弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一〇月に処する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人伊坂重昭作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりで
あるから、これを引用する。
 論旨は量刑不当の主張であるが、これに対する判断に先立ち、職権により原判決
の法令適用について検討すると、原判決は、原判示の事実、すなわち、「被告人
が、A及びBと共謀のうえ、大蔵大臣の免許を受けないで、(一)Cほか五名に対
し、それぞれ、昭和五三年八月から昭和五四年六月までの期間を定め、その途中又
は満了時において一定の金額の給付をすることを約したうえ、昭和五三年八月一〇
日ころから同年一一月一六日ころまでの間、右のCらから二四回にわたり、合計二
億円を掛金として受け入れ、(二)右のCほか一名に対しそれぞれ、同年一一月か
ら昭和五四年九月までの期間を定め、その途中又は満了時において一定の金額の給
付をすることを約したうえ、昭和五三年一一月五日ころ及び同月六日ころ、右のC
らから二回にわたり合計二、〇〇〇万円を掛金として受け入れ、もつて相互銀行業
を営んだものである。」との事実を認定したうえ、右の(一)及び(二)の事実に
対し、いずれも、相互銀行法二三条、二条一項一号、三条一項、刑法六〇条を適用
し、且つ両者を刑法四五条前段の併合罪として法定の加重をした刑期の範囲内で被
告人を処断していることが明らかである。
 <要旨>ところで、相互銀行法二条一項一号の業務にかかる同法二三条違反の罪
は、同法二条一項一号所定の行為を反覆継続の意思をもつて行うことを前提
とするものであり、いわゆる集合犯と解すべきところ、本件は、設定された無尽の
講数が二個であるが、その掛金受入が時期的に一部重複しており、反覆継続の意思
をもつて行われたことは明らかであるから、その全体が包括して同法二三条違反の
一罪を構成すると解するのが相当である。
 してみると、前記のような罪数判断をした原判決は法令の解釈適用を誤つたもの
であり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。原判決は既にこの点
において破棄を免れない。
 そこで、論旨に対する判断をするまでもなく、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇
条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して、更に当裁判所において次
のように自判する。
 原判決が認定した事実に法律を適用すると、判示事実は、包括して相互銀行法二
三条、二条一項一号、三条一項、四条、刑法六〇条に該当するので、所定刑中懲役
刑を選択した刑期の範囲内において、後記の量刑事情を考慮し、被告人を懲役一〇
月に処することとする。
 (量刑の事情)
 本件は、博徒組織の最高幹部である被告人が輩下のA及びBと共謀のうえ、大蔵
大臣の免許を受けないでいわゆる非組合型の二組の無尽を始め、Cら延べ八名の者
から前後二六回にわたり合計二億二、〇〇〇万円もの巨額の掛金を受け入れ、もつ
て相互銀行業を営んだ、という事案である。
 記録にあらわれた本件の罪質、動機、態様、結果、ことに被告人らが巨額の借金
の返済資金を得るために本件各無尽を起したこと、被告人は数千人から成る、その
所属組織における地位を背景に本件犯行を遂行して主導的な役割を果たしているこ
と、本件各無尽の掛金や被告人が親として総取りにした額が極めて多額であるこ
と、被告人が別件で逮捕された事情があつたとはいえ、本件各無尽に参加した者が
一部を除き多額の損失を受けていることに徴すると、犯情ははなはだ芳しくなく、
被告人の刑責は軽視を許されない。
 従つて、本件各無尽の参加者らが被告人に対する寛大な処罰を求めていること、
被告人が本件犯行後D会理事長の地位を退いたことなどを合わせ斟酌しても、被告
人は主文掲記の実刑を免れないと判断される。
 よつて、主文のとおり判決をする。
 (裁判長裁判官 岡村治信 裁判官 林修 裁判官 雛形要松)

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