上,wで待機して被告人と合流し,被
告人を車で送り届けることを指示し,その逃走経路をH1に伝えることも命じた。
また,この頃,E1は,H1に対し,バイクを盗んで用意すること,その数日後に
盗んだバイクを運転すること,何かあれば手助けをすること,詳細についてはN1
に聞くことなどを指示し,N1も,H1に対し,本件駐車場に黒色セルシオが来る
ので,そのときバイクから被告人を降ろすこと,その後は被告人が襲撃を実行する
のでそのまま待機すること及び本件駐車場からwまでの逃走経路等,E1から受け
た指示を伝えた。同月24日,H1は,E1の指示に従い,普通自動二輪車(以下
「本件バイク」という。)を盗んだ。
同月25日夕方,E1は,N1に対し,翌朝に襲撃を決行することやその時刻等
を伝えた上,ヘルメットと自動車を引き渡して,ヘルメットはH1に渡し,被告人
を自動車で送迎すること,その自動車の後部座席には荷物がある旨被告人に伝える
ことなどを指示した。その後,N1は,被告人と会って翌朝に落ち合う場所や時刻
について打合せをするとともに,H1とも会って,E1から受け取ったヘルメット
を渡した上,翌朝の集合場所(北九州市k区x所在のy。以下「y」という。)と集
合時刻を決めた。
犯行当日の経過について
平成26年5月26日朝,被告人は,N1が運転する自動車に乗り,yでH1と
合流し,車の後部にあった荷物を確認し,中に入っていた着衣等に着替えた。また,
その際,その荷物の中に刃物(以下「本件刃物」という。)があるのを発見した。被
告人は,H1が運転する本件バイクで本件駐車場付近に行き,黒色セルシオの到着
を待っていたところ,それに該当する自動車が到着し,その運転席からR1が降車
した。被告人は,本件バイクから降り,本件刃物を持って,本件駐車場付近に向か
い,R1に接近して,R1の身体に本件刃物を突き刺すなどした(本件犯行。なお,
具体的な犯行態様については,R1の供述と被告人の供述との間に食い違いがある
ところ,この点は殺意の認定にもかかわることから,その検討の中で詳述する。)。
それにより,R1は,入院加療約14日間及び外来加療約3か月間を要する左大腿
部刺創,腹部刺創,胸壁刺創及び背部刺創の傷害(胸部正中部に深さ約1cm,左
側胸部に深さ約1cm,左下腹部に深さ約7cm,背部腰上に深さ約7cm,左大
腿部外側に深さ約10cmの各刺創等)を負った。
本件犯行後,被告人は,H1が運転する本件バイクでwまで逃走し,N1が運転
する車に乗って移動し,犯行に使用した着衣等及び本件刃物等を車内にあったバッ
グの中に入れた上で降車した。N1は,荷物を置いたまま車をE1から指示されて
いた駐車場に停め,乙組事務所へ行き,E1に対し,被告人らが無事wに到着した
旨報告した。また,当日の夜,E1は,N1及びH1と共に,H1が被告人の送迎
の際に使用した着衣等とヘルメットを海中に投棄した。H1は,犯行の翌日,E1
及びN1の指示に従い,本件バイクをダムに投棄した。
3被告人の殺意の有無について
犯行態様について
R1は,証人尋問において,被告人から襲撃を受けた際の状況について,おおむ
ね以下のとおり供述する。すなわち,R1は,本件駐車場で黒色セルシオの運転席
から降り,助手席側に回ってそのドアを開け,かばんを取り出すために車内に上半
身を半分位入れた時,背中に何か覆い被さられて突き飛ばされるような感じの衝撃
を受けたので,それを払いのけて振り向いたところ,フルフェイスのヘルメットを
被った犯人が両手でナイフを持っているのが見えた。犯人は,両手で持ったナイフ
の刃先をR1の胸に向けて刺そうとしてきたので,R1は両手で犯人の両手を押さ
え,下方に押し下げたが,その間も犯人はナイフの刃先をR1の身体に向かって突
き出し,その刃先が次々とR1の身体に刺さった。更にナイフの刃先が押し下げら
れ,ナイフの刃先がR1の太ももに刺さったときに膠着状態になり,間もなく犯人
はその場から逃走した。以上のように述べる。この供述はかなり具体的で不自然な
点は認められない上,既に認定したR1の受傷状況とも合致する。もとより,R1
が殊更に虚偽の供述をする理由も見当たらない。R1の前記供述の信用性は高いと
考えられる。
これに対して,被告人は,公判廷において,犯行時,被告人に背中を向けていた
R1に近づき,右手に持った包丁でR1の尻とももの間を1回刺したことは覚えて
いるが,それ以外の攻撃をした記憶はなく,背中や腰を刺したつもりもない旨述べ,
また,刃物を両手で持った記憶はなく,両手では刺しにくいこと,当時左手を空け
るよう意識していたこと,犯行後半年以上右手がしびれていたのに対して左手はし
びれていなかったことなどから,両手で刃物を持っていたことは考えられないとも
供述した。しかし,被告人の供述はかなりあいまいで要領を得ない点があり,被害
者の受傷状況とも整合しない。刃物を右手で持っていたとする根拠も合理性・必然
性の高いものとは考えられず,総じて信用性が乏しい。
以上からすると,R1の供述の信用性は動揺せず,その述べるとおりの事実があ
ったと認められる。そしてこれに加えて,既に認定した被害者の受傷状況も併せて
考慮すると,被告人は,助手席上のかばんを取るため上半身を車内に半分くらい入
れて屈み込んでいたR1の背後から近付き,本件刃物でR1の背部を目掛けて突き
刺し,背中に覆い被さるような状態になった後,R1から振り払われて向かい合う
形になり,R1から本件刃物を持った両手をつかまれて押し下げられたが,その状
態でなおも本件刃物の刃先をR1の胸部や腹部,大腿部等に向けて繰り返し突き出
してその刃先をR1の身体に刺し,刃先が大腿部に刺さった状態で膠着状態になっ
て逃走したと認められる。
被告人の殺意の有無について
前記の認定からすると,被告人は無防備なR1の背後から近付いてその背部に本
件刃物を突き刺した上,R1から両手をつかまれて抵抗された後も,胸部,腹部,
大腿部等という身体の枢要部を含む部位を目掛けて繰り返し突き刺すなどしたもの
である。R1の抵抗にもかかわらず腹部や大腿部にはかなり深い刺創が生じている
ことに照らせば,被告人は相当強い力を込めて本件刃物を突き出していたと認めら
れ,R1の抵抗状況次第では重要な臓器が損傷して死亡する危険性は相当高かった
といえる。
本件刃物の形状,大きさ,硬さなどは不明であるが,R1及び被告人の各供述に
加えてR1の負傷状況によれば,それが包丁又はナイフ様の鋭利なもので,人を殺
傷するに足りる大きさや硬さがあったことは明らかである。
以上からすれば,被告人が少なくとも,ことによればR1が死亡するかもしれな
いとの認識を持っていたことは明らかであり,殺意があったと認められる。
被告人は,R1を殺さないように臀部又は大腿部を五,六回突き刺せというE1
からの指示に従い,R1の臀部と大腿部の間付近を強くない力で刺した旨述べて殺
意を否認するが,既に検討したとおり,犯行状況に関する被告人の供述自体の信用
性が乏しく,前記の認定は動揺しない。
4甲會の活動として組織により行われたか否かについて
既に認定した事実関係によれば,遅くとも平成26年3月頃までに,甲會内でA
2又はR1を襲撃することが企てられ,E1が中心となって両名の使用車両の動
向観察がなされ,その後,標的がR1に定められると,E1,N1,H1ら乙組組
員が実行犯の移動手段の確保,実行犯の使う道具の調達などの準備をした上,被告
人によって実行されたことが明らかである。この間,E1とその他の乙組組員の間
には,同組内の序列に従った指示と服従の関係があった。そうすると,本件犯行が
乙組を中心として組織的に敢行されたものであると認められる。
他方,これらの者は,いずれもR1とは面識がないばかりかR1の親族とのかか
わりがあった形跡もない。これに対し,A1やB1は,既に認定したとおり,平成
3年頃からR1の親族であるZ1やA2と接点があり,より関係を深めようとし
たものの,Z1らがそれに応じず,甲會組員がZ1を殺害する事態に至っている。
また,B1は,A2やC2に不満を抱いていたD2と親交があり,本件犯行直前に
はD2を辛漁協s支所の代表理事にしようと画策するものの,A2がその障害に
なっていることを知り,場合によってはA2に危害を加えてまでもそれを実現す
る意向を示していた。さらに,D2は,当公判廷において,本件犯行後の平成26
年7月18日,B1がD2に対し,本件犯行について,「A2が分からんけ,おま
えもうそんなんするしかねえやねえか。」「あいつはまだもう分かっとらんふうや
のう。」「おまえからも教えてやれ。」「警察は何もできんのぞと。警察は守ってくれ
んのぞと。今まで俺らがなんか,おまえね,パクられたのか。」などと述べた旨供
述している(D2の供述が核心部分において高い信用性を有することは既に述べ
たとおりである。)ところ,このB1の言動は,本件犯行がA2が甲會の要求に応
じないことに対する見せしめとして実行されたことを強くうかがわせるものであ
る。
こうしたことからすれば,本件犯行がE1の一存で企図,計画されたものとは到
底考え難く,A1やB1の関与がないとすると合理的に説明することが極めて困
難であるし,甲會序列第3位の地位にあり,乙組組長でもあったC1が関与せずに
なされたことも考えられない。すなわち,本件犯行は,A1が意思決定をした上で,
序列に従い,序列第2位の地位に当たる会長のB1,C1と順次指揮命令が行わ
れ,C1から,直接又は第三者を介して,当時乙組においてC1に次ぐ序列第4位
の地位にあったE1に対して指揮命令が行われたことが極めて強く推認される。
また,このような指揮命令と役割分担の上で,白昼,一般市民を襲撃する本件犯
行態様からして,本件犯行は,世間一般に甲會の威力を誇示し,勢力や影響力を拡
大させ,組織の結束を図るという利益や効果が甲會に帰属するものと認められる。
以上によれば,本件犯行は,団体である甲會の活動として組織により行われたも
のと認められる。
5甲會の不正権益を維持・拡大する目的で行われたか否かについて
既に認定したとおり,甲會に合併する前の丁一家会長のE2がかつて公共工事に
関してs漁協組合長のZ1に助力して相当額の現金を受け取ったこと,その後,A
1やB1を含む甲會組員が断続的にZ1,B2及びA2らに対して利益交際等を
求めたが拒否され続けたこと,甲會の序列第2位の地位にあるB1が,B2が辛漁
協組合長,A2がs支所代表理事の地位を利用してs地区の公共工事につき同人
ら親族が経営する会社に仕事を回している旨不満を述べたこと,B1が本件犯行
の約3か月前にD2をs支所代表理事に就任させることが甲會の方針である旨述
べ,A2に襲撃の可能性を示唆してその旨暗に要求したが拒否されたこと,その後
D2が逮捕され,s支所の代表理事等の選挙への立候補を断念したこと,その後約
2週間で本件犯行が実行されたこと,本件犯行後にB1はこれが甲會の要求に応
じないA2に対する見せしめであるかのような発言をしたこと等が認められる。
これらの各事情のほか,既に詳述したとおり本件犯行が甲會の活動として組織
により行われたものであることからすれば,本件犯行は,北九州市内及びその周辺
を主たる縄張とし,かつてs地区の公共工事に関して利益を得た甲會が,その組織
的活動として,同地区の公共工事に関してs支所の代表理事には業者の選定等と
いった権限に基づく利権が存在すると認識し,辛漁協の組合長であったB2の死
を契機として,その後任となる可能性が高く,D2の逮捕によりs支所の代表理事
の地位に就くかその人事権を有する可能性があったA2に圧力をかけ,同人を従
わせて,上記のs支所の代表理事の利権に介入し,不正な利益を得ようとしたもの
と考えられる。そうすると,少なくともA1やB1など本件犯行の意思決定に関与
し,これらの情報を認識していた甲會関係者らについては,いずれも,本件犯行に
関して,甲會の従前の縄張を維持・拡大する目的,すなわち,不正権益を維持・拡
大する目的を有していたというべきである。
他方,被告人は,本件犯行当時甲會に約12年間在籍していたが,その地位は甲
會専務理事兼乙組若頭補佐・組長付で,E1と比較しても序列は下位であった。本
件犯行前,E1らからは,R1が使用する車両の色や車種等を告げられただけで,
本件犯行の目的等について知らされていなかったばかりか,襲撃対象の名前や地位
も知らず,それを推知できる情報も与えられていなかった。こうしたことからする
と,被告人が,本件犯行の目的がs支所の利権への介入にあることまで認識してい
たとは考え難い。また,本件犯行以前に甲會組員が本件犯行と同様に一般の民間人
を襲撃した事件の中には看護師事件のように不正権益の維持・拡大を目的としたと
はいえない事案も含まれていることからすると,被告人が,一般の民間人を襲撃す
るという事情等をもって,ただちに本件犯行の目的が甲會の不正権益を維持・拡大
させることにあることまで当然に推測,察知,認識したとは考えられない。
以上によれば,少なくとも,被告人については,団体である甲會の不正権益を維
持・拡大する目的を有していたとは認められない。
6共犯者らとの間の共謀の有無について
被告人は,E1から,直接又はN1を介して本件犯行における一連の行動等の内
容について詳細に指示を受け,N1を介して本件刃物等の犯行道具を受け取り,こ
れらを使用し,本件駐車場で待ち伏せをするなどして,おおむねその指示の内容に
従って実行行為に及んでいる。被告人とE1との間で本件犯行について共謀があ
ったことは明白である。
また,N1は,乙組若頭補佐の地位にありE1の配下であったもので,E1から
「仕事がある」などと告げられ,同人が被告人に襲撃を指示している場に立ち会っ
てその旨を認識した上,E1からの指示を被告人やH1に伝え,被告人の送迎役を
担うなどしている。これらの各事実に加え,本件犯行の当時において既に甲會が起
こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされていたこと等に照らせ
ば,N1は,被告人が人を襲撃し,場合によってはその際に刃物を用いて命を奪う
可能性があることも当然に認識していたといえる。以上によれば,被告人とN1と
の間でも本件犯行について共謀があったと認められる。
H1は,被告人と直接本件犯行について具体的なやり取りを行っておらず,E1
から指示されて,本件駐車場までの被告人の送迎,道具の調達及び処分等の準備行
為や証拠隠滅行為等に関与している。また,E1からN1を介して指示を受けた内
容の中には,本件駐車場でバイクから被告人を降ろした後は被告人が実行するの
でそのまま待機することも含まれている。これらのH1が指示を受けて行った準
備行為や証拠隠滅行為等の内容,N1を介して指示を受けていたこと等によれば,
H1は,E1から指示を受けた時点で,少なくとも複数の甲會組員が動員されて組
織的に犯行を実行するための準備が進行していることを十分認識していたものと
考えられる。そして,本件犯行の当時において既に甲會が起こしたとされる殺人
(未遂)事件について多数の報道がされていたこと等に照らせば,H1は,本件駐
車場でバイクから降ろす予定の被告人が人を襲撃し,場合によってはその際に刃
物を用いて命を奪う可能性があることも当然に認識していたといえる。以上によ
れば,H1についても,被告人との間で直接のやり取りはしていないものの,E1
及びN1を介して,順次,被告人との間で,本件犯行について共謀した事実が優に
認定できる。
さらに,既に詳述したとおり,本件犯行については,序列第1位のA1が意思決
定をした上で,序列に従い,序列第2位のB1,序列第3位のC1と順次指揮命令
が行われ,C1から,直接又は第三者を介して,乙組においてC1に次ぐ地位にあ
ったE1に対して指揮命令が行われたことが推認される。その間の具体的な指揮
命令や謀議の内容は明らかでないが,少なくとも刃物でR1を襲うという核心部分
については下位者の一存で決めることは考えられず,A1,B1,C1らにおいて
も意思疎通があり,それが下位者に伝達されたと考えられる。A1らにおいて,R
1を殺害することを積極的に意欲していたとまでは認められないが,前記のような
方法を取れば,R1の抵抗状況次第ではR1が死亡する危険性があることは認識,
認容していたものと考えられる。以上によれば,A1,B1,C1は,被告人との
間では直接のやり取りをしていないものの,E1を介して,順次,被告人との間で,
本件犯行について共謀したものと認められる。
7結論
以上検討したところによれば,本件犯行については,判示第3のとおり,①被告
人に殺意があったこと,②団体である甲會の活動として組織により行われたこと,
④被告人と共犯者ら(特に,A1,B1,C1)との間で共謀があったことについ
ては,いずれも認定できる。他方,③本件犯行が団体である甲會の不正権益を維持・
拡大する目的でなされたか否かについては,共犯者の一部がその目的を有していた
ことは認められるものの,被告人にその目的があったとは認められない。
(法令の適用)(記載省略)
(量刑の理由)
1本件の概要
本件は,北九州市に本拠を置き,同市及びその周辺地域を独自の縄張であると主
張する暴力団組織である甲會の組員として活動していた被告人が,いずれも,多数
の甲會組員と共謀の上,3件の組織的殺人未遂等の罪を犯した事案である。
いずれの犯行も,甲會組員らが,組織内の指揮命令系統に従い,各人が細分化さ
れた役割を分担して,被害者らの行動を確認して綿密に襲撃計画を練り上げ,使用
する道具の調達や移動手段の確保等の周到な準備を行った上で実行されており,組
織性の強さと計画性の高さが際立っている。各犯行が企てられた経緯や背景事情は
異なるものの,いずれも問答無用に人を襲撃することにより,関係者,ひいては社
会一般に甲會の威力を見せ付けて屈服させようとするもので,暴力団特有の論理に
基づく反社会的な犯行である。また,暴力団組員が組織的に一般市民を襲撃したと
いう点で暴力団犯罪の中でも特異な面があり,各事件が地域社会に与えた恐怖感や
不安感も軽視することはできない。
2各事件固有の犯情について
元警察官事件の犯行態様は,至近距離から被害者の身体に向けてけん銃を発射す
るという危険極まりないものである。被害者は約1か月間の入院及び通院加療を要
する傷害を負い,現在も後遺症が残っている。長年にわたり甲會の事件捜査に携わ
った元警察官の言動等に対して報復し,ひいては警察に甲會の威力を見せ付けるた
めに企てられた犯行とみられ,法秩序に対する挑戦ともいえる面もあり,反社会性
の強さは各事件の中でも突出している。
看護師事件については,女性である被害者の背後からいきなり側頭頚部等を刃物
で切り付ける凶悪で卑劣なものである。被害者は一時は生命の危機に瀕し,現在も
通常の社会生活を送ることに支障を来すなど,被害結果も重い。甲會の頂点に立つ
A1の担当看護師であった被害者に対し,手術・施術後の患部の状態が芳しくない
ことやそれを巡っての被害者の対応などに腹を立て制裁に及んだものとみられるが,
治療経過や被害者の対応いかんにかかわらず,このような報復がいささかなりとも
正当化されるものではない。
歯科医師事件についても,その犯行態様は,刃物を被害者の身体の枢要部目掛け
て強い力で多数回突き刺すなどした危険なものである。被害者は,直ちに講じられ
た救急措置により一命をとりとめたとはいえ,入院加療約14日間及び外来加療約
3か月間を要する瀕死の重傷を負っている。被害者は,その後も長期間のリハビリ
を余儀なくされ,事件から3年以上も経過した現在でも歩行機能が完全に回復せず
後遺症に苦しめられている。被害の点では各事件の中でもとりわけ深刻なものがあ
る。本件犯行の首謀者は,地元の漁協にかかわる利権を獲得することを画策し,甲
會の意に沿わない漁協関係者の親族である被害者を襲撃することにより,甲會の目
論見を押し通そうとしたものとみられ,悪らつ極まりない。
3各事件における被告人の関与・役割の程度等について
被告人は,元警察官事件及び歯科医師事件において,けん銃を発射し,あるいは
刃物で被害者の身体を突き刺すなどの実行行為に及んでいる。看護師事件において
は,実行役を犯行現場付近に送迎するなど補助的な役割ではあったが,犯行の実現
に必要不可欠な役割を果たしている。3度にわたって組織的殺人未遂に関与し,そ
のうち2件は実行行為に手を染めていることについては,格別厳しい非難を免れない。
他方,各犯行に際しての被告人の殺意は既に判示したとおりのもので,殺意の程
度としては強固なものではなかった。また,被告人は,下位者は上位者の指示命令
に従うべきものとされる甲會の厳格な統制の下,上位者の指示に従って各犯行に関
与したもので,各犯行の目的や犯行計画の全体像については何も知らされていなか
った。もとより,そのような組織に身を置き,上位者の命令に対して唯々として従
った被告人の刑事責任を軽く見ることはできないが,主体的に各犯行を企て,ある
いは犯行の目的や全体像を知りつつそれを推し進めた者とは,非難の度合いにおい
て異なるものがある。
また,一般情状については,被告人は,各事件に関与したこと,特に,元警察官
事件及び歯科医師事件の実行行為を担ったという重要な点について事実を認めてお
り,犯行に関わった状況等について詳細に供述するなどして事案解明に寄与してい
る。被告人は長年甲會に所属していたものの前科前歴はなく,本件を機に甲會から
離脱した。被告人の内妻が出廷して,被告人が社会復帰した場合にはその更生に協
力する旨述べている。これらは被告人のために酌むべき事情である。
4量刑判断
被告人は,組織性・計画性が極めて高く,けん銃を用いるなど態様も凶悪な組織
的殺人未遂3件に関与し,そのうち2件では実行行為に及んだものであり,これま
で我が国で有罪判決を受けた組織的殺人未遂事案と比しても突出してその刑事責任
が重い。検察官が無期懲役を求刑したのも,こうした無類の悪質性・重大性を重視
したものと考えられる。
ただ他方で,被告人には強固な殺意があったとは認められず,結果としても幸い
にして人の生命が奪われる事態には至っていない。看護師事件での被告人の関与は
重要な役割であったとはいえ補助的なものに留まる。共犯者間(組織内)での被告
人の立場は従属的であり,主体的に犯行を企てたわけではない。こうした重要な犯
情を考慮し,かつ同種事案の量刑分布のほか,組織的殺人罪,殺人罪,殺人未遂罪
等の隣接する犯罪類型の量刑傾向をも参酌すると,被告人に対して無期懲役刑を選
択することは重きに失し,有期懲役刑をもって償わせるべきである。ただし,本件
事案の重大性からして,それに相当する刑期は,処断刑の上限である懲役30年を
下らないものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・無期懲役)
平成29年12月22日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官丸田顕
裁判官岩田淳之
裁判官中山さほ子

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