弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     函館地方裁判所の原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     函館地方検察庁保管にかゝる小豆及テボーの買上代金二万三千九百二十
二円四十七銭(函館地方検察庁領第二〇三号の三及び四)はこれを没収する。
     差し戻し後の当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人土家健太郎及び弁護人斎藤熊雄の各控訴趣意はいづれも別紙記載の通りで
ある。
 先づ土家弁護人の控訴趣意第一点は原判決は法規に基かずして裁判をしたという
のであるが、その(一)については、テボー(手芒)の輸送を委託することは、食
糧管理法(昭和二十四年三月三十日法律第三号による改正前のもの)第九条、同法
施行令(昭和二十四年六月二十五日政令第二百二十六号による改正前のもの)第十
一条、同法施行規則(昭和二十四年六月二十日農林省運輸省令第二号による改立前
のもの)第二十九条、昭和二十二年十二月三十日農林省告示第百九十六号第六項
(昭和二十三年四月七日附官報号外農林省告示を以て訂正されたもの)によって政
府により禁止され、食糧管理法第三十一条によつて右の違反者を処罰する旨規定し
てゐるのであるから、原判決はその判示第一のテボーの輸送委託の事実に対して有
罪の言渡をしたのは、何等法規に基かずして裁判をしたものではないから、弁護人
の非難は当らない。
 第一点の(二)については、所論は昭和二十三年十一月一日物価庁告示第千百五
号は、小豆、テボー等について生産者販売価格の統制額を定めたものであるが、被
告人は日雇であつて生産者でないから、被告人がこれを販売の目的で所持していた
と認定した原判決第二の事実について右告示を適用したのは違法であるというので
あるけれども、右告示を精読すると、その第二販売条件の四に、生産者以外のもの
が販売する場合の統制額について明らかに規定されているのであるから、被告人の
場合に右告示が適用ありとした原判決は何等誤りではない所論の非難は当らない。
 次に斎藤弁護人の控訴趣意第一点について考へるに、判決に法令の適用を示すべ
きことを規定した刑事訴訟法第三百三十五条第一項は、判決において認定された事
実に対し、これを抽象的に犯罪の構成要件として規定し且これに刑罰を科すべきこ
とを定めたところの実体法を明示して処罰の根拠を明らかにすることを要求したも
<要旨第一>のであるが、今本件について見るに、食糧管理法(昭和二十四年三月三
十日法律第三号による改正前のもの)第三十一条には、「第九条……ノ
規定ニ依ル命令ニ違反シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ十万円以下ノ罰金ニ処ス」と
規定し、第九条には、「政府ハ……主要食糧ノ…移動ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコ
トヲ得」と定めてゐるのであるのであるから、結局同法第三十一条の罪は、政府が
主要食糧の移動に関して為した命令の存在することと、この命令に違反する行為の
存在することとを以て構成要件とするところの命令違反の罪であると解せられる。
従つて、その命令の内容如何は本罪の構成要件に該当する具体的事実に属すること
であつて、罪となるべき事実の中に記載せらるべき事柄に属し、従つてその命令自
体は適用法令として特に掲げることを要する筋合のものではない。故に本件につい
ては、小豆及びテボーの輸送委託を禁止した政府の命令が事実上存在すれば足り、
それを適用法令として特に掲げる必要はないとしなければならないのであるが、前
述の通り食糧管理法施行令(昭和二十四年六月二十五日政令第二百二十六号による
改正前のもの)第十一条、同法施行規則(昭和二十四年六月二十日農林運輸省令第
二号による改正前のもの)第二十九条、昭和二十二年十二月三十日農林省告示第百
九十六号第六項(昭和二十三年四月七日附官報号外農林省告示を以て訂正されたも
の)によつて、右の趣旨の禁止命令が存在することが明らかであるから、原判決に
右農林省告示を適用法令として掲げなくとも、所論のように法令の適用を誤つたか
又は理由不備の違法はないのである。所論は採用できない。
 次に第二点は、原判決認定の第二の事実の判示によれば、被告人が小豆及びテボ
ー合計五石四斗を所定の統制額より金八万三干八百円を超過する価格金十万九千六
百円を以て販売する目的で所持してるたとあるけれども、小豆の統一価格とテボー
の統制価格とは各その品等によつてそれぞれ異るのであるから、判決においてはす
べからく判示の五石四斗のうちに小豆は幾何あつて、テボーは幾何あるという計算
の基礎を判示し、その上で小豆及びテボーの品等により統制価格を算定判示して、
超過代金を表示しなければならない、と論ずるのである。しかしながら物価統制令
第三十五条第十三条ノ二第一項の罪は、物価庁長官の指定する統制額を超へた価格
を以て取引する目的で物品を所持するによつて成立するのであつて、しかもその所
持にかゝる物品の単位毎に犯罪が別個に成立するものではなくて、所持の個数を標
準にして犯罪の個数を定むべきであるが、本件においては被告人が小豆及びテボー
合計五石四斗を一括して当時の被告人の止宿先に置いてこれを所持してゐたのであ
るから、小豆及びテボーの全部について只一個の所持があったものと見るべきであ
つて、小豆及びテボー<要旨第二>について各別に所持があつたものと解すべきでは
ない。従つてこの場合の判示方としては被告人の所持してるた小豆及び
テボーの統制価額が明かにされ得る程度を以て足り、特に各別の統制価格の金額を
明示する必要はないといはなければならない。原判決には被告人が販売しようとし
た価額も明示されてをり、その税制価額よりの超過額も明示されているのであるか
ら、この程度の記載を以て物価統制令第三十五条第十三条ノ二第一項違反罪の罪と
なるべき事実の記載として充分であると認める。よって原判決には所論の非難する
ような理由不備のかどはない。
 最後に土家弁護人の控訴趣意第二点及び斎藤弁護人の控訴趣意第三点は、いづれ
も原判決の量刑は不当であるというのであるが、一件記録を調査するに所論の通り
原裁判所が被告人に対し懲役十月に処したのはその量刑重きにすぎると考へられる
ので、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条により原判決はこれを破棄すべき
であるが、当裁判所は一件記録により直ちに判決することができるものと認め、同
法第四百条但書により次の通り更に判決する。
 罪となるべき事実。
 被告人は日雇であるが、法定の除外事由がないのに拘はらず、
 第一、 昭和二十三年七月下旬頃より昭和二十四年一月下旬頃までの間十回にわ
たつて函館市函館駅前において、A株式会社に対し、別表記載の通り小豆及びテボ
ー合計十石二斗を、政府の禁止命令があるのに拘はらず、函館駅から東京都汐留駅
まで輸送の委託をなし、
 第二、 昭和二十四年三月八日頃函館市a町b番地の当時の被告人の止宿先にお
いて、無検査小豆三百七十八瓩及び無検査テボー三百八十八瓩五百瓦を、昭和二十
三年十一月一日物価庁告示第千百五号所定の非生産者の販売価格の統制額から合計
約九万三千四百二十四円六十銭を超過する代金約十方八千円で営利販売する目的を
以て所持していたものである。
 証拠 (省略)
 法令の適用。
 判示第一の行為は各食糧管理法(昭和二十四年三月三十日法律第三号による改正
前のもの)第三十一条第九条、同法施行令(昭和二十四年六月二十五日政令第二百
二十六号による改正前のもの)第十一条、同法施行規則(昭和二十四年末月二十日
農林省運輸省令第二号による改正前のもの)第二十九条、昭和二十二年十二月三十
日農林省告示第百九十六号(昭和二十三年四月七日附官報号外農林省告示を以て訂
正されたもの)に該当するところ、罰金等臨時措置法の施行により犯行後所定罰金
額の変更があつたので刑法第六条第十条により比照し軽い従前の罰金額によるべき
ものとする。
 次に判示第二の行為は物価統制第三十五条第十三条ノ二第一項、第三条、第四
条、昭和二十一年十一月三日物価庁告示第千百五号、罰金等臨時措置法第四条に該
当する。
 而して右各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、且以上は刑法第四十五条前段の併
合罪であるから同法第四十七条本文第十条により最も重いと認められる判示第一別
表三のテボー二石八斗の輸送委託の罪の懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で被
告人を懲役六月に処し、函館地方検察庁保管にかゝる小豆及びテボーの買上代金二
万三千九百二十二円四十七銭(函館地方検察庁領第二〇三号の三及び四)は判示第
二の犯行の組成物件の換価代金てあつて被告人以外のものに属しないから、刑法第
一九条第一項第一号第二項によりこれを没収し、差し戻し後の当審の訴訟費用は刑
事訴訟法第百八十一条第一項によりこれを被告人の負担とすべきものとする
 よつて、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

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